2025年4月27日

第1204回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗PD-1・VEGF二重特異性抗体の中国第3相がまた成功 
  • トロデルビのTNBC一次治療試験が成功 
  • エンハーツのher2+MBC一次治療試験が成功 
  • BMS、Cobenfyのアジャンクト試験がフェール 
  • ノボ、経口semaglutideを肥満症に承認申請済み 
  • CHMPが膿疱性線維症用薬などに肯定的意見 
  • 中華抗PD-1抗体がまた承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


抗PD-1・VEGF二重特異性抗体の中国第3相がまた成功
(2025年4月22日発表)

香港のAkeso(康方生物、HKEX:9926.HK)は、PD-1とVEGFに結合する二重特異性抗体ivonescimabが第3相AK112-306/HARMONi-6抗PD-1抗体対照試験の最初の中間解析で主目的を達成したと発表した。欧米日本の権利を持つSummit Therapeutics(Naasdaq:SMMT)が実施しているHARMONi-3試験で再現されるか、注目される。

同薬は中国で24年5月にEGFR阻害剤歴を持つEGFR変異局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌に化学療法と併用する用途用法で依达方というブランド名で承認された。 同年のASCO(米国臨床腫瘍学会)における発表によると、中国で実施されたAK112-301試験でPFS(無進行生存期間、独立放射線学的委員会評価)のメジアン値が7.1ヶ月と化学療法群の4.8ヶ月群を上回り、ハザードレシオは0.46だった。

今回の試験も中国の多施設で局所進行/転移扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療を受ける患者を組入れて、carboplatinとpaclitaxelのレジメンに追加する群のPFS(同、盲検独立中央評価)をtislelizumab(BeiGeneの抗PD-1抗体Tevimbra)追加群と比較したもの。数値は非公表だが、統計的に有意且つ臨床的に意味があるとのこと。PD-L1陽性にも陰性にも同様だった。

Summitは上記301試験と同様な内容のグローバル試験に加えて、306試験と類似したHARMONi-3試験でtislelizumabではなくpembrolizumab(MSDのKeytruda)と直接比較試験を実施中。FDAは中国だけで実施された試験に懐疑的なスタンスを示していて、おそらくトランプ政権下でも不変だろうから、少なくとも米国ではグローバル試験のエビデンスが重要になる。Akesoは抗PD-1抗体penpulimabが米国で承認されたところ(後述)が、エビデンスのうち一本は米国を含むグローバル第3相だった。

リンク: Akesoのプレスリリース


トロデルビのTNBC一次治療試験が成功
(2025年4月21日発表)

ギリアド・サイエンシズは、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)が第3相ASCENT-04/KEYNOTE-D19試験でPD-L1陽性TNBC(トリプル・ネガティブ乳癌)患者におけるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)の顕著な、かつ、意味のある改善を果たしたと発表した。適応拡大申請に向かうのではないか。

この試験は、日本を含む世界の施設でCPSスコアが10以上の局所進行切除不能または転移性のTNBCで局所進行/転移後は未治療の患者443人を、Trodelvyまたは化学療法(paclitaxel、nab-paclitaxel、またはgemcitabine・carboplatin併用から医師が選択)を、MSDのKeytruda(pembrolizumab)と併用する群のPFSを比較した。データは未発表。

副次的評価項目の全生存期間は未成熟だが改善のトレンドが見られたとのこと。

TrodelvyはEGP-1(別名TROP-2)を標的とする抗体とirinotecan活性代謝物の抗体薬物複合体。転移TNBCの3次治療における単剤投与が21年に米欧日で承認された。

今回の対照群は、KeyNote-355試験でPFSが9.7ヶ月と、化学療法(選択肢は上記と同じ)と偽薬を併用した群の5.6ヶ月を大きく上回った。化学療法をTrodelvyに置き換えることで更に向上することになる。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツのher2+MBC一次治療試験が成功
(2025年4月21日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、第3相DESTINY-Breast09試験で抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)とロシュのPerjeta(pertuzumab)を併用した群が中間解析でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)の統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を達成したと発表した。最終解析で他の評価項目を検討するため盲検が続行される。

この試験は、her2陽性(IHC3+またはISH陽性という狭義基準)の進行/転移乳癌で進行/転移後に化学療法やher2標的薬を未施行の患者1157人を、Enhertu・Perjeta併用群、Enhertu・偽薬併用群、または、対照群である標準療法群(taxane、trastuzumab、及びpertuzumabを併用)に無作為化割付けした。併用群は未成熟だが全生存期間を向上するトレンドが見られた。Enhertuのみの群のデータと共に、最終解析に向かう計画。

リンク: 両社のプレスリリース


BMS、Cobenfyのアジャンクト試験がフェール
(2025年4月22日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、24年9月に米国で成人の統合失調症治療薬として承認されたCobenfy(xanomelineとtrospium chlorideの固定用量合剤)のアジャンクト試験がフェールしたと発表した。承認のエビデンスは急性期患者に単剤投与した試験なので現状でアジャンクト使用はされていないだろうが、注意喚起のレーベル変更が行われる可能性があるのではないか。Cobenfyはアルツハイマー性精神症状の第3相も進行中。

xanomelineは新開発のムスカリンM1・M4受容体アゴニスト。イーライリリーがアルツハイマー病向けに開発したが失神など忍容性に難があり中止。開発担当者はKaruna Therapeuticsを設立して開発を続行し、末梢作用性ムスカリン受容体アンタゴニストtrospium(OAB治療薬として承認されている)を併用することで副作用の緩和を図った。BMSは同社を24年3月に140億ドルで買収した。

今回の第3相ARISE試験は、日本も含む世界の施設で非定型向精神薬による治療に十分応答しない成人統合失調症患者を組入れて、偽薬またはCobenfyを追加投与した。主評価項目の第6週におけるPANSS(陽性・陰性症状評価尺度)総スコア(n=186)がベースライン比で各群12.2点と14.3点低下し、差は-2点、p=0.11だった。副次的評価項目のPSPスコアやCGI-Sも大差なかった。

ポスト・ホック解析でrisperidone服用者(129人)では群間差が1.3点と数値上悪かったが、他の患者では-3.4点(-11.7点対-15.1点)、名目pは0.03だった。相互作用を疑う理論的な根拠があるかどうかは記されていない。

尚、承認時の試験は被験者を入院させたが今回は外来だった。鬱病試験でよくあるように、入院させた方が良かったのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ノボ、経口semaglutideを肥満症に承認申請済み
(2025年4月21日発表)

Biopharma Diveの報道によると、ノボ ノルディスクは、二型糖尿病治療薬として米欧日で19~20年に承認されたRybelsus(semaglutide)と同様な、経口投与用semaglutideを肥満症・リスク因子を持つオーバーウェイトの治療薬として今年に入って米国で承認申請した。23年に結果が公表された第3相OASIS 1試験では、50mgを一日一回、68週に亘り投与したところ、体重が15.1%低下、偽薬群の2.4%低下より大きかった(treatment policy estimandベース)。当時は23年に承認申請する予定だったが、皮下注用semaglutideの供給不足が発生したせいか、大きく遅れた。

Rybelsusの漸増目標用量は14mg/日なので、肥満症は3倍以上を投与することになる。尤も、こちらの用途でも23年に後期第3相PIONEER PLUS試験で25mgや50mgのHbA1cや体重低下作用が14mgを有意に上回ったと発表されたので、前後して用量追加申請される/された、かもしれない。

リンク: Biopharma Diveの報道

【承認審査・委員会】


CHMPが膿疱性線維症用薬などに肯定的意見
(2025年4月25日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)のAlyftrek(deutivacaftor、tezacaftor、vanzacaftor)は嚢胞性線維症の三剤合剤。6歳以上の、CFTC遺伝子にクラスI変異(タンパク製造に影響する変異)以外の変異(F508欠損など)を一つ以上持つ患者が対象。臨床試験で同社のKaftrio(ivacaftor、elexacaftor、tezacaftor)と1秒量改善作用が非劣性 、汗中塩化物矯正奏効率は優越性、安全性は同程度だった。両剤とも朝に経口投与するが、Kaftrioのレジメンは夕方にivacaftorを服用するので事実上、一日二回だった。同社にとっては他の嚢胞性線維症用薬よりロイヤルティ支払い率が低いというメリットもある。米国では昨年12月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

スウェーデンの希少疾患用薬開発販売会社であるPurpose Pharma International ABのAttrogy(diflunisal)はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー用薬。TTR四量体を安定化させ、モノマー化してアミロイドーシスを誘発するのを妨げる。活性成分はサリチル酸で、エビデンスや用法は不明だが、John L. Berkら(JAMA 2013)が2006~12年にスウェーデン、イタリア、日本、英国、米国で実施した130人規模の臨床試験では、250mgを一日二回、2年間投与したところNIS+7(Neuropathy Impairment Score plus 7)の悪化が8.7点と、偽薬群の25点を有意に下回った。

リンク: EMAのプレスリリース

イタリアのItalfarmacoのDuvyzat(givinostat)は6歳以上の歩行可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として条件付き承認することが支持された。クラスI、IIヒストン脱アセチル化酵素阻害剤。第3相EPIDYS試験でステロイド治療中の患者179人を組入れて経口懸濁液を一日二回、18ヶ月間投与したところ、主評価項目であるベースライン時点の筋脂肪分が所定範囲内であった120人における4段昇段時間の悪化が偽薬比1.78秒少なかった(p=0.0345)。米国の審査文書によると副次的評価項目の6分歩行テストはp=0.37、North Star Ambulatory Assessmentはp=0.0209だが多重性補正後は有意でなくなった。試験薬群は2.5%が有害事象で治験を離脱した。米国では昨年3月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

PTCセラピューティクスのSephience(sepiapterin)はフェニルケトン尿症の成人小児における抗フェニルアラニン血症の治療薬。患者で欠乏する細胞内テトラヒドロビオプテリン(BH4)の前駆体。米国でも申請中で審査期限は7月29日。ブラジルや日本でも24年に承認申請する計画だったが、どうなっただろうか。

リンク: EMAのプレスリリース

アムジェンのTepezza (teprotumumab)は抗IGF-1R完全ヒト化抗体。成人の中重度甲状腺眼症に用いる。有害事象は血糖値の上昇など。聴力障害が発生することがある。米国で20年に、日本でも昨年9月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

Jazz Pharmaceuticals (Nasdaq:JAZZ)のZiihera(zanidatamab)はher2の二つのエピトープに結合する二重特異性抗体。成人の一次以上の全身性治療歴のある切除不能局所進行性/転移性her2陽性(IHC3+)胆道癌用薬として条件付き承認することが支持された。臨床試験(n=62)でcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)が52%、メジアン反応持続期間は14.9ヶ月だった。

リンク: EMAのプレスリリース

尚、CHMPはイーライリリーが早期アルツハイマー病用薬として承認申請したKisunla(donanemab)について3月に否定的意見を纏めたが、メーカー側の要請に応じて再審査することを決めた。エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)は再審査を経て24年11月にApoE4ホモ接合型を適応外とすることで肯定的意見を獲得したが、Kisunlaはこのオプションを既に使ってしまったため、見通しが困難だ。

以下の適応拡大も支持された。

  • 武田薬品のAdcetris(brentuximab vedotin):成人の未治療CD30陽性ホジキン型リンパ腫(高リスクステージIIB、III、IV)におけるBrECADDレジメン(6剤併用)。
  • Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)のAmvuttra(vutrisiran):成人の野生型/遺伝性ATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)。米国は3月に承認、日本でも一変申請中。
  • アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib):成人の未治療慢性リンパ性白血病におけるvenetoclax(obinutuzumab追加可)併用。
  • アルジェニクス(Euronext:ARGX)のVyvgart(efgartigimod alfa):コルチコステロイド又は免疫グロブリンによる治療歴のある成人の進行性または再発性活性期CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)。EUでは点滴静注用製剤と皮下注用の製品名や一般名表記が同じなので分かり難いが、米国でVyvgart Hytrulo、日本でヒフデュラ配合皮下注と呼ばれる製品のみの適応追加。
  • ロシュのXofluza(baloxavir marboxil):内容は後日公表とのこと。

  • 一方、申請撤回となったのが、まず、Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)のDazluma(troriluzole)。脊髄小脳失調症用薬として承認申請したが、CHMPは、臨床試験でf-SARA機能評価尺度の悪化が偽薬群と大差なく、自然歴比較試験は第3の因子の可能性を否定できないことからエビデンス不足と考えていた。また、会社側は新規活性成分(GE薬承認が認められない期間が長い)として申請したが、筋萎縮性側索硬化症用薬として承認されている本剤の活性代謝物、riluzoleとの薬効や安全性面の違いが十分検討されていないと判定した。EMAのプレスリリースによると、会社側は3月に申請を撤回、この二剤の比較試験を行った上で再申請する考えのようだ。米国では2月に承認申請したところ。

    また、ファイザーはNgenla (somatrogon)を成人の成長ホルモン欠乏症に適応拡大申請したが、臨床試験はフェールした模様で、4月に申請撤回となった。

    【承認】


    中華抗PD-1抗体がまた承認
    (2025年4月23日発表)

    FDAは、中国のAkeso(康方生物、HKEX:9926)の米国子会社が申請したpenpulimab-kcqxを成人の難治/転移性非角化上咽頭癌に承認した。一次治療に白金薬及びgemicitabineと併用で、または、白金薬ベース化学療法を含む二次治療歴を持つ患者に単剤を、投与する。

    Sino Biopharmaceutical(1177.HK)と共同開発したIgG1型抗PD-1抗体。結合するエピトープが独自で、Fc部位の装飾により結合後の解離を抑制、作用の持続性を図った。中国で21年8月に安尼可という製品名で難治・再発古典的ホジキン型リンパ腫の三次治療に承認され、その後、上記疾患と扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療に適応拡大、VEGFR2阻害剤anlotinibと併用で肝細胞癌一次治療に申請中。

    一次治療のエビデンスは中国、米国、カナダ、南米、豪州で実施された304試験。PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価、n=291)が9.6ヶ月と、化学療法・偽薬併用群の7.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.45だった。全生存の解析は未成熟だが好ましくないトレンドは見られていない。後者のエビデンスは単一国(ClinicalTrials.govで検索してもヒットしないが常識的に考えれば中国)で実施された202試験。ORR(客観的反応率、独立放射線学的評価委員会方式)は28%、反応持続期間はメジアン未達で95%下限は9.2ヶ月だった。用量は200mg、化学療法併用は3週毎、単剤は2週毎に、最大24ヶ月投与した。

    三次治療で申請されたのは21年5月なので、やはり、中国試験だけでは承認されなかったのだろう。一次治療が中国で承認されたのは今年3月なので米国とそれほど変わらない。

    米国ではCoherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)がJunshi Biosciences(上海君実生物医薬、HKSE:1877) からライセンスしたIgG4型抗PD-1抗体Loqtorzi(toripalimab-tpzi)も上咽頭癌の一次治療に承認されている。こちらは非角化細胞型に限定されてはいない。

    リンク: FDAのプレスリリース



    PDUFA
    25/4推JNJのnipocalimab(全身性筋無力症)
    25/4推ノバルティスのatrasentan(IgA腎症)
    25/4/26TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤)
    25/4/29Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
    25/4/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好酸球性COPDに適応拡大)
    25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)



    今週は以上です。

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