【ニュース・ヘッドライン】
- 新生児接種型vs.妊婦接種型RSVワクチン
- MSDがCNPVを取得
- 新たに9社がトランプ大統領の呼びかけに呼応
- アテトーゼ型脳性まひ試験がフェール
- アストラゼネカ、ATRキナーゼ阻害剤がまたフェール
- サノフィの多発性硬化症薬が一転して審査完了に
- 初のHSCT-TMA用薬が承認
- mitapivatがサラセミアに適応拡大
- 経口セマグルチドの体重管理用が承認
- 皮下注用ルンスミオが米国でも承認
- 小児用の経口鉄製剤が初承認
- BIのPDE4B阻害剤が進行性肺線維症に適応拡大
- 第2の心ミオシン阻害剤が承認
- ファイザー、ヒムペブジの死亡例を検討
- アストラゼネカ、米国でオンデキサの販売を中止
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【今週の話題】
新生児接種型vs.妊婦接種型
(2025年12月22日オンライン刊行)
乳幼児のRSV感染症を予防する方法は、妊婦が接種するワクチンと新生児に筋注する抗体医薬の二種類あり、どちらも呼吸器疾患の発症を予防する十分な効果を持つが、直接比較試験は実施されていないため、どちらがより有効なのかは分からない。フランスで実施された疫学研究では後者に軍配が上がった。フランスのASSM(国立医薬品・保健製品安全庁)とCNAM(国立健康保険機構)の疫学研究グループであるEPI-PHAREのJabagiらが実施したもので、Journal of American Medical Association誌で電子刊行された。
フランスで24年9月から12月に生まれた107,778人のうち、出生後、退院前にアストラゼネカの抗RSV抗体Beyfortusを筋注した、または、母親が妊娠32~36週にファイザーのRSVワクチンAbrysvoを筋注した、合わせて42,560人の乳児を対象に、25年2月末まで追跡して、RSV関連気道感染症により入院するリスクを比較したもの。接種シェアはAbrysvoが27%と低いため、Abrysvo群の新生児とマッチするBeyfortus症例を同数選択した。ほとんどが正期産。メジアン84日の追跡期間中にBeyfortus群は212人、Abrysvo群は269人がヒットし、ハザードレシオは0.74(95%信頼区間0.61-0.88)と、比較的大きな差が見られた。PICU入室など重篤例に限定しても、サブグループ分析でも、整合的な結果になった。
安全性やフィージビリティの比較も必要だが、予防効果に関してはBeyfortusのほうが良いことになる。但し、疫学研究の成果が確立するためにはもう一つの試験で再現されることが重要である。
リンク: Jabagiらの疫学試験論文(JAMA)
MSDがCNPVを取得
(2025年12月19日発表)
FDAは二種類の医薬品候補に関してCNPV(FDA委員長の国家的優先事項バウチャ)を供与したと発表した。一つはMSDのMK-0616(enlicitide decanoate)。PCSK9阻害剤で、類似した作用機序を持つ既承認品と異なり経口投与が可能であることが最大の特徴。複数の第3相が進行中だが、LDL-C低下作用を主評価項目とする4本が既に成功しているので、2029年に心血管アウトカム試験の結果が判明する前に承認申請される可能性もあるのではないか。
もう一つはMK-2870/SKB264(sacituzumab tirumotecan)。TROP2を標的とする抗体医薬複合体で、中国のKelun-Biotech(Sichuan Kelun Pharmaceuticalの子会社)が中国で24年に承認を取得した。MSDが22年に中国外の権利を取得、数多くの第3相試験を実施中で、27年頃から結果が出る見込みだ。
後者が選定されたのは意外感がある。類薬であるギリアド・サイエンシズのTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)や第一三共のDatroway(datopotamab deruxtecan-dlnk)が既に承認されているからだ。もしかしたら、抗菌剤Augmentin XR(amoxicillin、clavulanate potassium)の国内生産体制増強と同じような意味合いで、外国企業の開発品を米国企業が米国で開発すること自体を評価したのかもしれない。FDAは中国だけで実施された臨床試験の成績をエビデンスとして認めないスタンスを取っているからだ。
あるいは、もしかしたら、トランプ大統領の要請に応じて値下げや国産・国内研究開発体制の増強を発表したことも寄与したのかもしれない(次項参照)。イーライリリーやノボ ノルディスクなどもCNPV取得と要請応諾が相次いで公表された。
実際、FDAのプレスリリースは、この2製品は米国における医療のアクセサビリティやアフォーダビリティという政策目標に大きく貢献する可能性があると記している。
もしこれらが理由ならば、トランプ大統領の呼びかけに応えたり、中国企業から導入すれば、CNPVがもらえるのだろうか?CNPV制度は不透明感が高まるばかりだ。
| 発表 | 企業 | 対象 |
|---|---|---|
| 25年10月 | Disc Medicine | DISC-0974(bitopertin)、赤芽球性プロトポルフィリン症 |
| EMD Serono | Pergoveris(follitropin alfa、lutropin alfa)、LH/FSH欠乏性不妊症 | |
| サノフィ | Tzield(teplizumab-mzwv)、一型糖尿病 | |
| Achieve Life Sciences | cytisinicline、Eシガレット依存症 | |
| Regeneron Pharmaceuticals | DB-OTO、otoferlin関連難聴 | |
| Dompé farmaceutici | cenegermin、非動脈炎性前部虚血性視神経症の点鼻用新製剤 | |
| Revolution Medicines | RMC-6236(daraxonrasib)、膵癌 | |
| USAntibiotics | Augmentin XR(amoxicillin、clavulanate potassium)、抗菌剤 | |
| 不明 | 全身麻酔用ketamine | |
| 25年11月 | ベーリンガー・インゲルハイム | Hernexeos(zongertinib)、her2陽性肺癌 |
| ジョンソン エンド ジョンソン | Sirturo(bedaquiline)、幼児の薬物耐性肺炎 | |
| GSK | Jemperli(dostarlimab)、直腸癌 | |
| Vertex Pharmaceuticals | Casgevy(exagamglogene autotemcel)、鎌状赤血球病 | |
| イーライリリー | orforglipron、肥満症 | |
| ノボ ノルディスク | Wegovy(semaglutide)、肥満症 | |
| 25年12月 | ジョンソン エンド ジョンソン | Tecvayli(teclistamab-cqyv)・Darzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)併用、多発骨髄腫 |
| MSD | MK-0616(enlicitide decanoate)、高脂血症用経口PCSK9阻害剤 | |
| MSD推 | MK-2870(sacituzumab tirumotecan)、MK-2870(sacituzumab tirumotecan)、中国のKelun-Biotechから導入した抗TROP2抗体薬物複合体 |
リンク: FDAのプレスリリース
新たに9社がトランプ大統領の呼びかけに呼応
(2025年12月19日発表)
トランプ米国大統領は製薬会社に米国の医薬品価格を他の高所得国(先進国)並みに引き下げることなどを呼びかけ、7月には大手17社に書面で要請した。先月までにファイザー、アストラゼネカ、セラノ、ノボ ノルディスク、イーライリリーが同意し大統領と共同会見を行ったが、今回、更に、アムジェン、ベーリンガー・インゲルハイム、ブリストル マイヤーズ スクイブ、ジェネンテック(ロシュの米国子会社)、ギリアド・サイエンシズ、GSK、メルク(北米外ではMSD)、ノバルティス、サノフィの9社が同意した。残りはアッヴィ、ジョンソン エンド ジョンソン、そしてRegeneron Pharmaceuticals。
内容は区々だが、低所得者向け医療制度メディケイドや高齢者・透析患者向けのメディケアの外来薬カバレッジにおける一部製品の価格を標準的な価格から大きく値引きする。政府が立ち上げる医薬品ECサイト、TrumpRx.comにも出品する。更に、向こう数年間、米国で製造設備と研究開発活動に巨額の投資を行う。見返りとして、政府が検討している、ブランド薬あるいは特許性薬の輸入に課す100%の関税を3年間、免除される。
良く分からないのはTrumpRx.comだ。大統領個人に出品料の一部が分配されるなどということは流石に無いだろうが、元々がビジネスマンで、ツイッター("X")などから出禁にされた時は自分でSNSサイトを立ち上げたこともある(後に譲渡したようだ)ので、油断はできない。
リンク: ホワイト・ハウスのファクト・シート
【新薬開発】
アテトーゼ型脳性まひ試験がフェール
(2025年12月22日発表)
Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)はvalbenazineの第3相DCP(ジスキネジア型<別称アテトーゼ型>脳性まひ)試験がフェールしたと発表した。第14週のコレア(舞踏運動)を偽薬と比較した主評価項目も、副次的評価項目も、達成できなかった。
脳性まひの罹患率は小児1000人当り3人、うち15%がコレアを伴うDCPと推定されている。valbenazineはVMAT-2(小胞モノアミントランスポーター2阻害剤)阻害剤で、遅発性ジスキネジア用薬Ingrezza(日本ではジスバル)として日米で承認され、米国ではハンチントン病にも承認されている。
リンク: 同社のプレスリリース
アストラゼネカ、ATRキナーゼ阻害剤がまた中途で打切り
(2025年12月22日発表)
アストラゼネカはAZD6738(ceralasertib)の第3相非小細胞性肺癌試験が中間で無益認定されたと発表した。
遺伝子修復や細胞の生存に関わるATR(ataxia telangiectasia and rad3 related)キナーゼが誘導するシグナル伝達を阻害するATR阻害剤。今回のLATIFY試験はEGFR阻害剤やALK阻害剤などの分子標的薬が適応にならない、局所進行/転移後に抗PD-(L)1抗体と白金化学療法歴を持つ非小細胞性肺癌の患者を組入れて、同社の抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)と併用する便益をImfinziだけの群と比較した。主評価項目は全生存期間。
AZD6738は第2相の転移トリプル・ネガティブ乳癌Lynparza(olaparib)併用試験や抗PD-(L)1抗体抵抗性黒色腫のImfinzi併用試験も無益中止されている。残る第3相は今年ロンチされたNCI(米国立がんセンター)のアジュバント試験だけ。ステージII~IIIBの非小細胞性肺癌で術前療法でpCRを達成しなかった630人を組入れて、Imfinziによる術後療法に追加する便益を検討するもの。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
サノフィの多発性硬化症薬が一転して審査完了に
(2025年12月24日発表)
サノフィはSAR442168(tolebrutinib)を無再発二次性多発性硬化症(nrSPMS)の治療薬として欧米で承認申請したが、米国は審査完了通知を受領した。経緯が異常だ。優先審査を受け、当初の審査期限は9月28日だったが追加データ提出により12月28日に延期され、更に、期限の2週間ほど前になって、FDAから、更に遅延する、26年第1四半期中に今後のガイダンスを連絡する、という連絡を受けた。どたばたもいいところだ。おそらく、今回も、上役が介入したのだろう。
下記プレス・リリースはFDAに振り回されたことに対する不満は記されているものの審査完了の理由については記されていない。おそらく、肝障害懸念だろう。
nrSPMSは、再発寛解型多発性硬化症の次のステージで、症状の大きな増悪はなくなるが徐々に障害が進行していく。tolebrutinibは炎症を抑制するブルトン型チロシン・キナーゼ阻害剤。既存薬と異なり中枢神経系に作用することができる。第3相HERCULES試験でEDSS(障害評価尺度)の悪化を3割ほど遅らせる効果を示した。可逆的な薬物誘導性肝障害疑い例が発生し臨床試験の新規組入れ中断したが、この試験は既に組入れを完了しており影響を受けなかった。
奇妙なのは、再発寛解型多発硬化症の第3相二本はフェールしたこと。主評価項目は再発頻度、対照群は偽薬ではなく同社のAubagio(teriflunomide)であることなど、対象疾患だけでなくデザインも異なるため整合性がないとは言えないが、数多くの直接比較試験で負けた実績を持つAubagioに勝てなかったことや、二本の試験のプール分析でEDSSが悪化していることなど、案外な点もある。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
初のHSCT-TMA用薬が承認
(2025年12月24日発表)
米国ワシントン州シアトルの新興医薬品会社、Omeros (Nasdaq:OMER)は、FDAがYartemlea(narsoplimab-wuug)を造血幹細胞移植関連血栓性微小血管症(HSCT-TMA)の治療薬として承認したと発表した。この疾患の治療は補体阻害剤などがオフレーベルで使用されているが正式に承認された薬は初めて。成人と2歳以上の小児が適応になる。体重50kg以上の患者の場合、370mg30分点滴静注を週一回施行し、改善が不十分なら週二回に増やす。
単群試験で完全反応率(検査値と臨床評価値が改善)が61%、100日生存率は73%だった。深刻有害事象の発生率は61%、致死的有害事象発生率は7%だった。警告事前注意事項は感染症。
HSCT-TMAは補体系活性化経路のうちレクチン経路が亢進する。重症例は命に係わる。Yartemleaはレクチン経路のイフェクター酵素であるMASP-2(mannan-binding lectin-associated serine protease-2)に結合する抗体。米国では20年に承認申請が完了したが、対照試験が実施されていないことがボトル・ネックとなり審査完了通知を受領した。同社は自然歴対照試験を実施して追加提出し、今回も審査期間が3ヶ月延長されたが、5年かけてゴールインした。
リンク: 同社のプレスリリース
mitapivatがサラセミアに適応拡大
(2025年12月23日発表)
Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はFDAがAqvesme(mitapivat)を成人の輸血依存性/非依存性のアルファ/ベータ・サラセミア用薬として承認したと発表した。100mgを一日二回、服用する。輸血に依存する患者を組入れた第3相で輸血必要量を抑制し、依存しない患者の第3相でヘモグロビン値を改善した。
活性成分はPKR(ピルビン酸キナーゼR)のアロステリック・アクティベイター。22年に米欧でピルビン酸キナーゼ欠乏症における溶血性貧血症の治療薬Pyrukyndとして承認された。今回、製品名を変更したのは、薬物誘導性肝障害が見られREMS(リスク評価管理戦略)が導入されたため。ピルビン酸キナーゼ欠乏症では5mg一日二回経口投与で治療を開始しヘモグロビン値の改善が不十分なら最大で50mg一日二回まで漸増するが、サラセミアでは100mg一日二回と最初からもっと高量を投与する。そのせいか、第3相試験の偽薬対照期間中に301人中2人で可逆的な肝細胞障害疑い例が発生し、オープン・レーベル延長試験期間中にも偽薬から以降した患者3人で発生した。対策として、投与開始前と開始後も最初の24週間は4週毎に、その後は臨床評価に基づき、ALT/AST、ALP、総ビリルビン分画を検査する。肝障害の警告や検査はピルビン酸キナーゼ欠乏症用途でも今年1月に導入されている。
審査期限は12月7日だったが期日になっても音沙汰なく、2週間ほど遅延した。上記のtolebrutinibと共通するのは肝毒性懸念が絡む遅延であること。FDAのガイダンス資料によると慢性疾患病薬に求められるHyの法則該当例の発生頻度は3000人に一人未満だが、少なくとも本件は上回っている。高血圧薬やコレステロール治療薬と比べれば重篤な疾患の治療薬なので、リスク許容度は高いのだろうが、悩みどころにはなりうる。
リンク: 同社のプレスリリース
経口セマグルチドの体重管理用が承認
(2025年12月22日発表)
ノボ ノルディスクはFDAがWegovy(semaglutide)錠を肥満またはリスク因子を持つオーバーウェイトの体重管理として承認したと発表した。心血管疾患を併発する患者では主要有害心血管イベントのリスクも抑制する。第3相OASIS 4試験で体重が64週間に13.6%低下し、偽薬群の2.2%減を有意に凌いだ。
GLP-1作用剤semaglutideは皮下注用が体重管理薬Wegovyや二型糖尿病薬Ozempicとして販売され、サルカプロザート・ナトリウムをキャリアにして胃で吸収されるようにした経口剤も二型糖尿病薬Rybelsusとして承認されている。Rybelsusは3mg一日一回で開始、30日毎に7mgに増量し、必要に応じて14mgまで漸増できる。Wegovy錠は1.5mg一日一回で開始し、30日毎に4mg、9mg、25mgと漸増する。ドロップ・アウトが起きがちな疾患であるためか、目標最大用量が大きいせいか、漸増のペースが抑えめになっている。
リンク: 同社のプレスリリース
皮下注用ルンスミオが米国でも承認
(2025年12月22日発表)
ロシュはFDAがLunsumio VELO(mosunetuzumab-axgb)を承認したと発表した。抗CD20xCD3二重特異性抗体Lunsumioの皮下注用新製剤で、注射時間が1分と点滴静注用製剤の2~4時間から大幅に短縮される。適応は成人の再発性/難治性濾胞性リンパ腫の3次治療で静注用と同じ、加速承認である点も同じ。EUでは25年11月に条件付き承認、日本でも今月、承認された。
リンク: ロシュのプレスリリース
小児用の経口鉄製剤が初承認
(2025年12月22日発表)
FDAはAccrufer(ferric maltol)を10歳以上の小児鉄欠乏性貧血症用薬として承認したと発表した。この適応を持つ経口剤は初めて。最近のFDAのプレス・リリースはメーカー名が書いていないことが多いが、英国のShield Therapeutics(LSE:STX)の製品。1ヶ月児以上の患者を組入れた臨床試験でヘモグロビン値が回復した。9歳以下は適応になっていないが、同社は新開発の懸濁液製剤で適応拡大申請する考え。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Shield Therapeuticsのプレスリリース
BIのPDE4B阻害剤が進行性肺線維症に適応拡大
(2025年12月19日発表)
FDAはベーリンガー・インゲルハイムのJascayd(nerandomilast)を成人の進行性肺線維症(PPF)に適応拡大したと発表した。昨年4月に承認申請され、優先審査指定された成人の特発性肺線維症の適応は10月に承認されている。
ホスホジエステラーゼ4B阻害剤。忍容性や薬物相互作用に問題がなければ18mgを12時間おきに経口投与する。第3相試験では偽薬、9mg、または18mgを52週間投与したところ、試験薬群のFVC(努力性肺活量)低下が偽薬比有意に小さかった。
第2次トランプ政権下の迷走ぶりがよく表れているのが、下記プレス・リリースと添付文書の数値の違い。製薬会社は言論の自由があるのでFDAが承認していない効能などを医療従事者に伝えることができるが、プレス・リリース作成者にも言論の自由があるのだろう。各群のFVC平均低下幅は処方情報(添付文書に相当)やBIのプレス・リリースによると152mL、69mL、86mLだがFDAのリリースでは151mL、85mL、72mL。因みに、New England Journal of Medicine誌に刊行された治験論文では165.8mL、84.6mL、98.6mLとなっている。
また、副次的評価項目である疾病増悪、呼吸器因入院、死亡の何れかが発生するまでの期間は処方情報によると9mg群のハザード・レシオが0.88、18mg群は0.77だが統計的に有意ではなかった。3項目夫々の解析でも有意水準には達していない。にもかかわらず、プレス・リリースには増悪や呼吸器因入院、死亡も少なかったと記されている。今までのFDAなら、せいぜい、悪化するトレンドは見られなかったと書くところだろう。
医師が頼るべきは処方情報でFDAのプレス・リリースなどどうでも良いのだが、なんとなく、FDAの首脳陣が原稿に手を入れたのかなー、と思ってしまう。
リンク: FDAのプレスリリース
第2の心ミオシン阻害剤が承認
(2025年12月19日発表)
Cytokinetics(Nasdaq: CYTK)はFDAがMyqorzo(aficamten)を成人の症候性閉塞性心筋症用薬として承認したと発表した。今月は中国で承認、欧州でCHMPが肯定的意見と大きく前進した。
心ミオシンをアロステリックに、そして可逆的に阻害して心臓の収縮性を抑え、左室流出路閉塞を緩和する。臨床試験でpVO2(最高酸素摂取量)が偽薬比有意に向上した。枠付き警告はLVEF(駆出率)の低下による心不全でREMS(リスク評価管理戦略)が義務付けられた。LVEFが55%未満には推奨しない、治療中に低下したり症状が表れたら程度に応じて減量・中止する。欧州では今月、CHMPが肯定的意見を出したところ。
類薬はブリストル マイヤーズ スクイブのCamzyos(mavacamten)が22~25年に米欧日で同じ適応症に承認されている。どちらもLVEFとバルサバLVOT-G(左室流出路圧較差)の検査値に応じて漸増、減量、または一時停止する必要があるがMyqorzoのアルゴリズムのほうがやや簡便。どちらも薬物相互作用リスクがあるが、Myqorzoの併用禁忌はrifampinのみ。
リンク: Cytokineticsのプレスリリース
【医薬品の安全性】
ファイザー、ヒムペブジの死亡例を検討
(2025年12月22日発表)
World Federation of Hemophilia(WFH)とNational Bleeding Disorders Foundation(NBDF)の共同声明によると、ファイザーの血友病薬Hympavzi(marstacimab-hncq)による出血のルーチン予防を受けていた患者が死亡し、同社が詳細を検討している由。TFPI(組織因子経路阻害剤)で、24年に米欧日でインヒビターを持たないA型やB型の血友病向けに承認され、インヒビター保有者向けにも米欧日で承認申請中。今回の患者はインヒビター保有のA型血友病で、2022年に臨床試験に参加した。用量は150mg週一回皮下注で、承認/適応拡大申請下の維持用量と同じ。軽微な手術後に血栓性脳卒中を発症、脳内出血を経て死去した。他の疾患や同時使用薬もあったようで、複雑な症例とされる。
リンク: WFHとNBDFの共同声明
アストラゼネカ、米国でオンデキサの販売を中止
(2025年12月18日発表)
FDAはアストラゼネカが米国でAndexXa(coagulation factor Xa (recombinant), inactivated-zhzo)の販売を終了したと発表した。市販後薬効確認試験で深刻な出血リスクが浮上したため、危険が便益を上回るとの評価を同社に通知したところ、商業的な理由により販売中止する旨の連絡があった。商業的な理由による自主的販売中止の前にFDAが安全性懸念を表明した事例は多いと推測されるが、明記されたのは今回が初めてではないか。これも今のFDAの方針と推測される。
同薬は遺伝子組換え型血液凝固第Xa因子。抗凝固薬の一種であるXa阻害剤の活性を中和する作用に基づき、18年に米国で加速承認、19年にEUでOndexxya名で条件付き承認、22年には日本でオンデキサ名で通常承認された。
市販後薬効確認試験となるANNEXA-I試験では、apixabanまたはrivaroxabanを服用後15時間以内に脳内出血を発症した成人に投与し、血腫の拡大やNIHSS(神経学的重症度を評価する尺度)の悪化を抑制する作用を複合評価したところ、奏効率が67%と通常医療群(プロトロンビン複合体濃縮製剤などを使用)の53.1%を有意に上回った。しかし、副次的評価項目のmRS(機能性の評価尺度)は数値がやや悪く、虚血性脳卒中の発生率が6.5%(対照群は1.5%)、血栓関連死亡率が2.5%(同0.9%)と、血栓形成に影響する薬の泣き所が表面化してしまった。
リンク: FDAのプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
| PDUFA | |
|---|---|
| 25/12推 | ノボ ノルディスクのSogroya(somapacitan、低出生体重児等に適応拡大) |
| 25/12/30 | Concert TherapeuticsのCORT-125134(relacorilant、クッシング症候群) |
| 25/12/30 | Vanda Pharmaceuticalsのtradipitant(乗り物酔い) |
| 25/12/31 | Outlook TherapeuticsのLytenava(bevacizumab-vikg、加齢性黄斑変性) |
| 26/1推 | Disc MedicineのDISC-0974(bitopertin、赤芽球性(骨髄性)プロトポルフィリン症、CNPV案件) |
| 26/1/5 | Denali TherapeuticsのDNL310(tividenofusp alfa、ハンター症候群) |
| 26/1/10 | Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(移植後リンパ増殖性疾患) |
| 26/1/13 | Travere TherapeuticsのRE-021(sparsentan、巣状分節状糸球体硬化症を追加) |
| 26/1/14 | Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病) |
| 26/1/17 | JNJのTAR-200(gemcitabine 膀胱内留置用、非筋層浸潤膀胱癌) |
| 26/1/28 | Tenpoint TherapeuticsのBrimochol PF(carbacholとbrimochol tartrate、老視) |
| 26/1/31 | Aquestive TherapeuticsのAnaphylm(dibutepinephrine、アナフィラキシー等) |
| 26/1/31 | Pharmingのleniolisib(4-11歳の活性期phosphoinositide 3-kinase deltaに適応拡大) |
| 26/2推 | サノフィのTzield(teplizumab-mzwv、8歳以上の最近診断されたステージ3の一型糖尿病、CNPV案件) |
| 26/2推 | JNJのTecvayli(teclistamab-cqyv)とDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)、多発骨髄腫、CNPV案件) |
| 26/2/8 | RegenxbioのRGX-121(clemidsogene lanparvovec、MPS II型) |
| 26/2/20 | MSDのKeytruda(pembrolizumab、白金抵抗性卵巣癌) |
| 26/2/21 | Vanda PharmaceuticalsのBysanti(milsaperidone、統合失調症と双極障害I型) |
| 26/2/25 | 大鵬薬品のInqovi(decitabineとcedazuridine、新患急性骨髄性白血病一次治療) |
| 26/2/28 | Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎) |
| 25/2/28 | Ascendis PharmaのTransCon CNP(navepegritide、軟骨無形成症) |
今週は以上です。
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