2024年12月28日

第1187回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、米国でジーンプラバの販売を中止へ 
  • BMS、ソーティクツの乾癬性関節炎試験が成功 
  • Nuvation、ROS1阻害剤を承認申請 
  • Dato-DXdはEUでも肺癌のみ承認申請撤回 
  • sotagliflozinは糖尿病には承認されず 
  • オプジーボ皮下注が承認 
  • BeiGene、一番に向けて適応拡大 
  • 住友ファーマ、専ら女性の薬を男性にもアピールできるのでは 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


MSD、米国でジーンプラバの販売を中止へ
(2024年12月23日届出)

MSDはZinplava(bezlotoxumab)の販売を25年1月31日をもって打ち切るとFDAに届け出た。理由は不明。

Clostridium difficile感染症の抗生剤治療を受けた後に再燃抑制目的で投与する抗体医薬。米国で16年に、EUや日本でも17年に、承認された。抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)などの開発で知られるMedarexがマサチューセッツ医科大学と共同で研究開発し09年にMSDにライセンスしたもの。心不全歴のある患者では命に係わる心不全のリスクが上昇するので注意する必要がある。

リンク: FDAの掲示

【新薬開発】


BMS、ソーティクツの乾癬性関節炎試験が成功
(2024年12月23日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはSotyktu(deucravacitinib)の第3相乾癬性関節炎試験二本で主目的を達成したと発表した。成人の活性期乾癬性関節炎のうちPOETYK PsA-1試験はバイオ薬未経験者を、同2試験は更にTNF阻害剤歴を持つ患者も、組入れて16週間治療後のACR20を偽薬群と比較した。後者は安全性被殻目的でapremilast参考群も設定されている。データは未発表。適応拡大申請に向かうだろう。

22~23年に米日欧で中重度プラク乾癬治療薬として承認された経口TYK2アロステリック阻害剤。apremilastは同社が買収したセルジーンがアムジェンと共同開発したPDE4阻害剤だが、BMS買収時に提携契約に則り、アムジェンが完全取得した。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認申請】


Nuvation、ROS1阻害剤を承認申請
(2024年12月23日発表)

米国のNuvation Bio(NYSE:NUVB)はROS1阻害剤taletrectinibをROS1陽性進行非小細胞性肺癌に承認申請しFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年6月23日。

エビデンスはTRUST-I(中国で実施)とTRUST-II(日韓中米などで実施)の第2相試験二本。中国試験ではチロシン・キナーゼ阻害剤歴のない(ナイーブ)106人におけるcORR(確認客観的反応率、独立評価委員会方式)が91%、crizotinib歴のある(経験者)67人では52%だった。グローバル試験では、ナイーブ54人では85%、経験者47人では62%だった。いずれの試験でも、頭蓋内転移部位においてある程度の効果が見られた。主な有害事象は肝機能検査値異常、下痢、眩暈、味覚異常など。

同社は、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide)をアステラス製薬と共に開発し16年にファイザーに買収されたMedivationの共同創立者かつ買収時のCEOであるDavid Hungが設立。第一三共からtaletrectinibをライセンスしたAnHeart Therapeuticsを3月に買収した。中国では導出先のInnovent Biologicsが今月、まず経験者向けに、承認を取得した。日本は日本化薬が23年に権利取得した。

リンク: Nuvationのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Dato-DXdはEUでも肺癌のみ承認申請撤回
(2024年12月24日発表)

第一三共はDS-1062(datopotamab deruxtecan、通称Dato-DXd)を米欧日で承認申請しているが、米欧の予定適応症のうち非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)は、米国に続きEUでも取下げとなった。CHMP(医薬品科学的評価委員会)のフィードバックに基づくもの。乳癌は引き続き承認申請中。

TROP2に結合する抗体薬物複合体。日本では化学療法歴のあるホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌の適応で第二部会を通過したところだ。米欧では局所進行/転移NSNSCLCの再発治療にも申請されていたが、エビデンスとなるべきTROPION-Lung01試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)の解析に成功したものの、共同主評価項目である全生存期間が全体の解析も、非扁平上皮腫サブグループの探索的解析もフェールした。docetaxel対照試験なので数値が上回っていれば大目に見ても良いのではないかとも思われたが、精査の結果があまりよくなかったのかもしれない。

米国では代わりにEGFR阻害剤歴を持つEGFR変異陽性非小細胞性肺癌に承認申請したが、EUは承認審査中に別の申請を行うことを認めないと言う話を聞いたことがある。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)


sotagliflozinは糖尿病には承認されず
(2024年12月21日発表)

Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)はZynquista(sotagliflozin)を慢性腎疾患を合併した一型糖尿病の併用薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。11月にリストラ発表した時の見込み通り。活性成分は23年に心不全用薬として承認されているが、将来性を見限り、プロモーション活動を中止して希望する患者に販売するだけに留める。

SGLT阻害剤は不要な糖を尿と一緒に排出させるが、糖尿病性ケトアシドーシスを誘導するリスクがある、製薬会社はSGLT-1選択性を持たせることで対処したが、一型糖尿病に用いるとリスクが高まる。sotagliflozinはSGLT-2も阻害するので、競合他社の未開拓分野であるとはいえ、ハードルが高かった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


オプジーボ皮下注が承認
(2024年12月27日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ スクイブの点滴静注用抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab)の皮下注バージョンを承認した。製品名と一般名は、Opdivo Qvantig(nivolumab and hyaluronidase-nvhy)。静注用の適応のうち、Yervoy(ipilumab)併用による導入療法以外で用いることができる。nivolumabは600mg、遺伝子組換え型ヒアルロン酸分解酵素は10000単位を2週毎、または両方とも1.5倍の量を3週毎、乃至は2倍の量を4週毎に投与する。進行/転移淡細胞型腎細胞腫に4週毎3~5分皮下注した治験で28日平均血清濃度や最低血清濃度定常値が点滴静注用と非劣性だった。ORR(客観的反応率)も各24%と18%で非劣性。FDAのプレスリリースによると安全性プロファイルは同程度だった。

リンク: FDAのプレスリリース


BeiGeneの抗PD-1抗体が適応拡大
(2024年12月27日発表)

中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:06160)はFDAが抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab-jsgr)の適応拡大を承認したと発表した。3月に成人の全身性化学療法歴があり抗PD-(L)1抗体歴はない切除不能/転移食道扁平上皮腫に承認されたばかりだが、新たに成人のPD-L1陽性(1以上)の切除不能/転移her2陰性胃/胃食道接合部腺腫に用いることが可能になった。

エビデンスとなるRATIONAL 305試験ではPD-L1陰性の癌も組み入れたが、EU同様に、陽性限定の承認となった。Ventana PD-L1(SP263アッセイ)で腫瘍と腫瘍関連免疫細胞を検査して1以上と判定された885人の解析によると、化学療法と併用した群のメジアン生存期間が15.0ヶ月と化学療法だけの群の12.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78だった。CPS(複合傾向スコア)で1以上と判定された854人の事後的解析でも概ね同様だった。カプラン・マイヤー・カーブを見ると二本の曲線がある程度以上乖離するのは1年経った辺りからだ。

尚、同社は米国などにおける社名をBeOne Medicines、Nasdaqチェッカー・シンボルをNasdaq:ONCに変更する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


住友ファーマ、専ら女性の薬を男性にもアピールできるのでは
(2024年12月23日発表)

住友ファーマの米国法人は、Gemtesa(vibegron)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。選択的ベータ3アドレナリン受容体作動剤で20年に成人の過活動膀胱(OAB)治療薬として承認されているが、新たに、良性前立腺肥大の薬物治療を受けている男性のOABに用いることが認められた。用量用法は75mg一日一回経口投与で従来と同じ。排尿回数などの改善という効能も同じ。

GLP-1作用剤における肥満・閉塞性睡眠時無呼吸と似たような話で、新用途と言えるのか悩ましいが、この薬に関しては現実的な意義がある。OABは女性に多い病気でGemtesaの第3相では8割以上を占めた。良性前立腺肥大は男性の疾患なのでOAB薬は関係ない、と思われるかもしれないが、同社によると、米国の患者数推定1400万人のうち、最大で75%がOAB症状を経験しているという。OABは我慢しがちな病気なので患者が医師に訴求しなければ治療が始まらない。男性向けにTVCMなどを行うことで潜在需要を顕在化できるかもしれない。Gemtesaは薬物相互作用リスクが小さいのでアルファ1a受容体拮抗剤などの良性前立腺肥大治療薬と同時使用しやすい。

19年に子会社化したUrovant Sciencesが17年にMSDからライセンスした選択的ベータ3アドレナリン受容体作動剤。日本は杏林製薬が14年にMSDからライセンスし、18年にベオーバ名で承認取得した。欧州ではPierre FabreがUrovantからライセンス。

リンク: Sumitomo Pharma Americaのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリ症候群)
25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)
25/2/8大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25/2/14Bavarian NordicのCHIKV VLP(チクングニア熱ワクチン)
25/2/17小野薬品のvimseltinib(腱滑膜巨細胞腫)
25/2/28SpringWorks Therapeuticsのmirdametinib(神経線維腫症1型)
諮問委員会
25/1/10AADPAC:生化学工業のSI-6603(腰椎椎間板ヘルニアに伴う根性痛)
25/2/5DSRMAC/ADPAC:オピオイド過剰摂取に関する疫学研究成果について



今週は以上です。

2024年12月21日

第1186回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ノボの減量用合剤の第3相が成功したが... 
  • MSD、HIV合剤の第3相が成功 
  • Omeros、TA-TMA治療薬を再承認申請へ 
  • 抗IGF-1R抗体の二本目の甲状腺眼症試験が成功 
  • MSD、TIGHTとLAG-3の抗体の開発を中止 
  • GSKの抗PD-1抗体も卵巣癌一次治療試験で延命できず 
  • イムブルビカを欧州でMCL一次治療に適応拡大申請 
  • MSD、抗RSV抗体を承認申請 
  • Zealand社のGLP-2作用剤は承認されず 
  • 皮下注用amivantamabの承認はお預け 
  • オンデキサの本承認切替は成らず 
  • アレモが米国でも承認 
  • 対象患者数が多い嚢胞性線維症用薬が承認 
  • ビラフトビがBRAF-V600E変異大腸癌の一次治療に適応拡大 
  • FDAはGIP/GLP-1作用剤を閉塞性睡眠時無呼吸に承認 
  • 初の家族性カイロミクロン血症候群用薬が承認 
  • ALK阻害剤が承認 
  • テムセルが米国で粘り勝ち承認 
  • ブイタマーが米国でもアトピーに承認 
  • 抗IL-31RA抗体がアトピーに適応拡大 
  • デンマーク薬品庁、EMAにセマグルチドのNAIONリスク評価を要請 
  • FDA、アステラスのVMS用薬の肝毒性を枠付き警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


ノボの減量用合剤の第3相が成功したが...
(2024年12月20日発表)

ノボ ノルディスクはCagriSema(アミリン類縁体cagrilintideとGLP-1作用剤semaglutideの固定用量合剤)の最初の第3相肥満症試験の結果を発表した。偽薬比大きく低下したが、会社側が期待していた25%低下には届かなかったため、株価が2割以上下落した。

このREDEFINE 1試験は肥満症やリスク因子を持つオーバーウェートの患者3400人を合剤群(各2.4mg配合)、偽薬群、cagrilintide群、semaglutide群に無作為化割付けして週一回皮下注を68週間反復した。主目的は合剤群と偽薬群の体重減少率と5%削減奏効率。製薬会社にとって重要なtrial product estimandでは体重が各群22.7%、2.3%、11.8%、16.1%低下し、合剤群は偽薬比有意だった。共同主評価項目の25%減量奏効率は各群40.4%、0.9%、6.0%、16.2%で合剤は偽薬比有意。FDAや医療従業者、患者にとって有用なtreatment policy estimandベースの解析では、各群の体重減少率は20.4%、3.0%、11.5%、14.9%だった。25%減量奏効率は言及されていない。有害事象は胃腸系など。

treatment policy estimandは被験者が投与を止めたり、プロトコルで認められている場合は別の薬を追加したりスイッチしたりした後のデータも解析対象にする。試験薬のパワーが十分に反映されなかったり誇張されたりするリスクがあるが、どんなに効果が高くても忍容性が悪くて多くの患者が止めてしまう薬では困るし、現実の医療では、効果が不十分な時は他の薬の追加を検討実施するだろうから、期待値に即したデータを取得できるメリットがある。

効果が若干高く出ることが多いtrial product estimand/efficacy estimandベースでも減量が25%に届かなかった一因は、忍容性のようだ。用量滴定を認めるプロトコルが採用されていたこともあり、68週時点で最大用量を使用していた患者の比率は合剤群が57.3%、cagrilintide群が82.5%、semaglutide群は70.2%だった。

第3相はこのほかに、糖尿病も合併する患者を組入れた試験や、心血管疾患高リスク患者の心血管アウトカム試験、肥満症においてイーライリリーの競合薬Zepbound(tirzepatide)と減量作用を比較する試験などが進行中。semaglutide群をどれだけ上回ることができるか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


MSD、HIV合剤の第3相が成功
(2024年12月19日発表)

MSDは二種類の逆転写阻害剤の配合錠をテストした第3相HIV/AIDSスイッチ試験二本で主目的を達成したと発表した。初めて治療を受ける患者を組入れた第3相も進行中で、成功なら承認申請に向かおう。

このMK-8591Aは、ヌクレオシド系逆転写酵素転移阻害剤MK-8591(islatravir)と18~20年に米欧日で承認された非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤Pifeltro(doravirine)の活性成分を各0.25mgと100mg配合したもので、HIV/AIDS治療では一般的な3剤以上の併用より1剤少なくなっている。スイッチ試験は他のレジメンでウイルス増殖を抑制できている患者を組入れて一日一回経口投与し、管理失敗(RNA量が50コピー/mL以上に増加)するリスクを一本は従来治療継続群と、もう一本はギリアドのBiktarvy(bictegravir、emtricitabine、tenofovir)と、比較したところ、どちらも非劣性解析が成功した。Biktarvy対照試験は優越性解析も行われたがフェールした。安全性主評価項目(有害事象発生率と有害事象投与打切り率)も達成した。

islatravirは大類洋博士らがヤマサ醤油および、世界初の抗HIV/AIDS薬zidovudineを発見した満屋裕明国立国際医療研究センター研究所長と共同で研究開発したファースト・イン・クラスの開発品。別の非ヌクレオシド系逆転写阻害剤開発品と併用した試験でリンパ球やCD4陽性T細胞の減少が見られためMK-8591Aの臨床試験も一次、停止されたが、主犯は併用薬だった模様で、islatravirの用量(中止された試験では週一回20mg)を減らしてMK-8591Aの第3相を再開した経緯がある。

リンク: MSDのプレスリリース


Omeros、TA-TMA治療薬を再承認申請へ
(2024年12月19日発表)

米国ワシントン州シアトルの医薬品開発会社Omeros(Nasdaq:OMER)は、OMS721(narsoplimab)の自然歴対照試験が良好な結果となったことを発表した。TA-TMA(造血幹細胞移植関連血栓性微小血管症)における治療効果を検討した第3相単群試験の生存期間解析と、患者レジストリーから抽出した100例以上の類似患者データを比較したところ、ハザードレシオ0.32(95%信頼区間0.23-0.44)、p<0.00001だった。EAP(FDAの認可の元に承認前の開発品を患者に供給するプログラム)のデータでも同様な研究を行って、FDAに再承認申請する考え。

OMS721は補体系が活性化する経路の一つであるレクチン経路に介入する、抗MASP-2抗体。20年に承認申請したが、治療効果が確立していないとして審査完了通知を受領、再試験を促された。公式紛争調停手続きを経て、全生存期間の自然歴対照研究などを実施して追加提出することを決めた。

同種幹細胞移植は欧米で年3万件実施されるが、TA-TMAの発生率は4割と推定され、重症例は死亡リスクが高い。承認されている治療薬はないので新薬のニーズは高い。

リンク: 同社のプレスリリース


抗IGF-1R抗体の二本目の甲状腺眼症試験が成功
(2024年12月16日発表)

米国マサチューセッツ州の医薬品開発会社、Viridian Therapeutics(Nasdaq:VRDN)は、VRDN-001(veligrotug)の二本目の第3相試験、THRIVE-2で主目的を達成したと発表した。慢性甲状腺眼症の患者188人を10mg/kgを3週毎点滴静注する群と偽薬群に2対1割付けして15週治療し、眼球突出応答率(突出が2mm以上減少し反対側の目は2mmg以上増加しなかった患者の比率)を比較したところ、各群56%と8%となり大きな差があった。突出減少幅や複視解消率などの解析も成功した。

活性期甲状腺眼症113人を組入れたTHRIVE試験でも眼球突出応答率が70%対5%と大きな差を実現しており、25年下期に承認申請する考え。

米日で承認されている類薬であるHorizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)のTepezza(teprotumumab)は聴力低下が警告・事前注意事項となっている。臨床試験では聴力障害の発生率が10%と偽薬群の0%を上回った。VRDN-001はリスクが小さいことが期待されているが、今回の試験における発生率は12.8%(偽薬群3.2%)、THRIVE試験では16%(同10.5%)と、大きく変わるようには見えない。尤も、偽薬群の発生率がかなり違うので定義が異なる可能性があり、比較すべきではないのかもしれない。

Viridianは、結合部位が同じで半減期を延長した皮下注用のVRDN-003も第3相試験中で、26年上期に成否判明する予定。8週毎または4週毎と投与頻度も低く、オートインジェクターも用意されるので、Tepezzaとの戦いはこちらが担うことになりそうだ。

リンク: Viridian社のプレスリリース


MSD、TIGHTとLAG-3の抗体の開発を中止
(2024年12月16日発表)

MSDは抗TIGHT抗体MK-7684(vibostolimab)と抗LAG-3抗体MK-4280(favezelimab)の開発中止を発表した。どちらもKeytruda(pembrolizumab)との配合剤を用いて第3相試験中だが、前者は進展型小細胞性肺癌一次治療試験と黒色腫術後アジュバント試験に続き、非小細胞性肺癌の一次治療試験二本が中間解析で無益認定され、進行中の同時化学放射線療法併用試験も総合的な判断により中止を決定した。後者は9月に転移結腸癌試験がフェールし、古典的ホジキン型リンパ腫試験の組入れを総合的判断により中止決定した。既に組入れられた被験者は望めば継続投与を受けることができる。

PD-(L)1標的薬の爆発的な成功を受けて、シナジーが期待できるTIGHTやLAG-3標的薬の開発が多くの会社で進められたが、BMSの抗LAG-3抗体relatlimab-rmbwなどを除いて、成功より失敗が目立っている。MK-7684の場合は有害事象による投与中止が比較的多かった模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース


GSKの抗PD-1抗体も卵巣癌一次治療試験で延命できず
(2024年12月20日発表)

GSKは進行卵巣癌の一次治療に抗PD-1抗体Jemperli(dostarlimab-gxly)を追加する便益を検討した第3相試験で主目的のPFS(無進行生存期間)を達成したと発表した。偽薬追加群比で統計的に有意に上回ったが、同社がしばしば言及する、『臨床的に意味のある』という形容は記されていない。全生存期間の解析はフェールしており、100点満点とは言えなそうだ。数値は未発表。

この、GSKとフランスの研究者共同治験組織であるGINECOが実施したFIRST-ENGOT-OV44試験は、carboplatinとpaclitaxelによる導入療法と同社のPARP阻害剤Zejula(niraparib)による維持療法の両方にJemperliを追加する群を偽薬追加群を比較した。尚、当初はZejulaと偽薬を比較するための群も設定されたが期中に適応拡大したため打ち切られた。ZejulaはBRCAなどの特徴的な変異を持たない卵巣癌にも承認されているが、エビデンスとなる試験でPFSを達成したものの全生存期間はフェールした。この試験が全群、続行していれば、違った答えが出たかもしれないので、残念だ。

卵巣癌は抗PD-(L)1抗体の苦手分野だ。今月、MSDも、BRCA変異の無い進行卵巣癌の一次治療化学療法試験で、PFSは達成したが全生存期間の解析はフェールしたことを公表している。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認申請】


イムブルビカを欧州でMCL一次治療に適応拡大申請
(2024年12月18日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、傘下のJanssen-Cilag InternationalがEUにBTK阻害剤Imbruvica(ibrutinib)の二種変更を申請したと発表した。自家幹細胞移植が適応になる成人の未治療マントル細胞腫における標準的導入療法であるR-CHOPに追加し、自家幹細胞移植(ASCT)に進んだか否かを問わず、維持療法としても2年間単剤投与するもの。Imbruvicaは慢性リンパ性白血病などに承認されており、マントル細胞腫ではEUで再発難治治療に、日本では限定なしに、承認されている。

今回のエビデンスはEuropean MCL NetworkのTRIANGLE試験。18-65歳の870人をR-CHOPまたはR-DHAPによる導入療法後にASCTを施行するA群、これにImbrubicaを追加するA+I群、Imbrubicaを追加しASCTは施行しないI群に無作為化割付けして転帰を比較したもの。分かりやすい指標である3年生存率を見ると、各群86%、91%、92%となっている。主評価項目(フェールなく生存した期間)の解析も似たような結果で、A+I群がA群を上回るという仮説が立証されると共に、A群がI群を上回るという仮説は立証されなかった(むしろI群のほうが数値は良い)。

G3以上の有害事象発生率はA+I群がかなり上回っている。

ASCTをオミットできる選択肢が生まれそうだ。今年のASH(米国血液学会)でも、米国で実施されたやや異なった試験でASCTを割愛できる可能性が示された。ECOG-ACRIN EA4151試験で最初の導入療法によりMRD(微小残存病変)が10のマイナス5乗レベルで陰性となった18~70歳のマントル細胞腫患者500人余をASCT施行後にrituximabによる3年間の維持療法を行う群とrituximab維持療法だけを行う群に無作為化割付けして全生存期間を比較したところ、第3次中間解析で無益水準に達した。intent-to-treatベースのハザードレシオは1.11、3年生存率は82.1%と82.7%、治療を受ける前に離脱した患者を除外した解析でも各1.00、86.2%、84.8%だった。尚、この試験は導入でも維持でもBTK阻害剤はほとんど使われなかった。

抄録(Fenskeら、LBA-6)を読む限りでは非劣性試験では無さそうだし、ASCT群は維持療法開始時期が遅れるだろうからその影響もあるかもしれず、何れにせよ特定の条件下だけに当てはまる話だが、治療成果に応じて選択肢が生まれるのは良いことだ。

リンク: JNJのプレスリリース


MSD、抗RSV抗体を承認申請
(2024年12月17日発表)

MSDはMK-1654(clesrovimab)を0歳児のRSV感染症予防薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は25年6月10日なので、順調なら秋には投与が始まることになる。

RSウイルスのF蛋白に結合するIgG1型抗体。H鎖の一部置換により半減期を延長、シーズンに一回の筋注で足りるようにした。最初のRSVシーズンを迎える健康な早産児や正期産児を組入れた試験では、150日間のRSVによる下部気道感染症受診が偽薬比60%減少した。重度のものに関しては91%減。RSV感染すると重症化するリスクのある最初のRSVシーズンを迎える乳幼児を組入れた試験では、安全性がアストラゼネカの月一回投与型類薬、palivizumabと同程度で、RSV関連株気道感染症受診も同程度だった。尚、アストラゼネカが開発しサノフィが販売しているBeyfortus(nirsevimab-alip)はシーズンに一回の筋注で足りるので、現実の医療では競争相手になる。筆者も付き添ったことがあるが、風邪の患者も多い待合室で月一回とは言え長時間過ごすのは決して良い気分ではない。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Zealand社のGLP-2作用剤は承認されず
(2024年12月19日発表)

デンマークのZealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)は米国でZP 1848(glepaglutide)を非経口栄養補給を受けている短腸症候群の治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。市販を予定する用量に関するエビデンス不足を指摘されたため、二本目の第3相を実施して再申請する考え。欧州は予定通り25年に、他の地域は二本目の成功後に、申請する予定。

長期作用性GLP-2作用剤で既存類薬である武田薬品のGattex(teduglutide)が一日一回皮下注であるのに対して、第3相では10mg週一回と同週二回の皮下注をテストした。後者は非経口栄養量が偽薬比有意に減少したが前者は若干多く減った程度だった。当然、10mg週二回を承認申請したものと思っていたが、今回の発表を見ると、違うのかもしれない。

リンク: Zealandのプレスリリース(GlobeNewswire)


皮下注用amivantamabの承認はお預け
(2024年12月16日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗EGFRxMET二重特異性抗体amivantamabの皮下注用新製剤を欧米で承認申請しているが、米国は審査完了通知を受領した。製造施設の承認前査察で指摘事項があったため。

最近よくある遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼと組み合わせた製品。EGFRにエクソン19欠損またはL858R置換を持つ局所進行/転移性非小細胞性肺癌を組入れてlazertinib併用時の作用を静注用と比較した第3相PALOMA-3試験で、ORR(客観的反応率)と薬物動態が非劣性、注射箇所反応の発生率は5分の1だった。

リンク: 同社のプレスリリース


オンデキサの本承認切替は成らず

アストラゼネカのAndexXa(inactivated-zhzo)はXa阻害剤を服用している患者が事故や手術などの理由で作用を止めなければならない時の解毒剤として米欧日で承認されている。米欧は加速承認/条件付き承認なので市販後に追加試験で臨床的便益などを確認する必要があり、順調なら本承認に切り替わる見込みだったが、一部報道によると、今回、FDAは本承認切替を認めなかったようだ(アストラゼネカは審査完了通知を受領したと発表していないが、メディアの照会に回答した)。

脳内出血を発症した、apixabanまたはrivaroxabanを服用している患者を組入れたANNEXA-1試験で止血奏効率が67%と通常医療群の53%を上回ったが、11月の諮問委員会資料によると、虚血性脳卒中などの血栓性イベントが増加し、血栓関連死亡率も2.5%と対照群の0.9%を上回った。

【承認】


アレモが米国でも承認
(2024年12月20日発表)

FDAはノボ ノルディスクのAlhemo(concizumab-mtci)を12歳以上のインヒビターを持つA型またはB型血友病のルーチン出血予防薬として承認した。一日一回、皮下注する。臨床試験では年率出血リスが投与しなかった群と比べて86%低下した。有害事象は注射箇所反応や蕁麻疹など。血栓リスクが高まる。

血友病は欠乏する凝固因子の補充療法が有効だが、A型血友病の3割、B型の1割前後で抗体が生じ、無効になる。Alhemoは体内のTFPI(組織因子経路インヒビター)をブロックする抗体で、TFPIが血液凝固第X因子の活性化を妨げるのを防ぐ。日本では23年に承認、今年6月にはインヒビターを持たない患者にも使用が認められた。欧州では10月にCHMPが肯定的意見を纏めた。

リンク: FDAのプレスリリース


対象患者数が多い嚢胞性線維症用薬が承認
(2024年12月20日発表)

米国のVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、FDAがAlyftrek(通称vanza triple、vanzacaftor、tezacaftor、deutivacaftorの合剤)を6歳以上のこの薬に応答する変異を一つ以上保有する嚢胞性線維症の治療薬として承認したと発表した。同社は嚢胞性線維症財団の支援を受けて多くの嚢胞性線維症用薬を開発発売してきた。Alyftrekは5年前に承認されたTrikafta(elexacaftor、tezacaftor 、ivacaftorの合剤)と効果は大差ないが、適応になる変異が多いため米国の対象患者数が推定150人増え、一日二回ではなく一回の経口投与で足り、脂肪接種に制約がない。また、他社に支払う売上ロイヤルティ率が既存製品より低い模様。

リンク: 同社のプレスリリース


ビラフトビがBRAF-V600E変異大腸癌の一次治療に適応拡大
(2024年12月20日発表)

FDAはファイザーの子会社であるArray BioPharmaのBraftovi(encorafenib)をBRAF-V600E変異のある転移結腸直腸癌の一次治療に用いることを加速承認した。抗EGFR抗体cetuximab及びmFLOFOXレジメンと併用で、75mgカプセル4個を一日一回、経口投与する。エビデンスとなるBREAKWATER試験の中間解析でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が61%、メジアン反応持続期間が13.9ヶ月となり、cetuximab・mFOLFOX6併用などの標準療法を施行した群の40%、11.1ヶ月を上回った。有害事象は末梢神経症や悪心嘔吐など。リパーゼ上昇や好中球減少も見られた。

試験は続行中で、市販後コミットメントとして、メーカー側はPFSや全生存期間の解析を行って提出する必要がある。

Braftoviは同社のMEK阻害剤Mektovi(binimetinib)と併用でBRAF-V600変異を持つ切除不能/転移黒色腫などに用いることが米欧日で承認されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース


FDAはGIP/GLP-1作用剤を閉塞性睡眠時無呼吸に承認
(2024年12月20日発表)

FDAはイーライリリーのGIP/GLP-1作用剤Zepbound(tirzepatide)の適応を成人の肥満患者における中重度閉塞性睡眠時無呼吸に拡大した。カロリー制限や身体運動増加と併用する。標準的治療法であるPAP(気道陽圧療法)を使用している患者としていない患者を組入れたそれぞれの試験でAHI(無呼吸低呼吸指数)が偽薬比大きく減少した。GLP-1作用剤は適応外用途も含めて人気があるためか、FDAのプレスリリースは、便益について16行解説した後、副作用の説明に22行を割いている。

EUではCHMPが、肥満症は既承認用途なので適応拡大は認めないという意見を纏め、治験成績をレーベルに記載するだけに留めるよう求めた。エビデンスとなる試験は肥満症を併発する患者だけを対象にしており、そもそも閉塞性睡眠時無呼吸患者の過半が肥満と言われているので、適応拡大というよりは効能追加と呼ぶ方がしっくり来る。勿論、FDAもCHMPもしっくりと来るかどうかではなく法令に則り判断したのだろうか。

リンク: FDAのプレスリリース


初の家族性カイロミクロン血症候群用薬が承認
(2024年12月19日発表)

FDAはIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)のTryngolza(olezarsen)を家族性カイロミクロン血症候群(FCS)治療薬として承認した。トリグリセライド(TG)の代謝を抑制する、ApoC-IIIの発現を妨げるアンチセンス薬。低脂肪食とともに、80mgを月一回皮下注する。第3相試験では空腹時TG値(ベースライン平均は2630mg/dL)が半年後に偽薬比42.5%低下した。低脂肪食を励行した症例では深刻な合併症である激性膵炎の発生が減少した。主な有害事象は過敏反応などの注射箇所反応や血小板減少など。報道によると、価格は年59.5万ドルで設定される。

同社は欧州などで類薬のWaylivra(volanesorsen)を販売しているが、米国でFCS用薬が承認されたのは他社も含めて初。GalNAc結合技術を採用し、Waylivraより低量、低頻度の投与を実現した。

リンク: FDAのプレスリリース


ALK阻害剤が承認
(2024年12月18日発表)

FDAはXcovery HoldingsのEnsacove(ensartinib)を成人のALK陽性局所進行/転移非小細胞性肺癌用薬として承認した。他のALK阻害剤による治療歴を持たない患者が適応になる。第3相の一次治療試験で、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が25.8ヶ月と、実薬であるcrizotinibを投与した群の12.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.56だった。全生存期間のハザードレシオは0.88だったがp=0.45で有意には成らなかった。有害事象はラッシュ、筋骨格痛、便秘など。

中国では親会社のBetta Pharmaceuticals(貝達薬業)が20年に承認取得している。

リンク: FDAのプレスリリース


テムセルが米国で粘り勝ち承認
(2024年12月18日発表)

FDAはMesoblast(ASX:MSB、Nasdaq:MESO)のRyoncil(remestemcel-L-rknd)を2ヶ月児以上の小児のステロイド抵抗性急性移植片対宿主病(SR-aGVHD)用薬として承認した。承認申請から足掛け4年、日本でJCRファーマがテムセル名で承認を得てから9年を経たが、FDAが要請した追加試験が実現しないまま、承認に至った。

他家間葉系幹細胞を医薬品化したもの。54人の単群試験で28日反応率が70%、うち完全反応は30%、部分反応41%だった。メジアン反応持続期間は54日。有害事象は感染症など。これらの数値は6年前に第3相成績が発表された時の数値と大差ない。

リンク: FDAのプレスリリース


ブイタマーが米国でもアトピーに承認
(2024年12月16日発表)

オルガノンはFDAがVtama(tapinarof)を2歳以上のアトピー性皮膚炎に適応拡大を認めたと発表した。アリル炭化水素受容体モジュレーターのクリーム製剤で一日一回、患部に薄く塗布する。審査期間中に長期延長試験のデータを提出したため審査期間が3ヶ月延長されたが、結局、元々の審査期限の数日遅れで承認された。22年に尋常性乾癬治療薬として承認されている。今回も、枠付き警告や警告・事前注意が無いクリーンなレーベルになっている。

日本ではライセンシーの日本たばこが6月に両適応症で承認を取得した。

リンク: オルガノンのプレスリリース


抗IL-31RA抗体がアトピーに適応拡大
(2024年12月14日発表)

ガルデルマはFDAがNemluvio(nemolizumab-ilto)を12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎に適応拡大したと発表した。局所性処方薬に十分応答しない患者に、局所性コルチコステロイド且つ又カルシニューリン阻害剤と併用する。8月に承認された結節性掻痒と一緒に申請されたが、優先審査ではないために今になった。

中外製薬からライセンスしたIL-31受容体アルファに結合する抗体医薬。日本ではマルホがライセンス、ミチーガ名で22年にアトピー用薬として、今年3月には結節性掻痒にも、承認取得した。

リンク: ガルデルマのプレスリリース

【医薬品の安全性】


デンマーク薬品庁、EMAにセマグルチドのNAIONリスク評価を要請
(2024年12月16日発表)

デンマーク薬品庁はEMAのPRAC(医薬品リスク評価委員会)にGLP-1作用剤semaglutideのNAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)リスクを評価するよう要請すると発表した。南デンマーク大学が実施した疫学研究二本でsemaglutideによる治療を受けている糖尿病患者のリスク上昇が見られ、一本ではハザード比が2.81だった。薬品庁が調査したところ、7月から12月10日までに19件の有害事象が報告された。

semaglutideはハーバード大学のコフォート研究でも二型糖尿病患者におけるハザード比が4.28、肥満症患者では7.64だった。

NAIONの罹患率は低く、semaglutide群でも10000人に2人程度のようだ。

リンク: デンマーク薬品庁のプレスリリース


FDA、アステラスのVMS用薬の肝毒性を枠付き警告
(2024年12月16日発表)

FDAはアステラス製薬のVeozah(fezolinetant)の肝臓副作用警告を枠付き警告に格上げした。閉経に伴う中重度血管運動神経症状の治療薬として米欧で承認されているが、市販後も肝臓副作用例が報告されているため。内容は従来とほぼ同じで、処方開始前や初年度は所定のタイミングで肝機能検査を行い、閾値以上なら水準によって投与を中止、または検査頻度を上げる。

肝機能検査値を元に肝障害のリスクを評価する方法としてはHyの法則が有名だが、Veozahの例を見ると、アミノトランスフェラーゼと総ビリルビンのどちらかだけでも大きく上昇した場合は対処が必要なようだ。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)
諮問委員会
25/1/10AADPAC:生化学工業のSI-6603(腰椎椎間板ヘルニアに伴う根性痛)



今週は以上です。

2024年12月16日

第1185回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 早期ハンチントン病の遺伝子療法に加速承認の筋道 
  • FDA、抗SARS-CoV-2抗体6品のEUAを取消し 
  • SABCS:イブランスはHR+her2+MBCの維持療法にも有効 
  • 治療抵抗性糖尿病の2割強がクッシング症候群だった 
  • SABCS:リリー、新規SERDの第3相が成功 
  • PPARガンマ作動剤の小児cALD試験が成功 
  • 限局性前立腺癌のウイルス療法が成功 
  • アッヴィ、パーキンソン病薬の3本目の第3相も成功 
  • キイトルーダとリムパーザの併用試験、今度は成功した? 
  • ASH:サークリサの移植可能骨髄腫試験が成功 
  • ASH:ジャイパーカのCLL/SLL試験が成功 
  • ASH:ビーリンサイトのB-ALL一次治療併用試験が成功 
  • テコビリマトのエムポックス試験がまたフェール 
  • 爪真菌症薬の第3相がフェール 
  • Crinetics社、先端巨大症用薬の承認申請が受理 
  • GSK、ヌーカラを好中球性COPDに再申請 
  • アルファ/ベータ・サラセミア用薬を承認申請 
  • 12月のCHMP意見 
  • 新規抗PD-L1抗体が承認 
  • 先天性副腎過形成用薬が承認 
  • FDA、オベチコール酸の肝移植リスクを警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】



早期ハンチントン病の遺伝子療法に加速承認の筋道
(2024年12月10日発表)

アムステルダム大学発ベンチャーのuniQure biopharma(Nasdaq:QURE)は、AMT-130の加速承認申請計画に関してFDAと合意したと発表した。進行中の第1/2相試験のcUHDRS(複合的統合ハンチントン病評価尺度)の自然歴比較を中間的エビデンス、CSF-NfL(脳脊髄液ニューロフィラメント軽鎖)を支持的エビデンスとするもので、25年上期に解析計画やCMC(化学、製造、管理)についても相談する考え。

AMT-130は、変異したハンチントン遺伝子を沈黙させるマイクロRNAをアデノ随伴ウイルス・ベクターで送り込む遺伝子療法。MRIで分布を確認しながら尾状核や被殻に持続陽圧下投与する。欧米で合計39人を組入れた二本の第1/2相試験の24ヶ月中間解析で、高用量群のcUHDRS低下が0.2に留まり、自然歴154人の傾向加重値である1.0比p=0.007だった。低用量群は0.7でp=0.21。高用量群は運動認知機能もベースラインに近い水準で推移した。

同社は途中経過を適宜、公表しているが、CSF-NfLが当初は増加する現象が公表されたり、高用量群で予期されていなかった重度有害事象疑い例が発生し組入れを一時的に停止したり、不確かな現象も散発した。今回のリリースは承認申請時期について言及していないが、申請が近づけば、薬効や安全性の全体像が明らかになるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA、抗SARS-CoV-2抗体6製品のEUAを取消し
(2024年12月13日発表)

FDAは、COVID-19用薬としてEUA(非常時使用認可)した抗SARS-CoV-2抗体6製品の認可を取消した。政権交代でCOVID-19用薬の効用に懐疑的な医学者がFDA長官に就任する予定であるため、ではなく、流通ロットの有効期間満了を期にメーカー側が取消しを申請したため。現在流行しているウイルスには効かないため、医療の妨げにはならないだろう。製薬会社の皆様、ご苦労様でした。

EUA取消となったのは、Regeneron PharmaceuticalsのREGEN-COV(casirivimab、imdevimab、EUAは20年11月)、Janssen Biotechのbamlanivimabとetesevimabの併用(同21年2月)、GSKのXevudy(sotrovimab、同21年5月)、アストラゼネカのEvusheld(tixagevimab、cilgavimab、同21年12月)、イーライリリーのbebtelovimab(22年10月EUA)。

リンク: EUA取消となった製品に関するFDAの情報サイト

【新薬開発】


SABCS:イブランスはHR+her2+MBCの維持療法にも有効
(2024年12月12日発表)

ファイザーのCDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib)を転移性乳癌一次治療後維持療法に併用した試験の結果がサン・アントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)で発表された。

このPATINA/AFT-38試験は、米国の共同治験グループ三団体が合併して創設した、NCI(米国癌研究所)が資金援助する共同治験グループ、Alliance for Clinical Trials in Oncologyの傘下のAlliance Foundation Trialsがスポンサーとなって、ホルモン受容体陽性(HR+)、her2陽性(her2+)の転移性乳癌で一次治療後に進行しなくなった患者518人を組入れて、内分泌療法とtrastuzumab(pertuzumab併用可)の標準的維持療法にIbranceを追加する便益を非盲検下で検討したもの。

主評価項目のPFS(無進行生存期間、治験医評価)はハザードレシオが0.74、非階層化片側p値は0.0074となり、メジアン値は44.3ヶ月対29.1ヶ月で1年以上の差があった。全生存期間の解析は未成熟で、5年生存率は74.3%対69.8%と良好だが有意水準には達していない。有害事象は好中球減少症がG3は各群63.2%対32.0%、G4は4.6%対0%と多く、G3疲労や口内炎、下痢も増加した。

乳癌の薬物臨床試験は、HR+かつher2-か、her2+かつHR-を対象とすることが多いが、HR+かつher2+も1割程度を占めるとのこと。見過ごされてきたサブグループ専用の試験が成功した意義は大きそうだ。her2+専用薬のほうでもher2低発現とか極低発現とかカテゴリー・キラー的な薬が出現しており、新たなフロンティアになっている。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: MetzgerらのSABCS抄録(pdfファイル)


治療抵抗性糖尿病の2割強がクッシング症候群だった
(2024年12月12日発表)

Corcept Therapeutics(Nasdaq:CORT)はKorlym(mifepristone)の第4相CATALYST試験で主目的を達成したと発表した。治療抵抗性二型糖尿病とクッシング症候群を合併する患者を組入れて24週間治療したところ、HbA1cが1.47%低下し、偽薬群の0.15%低下と大きな差があった。2012年に米国で、まさにこの用途・効能で承認された薬なので全く驚きではないが、興味深いのはスクリーニング時のデータだ。治療してもHbA1cが7.5%を上回る患者1057人の副腎皮質ホルモンを検査したところ、23%が過剰と判定された。このことは、治療で十分な成果が上がらなかったらクッシング症候群を疑った方がよいかもしれないことを示唆している。

Korlymはグルココルチコイド受容体タイプII拮抗剤。300mg錠。活性成分の200mg錠は薬物的妊娠中術薬として他社製品がフランスで1980年代に、米国でも2000年に、承認され、GE薬も発売されている。

尚、同社は11日にCORT-113176(dazucorilant)の第2相筋萎縮性側索硬化症試験がフェールしたことも発表した。150mgまたは300mgを24週間、経口投与したが、ALSFRS-R(機能評価尺度)は偽薬と大差なかった。一方で、偽薬群は82人中5人が死去したが300mg群は83人中ゼロだった(p=0.02)。継続追跡して25年3月を目標に死亡リスクの解析を行う予定。

リンク: 同社のプレスリリース(クッシング症候群)
リンク: 同(ALS、12/11付)


SABCS:リリー、新規SERDの第3相が成功
(2024年12月11日発表)

イーライリリーのLY3484356(imlunestrant)の第3相EMBER-3試験における成績がSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)とNew England of Journal誌で発表された。アロマターゼ阻害剤(±CDK4/6阻害剤)による治療歴を持つエストロゲン受容体陽性、her2陰性の進行乳癌患者874人を単剤投与群(以下、モノ)、標準的内分泌療法群(SOC)、imlunestrantとCDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib)の併用群(併用)に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間、治験医評価)を比較したもので、共同主評価項目のうち、ESR1変異癌(256人)におけるモノとSOCの比較は、ハザードレシオ0.62で統計的に有意、各群のメジアン値は5.5ヶ月と3.8ヶ月だった。intent-to-treatにおける併用とモノの比較はハザードレシオ0.57で有意、メジアンは9.4ヶ月対5.5ヶ月だった。一方、intent-to-treatベースのモノとSOCの比較は0.87、5.6ヶ月対5.5ヶ月となりフェールした。

副次的評価項目の全生存期間は未成熟。G3以上の有害事象発生率はモノが17.1%、SOC群20.7%、併用群は48.6%だった。

試験薬は経口中枢神経浸透性SERD(選択的エストロゲン受容体零落剤)。既存薬に抵抗性を持つESR1変異にも活性を持つ。第3相もESR1変異陽性癌には単剤だけでも有効という結果になったが、陰性癌にはVerzenioを併用したほうが良さそうだ。但し、陽性癌にも併用は有効だろうし、陰性癌はVerzenioだけでは足りないのか、という疑問が残る。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Jhaveriらの治験論文抄録(NEJM)


PPARガンマ作動剤の小児cALD試験が成功
(2024年12月11日発表)

スペインのMinoryx Therapeuticsは、MIN-102(leriglitazone)の小児cALD(脳副腎白質ジストロフィー)試験、NEXUSで主目的を達成したと発表した。解析対象20人のうち35%が、96週時点(造血幹細胞移植に進んだ場合は施術前)で臨床的/放射線学的に進行抑制(arrested disease)と評価された。自然歴対照群は10%に留まった。治療関連深刻有害事象や治験関連有害事象による治験離脱は発生しなかった。25年央に欧州で小児と成人のcALD用薬として再申請する考え。

X染色体性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)は、中枢神経系における脱髄や神経細胞変性 、副腎機能不全を特徴とするX染色体性遺伝病で、男性が重症化する。10万出生に6-8人の希少疾患。cALDは重篤で平均寿命3-4年と言われる。MIN-102は中枢神経浸透性PPARガンマ作動剤。X-ALDのもう一つの表現型であるAMNを組入れて96週間投与した第2/3相試験で主評価項目の6分歩行テストがフェールした。サブグループ向けに22年にEUで承認申請されたが、途中で目標適応症を変えた模様で、CHMPがcALD用途で否定的意見を出した。

米州では第3相CALYX試験で死亡、寝たきり、または永続的呼吸補助に進展するリスクを偽薬と比較している。26年に結果が出る見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


限局性前立腺癌のウイルス療法が成功
(2024年12月11日発表)

米国のCandel Therapeutics(Nasdaq:CADL)は、CAN-2409(aglatimagene besadenovec)の第3相新患限局性前立腺癌試験で主目的を達成したと発表した。中重度リスクの患者745人を組入れて放射線療法にvalacyclovirと共に追加して投与し、メジアン50ヶ月追跡したところ、DFS(無病生存期間:生存、再発なし、かつ放射線療法の2年後に実施する生検で陰性)のハザードレシオが0.7、p=0.0155だった。癌以外の理由による死亡を除外するとハザードレシオ0.6、p=0.0046と更に向上する。報道によると、26年の承認申請を考えている模様。

CAN-2409は、ヘルペス治療薬valacyclovirの毒性を強化する単純ヘルペス・ウイルス・チミジン・キナーゼの遺伝子を複製不能アデノウイルスに組入れて、癌細胞に注入する。valacyclovirが癌細胞のDNA合成/修復を阻害し、ウイルス・カプシドが免疫応答を惹起するなどの作用機序が提唱されている。

リンク: 同社のプレスリリース


アッヴィ、パーキンソン病薬の3本目の第3相も成功
(2024年12月9日発表)

アッヴィはtavapadonの第3相TEMPO-2早期パーキンソン病試験が成功したと発表した。他の二本がすでに成功しており、25年に承認申請する考え。

8月に買収したCerevel TherapeuticsがファイザーのドパミンD1/D5選択的部分作動剤、PF-06649751をライセンスして第3相に進めたもの。今回の試験では、効果や忍容性に応じて5~15mgの間で用量を調節するフレックス法を採用し、一日一回、26週間投与し、MDS-UPDRSのパートII(運動症状の患者評価)とパートIII(同、医師評価)の複合評価尺度の改善を偽薬と比較した。各群10.3点と1.2点改善し、有意な差があった。もう一本の早期パーキンソン病試験、TEMPO-1では5mgと15mgを偽薬と比較したところ、各9.7点低下、10.2点低下、1.8点上昇となり、両用量群とも偽薬比有意だった。

レボドパで治療しても運動症状の日中変動が見られる患者を組入れたアドオン試験、TEMPO-3では、5-15mgフレックス群のジスキネジアを伴わないオンタイム(パーキンソン症状のない時間)が1.7時間/日増加し、偽薬の0.6時間/日を有意に上回った。

同社は、既存のドパミン作動剤と比べて鎮静や衝動制御障害のリスクが小さいことを期待している。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダとリムパーザの併用試験、今度は成功した?
(2024年12月9日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)とアストラゼネカのPARP-1/2阻害剤Lynparza(olaparib) を卵巣上皮癌の化学療法に追加する便益を検討した第3相KEYLYNK-001試験で主目的のPFS(無進行生存期間、治験医評価)を達成したと発表した。化学療法と二剤を併用した群は化学療法・偽薬併用群と比べて統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。データは未発表。一方、副次的評価項目の全生存期間はフェールした。プレスリリースでは、intent-to-treatにおけるKeytrudaの役割は現時点では不確かなまま、という曖昧な表現をしている。

この試験は、BRCA変異の無い進行卵巣上皮癌の一次治療を受ける患者を組入れて、化学療法(5サイクル)に偽薬またはKeytrudaを追加し、Keytruda群は第7サイクルからLynparzaを追加する群と偽薬を追加する群に無作為化割付けした。主評価項目はCPS≧10サブグループと全体のPFS。プレスリリースには明記されていないが、おそらく、両方とも有意だったのだろう。intent-to-treatにおける便益が不確かというのは、CPS≧10サブグループの全生存期間は望ましい方向で推移しているが全体が良くなかった、というふうに聞こえるが、どうなのだろうか。

尚、Keytrudaと偽薬を追加した群の解析は未成熟のようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ASH:サークリサの移植可能骨髄腫試験が成功
(2024年12月9日発表)

サノフィの抗CD38抗体、Sarclisa(isatuximab-irfc)を新患移植可能多発骨髄腫の治療に用いた第3相GMMG-HD7試験の結果がASHとJournal of Clinical Oncologyで発表された。ドイツの施設で662人を組入れてRVdレジメン(Revlimid、Velcade、dexamethasoneの三剤併用)による移植前導入療法に追加したところ、追加しなかった群と比べたPFS(無進行生存期間)ハザードレシオが0.70、p=0.0184だった。メジアン約4年追跡したがPFSは未だメジアンに達していない。この試験では移植後の地固め療法としてRevlimidにSarclisaを追加する群とRevlimidだけの群に再無作為化割付けして転帰を比較したが、どちらの場合でも、導入療法におけるSarclisaの便益が見られた。但し、具体的な数値は記されていない。おそらく、別の論文で発表されるのだろう。

Sarclisaは新患移植可能多発骨髄腫の第3相IsKia試験でもMRD(微小残像病変、閾値10^-5)ベース反応率が77%と、Revlimid、Kyprolis、dexamethasoneだけの群の67%を有意に上回ったが、昨年のASHで結果発表された時点では、メジアン追跡期間が20ヶ月とそれほどでもなかったせいか、PFSは両群とも95%だった。

多発骨髄腫の治療は3剤、4剤併用が普及するにつれて、更に一剤追加する便益をPFSで確認するのに長期間かかるようになった。今後はMRD反応率のようなサロゲート・マーカーで承認の是非を判断し、PFSで確認する方法が一般的になりそうだ。

リンク: Maiらの治験論文(Journal of Clinical Oncology、オープン・アクセス)


ASH:ジャイパーカのCLL/SLL試験が成功
(2024年12月9日発表)

イーライリリーは非共有結合性BTK阻害剤Jaypirca(pirtobrutinib)の第3相BRUIN CLL-321試験の結果をASHで発表した。BTK阻害剤歴のあるCLL/SLL(慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫)の成人238人をJaypirca群と医師が選んだレジメン(Zydelig(idelalisib)またはbendamustinをrituximabと併用)に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を比較したところ、ハザードレシオ0.54(95%信頼区間0.39-0.75)、メジアン値は各群14.0ヶ月と8.7ヶ月だった。

副次的評価項目の全生存期間はハザードレシオが1.09だったが、クロスオーバー(偽薬群の患者が進行後にJaypircaによる治療を受ける)を修正すると手法により0.89または0.77となった。

クロスオーバー修正値が同程度以下なら大きな問題ではなく、承認された前例もある。但し、BTK阻害剤はPFS延長が必ずしも延命に繋がらないので、厳密な分析が必要だろう。

リンク: 同社のプレスリリース


ASH:ビーリンサイトのB-ALL一次治療併用試験が成功
(2024年12月7日発表)

アムジェンのBlincyto(blinatumomab)をB前駆細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の一次治療に用いた第3相AALL1731試験の成績がASHとNew England Journal of Medicine誌で発表された。NIH(米国立衛生研究所)などの資金拠出を得て米加豪新の施設で新患スタンダード・リスクB-ALLの小児を組入れて、標準的化学療法と、Blincytoを2サイクル追加するレジメンのDFS(無再発・二次性腫瘍生存期間)を比較したもので、第1次中間解析でデータ監視委員会が繰上げ完了を勧告した。

解析対象1440人(組入れ時のメジアン年齢4.3歳)の3年DFS率は96.0%、化学療法のみの群は87.9%、ハザードレシオは0.39(95%信頼区間0.24-0.64)だった。再発リスクがアベレージと評価されたサブグループでは各97.5%と90.2%、高リスクサブグループでは94.1%と84.8%だった。Blincytoを投与していた時期のサイトカイン放出症候群や敗血症は稀だった。アベレージ再発リスク・サブグループでは非致死的敗血症やカテーテル関連感染症が顕著に増加した。

尚、紛らわしいので整理すると、NCI(米国立癌研究所)のB-ALL予後予測分類は、年齢や白血球数などに基づきStandardとHighに分け、それぞれについて遺伝子変異特徴などに基づき、favorable、average、highに分類している。

Blincytoは抗CD19短鎖抗体と抗CD3短鎖抗体をポリペプチドで結合した二重特異性抗体。米欧日で難治/再発B-ALLなどに単剤投与することが承認されている。アムジェンのプレスリリースによると、NCIがFDAに結果を報告するとのこと。適応拡大申請はしないのだろうか?

リンク: Guptaらの治験論文抄録(NEJM)
リンク: アムジェンのプレスリリース


テコビリマトのエムポックス試験がまたフェール
(2024年12月10日発表)

SIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)のTPOXX(tecovirimat)のエムポックスにおける便益を検討した第3相STOMP試験がフェールした。アメリカ中心に南米や日本、タイの施設が参加して、18歳以上でクレードII型エムポックスによる軽中度感染症の患者を組入れて病変治癒までの期間を偽薬と比較したが、データ安全性監視委員会が、75%組入れ時の中間解析結果に基づき、続行しても主目的を達成する確率は1%以下と判定、追加組入れ中止となった。副次的評価項目の疼痛改善もフェールした。

NIAID(米国立衛生研究所傘下のアレルギー・感染症研究所)のスポンサーで行われたもう一つの試験、第3相PALM 007試験も8月にフェールした。死亡率が比較的高いクレードI型が流行していたコンゴ民主共和国の施設で小児・成人患者を入院治療したが、病変治癒がメジアン7日と偽薬群より1日早いだけだった。

他にはカナダでPLATINUM-CAN試験、スイス南米でUNITY試験、EUでEPOXI試験が進行中だが、SIGA Technologiesは、内容が類似しているため同様な結果になりそうとプレスリリースに記している。

TPOXXは、非ヒト霊長類の薬効試験とヒトの安全性試験に基づいて、エムポックスよりも深刻な疾患である天然痘などの治療薬として18年に米国で承認され、22年にはEUで例外的条項に基づき天然痘、エムポックス、牛痘など、そして、天然痘ワクチン接種後のワクシニアウイルス増殖による合併症の治療薬として承認された。日本では日本バイオテクノファーマが申請し、今月、EUと同じような適応範囲で第2部会を通過したところだ。米国ではエムポックスには承認されていないが、CDC(米国立疾病管理予防センター)がexpanded access制度に基づき提供している。CDCは今回の発表を受けて対象を見直し、免疫低下、アトピーなどの持病、妊婦や未成年、命に係わる状態などに限定した。

エムポックスは天然痘より重症化リスクが低いため治療効果が発揮されないのかもしれないが、効かないというエビデンスがないから効くはずだ、とはバカボンのパパでも言わないだろう。米国のレーベルには、免疫低下患者はTPOXXの効果が低下すると記されている。カジュアルなデザインでも臨床試験で便益を確認する必要があるのではないか?

リンク: NIAIDのプレスリリース
リンク: SIGAのプレスリリース


爪真菌症薬の第3相がフェール
(2024年12月10日発表)

スウェーデンのMoberg Pharma AB(OMX:MOB)は、北米で実施されたMOB-015の第3相爪真菌症試験がフェールしたと発表した。同社は米国での開発を断念し、バイエルは戦略的理由で欧州における発売を断念しライセンスを返還した。

アリルアミン系抗真菌剤terbinafineの局所性新製剤で、EUの非中央手続きを経て加盟国のうち13ヶ国で承認を取得、今年2月にスウェーデンで発売し4割以上のシェアを獲得した。尚、EUの人口上位5ヶ国のうちドイツとポーランドでは承認されておらず(申請しなかったのかもしれない)、フランスやスペインなど6ヶ国では処方薬、イタリアやスウェーデンなど7ヶ国ではOTC薬として承認されている。

EUでは一日一回投与で承認されたが、北米試験は9週目からは週一回に減らす新スケジュールをテストした。第52週の足指爪完治率は1.5%に留まり、対照群の0%を有意に上回らなかった。

リンク: Moberg社のプレスリリース


【承認申請】


Crinetics社、先端巨大症用薬の承認申請が受理
(2024年12月9日発表)

米国カリフォルニア州の医薬品開発会社、Crinetics Pharmaceuticals(Nasdaq:CRNX)は、CRN00808(paltusotine)を成人の先端巨大症(アクロメガリー)の長期維持療法としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は25年9月25日。FDAは現時点で諮問委員会上程を考えていない。

非ペプチド系SST2(ソマトスタチン受容体2型)アゴニストで、一日一回、経口投与する。第3相のうち、注射用薬のoctreotideまたはlanreotideによる治療が奏功した(IGF-1値が通常値上限以下)患者を組入れたメンテナンス試験で83%が奏功を維持したが、偽薬にスイッチした群は4%に留まった。治療を受けていない患者を組入れた試験では奏効率が56%と偽薬群の5%を上回った。

日本は三和化学がライセンスした。

リンク: Crinetics社のプレスリリース


GSK、ヌーカラを好中球性COPDに再申請
(2024年12月9日発表)

GSKは2017年に米国で抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)を好中球性COPDに適応拡大申請したが、便益に関するエビデンスが確立していないとして審査完了通知を受領した。今回、第3相MATINEE試験のデータを追加提出し受理された。審査期限は25年5月7日。

MATINEEは既存薬に十分応答しない患者に追加投与した104週間の試験。統計的有意且つ臨床的に意味のある中重度増悪抑制効果が見られたとのこと。データは学会で発表される。

リンク: GSKのプレスリリース


アルファ/ベータ・サラセミア用薬を承認申請
(2024年12月8日発表)

米国マサチューセッツ州のAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はmitapivatを成人の輸血依存/非依存のアルファ/ベータ・サラセミアの治療薬として欧米などで承認申請したと発表した。22年に米欧でピルビン酸キナーゼ欠乏症患者の溶血性貧血治療薬Pyrukyndとして承認されたピルビン酸キナーゼRアロステリック・アクティベイターの新用途。輸血依存患者を組入れて100mgを一日二回経口投与した第3相では輸血削減奏効率が30.4%と偽薬群の12.6%を有意に上回った。非輸血依存患者を組入れた第3相ではヘモグロビン増加奏効率が42.3%と偽薬群の1.6%を有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


12月のCHMP意見
(2024年12月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

CSL BehringのAndembry(garadacimab)は抗XIIa抗体。カリキレン・キニン・カスケードを活性化する活性化XII因子のカタリティック・ドメインに結合し、遺伝性血管浮腫における発作傾向を抑制する、新規作用機序を持つ。12歳以上に月一回、皮下注する。米国でも1年前に承認申請が受理されたが、どうなったのだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース

BridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)のBeyonttra(acoramidis、米国のブランド名はAttruby)はTTR安定化剤。成人のATTR-CM(心筋症を合併するトランスサイレチン型アミロイドーシス、トランスサイレチン変異の有無は問わない)に用いる。バイエルが欧州の販売権を保有。米国は11月に承認、日本はアストラゼネカの子会社がライセンスした。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのKavigale(sipavibart)は抗SARS-CoV-2抗体。12歳以上、体重40kg以上の免疫低下者のCOVID-19曝露前予防に用いる。現在流行しているKP.3などの株のほとんどはF456L変異を持っていて無効。日本では今月、第二部会を通過した。報道を読む限りでは免疫低下者限定ではないようだ。

リンク: EMAのプレスリリース

Arcturus Therapeutics(Nasdaq:ARCT)のKostaive(zapomeran)は、日本では昨年承認されたCOVID-19のmRNAレプリコン・ワクチン。抗原の雛形となるmRNAと、それを複製するRNAレプリカ―ゼを結合、先行するmRNAワクチンより少量で効果を発揮するようにした。18歳以上が対象。エビデンスはベトナムと日本の試験などである様子。

リンク: EMAのプレスリリース

ガルデルマのNemluvio(nemolizumab)は抗IL-31受容体アルファ抗体。12歳以上の全身性治療が適応になる中重度アトピー性皮膚炎と、成人の全身性治療が適応になる中重度結節性掻痒に用いる。日本ではマルホが22年にミチーガ名で前者の適応に承認取得、今年3月に後者に拡大した。オリジンは中外製薬。

リンク: EMAのプレスリリース

米国カリフォルニア州のGeronが申請したRytelo(imetelstat)はオリゴヌクレオチド・テロメラーゼ阻害剤。細胞分裂可能回数のカウントダウンを担うテロメアを補填して分裂回数を増やす、癌細胞や幹細胞などで発現する酵素を阻害する。成人の超低、低、中程度リスクのMDS(骨髄異形成症候群)における輸血依存性貧血の治療薬で、エリスロポイエチン系治療薬に応答不十分または不耐な患者に単剤投与する。5q欠失型は適応外。米国で6月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

ギリアド・サイエンシズのSeladelpar Gilead(seladelpar seladelpar lysine dihydrate)は経口PPARデルタ・アゴニスト。条件付き承認が支持された。成人の肝硬変を伴わない又は代償性肝硬変(Child-Pugh A)を伴う、原発性胆汁性胆管炎(掻痒を含む)の治療薬。ウルソデオキシコール酸に対して応答不十分な場合に追加投与、または、不応の場合に単剤投与する。米国では8月に承認。日本は科研製薬がライセンスした。オリジンはOrtho-McNeil(ジョンソン・エンド・ジョンソン)。ギリアドは2月にCymaBayを買収して入手した。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのWelireg(belzutifan)は経口HIF-2アルファ阻害剤。条件付き承認が支持された。成人のPD-(L)1阻害剤と二種類以上のVEGF標的薬を含む2次以上の治療後に進行した淡明細胞腎細胞腫と、成人の局所性治療(摘出、放射線療法など)が適さないフォン・ヒッペル・リンドウ疾患関連の局所性腎細胞腫、CNS血管芽腫、または膵神経内分泌腫瘍に、どちらも単剤投与する。米国では21年にLivdelzi名で初承認、日本でも申請中。19年にPeloton Therapeuticsを買収して入手した。

リンク: EMAのプレスリリース

Rare Thyroid Therapeutics International ABのEmcitate(tiratricol)は、生まれつきのMCT8(モノカルボン酸トランスポーター8)欠乏症(別名Allan-Herndon-Dudley症候群)を適応とする、初めての薬。MCT8欠乏症は超希少なX染色体性遺伝子疾患。最も重要な甲状腺ホルモンであるT3を脳細胞内に運ぶトランスポータが欠乏し、知能発達や運動機能に障害を示す。tiratricolはフランスでは1974年以来、甲状腺ホルモン抵抗性症候群やや分化甲状腺癌における甲状腺分泌ホルモン抑制剤として承認されているT3甲状腺ホルモン類縁体で、MCT8に頼らずに脳細胞内に移行することができる。臨床試験で血清T3濃度が63%低下し、全被験者で体重、心拍数、収縮期血圧のうち一つ以上が改善した。但し、神経発達遅延は改善しなかった。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応・用法追加も肯定的意見を受けた。

  • アムジェンのBlincyto(blinatumomab)・・・1ヶ月児以上のCD19陽性フィラデルフィア染色体陰性のB細胞性急性リンパ性白血病。米国では6月に承認。
  • GSKのJemperli(dostarlimab)・・・成人の全身性治療が適応になる原発性進行又は難治性内膜腫に対するcarboplatin・paclitaxel併用一次治療における、dMMR/MSI-H限定解除。米国では8月に承認。
  • イーライリリーのOmvoh(mirikizumab)・・・成人の中重度活性期クローン病(伝統的治療薬またはバイオ薬に応答不十分または不耐の場合)。

  • EMAは武田薬品がAlofisel(darvadstrocel)の承認返上を決定したことも公表した。同種異系脂肪由来の幹細胞療法で、18年に成人の非活動性または軽度活動性の管腔クローン病における複雑瘻孔の二次治療薬として承認されたが、グローバル第3相試験がフェールし、武田薬品は米国での承認申請を断念した。日本では22人の単群試験に基づき21年に承認された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    また、イーライリリーがMounjaro(tirzepatide)を閉塞性睡眠時無呼吸の治療に適応拡大申請したことに対して、承認はしないがレーベルに治験データを収載することには同意した旨、明らかにした。米州豪独中日などで実施された第3相SURMOUNT-OSA試験でAHI(無呼吸低呼吸指数)が偽薬比有意に減少したが、肥満を伴う患者を組入れたせいか、現行の適応範囲内と判定された。尚、米日と異なりEUでは二型糖尿病用も肥満用もブランド名はMounjaro。

    【承認】


    新規抗PD-L1抗体が承認
    (2024年12月13日発表)

    FDAはCheckpoint Therapeutics(Nasdaq:CKPT)のUnloxcyt(cosibelimab-ipdl)を成人の皮膚扁平上皮腫用薬として承認した。転移性、または、治癒的切除/放射線療法不適な局所性の場合に適応になる。前者は臨床試験ではORR(客観的反応率、独立中央評価)が47%、メジアン反応持続期間は未達、後者は各48%と17.7ヶ月だった。

    用法は1200mg3週毎投与となっているが、レーベル記載のように、臨床試験では800mgを3週毎投与した。レーベルによると、1200mgは活性成分換算では240mgとなる。良く分からない。

    Fortress(Nasdaq: FBIO)が2015年にDana-Farber Cancer Instituteからライセンスし、Checkpoint Therapeutics(Nasdaq:CKPT)を設立して開発したもの。抗PD-(L)1抗体の価格破壊を目指す考えを表明していたが、実現しただろうか。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: 同社のプレスリリース


    先天性副腎過形成用薬が承認
    (2024年12月13日発表)

    FDAはNeurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)のCrenessity(crinecerfont)を4歳以上の古典的CAH(先天性副腎過形成)用薬として承認した。CRF1(コルチコトルピン放出因子受容体1)拮抗剤で、第一選択薬であるグルココルチコイド(GCS)の用量抑制を可能にする。100mgを一日二回、経口投与する。一本の試験では血清アンドロステンジオン値の管理を損なわずにGCSの投与量を27%削減できた(偽薬群は10%)。もう一本では18%削減した(同6%)。警告事項は急性副腎不全/副腎クリーゼ(副腎不全患者でコルチゾール需要が高まった時にGCSが不足すると発症)や過敏反応など。Neurocrineは希少小児疾患優先審査バウチャを取得した。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    FDA、オベチコール酸の肝移植リスクを警告
    (2024年12月12日発表)

    FDAは、AlfasigmaグループのIntercept Pharmaceuticalsが販売する原発性胆汁性肝硬変治療薬、Ocaliva(obeticholic acid)に関するプレスリリースを発出した。16年に代理マーカー(ALP値)を改善する作用に基づき、ウルソデオキシコール酸による治療に十分応答しない、あるいは不耐な患者向けに加速承認されたが、非代償性肝硬変に進展した患者などで特に肝毒性が高いことが判明し、21年に禁忌が増えた。市販後のレーベル変更は見落とされ易いが、Ocalivaの場合も、その後に肝移植や順番待ち、肝臓関連死が20例ほどFDAに報告されている。

    市販後薬効確認試験がフェールしEUは条件付き承認を取消した。FDAは本承認切替を承認しなかったが仮承認自体は維持しているため、この試験の安全性データを継続評価したところ、現在の適応範囲に該当するサブグループでは試験薬群81人のうち7人が肝移植に至った。偽薬群は68人のうち1人で発生したが、移植の2年前に市販されているOcalivaの服用を開始していたので、純粋な偽薬例ではない。この8人に加えて、死亡者が各群4人と1人発生しており、死亡または肝移植のハザードレシオは4.77(95%信頼区間1.03-22.09)だった。

    FDAは肝機能検査の頻度を増やすよう勧告している。但し、現行のデータに基づくと、役に立つかどうか明らかではないと指摘している。

    リンク: FDAの安全性情報

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
    25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
    25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
    25/1/2Vertexのvanzaトリプル(vanzacaftor、tezacaftor、deutivacaftor、嚢胞性線維症)
    25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
    25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
    25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
    25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
    25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
    25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)




    今週は以上です。

    2024年12月7日

    第1184回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • DS-1062の申請データが明らかに 
    • ノバルティス、ファビハルタのスイッチ試験が成功 
    • 膀胱癌のウイルス療法試験が成功 
    • ゼップバウンドがガチンコで勝利 
    • Relmada社、抗鬱剤が第3相で3連敗 
    • イミフィンジを筋層浸潤膀胱癌に承認申請 
    • ロシュ、抗CD20/CD3抗体をより早期のDLBCLに承認申請 
    • イミフィンジが小細胞性肺癌に適応拡大 
    • Merus社のNRG1標的薬が承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    DS-1062の申請データが明らかに
    (2024年12月5日発表)

    第一三共はアストラゼネカと共同開発販売している抗TROP2抗体医薬複合体、DS-1062(datopotamab deruxtecan)を米欧日で承認申請中だが、適応範囲が若干異なる。ホルモン受容体陽性her2陰性乳癌は共通するが、欧州では成人の治療歴のある局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌にも申請している。米国でも両適応を求めたが、後者は申請後の全生存期間の解析で対照群のdocetaxelを有意に上回ることができず、結局、11月に申請撤回になってしまった。第一三共は、代わりに、成人の前治療歴(EGFR標的薬を含む)のある局所進行/転移非小細胞性肺癌という初耳の用途で加速承認申請したが、エビデンスとなるデータがESMO Asia 2024で公表された。

    第3相TROPION-Lung01の症例のうち、EGFR変異のある39例と、白金薬と分子標的薬による治療歴を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌を組入れた第2相TROPION-Lung05試験のうちEGFRのある78人のプール解析を行ったところ、cORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が42.7%(完全反応5人、部分反応45人)、メジアン反応持続期間は7.0ヶ月だった。メジアン生存期間は15.6ヶ月だが対照群が設定されていないので参考値。被験者はメジアンで3次治療歴を持ち、82%がアストラゼネカのEGFR阻害剤Tagrisso(osimertinib)を一次治療や再発治療で経験していたが、このサブグループのデータもcORR44.8%、反応持続期間6.9ヶ月と同程度だった。

    グレード3以上の治療関連有害事象発生率は23%、特別関心有害事象(作用機序的に特にチェックすべき副作用)に設定された口内炎/口腔粘膜炎が69%で発生したがG3以上は9%だった。G3以上の査読薬物関連間質性肺疾患は発生しなかった。

    リンク: 両社のプレスリリース(Business Wire)
    リンク: ESMO Asia Congress 2024 - Conference Calendar(LBA7の箇所に抄録あり)


    ノバルティス、ファビハルタのスイッチ試験が成功
    (2024年12月6日発表)

    ノバルティスは経口可逆的B因子阻害剤Fabhalta(iptacopan)の後期第3相APPULSE-PNH試験がポジティブな結果になったと発表した。抗C5抗体(eculizumabまたはravulizumab)による治療を受けてヘモグロビン値が10g/dL以上に維持できている、赤血球輸血も受けなくてすんでいるPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)患者52人を欧米韓の施設で組入れて24週間投与した試験で、ヘモグロビン値が開始前より改善した。データは学会などで発表する考え。

    23~24年に米欧日でPNH用薬として承認された。エビデンスとなった第3相では一本は未治療患者、もう一本は先輩薬であるアレクシオン社の抗C5抗体、Soliris(eculizumab)またはUltomiris(ravulizumab)で治療してもヘモグロビン値が10g/dL以上に回復しない患者を対象とした。そのためか、日本では、抗C5抗体で十分な効果が得られない場合に限定されているが、米欧では限定されなかった。FDAやEUが認めても保険組織や加盟国が保険還元を認めないようなこともあるだろうから意味があるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    膀胱癌のウイルス療法試験が成功
    (2024年12月5日発表)

    米国カリフォルニア州のCG Oncology(Nasdaq:CGON)はCG0070(cretostimogene grenadenorepvec)の第3相試験成績をSUO(泌尿器癌学会)年次総会で発表した。25年下期に承認申請する考え。

    増殖性アデノウイルスにGM-CSFとE2F-1プロモータを結合して免疫刺激性を強化し腫瘍細胞選択発現性を持たせた腫瘍溶解性ウイルス療法。このBOND-003試験は、BCGに応答しなかった高リスク非筋層浸潤上皮内膀胱癌(NMICB CIS)の患者を組入れて、週一回のペースで6回投与し、反応なら維持療法に移行、不応の場合は導入療法を繰り返した。66人の中間解析では完全反応率75.7%、105人の解析では75.2%だったが、今回の110人の解析は74.5%となった。反応持続期間はまだメジアンに未達、24ヶ月反応持続率は56.6%だった。G3以上の治療関連有害事象や治療関連有害事象による投与中止は発生しなかった。

    尚、上記はcomplete response at any timeと呼ばれているので、通常の、反応が一定期間持続したものだけをカウントする確認完全反応率とは異なるのかもしれない。

    日本ではキッセイ薬品が開発販売権を取得、上記試験に参加している。

    リンク: CG Oncologyのプレスリリース


    ゼップバウンドがガチンコで勝利
    (2024年12月4日発表)

    イーライリリーはGLP-1/GIP作用剤Zepbound(tirzepatide)の後期第3相SURMOUNT-5試験で体重低下作用がノボ ノルディスクのGLP-1作用剤Wegovy(semaglutide)を有意に上回ったと発表した。夫々の偽薬対照試験の成績から予想されたことではあるが、直接比較試験で確認したのは意義がある。但し、優越に係わるもう一つの重要な指標である、忍容性の比較は言及されていない。

    米国の施設で肥満、または一つ以上の体重関連リスク因子を持つオーバーウェイトで、糖尿病ではない患者751人を組入れたオープンレーベル試験。承認最大用量を目標に滴定し、最大忍容量(Zepboundは10または15mg、Wegovyは1.7または2.4mg)で総計72週間治療したところ、体重が各群20.2%と13.7%低下し、有意な差があった。

    尚、この二社が治験成績を発表する時はefficacy estimandベースの数値を主、米国のレーベルに記載されるtreatment policy estimand(treatment regimen estimand)ベースを補足として記述することが多いが、上記の数値は後者で前者は開示されていない。後者は投与を止めたり他剤を追加した症例も最後まで追跡するので、忍容性もある程度反映される。

    両剤は用量漸増段階が異なり、Zepboundは2.5mgで開始、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mgと6段階ある。米国のレーベルでは維持用量は5mg、10mg、または15mgを進めているが、上記試験では5mgが欠けている。Wegovyは0.25mgで開始、5段階で15mgに到達し、推奨維持用量は上記試験と同じ1.7mgまたは2.4mg。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース


    Relmada社、抗鬱剤が第3相で3連敗
    (2024年12月4日発表)

    米国フロリダ州の医薬品開発会社、Relmada Therapeutics(Nasdaq:RLMD)は、REL-1017(esmethadone)の第3相Reliance II試験で独立データ監視委員会が無益認定し、続行しても主目的達成する可能性は低いと判定したことを公表した。第3相は既に二本フェールしており、もう一本がもうそろそろ判明するはずだが、期待しにくい。

    methadoneのS異性体でNMDA受容体阻害作用は持つがオピオイド作用は小さい。第3相は初日に75mg、2日目以降は25mgを一日一回経口投与し4週後のMADRS10改善を偽薬と比較したReliance III単剤投与試験とReliance I追加投与試験がフェール。今回は負荷用量なしで追加投与したが、3連敗となった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    イミフィンジを筋層浸潤膀胱癌に承認申請
    (2024年12月6日発表)

    アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を米国で筋層浸潤膀胱癌に適応拡大申請し受理されたと発表した。全摘術の前に化学療法と併用で、術後に単独で、投与する。優先審査を受け、審査期限は25年第2四半期。欧日でも申請中。

    術前化学療法と比較した第3相NIAGARA試験で、EFS(無イベント生存期間)のハザードレシオが0.68だった。副次的評価項目の全生存期間のハザードレシオは0.75、2年生存率は82.2%、化学療法群は75.2%だった。G3/4やG5の治療関連有害事象発生率は両群大差なかった。

    尚、共同主評価項目であるpCR(病理学的完全反応率)は、6月の学会発表時も、今回も、プレスリリースに記されていない。pCR達成なら術後投与は必要か、という議論があったが、データはどうなっているのだろう?

    リンク: 同社のプレスリリース


    ロシュ、抗CD20/CD3抗体をより早期のDLBCLに承認申請
    (2024年12月5日発表)

    ロシュは米国でColumvi(glofitamab-gxbm)の適応拡大を申請し受理されたと発表した。一次治療歴を持つ自家造血幹細胞移植不適の再発/難治DLBCL(びらん性大細胞型B細胞リンパ腫)にgemcitabine及びoxaliplatinのレジメンと併用するもの。gemcitabine、oxaliplatin及びrituximabを併用するレジメンと比較した第3相STARGLO試験で全生存期間のハザードレシオが0.59、p=0.011、メジアン値は未達、対照群は9ヶ月だった(23年3月カットオフ値)。審査期限は25年7月20日。

    B細胞のCD20と細胞毒性T細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。23年に米欧で、成人の再発/難治DLBCLの3次治療に単剤投与することが加速承認/条件付き承認された。今回、延命効果が確認できたので通常承認に切り替わるのではないか。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    イミフィンジが小細胞性肺癌に適応拡大
    (2024年12月4日発表)

    FDAはアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を限局型小細胞性肺癌に用いることを承認した。同時化学放射線療法を受け疾病安定化以上の応答があった患者の維持療法として持ちいる。抗PD-(L)1抗体がこの用途で承認されたのは初めて。

    第3相ADRIATIC試験でメジアン生存期間は55.9ヶ月と偽薬群の33.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.73、p=0.01だった。共同主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオは0.76、p=0.016だった。G3/4有害事象発生率は両群24%強。

    日本でも適応拡大申請中。

    リンク: FDAのプレスリリース


    Merus社のNRG1標的薬が承認
    (2024年12月4日発表)

    FDAは、オランダのMerus(Nasdaq:MRUS)のBizengri(zenocutuzumab-zbco)をNRG1遺伝子融合のある非小細胞性肺癌と膵腺腫に加速承認した。全身性治療中または後に進行した進行、切除不能、転移癌が適応になる。単群試験で非小細胞性肺癌64人のcORR(確認客観的反応率)が33%、メジアン反応持続期間は7.4ヶ月、膵腺腫30人ではcORR40%、反応持続期間のレンジは3.7~16.6ヶ月だった。枠付き警告は胚胎毒性、警告事前注意事項は点滴関連反応、間質性肺疾患、左心室機能不全。

    NRG1はher3のレガンドであるneuregulin 1の遺伝子で、非小細胞性肺癌や膵臓腺癌の1%前後で他の遺伝子と癌原性融合が見られる。Bizengriはher2とher3に結合する二重特異性抗体で、両受容体のヘテロダイマーカー化を阻害してPI3K/AKT/mTOR経路の活性化を抑制すると共に、抗体依存的細胞毒性を発揮する。米国法人と同じくマサチューセッツ州を本籍とする未上場企業、Partner Therapeuticsが米国単独販売権を持っている。審査期限より2ヶ月早い承認なので上市準備が大変だ。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    24/12/29Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfontカプセル、古典的先天性副腎過形成)
    24/12/30Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfont経口液)
    25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
    25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
    25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
    25/1/2Vertexのvanzaトリプル(vanzacaftor、tezacaftor、deutivacaftor、嚢胞性線維症)
    25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
    25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
    25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
    25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
    25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
    25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)



    今週は以上です。

    2024年11月30日

    第1083回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 懐かしい抗鬱剤のナルコレプシー試験が成功 
    • MSD、Winrevairのもうちょっと重症の試験が成功 
    • トルカブの前立腺癌試験が成功 
    • ASH:インサイトの抗CD19抗体の三剤併用試験 
    • Cassava社、アルツハイマー試験がフェール 
    • Biohaven社、脊髄筋萎縮症の第3相がフェール 
    • ロシュ、抗TIGHT抗体の第3相がまたフェール 
    • GSK、抗BCMA抗体薬物複合体を再承認申請 
    • アムヴトラを心筋症型に適応拡大申請 
    • アルドース還元酵素阻害剤の承認審査が完了 
    • EUでOcalivaの条件付き承認が失効 
    • BridgeBioのTTR安定化剤が承認 
    • FDA、Skysona患者における血液癌症例を検討 
    • EUもアステラスのVMS治療薬の規制強化へ 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    懐かしい抗鬱剤のナルコレプシー試験が成功
    (2024年11月26日発表)

    Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、AXS-12(reboxetine)の第3相ナルコレプシー試験、ENCOREが成功したと発表した。先に成功した第3相SUMPHONY試験の被験者のうち68人を組入れて全員に6ヶ月間投与した後に、偽薬スイッチ群と継続投与群に無作為化割付けして3週間の盲検対照試験を行ったところ、週間脱力発作頻度が偽薬群は10.29回増加したが試験薬群は1.32回の増加に留まり、有意な差があった。日中の眠気や集中力評価でも有意差があった。米国で承認申請に向けて当局と相談する考え。同社によると、特許は少なくとも2039年まで有効、希少疾患薬指定を受けているので承認されれば7年間の排他権を獲得できる。

    選択的ノルエピネフリン再取込阻害剤。ファルマシアが97年にEUで抗鬱剤として承認取得したが、米国は2回の承認可能通知を経て01年に非承認通知を受領した。Axsomeはファルマシアを03年に買収したファイザーから20年に開発商業化権を取得した。SYMPHONY試験では第5週の週間脱力発作頻度が偽薬群は66%減、試験薬群は83%減で率比は0.49、p=0.18だった。

    リンク: Axsome社のプレスリリース


    MSD、Winrevairのもうちょっと重症の試験が成功
    (2024年11月25日発表)

    MSDはWinrevair(sotatercept-csrk)の第3相ZENITH試験の独立データ監視委員会が中間解析で繰上げ終了を勧告したと発表した。オープンレーベル延長試験に移行して、全員が試験薬による治療を受けられるようにする。

    WinrevairはactivinのIIa型受容体とIgG1の融合蛋白で、24年に米欧で成人の肺動脈高血圧症(WHOグループI)用薬として承認された。日本でも先日、承認申請。米国ではWHO機能分類に基づく限定は課されていないが、エビデンスとなった第3相STELLAR試験はIIとIIIに分類される患者324人を組入れており、主評価項目の6分歩行テストと、副次的複合評価項目の死亡/臨床的悪化リスクの両方で偽薬比良績を上げた。

    今回の試験はIIIとIVで死亡リスクが高い患者172人を組入れて、全死亡/肺移植/増悪による24時間以上の入院のリスクを偽薬と比較した。有害事象や深刻有害事象の群間の偏りは見られなかった。

    肺動脈高血圧症(WHOグループI:特発性、遺伝性、結合組織関連のもの)におけるWHO機能分類はメジアン生存期間と関連性が見られ、I(身体活動に制約なし)とII(呼吸困難などが通常身体活動で発生)は6年、III(通常以下の身体活動でも発生)は2.5年、IV(安静時でも呼吸困難など)は6ヶ月と言われる。IVの場合は延命効果が最も重要に感じられるが、どうだったのだろうか?そもそもIVの組入れ数はどの程度あったのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    トルカブの前立腺癌試験が成功
    (2024年11月25日発表)

    アストラゼネカはTruqap(capivasertib)の第3相CAPItello-281試験で主目的を達成したと発表した。PTEN欠乏型de novo転移性(診断当初から転移が見られる)ホルモン感受前立腺癌(HSPC)の一次治療としてabirateroneとアンドロゲン枯渇療法の併用レジメンに追加する便益を検討したもので、PFS(無進行生存期間、放射線学的評価)が偽薬比で統計的に有意な、かつ臨床的に意味のある、延長を示した。PTEN欠乏denovo mHSPCは米国で年5万人程度が診断されるとのこと。

    TruqapはPI3Kカスケードを調停するAKTの阻害剤。23年に米国でPIK3CAやATK1、PTENに変異のあるホルモン受容体陽性her2陰性の局所進行/転移乳癌の二次治療薬としてfulvestrantと併用することが承認された。今年は日欧でも承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ASH:インサイトの抗CD19抗体の三剤併用試験
    (2024年11月25日公開)

    ASH(米国血液学会)の抄録が一般公開され、インサイトが8月に成功発表した第3相inMIND試験のトップラインが判明した。Fc加工抗CD19ヒト化抗体であるMonjuvi(tafasitamab-cxix)の濾胞性リンパ腫における便益を検討したもので、抗CD20抗体歴を持つCD19陽性CD20陽性の難治・再発濾胞性リンパ腫と辺縁帯リンパ腫を組入れて、lenalidomide及びrituximabのレジメンに追加する効果を検討したもので、主評価項目である濾胞性リンパ腫サブグループにおけるPFS(無進行生存期間、治験医評価)がメジアン22.4ヶ月と偽薬追加群の13.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.43だった。盲検独立評価によるPFSも成功した。全生存期間の解析は未成熟だがハザードレシオは0.59と好ましい方向を向いている。深刻有害事象の発生率は36%(偽薬追加群は32%)。

    Monjuviは20~21年に米欧で、lenalidomide併用でびらん性大細胞型B細胞リンパ腫に用いることが加速承認/条件付き承認された。元々はMorphoSysからライセンスしたものだが、先方がノバルティスに買収されたため、契約条件に則り権利を完全取得した。

    リンク: Sehnらの抄録(ASH 2024 LBA-1)


    Cassava社、アルツハイマー試験がフェール
    (2024年11月25日発表)

    米国テキサス州のCassava Sciences(Nasdaq:SAVA)は、simufilamの一本目の第3相軽中度アルツハイマー病試験がフェールしたと発表した。100mgフィルムコート錠を一日二回、52週間投与し効果を偽薬と比較したが、ADAS-cog12の増加は2.8点(偽薬は3.2点)、ADCS-ADLの低下は3.3点(同3.8点)と、何れもほんの少し良かっただけでp値は各0.43と0.40だった。もう一本、50mgもテストする第3相が進行していたが中止を決定した。

    simufilamは後期第2相がフェールしたが、別の研究者のラボで再解析したところ良好な成績に転じ、第3相に進んだ。この研究者はsimufilmの共同発明者で同社のコンサルタントでもあるため利益相反があるが、開示しないまま成功発表し資金調達に進んだことなどからSEC(米国証券取引委員会)の捜査を受け、4000万ドルを支払う結果となった。また、この研究者などがJournal of Neuroscience、PLOS One、そしてAlzheimer's Research and Therapyで発表した論文が次々と撤回された。このため、第3相の成否が別な意味で注目されていた。

    試験成績と合わせて資金調達も発表するのはバイオ企業の一般的な所作だが、Cassavaの事例を見ると、くれぐれも公正開示に配慮したほうが良いだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Biohaven社、脊髄筋萎縮症の第3相がフェール
    (2024年11月25日発表)

    Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-2000(taldefgrobep alfa)の第3相脊髄筋萎縮症(SMA)試験がフェールしたと発表した。但し、臨床的に意味のある差が見られたことや被験者の87%を占めたカフカス人種サブグループにおけるデータは良好なものだった。FDAと今後を相談する考え。

    ブリストル マイヤーズ スクイブからライセンスした、アドネクチンとIgG1のFc領域の融合蛋白。筋骨格細胞の成長を抑制するミオスタチンに特異的に結合する。ロシュがライセンスしてデュシェンヌ型筋ジストロフィーの第2/3相試験を実施したが中間解析で無益認定され、権利を返還した経緯を持つ。

    SMA用薬の開発では、前駆体であるプロミオスタチンを標的とするScholar Rock(Nasdaq:SRRK)の抗体、SRK-015(apitegromab)が第3相試験でHFMSE(Hammersmith Functional Motor Scale Expanded)を偽薬比有意に改善、25年第1四半期に承認申請の予定だ。一方、Biohavenは追随できなかった。

    尚、Biohaven社はファイザーに買収されたが、狙いの片頭痛領域以外のパイプラインは新生Biohavenとして22年にスピンアウトされた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ロシュ、抗TIGHT抗体の第3相がまたフェール
    (2024年11月26日発表)

    ロシュはRG6058(tiragolumab)の第3相非小細胞性肺癌Tecentriq(atezolizumab)併用試験で全生存期間の最終解析がフェールしたと発表した。少なくとも数値上は良好に推移していたはずなので意外な結果だ。

    このSKYSCRAPER-01試験は日本も含む世界の医療施設で一次治療を受けるPD-L1高発現局所進行切除不能/転移非小細胞性肺癌の患者534人を組入れて、偽薬またはRG6058(600mg3週毎)をTecentriq(1200mg3週毎)と併用し、PFS(無進行生存期間)と全生存期間を比較した。PFSは22年にフェールしたが、全生存期間の中間解析は未成熟ながら数値上は上回る、と報じられ、手違いがあった模様で23年に公表された第2次中間解析はハザードレシオ0.81(95%上限1.03)、メジアン値は偽薬群16.7ヶ月、試験薬群は22.9ヶ月というものだった。

    抗PD-(L)1抗体とシナジーが期待された抗TIGHT抗体だが、これまでに複数のコンパウンドの複数の第3相がフェールしている。RG6058とTecentriqの併用は、SKYSCRAPER-06試験(局所進行切除不能/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療、pemetrexed及び白金薬と併用)とSKYSCRAPER-02C試験(進展型小細胞性肺癌一次治療、carboplatin及びetoposideと併用)が既にフェールしている。SKYSCRAPER-08試験(中国などアジアでの切除不能/転移食道扁平上皮腫一次治療、paclitaxel及びcisplatinに併用)は成功したが、今日の標準療法であるKeytruda(pembrolizumab)が対照群で採用されておらず、4剤対2剤の比較であるため受け止めが難しい。Keytrudaの3剤併用試験の数値と見比べると良さそうに見えるが、承認申請したという話は聞かない。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    GSK、抗BCMA抗体薬物複合体を再承認申請
    (2024年11月25日発表)

    GSKはBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)を多発骨髄腫の二次治療薬として承認申請し受理されたと発表した。審査期限は25年7月23日。BioWaの技術で開発したBCMAを標的とする抗体と、薬物の複合体。Velcade(bortezomib)またはPomalyst(pomalidomide、そしてdexamethasoneと3剤併用する。

    20年に多発骨髄腫のサルベージ・セラピーとして単剤投与する用法で米国で加速承認、EUでも条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験に位置付けられたDREAMM-3試験(3次治療、単剤v.s. pomalidomide・dexamethasone併用)がフェールし、23年2月に米国で、今年3月にはEUでも、承認取消となっていた。前後して、DREAMM-7試験と同8試験が成功、EUでは7月に承認申請受理、日本でも9月に申請されたところだ。

    リンク: GSKのプレスリリース


    アムヴトラを心筋症型に適応拡大申請
    (2024年11月25日発表)

    Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は米国でAmvuttra(vutrisiran)をATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)に適応拡大申請し受理されたと発表した。優先審査バウチャを利用したため審査期限は25年3月23日になった。日本でも11月に一変申請された。第3相試験で全死亡・心血管イベントを偽薬比28%抑制、全死亡だけの解析でも、tafamidis服用者や非服用者だけの解析でも、同様な結果だった。

    トランスサイレチンの遺伝子を標的とする短鎖RNA介入薬。22年に米欧日でトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー用薬として承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    アルドース還元酵素阻害剤の承認審査が完了
    (2024年11月27日発表)

    米国NY州のApplied Therapeutics(Nasdaq:APLT)はAT-007(govorestat)を古典的ガラクトース血症の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAは審査の途中で重要な追加資料が提出された場合に審査期間を最大3ヶ月、延長することができるが、今回の事例では申請の3ヶ月後という異例の早さで延長されており、前途が危ぶまれた。一方で、当初は検討されていた諮問委員会上程が結局見送られ、良いほうに向かっているようにも感じられた。会社側はFDAの指摘事項などを開示しておらず、不透明感が更に高まっている。

    ガラクトース血症は常染色体劣性遺伝子疾患。ガラクトースをグルコースに分解する酵素が欠乏、ガラクチトールなどの毒性代謝物が組織に蓄積する。AT-007はガラクトースをガラクチトールに変換するアルドース還元酵素の中枢神経浸透性、選択的な阻害剤。2~17歳の患者を組入れた第3相がフェールしたが日常生活機能や行動機能、認知機能などの指標は好ましい変化を見せた。

    SORD欠乏症の第2/3相試験も有望な結果になった模様で、25年第1四半期に承認申請する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    EUでOcalivaの条件付き承認が失効
    (2024年11月24日発表)

    英国のAdvanz Pharmaは、EUでOcaliva(obeticholic acid)の承認が取消されたと発表した。16年に、ウルソデオキシコール酸に十分応答しない原発性胆汁性胆管炎の治療薬として承認されたが、承認継続の条件である市販後薬効確認試験がフェールし、今年8月に欧州委員会が取消した。欧州連合一般裁判所が暫定的停止命令を出し一旦はペンディングとなったが、この命令が更新されなかったため、即時承認取消となった。同社は引き続き係争する考え。また、EU加盟国の承認を条件に、人道的供給制度による提供も考えている。

    米国のIntercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)からライセンスした、ウルソデオキシコール類縁体。米国でも16年に加速承認されたが、取消されるのではないか。

    リンク: Advanz社のプレスリリース

    【承認】


    BridgeBioのTTR安定化剤が承認
    (2024年11月25日発表)

    FDAは、米国カリフォルニア州のBridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)のAttruby(acoramidis)を成人の変異型または野生型ATTR-CM(トランスサイレチン調停アミロイドーシスによる心筋症)の治療薬として承認した。臨床試験で全死亡/心血管疾患入院のハザードレシオが0.645だった。メーカー側はこれまで塩酸塩ベースで400mgのフィルムコート錠2錠を一日二回ずつ服用、としていたが、レーベルでは356mgフィルムコート錠と記されている。尚、ATTR-CMのカッコ内の説明が上記Amvuttraに関する記述と一致しないが、レーベルの記載に従った(もともとATTR調停疾患の和名は英語の直訳とやや異なっている)。

    第3相ATTRibute-CM試験で主評価項目である心血管関連イベントのWin Ratioが偽薬比1.8、p<0 .0001="" br="" in="" ratio="">
    報道によると、薬価は28日分が$18,759と、ファイザーのVyndaqel/Vyndamax(tafamidis meglumine/tafamidis)並みに設定された。臨床試験に参加した患者には生涯に亘り無償提供する。

    バイエルが商業化権を持つ欧州でも承認申請中。日本はアストラゼネカの子会社が19年に開発商業化権を取得した。Kumar創業者兼CEOはプレスリリースの中で次は欧州、日本、そしてブラジルとと言っている。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: BridgeBio社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    FDA、Skysona患者における血液癌症例を検討
    (2024年11月27日発表)

    FDAは、22年に承認したcALD(脳副腎白質ジストロフィー)の遺伝子療法、Skysona(elivaldogene autotemcel)の血液癌リスクについて、レーベル変更のような措置が必要か検討していることを明らかにした。既知のリスクであるが、懸念されたとおりに、治療後の追跡期間が延びるにつれて、発症例が増えてきたため。深刻な疾患なので承認を取消すような話にはならないのではないか。

    cALDは進行性不可逆的神経変性疾患を齎すX染色体性遺伝子疾患。治療しないと5年内に死亡と言われる。Skysonaはbluebird bio(Nasdaq:BLUE)が開発したex vivo遺伝子療法。患者で欠乏するABCD1遺伝子の相補DNAを、レンチウイルス・ベクターを用いて患者から採取したCD34陽性造血幹細胞に導入し、培養して患者に投与する。臨床試験成績の事後的解析に即して、4~17歳の早期活性期患者が適応になる。発症後に主要な機能障害を被らずに24ヶ月生存する確率が推定72%(n=11)と、自然歴データの43%(n=7)を上回った。

    最も重要な副作用が血液学的腫瘍。承認時点では、二本の試験合計で67人中3人がMDS(骨髄異形成症候群)を発症していた。3例ともウイルスベクターが癌原遺伝子(癌遺伝子に変わる可能性のある遺伝子)に組み込まれており、少なくとも2例ではSkysonaがMDSのドライバーとなった可能性があるようだ。挿入されるのが癌原遺伝子であるせいか、治療から発症まで時間がかかり、MECOM遺伝子に統合した2人は1年後と2年後、MECOMのパラログ(遺伝子重複により変化したもの)であるPRDM16に統合した、第1号被験者は、7.5年後だった。このため、時間が経つにつれて発症例が増加することが当初から危惧されていた。

    実際、10月にNew England Journal of Medicineに掲載された論文では、67人中7人に罹患率が上昇している。うちMDSは6人、AML(急性骨髄性白血病)が1人で、造血幹細胞移植後に移植片対宿主病を発症した1人が死去した。

    尚、EUでは米国より早く21年に承認されたが、bluebird社は、もう一つの遺伝子治療薬も含めて、薬価に不満を示し承認返上した。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: Duncanらの論文(New England Journal of Medicine、24年10月9日)


    EUもアステラスのVMS治療薬の規制強化へ
    (2024年11月29日発表)

    EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス委員会、PRACは、11月の会議で、アステラス製薬の閉経期中重度VMS(血管運動神経症状)治療薬、Veoza(fezolinetant、米国名Veozah)について、肝障害リスクに注意を促すDHPC(直接的医療従事者向け通信;ドクターレター)を発出することで合意した。EMA内の手続きを経てメーカーが送付する。

    このNK3受容体拮抗を投与すると肝機能検査値異常が表れることがあるが、23年に米欧で承認された段階では、総ビリルビンの異常上昇(2xULN)を伴い肝障害が懸念される症例は発生していなかった。しかし、市販後報告が寄せられたことから、米国では今年8月に警告・事前注意事項が強化され、当該症例は発生しておらず投与を続けても数値が治療開始前の水準に戻るという文言がレーベルから削除され、肝機能検査を行うタイミングは開始前、開始の3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後の4回だったが1ヶ月後、2ヶ月後が追加され、投与を中止すべき閾値が示された。

    今回、PRACも、1ヶ月後と2ヶ月後の検査を追加する考え。

    患者は、肝障害に関連しているかもしれない兆候症状が表れたら、服用を止めて医療従事者に相談する。具体例として、PRACのリリースは、疲労、掻痒、黄疸、暗色尿、食欲低下、腹痛を挙げている。米国のレーベルでは、更に、悪心嘔吐、白色便も列挙している。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年11月推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群
    24年12月推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、小細胞性肺癌)
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    24/12/29Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfontカプセル、古典的先天性副腎過形成)
    24/12/30Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfont経口液)
    25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
    25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
    25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
    25/1/2Vertexのvanzaトリプル(vanzacaftor、tezacaftor、deutivacaftor、嚢胞性線維症)
    25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
    25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
    25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
    25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
    25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
    25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)


    今週は以上です。

    2024年11月23日

    第1082回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 次期厚生省長官の挑戦状 
    • SGLT阻害剤の一型糖尿病承認が遅延、リストラへ 
    • 破産したワクチン・メーカーが自主回収に着手 
    • CETP阻害剤の第3相、二本目も成功 
    • 抗CD40L抗体のSLE試験が成功 
    • GSK、iBAT阻害剤のPBC掻痒緩和試験が成功 
    • 経口IL-23受容体拮抗剤の第3相が成功 
    • トレムフィア皮下注用を導入療法にも申請 
    • Arrowhead社、家族性カイロミクロン血症のRNA介入薬を承認申請 
    • FDA諮問委員会、Xa阻害剤中和薬の功罪を検討 
    • Jazzのher2陽性胆道癌用薬が承認 
    • ビンゼレックスが米国でも化膿性汗腺炎に適応拡大 
    • 初のメニン阻害剤が承認 
    • 諮問委員会、クロザピンのREMS緩和を支持 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    次期厚生省長官の挑戦状
    (2024年10月26日書き込み)

    『FDAの公衆衛生戦争は間もなく終わる。サイケデリックやペプチド、幹細胞、生乳、高気圧酸素療法、キレート化合物、イベルメクチン、ヒドロキシクロロキン、ビタミン、クリーン・フード(加工度の低い食品)、日射、エクササイズ、ニュートラシューティカルズなどに対する強力な抑圧のことだ。人々の健康を推進するものだが、製薬会社が特許を取得できない。もし諸君がFDAで現在のシステムの一部として働いているならば、二つのメッセージを送りたい。1、君たちの記録を保管せよ。2、荷物を鞄に詰めよ。』

    (大統領はワクチンに慎重。FDA長官有力候補はCOVID-19にワクチンは不要と主張したことがある。レイマンズ・コントロールは民主主義の根幹と学校で習ったが、分業の効用も習った。)

    リンク: Robert F. Kennedy Jr.のXにおける書き込み


    SGLT阻害剤の一型糖尿病承認が遅延、リストラへ
    (2024年11月22日発表)

    Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)は、心不全治療薬Inpefa(sotagliflozin)の販売部隊をリストラし、臨床開発に注力すると発表した。既存患者向けの製造販売は継続する。肥大性心筋症の第3相や他のコンパウンドの開発は続行する。

    19年に米国で心不全や心血管リスク因子を持つ二型糖尿病や慢性腎疾患の合併症リスクを抑制する薬として承認されたが、元々の目標適応症である一型糖尿病用途は19年に審査完了通知を受領し、二回目のチャレンジも、12月のPDUFAデートを前にして、FDAから申請に欠陥があるため承認審査の最終段階であるレーベルの内容や市販後コミットメントに関する協議に進むことができないという通知を受領した。一型糖尿病では特にケトアシドーシスのリスクが高まることが難点。19年にFDA諮問委員会では8対8で賛否が分かれたが、今年10月の諮問委員会では3対11で反対が大勢を占めた。今回も審査完了に終わると決まったわけではないが、営業体制を維持しても無駄に終わる可能性があると考えたのだろう。

    欧州では19年に一型糖尿病の血糖治療薬として承認されたが、認可保有者であるGuidehouse Germany GmbHの要請に基づき、22年に取消された。

    リンク: 同社のプレスリリース

    破産したワクチン・メーカーが自主回収に着手
    (2024年11月15日発表)

    米国マサチューセッツ州のVBI Vaccinesは、B型肝炎ワクチンPreHevbrioの自主回収を開始すると発表した。直ちに流通や使用を中止しなければならない。臨床試験で抗体陽転率がGSKのEngerix-Bと非劣性であることを確認し21年に米国で、22年にはEUでも承認を取得したが、23年の売上高が310万ドルと低迷、今年7月にカナダで債務整理法の適用を、米国でも破産法第15章の適用を、申請した。身売りなどの戦略的オプションを検討しているはずだが、なけなしの製品を自主回収するということは、供給継続を諦めたのだろうか?尚、Nasdaqは8月に上場廃止になっている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【新薬開発】


    CETP阻害剤の第3相、二本目も成功
    (2024年11月20日発表)

    オランダのNewAmsterdam Pharma(Nasdaq:NAMS)は、CETP阻害剤obicetrapibとNPC1L1阻害剤ezetimibeの固定用量合剤(FTC)のLDL-C低下作用を検討した第3相試験で主目的を達成したと発表した。単剤の試験は既に一本が成功、もう一本は年内に開票予定で、25年に承認申請に向かいそうだ。

    このTANDEM試験は米国の施設でヘテロ接合型家族性高脂血症やアテローム硬化性心血管疾患及び高リスク患者で最大忍容量のコレステロール治療薬を服用してもLDL-C値が70mg/dL以上の患者407人を、偽薬、ezetimibe 10mg、obicetrapib 10mg、FDC 10/10mgの4群に無作為化割付けして12週間投与し、LDL-C低下作用を比較した。偽薬調整後低下率は各群20.7%、31.9%、48.6%となり、FDCは偽薬群や各単剤投与群を有意に上回った。共同主評価項目であるobicetrapib単剤群と偽薬群の比較も成功した。薬物関連治療時発現有害事象やそれに伴う投与中止はobicetrapib単剤投与群だけやや高いが、イベント数が一桁と少ないため、ノイズの可能性も否定できないだろう。

    一本目のBROOKLYN試験では偽薬調整後で36.3%低下した。HDL-Cは同138.7%増、スタチンが殆ど作用しないLp(a)は同45.9%低下した。薬物関連治療時発現有害事象の発生率は6.8%(偽薬群は4.3%)、同深刻有害事象は6.8%(同5.6%)、同投与中止は14.4%(7.6%)でいずれも偽薬群より低かった。

    日本の施設も参加する心血管アウトカム試験、PREVAILは26年頃の開票の見込み。

    obicetrapibは2013年にDezima Pharmaが田辺三菱製薬から導入。Dezimaは15年にアムジェンが買収し後期第2相試験を実施したが、類薬の第3相がフェールしたせいか、20年にNewAmsterdamに売却した。

    リンク: NewAmsterdamのプレスリリース


    抗CD40L抗体のSLE試験が成功
    (2024年11月19日発表)

    UCBとバイオジェンは、CDP7657(dapirolizumab pegol)が第3相SLE(全身性エリテマトーデス)試験で主目的を達成したと発表した。もう一本開始して、成功なら承認申請する考え。

    CD40Lに結合する、PEG化抗体フラグメント。このPHOENYCS GO試験は中重度活性期SLE患者321人を組入れて偽薬または試験薬を48週間投与した。主評価項目は複合評価奏効率で、BILAG(British Isles Lupus Assessment Group) Disease Activity Index 2004が改善し、悪化した臓器がなく、SLEDAI-2000やPGAに基づく評価が悪化しなければ奏効と判定した。結果は49.5%と偽薬群の34.6%を有意に上回った。

    副次的評価項目の筆頭であるBICLA奏効率は46.6%対38.3%で有意差なし。SRI-4やSLEDAI-2Kでは高度な有意差が見られたが、上位解析がフェールしたため統計学的に有意とは言えなくなってしまった。

    治療時発現有害事象は各群82.6%と75.0%。日和見感染症の発生率は各2.8%と0.9%。血栓塞栓症の有無には言及されていない。

    バイオジェンとその前身企業はBG-9588(ruplizumab)とIDEC-131/E6040(toralizumab)の二種類の抗CD40L抗体を開発したことがあるが、血栓塞栓リスクで開発中止となり、2003年にUCBから上記の共同開発権を取得した。承認申請に手が掛かるまでずいぶん時間がかかった。

    リンク: 両社のプレスリリース


    GSK、iBAT阻害剤のPBC掻痒緩和試験が成功
    (2024年11月19日発表)

    GSKは、GSK2330672(linerixibat)の第3相GLISTEN試験が成功したと発表した。米日ポーランドなどの施設で中重度胆汁鬱滞性掻痒症を伴う原発性胆汁性胆管炎(PBC)の成人238人を組入れて24週後の月間掻痒尺度(0~10、大きいほど重い)を偽薬と比較したところ、統計的に有意な差があった。数値は学会などで発表する考え。尚、最近よく見る、臨床的に意味のある、という文言は記されていない。

    類薬ではAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)のBylvay(odevixibat)が21年に米欧で承認されたが、適応は進行性家族性肝内胆汁鬱滞症(PFIC)で、同一ではない。PBC用薬は承認取消が危惧されるIntercept PharmaceuticalsのOcaliva(obeticholic acid)以外に、PPARアゴニストであるGenfit(Nasdaq:GNFT)のIqirvo(elafibranor)が今年6月に米国で、9月にはEUでも、承認され、CymaBay Therapeutics(Nasdaq:CBAY)のLivdelzi(seladelpar)も今年8月に米国で承認されたが、効能はアルカリフォスファターゼ(ALP)の減少で掻痒緩和効果は見られない。

    リンク: GSKのプレスリリース


    経口IL-23受容体拮抗剤の第3相が成功
    (2024年11月18日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンは、JNJ-2113(icotrokinra)の最初の第3相プラク乾癬試験二本で目的を達成したと発表した。実薬対照試験も進行中で25年上期に開票する見込み。前後して承認申請されるのではないか。

    米国カリフォルニア州のProtagonist Therapeutics((Nasdaq:PTGX)からライセンスした、経口IL-23受容体拮抗ペプチド。STAT3リン酸化やインターフェロン・ガンマの生成を抑制し、炎症を緩和する。二本のうちICONIC-LEAD試験は12歳以上の中重度プラク乾癬患者を組入れて一日一回、16週間投与した。共同主評価項目のうち、PASI90(Psoriasis Area and Severity Indexが90%以上改善)達成率は偽薬群の4.4%を上回る49.6%だった。IGA奏効率(医師による全般的評価スコア(レンジは0~5点)が0または1に改善し、かつ、ベースライン比2点以上改善)は各群8.3%と64.7%だった。第24週には更に上昇した。治療時発現有害事象は各群同程度だった。

    もう一本のICONIC-TOTALは特定の部位(頭皮、生殖器、手掌、足裏)に中等度以上の患部があるプラク乾癬に対する効果を検討した。主評価項目が罹患部位ごとに異なるせいか、IGAベースの解析が偽薬比有意だったことだけ公表された。

    残りの第3相試験、ICONIC-ADVANCEの1と2は、中重度プラク乾癬の偽薬対照試験だが、副次的評価項目としてブリストル マイヤーズ スクイブのTYK阻害剤Sotyktu(deucravacitinib)との比較も行っている。25年には乾癬性関節炎の第3相も開始する予定。

    リンク: JNJのプレスリリース

    【承認申請】


    トレムフィア皮下注用を導入療法にも申請
    (2024年11月22日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗IL-23p19サブユニット抗体Tremfya(guselkumab)の皮下注用製剤を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の導入療法として用法追加申請した。400mgを第0、4、8週に投与する。ASTRO試験で第12週寛解率が偽薬比で統計的に有意に、且つ臨床的に意義のある差で、上回った。

    Tremfyaは米国で成人の中重度活性期乾癬、活性期乾癬性関節炎、中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療薬として承認され、中重度活性期クローン病に適応拡大申請中。このうち、潰瘍性大腸炎は導入療法として点滴静注用製剤を200mgずつ、第0、4、8週に投与し、維持療法で皮下注用製剤を100mg8週毎、または200mg4週毎、投与する用法。今回の申請が承認されれば、最初から皮下注で治療できることになる。

    ライフ・サイクル・マネジメントを兼ねて皮下注用新製剤を上市する例が増えているが、Tremfyaはヒアルロン酸分解酵素を添加する技術を用いていない。

    ところで、なぜ最初から導入も維持も皮下注で承認申請しなかったのだろうか?また、他の適応では使えないのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    Arrowhead社、家族性カイロミクロン血症のRNA介入薬を承認申請
    (2024年11月18日発表)

    米国カリフォルニア州のArrowhead Pharmaceuticals(Nasdaq:ARWR) は、ARO-APOC3(plozasiran)を家族性カイロミクロン血症用薬としてFDAに承認申請したと発表した。25年に他の地域でも申請する考え。

    カイロミクロン症では、VLDLなどが保持するトリグリセライド(TG)の分解がアポリポ蛋白C-IIIにより妨げられ、TG値などが上昇する。急性膵炎などのリスク因子。plozasiranはこのアポC-IIIを『沈黙』させるRNA介入薬。第3相試験で25mgまたは50mgを3ヶ月毎皮下注したところ、第10月の空腹時TG値が偽薬比で夫々メジアン80%と78%低下した。二群のプール分析で急性膵炎のリスクも有意に抑制した。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、Xa阻害剤中和薬の功罪を検討
    (2024年12月21日報道)

    FDAはCTGTAC(細胞、組織、遺伝子療法諮問委員会)を招集し、アストラゼネカが市販後コミットメントを充足するために提出した、AndexXa(不活化凝固因子Xa(遺伝子組換え)-zhzo)のANNEXA-1試験について意見を聞いた。票決が行われなかったためコンセンサスは不明だが各種報道によると、適応対象を抑え気味にすることを好む意見が多かったようだ。

    AndexXaはXa阻害剤の中和薬。Xa阻害剤は血栓塞栓性疾患のリスクを抑制するが、止血も抑制するため、出血事故時には作用を止める必要がある。AndexXaは血液凝固第Xa因子の類縁体で、rivaroxabanやapixabanを服用している患者が命に係わる/管理不能な出血を被った時の中和薬として米国で加速承認、EUで条件付き承認、日本(エドキサバントシル酸塩水和物の中和も含む)で承認されている。第3相ANNEXA-4単群試験で評価可能47人中79%が12時間内に止血に成功した。一方で、67人中18%で血栓性事故が発生した。

    ANNEXA-1試験は上記2剤を服用してから15時間内に脳内出血を発症した成人452人を組入れて臨床的便益と危険を偽薬と比較したもの。主評価項目の止血奏効率(複合評価項目)は67%と通常医療群の53%を有意に上回ったが、内訳を見ると、便益は専ら血腫の増加抑制で、神経学的、機能的評価尺度に基づく臨床的評価は大差なかった。危険面では30日血栓性イベント発生率が14.6%と対照群の6.9%を大きく上回り(New England Journal of Medicine誌に掲載された論文抄録の数値より大きい)、血栓関連死亡率も2.5%対0.9%で上回った。

    加速承認を受けた製薬会社は市販後薬効確認試験を実施して便益と危険を確認する責務があり、通常は、その結果に基づき加速承認が本承認に切り替わる。しかし、今回は、加速承認取消の当否は諮問対象外だった。

    Xa阻害剤は血栓塞栓を抑制するが出血事故のリスクが高まる。当然、中和すると出血を抑制できるが血栓塞栓のリスクが高まる。ワン・サイズ・フィット・オールではないので、医師と患者が相談して裁量することが望まれる。しかし、基準も示さずに丸投げするのは無責任の誹りを免れない。着地点を見つけるのは難行だ。

    リンク: MedPage Todayの報道

    【承認】


    Jazzのher2陽性胆道癌用薬が承認
    (2024年11月20日発表)

    FDAは、Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のZiihera(zanidatamab-hrii)を治療歴のある切除不能/転移her2陽性胆道癌用薬として加速承認した。IHC法のher2発現検査で3+なら適応になる。

    抗her2抗体はtrastuzumab系とpertuzumabで結合するエピトープが異なるが、Ziiheraは夫々のエピトープに結合する部位を持つ二重特異的抗体。第2相HERIZON-BTC-01試験でgemcitabineによる治療歴を持ちher2標的薬歴のないher2陽性(IHC法で2+と3+)胆道癌80人(うち52人はアジア人種)に20mg/kgを2週毎点滴静注したところ、cORR(確認客観的反応率、独立中央評価)が41.3%、メジアン反応期間は12.9ヶ月だった。her2発現度に基づく事後的解析で、3+におけるcORRは51.6%、メジアン反応持続期間は14.9ヶ月だったが、2+では各5.6%(達成は1名のみ)と7.5ヶ月で、後者は組入れが少ないとはいえ、物足りないものだった。そのせいか、FDAは3+のみを適応とした。

    尚、第一三共/アストラゼネカの抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)もher2発現が3+の固形癌で他に適切な治療法がない場合に用いることが承認されており、このうち胆道癌における治験成績はcORR(独立中央評価、n=22)が45.5%だった。

    zanidatamabはZymeworks(NYSE:ZYME)が創製、Jazzが米欧日などの、BeiGeneが中韓豪新の、開発商業化権を取得して共同開発している。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ビンゼレックスが米国でも化膿性汗腺炎に適応拡大
    (2024年11月20日発表)

    UCBはBimzelx(bimekizumab-bkzx)が米国で中重度化膿性汗腺炎に適応拡大したと発表した。EUでは4月に、日本では9月に、承認されている。Bimzelxの用量はプラク乾癬が320mg、乾癬性関節炎などには160mgと二種類あるが、化膿性汗腺炎は前者。初承認当時は160mg製剤しかなかったため乾癬では一度に二回、皮下注する必要があったが、10月に320mgのシリンジとオートインジェクターが米国でも承認されている。

    リンク: UCBのプレスリリース


    初のメニン阻害剤が承認
    (2024年11月15日発表)

    FDAは、米国マサチューセッツ州のSyndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)が申請したRevuforj(revumenib)を承認したと発表した。menin阻害剤の第1号で、KMT2A(リジン・メチルトランスフェラーゼ2A)遺伝子転座のある1歳以上の難治/再発急性白血病に用いる。第1/2相AUGMENT-101試験で奏効率(完全寛解、但し血液学的回復が部分的な症例も含む)が21.2%、メジアン反応持続期間は6.4ヶ月だった。警告事項は致死例もある分化症候群。警告・事前注意事項は更にQT延長と胚胎毒性。

    投与量は体重やCYP3A4強阻害薬の同時使用の有無に応じて決定する。25mg、110mg、160mgの3種類の錠剤が承認されたが、体重40kg未満に用いる25mg錠は発売が25年に遅れるため、それまではexpanded access programを通じて入手する。

    同社はUCBからライセンスして慢性移植片対宿主病治療薬として開発したNiktimvo(axatilimab-csfr)も8月に米国で承認されており、新興企業の中でも著しい成果を挙げた。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    諮問委員会、クロザピンのREMS緩和を支持
    (2024年11月19日開催)

    FDAは精神薬理学薬諮問委員会と薬品安全性リスク管理諮問委員会の共催会議を開き、統合失調症用薬clozapineに関するREMS(リスク評価緩和戦略)プログラムについて意見を聞いた。ANC(好中球絶対数)検査結果を処方者が薬局に頻繁に連絡しなければならない現行規制に関して、15人の委員のうち14人が不必要と回答した。検査自体は従来通り、頻繁に実施しなければならない。

    clozapineは米国では1989年に承認され、治療抵抗性統合失調症の貴重な選択肢になった。退役軍人会からも強い後押しを受け、連邦議員が価格に文句を付けたこともあった。好中球減少症は最も重要な副作用で、当初から様々な警告や対策が導入されていたが、2015年にFDAがREMSを導入すると、内容に厳しさに処方をためらう動きもみられるようになった。21年にメーカー各社のシステムが統合された時には、患者情報が継承されないなどのトラブルが頻発、APA(米国心理学会)が懸念を表明する事態に至った。今日ではclozapineのREMSのアクティブ登録者数が処方側35,000人超、薬局27,000超、患者149,000人超の規模に達しているが、適応になる患者は100万人前後と推測されており、REMSを逃れて治療を受けている患者も40,000人前後いると推測されている。

    今回、規制継続の是非が問われたのは、ANC検査義務に関する医療従事者研修と、ANC検査成績を医師が処方時に連絡・システム登録し薬剤師が調剤時に確認する責務。規制緩和の理由づけは好中球減少症に関する意識の向上と対処法の普及だが、導入当初から厳格に順守しなくても容認されていた模様なので、現状追認という面もあるのだろう。ANCリスクが低下したわけではなく、従来通り、開始当初は週一回、半年経ったら二週毎、さらに半年経ったら月一回のANC検査を行う必要がある。

    リンク: FDAの諮問委員会関連情報
    リンク: MedPageTodayの報道(11/20付)

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
    24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群
    24年12月推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、小細胞性肺癌)
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    24/12/29Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfontカプセル、古典的先天性副腎過形成)
    24/12/30Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfont経口液)




    今週は以上です。

    2024年11月16日

    第1081回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • GLP-1作用剤は2型糖尿病の診断を遅らせる作用 
    • Adaptimmune、NY-ESO-1志向T細胞療法の治験成績を発表 
    • menin阻害剤が別のタイプのAMLにも良績 
    • メルク、TGCT用薬の第3相が成功 
    • コセルゴは大人にも有効 
    • 抗TIGHT抗体の中止された第3相が良好な結果に 
    • タミバロテンのMDS試験がフェール 
    • Eyenovia社、近視用薬の第3相がフェールし戦略オプションを検討 
    • Regeneron、デュピクセントを蕁麻疹に再申請 
    • Dato-Dxdの申請取下げ/別件申請 
    • 遅報:卵巣癌の二新薬併用を承認申請 
    • Ocalivaは本承認されず 
    • CHMP、抗癌剤やアルツハイマー用薬などに肯定的意見 
    • AADC欠損症の遺伝子療法が承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    GLP-1作用剤は2型糖尿病の診断を遅らせる作用
    (2024年11月13日発表)

    イーライリリーは、治験論文刊行などに合わせて、GIP/GLP-1作用剤tirzepatideの第3相SURMOUNT-1試験における糖尿病予防サブスタディの概要を発表した。この試験は日本も含む米州中印などの施設で、肥満症またはリスク因子を持つオーバーウェイト、但し糖尿病ではない成人2500人超を組入れて、週一回皮下注の体重減少効果を偽薬と比較したものだが、副次的評価項目として前糖尿病サブグループ1032人の2型糖尿発症リスクを176週に亘り追跡した。3用量群のプール分析で、リスクを偽薬比93%抑制した(treatment-regimen estimandベース、efficacy estimandベースでは94%抑制)。176週までに2型糖尿病を発症した患者の比率は試験薬群が1.3%、偽薬群は13.3%だった。

    類似したデザインの試験はこれまでに数多く実施されたが、評価が難しいのは、発症を抑制したのか、発症をごまかしたのか、良く分からないことだ。tirzepatideは二型糖尿病治療薬Mounjaroとして承認されているので、治療ガイドラインに即して診断すると、試験薬群の患者は投与を開始した段階で糖尿病と判定されることになる。臨床的な意義の点では、本試験は、二型糖尿病発症の前に血糖治療を開始する便益を検討する試験と位置付けることが可能であり、その評価項目としては、腎症や心血管疾患などのハードなアウトカムが相応しい。とはいえ、3年間で13%しか発症しない患者層なので、合併症のリスクを追跡していたら有意差が出るまで何年かかるか分からない。

    類似した前例では、FDAは、投与を打ち切った後も効果が残っているかを重視する姿勢を示した。そのせいか、今回の試験では176週の投与を完了した後に更に17週間、二型糖尿病発症リスクを観察した。193週までの発症率は試験薬群が2.4%、偽薬群が13.7%だった。単純比較すると、投与を止めた後に試験薬群は1.1%、偽薬群は0.4%が発症したことになる。追加観察期間が4ヶ月程度とあまり長くないことを考えると、不可逆的な、疾病装飾的な作用を持つというほどでもないように感じられる。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: Jastreboffらの治験論文抄録(NEJM)


    Adaptimmune、NY-ESO-1志向T細胞療法の治験成績を発表
    (2024年11月13日発表)

    英国本社のAdaptimmune(Nasdaq:ADAP)は、letetresgene autoleucel(通称lete-cel)のIGNYTE-ESO試験におけるサブスタディ2のアップデート・データをCTOS(結合組織腫瘍学会)で発表した。米国で25年末までにローリング承認申請に着手する考え。

    HLA-Aの02:01、02:05、02:06アレルが提示するNY-ESO-1腫瘍抗原を認識するT細胞受容体などを自家CD4/CD8陽性T細胞にex vivoで導入した細胞療法。今回のpivotal試験は、これらのアレルを持ちNY-ESO-1陽性の10歳以上の転移/切除不能な滑膜肉腫/MRCLE(粘液型円形細胞・脂肪肉腫)を組み入れたもので、サブスタデイ1は一次治療、2はanthracyclineなどの治療歴を持つ患者が対象。ORR(客観的反応率、解析対象は商業プロセス産品を用いた62人)は42%で滑膜肉腫(34人)でもMRCLS(30人)でも同程度だった。完全反応は6人、部分反応は21人。メジアン反応持続期間は12.2ヶ月だった。

    同社は今年8月にも米国でTecelra(afamitresgene autolecel)が特定のHLAアレルを持ちMAGE-A4陽性の滑膜肉腫/MRCLE用薬として承認されており、多くの会社が挫折した技術分野で成果を上げ始めている。

    リンク: 同社のプレスリリース


    menin阻害剤が別のタイプのAMLにも良績
    (2024年11月12日発表)

    米国の医薬品開発会社Syndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)は、SNDX-5613(revumenib)の第2相AUGMENT-101試験でNPM1変異AML(急性骨髄性白血病)コフォートの解析が成功したと発表した。メジアン2次治療歴を持ち75%がvenetoclax歴も持つ難治再発型の患者64人のうち、15人(23%、95%下限14%)がCR/CRh(完全寛解/血液学的回復が部分的である点以外は完全寛解)を達成した。メジアン維持期間は4.7ヶ月と、この疾患の常だが、あまり長くない。G3以上の治療関連有害事象はQT延長、熱性好中球減少症、分化症候群、血小板減少など。

    このmenin阻害剤は同試験のKMT2再編成コフォートのデータに基づき昨年12月に米国で承認申請されている。審査期限は12月26日。承認されたら25年上期にNPM1変異型に適応拡大申請する考え。急性白血病のうちKMT2再編成は5-10%、NPM1変異は30%で見られるとのことで、両方承認なら4割をカバーできるようになる。

    同社は新患NPM1変異/KMT2再編成急性白血病の標準療法併用試験を年内に着手する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    メルク、TGCT用薬の第3相が成功
    (2024年11月12日発表)

    ドイツのメルクは、上海のAbbisko Therapeutics(Abbisko Cayman Limited(2256.HK)の子会社)が開発した経口CSF-1R阻害剤、ABSK021(pimicotinib)の第3相MANEUVER試験で主目的などを達成したと発表した。中国などで承認申請するだろう。欧米などのオプト・イン・オプションを行使するかどうかは不明だが、先行二品と見比べて悪くはなさそうに感じられる。

    この試験は切除不能腱滑膜巨細胞腫(TGCT)の患者におけるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)を偽薬と比較した。中国、欧州、北米で各45人、28人、21人を組入れた。50mgを一日一回、経口投与した試験薬群は54.0%となり、偽薬群の3.2%を有意に上回った。副次的評価項目の疼痛や凝りも有意に改善した。胆汁鬱滞性肝毒性は見られなかった。尚、第一三共の類薬、Turalio(pexidartinib)は米国では19年に承認されたがEUでは肝毒性や症状改善作用が小さいことなどから承認されなかった。

    このほかに小野薬品が6月に24億ドルで買収したDeciphera PharmaceuticalsもDCC-3014(vimseltinib)を欧米で承認申請中。こちらも肝毒性は見られないようだ。

    TGCTはCSF-1が遺伝子転座により過剰発現し受容体に集積する。切除が第一選択。悪性腫瘍ではないので安全性も重要。

    リンク: メルクのプレスリリース


    コセルゴは大人にも有効
    (2024年11月12日発表)

    アストラゼネカはMSDと共同開発販売しているMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)が、成人神経線維腫症1型の第3相試験で主目的を達成したと発表した。対象年齢拡大申請に向かうのではないか。

    20~22年に米欧日で神経線維腫症1型の小児における症候性、切除不能な叢状神経線維腫の治療薬として承認されている。対象年齢は、米国が2歳以上、EUは3歳以上、日本は注意事項として3歳未満及び19歳以上における有効性や安全性は確認されていないことに言及と、若干異なっている。エビデンスはNCI(米国立がん研究所)が主導した第2相試験。

    今回の第3相KOMETは145人を試験薬と偽薬に無作為化割付けしてcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)を比較した。統計的に有意且つ臨床的に意味のある優越性が示されたとのこと。

    神経線維腫症1型は3000~4000人に一人の常染色体性優性遺伝性疾患。RAS~PI3K/AKT経路を抑制すべきニューロフィブロミンの変異が見られる。小児で発症するが患者数は成人が7割を占める由。

    類薬ではファイザーからスピンアウトしたSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)がアロステリックMEK1/2阻害剤mirdametinibを小児と成人の切除不能神経線維腫症1型関連叢状神経線維腫用薬として米国で承認申請中で、審査期限は来年2月28日。

    リンク: アストラゼネカのプレスリリース


    抗TIGHT抗体の中止された第3相が良好な結果に
    (2024年11月5日発表)

    米国カリフォルニア州の医薬品開発会社、Arcus Biosciences(Nasdaq:RCUS)は、抗TIGHT抗体AB154(domvanalimab)と抗PD-1抗体AB122(zimberelimab)を併用で局所進行/転移非小細胞性肺癌のフロントライン治療に用いたARC-10試験の第1部における成績をSITC(がん免疫療法学会)年次総会で発表した。PD-L1を強度発現(TPS≧50%)する、分子標的薬が適応にならない患者における、併用(以下、DZ群)やzimberelimab単剤(Z群)の効果を白金ベース化学療法(CT群)と比較したもので、途中で打ち切られたためn=95と小規模な解析になってしまったが、点推定値自体は良好だ。ギリアド・サイエンシズと提携して進行している第3相STARプログラムの結果に期待がかかる。

    DZ群、Z群、CT群のメジアン生存期間はそれぞれ未達、24.4ヶ月、11.9ヶ月で、DZ群はCT比のハザードレシオが0.43(95%信頼区間0.20-0.93)、Z群比では0.64(同0.32-1.25)、Z群はCT比で0.63(0.30-1.29)だった。一方、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオはそれぞれ0.69、0.69、1.07とチグハグ。3群のcORR(確認客観的反応率)は44.7%、35.0%、35.3%だった。

    Keytrudaは類似した試験でCT比ハザードレシオが全生存期間は0.6、PFSは0.5だった。今回のZ群とCT群の全生存期間ハザードレシオの点推定値はこれと同程度であり、そのZ群よりDZ群はさらに良かったので、良好な結果と考えられる。

    この種の癌の第一選択はMSDのKeytruda(pembrolizumab)なのでパート1はKeytrudaがこの用途で承認されていない国で、各群2:2:1割付けして実施した。打ち切りとなったのはFDAがCTではなくKeytruda対照とするよう求めたため。

    ギリアド提携で開始したSTAR-121試験はEGFR/ALK変異の無い局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療として上記二剤を化学療法と併用し、標準療法であるKeytruda・化学療法併用とPFS(無進行生存期間)や全生存期間を比較する。治験登録によると27年に主解析が行われる見込み。局所進行切除不能/転移性の胃、食道、胃食道接合部腺腫を組入れてFOLFOX/CAPOXに二剤を追加する効果をOpdivo追加と比較するSTAR-221試験も進行中で、全生存期間の解析結果が26年にも判明する見込みだ。

    抗TIGHT抗体は抗PD-(L)1抗体とのシナジーが期待される抗体の一つだが、これまでの成果は判然としない。domvanalimabはFc領域を沈黙化する工夫を施しており、承認第1号の期待がかかっている。

    リンク: Arcus社のプレスリリース


    タミバロテンのMDS試験がフェール
    (2024年11月12日発表)

    米国マサチューセッツ州ケンブリッジの医薬品開発会社、Syros Pharmaceuticals(Nasdaq:SYRS)は、SY-1425(tamibarotene)の第3相RARA遺伝子過剰発現新患高リスクMDS(骨髄異形成症候群)試験がフェールしたと発表した。融資が引き上げられたら現金枯渇の危機を迎えることになる。

    このSELECT-MDS-1試験はazacitidineに追加して寛解率を向上することを図った。偽薬追加群は過去の試験と大差ない18.8%となったが、併用群は23.8%に留まり、p=0.208だった。

    Oxford Financeから融資を受ける際に本試験がフェールしたら債務不履行扱いにする旨、合意していたたため、4360万ドルの繰上げ弁済を求められる可能性が高い。同社の24年9月末の現金・現金等価物残高は5830万ドル。

    tamibaroteneは日本で発見されたレチノイン酸受容体アルファ作動薬 。日本で05年に再発・難治性急性前骨髄球性白血病アムノレイクとして発売された。Syrosは15年に現在はラクオリア創薬の子会社であるテムリック社から欧米市場における開発販売権を取得した。

    リンク: Syrosのプレスリリース


    Eyenovia社、近視用薬の第3相がフェールし戦略オプションを検討
    (2024年11月15日発表)

    米国NY州の眼科用薬開発販売会社、Eyenovia(Nasdaq:EYEN)は、MicroPine(atropine点眼薬)の第3相CHAPERONE試験が独立データ監視委員会による中間解析評価で主目的達成しなかったと明らかにした。臨床試験を中止すると共に、株主価値最大化に向けた戦略オプション(合併など)の検討を開始した。

    同社は薬剤を角膜を覆うように分布させるOptijet技術を持ち、23年に米国でMydCombi(tropicamide、phenylephrine hydrochloride)が目の検査や手術時の瞳孔散大措置用薬として 承認された。Optijetは千寿製薬にも技術供与されている。

    今回の試験は低用量のatropine(0.01%または0.1%)を用いて小児進行性近視の3年間の進行を、視力検査で0.5ディオプター未満に抑えることを狙った。中間解析をファイナル・アンサーにしたのは、おそらく、資金面の制約だろう。

    リンク: Eyenoviaのプレスリリース

    【承認申請】


    Regeneron、デュピクセントを蕁麻疹に再申請
    (2024年11月25日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はDupixent(dupilumab)を特発性慢性蕁麻疹の治療に用いる適応拡大を米国で再申請した。抗H1ヒスタミンに十分応答しない12歳以上の小児と成人に用いる。審査期限は25年4月18日。

    23年3月の初回申請は審査完了通知を受領したが、LIBERTY-CSU CUPID試験のスタディCが成功し、スタディAと合わせてエビデンスが二本揃った。この二本はバイオ薬未経験の患者を組入れて、それまで用いていた薬にDupixentを追加したもの。間のスタディBは抗IgE抗体Xolair(omalizumab)に不十分応答/不耐の患者を組入れて標準療法のみの群と比較したもので、中間解析で無益認定されたが盲検続行したところ、主評価項目のISS7改善はp値が0.0449(アルファの配分は0.043なのでフェール)、副次的評価項目のUAS7はp=0.0390(主評価項目がフェールしたので正式な検定ではない)と、あと一歩だった。日本ではスタディAとBを元にバイオ薬歴不問で承認されたが、米国は認められなかった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Dato-Dxdの申請取下げ/別件申請
    (2024年11月12日発表)

    第一三共はアストラゼネカと共同開発しているDS-1062(datopotamab deruxtecan、通称Dato-DXd)の米国における承認申請の一部を取下げ、やや異なった適応で新たに承認申請した。FDAのフィードバックを考慮したもので、ある程度、予想されたことだ。EMA(欧州医薬品庁)の判断も注目される。

    この抗TROP2抗体医薬複合体は、成人の治療歴のある局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌と、成人の全身性治療歴のある切除不能/転移、ホルモン受容体陽性、her2陰性乳癌用薬として、欧米で承認申請され2月に受理された。日本でも3月に後者の適応症で申請されている。

    肺癌用途におけるエビデンスとなったTROPION-Lung01試験では、扁平上皮腫サブグループにおけるPFS(無進行生存期間)がメジアン2.8ヶ月とdocetaxel群の3.9ヶ月を下回り、ハザードレシオは1.38だったが、承認申請されたそれ以外の癌(腺腫など)ではメジアン5.6ケ月対3.7ヶ月、ハザードレシオ0.63と、良好だった。その時点では非扁平上皮腫サブグループの全生存期間のハザードレシオは0.77と、未成熟ではあるものの好ましい方向を向いていたが、最終解析では0.84(95%信頼区間0.68-1.05)、メジアン14.6ヶ月と12.3ヶ月と、便益が縮小してしまった。尤も、実薬対照試験であることや検出力が低下するサブグループ分析であることを考えれば、ハザードレシオが物足りなく95%上限が1を少し位上回っても大目に見てもらえる可能性はあるように感じられた。

    似たような薬であるギリアド・サイエンシズのTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)も似たような第3相がフェールしており、こちらは、非扁平上皮腫サブグループでも便益が見られなかった。薬の違いなのか、試験のデザインや実施環境の違いなのか、良く分からないが、DS-1062の評価に影を落としても不思議はない。

    新しい目標適応症は成人の治療歴(EGFR標的薬を含む)を持つ局所進行/転移EGFR変異陽性非小細胞性肺癌。第2相のTROPION-Lung05と上記Lung01、そして初期段階のTROPION-PanTumor01試験に基づき加速承認を求めた。データは現時点では不明で、12月6日にESMO Asia学会で3本のプール分析結果が発表される予定。

    リンク: 両社のプレスリリース


    遅報:卵巣癌の二新薬併用を承認申請
    (2024年10月31日発表)

    米国のVerastem Oncology(Nasdaq:VSTM)はRAF/MEK阻害剤VS-6766(avutometinib)とFAK(焦点接着斑キナーゼ)阻害剤VS-6063(defactinib)を併用で治療歴のある難治LGSOC(低グレード漿液性卵巣癌)の治療レジメンとして用いるローリング承認申請を完了した。前者は3.2mgを週二回、後者は200mgを一日二回、28日サイクルで21日経口投与した試験で、cORR(確認客観的反応率、n=109)が27%だった。KRAS変異を持つ57人では37%、野生型の52人では15%だった。G3以上の有害事象はクレアチニン・フォスフォキナーゼ値上昇など。第3相は欧米豪韓の施設で白金レジメンによる治療歴を持つ難治LGSOCにおけるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を医師の選んだ薬(pegylated liposomal doxorubicinなど)と比較している。

    avutometinibは20年に中外製薬からライセンス、defactinibは12年にファイザーからライセンスしたもの。

    リンク: Verastemのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    Ocalivaは本承認されず
    (2024年11月12日発表)

    Alfasigmaの傘下に入ったIntercept Pharmaceuticalsは、16年に米国で難治原発性胆汁性胆管炎の治療薬として加速承認されたOcaliva(obeticholic acid)を本承認に切り替えるべく申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAは安全性について引き続き検討する考えなので、承認取消の可能性はまだ残っているだろう。

    市販後薬効確認試験であるCOBALT試験では、肝臓関連有害事象イベントのハザードレシオが偽薬比0.84(95%信頼区間0.61-1.16)とフェールした。市販後に非代償性肝硬変などが禁忌になったが、引き続き適応となる被験者の半分弱に当たる症例の解析でも同0.88(0.47-1.65)と、まあ似たような結果になった。適応変更を受けて、検出力を確保するために途中で様々な評価対象イベントが追加されたが、肝移植・死亡だけをカウントした副次的評価項目を見ると、intent-to-treatではハザードレシオ1.18(0.72-1.93)、適応サブグループでは4.77(1.03-22.09)と悪かった。また、この薬の難点である薬物誘導性肝障害の発生率はintent-to-treatで11%(偽薬群は5%)、適応サブグループでは5%(同1%)だった。

    9月の諮問委員会に上程されたが、便益が棄権を上回ると判定した委員は1名のみで、10名はNoと回答、3人はどちらとも言えないとして棄権した。

    EUは16年に条件付き承認したが、今年8月に取消となった。但し、理由は不明だが9月にEUの一般裁判所が取消の一時的差止命令を出したため、撤回された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    CHMP、抗癌剤やアルツハイマー用薬などに肯定的意見
    (2024年11月15日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月14日の会合で、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    ブリストル マイヤーズ スクイブのAugtyro(repotrectinib)は成人のROS1陽性進行非小細胞性肺癌と12歳以上のNTRK遺伝子融合のある進行固形癌(但し、NTRK阻害剤歴を持つ、またはNTRK標的薬以外の薬は不応不適の場合)に条件付き承認することが支持された。何れもORR(客観的反応率)と反応持続期間のデータに基づく。22年にTurning Point Therapeuticsを株式価値41億ドルで買収して入手した大環状ROS1/TRK/ALKチロシンキナーゼ阻害剤で、米国は23年11月に、日本では今年9月に、初承認されている。

    リンク: EMAのプレスリリース

    InflaRx(Nasdaq:IFRX)のGohibic(vilobelimab)はC5a補体に結合するキメラ抗体。SARS-CoV-2による急性呼吸逼迫症候群を発症し全身性コルチコステロイド治療と侵襲性人工呼吸措置(ECMO(体外式膜型人工肺)を含む)を受けている患者向けに例外的条項に基づいて承認することが支持された。臨床試験は途中でFDA勧奨に基づき治験実施施設による階層化を導入したのが裏目に出たのか有意水準に届かなかったが、オリジナルの解析計画に基づく事後的解析では28日死亡のハザードレシオが0.674、p=0.027と良好なものになっていた。米国で23年4月にEUA(非常時使用認可)を受けている。

    リンク: EMAのプレスリリース

    ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Cilag InternationalのLazcluze(lazertinib)とRybrevant(amivantamab-vmjw)は、EGFRにex19delやex21 L858R変異を持つ成人の進行非小細胞性肺癌の一次治療に二剤併用することが支持された。前者は韓国企業からライセンスした変異EGFR阻害剤で今回が初肯定的意見。後者はEGFRとMETの二重特異性抗体で21年にEGFRにex20ins活性化変異を持つ非小細胞性肺癌に承認されている。この併用法は8月に米国で承認、日本ではRybrevantは承認済み、併用は承認申請中。

    リンク: EMAのプレスリリース

    CHMPは、メーカー側の請求により再審査を行い、エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)に関する肯定的意見をまとめた。7月に否定的意見を出したが、外部の意見なども踏まえて、副作用を被り易いApoE4ホモ接合型の患者を適応外とした上で譲歩した。臨床試験ではARIA-E(アミロイド関連画像異常-浮腫)の発生率が12.6%、ARIA-H(同、出血)が16.9%だったが、二つの遺伝子のうちApoE4型が一つだけ、または無いサブグループでは各8.9%(偽薬群は1.3%)と12.9%(同6.9%)と若干低かった。便益の程度はApoE4ホモ接合型を除外しても大差なく、CDR-SBの悪化は1.22(偽薬群は1.75)だった。適応を制限してもリスクがなくなるわけではないので、米国同様に、第1、5、7、14回目の投与の前にMRI検査を行う必要がある。

    ApoE4多型は老人性アルツハイマー病のリスク因子で、治療や予防のニーズが特に高い。ARIAはMRI検査所見の一つで、ほとんどは症状を伴わないので、ホモ接合型を除外するかどうかは難しい判断だろう。米日は除外せず使うかどうかは医師や患者の判断に委ねた。一方、英国は、ApoE4ホモ接合型を適応外として承認した。

    lecanemabは2007年12月にエーザイがスウェーデンのBioArctic Neuroscienceからライセンスした抗アミロイド・ベータ抗体。

    リンク: EMAのプレスリリース(11/14付)

    以下の適応・用法追加も肯定的意見を受けた。

  • サノフィのSarclisa(isatuximab)・・・成人の幹細胞移植不適な未治療多発骨髄腫にbortezomib、lenalidomide、dexamethasoneと併用。米国では9月に承認、日本でも一変申請中。
  • サノフィのKevzara(sarilumab)・・・2歳以上の伝統的合成DMARDsに応答不十分な活性期多関節炎型若年性特発性関節炎。プリフィルドではない製品も追加される。米国で6月に承認された時は幼小児に適さないプリフィルドのシリンジやペンしかなかったため体重63kg以上の患者に適応限定された。
  • MSDのKeytruda(pembrolizumab)・・・成人の切除不能非上皮性悪性胸膜中皮腫の一次治療に白金薬及びpemetrexedと併用。米国では上皮型か否かを問わず9月に承認されたが、上皮型の全生存期間ハザードレシオは0.89と、それ以外の0.57と比べて見劣りした。
  • ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)・・・成人の高マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機能不全(dMMR)の切除不能/転移結腸直腸癌の一次治療に二剤併用。
  • アストラゼネカのTagrisso(osimertinib)・・・成人のEGFRにex19del/ex21 L858R変異を持つ局所進行切除不能非小細胞性肺癌で、白金薬ベースの化学放射線療法中に、またはその後に、進行していない患者の維持療法

  • 新薬の否定的意見は一件、CHMPが承認に後ろ向きで申請撤回となったのが二件、公表された。

    Legacy Healthcare (France) S.A.S.は、ガラナの種、カカオの種、玉ねぎの抽出物とレモンを配合した局所スプレー製剤、Cinainuを2-17歳の中重度円形脱毛症向けに承認申請したが、否定的意見となった。CHMPは、治験成績が不十分、治験品と市販用製品の同等性が示されていない、など様々な難点を列挙している。

    アステラス製薬が23年に59億ドルで買収したIveric BioはC5阻害剤avacincaptad pegolの開発に成功し23年8月に米国で地図状萎縮治療薬として承認獲得したが、EUでは申請撤回となった。CHMPは臨床的に意味のある視力の改善に繋がらないことなどから後ろ向きな姿勢を示した。他社の類薬も米国で承認されたがEUはダメだった。

    大塚製薬のInaqovi(decitabine、cedazuridine)はある種の新患急性骨髄性白血病の治療薬として既に承認されているが、米国(Inqovi名)で初承認された時の適応であるMDS(骨髄異形成症候群)とCMML(慢性骨髄探求性白血病)は申請撤回となった。CHMPは便益が確立したとは言えないと評価しているようだ。

    【承認】


    AADC欠損症の遺伝子療法が承認
    (2024年11月13日発表)

    PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)は、FDAがKebilidi(eladocagene exuparvovec-tneq)をAADC(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症の治療薬として加速承認したと発表した。年齢や重症度に基づく適応限定はない。脳内に投与する遺伝子療法の承認は初。希少疾患優先審査バウチャを取得した。

    この疾患は常染色体性劣性遺伝疾患で、ドパミンを前駆体から生成するのに必要な脱炭酸化酵素の遺伝子(DOC)に変異があり、ドパミンが欠乏、乳児期から発達遅延や運動障害を示す。Kebilidiはアデノ随伴ウイルス2型をベクターとしてDOCを導入するもので、定位脳手術により被殻内に点滴投与する。台湾や米国、イスラエルで13人の小児重症患者を組入れた第2相試験で、薬効評価対象12人中8人(67%)が第48週に新たな粗大運動(定頸、座位など)マイルストーンを達成した。自然歴43例ではメジアン7.2歳まで追跡しても達成例はなかった。

    警告事前注意事項は施術関連合併症とジスキネジア。

    市販後薬効確認は被験者の長期追跡試験。最近よく見られるように、超希少難病なので緩和されている。

    欧州では22年にUpstaza名で例外的条項に基づき承認された。米国承認が遅れたのはFDAが市販品と臨床試験品の同等性確認を求めたため。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
    24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
    24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群
    24年12月推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、小細胞性肺癌)
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    24/12/29Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfontカプセル、古典的先天性副腎過形成)
    24/12/30Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfont経口液)
    諮問委員会
    24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)
    24/11/21CTGTAC:アストラゼネカのAndexxa(遺伝子組換え不活化血液凝固Xa因子-zhzo)



    今週は以上です。