2025年5月25日

第1208回

【ニュース・ヘッドライン】

  • トランプ政権、製薬会社に最恵国薬価を要求 
  • FDA、COVID-19ワクチンで方針変更 
  • FDA諮問委員会、COVID-19ワクチン株選定に意見分かれる 
  • ASCO:大鵬ら、ex20ins変異キラーのデータ発表 
  • ApoC-IIIアンチセンス薬の中度高TG血症試験が成功 
  • 二剤併用による睡眠時無呼吸試験が成功 
  • BI、肺線維症新薬の成績発表 
  • 喘息症増悪治療用合剤の追加第3相が成功 
  • モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの申請を撤回 
  • CHMP、新規CAR-Tなどの承認を支持 
  • Susvimoが糖尿病性網膜症に適応拡大 
  • ヌーカラが好酸球性COPDに適応拡大
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


トランプ政権、製薬会社に最恵国薬価を要求
(2025年5月20日発表)

トランプ米国大統領は米国の医薬品が著しく高い状態を是正するために製薬会社に薬価を引き下げを求める大統領令に署名した。30日以内に目標水準を公表する。製薬会社が応じない場合は立法化に動く。貿易赤字是正のための巨大関税と同様な、最初に口先だけでぶち上げて譲歩を迫る戦略だろう。

対象はあらゆる医薬品。目標となる最恵国薬価は、OECD加盟国のうち一人当たりGDPが米国の6割以上の国(スペインやエストニア辺りまでか)の中で最低の価格。

内外格差の解消は米国外の薬価を上げるという方法もあるが、実現するにしても時間がかかるので、この抜け道は塞がれたと考えてもいいだろう。外国政府と異なり米国の製薬会社や子会社は司法に救済を求めることが可能なので、メディケアで課せられた特定品目の薬価引き下げと同様に、裁判で争うことになりそうだ。

このほかに、カナダで米国より低い価格で販売されている薬の輸入販売を州政府が容認するプログラムにFDAが協力することなどを改めて発表した。

リンク: HHS(米保険福祉省)のプレスリリース
リンク: 大統領令(5月12日付)


FDA、COVID-19ワクチンで方針変更
(2025年5月20日発表)

FDAでワクチンなど生物学的製剤を担当するCBERのヘッドに就任したV. Prasadディレクターが、MakaryFDA長官と連名で、COVID-19ワクチンの承認基準を見直す考えをNew England Journal of Medicine誌で明らかにした。まず、適応は65歳以上、または、64歳未満でも感染すると重症化リスクのある人とする。メーカーは市販後に50~64歳の重症化リスクを持たない人たちを組入れて偽薬対照試験を行う。6ヶ月児から49歳までの重症化リスクを持たない人たちを組入れてもよい。

前日にはNovavax(Nasdaq:NVAX)のNuvaxovidがFDAに本承認された。21~22年にEU、日本、米国などで条件付き/特例/非常時使用承認された、全長融合前スパイク蛋白を抗原とするアジュバント・ワクチンで、審査期限は7週前だった。上記の通り、適応は65歳以上と12~64歳で重症化リスク因子を持つ人に限定され、リスク因子を持たない50~64歳を対象とする偽薬対照試験の実施を求められた。

適応外になってしまう人たちの接種は今日ではそれほど多くないだろうから、需要面では大きな影響はないと推測される。Prasadらが指摘しているように、欧州などでは既に接種勧奨が高齢者または高リスクに限定されており、公衆衛生政策の大きな後退とは言えないだろう。

流行株が大きく変遷する度に変異株対応ワクチンが開発・承認されてきたが、重症化リスク抑制効果や安全性を検討する大規模な臨床試験ではなく、免疫原性試験やあまり大規模ではない安全性確認試験しか行わないのが一般的になった。FDAが改めて偽薬対照試験を求めるのではないか、という懸念が浮上していたが、少なくとも現時点では、需要を削ぎ取るような方針転換は考えていない様子だ。

トランプ政権はCDC(米疾病管理予防センター)の管轄縮小を考えているようだが、今回の方針転換はCDCの機能を吸収したような側面もある。本来、FDAの相手方は製薬会社で、特定の条件下での販売を許可する。CDCの相手方は米国民で、特定の条件を持つ国民に接種を勧奨する。適応/勧奨対象は同様であることもあれば、CDCのほうが少ないことも珍しくない。上記寄稿には、諸外国の事例として、米国で言えばFDAが決定する適応範囲ではなく、CDCの勧奨を掲載しており、FDA高官の問題意識がCDCの機能にまで及んでいることを示唆している。

リンク: Prasadらの論文(NEJM, Sounding Board)
リンク: Novavaxのプレスリリース(5/19付)


FDA諮問委員会、COVID-19ワクチン株選定に意見分かれる
(2025年5月22日発表)

FDAはVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製品諮問委員会)を招集し、25/26シーズンCOVID-19ワクチンを一価JN.1系統ワクチンとする当否について意見を聞いた。9人全員が賛成したが、どのJN.1系統株とすべきかは意見が分かれた。

米国ではLP.8.1株が席巻していて欧州でも流行株におけるシェアがトップに躍り出た。LP.8.1はJN.1の子株であるKP.1の派生で、WHOが2月にVUM(監視中の変異株)に指定した。東大医科学研究所の研究によると、感染やワクチンで取得した中和抗体に対してJN.1株より高い逃避能を有している。先般、EMA(欧州薬品庁)は25/26シーズン・ワクチンにLP.8.1ベースの抗原/mRNAを配合するよう呼びかけた。

一方、WHOは24/25シーズンと同じJN.1またはKP.2株対応のワクチンで良しとした。代替的にLP.8.1対応ワクチンでも良い。EMAも、LP.8.1対応ワクチンが実用化されるまではJN.1/KP.2ワクチンの使用を容認している。

誰も一点勝負しないのは、第一に、24/25シーズンのワクチンはLP.8.1にもある程度有効だからだ。モデルナが実施したマウスの免疫原性試験ではLP.8.1ワクチンより若干下回った。一方、Novavaxが実施したヒト免疫原性試験ではLP.8.1株に対する中和抗体価がJN.1やKP.2に対する数値の半分以下だった。

面白いことに、上記とは裏腹に、ファイザーやモデルナはLP.8.1対応品の開発に、Novavaxは(抗原ワクチンで製造に時間がかかるせいか)従来のJN.1/KP.2対応品に、傾いていると報じられている。メーカーにとっても判断が難しいようだ。

第二に、過去と同様に新株が登場しLP.8.1を凌駕するかもしれない。この数週間、米国ではLP.8.1.1とLF.7(JN.1.16から派生)の組換え体であるXFC株のシェアが急上昇していて、LP.8.1とは大差だが2位に浮上した。Novavaxが実施したマウス免疫原性試験ではLP.8.1対応ワクチンはKP.2に対する中和抗体価がJN.1ワクチンより大きく劣っていた。スペクトラムが狭い可能性があるのかもしれない。

昨シーズンにおいても、EUが当初はJN.1ワクチンを選定したが後にKP.2ワクチンも容認するなど、二股が見られた。今年も、秋に向けて、揺り動くかもしれない。そもそも、一部の諮問委員が主張するように、COVID-19の季節性は明確ではないので、もっと早く選定・生産開始したほうが良いのかもしれない。

注目されるのは、ファイザーやモデルナの対応だ。折しも25/26年シーズンの配合株が検討される時期だが、もしFDAがEMAと同様にLP.8.1株を選定した場合、承認申請が必要になるため適応が従来より縮小されたり市販後試験の実施を求められたりするだろう。現行のKP.2株ベースのワクチンでも取り敢えずは支障がないのだから、LP.8.1株対応ワクチンの開発を後回しにする可能性がないとは言えないだろう。

リンク: モデルナのプレゼン資料(25/5/22VRBPAC)
リンク: Novavaxのプレゼン資料(同)

【新薬開発】


ASCO:大鵬ら、ex20ins変異キラーのデータ発表
(2025年5月22日発表)

Cullinan Therapeutics(Nasdaq:CGEM)と大鵬薬品は、今年1月、CLN-081/TAS6417(zipalertinib)が第1/2相試験の後期第2相ポーションで良好な成績を上げ25年下期に加速承認申請する考えであることを明らかにしたが、ASCO(米国臨床腫瘍学会)でデータを発表する。

EGFRのex20挿入変異を標的とするチロシン・キナーゼ阻害剤。野生EGFRは阻害しない。今回のREZILIENT1試験後期第2相ポーションは、当該変異を持ち治療歴のある非小細胞性肺癌を組入れて、100mgを一日二回経口投与した。メジアンで2前治療歴を持つ176人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)は35%、メジアン反応持続期間は8.8ヶ月だった。このうち、白金薬歴のみの125人では各40%、8.8ヶ月、脳転移歴のある68人では31%、8.3ヶ月だった。治療関連有害事象は爪囲炎やラッシュなど。

両社は米国で共同開発、米中以外は大鵬が販売する。中国はZai Labがライセンスした。

リンク: 両社のプレスリリース


ApoC-IIIアンチセンス薬の中度高TG血症試験が成功
(2025年5月19日発表)

アンチセンス薬の雄、Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、olezarsenが第3相中等度高TG(トリグリセライド)血症試験、Essence/TIMI 73b試験で主目的を達成したと発表した。次四半期に第3相重度TG症試験二本の結果が出るのを待って適応拡大申請する考えだが、Essence試験のデータも支持的エビデンスとして提出する予定。

トリグリセライドの代謝を制御するapoC-IIIの発現を妨げるGalNAc結合アンチセンス・オリゴヌクレオチド。24年12月に米国でFCS(家族性カイロミクロン血症候群)用薬Tryngolzaとして承認された。今回の試験は欧米の施設でTG値が150mg/dL以上500mg/dL未満且つアテローム性心血管疾患を合併または高リスクの成人患者を偽薬、50mg、70mg群に各369人、276人、832人、無作為化割付けして月一回皮下注し、6ヶ月後のTG値の変化を比較した。メインの80mg群は偽薬修正後で61%低下、50mg群も同58%低下し、有意な低下作用が確認された。

第3相FCS試験でも50mgと80mgをテストしたが50mg群はフェールした。一方、高TG血症では、約150人を組入れたBridge-TIMI 73a試験でも、用量間の大きな違いは見られなかった。重度高TG血症試験では一つの用量しかテストしていないようなので、至適用量が分かり難い。

リンク: 同社のプレスリリース


二剤併用による睡眠時無呼吸試験が成功
(2025年5月19日発表)

米国マサチューセッツ州の未上場医薬品開発会社、Apnimedは、AD109(aroxybutynin、atomoxetine)の第3相SynAIRgy試験で主目的を達成したと発表した。成人のOSA(閉塞性睡眠時無呼吸)患者640人を組入れて、一日一回、26週間経口投与したところ、AHI(無呼吸低呼吸指数)が55.6%低下、偽薬群と有意な差があった。症状なども改善した。第3四半期にはPAP(持続陽圧呼吸)療法に不耐/拒否のOSA患者640人を組入れた第3相LunAIRo試験の結果も出る見込みで、26年初めの承認申請を予想している。

新開発のムスカリン受容体拮抗剤aroxybutynin(2.5mg)とADHD治療薬として承認されているノルエピネフィリン再取込阻害剤atomoxetine(75mg)を含有する固定用量合剤。未治療またはCPAP不耐のOSA患者211人を組入れた後期第2相用量変動試験、MARIPOSAでもこの用量群はAHIが47%低下し偽薬群の19%低下と有意差があった。但し、aroxybutyninの用量を5mgに増やした群は43%低下に留まり、atomoxetineだけの群も39%低下したので、aroxybutyninを追加する意義やその用量反応相関はあまり感じられなかった。

aroxybutynin 2.5mg併用群は不眠症や排尿困難の有害事象発生率が偽薬群より増加したものの、atomoxetine単剤投与群比では10ポイント以上低く、もしかしたらatomoxetineの副作用を緩和する作用があるのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


BI、肺線維症新薬の成績発表
(2025年月日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、優先的PDE4B阻害剤BI 1015550(nerandomilast)の第3相肺線維症試験二本の結果をATC(米国胸部学会)やNew England Journal of Medicine誌で発表するとともに、米欧中で承認申請済みであることを明らかにした。

二本のうち、FIBRONEER-IPF試験は特発性肺線維症の患者1177人を偽薬、9mg、または18mgを一日2回経口投与する群に無作為化割付けして52週後のFVC(努力性肺活量)の変化を比較したところ、各群183.5mL、138.6mL、114.7mL低下となり、両用量群とも偽薬比有意に悪化を抑制した。有害事象では下痢が各群16%、31%、41%で発生した。深刻有害事象は各群大差なかった。

被験者の45%は同社のOfev(nintedanib)を、32%はロシュ/ジェネンテックのEsbriet(pirfenidone)を同時使用していたが、後者のサブグループは9mg群のFVCが偽薬と大差なく、一方、下痢はそれほど増えていない。薬物相互作用があるのかもしれない。

もう一本のFIBRONEER-ILD試験はPPF(進行性肺線維症)患者1176人を偽薬、9mg、または18mg群に無作為化割付けして52週後のFVCを比較した。各群165.8mL、84.6mL、98.6mL低下し、偽薬比有意な悪化抑制作用が見られた。有害事象は下痢が被験者の25%、30%、37%で発生した。深刻有害事象は各群同程度だった。本試験では43%がnintedanibを同時使用していた。

承認されている2剤の第3相成績では100mL以上の治療効果が見られたが、今回は既にこれらの薬で治療を受けている患者が多かったためか、限界効用逓減の法則が当て嵌まっている。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: RicheldiらのFIBRONEER-IPF試験論文抄録(NEJM)
リンク: MaherらのFIBRONEER-ILD試験論文(NEJM)


喘息症増悪治療用合剤の追加第3相が成功
(2025年5月19日発表)

アストラゼネカはAirsupra(albuterol、budesonide)の後期第3相試験、BATURAの結果をATS/NEJM誌で発表した。低量吸入用ステロイドまたはロイコトリエン受容体拮抗剤による維持療法を受けていて増悪時はalbuterolなどの短期作用性ベータ2作用剤によるas-needed治療を受けてきた12歳以上の患者を組入れて、増悪時にこのベータ2作用剤と吸入ステロイドの合剤を併用する便益をalbuterolだけの群と比較したもので、昨年10月に中間解析で成功認定されている。主評価項目の重度増悪(全身性ステロイドによる治療、緊急治療室入室、入院、または死亡をカウント、time to event分析)のハザードレシオは0.53、各群の発生率は5.1%と9.1%となり、有意な差があった。重度増悪の発生率年率は各群0.15と0.32、率比は0.47だった。

Airsupraは23年に米国で18歳以上の喘息症の気管支収縮の治療と予防、そして増悪リスク抑制という適応・効能で承認された。エビデンスとなる臨床試験は4~17歳も組入れたが、症例数が少ないためか、成人限定だった。今回の試験も未成年は12~17歳が70人程度組入れられただけだった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がDarzalexの適応拡大を支持、他3剤は不支持/区々
(2025年5月20~21日開催)

FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、4社の4品目に関して意見を聞いた。結果は以下の通り。

  • ジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)をくすぶり型多発骨髄腫に適応拡大:賛成6人、反対2人。
  • ロシュ/ジェネンテックのColumvi(glofitamab-gxbm)をある種のリンパ腫の二次治療に適応拡大:賛成1人、反対8人。
  • UroGen社のUGN-102(mitomycin)膀胱内注入薬をある種の膀胱癌に承認:賛成4人、反対5人。
  • ファイザーのTalzenna(talazoparib)をHRR変異の無い転移去勢抵抗性前立腺癌に適応拡大:賛成ゼロ、反対8人。

  • Darzalex Fasproは皮下注用抗CD38抗体。くすぶり型多発骨髄腫はM蛋白や単クローン形質細胞が増加しているが症状はない。日本も参加した第3相AQUILA試験で高リスク患者の5年PFS(無進行生存)率が63.1%と積極的監視療法群の40.8%を上回り、5年生存率も93.0%対86.9%、ハザードレシオ0.52とこちらは有意水準には届かなかったものの良い成績を上げた。FDAは、上記試験で採用された分類方法が古く、今日の定義では過半が多発骨髄腫と分類され今日の基準に該当する患者だけの解析では十分な効果が見られなかったことや、進行例は殆どが赤血球の減少など検査値の悪化で臨床的な便益が曖昧であることに懸念を示しており、全生存解析の成熟を待つことも考えていたようだ。

    上記試験では試験薬群のG3/4治療時発現有害事象の発生率が40%と対照群の30%を上回り、死に至った症例も2%対1%で上回った。危険に見合う便益が求められる所以である。諮問委員の多数が支持したことにより承認の可能性が高まったが、過剰治療を警戒する意見もあったので、適応範囲の決定が難問として残りそうだ。

    この適応拡大は日欧でも申請中。

    リンク: JNJのプレスリリース(5/20付)

    Columviは抗CD20/CD3二重特異性抗体。一次治療歴を持つ自家幹細胞移植(ASCT)不適な難治/再発びらん性大細胞型B型リンパ腫にgemcitabineおよびoxaliplatinと併用する適応用法追加が申請された。エビデンスとなる第3相STARGLO試験(日本は不参加)でColumviに代えて抗CD20抗体rituximabを併用する群と全生存期間を比較したところ、ハザードレシオが0.62と良い数値が出た。

    問題は、5割を占めたアジアの施設では0.39となった一方で、他の地域では1.06、北米の施設だけだと2.62と大きな違いが見られたこと。カプラン・マイヤー・カーブを見るとアジア地域では早い段階で二群の曲線が分かれるが、他の地域では長期間、大差ない状態が続いた。再発後の治療が地域により異なる可能性があるが、PFSやORR(客観的反応率)で見ても同様な差異が見られる。アジアはASCT不適の理由が患者拒否である症例が欧米より多く、そのせいか平均年齢が若く進行リスクがそれほど高くない患者が多いなど、患者背景に大きな違いあるので、その影響かもしれない。

    実薬対照試験なのでサブグループで有意に上回らなくても同程度なら大目に見る余地があり、北米の組入れは少ないためノイズの可能性も十分ある。しかし、2.62となると大目には見れないということなのだろう。薬品業界はで臨床試験の費用負担を緩和する目的でアジアや東欧の施設での組入れを増やす傾向が見られるが、米国患者をもっと組入れよという警鐘の意味もあるのかもしれない。

    審査期限は7月20日。この適応拡大はEUでは4月に承認された。

    リンク: ロシュのプレスリリース(5/20付)

    UroGen Pharma(Nasdaq:URGN)のUGN-102(mitomycin)はアルキル化剤のハイドロゲル製剤。カテーテルで膀胱内に点滴注入するとゲル化し数時間に亘り薬剤を放出する。再発性LG-IR-NMIBC(低グレード中等度リスク筋層非浸潤膀胱癌)を組入れた第3相ENVISION単群試験で約240人に75mg(56mL)を週一回、6回投与したところ、第3月時点の完全反応率が78%となり、このうち第15月時点で79%が完全反応を維持していた。FDAは、完全反応率のデータは評価したが、対象患者の予後は区々なので反応持続期間が薬の効果なのか、それとも元々進行し難いものなのか、分からないので対照試験で確認すべきと考えているようだ。

    TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後にUGN-102でアジュバント療法を施行したATLAS対照試験でDFS(無病生存期間)がアジュバントを施行しなかった群を有意に上回ったが、財務上の理由で途中で打ち切ったために検出力不足となっていることや、TURBT後に化学療法膀胱内注入によるアジュバント療法を施行する標準療法と比較していないことから、意義があいまいと見做している(同社もTURBT後アジュバント療法では承認申請していない)。

    リンク: Urogen社のプレスリリース(5/21付)

    ファイザーのTalzenna(talazoparib)はPARP1/2阻害剤。第3相TALAPRO-2試験でmPRPC(転移去勢抵抗性前立腺癌)に同社のXtandi(enzalutamide)と併用したところ、全被験者、及び、HRRm(相同組換え修復不全)サブグループにおけるrPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)がXtandi・偽薬併用群を有意に上回り、EUでは24年に化学療法不適患者向けに承認されたが、米国は前年にHRRm向けにしか承認しなかった。同社は延命効果を確認した上でHRRm限定を解除するよう申請したが、諮問委員会は支持しなかった。

    FDAは、上記試験で全被験者やHRRmにおける全生存期間のハザードレシオが夫々0.8と0.55であったのに対して、HRRmではない、または不明の患者だけのサブグループは0.88とあまり良好でないこと、進行後の治療に偏りが見られること、類薬はolaparibもniraparibも非HRRmには便益が見られなかったこと、そもそもHRRmではない患者のほうが多いのに十分な検出力を持たせなかったのは適切でなかったことなどから、限定解除に慎重な姿勢を示していた。

    同社は5月に日本で遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌に一変申請を行ったが、HRR変異の有無は不問としている。

    リンク: MedPageTodayの記事


    モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの申請を撤回
    (2025年5月21日発表)

    モデルナはmRNA-1083を米国で承認申請していたが、一旦、撤回した。SARS-CoV-2の受容体結合ドメインとN端末ドメインをエンコードしたmRNA-1010と新開発のmRNA型インフルエンザ・ワクチンmRNA-1283を配合する混合ワクチンで、前者は単独でも承認申請され、審査期限は今月31日。後者は第3相後に改めて改良製剤の第3相IGNITE P301試験を実施、A/H3N2など4株に対する免疫原性や有害事象発生率がFluzon HD(サノフィの高用量ワクチン)を上回ったが、インフルエンザ感染症を予防する効果は確立していなかった。

    同社は50歳以上を組入れたP304試験の中間解析で予防効果を確認した上で年内に再承認申請する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    CHMP、新規CAR-Tなどの承認を支持
    (2025年5月23日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    英国のAutolus Therapeutics(Nasdaq:AUTL)が申請したAucatzyl(obecabtagene autoleucel)は難治/再発前駆B細胞性急性リンパ性白血病に用いるCD19型CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法。113人中49%が完全反応となった第2相試験に基づき条件付き承認が支持された。米国では24年11月に成人患者向けに承認されたが、CHMPは26歳以上に絞り込んだ。

    リンク: EMAのプレスリリース

    GSKのBlenrep(belantamab mafodotin)は2種類の併用レジメンで前治療歴のある難治/再発多発骨髄腫に用いることが支持された。日本では今月承認、米国の審査期限は7月23日。抗BCMA抗体と細胞毒をリンカーで結合したもので、20年に米欧で加速/条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため、承認取消となっていた。

    リンク: EMAのプレスリリース

    SpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)のEzmekly(mirdametinib)は2歳以上の神経線維腫症1型(NF1)における症候性かつ切除不能な叢状神経線維腫の治療に用いる。NF1はMEKなどが関わるMAPK経路のサプレッサーとなるべき蛋白の遺伝子変異を伴う常染色体性優性遺伝性疾患。本薬はアロステリックMEK1/2阻害剤。米国では2月に承認された。同社はファイザーのスピンアウトで、4月にドイツのメルクが企業価値ベース34億ドルで買収合意した。

    リンク: EMAのプレスリリース

    ロシュのItovebi(inavolisib)は変異型PI3Kアルファ阻害剤。成人の、PIK3CA変異、ER陽性、her2陰性の、局所進行/転移乳癌で、アジュバント内分泌療法実施中または完了後12ヶ月以内に再発した患者に、palbociclib及びfulvestrantと3剤併用する。米国では昨年10月に承認された。第3相で全生存期間がメジアン34ヶ月と偽薬・palbociclib・fulvestrant併用群の27ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.67となったことが今月、発表された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    レコルダティ・レア・ディジーズのMaaplivは、分枝鎖アミノ酸を含まない各種アミノ酸の点滴用液。経口/経腸投与用製剤に不適なMSUD(メープルシロップ尿症)患者の急性非代償性増悪時に点滴投与する用途用法で、例外的環境下承認するもの。この疾患はロイシンなどの分岐鎖アミノ酸の代謝不全により様々な症状をきたす先天性代謝異常症。尿の匂いに基づいて命名された。エビデンスは5本の文献。

    リンク: EMAのプレスリリース
    リンク: メープルシロップ尿症(難病情報センターの解説)

    スペインのNeuraxpharm PharmaceuticalsのRiulvy(tegomil fumarate)はエビデンスの一部を既存薬のそれに依存するハイブリッド承認が支持された。13歳以上の再発寛解多発性硬化症に用いる。バイオジェンの多発性硬化症用薬Tecfidera(dimethyl fumarate)と同様に、monomethyl fumarateのプロドラッグ。

    リンク: EMAのプレスリリース

    一方、否定的意見となったのは、まず、ドイツの4SC(FSE:VSC)のヒストン・ジアセターゼ阻害剤Kinselby(resminostat)。全身性治療や電子線療法により安定化した進行皮膚T細胞リンパ腫の維持療法として承認申請されたが、薬効が十分に示されていないと判定された。同社は開発を中止する考え。

    リンク: 4SCのプレスリリース

    次に、FGK Representative Service GmbHが近視治療薬として申請したS01X(atropine sulfate)。初めて聞く会社で誰の依頼かも知らないが、CHMPによると臨床試験はフェールした。

    リンク: EMAのプレスリリース

    申請撤回となったのはノバルティス・グループのAdvanced Accelerator Applicationsが申請した、Lutathera(lutetium Lu 177 dotatate)の一次治療適応。17~21年に欧米日でソマトスタチン受容体陽性胃腸膵神経内分泌腫瘍用薬として承認された放射性医薬品で、オン・レーベルだがエビデンスは確立していない新患患者を対象とした第3相NETTER-2試験でPFS(無進行生存期間)がoctreotideを有意に上回った。しかし、CHMPは、延命効果がまだ確立していないため否定的な方向で考えていた。

    リンク: EMAのプレスリリース

    適応拡大で肯定的意見を得たのは以下の通り。

  • アストラゼネカのImfinzi(durvalumab):成人の筋層浸潤膀胱癌の術前・術後付随療法。米国は3月に承認、日本も申請中。
  • BeiGeneのTizveni(tislelizumab):成人のher2陰性PD-L1陽性、局所進行切除不能/転移性の胃/胃食道接合部腺腫一次治療。PD-L1陽性の定義はTAP(腫瘍域陽性)スコアで5%以上となっており、昨年12月に承認された米国におけるCPS1以上よりやや限定的。

  • 申請者側の請求により再審査が決定したのは、まず、4月に否定的意見となったCassiopea社のWinlevi(clascoterone)。 12歳以上の尋常性座瘡を治療するアンドロゲン受容体拮抗剤のクリーム製剤で、CHMPは未成年に悪影響する懸念が払拭されていないと判定していた。

    もう一件はPharmaMar(MSE:PHM)のAplidin(plitidepsin)。2016年に難治/再発多発骨髄腫用薬として承認申請されたが、メジアンPFSがdexamethasone比で1ヶ月延びるだけで延命効果は不透明であることから、2018年3月にCHMPが否定的意見をまとめた。欧州裁判所における行政訴訟や上訴審を経て、24年に欧州委員会が審査に関与した専門家の利益相反を認め、EMAに再審査を求めた。PharmaMarの再審請求手続きが完了し、今回、再審査が決定した。

    【承認】


    Susvimoが糖尿病性網膜症に適応拡大
    (2025年5月22日発表)

    ロシュはFDAがSusvimo(ranibizumab)を糖尿病性網膜症に適応拡大したと発表した。2種類以上の抗VEGF薬に応答した患者に用いる。抗VEGF抗体フラグメントLucentisのインプラント版で、数週毎にリフィルする。今回の用途では9ヶ月毎のリフィルで足りる。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ヌーカラが好酸球性COPDに適応拡大
    (2025年5月22日発表)

    GSKはFDAが抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)を成人の管理不良な好酸球性COPD(慢性閉塞性肺疾患)に適応拡大したと発表した。好酸球数の閾値が150個/mcLと低く、標準療法である三剤併用治療を受けても増悪する患者の多くに追加投与が可能になる。

    同社は17年に適応拡大申請したが、第3相試験に喘息症患者が紛れ込んだ可能性などから、諮問委員会でも19人中16人が反対し、審査完了通知を受領した。この時の申請は好中球数150mcg/L以上のサブグループ分析に依拠していたが、GSKは300個/mcL以上を対象に追加試験のMATINEEを実施、中重度増悪を偽薬比21%(率比)抑制することを確認した。COPD増悪によるER入室/入院も35%(同)少なかったが、先行解析がフェールしたため統計的に有意とは言えない。

    先例ではRegeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab)が18年に好酸球性喘息症に適応拡大したが、閾値は300個/mcLだった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
    25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
    25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
    25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推アッヴィのRinvoq(upadacitinib、巨細胞動脈炎追加)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
    25/7推バイオジェンのSpinraza(nusinersen、用量等追加)
    25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)



    今週は以上です。

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