2025年5月17日

第1207回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • EMA、今冬のCOVID-19ワクチンにLP.8.1株を推奨 
  • キイトルーダの卵巣癌試験が成功 
  • 心ミオシン阻害剤の実薬対照試験が成功 
  • ノボ、週一回皮下注用成長ホルモンを3疾患に適応拡大申請 
  • Tavere社、FilspariをFSGSに適応拡大申請 
  • インサイトの抗PD-1抗体が肛門管癌に適応拡大 
  • アッヴィのADCが承認 
  • MSDのHIF-2アルファ阻害剤がPPGLに適応拡大 
  • FDAがcetirizineの稀だが深刻な離脱症状を警告 
  • 米国も高齢者のIxchiq接種を停止へ 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


EMA、今冬のCOVID-19ワクチンにLP.8.1株を推奨
(2025年5月16日発表)

EMAのETF(非常事態タスク・フォース)は25/26年シーズンのCOVID-19ワクチンにLP.8.1株抗原を配合するようメーカーに求めるよう推奨した。現行のJN.1株またはKP.2株ベースのワクチンで良しとするWHOと見解が分かれた。

LP.8.1株はオミクロンJN.1系統の変異株で、受容体結合親和性が高く、感染やワクチン接種による免疫から逃避する能力も高い。MC.10などの新規変異株と比べても増殖有意性を持つ。米国では4月27日の週の感染例の7割を占めた(CDC推定)。欧州でも増加している。

対応ワクチンが導入されるまでは現在承認されているワクチンの使用を容認する。

米国政府は新規変異株対応COVID-19ワクチンの承認に際して大規模な偽薬対照試験を求める可能性が浮上してきている模様だが、ETFは現行の試験で十分と評価している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: EMAの説明資料

【新薬開発】


キイトルーダの卵巣癌試験が成功
(2025年5月15日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)が第3相白金抵抗性卵巣癌試験の中間解析で主目的を達成したと発表した。データは未発表。卵巣癌領域で初めて適応拡大申請に向かうのではないか。

この日本の施設も参加したKyeNote-B96/ENGOT-ov65試験は、paclitaxel(bevacizumab追加可)をベースにKeytruda 400mgの3週毎最大18回点滴静注を追加する群と偽薬を追加する群のPFS(無進行生存期間、独立データ監視委員会査読)を比較した。PD-L1陽性(CPS≧1)サブグループと全被験者の二つの解析とも成功した。副次的評価項目の全生存期間はCPS≧1サブグループの解析が成功、全体の解析は継続追跡する。

尚、同社がClinicalTrials.govに届け出た治験登録では本試験の主評価項目は治験医評価に基づくPFSのみとなっており、最近になって変更した、あるいは、適応拡大申請に際して審査機関と別途握ったものと推測される。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 治験登録(ClinicalTrials.gov)


心ミオシン阻害剤の実薬対照試験が成功
(2025年5月13日発表)

Cytokinetics(Nasdaq: CYTK)は、CK-3773274(aficamten)が第3相MAPLE-HCM試験で主目的を達成したと発表した。データは未発表。

この心ミオシン阻害剤は左心室流出閉塞を伴う症候性肥大型心筋症用薬として欧米で承認申請中。米国の審査期限は9月26日だったが、4ヶ月も前に3ヶ月延期された。承認申請後に要求されたREMS(リスク評価緩和戦略)を追加提出したことが申請内容の主要な変更と見なされたため。通常の審査期間延長事例は、期限の1~2ヶ月前に追加提出した場合が多く、変な感じだ。

今回の試験も承認申請時のSEQUOIA-HCM試験と同様に、対象は閉塞性症候性肥大型心筋症、主目的はCPET(心肺運動テスト)に基づくpVO2(最高酸素摂取量)改善作用だが、対照群が偽薬ではなくベータ・ブロッカーのmetoprolol。便益だけでなく忍容性も上回った模様だ。metoprololの運動機能改善作用は確立していないようなので、意義は良く分からない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ノボ、週一回皮下注用成長ホルモンを3疾患に適応拡大申請
(2025年5月12日発表)

ノボ ノルディスクはSogroya(somapacitan)の第3相REAL8バスケット試験のデータを学会発表すると共に、4月に欧米で適応拡大申請していたことを明らかにした。SGA(低出生体重児)、ISS(特発性低身長症)、NS(ヌーナン症候群)の3疾患の思春期前患者で身長ベロシティがsomatropin一日一回皮下注群と同等又はそれ以上だった。

どちらも遺伝子組換え型成長ホルモン製剤。SGAサブグループでは身長ベロシティ年率が11.0cmとなりsomatropin高量群の11.1cmと非劣性、低量群の9.4cm比優越性だった。ISSでは両群10.5cmで非劣性、NSでは10.4cm対9.2cmで優越性が示された。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: ヌーナン症候群の解説(難病情報センター)


Tavere社、FilspariをFSGSに適応拡大申請
(2025年5月13日発表)

Tavere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、Filspari(sparsentan)をFSGS(巣状分節状糸球体硬化症)の治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。審査期限は26年1月13日。FDAは諮問委員会上程を計画している。

23年に米国で、24年にはEUでもIgA腎症治療薬として承認された、アンジオテンシンIIタイプ1受容体とエンドテリンA受容体のアンタゴニスト。ブリストル マイヤーズ スクイブのBMS-346567を、変遷を経て、Ligand Pharmaceuticalsからライセンスした。

主エビデンスは8歳以上の原発性FSGS患者371人を組入れた第3相DUPLEX試験。主評価項目であるeGFR(推算糸球体濾過量)は対照薬のirbesartanを有意に上回らなかった。副次的評価項目の蛋白尿は減少率が有意に上回ったが、FDAはそれだけでは不十分との見解を示していたので、申請が受理されたのは取り敢えず朗報。一方、優先審査指定されなかったのは当方に載っては失望的。諮問委員会招集は、少なくともFDA上の位置づけは審査担当者が専門家とかけ離れた評価をしないよう牽制するためのものなので、良くもあり悪くもある。

FSGSは腎臓の糸球体硬化により腎機能が進行性に低下する。欧米の患者数は各4万人。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


インサイトの抗PD-1抗体が肛門管癌に適応拡大
(2025年5月15日発表)

FDAはインサイト(Nasdaq:INCY)のZynyz(retifanlimab-dlwr)を成人の切除不能局所再発/転移肛門管扁平上皮腫に適応拡大した。一次治療にはcarboplatin及びpaclitaxelと併用し、白金薬ベース化学療法に進行した、または、不耐の患者には単剤投与する。前者はPODIUM-303/InterAACT 2試験(308人)でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が9.3ヶ月とZynyzの代わりに偽薬を併用した対照群の7.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.63だった。全生存期間の中間解析は所定の閾値に達していないが、ハザードレシオ0.70、メジアン値は29.2ヶ月対23.0ヶ月と好ましい方向を指しており、偽薬群の45%が進行後にZynyzにクロスオーバーしたことも考えれば中々のものだ。

後者のエビデンスは21年に新薬承認申請した時と同じ第2相POD1UM-202試験。cORR(確認客観的反応率、独立評価委員会方式)が14%、メジアン反応持続期間は9.5ヶ月だったが、前回は、FDAも諮問委員会も、それだけでは延命またはそれに準じる便益に繋がるとは限らないとして、挙証不十分と判定した。

ZynyzはMacroGenicsからライセンスした抗PD-1抗体。23~24年に米欧で転移/難治局所進行性メルケル細胞腫用薬として承認された。

リンク: FDAのプレスリリース


アッヴィのADCが承認
(2025年5月14日発表)

アッヴィはFDAがEmrelis(telisotuzumab vedotin-tllv)を加速承認したと発表した。成人の治療歴のあるc-MET過剰発現型局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌に1.9mg/kgを2週毎点滴静注する。第2相LUMINOSITY試験(該当症例は84人)でORR(客観的反応率)が35%、メジアン反応持続期間は7.2ヶ月だった。警告・事前注意事項は末梢神経症、間質性肺疾患/肺臓炎、眼表面疾患、点滴関連反応、胚胎毒性。コンパニオン診断薬として承認されたロシュのVENTANA MET (SP44) RxDxアッセイで染色検査して、50%以上の腫瘍細胞で3+(強度)であった場合にc-MET過剰発現と判定される。EGFR変異を持たない非扁平上皮非小細胞性肺癌の25%が該当するようだ。

非小細胞性肺癌は様々な薬が選択肢になりうるので使い分けや順番に関する情報が重要だ。cMET過剰発現とEGFR変異は多くの場合排他的なようなので、EGFR阻害剤とは棲み分けそうだ。上記試験の被験者の96%は白金薬、82%は抗PD-(L)1抗体の使用歴を持っているので、少なくともエビデンス上は、これらの薬の後に使うことになるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


MSDのHIF-2アルファ阻害剤がPPGLに適応拡大
(2025年5月14日発表)

FDAはMSDのWelireg(belzutifan)を12歳以上の、手術や治癒的治療が適さない局所進行、切除不能、または転移性の、PPGL(褐色細胞腫・傍神経節腫)に適応拡大した。120mg(但し体重40kg未満の小児は80mg)を一日一回、経口投与する。72人を組入れた第2相試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が26%、メジアン反応持続期間は20.4ヶ月だった。有害事象は貧血、疲労、筋骨格痛、リンパ球減少、肝機能検査値異常など。

21年に米国で、今年2月にはEUでも加速/条件付き承認された経口HIF-2アルファ阻害剤。米国では即時手術が不要なVHL(フォン・ヒッペル・リンドウ)病関連腎細胞腫や中枢神経系血管芽細胞腫、膵神経内分泌腫瘍、そして23年には抗PD-(L)1抗体とVEGFチロシン・キナーゼ阻害剤歴のある進行腎細部腫にも、承認された。日本でもVHL病関連腫瘍に承認申請中。

今回のPPGLは希少な副腎疾患で、米国では年2000人世界では52800人が発症すると推測されている。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがcetirizineの稀だが深刻な離脱症状を警告
(2025年5月16日発表)

FDAは、抗ヒスタミンcetirizineとその異性体薬levocetirizineを長期服用後に中止して深刻な掻痒を発症した症例があるため、メーカーに添付文書の改訂を求める。アレルギー性鼻炎の代表的な治療薬の一つで、米国では2022年にOTC版が6270万箱販売され、処方薬は930万枚、処方されているため、発生頻度はごく稀と言えるのでないか。

FDAの有害事象報告システムには離脱後掻痒症例が17~23年に209件、届出された。過半はOTC版を使用していた。多くは数年に亘り毎日服用しており、服用期間が長いほど報告数が増える様子が見られるが、1週間だけの患者もいた。発症は中止の1~5日後。服用開始前には掻痒の経験はなかった。痛みが酷くて寝たきりになるなど深刻例もあった。発症後に服用を再開した79人のうち71人は掻痒が解消した。その後に再び中止した症例では再発リスクが見られ、用量漸減により再発を防げた症例もあった。これらのことから、FDAは、機序は不明だが因果関係があると判定した。

リンク: FDAの安全性情報


米国も高齢者のIxchiq接種を停止へ
(2025年5月12日発表)

FDAとCDC(疾病管理予防センター)は、フランスのValneva(Euronext Paris:VLA)のチクングニア熱弱毒化生ワクチン、Ixchiqに関して、60歳以上の接種を停止するよう推奨すると発表した。EUでもEMA(欧州薬品庁)が5月5日付で65歳以上に接種しないよう暫定的な勧告を行っている(第1206回で報告)。

チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルス感染症。アフリカや南アジア、東南アジアで流行が見られる。死亡率は高くないが、インド洋のフランス領Reunion島では20年前に1年で15万人以上が感染し、237人が死亡したことがある。

IxchiqはこのRNAウイルスを弱毒化した生ワクチン。23~24年に米欧で承認され、流行地域の居住者や渡航者などに用いられてきた。これまでの出荷は約8万本、接種は約43400回。

臨床試験でチクングニア様有害反応(筋痛や関節炎など)の発生率が11.7%と偽薬群の0.6%を上回り、重症例だけに絞っても1.6%だったため、FDAは加速承認とし、市販後症例調査を求めた経緯がある。規制強化に踏み切ったのは、神経学的なものや心臓の深刻有害事象が散見されるため。有害事象報告システムに17例が報告され、うち米国は6例、EUは9例(うちReunionで3例)。2人が死亡した。年齢は62~89歳。ワクチンとの関連性は確立していないが、FDAによると、幾つかの症例はチクングニアによる重度感染症と矛盾していない。

チクングニア熱ワクチンでは、Bavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)のアジュバント添加ウイルス様粒子ワクチン、Vimkunyaが今年2月に欧米で承認された。臨床試験のプール分析でチクングニア様有害反応の発生率は0.4%(14人)と、偽薬群の0.3%と大差なかった。殆どの症例は筋痛/関節炎で、G3以上の症例はなかった。Ixchiqと同様に3000人程度の限られた曝露だが、これだけ違うと、Vimkunyaのほうが安心と考えざるを得ない。但し、比較可能かどうか分からないが接種6ヶ月後の抗体陽転率はIxchiqの数値のほうが高い。他の安全性指標の比較も必要だ。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
諮問委員会
25/5/20ODAC:ロシュのColumvi(glofitamab、DLBCL 2L追加)とJNJのDarzalex Faspro(daratumumab及びhyaluronidase、くすぶり型多発骨髄腫追加)
25/5/21ODAC:UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin、胱内注入用、筋層非浸潤膀胱癌)とファイザーのTalzenna(talazoparib、転移性去勢抵抗性前立腺癌<相同組換修復不全型限定解除>)
25/5/22VRBPAC:25/26COVID-19ワクチンの配合株



今週は以上です。

2025年5月10日

第1206回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • イミフィンジのNMIBCアジュバント試験が成功 
  • GSK、iBAT阻害剤のPBC掻痒治療試験が成功 
  • エンハーツの早期乳癌術前療法試験が成功 
  • Aldeyra社、再々申請用試験が成功 
  • ビレーズトリの喘息症試験が成功 
  • エプキンリの濾胞性リンパ腫試験が成功 
  • Lantheus社、PSMA標的放射性核種の開発を断念 
  • ノボ、経口GLP-1作用剤を肥満症に承認申請 
  • ヌーカラの適応拡大も遅延 
  • 心ミオシン阻害剤の審査期限が延期 
  • 希少卵巣癌の新薬2剤の併用が承認 
  • EMA:5アルファ還元酵素阻害剤に自殺リスク 
  • EMA、チクングニア熱ワクチンを65歳以上に接種しないよう暫定的勧告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


イミフィンジのNMIBCアジュバント試験が成功
(2025年5月9日発表)

アストラゼネカは抗PL-L1抗体Imfinzi(durvalumab)が第3相POTOMAC試験で主目的を達成したと発表した。ファイザーに続いて承認申請となるのではないか。

この試験は、NMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)のTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)を受けた再発進行リスクの高い患者1018人を組入れて、BCGによる標準療法(導入と維持)に追加する便益を検討した。DFS(高リスク疾患の再発または進行なく生存)に統計的有意且つ臨床的に意味のある改善が示された。数値は未公表。全生存の解析は検出力不足だが悪影響は見られなかった。忍容性は二剤の過去の経験と同様だった。尚、BCGを導入療法だけに抑えてImfinziを追加した群のDFSはフェールした。

ファイザーは4月にAUA(米国泌尿器学会)で抗PD-1抗体PF-06801591(sasanlimab)が第3相CREST試験で主目的を達成したことを明らかにしている。BCG標準療法に追加した群のEFS(高グレード疾患再発、進行、または持続的CISなく生存)が標準療法群比ハザードレシオ0.68だった。全生存期間は中間解析で両群差がなかった。一方、BCGを導入療法だけに抑えてsasanlimabを追加した群はハザードレシオ1.16でPFSに有意差がなかった。ファイザーは当局に報告済みとのことなので、承認申請を視野に入れているのだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


GSK、iBAT阻害剤のPBC掻痒治療試験が成功
(2025年5月8日発表)

GSKは昨年11月にGSK2330672(linerixibat)が第3相GLISTENで主目的を達成したことを明らかにしたが、EASD(欧州糖尿病学会)でデータを発表した。欧米中日の施設で成人の中重度胆汁鬱滞性掻痒症を伴う原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者238人を組入れて、標準療法に追加する便益を検討したところ、第24週におけるWI-NRS(最大掻痒数値評価尺度、月間、レンジは0-10)がベースライン比2.86低下し、偽薬群の2.15低下を有意に上回った。有害事象は下痢の発生率が61%対18%で上回ったが、胃腸有害事象による治験離脱率は4%対1%未満でそれほど増えていない。

GSKは欧米で25年上期に申請し米国は年内承認を想定している。欧州、中国、日本でも26年の承認を想定。

この薬はiBAT(回腸胆汁酸輸送体)阻害剤。他社の類薬が進行性家族性肝内胆汁鬱滞症やアラジール症候群の治療薬として承認されている。

リンク: GSKのプレスリリース


エンハーツの早期乳癌術前療法試験が成功
(2025年5月7日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の早期乳癌ネオアジュバント試験におけるpCR(病理学的完全反応)解析が成功したと発表した。臨床的転帰に関わるEFS(無イベント生存率、副次的評価項目)は未成熟だが良好な早期トレンドは見られるとのこと。

この第3相DESTINY-Breast11試験は、日本も含むグローバルの施設で、her2陽性の局所進行/炎症性早期乳癌の切除術を予定する、高リスク患者927人を組入れて、標準療法であるddAC-THPレジメン(高強度doxorubicin・cyclophosphamideレジメンを4サイクル施行後にpaclitaxel、trastuzumab及びpertuzumabのTHCレジメンを4サイクル施行)のddACレジメンに代えてEnhertuを4サイクル投与する便益を検討した。pCRは主評価項目で、標準療法群と比べて統計的に有意且つ臨床的に意味のある違いがあった。数値は未発表。

適応拡大申請するかどうかは言及されていない。FDAはpCRだけで承認することに慎重な姿勢を示したことがある。

リンク: 両社のプレスリリース


Aldeyra社、再々申請用試験が成功
(2025年5月5日発表)

Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(reproxalap)0.25%点眼液の第3相チャンバー試験で主目的を達成したと発表した。申請前会議を経て25年央にドライアイ治療薬として承認申請する考え。

22年11月に承認申請したが、FDAがドラフト・ガイダンスで兆候試験(目の赤さなどの改善作用を検討)と症状試験(目の不快感の抑制作用を検討)を二本ずつ実施するよう推奨する中、後者は一本だけだったため、審査完了通知を受領した。24年にチャンバー・クロスオーバー試験を実施、試験薬点眼後にチャンバー室で目に風を当て続け、80~100分後の目の不快感を偽薬群と比較したところ、有意に抑制した。10月に再申請したが、ベースライン値に群間の偏りがあったことなどから、再び審査完了通知を受領した。

今回の試験はベースライン値の偏りはないとのこと。同社は屋外の試験も実施、数値上改善が見られたため、支持的証跡として提出する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


ビレーズトリの喘息症試験が成功
(2025年5月2日発表)

アストラゼネカは、Breztri Aerosphere(budesonide、glycopyrronium、formoterol fumarate)の第3相喘息症試験二本で主目的を達成したと発表した。二剤合剤比で統計的に有意且つ臨床的に意味のある優越性を示した。データは未公表。適応拡大申請に向かうだろう。

コルチコステロイド、長期作用性ムスカリン拮抗剤、長期作用性ベータ2作用剤の吸入用固定用量合剤。19~20年に日米欧でCOPD治療薬として承認された。

今回の試験は成人と青少年の管理不良喘息が対象で、KALOS試験は日本も参加した。各剤320mcg、28.8mcg、9.6mcgずつを一日二回吸入した。対照群はSymbicort(budesonideとformoterol fumarate を一日二回、320mcgと9mcgずつ吸入する合剤)またはPT009(同じ2剤を320mcgと9.6mgずつAerosphereディバイスで吸入する合剤)を用いた。主評価項目は第24週におけるFEV1(一秒量、0-3時の曲線下面積)と12~24週及び24週のトラフFEV1。

尚、ClinicalTrials.govに登録された主評価項目は、24週FEV1と二本のプール分析による喘息発作頻度で、異なっている。

この試験は、glycopyrroniumの用量をCOPDと同じ14.4mcgにした群も設定されているが、主題は28.8mcg採用群とのことで、成績は言及されていない。

承認後はGSKのTrelegy Ellipta(fluticasone furoate、umeclidinium、vilanterol)と喘息症でも争うことになる。Breztriは朝晩二回ずつ吸入するがTrelegyは一回で足りる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


エプキンリの濾胞性リンパ腫試験が成功
(2025年5月2日発表)

ジェンマブは、Epkinly(epcoritamab-bysp)が第3相EPCORE FL-1試験の中間解析で主目的のORR(客観的反応率、独立データ監視委員会査読)を達成したと発表した。数値は未公表。年内に米国で適応拡大申請する考え。共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間)の成否には言及していない。おそらく未成熟なのだろう。

アッヴィと共同開発販売している抗CD3/CD20二重特異性抗体。23年に米欧日で難治/再発性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療などに単剤投与することが承認された。難治/再発性濾胞性リンパ腫でも3次治療にlenalidomide及びrituximabと併用で24~25年に米欧日で承認されているが、今回、この3剤併用の2次治療における効果を検討した。

リンク: ジェンマブのプレスリリース


Lantheus社、PSMA標的放射性核種の開発を断念
(2025年5月7日発表)

Lantheus(Nasdaq:LNTH)はPNT2002の第3相転移去勢抵抗性前立腺癌試験結果についてアップデートすると共に、これ以上の投資や承認申請を行わないと発表した。イーライリリーも少なくともこの用途は断念するのではないか。

PNT2002はPSMAを標的にlutetium 177でベータ線を照射する放射性医薬品。22年にPOINT Biopharma(23年にイーライリリーに買収された)から世界独占商業化権(アジアの一部を除く)を取得した。今回のSPLASH試験はアンドロゲン受容体パスウェイ阻害剤(ARPI:abirateroneなど)に応答せず化学療法不適/拒否の患者412人を試験薬群と別のARPIにスイッチする群に2対1無作為化割付けして、PFS(放射線学的無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオが0.71となり有意に上回った。ところが、全生存期間の46%開票時点の解析は1.11、進行後にクロスオーバー(PNT2002による治療を施行)した症例を調整後でも1.14と見劣りしていた。75%開票時点でも、今回の最終解析でも、同じような結果になった模様だ。

ノバルティスの類薬であるPluvicto(lutetium 177 vipivotide tetraxetan)は22年に同様な試験で主目的のPFSが成功したが、FDAが延命効果に注目していたため解析結果が出るのを待って24年に申請、25年に適応拡大が認められた経緯がある。全生存期間のハザードレシオは0.91で別のARPIにスイッチした群と有意差がなかった。偽薬群の過半が進行後にクロスオーバーしたことも影響したようだ。類似前例では、実薬対照試験でこの程度の点推定値なら有意差がなくても承認を取れたことになる。今回は1.1程度なので0.2ポイント程度の差に過ぎないが、大きな違いとなった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ノボ、経口GLP-1作用剤を肥満症に承認申請
(2025年5月2日発表)

ノボ ノルディスクの米国法人はWegovy(semaglutide)の25mg経口錠を肥満症薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。10~12月期に審査結果が出る見込み。

GLP-1作用剤semaglutideは米欧日で皮下注用製剤がWegovyやOzempic名で肥満症や二型糖尿病向けに承認され、経口剤も二型糖尿病用薬Rybelsusとして19~20年に米欧日で承認されているが、今回は倍量を一日一回投与する。適応・効能は成人の肥満症や一つ以上の併発疾患を持つオーバーウェイトにおける体重管理と、確立した心血管疾患も伴う患者における主要有害心血管事象の抑制。エビデンスはOASIS 4試験とのことだ。

リンク: ノボの米国法人のプレスリリース

【承認審査・委員会】


ヌーカラの適応拡大も遅延

第2次トランプ政権発足以降、PDUFA(処方薬申請者課金法)に基づき設定される承認審査期限までにFDAから回答が来ない事例が散見されるようになった。Novavax社のCOVID-19ワクチンNuvaxoid(本承認切替)、Stealth BioTherapeuticsのバース症候群用薬elamipretideに続き、各種報道によると、GSKの抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)も好酸球性COPDの適応拡大審査が5月7日の期限に至っても音沙汰ないようだ。

PDUFA法は承認審査にかかわる経費の一部を承認申請者に負担させる一方で、審査期間に縛りを設けた。Nucalaの場合、申請受理から6ヶ月間と推測される。期限は必達ではなく、年度の承認申請件数の90%以上を期限内に審査終了することが、目標になっている。過去には90%を割った年度もあるので、今回が特に異常ということでもないが、FDA首脳陣や上部組織であるHHS(米国保健福祉省)の長官の交代、あるいはFDAの大規模な人員削減と、無関係とは考えにくい。

そういえば、大塚製薬がPTSD(トラウマ後ストレス障害)に効能追加申請したRexulti(brexpiprazole)も審査期限の2月8日から大幅に超過している。諮問委員会に上程することになったためとのことだったが未だに開催が発表されていない。どうなったのだろうか?


心ミオシン阻害剤の審査期限が延期
(2025年5月1日発表)

米国カリフォルニア州のCytokinetics(Nasdaq: CYTK)は心ミオシン阻害剤CK-3773274(aficamten)を閉塞性閉塞性肥大型心筋症用薬として欧米などで承認申請中だが、米国は審査期限が25年12月26日に3ヶ月延期された。FDAの要請に基づきREMS(リスク評価緩和戦略)を提出したことが申請内容の主要な変更と見なされたため。審査期間延長は珍しくはないが、今回は異例だ。事前会議を踏まえて昨年9月にREMS無しで申請し受理されたのに、今になって要請された。期限まで4ヶ月以上残っているのに延期も珍しい。

こちらも、第2次トランプ政権がFDA職員の大規模なリストラを実施したことや、これまでの薬効審査や安全性評価の方法に批判的な人たちがHHS(米保険福祉省)やFDAのトップに就任したことが影を落としているのでは二かと思われる。

REMSの具体的な内容は不明。aficamtenは第3相SEQUOIA-HCM試験でpVO2(最高酸素摂取量)やKCCQ-CSS症状評価尺度などが有意に改善した一方で、3.5%(5人)の患者で左室駆出率(LVEF)が50%未満に低下したり、4.9%(7人)でLVEF低下による用量減が発生したことに関するものかもしれない。

競合薬となるBMSのCamzyos(mavacamten)もREMS関連の資料を追加提出したことから審査期限の2ヶ月前に延期通告を受け、22年4月に承認された。REMSの内容は心不全リスクで、投与開始前や治療中にLVEFを検査して50%未満なら投与しないというもの。第3相EXPLORER-HCM試験では6%(7人)で50%未満に低下した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


希少卵巣癌の新薬2剤の併用が承認
(2025年5月8日発表)

FDAはVerastem Oncology(Nasdaq:VSTM)のAvmapki・Fakzynjaコ・パック(avutometinib、defactinib)を成人の全身性治療歴のあるKRAS変異陽性難治低グレード漿液性卵巣癌用薬として承認した。この適応を持つ薬は初めて。審査期限より2ヶ月近く早く、すべての薬の審査が長期化しているわけではないことになる。

avutometinibは中外製薬からライセンスしたRAFとMEKの阻害剤。0.8mgカプセル4個を、週2回経口投与する。defactinibはファイザーからライセンスしたFAK阻害剤。200mg錠を一日二回経口投与する。どちらも4週サイクルで、3週間反復投与し1週間休む。MEKを阻害するとリンFAK経路が代わりに活性化されることがあるため、併用でシナジーを生むアイディアだ。第2相RAMP 201試験でcORR(確認客観的奏効率、盲検独立中央評価、n=57)が44%、反応持続期間のレンジは3.3~31.1ヶ月だった。警告・事前注意事項は視覚異常、深刻皮膚毒性、肝毒性、横紋筋融解症、胚胎毒性。

低グレード漿液性卵巣癌の患者数は米国で6000~8000人、世界で8万人と推定され、うち3割程度がKRAS変異型と推定されている。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMA:5アルファ還元酵素阻害剤に自殺リスク
(2025年5月8日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、PRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)が自殺思慮を5アルファ還元酵素阻害剤finasterideの副作用として認めたと発表した。便益のほうが上回るため承認は維持するが、レーベルを改訂し、DHPC(直接的医療従事者連絡)を発出する。類薬であるdutasterideのレーベルにも関連情報を記載する。

finasterideはMSDが1mgを脱毛症治療薬として、5mgを良性前立腺肥大治療薬として実用化し、今では多くのGE品が販売されている。EUの市販後監視システムであるEudraVigilanceには313件の自殺思慮に関する疑い例/可能例が報告された。頻度は不明とのことだが、推定曝露は2.7億人年とのことなので極めて稀だ。自殺思慮や鬱病などの気分変調は従来から警告されているが、自殺思慮症例の多くを占める1mg製剤のレーベルに、発生したら服用を止めること、性欲低下や勃起不全など前兆の可能性がある症状が発生したら医師に相談することなどを記述し患者カードも用意する。尚、皮膚スプレー用の製品は関連性が見られないため対象外。

dutasterideは0.5mgが良性前立腺肥大治療薬として承認されている。自殺思慮報告は13件と少ない。推定曝露は8200万人年。因果関係は確立していないが作用機序が同じなので、レーベルにfinasterideで散見されるリスクを記載する。

MSDのPropeciaやGSKのAvodartの米国におけるレーベルには自殺思慮に関する記載はない。

リンク: EMAのプレスリリース


EMA、チクングニア熱ワクチンを65歳以上に接種しないよう暫定的勧告
(2025年5月5日発表)

EMA(欧州薬品庁)のPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)とETF(エマージェンシー・タスク・フォース)は、フランスのValneva(Euronext Paris:VLA)のチクングニア熱弱毒化生ワクチン、Ixchiqを接種した患者の一部で深刻有害事象が発生した件について検討を開始する共に、暫定的に、65歳以上に接種しないよう勧告した。DHPC(直接的医療従事者連絡)を発出する考え。

Ixchiqは23年に米国で加速承認され、24年にEUで、25年には英国でも、承認された。18歳以上に一回接種した第3相では28日における防御的中和抗体獲得率が98.5%(95%信頼区間98.5%)だった。重度チクングニア様有害事象の発生率が1.6%と偽ワクチン群の0%を上回り、入院例もあったことから、FDAは市販後に観察的試験等を行うよう求めた。

今年に入って、2月にCDC(米国疾病予防管理センター)が米国で65歳以上の5人が接種後に心臓/神経学的事象で入院したことを検討すると発表した。4月のACIP(ワクチン接種委員会)では継続調査と接種勧奨の両方が支持された。欧州では4月にHAS(フランスの高等保険機構)が65歳以上の接種停止を決めた。チクングニアが流行しているインド洋のフランス領ReunionとMayotteで接種キャンペーンを行ったところ、前者(約6400人に接種)で深刻有害事象が6例発生し、うち5人が入院、一名は死亡したため(ワクチンとの関連性は確立していない)。

今回のEMA発表によると、世界で17件の深刻有害事象が報告されている。年齢は62歳から89歳。致死例は接種キャンペーンが進められているフランス領La Réunionの2名。84歳男性が脳炎を発症後に、77歳の男性パーキンソン病が嚥下性肺炎後に、物故した。同島では約6400人、世界では43400人が接種を受けている。

EMAは、臨床試験症例は専ら65歳未満であるのに対して、深刻有害事象報告は65歳以上が圧倒的多数であるため、暫定的に65歳以上の接種を禁止することを決めた。

また、SmPC(製品仕様書)に記載されているように病気や治療により免疫力が低下/抑制されている人は禁忌であることもリマインドした。

尚、米国の症例は全員回復したとのことだ。

リンク: EMAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群
25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
諮問委員会
25/5/20ODAC:ロシュのColumvi(glofitamab、DLBCL 2L追加)とJNJのDarzalex Faspro(daratumumab及びhyaluronidase、くすぶり型多発骨髄腫追加)
25/5/21ODAC:UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin、胱内注入用、筋層非浸潤膀胱癌)とファイザーのTalzenna(talazoparib、転移性去勢抵抗性前立腺癌<相同組換修復不全型限定解除?>)
25/5/22VRBPAC:25/26COVID-19ワクチンの配合株


今週は以上です。

2025年5月2日

第1205回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19ワクチンに朗報、しかし新たな懸念も 
  • ファイザー、抗PD-1抗体の膀胱癌術前術後投与試験が成功 
  • AACR:BIのher2阻害剤の治験成績 
  • AACR:キイトルーダの頭頚部癌付随療法試験が成功 
  • アストラゼネカ、トルカプの第3相通算成績が二勝二敗に 
  • ノバルティス、蕁麻疹用btk阻害剤を承認申請 
  • Telixの脳腫瘍造影剤は承認されず
  • モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの承認が遅延へ 
  • バース症候群用薬の承認がまたまたまた遅延 
  • JNJの筋無力症用薬が承認 
  • 劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法が承認 
  • リンヴォックが巨細胞動脈炎に適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


COVID-19ワクチンに朗報、しかし新たな懸念も
(2025年4月24~30日発表)

第2次トランプ政権でワクチンなどの安全性に懐疑的な医学者が公衆衛生を担う主要官庁のトップに就任して以来、方針転換の動きが活発化しているか、無事にやり過ごせそうな事例も出始めた。

Novavax(Nasdaq:NVAX)は、COVID-19ワクチンの本承認切替申請がなかなか認められないが、市販後試験の要請を受け回答したとのこと。承認審査手続きが最終段階に入ったのだろう。

更に、Vaxart (Nasdaq:VXRT)の経口COVID-19ワクチンも後期第2相試験を再開できそうだ。BARDA(生物医学先端研究開発局)などの政府補助金を得て昨年9月に開始したが、今年2月に事業中止命令(Stop work order)を受領した。撤回/変更されない限り90日以内に終了するはずだったが、このたび、撤回通知を受領した。当初の予定通り、KP.2対応品を用いて1万人規模のmRNAワクチン対照感染予防試験を開始する考え。

一方で、新たな懸念材料も浮上した。CNNなどの報道によると、ケネディFDA長官のイニシアティブで、新規ワクチンの開発に際して偽薬対照安全性確認試験の実施が求められることになった。近年の画期的ワクチンは数万人規模の偽ワクチン対照試験が実施されたが、開発中のCOVID-19ワクチンのように大規模な偽ワクチン対照試験を実施するのが倫理に反する可能性がある場合は、Vaxartのように既存ワクチン対照試験を行ったり、Novavaxのように配合株を変えただけの場合は免疫原性試験だけしか実施しない場合もある。NovavaxはEUA(非常時使用認可)を既に取っているので深刻な問題ではないが、ファイザーやモデルナを含め、25/26年シーズン用の開発に影響する可能性がありそうだ。

リンク: Novavaxのプレスリリース
リンク: Vaxartのform 8-K(4/24付)
リンク: CNNの報道(4/30付)

【新薬開発】


ファイザー、抗PD-1抗体の膀胱癌術前術後投与試験が成功
(2025年4月26日発表)

ファイザーは1月に皮下注用抗PD-1抗体PF-06801591(sasanlimab)が第3相CREST試験で主目的を達成したと発表したが、AUA(米国泌尿器学会)で具体的な内容を公表した。欧米中日などの施設で実施された筋層非浸潤性膀胱癌の摘出術付随療法試験で、パートAではBCG歴を持たない患者を組入れて、BCGと同薬を術前術後合わせて25回ずつ投与する併用群のEFS(再発進行などが発生せず生存、担当医評価)をBCGによる標準療法と比較した。

結果は、ハザードレシオが0.68、両側p=0.019だった。両群ともメジアンには未達、36ヶ月EFS率は82.1%対74.8%で7ポイント程度の差があった。腫瘍が上皮下結合組織まで及ぶT1ステージのサブグループでも、上皮内腫瘍(CIS)サブグループでも、ハザードレシオは0.6前後で95%上限は1を下回っている。但し、副次的評価項目である全生存期間の中間解析では差が見られなかったとのこと。

尚、パートAではBCGを術前だけに抑えて試験薬の術前術後療法を追加した群も設定されたが、ハザードレシオ1.16で標準療法を上回ることはできなかった。また、この試験ではBCG不応患者に単剤投与するパートBも設定されたが、22年に安全性以外の理由で打ち切られた。2020年に米国でKeytruda(pembrolizumab)が適応拡大した余波かもしれない。

結果は当局に報告したとのこと。反応が良ければ承認申請する考えのようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


AACR:BIのher2阻害剤の治験成績
(2025年4月28日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは2月に日米などでher2チロシン・キナーゼ阻害剤BI 1810631(zongertinib)を成人の全身性治療歴のあるher2陽性切除不能/転移非小細胞性肺癌向けに承認申請し、米国では優先審査指定されたが、エビデンスとなる後期第1相試験、Beamion LUNG-1の成績をAACR(米国癌学会)とNew England Journal of Medicine誌でアップデートした。her2チロシン・キナーゼ・ドメインに変異のある患者を組入れたコフォートのうち、コフォート1の120mg投与例75人では、cORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が71%、メジアン反応持続期間は14.1ヶ月だった。完全反応率は7%。17%の患者でG3以上の薬物関連有害事象が発生した。一方、抗her2抗体薬物複合体歴のある患者31人のコフォート5ではcORRが48%だった。被験者の3%でG3以上の薬物関連有害事象が発生した。このコフォートは当初、240mgを採用したが、コフォート1で120mgのほうが成績が良かったため、その後の新規患者には120mgを投与した。

her2チロシン・キナーゼ・ドメイン以外に変異のある患者20人を組入れたコフォート3ではORRが30%(担当医評価ベース)、25%の患者でG3以上の薬物関連有害事象が発生した。

リンク: BI社のプレスリリース
リンク: Heymachらの治験論文抄録(NEJM)


AACR:キイトルーダの頭頚部癌付随療法試験が成功
(2025年4月27日発表)

MSDは、昨年10月、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)が第3相Keynote-689試験の第一次中間解析で主目的を達成したと発表したが、データをAACRで公表した。ステージIII/IV切除可能局所進行性HNSCC(頭頚部皮膚扁平上皮腫)の新患714人を組入れて、術後放射線療法(高リスク患者はcisplatinも)を施行する標準療法に、Keytrudaによる術前術後療法(200mgを3週毎に術前は2回、術後は最大15回)を追加する便益を検討したもので、EFS(無イベント生存期間)のハザードレシオがPD-L1高発現(CPS≧10)サブグループでは0.66、PD-L1陽性(CPS≧1)全体では0.70、陰性等を含むintent-to-treatベースでは0.73となり、全てp<0.01だった。尚、メジアン値は最初の二つの解析はどちらも59.7ヶ月対標準療法群29.6ヶ月、ITTでは51.8ヶ月対30.4ヶ月。

副次的評価項目である全生存期間は、順位が最上位のCPS≧10サブグループのデータが中間解析の閾値に達しなかった。但し、報道によるとハザードレシオ0.72、95%上限0.98とのことなので、好ましい方向を指している。ITTベースも含め、最終解析が楽しみだ。

G3以上の治療関連有害事象の発生率は44.6%対42.9%でそれほど変わらない。致死的な治療関連有害事象発生率は1.1%対0.3%だった。

同社は日米などで適応拡大申請中。

リンク: MSDのプレスリリース


アストラゼネカ、トルカプの第3相通算成績が二勝二敗に
(2025年4月29日発表)

アストラゼネカは、Truqap(capivasertib)の第3相CAPItello-280試験を中止すると発表した。中間解析で無益認定されたため。転移去勢抵抗性前立腺癌にアンドロゲン枯渇剤やdocetaxelと併用する便益を検討したが、果たせなかった。

この汎AKT阻害剤は23~24年に米日欧で成人のホルモン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌で、PIK3CAなどに変異があり、転移後治療歴またはアジュバント療法完了後1年以内に再発した患者向けに承認された。適応拡大ではトリプル・ネガティブ乳癌の一次治療試験が実施されたが24年にフェール。一方、前立腺癌のCAPItello-281試験では診断当初からPTEN欠乏性の転移ホルモン感受性前立腺癌に併用でPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)を有意に伸ばすことができたことが昨年11月に発表された。朗報と失望的な発表が代わりばんこになっている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ノバルティス、蕁麻疹用btk阻害剤を承認申請
(2025年4月29日発表)

ノバルティスは、25年第1四半期決算の発表に合わせて、米欧中国で選択的btk阻害剤LOU-064(remibrutinib)をCSU(慢性特発性蕁麻疹)用薬として承認申請したことを明らかにした。米国は優先審査バウチャを用いたため今年下半期に審査結果が判明する見込み。日本でも第3相試験中。CSUのほかに多発性硬化症でも第3相段階。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Telixの脳腫瘍造影剤は承認されず
(2025年4月28日発表)

オーストラリアのTelix Pharmaceuticals(ASX:TLX)は米国でTLX101-CDx(floretyrosine F18)を神経膠芽腫のPET造影剤として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加的な薬効確認試験の実施を求められた。詳細は不明。

リンク: 同社のプレスリリース


モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの承認が遅延へ
(2025年5月1日発表)

モデルナは、2025年第1四半期決算発表に合わせて、米国で24年に承認申請したmRNA-1083(次世代COVID-19ワクチンmRNA-1283と新規季節性インフルエンザワクチンmRNA-1010の混合mRNAワクチン)について、承認が26年にずれ込む見込みであることを明らかにした。優先審査バウチャを用いて25/26年シーズン前のロンチを図ったが、インフルエンザ・ワクチンの第3相で予防効果を確認するよう求められた。

mRNA-110は第3相免疫原性試験が成功したが、同社は混合ワクチンの承認申請を優先していた。一方、mRNA-1283は、第3相免疫原性試験で既承認のCOVID-19ワクチン、mRNA-1273を有意に上回り、順調なら5月31日までに承認される見込みだが、上記のように、FDAが偽薬対照安全性確認試験を求める可能性がある点がリスク要因だ。

リンク: 同社のプレスリリース


バース症候群用薬の承認がまたまたまた遅延
(2025年4月29日発表)

米国マサチューセッツ州のStealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)はMTP-131(elamipretide)をバース症候群の治療薬として米国で承認申請しているが、可否回答が遅れる旨の通知を受けた。元々at risk申請であり、FDA上層部の交代もあったので、審査が順調に進まなくてもやむを得ない。

バース症候群はX染色体上のTAZ遺伝子の変異によりミトコンドリアにおけるエネルギー生成が低下、心臓疾患や白血球減少症、運動障害などを合併する。米国で150人程度、世界では250人程度が罹患と推定されている。MTP-131はミトコンドリアを標的とするペプチド(MTP)。cardiolipinに結合しミトコンドリア膜の構造を正常化するとされる。

12歳以上の患者12人を組入れて40mgを一日一回、12週間皮下注射した第2/3相TAZPOWER試験で、試験薬群の6分歩行テスト成績がベースライン値の400mから443mに改善したが、偽薬群も412mから443mに改善したため、有意差が見られなかった。BTHS-SA(バース症候群症状評価)総合疲労スコアも大差なかった。

会社側はこの試験とオープン・レーベル延長試験のデータを自然歴(n=19)と比較するSPIBA-001試験で6分歩行テスト改善効果を確認し、FDAが推奨した再試験実施は困難であることから、患者支援組織が集めた署名とともに、21年8月に承認申請を断行した。受理されなかったが、FDAが他の超希少疾患用薬に関して承認申請のハードルを引き下げたことに意を強くしたか、24年1月に改めて承認申請すると今度は受理された。当初は標準審査、後に優先審査指定されたが審査期限は変更されなかった。

24年10月の諮問委員会では16人の委員中10人が薬効を支持した。いよいよと思われたが審査期限が4月29日に延期、今回、更に遅延することになった。

2019年にAmerican Society of Human Geneticsの年次総会でTAZPOWER試験の非盲検延長試験における左室一回拍出量スタディの結果が発表されていたようだ。おそらく、TAZPOWER試験自体はその時点ではフェールが判明していただろう。もし再試験を行っていたら、22年位には成否が判明し成功なら承認申請を経て23~24年には承認されていただろう。資金力の弱いバイオ企業ではしばしば見られる現象だが、もし開発主体がビッグファーマだったら、この薬の、そして患者の、命運は変わっていただろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


JNJの筋無力症用薬が承認
(2025年4月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Imaavy(nipocalimab-aahu)が12歳以上のgMG(全身性筋無力症)の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。AChR(アセチルコリン受容体)やMuSK(筋特異的チロシン・キナーゼ)に対する抗体を持つ患者が適応になる。欧日でも承認申請中。湿式自己免疫性溶血性貧血症やHDFN(胎児・新生児溶血性疾患)、シェーグレン症候群、そして慢性炎症性脱髄性多発神経炎でも第3相や第2/3相試験中。

20年にMomenta Pharmaceuticalsを65億ドルで買収して入手した、胎児性Fc受容体に結合する糖鎖除去・イフェクターレスIgG1型抗体。第3相試験で15mg/kg(但し初回は倍量)を24週に亘り2週毎点滴静注したところ、主評価項目(AChR、MuSK、そしてLRP4に対する自己抗体を持つサブグループにおけるMG-ADL(筋無力症日常生活機能評価)の改善)が4.70点と偽薬群の3.25点を有意に上回った。2~17歳の患者を組入れた第2/3相単群試験では免疫グロブリン量が大きく減少した。尚、上記のように承認範囲はこれらの試験よりやや小さくなっている。

gMGは新薬が輩出しており、胎児性Fc受容体標的薬ではargenxのVyvgart(efgartigimod alfa-fcab)とUCBのRystiggo(rozanolixizumab-noli)が、UCBはC5インヒビターのZilbrysq(zilucoplan)も、日米欧で承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース


劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法が承認
(2025年4月29日発表)

米国オハイオ州クリーブランドのAbeona Therapeutics(Nasdaq:ABEO)は、Zevaskyn(prademagene zamikeracel)が成人・小児の劣性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。患者のケラチノサイトやその前駆細胞にex vivoでCOL7A1遺伝子を導入してシート化した製品を、焼灼した創傷床に分解性縫合糸で固定するもの。第3四半期にロンチする予定。希少小児疾患優先審査バウチャを取得、売却する考え。

栄養障害型表皮水疱症は真皮と表皮をつなぐ係留線維の構成物である7型コラーゲンのCOL7A1遺伝子に機能喪失変異をもち、皮膚に水疱や糜爛が生じやすい。米国の推定患者数は3000人。

第3相VIITAL試験で11人の患者の複数の病変をZevaskynで治療したところ、奏効率(6ヶ月後に当該部位の病変が50%以上改善)が81.4%と、同一患者の治療しなかった病変の16.3%を有意に上回った。病変部位関連疼痛も有意に低下した。有害事象は施術に伴う疼痛やかゆみなど。

リンク: 同社のプレスリリース


リンヴォックが巨細胞動脈炎に適応拡大
(2025年4月29日発表)

アッヴィはFDAがJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)の適応症に成人の巨細胞動脈炎(GCA)を追加したと発表した。15mgを一日一回、経口投与する。EUでも4月に承認、日本は申請中。

第3相SELECT-GCA試験で第一選択薬であるコルチコステロイドの用量を段階的に減量・中止しながら投与したところ、持続的寛解率が46%と、試験薬よりゆっくりとコルチコステロイドを漸減した偽薬群の29%を有意に上回った。深刻有害事象の発生率は各群23%と21%。この試験では7.5mgもテストしたがフェールした。

レーベルには枠付き警告の主要な変更があったと記されているが、何度見比べても変更点が見つからなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好中球性喘息症に適応拡大)
25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群
25/6/30Verastem OncologyのVS-6766(avutometinib)とVS-6063(defactinib)、卵巣癌
25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
諮問委員会
25/5/5DSRMAC・AADPAC:オピオイドの市販後依存性等試験結果について



今週は以上です。

2025年4月27日

第1204回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗PD-1・VEGF二重特異性抗体の中国第3相がまた成功 
  • トロデルビのTNBC一次治療試験が成功 
  • エンハーツのher2+MBC一次治療試験が成功 
  • BMS、Cobenfyのアジャンクト試験がフェール 
  • ノボ、経口semaglutideを肥満症に承認申請済み 
  • CHMPが膿疱性線維症用薬などに肯定的意見 
  • 中華抗PD-1抗体がまた承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


抗PD-1・VEGF二重特異性抗体の中国第3相がまた成功
(2025年4月22日発表)

香港のAkeso(康方生物、HKEX:9926.HK)は、PD-1とVEGFに結合する二重特異性抗体ivonescimabが第3相AK112-306/HARMONi-6抗PD-1抗体対照試験の最初の中間解析で主目的を達成したと発表した。欧米日本の権利を持つSummit Therapeutics(Naasdaq:SMMT)が実施しているHARMONi-3試験で再現されるか、注目される。

同薬は中国で24年5月にEGFR阻害剤歴を持つEGFR変異局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌に化学療法と併用する用途用法で依达方というブランド名で承認された。 同年のASCO(米国臨床腫瘍学会)における発表によると、中国で実施されたAK112-301試験でPFS(無進行生存期間、独立放射線学的委員会評価)のメジアン値が7.1ヶ月と化学療法群の4.8ヶ月群を上回り、ハザードレシオは0.46だった。

今回の試験も中国の多施設で局所進行/転移扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療を受ける患者を組入れて、carboplatinとpaclitaxelのレジメンに追加する群のPFS(同、盲検独立中央評価)をtislelizumab(BeiGeneの抗PD-1抗体Tevimbra)追加群と比較したもの。数値は非公表だが、統計的に有意且つ臨床的に意味があるとのこと。PD-L1陽性にも陰性にも同様だった。

Summitは上記301試験と同様な内容のグローバル試験に加えて、306試験と類似したHARMONi-3試験でtislelizumabではなくpembrolizumab(MSDのKeytruda)と直接比較試験を実施中。FDAは中国だけで実施された試験に懐疑的なスタンスを示していて、おそらくトランプ政権下でも不変だろうから、少なくとも米国ではグローバル試験のエビデンスが重要になる。Akesoは抗PD-1抗体penpulimabが米国で承認されたところ(後述)が、エビデンスのうち一本は米国を含むグローバル第3相だった。

リンク: Akesoのプレスリリース


トロデルビのTNBC一次治療試験が成功
(2025年4月21日発表)

ギリアド・サイエンシズは、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)が第3相ASCENT-04/KEYNOTE-D19試験でPD-L1陽性TNBC(トリプル・ネガティブ乳癌)患者におけるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)の顕著な、かつ、意味のある改善を果たしたと発表した。適応拡大申請に向かうのではないか。

この試験は、日本を含む世界の施設でCPSスコアが10以上の局所進行切除不能または転移性のTNBCで局所進行/転移後は未治療の患者443人を、Trodelvyまたは化学療法(paclitaxel、nab-paclitaxel、またはgemcitabine・carboplatin併用から医師が選択)を、MSDのKeytruda(pembrolizumab)と併用する群のPFSを比較した。データは未発表。

副次的評価項目の全生存期間は未成熟だが改善のトレンドが見られたとのこと。

TrodelvyはEGP-1(別名TROP-2)を標的とする抗体とirinotecan活性代謝物の抗体薬物複合体。転移TNBCの3次治療における単剤投与が21年に米欧日で承認された。

今回の対照群は、KeyNote-355試験でPFSが9.7ヶ月と、化学療法(選択肢は上記と同じ)と偽薬を併用した群の5.6ヶ月を大きく上回った。化学療法をTrodelvyに置き換えることで更に向上することになる。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツのher2+MBC一次治療試験が成功
(2025年4月21日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、第3相DESTINY-Breast09試験で抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)とロシュのPerjeta(pertuzumab)を併用した群が中間解析でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)の統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を達成したと発表した。最終解析で他の評価項目を検討するため盲検が続行される。

この試験は、her2陽性(IHC3+またはISH陽性という狭義基準)の進行/転移乳癌で進行/転移後に化学療法やher2標的薬を未施行の患者1157人を、Enhertu・Perjeta併用群、Enhertu・偽薬併用群、または、対照群である標準療法群(taxane、trastuzumab、及びpertuzumabを併用)に無作為化割付けした。併用群は未成熟だが全生存期間を向上するトレンドが見られた。Enhertuのみの群のデータと共に、最終解析に向かう計画。

リンク: 両社のプレスリリース


BMS、Cobenfyのアジャンクト試験がフェール
(2025年4月22日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、24年9月に米国で成人の統合失調症治療薬として承認されたCobenfy(xanomelineとtrospium chlorideの固定用量合剤)のアジャンクト試験がフェールしたと発表した。承認のエビデンスは急性期患者に単剤投与した試験なので現状でアジャンクト使用はされていないだろうが、注意喚起のレーベル変更が行われる可能性があるのではないか。Cobenfyはアルツハイマー性精神症状の第3相も進行中。

xanomelineは新開発のムスカリンM1・M4受容体アゴニスト。イーライリリーがアルツハイマー病向けに開発したが失神など忍容性に難があり中止。開発担当者はKaruna Therapeuticsを設立して開発を続行し、末梢作用性ムスカリン受容体アンタゴニストtrospium(OAB治療薬として承認されている)を併用することで副作用の緩和を図った。BMSは同社を24年3月に140億ドルで買収した。

今回の第3相ARISE試験は、日本も含む世界の施設で非定型向精神薬による治療に十分応答しない成人統合失調症患者を組入れて、偽薬またはCobenfyを追加投与した。主評価項目の第6週におけるPANSS(陽性・陰性症状評価尺度)総スコア(n=186)がベースライン比で各群12.2点と14.3点低下し、差は-2点、p=0.11だった。副次的評価項目のPSPスコアやCGI-Sも大差なかった。

ポスト・ホック解析でrisperidone服用者(129人)では群間差が1.3点と数値上悪かったが、他の患者では-3.4点(-11.7点対-15.1点)、名目pは0.03だった。相互作用を疑う理論的な根拠があるかどうかは記されていない。

尚、承認時の試験は被験者を入院させたが今回は外来だった。鬱病試験でよくあるように、入院させた方が良かったのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ノボ、経口semaglutideを肥満症に承認申請済み
(2025年4月21日発表)

Biopharma Diveの報道によると、ノボ ノルディスクは、二型糖尿病治療薬として米欧日で19~20年に承認されたRybelsus(semaglutide)と同様な、経口投与用semaglutideを肥満症・リスク因子を持つオーバーウェイトの治療薬として今年に入って米国で承認申請した。23年に結果が公表された第3相OASIS 1試験では、50mgを一日一回、68週に亘り投与したところ、体重が15.1%低下、偽薬群の2.4%低下より大きかった(treatment policy estimandベース)。当時は23年に承認申請する予定だったが、皮下注用semaglutideの供給不足が発生したせいか、大きく遅れた。

Rybelsusの漸増目標用量は14mg/日なので、肥満症は3倍以上を投与することになる。尤も、こちらの用途でも23年に後期第3相PIONEER PLUS試験で25mgや50mgのHbA1cや体重低下作用が14mgを有意に上回ったと発表されたので、前後して用量追加申請される/された、かもしれない。

リンク: Biopharma Diveの報道

【承認審査・委員会】


CHMPが膿疱性線維症用薬などに肯定的意見
(2025年4月25日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)のAlyftrek(deutivacaftor、tezacaftor、vanzacaftor)は嚢胞性線維症の三剤合剤。6歳以上の、CFTC遺伝子にクラスI変異(タンパク製造に影響する変異)以外の変異(F508欠損など)を一つ以上持つ患者が対象。臨床試験で同社のKaftrio(ivacaftor、elexacaftor、tezacaftor)と1秒量改善作用が非劣性 、汗中塩化物矯正奏効率は優越性、安全性は同程度だった。両剤とも朝に経口投与するが、Kaftrioのレジメンは夕方にivacaftorを服用するので事実上、一日二回だった。同社にとっては他の嚢胞性線維症用薬よりロイヤルティ支払い率が低いというメリットもある。米国では昨年12月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

スウェーデンの希少疾患用薬開発販売会社であるPurpose Pharma International ABのAttrogy(diflunisal)はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー用薬。TTR四量体を安定化させ、モノマー化してアミロイドーシスを誘発するのを妨げる。活性成分はサリチル酸で、エビデンスや用法は不明だが、John L. Berkら(JAMA 2013)が2006~12年にスウェーデン、イタリア、日本、英国、米国で実施した130人規模の臨床試験では、250mgを一日二回、2年間投与したところNIS+7(Neuropathy Impairment Score plus 7)の悪化が8.7点と、偽薬群の25点を有意に下回った。

リンク: EMAのプレスリリース

イタリアのItalfarmacoのDuvyzat(givinostat)は6歳以上の歩行可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として条件付き承認することが支持された。クラスI、IIヒストン脱アセチル化酵素阻害剤。第3相EPIDYS試験でステロイド治療中の患者179人を組入れて経口懸濁液を一日二回、18ヶ月間投与したところ、主評価項目であるベースライン時点の筋脂肪分が所定範囲内であった120人における4段昇段時間の悪化が偽薬比1.78秒少なかった(p=0.0345)。米国の審査文書によると副次的評価項目の6分歩行テストはp=0.37、North Star Ambulatory Assessmentはp=0.0209だが多重性補正後は有意でなくなった。試験薬群は2.5%が有害事象で治験を離脱した。米国では昨年3月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

PTCセラピューティクスのSephience(sepiapterin)はフェニルケトン尿症の成人小児における抗フェニルアラニン血症の治療薬。患者で欠乏する細胞内テトラヒドロビオプテリン(BH4)の前駆体。米国でも申請中で審査期限は7月29日。ブラジルや日本でも24年に承認申請する計画だったが、どうなっただろうか。

リンク: EMAのプレスリリース

アムジェンのTepezza (teprotumumab)は抗IGF-1R完全ヒト化抗体。成人の中重度甲状腺眼症に用いる。有害事象は血糖値の上昇など。聴力障害が発生することがある。米国で20年に、日本でも昨年9月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

Jazz Pharmaceuticals (Nasdaq:JAZZ)のZiihera(zanidatamab)はher2の二つのエピトープに結合する二重特異性抗体。成人の一次以上の全身性治療歴のある切除不能局所進行性/転移性her2陽性(IHC3+)胆道癌用薬として条件付き承認することが支持された。臨床試験(n=62)でcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)が52%、メジアン反応持続期間は14.9ヶ月だった。

リンク: EMAのプレスリリース

尚、CHMPはイーライリリーが早期アルツハイマー病用薬として承認申請したKisunla(donanemab)について3月に否定的意見を纏めたが、メーカー側の要請に応じて再審査することを決めた。エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)は再審査を経て24年11月にApoE4ホモ接合型を適応外とすることで肯定的意見を獲得したが、Kisunlaはこのオプションを既に使ってしまったため、見通しが困難だ。

以下の適応拡大も支持された。

  • 武田薬品のAdcetris(brentuximab vedotin):成人の未治療CD30陽性ホジキン型リンパ腫(高リスクステージIIB、III、IV)におけるBrECADDレジメン(6剤併用)。
  • Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)のAmvuttra(vutrisiran):成人の野生型/遺伝性ATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)。米国は3月に承認、日本でも一変申請中。
  • アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib):成人の未治療慢性リンパ性白血病におけるvenetoclax(obinutuzumab追加可)併用。
  • アルジェニクス(Euronext:ARGX)のVyvgart(efgartigimod alfa):コルチコステロイド又は免疫グロブリンによる治療歴のある成人の進行性または再発性活性期CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)。EUでは点滴静注用製剤と皮下注用の製品名や一般名表記が同じなので分かり難いが、米国でVyvgart Hytrulo、日本でヒフデュラ配合皮下注と呼ばれる製品のみの適応追加。
  • ロシュのXofluza(baloxavir marboxil):内容は後日公表とのこと。

  • 一方、申請撤回となったのが、まず、Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)のDazluma(troriluzole)。脊髄小脳失調症用薬として承認申請したが、CHMPは、臨床試験でf-SARA機能評価尺度の悪化が偽薬群と大差なく、自然歴比較試験は第3の因子の可能性を否定できないことからエビデンス不足と考えていた。また、会社側は新規活性成分(GE薬承認が認められない期間が長い)として申請したが、筋萎縮性側索硬化症用薬として承認されている本剤の活性代謝物、riluzoleとの薬効や安全性面の違いが十分検討されていないと判定した。EMAのプレスリリースによると、会社側は3月に申請を撤回、この二剤の比較試験を行った上で再申請する考えのようだ。米国では2月に承認申請したところ。

    また、ファイザーはNgenla (somatrogon)を成人の成長ホルモン欠乏症に適応拡大申請したが、臨床試験はフェールした模様で、4月に申請撤回となった。

    【承認】


    中華抗PD-1抗体がまた承認
    (2025年4月23日発表)

    FDAは、中国のAkeso(康方生物、HKEX:9926)の米国子会社が申請したpenpulimab-kcqxを成人の難治/転移性非角化上咽頭癌に承認した。一次治療に白金薬及びgemicitabineと併用で、または、白金薬ベース化学療法を含む二次治療歴を持つ患者に単剤を、投与する。

    Sino Biopharmaceutical(1177.HK)と共同開発したIgG1型抗PD-1抗体。結合するエピトープが独自で、Fc部位の装飾により結合後の解離を抑制、作用の持続性を図った。中国で21年8月に安尼可という製品名で難治・再発古典的ホジキン型リンパ腫の三次治療に承認され、その後、上記疾患と扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療に適応拡大、VEGFR2阻害剤anlotinibと併用で肝細胞癌一次治療に申請中。

    一次治療のエビデンスは中国、米国、カナダ、南米、豪州で実施された304試験。PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価、n=291)が9.6ヶ月と、化学療法・偽薬併用群の7.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.45だった。全生存の解析は未成熟だが好ましくないトレンドは見られていない。後者のエビデンスは単一国(ClinicalTrials.govで検索してもヒットしないが常識的に考えれば中国)で実施された202試験。ORR(客観的反応率、独立放射線学的評価委員会方式)は28%、反応持続期間はメジアン未達で95%下限は9.2ヶ月だった。用量は200mg、化学療法併用は3週毎、単剤は2週毎に、最大24ヶ月投与した。

    三次治療で申請されたのは21年5月なので、やはり、中国試験だけでは承認されなかったのだろう。一次治療が中国で承認されたのは今年3月なので米国とそれほど変わらない。

    米国ではCoherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)がJunshi Biosciences(上海君実生物医薬、HKSE:1877) からライセンスしたIgG4型抗PD-1抗体Loqtorzi(toripalimab-tpzi)も上咽頭癌の一次治療に承認されている。こちらは非角化細胞型に限定されてはいない。

    リンク: FDAのプレスリリース



    PDUFA
    25/4推JNJのnipocalimab(全身性筋無力症)
    25/4推ノバルティスのatrasentan(IgA腎症)
    25/4/26TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤)
    25/4/29Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
    25/4/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好酸球性COPDに適応拡大)
    25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)



    今週は以上です。

    2025年4月19日

    第1203回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • DJT:COVID-19は武漢の研究所で生成された 
    • ACIP、サプライズは無し 
    • イーライリリー、経口GLP-1作用剤の第3相で主目的達成 
    • カムザイオスの非閉塞性肥大型心筋症試験はフェール 
    • アイリーア8mgを黄斑浮腫に適応拡大申請 
    • Ironwood、腸管不全治療薬の承認申請を完了できず 
    • アイリーア8mgの投与間隔拡大は承認されず 
    • ケネディ長官はNovavaxのコロナ・ワクチンに否定的? 
    • デュピクセントが米国でも蕁麻疹に適応拡大 
    • レコルダティ、クッシング病用薬がクッシング症候群に適応拡大 
    • レケンビがEUでやっと承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    DJT:COVID-19は武漢の研究所で生成された
    (2025年4月19日)

    ホワイトハウスは、ウェブサイトのCOVID-19関連頁を模様替えして、SARS-CoV2の起源は中国武漢の研究所と主張するサイトを肩を震わせんばかりのトランプ大統領の写真とともに公開した。これまでの通説である自然発生説を否定し、大統領自身がタスクフォースのリーダーとして抜擢したが直ぐに意見が対立し仲違いしたFauci博士を、誤った理論の推進者として非難。EcoHealth Allianceの当時のプレジデントであったDaszak博士を、NIH(米国立衛生研究所)から補助金を得ておきながら武漢の研究所で機能獲得研究を進めたとして批判。米連邦下院選定小委員会がこの問題を調査するのを妨害したとしてNY州の当時のCuomo知事を批判した。

    武漢研究所起源説はおそらく現在でもコンセンサスではないだろう。Daszak博士はNIHが助成金対象から一定期間除外する処分を行ったので、なんらかの違反が認められたのだろう。Cuomo知事は選定小委員会が司法省に告発したとのみ記されているので、事実かどうかは未決着なのだろう。不確かな主張に事実を混ぜることで全体の信憑性を高めるレトリックだが、実際は、主張の中に一つでも誤りがあると全体の信憑性が低下する。

    真実だろうが誤報だろうが、どっちにしろ誰かが書くんだから先に言ったもの勝ち、というMajiでTokuする5秒前戦術は日本のメディアの専売特許ではないようだ。

    リンク: 米ホワイトハウスの当該ウェブページ


    ACIP、サプライズは無し
    (2025年4月15-16日開催)

    トランプ政権発足後、医薬品に関する様々な委員会がストップしていたが、CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が半年ぶりに開催された。幾つかの変化の兆しが見られたが、今のところはドラスティックな変化は見られない。尤も、CDCがACIPの決議を一部変更した前例もあるので、トランプ政権下では尚更、予断を許さない。尚、CDC長官はまだ空席で、司法省選任検察官(trial attorney)などCDC外での様々な経歴を持つが医学研究のバックグラウンドはなさそうなMatthew Buzzelli首席補佐官(chief of staff)が代行することになる。

    各種報道によると、ACIPではCOVID-19ワクチンやHPVワクチンのワーキング・グループが接種勧奨対象の見直しに言及した。次回、6月25-26日の会議で票決に進む模様だ。

    COVID-19ワクチンは現状では全国民に接種勧奨しているが、25/26年は高齢や免疫低下などリスク因子を持つ人に限定する方向のようだ。現状では65歳以上や免疫低下者などのブースター接種は6ヶ月以上おいて二回接種を勧奨しているが、一回に減らすなどの変更を検討している様子。今回初めて知ったが、英国(75歳以上または長期介護施設入居者の場合)、カナダ(80歳以上または長期介護施設入居者)、オーストラリア(75歳以上)でも高リスク者に年二回接種を勧めている。WHOの調査でも国毎に区々のようだ。

    まあ、政府が勧奨しても国民が躍るとは限らず、米国の場合、65歳以上の接種率は44%に留まるようだ(24/25年シーズン)。65歳未満の接種率はもっと低く、今回の方針変更素案は、現状を追認したと受け止めることも可能だろう。

    もう一つはHPVワクチン。接種回数は2回ではなく1回でも十分という研究結果が公表されているが、ワーキング・グループも1回接種を選択肢に加える当否を検討している。一方、推奨年齢である9~14歳の上限年齢を20歳、26歳、あるいはもっと上まで拡大することを検討している模様。FDAの承認範囲をはみ出るオフ・レーベル用途になるが、過去のワクチンでも前例があるとのことだ。

    コスタ・リカで2万人超を組入れて進行中のESCUDDO試験の結果が6月にも判明する模様であり、どちらに転ぶにせよ、重要なエビデンスになりそうだ。MSDも一回接種と二回接種の比較試験を開始すべく、規制機関と協議しているようだが、いつものことながら、売上減に繋がりかねない臨床試験は結果が出るまで時間がかかる。

    このほかで特筆すべきはRSVワクチン。50~59歳の高リスク者に推奨することで14人全員が一致した。GSKのArexvy(FDA承認済み)、ファイザーのAbrysvo(18~59歳の高リスクに承認済み)、mResvia(18~59歳の高リスク者に適応拡大申請中)が対象。昨年6月のACIPでは結論保留となり一部企業の株価にも影響した模様だが、前進した。

    リンク: 4/15-16のACIPで用いられたプレゼン・スライド

    【新薬開発】


    イーライリリー、経口GLP-1作用剤の第3相で主目的達成
    (2025年4月17日発表)

    イーライリリーはLY3502970(orforglipron)の第3相二型糖尿病試験で主目的を達成したと発表した。他にも複数の第3相が進行中で、年内に肥満症向けに、26年には二型糖尿病にも、承認申請する考え。

    18年に中外製薬から全世界開発販売権を取得した、経口GLP-1作用剤。第一選択権を持つロシュは行使しなかったようだ。GLP-1作用剤は巨大市場に育ってきたが、一時期、生産が間に合わず米国では調合薬局品が重宝されたことがある。orforglipronは小分子薬でイーライリリーは供給面の懸念がないとしている。

    今回のACHIEVE-1試験は米中印日墨の施設で薬物治療を受けていない二型糖尿病患者520人を偽薬群と3mg群、12mg群、36mgの各群に無作為化割付けして一日一回投与し、40週後のHbA1c低下を比較した。試験薬群1mgで開始、4週毎に3mg、6mg、12mg、24mg、36mgの刻みで目標用量まで漸増した。HbA1cのベースライン値は8.0%。

    FDAや医師・患者にとって重要でレーベルに記載されるであろう、treatment-regimen-estimandベースで見ると、各群0.4%、1.2%、1.5%、1.5%、製薬会社が重視するefficacy estimandベースでは各群0.1%、1.3%、1.6%、1.5%だった。前者の方が偽薬群の数値が大きいのは、おそらく、十分な効果が得られない症例にレスキュー・ドラッグを投与するよくあるプロトコルだったのだろう。試験薬群の成績はそれほど変わらないので、途中で投与を止めてしまい血糖値がリバウンドした症例が多くなかったのだろう。

    副次的評価項目の体重(ベースライン値は90.2kg)は、各群1.7%、4.5%、5.8%、7.6%低下した。efficacy estimandベースでも1.6%、4.7%、6.1%、7.9%低下した。プラトーには達していないとのことで追跡を続ければもっと差が開くかもしれない。有害事象治験離脱率は各群1%、6%、4%、8%。ファイザーが競合品の開発を中止する主因となった肝臓安全性のシグナルは見られなかったようだ。

    第2相二型糖尿病試験では45mgもテストしたが効果は36mgと大差なかった。12mg群と36mg群の差も0.1%程度で、今回は、ほとんど同じだった。但し、体重に関しては今回も3~4%の差があった。経口GLP-1作用剤も二型糖尿病と肥満症で承認最大用量が変わるのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    カムザイオスの非閉塞性肥大型心筋症試験はフェール
    (2025年4月14日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブは、心ミオシン・アロステリック・インヒビターCamzyos(mavacamten)が第3相非閉塞性肥大型心筋症(noHCM)試験で主目的を達成しなかったと発表した。同薬は22~23年に米欧で閉塞性肥大性心筋症(oHCM)の治療薬として承認され、日本でも3月に承認されたところ。

    今回のODYSSEY-HCM試験は成人のNYHAクラスがIIまたはIIIの症候性でnoHCM患者580人を組入れて、48週間投与後のKCCQ-23 CSS(症状評価尺度)とpVO2(最大酸素摂取量)を偽薬群と比較した。oHCMの第3相では両方とも有意に改善したが、noHCMでは、第2相に続き、フェールした。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    アイリーア8mgを黄斑浮腫に適応拡大申請
    (2025年4月17日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は米国でEylea HD(aflibercept 8mg/0.07mL製剤)を網膜静脈閉塞症患者の黄斑浮腫治療に適応拡大申請した。また、承認されている全適応症に関して、4週毎投与をずっと続ける用法追加も申請した。優先審査バウチャを使用して優先審査を獲得、審査期限は8月19日。

    前者の適応は、第3相QUASAR試験で4週毎投与を3回施行した後に8週毎に移行した群と、5回施行後に移行した群のどちらも、BCVA(最高正視力)が既承認のEylea 2mg/0.05mL製剤を4週毎投与した群と非劣性だった。有害事象は眼に関する治療時発現有害事象が若干多かった。

    後者は、4週毎に3回投与した後に、現在承認されている8~16週毎ではなく4週毎を続けるというもの。オリジナルの製剤と同じになってしまうが、患者の個人差にフレキシブルに対応できるようにする意図なのかもしれない。オリジナルの製剤はシミラーが発売されたので一人でも多くHD製剤に誘導する意図もありそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Ironwood、腸管不全治療薬の承認申請を完了できず
    (2025年4月14日発表)

    Ironwood Pharmaceuticals(Nasdaq:IRWD)は1月に米国でapraglutideのローリング承認申請に着手したが、FDAに追加第3相試験の実施を求められたと発表した。短腸症候群に腸管不全を合併し経静脈栄養に依存する成人患者164人に週一回皮下注した第3相STARS試験で経静脈栄養量を25%減らすことに成功したが(偽薬群は12%減)、薬物動態分析で試験薬の曝露が想定より小さいことが判明したことなどがボトルネックになったようだ。経営が厳しい模様で、ゴールドマン・サックスに戦略的代替策の提案を委託した。

    類薬では武田薬品のGattex(欧州ではRevestive、日本ではレベスティブ)が12~21年に米欧日で承認されている。23年にZealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)が米国でZP 1848(glepaglutide)を承認申請したが、市販を予定する用量に関するエビデンスが不足と指摘する審査完了通知を受領、追加第3相を実施する予定。

    リンク: Ironwoodのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    アイリーア8mgの投与間隔拡大は承認されず
    (2025年4月18日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はEylea HD(aflibercept 8mg/0.07mL製剤)の最大投与間隔を現在(加齢性黄斑変性と糖尿病性黄斑浮腫では16週毎、糖尿病性網膜症では12週毎)から最大24週に広げるべく米国で用法追加申請していたが、審査完了通知を受領した。安全性や薬効の問題ではないとのことだが、何の問題なのかは明らかではない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ケネディ長官はNovavaxのコロナ・ワクチンに否定的?
    (2025年4月10日発表)

    Novavax(Nasdaq:NVAX)は米国でCOVID-19ワクチンNuvaxovidのEUA(非常時使用認可)を通常承認に切替えるべく申請していたが、審査期限が過ぎたのに音沙汰ないと4月2日に発表したのに続いて、効果や安全性を信じている、しかしまだ公式な回答がない、と発表した。HSS(米連邦保健福祉省)のR.F.ケネディ長官がTV番組で科学的根拠に懐疑的な見解を示したと報じられており、アナリストやジャーナリストの問い合わせが相次いだのだろう。

    22年に欧日米で承認された最初の製品は第3相偽薬対照試験で症候性感染を大きく抑制した。その後に投入された変異株対応ワクチンは免疫原性試験しか行われていないが、mRNA陣営も同じである。強いて言えば、24/25年用で採用した抗原はJN.1系統のもので、ファイザーやモデルナのKP.2系統より流行が少し前だが、この二つの系統は塩基配列がそれほど違わないとされている。

    長官はコモン・センス・キラーなので、当方には思いもつかない、コペルニクス的転回を『チ。』したのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    デュピクセントが米国でも蕁麻疹に適応拡大
    (2025年4月18日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と共同開発販売パートナーのサノフィは、FDAが抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を慢性特発性蕁麻疹に適応拡大したと発表した。12歳以上のH1抗ヒスタミン治療に十分応答しない患者に追加投与する。抗IgE抗体Xolair(omalizumab)に十分応答しない患者を組入れたLIBERTY-CSU CUPID試験のスタディBは中間解析で無益認定されたが、H1不十分応答でバイオ薬未経験の患者を組入れたスタディAと、同様な患者の追加試験であるスタディCでは症状スコアが偽薬追加群比有意に改善した。

    DupixentはスタディAとBに基づき23年に承認申請されたが主要国で承認されたのは日本だけで、米国は審査完了通知を受領した。EUは2月に申請撤回した旨、発表されたが、今回のリリースには承認審査中と記されているので再申請したのだろう。

    リンク: 両社のプレスリリース


    レコルダティ、クッシング病用薬がクッシング症候群に適応拡大
    (2025年4月16日発表)

    レコルダティは、FDAがIsturisa(osilodrostat)の適応症を従来のクッシング病からクッシング症候群全体に変更することを承認したと発表した。手術が適さない、または術後も十分に改善していない、成人のクッシング症候群における内分泌性コルチゾール血症の治療に用いる。

    クッシング病は下垂体の異常が原因でACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が過剰に分泌され、血中コルチゾールが増加、顔がむくんだり、皮下出血しやすくなったり、血圧上昇など様々な症状を合併することがある。クッシング症候群は、下垂体だけでなく、副腎の良性腫瘍などが原因のものも含まれる。

    Isturisaは20年に米国とEUで、21年には日本でも、承認されたが、欧日とは異なり、米国ではクッシング病に限定されていた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    レケンビがEUでやっと承認
    (2025年4月16日発表)

    エーザイと開発販売パートナーのバイオジェンは、Leqembi(lecanemab)がEUで承認されたと発表した。アミロイド病理が確認された、二組の遺伝子セットともにApoEエプシロン4変異型ではない、早期アルツハイマー病(軽度認知障害又は軽度認知症)の治療に用いる。

    同薬は米日では23年にApoEアレル不問で早期アルツハイマー病に承認されたが、EUは大幅に遅延した。ARIA(アミロイド関連造影異常)という抗アミロイド・ベータ抗体に固有のリスクに対する懸念や、EMA(欧州薬品庁)の手続き上の瑕疵により、CHMP(医療用製品諮問委員会)の審査が長期化。CHMPが肯定的意見に転じた後も、欧州委員会が新たな安全性情報(具体的な内容は公表されていない)に基づき再検討を求め、CHMPが再び肯定的意見を出した後も、欧州委員会がアピール・コミッティーに上程するなど、滅多に見ない波乱万丈な推移だった。

    ApoEエプシロン4アレルを二つ持つホモ接合型患者はアルツハイマー病のリスクが高いが、ARIA罹患リスクも高いため、適応外とされた。第3相Clarity AD試験のサブポピュレーション分析では、適応と合致する患者は1795人中1521人(リスクを検討する必要があるためホモ接合型が大目に組入れられた)。このユニバースにおける治療効果は、CDR-SB(ベースライン値は3.2)が18ヶ月後に偽薬群は調整後で1.752悪化したが、試験薬群は同1.212の悪化に留まり、進行を31%抑制した。ホモ接合型も含む全体の解析では各群1.66と1.21の悪化、進行を27%抑制した。但し、今回の解析は全体の解析と手法が異なり、比較することはできない。

    ARIAの発生率は出血型(ARIA-H)が13%、浮腫型(ARIA-E)は9%だった。下記プレスリリースには偽薬群の数値が記載されていないが、CHMPが24年11月に肯定的意見を纏めた時のプレスリリースによると、各7%と1%。リスクがなくなるわけではないが、試験薬群の全体の解析では各17.3%と12.6%(偽薬群は9.0%と1.7%)だったので、ホモ接合型を除外することでリスクを抑制できることになる。

    リンク: 両社のプレスリリース(和文)

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/4推JNJのnipocalimab(全身性筋無力症)
    25/4推ノバルティスのatrasentan(IgA腎症)
    25/4/26TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤)
    25/4/29Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
    25/4/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好酸球性COPDに適応拡大)
    25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)


    今週は以上です。

    2025年4月12日

    第1202回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • CBERのヘッドが辞任に至った経緯 
    • MC4Rアゴニストが後天性視床下部性肥満症に有効 
    • tramiprosateプロドラッグのApoE4/4型eAD試験はフェール 
    • オプジーボ・ヤーボイ併用法の適応追加 
    • ヒフデュラが米国でも自己注可能に 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    CBERのヘッドが辞任に至った経緯
    (2025年4月8日報道)

    AP通信のインタビューで、恐るべき事実が明らかになった。FDAのCBER(生物学的製品評価研究センター)のヘッドだったPeter Marks博士が辞任したのは、上部組織であるHSS(保健福祉省)のRobert F. Kennedy長官がワクチン有害事象報告システムのデータを改竄・消去するのを恐れアクセス制限を試みたことがきっかけだったという。この懸念が妥当だったのか、当方には知るべくもないが、それほどの不信感を持っている(持たれている)ことだけで十分に異常だ。

    FDAのAERS(有害事象報告システム)は医療従事者などの自主報告に依存しているため、氷山の一角に過ぎない可能性があり、原因などに関する情報も不正確、不十分なことが少なくない。同じ症例が複数の関係者により重複報告されることもある。法律事務所が薬害訴訟の準備として報告する場合もあり、筆者が調べた事例では、COX-II阻害剤Vioxx(rofecoxib)は2004年9月に自主回収された途端、AERS報告数が飛躍的に増加した。

    AERSが完璧でないことは確かなので、Marks博士は再評価に反対ではなかった模様だが、データを守るため、長官のチームに完全なアクセス権は与えなかった。すると、長官の指示を受けたと目される人物から、辞任するか解雇を待つか、選ぶよう通知されたとのことだ。

    二大政党間の政権交代時には改革や混乱が付き物だが、今回は特にひどいように思われる。

    リンク: AP報道

    【新薬開発】


    MC4Rアゴニストが後天性視床下部性肥満症に有効
    (2025年4月7日発表)

    Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)は、MC4R(melanocortin-4 receptor)アゴニストsetmelanotideの第3相後天性視床下部性肥満症試験で主目的を達成したと発表した。7-9月に欧米で承認申請する考え。日本人のコフォートの結果も26年第1四半期に見込まれている。

    この疾患は脳の空腹や体重を管理する部位に腫瘍などによる異常が生じ、過食や肥満が急速に進行する。推定患者数は米国で5000~10000人、欧州で3500~10000人、日本は5000~8000人とされる。今回のTRANSCEND試験は、4歳以上の患者120人を試験薬群と偽薬群に2対1割付けして52週間投与し、BMIの変化を比較した。試験薬群は16.5%低下、偽薬群は3.3%上昇し、偽薬調整値は-19.8%となった。成人でも未成年でも同様な差があった。試験薬群の5%低下奏効率は80%だった。

    この活性成分はPOMC(pro-opiomelanocortin)などの欠乏による肥満症の治療薬Imcivreeとして20~21年に米欧で承認されている。米国のPOMC欠乏性肥満症の推定患者数は100~500人、LEPR(leptin receptor)欠乏性は500~2000人、BBS(Bardet‑Biedl syndrome)欠乏性は500~2000人と推定されているので、適応拡大が認められれば市場性が倍増以上することになる。

    リンク: 同社のプレスリリース


    tramiprosateプロドラッグのApoE4/4型eAD試験はフェール
    (2025年4月1日発表)

    Alzheon社はALZ-801(valiltramiprosate)で第3相ApoE4ホモ接合型早期アルツハイマー病(eAD)試験がフェールしたとADPD(アルツハイマー病・パーキンソン病国際学会)のIndustry Symposiumで発表した。被験者の4割を占めたMCI(軽度認知障害)サブグループでは良い数値が出た模様なので、もし自信があるならば、そして、現在の困難な環境下でも資金提供者を確保できるならば、MCI限定第3相に進むのではないか。

    活性成分はBellus Healthからライセンスした経口GAG(グリコサミノグリカン)類縁体tramiprosateのプロドラッグ。tramiprostateは可溶性アミロイド・ベータに結合して重合を阻害する作用を持ち、第2相試験でアミロイド・ベータ42の脳脊髄液濃度を最大7割削減した。Bellusは第3相軽中度アルツハイマー病試験を実施したがフェール、結局、カナダで栄養補助食品として発売されただけだった。

    Alzheonはアルツハイマー病のリスク因子であるApoE4アレルを二組持つeAD患者325人を欧米の施設で組入れて、偽薬または265mg錠を最初の2週間は1日1回、その後は1日2回、78週間投与し、主評価項目のADAS-cog13などを比較した。報道によると、進行が11%遅かったがp=0.607だった。MCIサブグループでは52%遅かったが、軽度アルツハイマー病サブグループでは18%早かった。CDR-SBなどの副次的評価項目も同様な傾向が見られた模様だ。

    ApoE4型は発症リスクが比較的高い一方で抗アミロイド抗体による副作用罹患率が比較的高く、欧州ではホモ接合型は禁忌となっている。ニーズが高いが失望的な結果になった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    オプジーボ・ヤーボイ併用法の適応追加
    (2025年4月11日/8日発表)

    FDAはブリストル マイヤーズ スクイブの抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用について新たに二つの適応を承認した。

    一つは、成人の全身性治療歴のない切除不能/進行肝細胞腫。Opdivo(1mg/kg)とYervoy(3mg/kg)を3週毎に4回投与し、その後はOpdivo(480mg)だけを4週毎投与する。EUでは3月に承認、日本でも一変申請中。

    エビデンスとなる第3相CheckMate-9DW試験で全生存期間を既承認薬(エーザイのLenvima(lenvatinib)またはバイエルのNexavar(sorafenib)から治験医が選択)と比較したところ、ハザードレシオは0.79、メジアン値は各群23.7ヶ月と20.6ヶ月だった。

    Lenvimaは同様な患者層の試験でメジアン生存期間が13.6ヶ月となり、Nexavarの12.3ヶ月と比べて非劣性だった。他社の試験でもLenvimaを用いた対照群のメジアン生存期間は13ヶ月程度だった。ところが、Keytrudaを追加する便益を検討したLeap-002試験ではLenvimaだけで19.0ヶ月と良い結果になり、これがフェールした原因なのではないかとささやかれた。今回も好結果なので、組入れ・除外条件や実施地域構成などが影響している可能性があり、過去の試験とは比較できないのかもしれない。

    尚、Opdivo・Yervoy併用は2020年に肝細胞腫2次治療がFDAに加速承認されたが、上記試験の成功を受けて、本承認に切替えられた。

    肝細胞腫一次治療試験の成績

    試験レジメンNexavarLenvimaハザードレシオ試験名
    Opdivo+Yervoy23.7ヶ月20.6ヶ月0.79CheckMate-9DW
    Tecentriq+Avastin未到達13.2-0.58Imbrave150
    Imjudo+Imfinzi16.413.8-0.78HIMALAYA
    Lenvima13.612.3-0.92REFLECT
    Keytruda+Lenvima21.2-19.00.84Leap-002
    注:REFLECT試験は非劣性検定が成功、Leap-002試験は優越性解析がフェール、それ以外は優越性解析成功。CheckMate-9DW試験の対照群は医師がLenvimaまたはNexavarを選択。


    リンク: FDAのプレスリリース(肝細胞腫承認、4/11付)

    もう一つは、12歳以上のMSI-H(高マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復不全)型の切除不能/転移結腸直腸癌。受理から2ヶ月のスピード承認。EUでは12月に承認済み。日本でも一変申請中。

    このタイプの癌では両剤の3次治療における併用が18年に加速承認されているが、今回、延命またはそれに準じる効果が認められたため、本承認に切替えられた。尚、Opdivoは単剤でも3次治療に用いることが承認されている。

    エビデンスとなるCheckMate-8HW試験で、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン値未達、Opdivo単剤投与群は39.3ヶ月となり、ハザードレシオは0.62と大きな違いが確認された。共同主評価項目である1次治療患者だけのPFSもメジアン未達、医師が選んだ化学療法を施行した群は5.8ヶ月、ハザードレシオ0.21と大変良い数値が出た。

    尚、医療施設でMSI-H/dMMR陽性判定された707人(1次治療コフォートでは303人)のうち、セントラルラボで確認され解析対象となったのは582人(同、255人)で、2割近い症例がドロップした。her2など他の検査も含めて、結果判定に揺らぎは付き物でサンプルの棄損・逸失のような症例もあったかもしれないが、もし本当は陽性だったとしたら治療機会を逃すことになるので、検査・評価技術の向上(評価基準の標準化と考えた方がよい?)も重要な課題だろう。

    リンク: 同(MSI-H/dMMR結腸直腸癌承認、4/8付)


    ヒフデュラが米国でも自己注可能に
    (2025年4月10日発表)

    アルジェニクス(Euronext/Nasdaq:ARGX)は、FDAがVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa、hyaluronidase-qvfc)のプリフィルド・シリンジを承認したと発表した。全般性重症筋無力症または慢性炎症性脱髄性多発神経障害の治療に用いる。この皮下注用抗FcRn抗体はバイアルが23~24年に米欧日で同適応症に承認されているが、充填済み製品は20~30秒と従来の30~90秒よりやや短時間の投与で足り、米国では初めて、自己注が認められた。配合量は抗FcRn抗体が1008mg、ヒアルロン酸分解酵素が11200単位と、バイアル版(1000mgと10000単位)より気持ち多い。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/4推JNJのnipocalimab(全身性筋無力症)
    25/4推ノバルティスのatrasentan(IgA腎症)
    25/4/18RegeneronのDupixent(dupilumab、特発性慢性蕁麻疹追加)
    25/4/26TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤)
    25/4/29Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
    25/4/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好酸球性COPDに適応拡大)
    25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)



    今週は以上です。

    2025年4月5日

    第1201回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 米国のワクチン行政に不吉な兆し 
    • 二重特異性抗体が胆管癌に良績 
    • グルココルチコイド受容体拮抗剤の卵巣癌試験が成功 
    • MSD、肺動脈高血圧症用薬の心血管アウトカム試験成績を発表 
    • BeiGene、抗TIGHT抗体の第3相がフェール 
    • Sunosiの鬱病試験はフェール 
    • 向精神薬iloperidoneの代謝物を承認申請 
    • リベルサスの心血管便益を承認申請 
    • オゼンピックを二型糖尿病患者の末梢動脈疾患に承認申請 
    • 大塚製薬、抗APRIL抗体をIgA腎症に承認申請 
    • Aldeyra、再び審査完了通知を受領 
    • Milestone社、抗不整脈薬が承認されず 
    • CHMPが高リン血症治療薬などに肯定的意見 
    • DMD用薬atalurenがEUで承認取消へ 
    • ETA受容体拮抗剤がIgA腎症に承認 
    • ユプリズナがIgG4関連疾患に適応拡大 
    • 血友病の短鎖RNA介入薬が承認 
    • イミフィンジが膀胱癌の周術期補助療法に適応拡大 
    • ノバルティスの放射性医薬品が適応拡大 
    • IDMCがSarepta社のDMD用薬の治験継続を支持 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    米国のワクチン行政に不吉な兆し
    (2025年4月2日発表)

    Novavax(Nasdaq:NVAX)はCOVID-19ワクチンの非常時使用認可を通常承認に切替えるべくFDAに申請していたが、4月1日の審査期限を迎えても返答がなかったことを明らかにした。一部報道を追認した格好。トランプ大統領、ケネディHSS(保健福祉省)長官、マカリーFDA長官というオルターナティブ系トリオの誕生で薬品行政は(も)混乱の最中にあるが、承認審査にも余波が及び出したのかもしれない。

    PDUFA(処方薬ユーザー課金法)は、承認申請者に課金し審査費用の一部を負担させる代わりに、例えば新規活性成分を含有する薬の場合は受理から6ヶ月または10ヶ月以内に審査結果を報告することを求めている。拙速を慎むために年度審査件数の1割程度の超過は容認されているので、今までも超過は発生していたが、ケネディHSS長官がワクチンの安全性についてコンセンサスとは異なる見解を持っていることや、ワクチンなどの生物的製剤を所管するCBERのヘッド、Peter Marks氏が意に反する意見表明を命じられて辞任したことと相俟って、達観を許さない状況だ。

    リンク: Novavaxのプレスリリース

    【新薬開発】


    二重特異性抗体が胆管癌に良績
    (2025年4月1日発表)

    米国マサチューセッツ州ボストンのCompass Therapeutics(Nasdaq:CMPX)は、CTX-009(tovecimig)が第2/3相胆管癌試験で主評価項目のORR(客観的反応率、最良応答ベース、独立中央放射線学的評価)を達成したと発表した。副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)などの解析は進捗が想定より遅いため、25年第4四半期に発表する見込み。成功なら承認申請に向かうのではないか。

    このCOMPANION-002試験は一次の全身性治療歴を持つ切除不能進行性/転移性/難治性胆管癌168人をpaclitaxel・CTX-009併用群とpaclitaxelだけの群に2対1割付けして、ORRを比較した。各群17.1%と5.3%となり、差の両側p値は0.031だった。各群44.1%と33.3%の患者が疾病安定化を達成しており、これも含めれば2割程度の差がある。

    CTX-009は腫瘍細胞の成長に必要な血管新生を促すVEGF-Aと、抗VEGF療法抵抗性に関わるDLL4(Delta-like ligand 4)の両方をブロックする二重特異性抗体。胆管癌は米国で年23000人が罹患し、8割以上は分子標的薬の対象にならず承認されている薬がないとのこと。

    リンク: 同社のプレスリリース


    グルココルチコイド受容体拮抗剤の卵巣癌試験が成功
    (2025年3月31日発表)

    米国カリフォルニア州のCorcept Therapeutics(Nasdaq:CORT)は、CORT-125134(relacorilant)の第3相卵巣癌試験で主目的を達成したと発表した。 欧米申請する考え。

    経口グルココルチコイド受容体拮抗剤で、内分泌コルチゾール血症(クッシング症候群)の第3相離脱試験が成功、昨年末に米国で承認申請された。類薬と異なり薬物誘導性副腎不全や低カリウム血症、QT延長、内膜肥大、子宮出血などの副作用リスクが小さい模様だ。

    今回のROSELLA試験は、白金薬抵抗性の卵巣癌患者381人を組入れて、nab-paclitaxelベースの治療に追加する便益をオープンレーベルで検討した。主評価項目であるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオは0.70、p=0.008、メジアン値は6.5ヶ月とnab-paclitaxelだけの群の5.5ヶ月を上回った。

    もう一つの主評価項目である全生存期間は中間解析段階で、ハザードレシオ0.69、p=0.012、メジアン値は16.0ヶ月と11.5ヶ月となっており、良さそうに見えるが、統計的有意性には言及されていない。どちらかが達成されれば成功認定するプロトコルと記されているので、おそらく、未だ有意水準には達していないのだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    MSD、肺動脈高血圧症用薬の心血管アウトカム試験成績を発表
    (2025年3月31日発表)

    MSDは、昨年11月、Winrevair(sotatercept-csrk)の第3相ZENITH試験が中間解析で独立データ監視委員会により成功認定されたことを明らかにしたが、データをACC(米国心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。このActRIIA・IgG1融合蛋白は成人の肺動脈高血圧症(PAH)治療薬として24年に米欧で承認され、11月には日本でも承認申請されている。エビデンスとなった第3相STELLAR試験では、6分歩行テストなどの改善に加えて、臨床的転帰を改善する効果も示唆された。

    今回の試験は、PAH機能クラスIIIまたはIVで、標準療法による治療を受けているが推定死亡リスクが高い患者172人を組入れて、全死亡、肺移植、または増悪による24時間以上の入院が発生するリスクを偽薬追加群と比較し、救命薬としての便益を本格的に検討したもの。結果は、メジアン10.6ヶ月の追跡で発生率が17.4%と偽薬群の54.7%を下回り、ハザードレシオは0.24とPAH試験では滅多に見ない良い数字が出た。副次的評価項目の全生存期間もハザードレシオが0.42と大変良い方向が示唆されたが、繰上げ完了されたことも響いたのだろう、各群の死亡者数が7人と13人と少なく、有意性認定の閾値には到達していない。結合組織関連PAHのサブグループでも有害事象は全集団と大差なかった模様だ。

    大きな便益が確認されたことから、PAH機能クラスIIまたはIIIの新患を組入れた第3相HYPERION試験は打ち切られた。

    21年にAcceleron Pharmaを115億ドル(エンタープライズ・バリュー・ベース)で買収して入手したコンパウンド。

    リンク: MSDのプレスリリース


    BeiGene、抗TIGHT抗体の第3相がフェール
    (2025年4月3日発表)

    BeiGene(百済神州、Nasdaq:ONC、SSE:688235)は、抗TIGHT抗体BGB-A1217(ociperlimab)の第3相肺癌試験を中止すると発表した。中米欧などの施設でPD-L1陽性非小細胞性肺癌の一次治療を受ける患者を組入れて、同社の抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab)と併用する効果をKeytruda(pembrolizumab)単剤と比較していたが、独立データ監視委員会が中間解析で続行しても主目的を達成できる可能性は低いと判定した。

    同時・併用化学放射線療法を受ける患者に上記二剤を併用する第3相も途中で中止されている。ノバルティスが欧米日などにおける開発販売オプションの行使を見送るなど、ネガティブなニュースが続いている。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Sunosiの鬱病試験はフェール
    (2025年4月1日発表)

    Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、ナルコレプシーや閉塞性睡眠障害の治療薬として米欧で承認されている選択的ドーパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤、Sunosi(solriamfetol)の様々な適応拡大試験を進めていて、3月に第3相成人ADHD試験が成功したばかりだが、鬱病試験はフェールした。但し、重度のEDS(過度日中眠気)を伴うサブグループには効果が見られた模様で、このような患者に絞って年内に第3相を開始する考え。

    今回の第3相プルーフ・オブ・コンセプト(まま・・)試験、PARADIGMは、成人の鬱病患者300人に偽薬または300mgを一日一回、6週間に亘り経口投与して、MADRSを比較した。重度EDS51人では臨床的に意味のある群間差が見られたが、検出力がないため有意水準には達しなかったようだ。CGI-SやPGI-Iなどでも差があった。それ以外の295人では差が見られなかった由。

    事後的サブグループ分析には悪魔が潜むが、四の五の言わずに速やかに確認的試験を決めたのは好感が持てる。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認申請】


    向精神薬iloperidoneの代謝物を承認申請
    (2025年3月31日発表)

    Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq: VNDA)は米国でBysanti(milsaperidone)を急性双極障害I型と統合失調症の治療薬として承認申請したと発表した。活性成分は米国で両適応に承認されているFanapt(iloperidone)の代謝物。エビデンスは生物学的同等性試験と推測される。教科書的なライフ・サイクル・マネジメントだ。Fanaptが未承認である鬱病アジャンクト用途でも年内に第3相試験を開始する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    リベルサスの心血管便益を承認申請
    (2025年3月30日発表)

    ノボ ノルディスクは、昨年10月、Rybelsus(semaglutide、経口投与用)が第3相SOUL試験で主目的を達成したことを公表したが、データをACC(米国心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表すると共に、欧米で承認申請し受理されたことを明らかにした。

    19~20年に二型糖尿病治療薬として米欧日で承認されたGLP-1作用剤で、Ozempic/Wegovyの活性成分を経口投与できるようにしたもの。今回の試験は欧米中印日などの施設でアテローム性心血管疾患または慢性腎臓疾患を合併する二型糖尿病患者約9650人を組入れて、標準療法に追加する便益を検討した。主評価項目のMACE(心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、または非致死的卒中)のハザードレシオは0.86、p=0.006、100人年当りの発生率は3.1イベントと偽薬追加群の3.7イベントを下回った。

    副次的評価項目の主要腎疾患は両群大差なかった。深刻有害事象の発生率は47.9%対50.3%と、心血管イベント抑制作用が寄与してRybelsus群のほうが小さかった。

    Rybelsusは第3相心血管安全性試験であるPIONEER 6でMACEの偽薬比ハザードレシオが0.79だったが、元々、非劣性であることを確認するデザインであったためか、優越性解析は有意水準に達しなかった。今回、組入れを3倍に増やし、点推定値はやや悪化したものの、再チャレンジに成功した。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: McGuireらの治験論文(NEJM)


    オゼンピックを二型糖尿病患者の末梢動脈疾患に承認申請
    (2025年3月29日発表)

    ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤Ozempic(semaglutide)の二型糖尿病患者の末梢動脈疾患(PAD)治療効果を検討した第3相STRIDE試験の結果をACC(米国心臓学会)とLancet誌で発表した。歩行能力を改善する効果が見られ、欧米でレーベル追加申請した。

    欧米アジアの施設で症候性PADを合併した二型糖尿病患者約790人を組入れて、1mgを週一回皮下注する効果を偽薬と比較したもの。大半の患者がスタチン及び抗血小板/抗凝固薬を服用していた。主評価項目は52週後の定常負荷トレッドミル(12%勾配)テストの改善。試験薬群は1.21倍に改善したが偽薬群は1.08倍に留まり、倍率推定値は1.13、p=0.0004だった。深刻有害事象の発生率は両群大差なかった。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: Bonacaらの治験論文(Lancet)


    大塚製薬、抗APRIL抗体をIgA腎症に承認申請
    (2025年3月31日発表)

    大塚ホールディングは、大塚製薬と米国子会社がsibeprenlimabを成人のIgA腎症の治療薬として承認申請したと発表した。この疾患の新薬が続々と現れている。

    in silico創薬を目指すMIT(マサチューセッツ工科大学)発ベンチャー、Visterraを18年に4.3億ドルで買収して入手した、抗APRIL抗体。第3相標準療法アド・オン試験、VISIONARYで、第9月uPCR(尿蛋白/クレアチニン比)が偽薬比有意に、かつ臨床的意味のある、改善を示した。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文)

    【承認審査・委員会】


    Aldeyra、再び審査完了通知を受領
    (2025年4月3日発表)

    米国マサチューセッツ州のAldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(reproxalap)をドライアイの治療薬として承認申請しているが、23年11月に続いて、2回目の審査完了通知を受領した。一回目の主因はFDAが要求する兆候改善試験二本と症状改善試験二本のうち後者が不足していること。同社はチャンバー試験(数十分風を当てて目の赤さや涙の量をテスト)で症状改善効果も確認し結果を提出したが、FDAは、ベースラインにおける群間の偏りなど方法論的問題を指摘したようだ。

    もう一本のチャンバー試験とフィールド試験の結果が本四半期中に判明する見込みで、同社は、FDAと追加提出を相談する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Milestone社、抗不整脈薬が承認されず
    (2025年3月28日発表)

    Milestone Pharmaceuticals(Nasdaq:MIST)はCardamyst(etripamil)をPSVT(発作性上室性頻脈)の治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。承認申請後に公表されたnitrosamine検査に関するガイドラインに即した情報を提供するよう求められた。また、審査期間中に出荷前検査施設の所有者が代わった模様で、再査察が必要になった。

    発作時に自己点鼻するスプレイ用短期作用性カルシウム・チャネル・ブロッカー。北米の第3相で一本目はフェールしたが、奏効認定基準を厳しくした二本目が成功、30分内に洞調律に至った患者が54%と偽薬群の35%を有意に上回った。23年10月に承認申請したが、第3相試験で発生した有害事象に関する記録が不十分と見做され受理されなかった。24年3月に再申請したが、今度も不首尾に終わった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    CHMPが高リン血症治療薬などに肯定的意見
    (2025年3月28日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    フランスのAveroaが申請した経口鉄クエン酸協働複合体(ferric citrate coordination complex)、Xoanacylフィルムコート錠は、成人慢性腎疾患患者の鉄欠乏性高リン血症の治療薬。米国のAkebia社からAuryxia(クエン酸第二鉄)を欧州などでライセンスしたもの。日本では日本たばこがライセンス、14年にリオナ(クエン酸第二鉄水和物錠)として承認され鳥居薬品が販売している。

    リンク: EMAのプレスリリース

    参天製薬のRyjunea(atropine sulfate)は3~14歳の患者における近視の進行を抑制する。進行率が年0.5D以上で-0.5Dから-6.0Dに達した患者に、0.1mg/mL点眼液を毎日就寝前に点眼する。活性成分は20年前に承認されており、低濃度・異適応製品のハイブリッド承認となる。

    米国のSydnexisから欧州などの市場でライセンスしたもの。同社は日本では濃度が0.25mg/mLの製品をリジュセアミニ点眼液0.25%として3月に発売したところ。こちらはシンガポールの国立眼科・視覚研究所と共同開発した。

    リンク: EMAのプレスリリース

    適応拡大で肯定的意見を得たのは以下の通り。

  • アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib):成人の自家造血幹細胞移植不適な未治療マントル細胞腫にbendamustineおよびrituximabと併用。米国では1月に承認。
  • ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab):切除可能なステージIIA~IIIBの非小細胞性肺癌に術前化学療法に追加、術後に単剤投与。昨年10月に承認された米国と異なり、PD-L1発現が1%以上の患者に限定される。
  • 同、Opdivo Qvantig(nivolumab、hyaluronidase):従来の点滴静注用製剤と異なり、皮下注射する。多くの適応で代替可能。米国では昨年12月に承認。
  • 百済神州(BeiGene)の抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab):成人の進展型小細胞肺癌の一次治療にetoposide及び白金薬と併用する。RATIONAL-312試験で全生存期間のハザードレシオが0.75、メジアン生存期間15.5ヶ月と偽薬併用群を2ヶ月上回った。米国では未承認。
  • JNJの子会社、Janssen-Cilag InternationalのTremfya(guselkumab):成人の中重度活性期クローン病、但し伝統的薬又はバイオ薬に応答不十分、応答喪失、不耐の場合。米国で3月に承認、日本でも承認申請中。

  • 一方、インサイト(Nasdaq:INCY)のPemazyre(pemigatinib)は適応拡大申請が否定的意見を受けた。米欧日でFGFR2融合やその他の再編成のある切除不能局所進行/転移胆管癌の二次治療薬として承認されている抗FGFR阻害剤。今回申請されたFGFR1再編成のある骨髄性/リンパ性新生物は、米日では承認済みだが、CHMPは45人に6ヶ月投与のみと症例数が少なく、対照試験ではなく、条件付き承認の可能性も探ったが会社側がレジストリ・ベースの市販後薬効確認試験の実施を拒否したため、患者にとって残念な結果になった。薬は算術。

    リンク: EMAのプレスリリース

    イーライリリーの抗アミロイド・ベータ(p3-42)抗体、Kisunla(donanemab)は早期アルツハイマー病の治療薬として新薬承認申請されたが、否定的意見となった。クラス・イフェクトである深刻なアミロイド関連造影異常の発生率が1.6%と比較的高く、3名が死亡した一方で便益がそれほど大きくないとみなされた。同社は審査期間中に適応をApoEを持たない患者に限定することを提案したが、それでも発生率が0.8%、1名死亡に低下する程度であったため、結論は変わらなかった。

    類薬であるエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)も最初は否定的意見となったが、再審を経て、ApoE4ホモ接合以外に肯定的意見を獲得しており、少なくとも今のところは、明暗が分かれている。

    リンク: EMAのプレスリリース(donanemabについて)

    尚、エーザイと開発販売パートナーのバイオジェンは、Leqembiの欧州委員会での審議について、アップデートを行っている。欧州委員会は、1月にCHMPが肯定的意見をまとめた後に浮上した安全性情報について確認するよう求めた。CHMPは2月に肯定的意見維持を決定、順調なら欧州委員会が4~5月に承認することになる。両社によると、Standing Committeeでの討議の結果、Appeal Committeeの意見を求めることになった。インプリケーションには言及していない。EMA勧告後のEUにおける手続きについては知識が乏しいが、当方の想像は、常設委員会では賛成票が可決に必要な水準に届かなかったため、上位者で構成される委員会に上程し、それでも意見がまとまらなかったら、承認しない、またはEMAに差し戻すという流れになるのではないか?

    リンク: 両社のプレスリリース

    イーライリリーがAmyvid(florbetapir 18F)の適応拡大申請を撤回したことも公表された。アルツハイマー病におけるアミロイド・ベータ蓄積のPET検査薬として承認されている。抗アミロイド・ベータ薬の応答をモニターする用途で申請されたが、CHMPは追加試験が必要と判定した。

    リンク: EMAのプレスリリース


    DMD用薬atalurenがEUで承認取消へ
    (2025年3月28日発表)

    PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は、欧州委員会がデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Translarna(ataluren)の条件付き承認を更新しないことを決定したと発表した。市販後薬効確認試験がフェールしたため、11年もの市販歴が終了することになる。

    承認前に実施された後期第2相も第3相もフェールしていたのでEUが条件付きとはいえ承認したことの方がサプライズだった。奇妙なのは、その段階では承認しなかったFDAが、フェールした追加第3相試験に基づく承認申請を認めたこと。複数の副次的評価項目にp値が0.01を下回らない程度の小さな有意差があったことを評価した模様だが、どうなることか。昨年10月に受理され、PDUFA法の適用外なので審査期限は設けられていないとのことだ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    ETA受容体拮抗剤がIgA腎症に承認
    (2025年4月3日発表)

    ノバルティスはFDAがエンドテリンA(ETA)受容体拮抗剤Vanrafia(atrasentan)を成人の急速進行性原発性IgA腎症に加速承認したと発表した。第3相ALIGN試験でACE阻害剤などのRAS阻害剤に応答不十分な患者に75mgを一日一回、追加で経口投与したところ、36週UPCR(尿蛋白/クレアチニン比)が偽薬調整後で36%低下した。SGLT阻害剤も併用している患者に追加した試験でも偽薬調整後37%低下した。

    有害事象は末梢浮腫や貧血など。開始前と治療中にも必要に応じて肝機能検査値検査を行う。胚胎毒性が枠付き警告。Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)のAT1・ETA受容体拮抗剤Filspari(sparsentan)と異なり、REMS(リスク評価緩和戦略)は要求されなかった。

    atrasentanはアッヴィがETA発現腫瘍や糖尿病性腎症の第3相を実施したが、後者で心不全入院や死亡が増加する傾向が見られたせいか、Chinook Therapeuticsに導出。ノバルティスは23年に同社を32億ドル及びCVR(後発価値権利)3億ドルで買収した。今回のパッケージ・インサートには心不全に関する記述はないので、上記はノイズと判定されたのだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ユプリズナがIgG4関連疾患に適応拡大
    (2025年4月3日発表)

    アムジェンは、FDAがUplizna(inebilizumab-cdon)を成人のIgG4関連疾患に適応拡大を承認したと発表した。第3相MITIGATE試験で多臓器疾患歴を持ち活性期の、ステロイド治療を受けている成人患者135人を組入れて、300mgを第1日、15日、そして26週に点滴静注し、52週間のフレア・リスクを偽薬と比較したところ、ハザード・レシオが0.13、年率頻度は0.10対0.71と、大きな治療効果が示された。58.8%の患者がステロイドを止め、フレアが発生せず、完解を達成した(偽薬群は22.4%)。有害事象は尿路感染症やリンパ球減少症など。

    IgG4関連疾患は、約20年前に日本で発見・描写された、CD19陽性B細胞などが調停する進行性の自己免疫疾患で、表現型は様々。有病率は10万人当り1~5人と推定されているが不確かである模様。免疫調停疾患には珍しく、男の患者のほうが多い。日本でもライセンシーの田辺三菱製薬が適応拡大申請したところ。

    Uplinzaは抗CD19脱フコシル化抗体。23年に280億ドルで買収したHorizon Therapeuticsのパイプラインの一つ。20~22年に米、日、欧でNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)治療薬として承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    血友病の短鎖RNA介入薬が承認
    (2025年3月28日発表)

    FDAはサノフィのQfitlia(fitusiran)を12歳以上のA型またはB型血友病患者における出血傾向の抑制薬として承認した。インヒビターの有無は問わない。用量調整が導入されなかった第3相試験では血栓リスク上昇が見られた。このため、長期延長試験と同様に、Siemens Healthcare Diagnostics社のINNOVANCE抗トロンビン・コンパニオン診断テストを定期的に実施して用量や投与頻度を調整する手法が採用された。枠付き警告は血栓性イベントと胆嚢疾患(胆嚢除去に至った症例も)。肝毒性が見られるため開始後6ヶ月間と増量時は検査する。

    アンチトロンビンの生成を妨げる短鎖RNA介入薬。Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)から商業化権を取得した。月一回皮下注。第3相試験の長期延長試験と、第3相の対照群のデータを比較したところ、インヒビターを持つサブグループではABR(年間出血率)が73%、持たないサブグループでは71%、低かった。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: サノフィのプレスリリース


    イミフィンジが膀胱癌の周術期補助療法に適応拡大
    (2025年3月28日発表)

    FDAはアストラゼネカの抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を成人の筋層浸潤膀胱癌(MIBC)の術前術後補助療法薬として承認した。摘出前はgemcitabine及びcisplatinと併用で3週毎に4サイクル、術後は単剤で4週毎に8サイクル、点滴静注する。

    gemcitabineとcisplatinの術前療法とオープン・レーベルで比較した第3相NIAGARA試験で、主評価項目のEFS(無イベント生存)のハザードレシオが0.68、2年EFS率は67.8%対59.8%だった。副次的評価項目の全生存期間は各0.75、82.2%、75.2%だった。G3/4治療関連有害事象の発生率は40.6%と40.9%で同程度、全摘施行率は88.0%と83.2%だった。

    日欧でも適応拡大申請中。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ノバルティスの放射性医薬品が適応拡大
    (2025年3月18日発表)

    FDAはノバルティスのPluvicto(lutetium Lu 177 vipivotide tetraxetan)を従来より早い段階で用いることを承認した。前立腺癌の多くで発現するPSMAに結合するライガンドとキレーターを、ベータ線を放出する放射性核種と結合したもので、22年に米国で成人のPSMA陽性転移CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)用薬として承認されたが、その段階ではアンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI)やタクサン・ベースの化学療法の次に使う薬だった。今回、化学療法の前(プリキモ)に用いることが認められた。

    エビデンスとなる第3相PSMAfore試験で、第2世代ARPI歴を持ち、PARP阻害剤が適応にならず、放射線療法や免疫療法、化学療法歴のないPSMA陽性転移CRPC患者468人を組入れてPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)を他のARPIにスイッチする群と比較したところ、ハザードレシオ0.41、メジアン値は12.0ヶ月対5.6ヶ月と比較的大きな差が見られた。進行後のクロスオーバーが認められていたためか全生存期間は両群大差なかった。

    化学療法と比較した試験ではないためか、適応は、タクサン・ベース化学療法の施行を遅らせた方が適切と見做される場合に限定されている。まあ、米国の抗癌剤は、レーベルよりコンペンディアのほうが重視されるのでインプリケーションは曖昧だが。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    IDMCがSarepta社のDMD用薬の治験継続を支持
    (2025年4月25日発表)

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)による治療を受けた少年が死亡した件について、アップデートした。独立データ監視委員会(IDMC)が便益が棄権を上回ると判定したため、欧州委員会に報告する。

    ElevidysはDMDで欠乏しているジストロフィン(427kDa)の代わりにマイクロジストロフィン(138kDa)の遺伝子をAAVrh74ベクターを利用して患者に導入する遺伝子療法。23年に米国で4~5歳の歩行可能なDMD向けに加速承認され、24年6月に年齢限定なしで本承認、歩行不能患者にも加速承認された。日欧でも4~5歳向けに承認申請中。

    これまで被験者の死亡はなかったが、今年3月、米国の16歳の男児が急性肝障害により死亡した。肝障害は遺伝子療法では決して珍しくなく、米国のレーベルにも記載されている。本件に関してはCMV感染が肝炎を誘発した可能性もあるようだ。EUはIDMCに検討を求めるよう要請、Sareptaは3本の臨床試験に関して欧州の施設における実施を一時的に停止している。

    Sareptaは一週間内にEUにIDMCの評価を報告する予定。その後、EUが介入の必要性を検討することになる。EUで承認申請が受理されたのは昨年6月なので、数ヶ月内に審査結果が出るのではないか。

    米国の動きは表面化していない。第3相試験がフェールしたことからFDAの審査担当部署は承認に後ろ向きだったが、先般辞任したCBER(生物製品評価研究センター)のヘッド、Peter Marksが強力に後押しして加速承認に漕ぎ着けた。市販後薬効確認試験はフェールしたが、一部の副次的評価項目で良好な数値が出たことなどから、上記のように、大盤振る舞いで本承認に切替えられた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/4推JNJのnipocalimab(全身性筋無力症)
    25/4推ノバルティスのatrasentan(IgA腎症)
    25/4/18RegeneronのDupixent(dupilumab、特発性慢性蕁麻疹追加)
    25/4/21BMSのOpdivoとYervoy(nivolumabとipilimumab、肝細胞腫一次治療追加)
    25/4/26TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤)
    25/4/29Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
    25/4/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好酸球性COPDに適応拡大)
    25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)



    今週は以上です。