2017年8月27日

2017年8月27日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Darzalex、多発骨髄腫一次治療試験が成功 
  • GNEミオパチーのシアル酸補充療法試験はフェール 
  • 成人X染色体遺伝性低リン血症治療薬が米国でも承認申請 
  • 中外の血友病薬が米国でも承認申請 
  • Alkermes、抗うつ剤の承認申請に着手 
  • ビクトーザ、心血管リスク削減効果がレーベル記載 
  • アストラゼネカ、PARP阻害剤の適応拡大が承認 
  • パーキンソン病のジスキネジア治療薬が米国で初承認(?) 
  • 狂犬病用免疫グロブリンが米国で承認 
  • クラドリビンが遂に欧州で承認 
  • ノバルティスのCDK4/6阻害剤、欧州でも承認 
  • ソリリスがEUで重症筋無力症に適応拡大 


【新薬開発】


Darzalex、多発骨髄腫一次治療試験が成功
(2017年8月24日発表)

デンマークのジェンマブは、Darzalex(daratumumab)の第三相ALCYONE試験が成功したと発表した。適応拡大申請に向けてライセンシーのジョンソン・エンド・ジョンソンが承認審査機関と相談する見込み。

多発骨髄腫の細胞に過剰発現するCD38を標的とする抗体医薬で、15年にサルベージ用途、16年には二次治療三剤併用がFDAに承認されている。ALCYONE試験はASCT(自家幹細胞移植)不適新患多発骨髄腫の標準療法の一つであるVMP(Velcade、melphalan、prednisone)に更に併用する効果を検討したもの。

事前に計画されていた中間解析でPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.50(95%信頼区間0.38-0.65)、p<0.0001となり、独立監視委員会が成功と認定、盲検解除を勧告した。尚、PFSのメジアン値は四剤併用群は未達、VMP群は18.1ヶ月と推定された。

多発骨髄腫は98年に米国でサリドマイドが承認されるまでは有効な薬が少なく、患者の余命を決めるのは承認されている薬の数だと言われていた。21世紀に入り、Velcade(bortezomib)やRevlimid(lenalidomide)など新薬が続々と登場。再発に備えて薬を取っておく必要性が低下し、一次治療から複数の薬を併用するレジメンが活発に探索されるようになった。三剤併用は既に標準療法なので、今後は四剤併用が焦点になりそうだ。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

GNEミオパチーのシアル酸補充療法試験はフェール
(2017年8月22日発表)

米国カリフォルニア州の希少疾患用薬開発会社であるUltragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)は、Kepnetic(aceneuramic acid、開発コードUX001)の第三相GNEミオパチー治療試験がフェールし、開発を中止すると発表した。

第二相試験の結果は今一つで、EUは承認申請を受理したがCHMPが昨年11月に否定的意見を出し、申請撤回となった。それだけに、第三相試験が成功する期待も小さかったと言えるだろう。

GNEミオパチーはシアル酸の産生に必要なGNE遺伝子の欠損に起因する常染色体性劣性遺伝疾患で、DMRV(遠位型ミオパチー縁取り空胞型)やHIBM(遺伝性封入体ミオパチー)を包括する病名。患者数は世界で2000人、うち日本は400人と推定されている。

日本が研究を先導しており、シアル酸の一種であるaceneuramic acidの開発も、日本で行われたモデルマウスにシアル酸を補充する試験に立脚している。Ultragenyxがノーベルファーマから日本や東アジア以外の権利を取得して海外で臨床試験を行い、並行して日本でも東北大学などが臨床試験を行ったが、残念な結果になった。

リンク: Ultregenyxのプレスリリース

【承認申請】


成人X染色体遺伝性低リン血症治療薬が米国でも承認申請
(2017年8月24日発表)

協和発酵キリンとライセンシーであるUltragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)は、KRN23(burosumab)を米国で成人X染色体遺伝性低リン血症(XLH)の治療薬として承認申請したと発表した。EUでも1月に承認申請が受理されている。

FGF23(fibroblast growth factor 23)に結合する完全ヒト化抗体で、XLH患者で過剰産生され低リン血症を誘発するFGF23をブロックする。両社は13年に共同開発提携。米国でブレークスルーセラピー指定などを受けている。

リンク: Ultragenyxのプレスリリース

中外の血友病薬が米国でも承認申請
(2017年8月24日発表)

ロシュは、子会社である中外製薬が開発したACE910(emicizumab、ロシュの開発コードはRG6013やRO5534262)をインヒビターを持つA型血友病の成人小児の治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。審査期限は来年2月23日。日本では7月に、欧州でも8月に承認申請されている。

A型血友病は血液凝固第XIII因子の補充療法が有効だが、やがてインヒビター(抗体)ができて応答しなくなることが少なくない。活性型第VII因子(ノボのNovoseven)や血漿由来の活性化プロトロンビン複合体製剤(シャイアのFEIBA)などで治療するが、出血リスクが高く予防的ルーチン投与を必要とする患者には、作用が長く投与が簡便な薬の方が好ましい。

ACE910は第IX因子と第X因子に結合する二重特異性のヒト化抗体で、活性型第VIII因子に代わって第IX因子による第X因子の活性化を調停、血液凝固カスケードを進行させる。皮注用薬で、ルーチン予防の場合は週一回投与で足りる。第三相試験では既存薬と比べても見栄えのする出血予防効果を示した。

安全性面では、深刻出血時にFEIBAを追加投与した患者などでTMA(血栓性微小血管障害症)や血栓塞栓性疾患が発生、一名が死亡した。止血薬の宿命であり止むを得ないように感じられるが、FEIBAを含めて、併用禁忌或いは同時使用時の用量調整などを検討すべきだろう。

インヒビター患者は新薬のニーズが強いので承認のハードルはそれほど高くないだろうが、第VIII因子などとバッティングする分野で普及するためには安全性の吟味が必要なのではないか。

リンク: ロシュのプレスリリース

Alkermes、抗うつ剤の承認申請に着手
(2017年8月21日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)はALKS 5461のローリング承認申請を米国で開始したと発表した。承認申請に必要な三種類の書類を、完成したものから逐次提出して審査を受ける制度で、年内に完了する予定。

鬱病治療に用いる一日一回服用型経口剤で、非依存的ミュー・オピオイド受容体拮抗剤のALKS 33(samidorphan)と、ミュー・オピオイド受容体アゴニスト/カッパ・オピオイド受容体アンタゴニストのbuprenorphineの合剤。ミュー受容体に対する作用が相殺されカッパ受容体拮抗作用だけが残る計算になる。第三相試験の結果は完璧ではなかったが、抗鬱剤の開発を止める会社が増えている中、粘り強く開発を進めてほしいものだ。

リンク: Alkermesのプレスリリース


【承認】


ビクトーザ、心血管リスク削減効果がレーベル記載
(2017年8月25日発表)

ノボ ノルディスクは、Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)の米国のレーベルに心血管疾患リスクを削減する効能が記載されたことを発表した。二型糖尿病の血糖治療薬ではSGLT2阻害剤のInvokana(canagliflozin)やJardiance(empagliflozin)に次ぐ三番目。米国の医学者のオピニオンリーダーや当局の要請に応えてメーカーがきちんとした臨床試験を行ったことが大きな収穫を生んだ。

血糖治療薬はいずれも一長一短だが、心血管リスクを削減するエビデンスのない薬や、癌や骨折のリスクを高める疑いのある薬の処方を正当化するのは容易でなくなるだろう。

Victozaは一日一回皮注型GLP-1作用剤。胃腸ホルモンのGLP-1を改変して作用を長期化したもので、血糖値上昇時にインスリン分泌を刺激し、グルカゴンの分泌抑制や胃から腸への食物移動を促し、食欲を抑制する。

今回の承認は、二型糖尿病でHbA1cが7%以上、年齢50歳以上の心血管リスクが高い患者を組入れたLEADER試験に基づくもの。Victoza群はそれ以外の薬を使った群と比べてMACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)のリスクが13%小さく、主評価項目である非劣性解析が成功した。副次的に実施された優越性解析も成功。有害事象では、膵炎や悪性新生物は特に増えはしなかった。但し、膵臓腫瘍は0.3%(13人)と対照群の0.1%(5人)より数値上、多かった。

リンク: ノボのプレスリリース

アストラゼネカ、PARP阻害剤の適応拡大が承認
(2017年8月17日発表)

アストラゼネカと共同開発パートナーのMSDは、FDAがLynparza(olaparib)の適応拡大などを承認したと発表した。

PARP阻害剤で14年に欧州でBRCA変異型卵巣癌の化学療法奏功後維持療法として承認されたが、米国では諮問委員会も反対が大きく上回り、結局、当初の適応とは異なるBRCA変異型卵巣癌の四次治療薬として承認された経緯がある。アストラゼネカは第三相試験成功を待って改めて維持療法を申請し、今回、承認取得した。BRCA変異を持たない患者に使うことも認められており、Clovis社のRubraca(rucaparib)と肩を並べた。

このほかに、従来のカプセル製剤(50mg、8カプセルを一日二回服用)に加えて錠剤(150mg、二錠を一日回服用)も承認された。また、類似した用途で延命効果に準じる効能が確認されたため、生殖細胞性BRCA変異を持つ患者の四次治療という最初の承認が加速承認から本承認に切り替わった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

パーキンソン病のジスキネジア治療薬が米国で初承認(?)
(2017年8月24日発表)

米国カリフォルニア州の新興製薬会社、Adamas Pharmaceuticals(Nasdaq:ADMS)は、Gocovri(amantadine徐放製剤)がFDAに承認されたと発表した。レボドパを服用しているパーキンソン病患者のジスキネジア(不随意運動)を治療する薬がFDAに承認されたのは初めてとのこと。

amantadineはオフレーベルで広く用いられているので新鮮味はない。それでも、今日のスタンダードに即したキチッとした臨床試験で効能や安全性を確認したことは価値があるだろう。但し、物事には釣り合いというものがあるので価格には細心の注意が必要だ。一部の新興会社のような理不尽なプライシングをすると何時まで経っても即放製剤のGE薬のシェアを奪えないだろう。

リンク: Adamasのプレスリリース

狂犬病用免疫グロブリンが米国で承認
(2017年8月25日発表)

イスラエルのKamada Ltd(Nasdaq:KMDA)とイタリアのKedrion Biopharmaは、FDAがKedrabを狂犬病の曝露後予防用途で承認したと発表した。狂犬病の恐れのある動物と接触した直後に、狂犬病ワクチンとともに、投与する。

Kedrabはヒト血漿由来の免疫グロブリンで、06年の発売以来、欧州などで140万バイアルの販売実績がある。類似製品が既に存在するが供給が安定的ではない模様。米国販売を担当するKedrion社は、年1億ドルの市場で大きなシェアを取る考え。

リンク: 両社のプレスリリース

クラドリビンが遂に欧州で承認
(2017年8月25日発表)

プリン・アナログのcladribineはジョンソン・エンド・ジョンソンが93年に米国で有毛細胞性白血病用薬Leustatinとして承認を取得した。研究者主導試験で多発性硬化症に効果を示したためIvax社が経口剤を開発、セラノがインライセンスして臨床開発した。Ivaxは06年にテバに買収され、セラノも同年にドイツのメルクに買収されたがプロジェクトは生き残り、09年に欧米で承認申請された。

その後の足取りは重かったが、足掛け8年、やっと欧州で承認された。ブランド名はMavenclad。リンパ球減少症や悪性良性新生物など、重篤な副作用の懸念があるため、適応は再発性多発硬化症のうち高度活性型に限定された。第三相のCLARITY試験の事後的解析で、再発頻度が偽薬比67%少なく、EDSSスコアの進行リスクが82%小さかった。

9月に独英二国からロールアウトを開始する予定。米国などでも承認申請する考え。

リンク: メルクのプレスリリース

ノバルティスのCDK4/6阻害剤、欧州でも承認
(2017年8月24日発表)

ノバルティスは、Kisqali(ribociclib)がEUに承認されたと発表した。細胞周期進行に係るCDK4やCDK6を阻害する経口剤で、ホルモン受容体陽性、her2陰性の閉経後転移性乳癌の一次治療としてアロマターゼ阻害剤(同社のFemaraなど)と併用する。

Kisqaliは大塚製薬が13年に買収したAstex Pharmaceuticalsと行った細胞周期コントロールに関する共同研究の成果。米国では3月に承認され、Femaraを同梱した製品がKisqaliと同じ価格で上市された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ソリリスがEUで重症筋無力症に適応拡大
(2017年8月21日発表)

アレクシオン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Soliris(eculizumab、和名ソリリス)の適応拡大がEUで承認されたと発表した。難治性の全身性重症筋無力症のうち、アセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体を持つ患者が適応になる。

抗AChR抗体は神経筋接合部のAChRに結合して補体系を活性化、神経筋接合部を破壊する。SolirisはC5に結合して補体カスケードの進行をブロックする抗体医薬。これまでに、PNH(発作性夜間血色素尿症)やHUS(非定型溶血性尿毒症症候群)の治療薬として承認されている。

重症筋無力症といえば、抗PD-1抗体の稀だが重篤な副作用の一つで、日本の研究によると、オプジーボの1万人弱の投与症例のうち12人が発症、うち6人が深刻で2人は死亡した。通常の重症筋無力症と比べて筋細胞の炎症が更新している由だが、ソラリスは使えないのだろうか?

リンク: アレクシオン社のプレスリリース




今週は以上です。

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