【ニュース・ヘッドライン】
- サンガモ、ファブリー病の遺伝子療法を来年にも加速承認申請へ
- 大塚、抗APRIL抗体のIgA腎症試験が成功
- リベルサスのCVOTが成功
- Marinus、抗癲癇薬の適応拡大試験フェール
- シクロベンザプリン舌下錠を線維筋痛症に承認申請
- ACIP、肺炎球菌ワクチンの推奨範囲を拡大
- ファイザー、RSVワクチンの適応が18歳以上に拡大
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
サンガモ、ファブリー病の遺伝子療法を来年にも加速承認申請へ
(2024年10月22日発表)
Sangamo Therapeutics(Nasdaq:SGMO)はST-920(isaralgagene civaparvovec)を従来計画より3年前倒しで25年下期に米国でファブリー病に承認申請する考えを明らかにした。FDAとの会議で、現在進行中の第1/2相試験の52週eGFR(推算糸球体濾過率)データに基づいて加速承認を申請することに同意を得た。102週データで臨床的便益を確認する必要があるが、FDAは、市販後薬効確認試験を実施して本承認に切替えることまではマストではない、という考えも示されたとのこと。FDAは希少遺伝子疾患の承認に際してサロゲート・マーカーを活用する方針を示しているが、臨床的便益を計測するのが困難で長期間かかる場合は加速承認で放置することを容認するのは妥協を更に一歩、進めた印象だ。
ST-920は、ファブリー病で欠乏するalpha-Galactosidase-Aの遺伝子をアデノ随伴ウイルスをベクターとして肝臓志向的に導入する。これまでに第1/2相STAAR試験に33人の患者を組入れている。ベンチャー企業の例に漏れず手元資金に余裕がないため、提携や資金調達が実現するまで第3相入りを見送っていた。
ファブリー病は複数の酵素補充療法が承認されている。23年に欧米で承認されたProtalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX)のElfabrio(pegunigalsidase alfa-iwxj)のエビデンスはFabrazyme(agalsidase beta)対照試験でeGFRが非劣性だったこと。21年3月にFabrazymeが加速承認から本承認に切り替わりUnmet medical needsが改善したためElfabrioの52週eGFRに基づく加速承認が認められるかどうか不透明になったが、米国連邦職員の渡航規制により審査が遅れ、結果的に、102週eGFRに基づく本承認となった。このため、ST-920が順調に加速承認されればFabrazyme本承認後の最初の事例になるだろう。
リンク: 同社のプレスリリース
【新薬開発】
大塚、抗APRIL抗体のIgA腎症試験が成功
(2024年10月22日発表)
大塚ホールディングは、sibeprenlimabの第3相IgA腎症試験で主目的を達成したと発表した。加速承認申請に向け承認審査機関と相談する考え。承認されればファースト・イン・クラスになりそうだ。
18年に4.3億ドルで完全子会社化したマサチューセッツ工科大学発のイン・シリコ創薬ベンチャー、Visterraの開発品で、ガラクトースの欠損により機能不全となった免疫グロブリンAの産生において重要な役割を果たすAPRIL(A PRoliferation Inducing Ligand)に結合、阻害する。このVISIONARY試験ではACE阻害剤/ARB(SGLT2阻害剤併用可)による治療を受けている成人患者530人を組入れて、400mgを4週毎皮下注する便益を偽薬と比較した。主評価項目である9ヶ月後のUPCR(尿蛋白/クレアチニン比)が統計的に有意な、且つ臨床的に意義のある治療効果を示した。副次的評価項目である24ヶ月後のEGFR(推算糸球体濾過率)は26年初めに開票する見込み。前例に倣えば、UPCRで加速承認、EGFRで本承認切替となろう。
IgA腎症ではここ数年、次々と新薬が承認されているので、これらの薬との優越や、併用の可能性が注目される。
抗APRIL抗体では23年にノバルティスがETA受容体拮抗剤や抗APRIL抗体を開発するChinook Therapeuticsを買収、24年にはVertex TherapeuticsがBAFF/ARRIL標的融合蛋白povetaciceptを開発するAlpine Immune Sciencesを買収するなど、IgA腎症などの自己免疫疾患におけるポテンシャルに注目した企業買収が活発化している。
リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdf)
リベルサスのCVOTが成功
(2024年10月21日発表)
ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤Rybelsus(semaglutide)の第3相心血管アウトカム試験、SOULで主目的を達成したと発表した。年末前後に欧米で効能追加申請する予定。
Rybelsusは二型糖尿病や肥満症、心不全など多くの適応を持つsemaglutideの経口投与用製剤。19~20年に米欧日で二型糖尿病薬として承認された。SOUL試験は欧米中日などの施設で心血管疾患を合併した二型糖尿病患者9560人を組入れて、標準療法に加えて偽薬またはRybelsusを一日一回投与し、心血管リスクを比較した。主評価項目は3点MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的卒中の何れかが初回発生するリスク)。結果は偽薬群より14%小さかった。三疾患何れも偽薬群を下回った。
Rybelsusは第3相PIONEER 6試験でも3点MACEが偽薬群より21%少なく、主目的である非劣性解析は成功したが優越性は確立しなかった。心血管死は半減したがイベント数の多い非致死的心筋梗塞は18%多かった。今回は3倍の被験者を組入れたので検出力が高まったはずだが、リスク抑制効果の点推定値は見劣りする結果になってしまった。
ところで、Rybelsusは9月にEUで新規格が承認されていたことに今回初めて気づいた。活性成分が半分の量で生物学的同等性を達成しており、供給不足の緩和にも資するかもしれない。いかにして達成したのかは分からなかった。
従来製剤 | 新規製剤 | |
---|---|---|
形状 | 楕円形 | 円形 |
用量 | 3、7、14mg | 1.5、4、9mg |
添加剤 | サルカプロザートナトリウム、 ポビドンK90、 結晶セルロース、 ステアリン酸マグネシウム | サルカプロザートナトリウム、 ステアリン酸マグネシウム |
塩含有 | 23mg | 23mg未満 |
有効期間 | 30ヶ月(3mgは2年) | 3年 |
出所:EUのSPC(製品概要)から作成
リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)
Marinus、抗癲癇薬の適応拡大試験フェール
(2024年10月24日発表)
Marinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)は22~23年に米欧でZtalmy経口液(ganaxolone)のCDKL5(cyclin-dependent kinase-like 5)欠乏障害用薬としての承認を取得後、適応拡大試験を進めてきたが、第3相結節性硬化症関連癲癇発作の予防試験がフェールした。28日間当りの頻度が19.7%減少したが偽薬群の10.2%減と比べたp値は0.09だった。他の用途のデータも思わしくなかったため、これ以上の開発は打ち切り、人員削減を進めると共に戦略的代替的選択肢(身売りなど)を検討する考えであることを公表した。
ganaxoloneはCoCebsys社を子会社化したPurdue Pharmaから2003年にライセンスした中枢神経選択的GABA-Aポジティブ・アロステリック・モジュレータ。23年の売上高は19.6百万ドル、24年上期は15.5百万ドルだった。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
シクロベンザプリン舌下錠を線維筋痛症に承認申請
(2024年10月16日発表)
米国ニュージャージー州の新薬開発会社、Tonix Pharmaceuticals(Nasdaq:TNXP)は、TNX-102 SL(cyclobenzaprine HCl)を線維筋痛症治療薬として承認申請した。米国では07~09年に線維筋痛症治療薬3剤が承認/適応追加承認されたが、今回承認されれば16年ぶりの新薬となる。
活性成分は5HT2Aやアルファ1、H1、ムスカリンM1受容体などのアゴニストで米国では1977年に承認され、筋攣縮などの治療に用いられてきた。Tonixの開発品は舌下錠で、活性成分とマンニトールを共晶製剤して安定性を高めたとのこと。就寝前に投与した試験で疼痛が偽薬比有意に緩和し、不眠の改善も見られた。有害事象は口や舌の感覚鈍麻など。深刻有害事象では薬物関連疑い例の急性膵炎が見られた。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
ACIP、肺炎球菌ワクチンの推奨範囲を拡大
(2024年10月23日発表)
CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は肺炎球菌ワクチンの推奨範囲拡大を推奨した。今後、CDCが検討した上で最終決定する。米国は予防用ワクチンの普及に前向きで、CDCが推奨すれば官民の健康保険の還付対象になるので、大きな一歩だ。
現在の成人に関する接種勧奨範囲は、65歳以上の未接種者、特定の基礎疾患やリスク因子を持つ19-64歳の未接種者、そして最新のワクチンより少ない株しかカバーしていないワクチンを接種した特定の成人だが、未接種者全員が勧奨となる年齢を50歳以上に引き下げることを一名以外の委員が支持した。反対意見は、ファイザーとMSDの製品のうち、カバレッジが広く費用対効果が大きいMSD品だけ勧奨すべきと主張した。
18~22年の感染例を元に各ワクチンのカバー率を推定したGierkeらの分析によると、19~64歳ではMSDのCapvaxive(21価)が81%、ファイザーのPrevnar 20が58%、どちらもカバーしていない株の感染例が6%だった。65歳以上においては各85%、54%、8%だった。
リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース
リンク: Gierkeのプレゼンテーション用資料(24年2月ACIP、pdfファイル)
【承認】
経口ペネムが女性の単純性尿路感染症に承認
(2024年10月25日発表)
FDAはIterum Therapeutics(Nasdaq:ITRM)のOrlynvah(sulopenem etzadroxil、probenecid)を成人女性の単純性尿路感染症の治療薬として承認した。感受する細菌(大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス・ミラビリス)に感染し、他の経口抗菌薬による治療方法がない、または限定的である場合に用いる。一日二回、5日間、経口投与する。新規ペネム系抗菌剤と痛風治療薬として承認されている有機アニオントランスポーターOAT-1阻害剤probenecidの固定用量合剤で、経口ペネムは初。
複雑性尿路感染症の治療に用いることは承認されていない(点滴静注用製剤と錠剤を用いた実薬対照非劣性試験が二本フェールした)。単純性尿路感染症はそれほど深刻ではないため原因菌を検査せずに薬を選択投与することが多いが、この段階でペネム系を用いると、耐性が生じた場合に切り札のペネム系抗菌剤が使えないので困ったことになる。9月の諮問委員会では適応制限が必要という意見が多かったが、培養検査で菌を確認することが推奨されているが義務付けはされなかった。
単純性尿路感染症治療薬は4月にUtility TherapeuticsのPivya(pivmecillinam)が米国では初めて承認された(欧日では既にGE化)。
リンク: FDAのプレスリリース
ファイザー、RSVワクチンの適応が18歳以上に拡大
(2024年10月22日発表)
ファイザーはFDAがRSVワクチンAbrysvoの適応を18~59歳のリスク因子を持つ人たちに拡大することを承認したと発表した。臨床試験で免疫原性が高齢者のデータと非劣性だった。重度RSV疾患のリスクを高める基礎疾患(慢性肺疾患、心血管疾患(単純高血圧を除く)、糖尿病など)の有病率は米国の18~49歳においては9.5%、50~64歳では24.3%とのこと。
RSVワクチンではGSKのArexvyが欧米では50歳以上に承認、モデルナのmResviaが60歳以上に承認されている。CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は7月の委員会でArexvyを50~59歳に推奨するには材料不足として判断を留保したが、10月24日の委員会でも60歳未満に推奨するのは時期尚早と判定した。
ACIPにおけるプレゼンによると、ギラン・バレー症候群のリスクに関しては、10月までのデータでArexvyにおける超過リスクは100万回当り7(95%信頼区間2-11)、Abrysvoでは同じく9(0-18)と推測。これはGSKの帯状疱疹ワクチンShingrix(二回接種)における同じく3~6とそれほど違わない。本人や社会全体の便益と危険は、サブグループ毎に慎重に考慮検討する必要があるようだ。要検討事項の具体例としては、特定の基礎疾患を持つ人は60歳未満でも重度RSV下部気道感染症のリスクが60歳以上と同程度か、人種によっては60歳未満でもリスクが白人より高いか、重度RSV下部気道感染症のリスクを高める基礎疾患の内容は60歳未満と60歳以上で異なるか、などが示されたようだ。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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24/10推 | CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫) |
24/11推 | 住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱) |
24/11/13 | PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症) |
24/11/16 | Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病) |
24/11/28 | Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症) |
24/11/29 | BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症) |
24/11/29 | Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌) |
諮問委員会 | |
24/10/31 | EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病) |
24/11/19 | DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和) |
今週は以上です。
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