2025年5月2日

第1205回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19ワクチンに朗報、しかし新たな懸念も 
  • ファイザー、抗PD-1抗体の膀胱癌術前術後投与試験が成功 
  • AACR:BIのher2阻害剤の治験成績 
  • AACR:キイトルーダの頭頚部癌付随療法試験が成功 
  • アストラゼネカ、トルカプの第3相通算成績が二勝二敗に 
  • ノバルティス、蕁麻疹用btk阻害剤を承認申請 
  • Telixの脳腫瘍造影剤は承認されず
  • モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの承認が遅延へ 
  • バース症候群用薬の承認がまたまたまた遅延 
  • JNJの筋無力症用薬が承認 
  • 劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法が承認 
  • リンヴォックが巨細胞動脈炎に適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


COVID-19ワクチンに朗報、しかし新たな懸念も
(2025年4月24~30日発表)

第2次トランプ政権でワクチンなどの安全性に懐疑的な医学者が公衆衛生を担う主要官庁のトップに就任して以来、方針転換の動きが活発化しているか、無事にやり過ごせそうな事例も出始めた。

Novavax(Nasdaq:NVAX)は、COVID-19ワクチンの本承認切替申請がなかなか認められないが、市販後試験の要請を受け回答したとのこと。承認審査手続きが最終段階に入ったのだろう。

更に、Vaxart (Nasdaq:VXRT)の経口COVID-19ワクチンも後期第2相試験を再開できそうだ。BARDA(生物医学先端研究開発局)などの政府補助金を得て昨年9月に開始したが、今年2月に事業中止命令(Stop work order)を受領した。撤回/変更されない限り90日以内に終了するはずだったが、このたび、撤回通知を受領した。当初の予定通り、KP.2対応品を用いて1万人規模のmRNAワクチン対照感染予防試験を開始する考え。

一方で、新たな懸念材料も浮上した。CNNなどの報道によると、ケネディFDA長官のイニシアティブで、新規ワクチンの開発に際して偽薬対照安全性確認試験の実施が求められることになった。近年の画期的ワクチンは数万人規模の偽ワクチン対照試験が実施されたが、開発中のCOVID-19ワクチンのように大規模な偽ワクチン対照試験を実施するのが倫理に反する可能性がある場合は、Vaxartのように既存ワクチン対照試験を行ったり、Novavaxのように配合株を変えただけの場合は免疫原性試験だけしか実施しない場合もある。NovavaxはEUA(非常時使用認可)を既に取っているので深刻な問題ではないが、ファイザーやモデルナを含め、25/26年シーズン用の開発に影響する可能性がありそうだ。

リンク: Novavaxのプレスリリース
リンク: Vaxartのform 8-K(4/24付)
リンク: CNNの報道(4/30付)

【新薬開発】


ファイザー、抗PD-1抗体の膀胱癌術前術後投与試験が成功
(2025年4月26日発表)

ファイザーは1月に皮下注用抗PD-1抗体PF-06801591(sasanlimab)が第3相CREST試験で主目的を達成したと発表したが、AUA(米国泌尿器学会)で具体的な内容を公表した。欧米中日などの施設で実施された筋層非浸潤性膀胱癌の摘出術付随療法試験で、パートAではBCG歴を持たない患者を組入れて、BCGと同薬を術前術後合わせて25回ずつ投与する併用群のEFS(再発進行などが発生せず生存、担当医評価)をBCGによる標準療法と比較した。

結果は、ハザードレシオが0.68、両側p=0.019だった。両群ともメジアンには未達、36ヶ月EFS率は82.1%対74.8%で7ポイント程度の差があった。腫瘍が上皮下結合組織まで及ぶT1ステージのサブグループでも、上皮内腫瘍(CIS)サブグループでも、ハザードレシオは0.6前後で95%上限は1を下回っている。但し、副次的評価項目である全生存期間の中間解析では差が見られなかったとのこと。

尚、パートAではBCGを術前だけに抑えて試験薬の術前術後療法を追加した群も設定されたが、ハザードレシオ1.16で標準療法を上回ることはできなかった。また、この試験ではBCG不応患者に単剤投与するパートBも設定されたが、22年に安全性以外の理由で打ち切られた。2020年に米国でKeytruda(pembrolizumab)が適応拡大した余波かもしれない。

結果は当局に報告したとのこと。反応が良ければ承認申請する考えのようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


AACR:BIのher2阻害剤の治験成績
(2025年4月28日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは2月に日米などでher2チロシン・キナーゼ阻害剤BI 1810631(zongertinib)を成人の全身性治療歴のあるher2陽性切除不能/転移非小細胞性肺癌向けに承認申請し、米国では優先審査指定されたが、エビデンスとなる後期第1相試験、Beamion LUNG-1の成績をAACR(米国癌学会)とNew England Journal of Medicine誌でアップデートした。her2チロシン・キナーゼ・ドメインに変異のある患者を組入れたコフォートのうち、コフォート1の120mg投与例75人では、cORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が71%、メジアン反応持続期間は14.1ヶ月だった。完全反応率は7%。17%の患者でG3以上の薬物関連有害事象が発生した。一方、抗her2抗体薬物複合体歴のある患者31人のコフォート5ではcORRが48%だった。被験者の3%でG3以上の薬物関連有害事象が発生した。このコフォートは当初、240mgを採用したが、コフォート1で120mgのほうが成績が良かったため、その後の新規患者には120mgを投与した。

her2チロシン・キナーゼ・ドメイン以外に変異のある患者20人を組入れたコフォート3ではORRが30%(担当医評価ベース)、25%の患者でG3以上の薬物関連有害事象が発生した。

リンク: BI社のプレスリリース
リンク: Heymachらの治験論文抄録(NEJM)


AACR:キイトルーダの頭頚部癌付随療法試験が成功
(2025年4月27日発表)

MSDは、昨年10月、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)が第3相Keynote-689試験の第一次中間解析で主目的を達成したと発表したが、データをAACRで公表した。ステージIII/IV切除可能局所進行性HNSCC(頭頚部皮膚扁平上皮腫)の新患714人を組入れて、術後放射線療法(高リスク患者はcisplatinも)を施行する標準療法に、Keytrudaによる術前術後療法(200mgを3週毎に術前は2回、術後は最大15回)を追加する便益を検討したもので、EFS(無イベント生存期間)のハザードレシオがPD-L1高発現(CPS≧10)サブグループでは0.66、PD-L1陽性(CPS≧1)全体では0.70、陰性等を含むintent-to-treatベースでは0.73となり、全てp<0.01だった。尚、メジアン値は最初の二つの解析はどちらも59.7ヶ月対標準療法群29.6ヶ月、ITTでは51.8ヶ月対30.4ヶ月。

副次的評価項目である全生存期間は、順位が最上位のCPS≧10サブグループのデータが中間解析の閾値に達しなかった。但し、報道によるとハザードレシオ0.72、95%上限0.98とのことなので、好ましい方向を指している。ITTベースも含め、最終解析が楽しみだ。

G3以上の治療関連有害事象の発生率は44.6%対42.9%でそれほど変わらない。致死的な治療関連有害事象発生率は1.1%対0.3%だった。

同社は日米などで適応拡大申請中。

リンク: MSDのプレスリリース


アストラゼネカ、トルカプの第3相通算成績が二勝二敗に
(2025年4月29日発表)

アストラゼネカは、Truqap(capivasertib)の第3相CAPItello-280試験を中止すると発表した。中間解析で無益認定されたため。転移去勢抵抗性前立腺癌にアンドロゲン枯渇剤やdocetaxelと併用する便益を検討したが、果たせなかった。

この汎AKT阻害剤は23~24年に米日欧で成人のホルモン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌で、PIK3CAなどに変異があり、転移後治療歴またはアジュバント療法完了後1年以内に再発した患者向けに承認された。適応拡大ではトリプル・ネガティブ乳癌の一次治療試験が実施されたが24年にフェール。一方、前立腺癌のCAPItello-281試験では診断当初からPTEN欠乏性の転移ホルモン感受性前立腺癌に併用でPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)を有意に伸ばすことができたことが昨年11月に発表された。朗報と失望的な発表が代わりばんこになっている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ノバルティス、蕁麻疹用btk阻害剤を承認申請
(2025年4月29日発表)

ノバルティスは、25年第1四半期決算の発表に合わせて、米欧中国で選択的btk阻害剤LOU-064(remibrutinib)をCSU(慢性特発性蕁麻疹)用薬として承認申請したことを明らかにした。米国は優先審査バウチャを用いたため今年下半期に審査結果が判明する見込み。日本でも第3相試験中。CSUのほかに多発性硬化症でも第3相段階。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Telixの脳腫瘍造影剤は承認されず
(2025年4月28日発表)

オーストラリアのTelix Pharmaceuticals(ASX:TLX)は米国でTLX101-CDx(floretyrosine F18)を神経膠芽腫のPET造影剤として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加的な薬効確認試験の実施を求められた。詳細は不明。

リンク: 同社のプレスリリース


モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの承認が遅延へ
(2025年5月1日発表)

モデルナは、2025年第1四半期決算発表に合わせて、米国で24年に承認申請したmRNA-1083(次世代COVID-19ワクチンmRNA-1283と新規季節性インフルエンザワクチンmRNA-1010の混合mRNAワクチン)について、承認が26年にずれ込む見込みであることを明らかにした。優先審査バウチャを用いて25/26年シーズン前のロンチを図ったが、インフルエンザ・ワクチンの第3相で予防効果を確認するよう求められた。

mRNA-110は第3相免疫原性試験が成功したが、同社は混合ワクチンの承認申請を優先していた。一方、mRNA-1283は、第3相免疫原性試験で既承認のCOVID-19ワクチン、mRNA-1273を有意に上回り、順調なら5月31日までに承認される見込みだが、上記のように、FDAが偽薬対照安全性確認試験を求める可能性がある点がリスク要因だ。

リンク: 同社のプレスリリース


バース症候群用薬の承認がまたまたまた遅延
(2025年4月29日発表)

米国マサチューセッツ州のStealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)はMTP-131(elamipretide)をバース症候群の治療薬として米国で承認申請しているが、可否回答が遅れる旨の通知を受けた。元々at risk申請であり、FDA上層部の交代もあったので、審査が順調に進まなくてもやむを得ない。

バース症候群はX染色体上のTAZ遺伝子の変異によりミトコンドリアにおけるエネルギー生成が低下、心臓疾患や白血球減少症、運動障害などを合併する。米国で150人程度、世界では250人程度が罹患と推定されている。MTP-131はミトコンドリアを標的とするペプチド(MTP)。cardiolipinに結合しミトコンドリア膜の構造を正常化するとされる。

12歳以上の患者12人を組入れて40mgを一日一回、12週間皮下注射した第2/3相TAZPOWER試験で、試験薬群の6分歩行テスト成績がベースライン値の400mから443mに改善したが、偽薬群も412mから443mに改善したため、有意差が見られなかった。BTHS-SA(バース症候群症状評価)総合疲労スコアも大差なかった。

会社側はこの試験とオープン・レーベル延長試験のデータを自然歴(n=19)と比較するSPIBA-001試験で6分歩行テスト改善効果を確認し、FDAが推奨した再試験実施は困難であることから、患者支援組織が集めた署名とともに、21年8月に承認申請を断行した。受理されなかったが、FDAが他の超希少疾患用薬に関して承認申請のハードルを引き下げたことに意を強くしたか、24年1月に改めて承認申請すると今度は受理された。当初は標準審査、後に優先審査指定されたが審査期限は変更されなかった。

24年10月の諮問委員会では16人の委員中10人が薬効を支持した。いよいよと思われたが審査期限が4月29日に延期、今回、更に遅延することになった。

2019年にAmerican Society of Human Geneticsの年次総会でTAZPOWER試験の非盲検延長試験における左室一回拍出量スタディの結果が発表されていたようだ。おそらく、TAZPOWER試験自体はその時点ではフェールが判明していただろう。もし再試験を行っていたら、22年位には成否が判明し成功なら承認申請を経て23~24年には承認されていただろう。資金力の弱いバイオ企業ではしばしば見られる現象だが、もし開発主体がビッグファーマだったら、この薬の、そして患者の、命運は変わっていただろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


JNJの筋無力症用薬が承認
(2025年4月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Imaavy(nipocalimab-aahu)が12歳以上のgMG(全身性筋無力症)の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。AChR(アセチルコリン受容体)やMuSK(筋特異的チロシン・キナーゼ)に対する抗体を持つ患者が適応になる。欧日でも承認申請中。湿式自己免疫性溶血性貧血症やHDFN(胎児・新生児溶血性疾患)、シェーグレン症候群、そして慢性炎症性脱髄性多発神経炎でも第3相や第2/3相試験中。

20年にMomenta Pharmaceuticalsを65億ドルで買収して入手した、胎児性Fc受容体に結合する糖鎖除去・イフェクターレスIgG1型抗体。第3相試験で15mg/kg(但し初回は倍量)を24週に亘り2週毎点滴静注したところ、主評価項目(AChR、MuSK、そしてLRP4に対する自己抗体を持つサブグループにおけるMG-ADL(筋無力症日常生活機能評価)の改善)が4.70点と偽薬群の3.25点を有意に上回った。2~17歳の患者を組入れた第2/3相単群試験では免疫グロブリン量が大きく減少した。尚、上記のように承認範囲はこれらの試験よりやや小さくなっている。

gMGは新薬が輩出しており、胎児性Fc受容体標的薬ではargenxのVyvgart(efgartigimod alfa-fcab)とUCBのRystiggo(rozanolixizumab-noli)が、UCBはC5インヒビターのZilbrysq(zilucoplan)も、日米欧で承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース


劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法が承認
(2025年4月29日発表)

米国オハイオ州クリーブランドのAbeona Therapeutics(Nasdaq:ABEO)は、Zevaskyn(prademagene zamikeracel)が成人・小児の劣性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。患者のケラチノサイトやその前駆細胞にex vivoでCOL7A1遺伝子を導入してシート化した製品を、焼灼した創傷床に分解性縫合糸で固定するもの。第3四半期にロンチする予定。希少小児疾患優先審査バウチャを取得、売却する考え。

栄養障害型表皮水疱症は真皮と表皮をつなぐ係留線維の構成物である7型コラーゲンのCOL7A1遺伝子に機能喪失変異をもち、皮膚に水疱や糜爛が生じやすい。米国の推定患者数は3000人。

第3相VIITAL試験で11人の患者の複数の病変をZevaskynで治療したところ、奏効率(6ヶ月後に当該部位の病変が50%以上改善)が81.4%と、同一患者の治療しなかった病変の16.3%を有意に上回った。病変部位関連疼痛も有意に低下した。有害事象は施術に伴う疼痛やかゆみなど。

リンク: 同社のプレスリリース


リンヴォックが巨細胞動脈炎に適応拡大
(2025年4月29日発表)

アッヴィはFDAがJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)の適応症に成人の巨細胞動脈炎(GCA)を追加したと発表した。15mgを一日一回、経口投与する。EUでも4月に承認、日本は申請中。

第3相SELECT-GCA試験で第一選択薬であるコルチコステロイドの用量を段階的に減量・中止しながら投与したところ、持続的寛解率が46%と、試験薬よりゆっくりとコルチコステロイドを漸減した偽薬群の29%を有意に上回った。深刻有害事象の発生率は各群23%と21%。この試験では7.5mgもテストしたがフェールした。

レーベルには枠付き警告の主要な変更があったと記されているが、何度見比べても変更点が見つからなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好中球性喘息症に適応拡大)
25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群
25/6/30Verastem OncologyのVS-6766(avutometinib)とVS-6063(defactinib)、卵巣癌
25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
諮問委員会
25/5/5DSRMAC・AADPAC:オピオイドの市販後依存性等試験結果について



今週は以上です。

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