2024年10月5日

第1075回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 振り返ると奴が(負けて)いる 
  • カルケンスを未治療マントル細胞腫に承認申請 
  • エンハーツをher2ちょっと発現乳癌に適応拡大申請 
  • Darzalex皮下注の4剤併用一次治療を承認申請 
  • アッヴィ、抗c-MET抗体薬物複合体を承認申請 
  • オプジーボも切除可能非小細胞性肺癌の術前術後投与が承認 
  • レットヴィモの甲状腺髄様腫適応が本承認 
  • EMA、5アルファ還元酵素阻害剤の安全性を検討へ 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


振り返ると奴が(負けて)いる
(2024年10月2日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、後顧的リアル・ワールド研究で、転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)の治療におけるErleada(apalutamide)の延命効果がenzalutamide(アステラス製薬/ファイザーの競合薬、Xtandi)を有意に上回ることが判明したと発表した。

電子医療記録に基づいて、18年12月からの5年間にmCRPCの最初のアンドロゲン受容体阻害剤としてErleada(1800人)による治療を受けた患者の全生存期間を調べたところ、24ヶ月生存率は87.6%で、enzalutamide(1909人)による治療を受けた患者と比べてハザードレシオは0.77(95%信頼区間0.62-0.96)、p<0.019だった。

因みに、各剤のこの用途における承認のエビデンスとなったアンドロゲン枯渇療法併用偽薬対照試験では、Erleadaの全生存ハザードレシオは0.52、24ヶ月生存率は82.4%(偽薬群は73.5%)、Xtandiの試験ではハザードレシオ0.66だった。

この研究は、FDAのリアル・ワールド・エビデンスに関するガイダンスに即したもの。後顧的研究は、色々解析して差が出たものだけを発表したのではないかと疑われないよう配慮するのが一般的なので、他の適応である転移去勢抵抗性前立腺癌や非転移去勢抵抗性前立腺癌などにおける分析も発表したほうが良いだろう。p値はそれほど低くないので、もう一本エビデンスが欲しい所だ。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認申請】


カルケンスを未治療マントル細胞腫に承認申請
(2024年10月3日発表)

アストラゼネカはBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)を未治療のマントル細胞腫に用いる適応追加申請をFDAに行い、受理された。優先審査を受け、審査期限は25年第1四半期とだけ明かされている。第3相ECHO試験で65歳以上の患者を組入れて、bendamustine及びrituximabと併用による6サイクルの導入療法と、維持療法(最初の2年間はrituximab併用)を施行したところ、PFS(無進行生存期間)がメジアン66.4ヶ月とCalquenceの代わりに偽薬を投与した群の49.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.016だった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟で、偽薬群の多くが進行後にCalquenceなどのBTK阻害剤にクロスオーバーしたため便益が稀薄化されている可能性があるが、ハザードレシオは0.86と好ましい方向を指している。

COVID-19が流行した影響を調整するためCOVID-19関連死をセンサリングすると、PFSはハザードレシオ0.64、全生存期間は0.75と、点推定値が上向くとのこと。本当はもっと効くと考えるべきか、感染症リスクの反映と受け止めるべきか、難しい。

適応拡大が承認されれば、17年の二次治療における加速承認も本承認に切替えられるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツをher2ちょっと発現乳癌に適応拡大申請
(2024年10月1日発表)

第一三共とアストラゼネカは、米国でEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の適応拡大申請を行った。切除不能/転移乳癌で転移後に一つ以上の内分泌療法を受けたが化学療法は未だの患者のうち、her2発現度が低(IHC法検査で2+かつISH法検査で陰性、またはIHCで1+)、あるいは極低(IHCで0だが不完全な/かすかな/かろうじて膜染色が認められる)が新たに適応になる見込み。

エビデンスとなるDESTINY-Breast06試験では、主評価項目であるher2低サブグループ713人のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン13.2ヶ月とcapecitabineなどで治療した群の8.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。探索的解析である極低サブグループ(判定が難しいせいか、治療施設の判定を中央査読)の152人では各群のメジアンPFSが13.2ヶ月と8.3ヶ月と低サブグループと大きな差はなかった。しかし、ハザードレシオは0.78と若干悪化し、症例数が少ないせいか一般的な有意判定閾値には達しなかった。
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IHC法のアウトプットは3+、2+、1+、0の4種類だが、極低は0より大きく1より小さいという新たな小分類だ。3+や2+ですら医療施設の判定とセントラルラボの判定が食い違うことがあるようなので、0と0超1未満を正しく判別することができるのか、という素朴な疑問を持つ。ASCOは1+と0の識別の信頼性にすら疑問を呈している。もしこの点に問題がないようなら、そして、her2極低発現サブグループの全生存期間が失望的なものでなければ、her2治療薬の歴史に新しい局面を切り開くことになる。

リンク: 両社のプレスリリース


Darzalex皮下注の4剤併用一次治療を承認申請
(2024年9月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)をASCT(自家造血幹細胞移植)以外の当初治療を予定する未治療多発骨髄腫に用いる適応・用法追加をFDAに承認申請した。第3相CEPHEUS試験に基づくもので、VRdレジメン(bortezomib、lenalidomide、dexamethasoneの3剤併用)に追加した群は主評価項目であるMRD(微小残存病変、感度10万分の1)陰転率が60.9%と、VRdレジメンだけの群の39.4%を上回り、オッズ比2.37、統計的に有意だった。PFS(無進行生存期間)もハザードレシオ0.57で有意だった。

リンク: 同社のプレスリリース


アッヴィ、抗c-MET抗体薬物複合体を承認申請
(2024年9月27日発表)

アッヴィはABBV-399(telisotuzumab vedotin、通称Teliso-V)を第2相試験データに基づきFDAに承認申請したと発表した。レセプター・チロシン・キナーゼであるcMETに結合する抗体と微小管重合阻害剤MMAEの抗体薬物複合体で、非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)の25%で見られる、EGFRは野生型のままだがcMETが過剰発現しているタイプを標的とする。成人の治療歴のある患者を組入れたLUMINOSITY試験でc-MET高発現(免疫組織適合性アッセイで腫瘍細胞の50%以上が3+)の78人におけるORR(客観的反応率、独立中央評価)が34.6%(95%下限24.2%)、メジアン反応持続期間は9.0ヶ月、中程度発現(同じく25%以上50%未満が3+)の83人では22.9%(95%下限14.4%)、7.2ヶ月だった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


オプジーボも切除可能非小細胞性肺癌の術前術後投与が承認
(2024年10月3日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を成人の切除可能(腫瘍が4cm以上でリンパ節陽性)な、EGFR変異やALK再構成のない非小細胞性肺癌に用いることを承認した。摘出術前に白金薬などによる化学療法と併用し、術後は1年間、単剤投与する。第3相CheckMate-77T試験でEFS(増悪事象など無しで生存)のハザードレシオが化学療法だけの群と比べて0.58だった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟だが中間解析で好ましくない傾向は見られていない。

BMSもプレスリリースを出しているが、FDAのリリースで目を惹くのは、術前投与の有害事象が手術に影響するリスクに言及していること。上記試験で手術のキャンセルに至った症例は12人、Opdivo群の5.3%で、化学療法だけの群の3.5%を上回った。手術が予定より遅れた症例も4.5%対3.9%で若干上回った。

この指摘で思い起こすのは7月の、アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)に関する諮問委員会で議題に上がった、本当に術前術後両方投与する必要があるのか、というFDAの問題意識だ。ImfinziとOpdivoは既に治験結果が出ているので承認されたが、今後開始される試験は、術前又は術後と術前術後の両方を検討するよう求められるだろう(術前術後は今回で3剤が既に承認されており今更偽薬対照試験はできないだろうが)。

図表:抗PD-(L)1抗体の非小細胞性肺癌術前/術後試験のサマリー
介入時期試験名試験薬ハザードレシオ
術後IMpower-010atezolizumab0.66 (0.50-0.88)
KEYNOTE-091pembrolizumab0.73 (0.60-0.89)
ADJUVANT BR.31durvalumab有意差なし
術前CHECKMATE-816nivolumab0.63 (0.45-0.87)
術前術後KEYNOTE-671pembrolizumab0.58 (0.46-0.72)
AEGEANdurvalumab0.68 (0.53-0.88)
CHECKMATE-77Tnivolumab0.58(0.42-0.81)
注:ハザードレシオの対象はEFS(無イベント生存期間)またはDFS(無病生存期間)、偽薬対照。ADJUVANT BR.31試験はPD-L1発現>25%のサブグループのDFS。カッコ内は95%信頼区間。
出所:各種資料より作成。

リンク: FDAのプレスリリース

レットヴィモの甲状腺髄様腫適応が本承認
(2024年9月27日発表)

FDAはイーライリリーのRET阻害剤、Retevmo(selpercatinib)のRET変異のある進行/転移甲状腺腫における加速承認を本承認に切替えた。2歳以上が適応になる。市販後薬効確認試験のLIBRETTO-531試験で効果をVEGFR阻害剤のcabozantinibまたはvandetanib(医師が選択)を投与する群と比較したところ、PFSのハザードレシオが0.28と大きな差があった。メジアン値は各群、未達と16.8ヶ月。

レーベルを読んで興味深いのは、副作用の患者評価指標が薬効試験成績の箇所に記載されていること。事前に設定された副次的薬効評価項目である、煩わしい副作用を経験した時間(比率)は各群8%と24%、全く経験しなかった患者の比率は61%と30%だった。有害事象による離脱率が各群4.7%と27%と、忍容性が上回ったことと整合している。

末期癌におけるQOL調査は概して回収率が低く、信頼性を十分に担保できないことが少なくない。しかし、この試験は被験者290人中222人から、FACT GP5(Functional Assessment of Cancer Therapy item GP5)に基づく回答を取得できた。有害事象データの鏡像に過ぎないと言ってしまえばそれまでなのだが、かってはクリアできなかったFDAのハードルを、乗り越える姿を見るのは感慨深い。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMA、5アルファ還元酵素阻害剤の安全性を検討へ 
(2024年月日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、5アルファ還元酵素阻害剤の自殺思慮/行為リスクに関する検討を開始した。18~41歳の脱毛症の治療薬として承認されているfinasterideの1mg錠とスプレー、良性前立腺肥大の対症療法であるfinasterideの5mg錠とdutasterideの0.5mgカプセルが対象で、まず、製薬会社に保有する情報(有害事象報告、前臨床などの研究成果、自殺思慮/自殺を抑制するための対応など)の提出を求めた。

両活性成分とも20年以上前に承認され既にGE化している。鬱病など精神面の有害事象リスクは既にレーベルに記載されているが、自殺思慮/行為に言及されているのはfinasterideの1mg錠だけのようだ(どちらもEMAによる中央審査により承認された薬ではないためEMAのサイトには添付文書が掲載されておらず、代わりに、元EU加盟国である英国のEMCサイトで確認)。今回の発議国であるフランスの承認審査機関の調査によると、これまでに自殺・自殺思慮の有害事象報告が468件あり、うち93件は死亡に至った(多くは自殺によるものと推測された)。finasteride服用者の致死例で最も多かったのは1mgだった。

尚、米国のレーベルには市販後に報告された有害事象として自殺思慮・行為が記されている。

リンク: EMAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】

PDUFA
24/10推ファイザーのmarstacimab(血友病)
24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
24/11/9アステラス製薬のzolbetuximab(claudin18.2陽性胃・胃食道接合部腺腫)
24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
24/11/27ロシュのRG6114(inavolisib、PIK3CA変異乳癌)
24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
諮問委員会
24/10/10CRDAC:Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)
24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)



今週は以上です。

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