【ニュース・ヘッドライン】
- GLP-1作用剤は2型糖尿病の診断を遅らせる作用
- Adaptimmune、NY-ESO-1志向T細胞療法の治験成績を発表
- menin阻害剤が別のタイプのAMLにも良績
- メルク、TGCT用薬の第3相が成功
- コセルゴは大人にも有効
- 抗TIGHT抗体の中止された第3相が良好な結果に
- タミバロテンのMDS試験がフェール
- Eyenovia社、近視用薬の第3相がフェールし戦略オプションを検討
- Regeneron、デュピクセントを蕁麻疹に再申請
- Dato-Dxdの申請取下げ/別件申請
- 遅報:卵巣癌の二新薬併用を承認申請
- Ocalivaは本承認されず
- CHMP、抗癌剤やアルツハイマー用薬などに肯定的意見
- AADC欠損症の遺伝子療法が承認
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【新薬開発】
GLP-1作用剤は2型糖尿病の診断を遅らせる作用
(2024年11月13日発表)
イーライリリーは、治験論文刊行などに合わせて、GIP/GLP-1作用剤tirzepatideの第3相SURMOUNT-1試験における糖尿病予防サブスタディの概要を発表した。この試験は日本も含む米州中印などの施設で、肥満症またはリスク因子を持つオーバーウェイト、但し糖尿病ではない成人2500人超を組入れて、週一回皮下注の体重減少効果を偽薬と比較したものだが、副次的評価項目として前糖尿病サブグループ1032人の2型糖尿発症リスクを176週に亘り追跡した。3用量群のプール分析で、リスクを偽薬比93%抑制した(treatment-regimen estimandベース、efficacy estimandベースでは94%抑制)。176週までに2型糖尿病を発症した患者の比率は試験薬群が1.3%、偽薬群は13.3%だった。
類似したデザインの試験はこれまでに数多く実施されたが、評価が難しいのは、発症を抑制したのか、発症をごまかしたのか、良く分からないことだ。tirzepatideは二型糖尿病治療薬Mounjaroとして承認されているので、治療ガイドラインに即して診断すると、試験薬群の患者は投与を開始した段階で糖尿病と判定されることになる。臨床的な意義の点では、本試験は、二型糖尿病発症の前に血糖治療を開始する便益を検討する試験と位置付けることが可能であり、その評価項目としては、腎症や心血管疾患などのハードなアウトカムが相応しい。とはいえ、3年間で13%しか発症しない患者層なので、合併症のリスクを追跡していたら有意差が出るまで何年かかるか分からない。
類似した前例では、FDAは、投与を打ち切った後も効果が残っているかを重視する姿勢を示した。そのせいか、今回の試験では176週の投与を完了した後に更に17週間、二型糖尿病発症リスクを観察した。193週までの発症率は試験薬群が2.4%、偽薬群が13.7%だった。単純比較すると、投与を止めた後に試験薬群は1.1%、偽薬群は0.4%が発症したことになる。追加観察期間が4ヶ月程度とあまり長くないことを考えると、不可逆的な、疾病装飾的な作用を持つというほどでもないように感じられる。
リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Jastreboffらの治験論文抄録(NEJM)
Adaptimmune、NY-ESO-1志向T細胞療法の治験成績を発表
(2024年11月13日発表)
英国本社のAdaptimmune(Nasdaq:ADAP)は、letetresgene autoleucel(通称lete-cel)のIGNYTE-ESO試験におけるサブスタディ2のアップデート・データをCTOS(結合組織腫瘍学会)で発表した。米国で25年末までにローリング承認申請に着手する考え。
HLA-Aの02:01、02:05、02:06アレルが提示するNY-ESO-1腫瘍抗原を認識するT細胞受容体などを自家CD4/CD8陽性T細胞にex vivoで導入した細胞療法。今回のpivotal試験は、これらのアレルを持ちNY-ESO-1陽性の10歳以上の転移/切除不能な滑膜肉腫/MRCLE(粘液型円形細胞・脂肪肉腫)を組み入れたもので、サブスタデイ1は一次治療、2はanthracyclineなどの治療歴を持つ患者が対象。ORR(客観的反応率、解析対象は商業プロセス産品を用いた62人)は42%で滑膜肉腫(34人)でもMRCLS(30人)でも同程度だった。完全反応は6人、部分反応は21人。メジアン反応持続期間は12.2ヶ月だった。
同社は今年8月にも米国でTecelra(afamitresgene autolecel)が特定のHLAアレルを持ちMAGE-A4陽性の滑膜肉腫/MRCLE用薬として承認されており、多くの会社が挫折した技術分野で成果を上げ始めている。
リンク: 同社のプレスリリース
menin阻害剤が別のタイプのAMLにも良績
(2024年11月12日発表)
米国の医薬品開発会社Syndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)は、SNDX-5613(revumenib)の第2相AUGMENT-101試験でNPM1変異AML(急性骨髄性白血病)コフォートの解析が成功したと発表した。メジアン2次治療歴を持ち75%がvenetoclax歴も持つ難治再発型の患者64人のうち、15人(23%、95%下限14%)がCR/CRh(完全寛解/血液学的回復が部分的である点以外は完全寛解)を達成した。メジアン維持期間は4.7ヶ月と、この疾患の常だが、あまり長くない。G3以上の治療関連有害事象はQT延長、熱性好中球減少症、分化症候群、血小板減少など。
このmenin阻害剤は同試験のKMT2再編成コフォートのデータに基づき昨年12月に米国で承認申請されている。審査期限は12月26日。承認されたら25年上期にNPM1変異型に適応拡大申請する考え。急性白血病のうちKMT2再編成は5-10%、NPM1変異は30%で見られるとのことで、両方承認なら4割をカバーできるようになる。
同社は新患NPM1変異/KMT2再編成急性白血病の標準療法併用試験を年内に着手する考え。
リンク: 同社のプレスリリース
メルク、TGCT用薬の第3相が成功
(2024年11月12日発表)
ドイツのメルクは、上海のAbbisko Therapeutics(Abbisko Cayman Limited(2256.HK)の子会社)が開発した経口CSF-1R阻害剤、ABSK021(pimicotinib)の第3相MANEUVER試験で主目的などを達成したと発表した。中国などで承認申請するだろう。欧米などのオプト・イン・オプションを行使するかどうかは不明だが、先行二品と見比べて悪くはなさそうに感じられる。
この試験は切除不能腱滑膜巨細胞腫(TGCT)の患者におけるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)を偽薬と比較した。中国、欧州、北米で各45人、28人、21人を組入れた。50mgを一日一回、経口投与した試験薬群は54.0%となり、偽薬群の3.2%を有意に上回った。副次的評価項目の疼痛や凝りも有意に改善した。胆汁鬱滞性肝毒性は見られなかった。尚、第一三共の類薬、Turalio(pexidartinib)は米国では19年に承認されたがEUでは肝毒性や症状改善作用が小さいことなどから承認されなかった。
このほかに小野薬品が6月に24億ドルで買収したDeciphera PharmaceuticalsもDCC-3014(vimseltinib)を欧米で承認申請中。こちらも肝毒性は見られないようだ。
TGCTはCSF-1が遺伝子転座により過剰発現し受容体に集積する。切除が第一選択。悪性腫瘍ではないので安全性も重要。
リンク: メルクのプレスリリース
コセルゴは大人にも有効
(2024年11月12日発表)
アストラゼネカはMSDと共同開発販売しているMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)が、成人神経線維腫症1型の第3相試験で主目的を達成したと発表した。対象年齢拡大申請に向かうのではないか。
20~22年に米欧日で神経線維腫症1型の小児における症候性、切除不能な叢状神経線維腫の治療薬として承認されている。対象年齢は、米国が2歳以上、EUは3歳以上、日本は注意事項として3歳未満及び19歳以上における有効性や安全性は確認されていないことに言及と、若干異なっている。エビデンスはNCI(米国立がん研究所)が主導した第2相試験。
今回の第3相KOMETは145人を試験薬と偽薬に無作為化割付けしてcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)を比較した。統計的に有意且つ臨床的に意味のある優越性が示されたとのこと。
神経線維腫症1型は3000~4000人に一人の常染色体性優性遺伝性疾患。RAS~PI3K/AKT経路を抑制すべきニューロフィブロミンの変異が見られる。小児で発症するが患者数は成人が7割を占める由。
類薬ではファイザーからスピンアウトしたSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)がアロステリックMEK1/2阻害剤mirdametinibを小児と成人の切除不能神経線維腫症1型関連叢状神経線維腫用薬として米国で承認申請中で、審査期限は来年2月28日。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
抗TIGHT抗体の中止された第3相が良好な結果に
(2024年11月5日発表)
米国カリフォルニア州の医薬品開発会社、Arcus Biosciences(Nasdaq:RCUS)は、抗TIGHT抗体AB154(domvanalimab)と抗PD-1抗体AB122(zimberelimab)を併用で局所進行/転移非小細胞性肺癌のフロントライン治療に用いたARC-10試験の第1部における成績をSITC(がん免疫療法学会)年次総会で発表した。PD-L1を強度発現(TPS≧50%)する、分子標的薬が適応にならない患者における、併用(以下、DZ群)やzimberelimab単剤(Z群)の効果を白金ベース化学療法(CT群)と比較したもので、途中で打ち切られたためn=95と小規模な解析になってしまったが、点推定値自体は良好だ。ギリアド・サイエンシズと提携して進行している第3相STARプログラムの結果に期待がかかる。
DZ群、Z群、CT群のメジアン生存期間はそれぞれ未達、24.4ヶ月、11.9ヶ月で、DZ群はCT比のハザードレシオが0.43(95%信頼区間0.20-0.93)、Z群比では0.64(同0.32-1.25)、Z群はCT比で0.63(0.30-1.29)だった。一方、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオはそれぞれ0.69、0.69、1.07とチグハグ。3群のcORR(確認客観的反応率)は44.7%、35.0%、35.3%だった。
Keytrudaは類似した試験でCT比ハザードレシオが全生存期間は0.6、PFSは0.5だった。今回のZ群とCT群の全生存期間ハザードレシオの点推定値はこれと同程度であり、そのZ群よりDZ群はさらに良かったので、良好な結果と考えられる。
この種の癌の第一選択はMSDのKeytruda(pembrolizumab)なのでパート1はKeytrudaがこの用途で承認されていない国で、各群2:2:1割付けして実施した。打ち切りとなったのはFDAがCTではなくKeytruda対照とするよう求めたため。
ギリアド提携で開始したSTAR-121試験はEGFR/ALK変異の無い局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療として上記二剤を化学療法と併用し、標準療法であるKeytruda・化学療法併用とPFS(無進行生存期間)や全生存期間を比較する。治験登録によると27年に主解析が行われる見込み。局所進行切除不能/転移性の胃、食道、胃食道接合部腺腫を組入れてFOLFOX/CAPOXに二剤を追加する効果をOpdivo追加と比較するSTAR-221試験も進行中で、全生存期間の解析結果が26年にも判明する見込みだ。
抗TIGHT抗体は抗PD-(L)1抗体とのシナジーが期待される抗体の一つだが、これまでの成果は判然としない。domvanalimabはFc領域を沈黙化する工夫を施しており、承認第1号の期待がかかっている。
リンク: Arcus社のプレスリリース
タミバロテンのMDS試験がフェール
(2024年11月12日発表)
米国マサチューセッツ州ケンブリッジの医薬品開発会社、Syros Pharmaceuticals(Nasdaq:SYRS)は、SY-1425(tamibarotene)の第3相RARA遺伝子過剰発現新患高リスクMDS(骨髄異形成症候群)試験がフェールしたと発表した。融資が引き上げられたら現金枯渇の危機を迎えることになる。
このSELECT-MDS-1試験はazacitidineに追加して寛解率を向上することを図った。偽薬追加群は過去の試験と大差ない18.8%となったが、併用群は23.8%に留まり、p=0.208だった。
Oxford Financeから融資を受ける際に本試験がフェールしたら債務不履行扱いにする旨、合意していたたため、4360万ドルの繰上げ弁済を求められる可能性が高い。同社の24年9月末の現金・現金等価物残高は5830万ドル。
tamibaroteneは日本で発見されたレチノイン酸受容体アルファ作動薬 。日本で05年に再発・難治性急性前骨髄球性白血病アムノレイクとして発売された。Syrosは15年に現在はラクオリア創薬の子会社であるテムリック社から欧米市場における開発販売権を取得した。
リンク: Syrosのプレスリリース
Eyenovia社、近視用薬の第3相がフェールし戦略オプションを検討
(2024年11月15日発表)
米国NY州の眼科用薬開発販売会社、Eyenovia(Nasdaq:EYEN)は、MicroPine(atropine点眼薬)の第3相CHAPERONE試験が独立データ監視委員会による中間解析評価で主目的達成しなかったと明らかにした。臨床試験を中止すると共に、株主価値最大化に向けた戦略オプション(合併など)の検討を開始した。
同社は薬剤を角膜を覆うように分布させるOptijet技術を持ち、23年に米国でMydCombi(tropicamide、phenylephrine hydrochloride)が目の検査や手術時の瞳孔散大措置用薬として 承認された。Optijetは千寿製薬にも技術供与されている。
今回の試験は低用量のatropine(0.01%または0.1%)を用いて小児進行性近視の3年間の進行を、視力検査で0.5ディオプター未満に抑えることを狙った。中間解析をファイナル・アンサーにしたのは、おそらく、資金面の制約だろう。
リンク: Eyenoviaのプレスリリース
【承認申請】
Regeneron、デュピクセントを蕁麻疹に再申請
(2024年11月25日発表)
Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はDupixent(dupilumab)を特発性慢性蕁麻疹の治療に用いる適応拡大を米国で再申請した。抗H1ヒスタミンに十分応答しない12歳以上の小児と成人に用いる。審査期限は25年4月18日。
23年3月の初回申請は審査完了通知を受領したが、LIBERTY-CSU CUPID試験のスタディCが成功し、スタディAと合わせてエビデンスが二本揃った。この二本はバイオ薬未経験の患者を組入れて、それまで用いていた薬にDupixentを追加したもの。間のスタディBは抗IgE抗体Xolair(omalizumab)に不十分応答/不耐の患者を組入れて標準療法のみの群と比較したもので、中間解析で無益認定されたが盲検続行したところ、主評価項目のISS7改善はp値が0.0449(アルファの配分は0.043なのでフェール)、副次的評価項目のUAS7はp=0.0390(主評価項目がフェールしたので正式な検定ではない)と、あと一歩だった。日本ではスタディAとBを元にバイオ薬歴不問で承認されたが、米国は認められなかった。
リンク: 同社のプレスリリース
Dato-Dxdの申請取下げ/別件申請
(2024年11月12日発表)
第一三共はアストラゼネカと共同開発しているDS-1062(datopotamab deruxtecan、通称Dato-DXd)の米国における承認申請の一部を取下げ、やや異なった適応で新たに承認申請した。FDAのフィードバックを考慮したもので、ある程度、予想されたことだ。EMA(欧州医薬品庁)の判断も注目される。
この抗TROP2抗体医薬複合体は、成人の治療歴のある局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌と、成人の全身性治療歴のある切除不能/転移、ホルモン受容体陽性、her2陰性乳癌用薬として、欧米で承認申請され2月に受理された。日本でも3月に後者の適応症で申請されている。
肺癌用途におけるエビデンスとなったTROPION-Lung01試験では、扁平上皮腫サブグループにおけるPFS(無進行生存期間)がメジアン2.8ヶ月とdocetaxel群の3.9ヶ月を下回り、ハザードレシオは1.38だったが、承認申請されたそれ以外の癌(腺腫など)ではメジアン5.6ケ月対3.7ヶ月、ハザードレシオ0.63と、良好だった。その時点では非扁平上皮腫サブグループの全生存期間のハザードレシオは0.77と、未成熟ではあるものの好ましい方向を向いていたが、最終解析では0.84(95%信頼区間0.68-1.05)、メジアン14.6ヶ月と12.3ヶ月と、便益が縮小してしまった。尤も、実薬対照試験であることや検出力が低下するサブグループ分析であることを考えれば、ハザードレシオが物足りなく95%上限が1を少し位上回っても大目に見てもらえる可能性はあるように感じられた。
似たような薬であるギリアド・サイエンシズのTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)も似たような第3相がフェールしており、こちらは、非扁平上皮腫サブグループでも便益が見られなかった。薬の違いなのか、試験のデザインや実施環境の違いなのか、良く分からないが、DS-1062の評価に影を落としても不思議はない。
新しい目標適応症は成人の治療歴(EGFR標的薬を含む)を持つ局所進行/転移EGFR変異陽性非小細胞性肺癌。第2相のTROPION-Lung05と上記Lung01、そして初期段階のTROPION-PanTumor01試験に基づき加速承認を求めた。データは現時点では不明で、12月6日にESMO Asia学会で3本のプール分析結果が発表される予定。
リンク: 両社のプレスリリース
遅報:卵巣癌の二新薬併用を承認申請
(2024年10月31日発表)
米国のVerastem Oncology(Nasdaq:VSTM)はRAF/MEK阻害剤VS-6766(avutometinib)とFAK(焦点接着斑キナーゼ)阻害剤VS-6063(defactinib)を併用で治療歴のある難治LGSOC(低グレード漿液性卵巣癌)の治療レジメンとして用いるローリング承認申請を完了した。前者は3.2mgを週二回、後者は200mgを一日二回、28日サイクルで21日経口投与した試験で、cORR(確認客観的反応率、n=109)が27%だった。KRAS変異を持つ57人では37%、野生型の52人では15%だった。G3以上の有害事象はクレアチニン・フォスフォキナーゼ値上昇など。第3相は欧米豪韓の施設で白金レジメンによる治療歴を持つ難治LGSOCにおけるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を医師の選んだ薬(pegylated liposomal doxorubicinなど)と比較している。
avutometinibは20年に中外製薬からライセンス、defactinibは12年にファイザーからライセンスしたもの。
リンク: Verastemのプレスリリース
【承認審査・委員会】
Ocalivaは本承認されず
(2024年11月12日発表)
Alfasigmaの傘下に入ったIntercept Pharmaceuticalsは、16年に米国で難治原発性胆汁性胆管炎の治療薬として加速承認されたOcaliva(obeticholic acid)を本承認に切り替えるべく申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAは安全性について引き続き検討する考えなので、承認取消の可能性はまだ残っているだろう。
市販後薬効確認試験であるCOBALT試験では、肝臓関連有害事象イベントのハザードレシオが偽薬比0.84(95%信頼区間0.61-1.16)とフェールした。市販後に非代償性肝硬変などが禁忌になったが、引き続き適応となる被験者の半分弱に当たる症例の解析でも同0.88(0.47-1.65)と、まあ似たような結果になった。適応変更を受けて、検出力を確保するために途中で様々な評価対象イベントが追加されたが、肝移植・死亡だけをカウントした副次的評価項目を見ると、intent-to-treatではハザードレシオ1.18(0.72-1.93)、適応サブグループでは4.77(1.03-22.09)と悪かった。また、この薬の難点である薬物誘導性肝障害の発生率はintent-to-treatで11%(偽薬群は5%)、適応サブグループでは5%(同1%)だった。
9月の諮問委員会に上程されたが、便益が棄権を上回ると判定した委員は1名のみで、10名はNoと回答、3人はどちらとも言えないとして棄権した。
EUは16年に条件付き承認したが、今年8月に取消となった。但し、理由は不明だが9月にEUの一般裁判所が取消の一時的差止命令を出したため、撤回された。
リンク: 同社のプレスリリース
CHMP、抗癌剤やアルツハイマー用薬などに肯定的意見
(2024年11月15日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月14日の会合で、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
ブリストル マイヤーズ スクイブのAugtyro(repotrectinib)は成人のROS1陽性進行非小細胞性肺癌と12歳以上のNTRK遺伝子融合のある進行固形癌(但し、NTRK阻害剤歴を持つ、またはNTRK標的薬以外の薬は不応不適の場合)に条件付き承認することが支持された。何れもORR(客観的反応率)と反応持続期間のデータに基づく。22年にTurning Point Therapeuticsを株式価値41億ドルで買収して入手した大環状ROS1/TRK/ALKチロシンキナーゼ阻害剤で、米国は23年11月に、日本では今年9月に、初承認されている。
リンク: EMAのプレスリリース
InflaRx(Nasdaq:IFRX)のGohibic(vilobelimab)はC5a補体に結合するキメラ抗体。SARS-CoV-2による急性呼吸逼迫症候群を発症し全身性コルチコステロイド治療と侵襲性人工呼吸措置(ECMO(体外式膜型人工肺)を含む)を受けている患者向けに例外的条項に基づいて承認することが支持された。臨床試験は途中でFDA勧奨に基づき治験実施施設による階層化を導入したのが裏目に出たのか有意水準に届かなかったが、オリジナルの解析計画に基づく事後的解析では28日死亡のハザードレシオが0.674、p=0.027と良好なものになっていた。米国で23年4月にEUA(非常時使用認可)を受けている。
リンク: EMAのプレスリリース
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Cilag InternationalのLacluze(lazertinib)とRybrevant(amivantamab-vmjw)は、EGFRにex19delやex21 L858R変異を持つ成人の進行非小細胞性肺癌の一次治療に二剤併用することが支持された。前者は韓国企業からライセンスした変異EGFR阻害剤で今回が初肯定的意見。後者はEGFRとMETの二重特異性抗体で21年にEGFRにex20ins活性化変異を持つ非小細胞性肺癌に承認されている。この併用法は8月に米国で承認、日本ではRybrevantは承認済み、併用は承認申請中。
リンク: EMAのプレスリリース
CHMPは、メーカー側の請求により再審査を行い、エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)に関する肯定的意見をまとめた。7月に否定的意見を出したが、外部の意見なども踏まえて、副作用を被り易いApoE4ホモ接合型の患者を適応外とした上で譲歩した。臨床試験ではARIA-E(アミロイド関連画像異常-浮腫)の発生率が12.6%、ARIA-H(同、出血)が16.9%だったが、二つの遺伝子のうちApoE4型が一つだけ、または無いサブグループでは各8.9%(偽薬群は1.3%)と12.9%(同6.9%)と若干低かった。便益の程度はApoE4ホモ接合型を除外しても大差なく、CDR-SBの悪化は1.22(偽薬群は1.75)だった。適応を制限してもリスクがなくなるわけではないので、米国同様に、第1、5、7、14回目の投与の前にMRI検査を行う必要がある。
ApoE4多型は老人性アルツハイマー病のリスク因子で、治療や予防のニーズが特に高い。ARIAはMRI検査所見の一つで、ほとんどは症状を伴わないので、ホモ接合型を除外するかどうかは難しい判断だろう。米日は除外せず使うかどうかは医師や患者の判断に委ねた。一方、英国は、ApoE4ホモ接合型を適応外として承認した。
lecanemabは2007年12月にエーザイがスウェーデンのBioArctic Neuroscienceからライセンスした抗アミロイド・ベータ抗体。
リンク: EMAのプレスリリース(11/14付)
以下の適応・用法追加も肯定的意見を受けた。
新薬の否定的意見は一件、CHMPが承認に後ろ向きで申請撤回となったのが二件、公表された。
Legacy Healthcare (France) S.A.S.は、ガラナの種、カカオの種、玉ねぎの抽出物とレモンを配合した局所スプレー製剤、Cinainuを2-17歳の中重度円形脱毛症向けに承認申請したが、否定的意見となった。CHMPは、治験成績が不十分、治験品と市販用製品の同等性が示されていない、など様々な難点を列挙している。
アステラス製薬が23年に59億ドルで買収したIveric BioはC5阻害剤avacincaptad pegolの開発に成功し23年8月に米国で地図状萎縮治療薬として承認獲得したが、EUでは申請撤回となった。CHMPは臨床的に意味のある視力の改善に繋がらないことなどから後ろ向きな姿勢を示した。他社の類薬も米国で承認されたがEUはダメだった。
大塚製薬のInaqovi(decitabine、cedazuridine)はある種の新患急性骨髄性白血病の治療薬として既に承認されているが、米国(Inqovi名)で初承認された時の適応であるMDS(骨髄異形成症候群)とCMML(慢性骨髄探求性白血病)は申請撤回となった。CHMPは便益が確立したとは言えないと評価しているようだ。
【承認】
AADC欠損症の遺伝子療法が承認
(2024年11月13日発表)
PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)は、FDAがKebilidi(eladocagene exuparvovec-tneq)をAADC(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症の治療薬として加速承認したと発表した。年齢や重症度に基づく適応限定はない。脳内に投与する遺伝子療法の承認は初。希少疾患優先審査バウチャを取得した。
この疾患は常染色体性劣性遺伝疾患で、ドパミンを前駆体から生成するのに必要な脱炭酸化酵素の遺伝子(DOC)に変異があり、ドパミンが欠乏、乳児期から発達遅延や運動障害を示す。Kebilidiはアデノ随伴ウイルス2型をベクターとしてDOCを導入するもので、定位脳手術により被殻内に点滴投与する。台湾や米国、イスラエルで13人の小児重症患者を組入れた第2相試験で、薬効評価対象12人中8人(67%)が第48週に新たな粗大運動(定頸、座位など)マイルストーンを達成した。自然歴43例ではメジアン7.2歳まで追跡しても達成例はなかった。
警告事前注意事項は施術関連合併症とジスキネジア。
市販後薬効確認は被験者の長期追跡試験。最近よく見られるように、超希少難病なので緩和されている。
欧州では22年にUpstaza名で例外的条項に基づき承認された。米国承認が遅れたのはFDAが市販品と臨床試験品の同等性確認を求めたため。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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24/11推 | 住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱) |
24/11/28 | Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症) |
24/11/29 | BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症) |
24/11/29 | Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌) |
24年12月推 | Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群 |
24年12月推 | アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、小細胞性肺癌) |
24年12月推 | ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎) |
24年12月 | BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加) |
24/12/20 | Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病) |
24/12/26 | Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病) |
24/12/27 | Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群) |
24/12/28 | XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌) |
24/12/29 | BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤 |
24/12/29 | Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfontカプセル、古典的先天性副腎過形成) |
24/12/30 | Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfont経口液) |
諮問委員会 | |
24/11/19 | DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和) |
24/11/21 | CTGTAC:アストラゼネカのAndexxa(遺伝子組換え不活化血液凝固Xa因子-zhzo) |
今週は以上です。