2024年11月16日

第1081回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • GLP-1作用剤は2型糖尿病の診断を遅らせる作用 
  • Adaptimmune、NY-ESO-1志向T細胞療法の治験成績を発表 
  • menin阻害剤が別のタイプのAMLにも良績 
  • メルク、TGCT用薬の第3相が成功 
  • コセルゴは大人にも有効 
  • 抗TIGHT抗体の中止された第3相が良好な結果に 
  • タミバロテンのMDS試験がフェール 
  • Eyenovia社、近視用薬の第3相がフェールし戦略オプションを検討 
  • Regeneron、デュピクセントを蕁麻疹に再申請 
  • Dato-Dxdの申請取下げ/別件申請 
  • 遅報:卵巣癌の二新薬併用を承認申請 
  • Ocalivaは本承認されず 
  • CHMP、抗癌剤やアルツハイマー用薬などに肯定的意見 
  • AADC欠損症の遺伝子療法が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


GLP-1作用剤は2型糖尿病の診断を遅らせる作用
(2024年11月13日発表)

イーライリリーは、治験論文刊行などに合わせて、GIP/GLP-1作用剤tirzepatideの第3相SURMOUNT-1試験における糖尿病予防サブスタディの概要を発表した。この試験は日本も含む米州中印などの施設で、肥満症またはリスク因子を持つオーバーウェイト、但し糖尿病ではない成人2500人超を組入れて、週一回皮下注の体重減少効果を偽薬と比較したものだが、副次的評価項目として前糖尿病サブグループ1032人の2型糖尿発症リスクを176週に亘り追跡した。3用量群のプール分析で、リスクを偽薬比93%抑制した(treatment-regimen estimandベース、efficacy estimandベースでは94%抑制)。176週までに2型糖尿病を発症した患者の比率は試験薬群が1.3%、偽薬群は13.3%だった。

類似したデザインの試験はこれまでに数多く実施されたが、評価が難しいのは、発症を抑制したのか、発症をごまかしたのか、良く分からないことだ。tirzepatideは二型糖尿病治療薬Mounjaroとして承認されているので、治療ガイドラインに即して診断すると、試験薬群の患者は投与を開始した段階で糖尿病と判定されることになる。臨床的な意義の点では、本試験は、二型糖尿病発症の前に血糖治療を開始する便益を検討する試験と位置付けることが可能であり、その評価項目としては、腎症や心血管疾患などのハードなアウトカムが相応しい。とはいえ、3年間で13%しか発症しない患者層なので、合併症のリスクを追跡していたら有意差が出るまで何年かかるか分からない。

類似した前例では、FDAは、投与を打ち切った後も効果が残っているかを重視する姿勢を示した。そのせいか、今回の試験では176週の投与を完了した後に更に17週間、二型糖尿病発症リスクを観察した。193週までの発症率は試験薬群が2.4%、偽薬群が13.7%だった。単純比較すると、投与を止めた後に試験薬群は1.1%、偽薬群は0.4%が発症したことになる。追加観察期間が4ヶ月程度とあまり長くないことを考えると、不可逆的な、疾病装飾的な作用を持つというほどでもないように感じられる。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Jastreboffらの治験論文抄録(NEJM)


Adaptimmune、NY-ESO-1志向T細胞療法の治験成績を発表
(2024年11月13日発表)

英国本社のAdaptimmune(Nasdaq:ADAP)は、letetresgene autoleucel(通称lete-cel)のIGNYTE-ESO試験におけるサブスタディ2のアップデート・データをCTOS(結合組織腫瘍学会)で発表した。米国で25年末までにローリング承認申請に着手する考え。

HLA-Aの02:01、02:05、02:06アレルが提示するNY-ESO-1腫瘍抗原を認識するT細胞受容体などを自家CD4/CD8陽性T細胞にex vivoで導入した細胞療法。今回のpivotal試験は、これらのアレルを持ちNY-ESO-1陽性の10歳以上の転移/切除不能な滑膜肉腫/MRCLE(粘液型円形細胞・脂肪肉腫)を組み入れたもので、サブスタデイ1は一次治療、2はanthracyclineなどの治療歴を持つ患者が対象。ORR(客観的反応率、解析対象は商業プロセス産品を用いた62人)は42%で滑膜肉腫(34人)でもMRCLS(30人)でも同程度だった。完全反応は6人、部分反応は21人。メジアン反応持続期間は12.2ヶ月だった。

同社は今年8月にも米国でTecelra(afamitresgene autolecel)が特定のHLAアレルを持ちMAGE-A4陽性の滑膜肉腫/MRCLE用薬として承認されており、多くの会社が挫折した技術分野で成果を上げ始めている。

リンク: 同社のプレスリリース


menin阻害剤が別のタイプのAMLにも良績
(2024年11月12日発表)

米国の医薬品開発会社Syndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)は、SNDX-5613(revumenib)の第2相AUGMENT-101試験でNPM1変異AML(急性骨髄性白血病)コフォートの解析が成功したと発表した。メジアン2次治療歴を持ち75%がvenetoclax歴も持つ難治再発型の患者64人のうち、15人(23%、95%下限14%)がCR/CRh(完全寛解/血液学的回復が部分的である点以外は完全寛解)を達成した。メジアン維持期間は4.7ヶ月と、この疾患の常だが、あまり長くない。G3以上の治療関連有害事象はQT延長、熱性好中球減少症、分化症候群、血小板減少など。

このmenin阻害剤は同試験のKMT2再編成コフォートのデータに基づき昨年12月に米国で承認申請されている。審査期限は12月26日。承認されたら25年上期にNPM1変異型に適応拡大申請する考え。急性白血病のうちKMT2再編成は5-10%、NPM1変異は30%で見られるとのことで、両方承認なら4割をカバーできるようになる。

同社は新患NPM1変異/KMT2再編成急性白血病の標準療法併用試験を年内に着手する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


メルク、TGCT用薬の第3相が成功
(2024年11月12日発表)

ドイツのメルクは、上海のAbbisko Therapeutics(Abbisko Cayman Limited(2256.HK)の子会社)が開発した経口CSF-1R阻害剤、ABSK021(pimicotinib)の第3相MANEUVER試験で主目的などを達成したと発表した。中国などで承認申請するだろう。欧米などのオプト・イン・オプションを行使するかどうかは不明だが、先行二品と見比べて悪くはなさそうに感じられる。

この試験は切除不能腱滑膜巨細胞腫(TGCT)の患者におけるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)を偽薬と比較した。中国、欧州、北米で各45人、28人、21人を組入れた。50mgを一日一回、経口投与した試験薬群は54.0%となり、偽薬群の3.2%を有意に上回った。副次的評価項目の疼痛や凝りも有意に改善した。胆汁鬱滞性肝毒性は見られなかった。尚、第一三共の類薬、Turalio(pexidartinib)は米国では19年に承認されたがEUでは肝毒性や症状改善作用が小さいことなどから承認されなかった。

このほかに小野薬品が6月に24億ドルで買収したDeciphera PharmaceuticalsもDCC-3014(vimseltinib)を欧米で承認申請中。こちらも肝毒性は見られないようだ。

TGCTはCSF-1が遺伝子転座により過剰発現し受容体に集積する。切除が第一選択。悪性腫瘍ではないので安全性も重要。

リンク: メルクのプレスリリース


コセルゴは大人にも有効
(2024年11月12日発表)

アストラゼネカはMSDと共同開発販売しているMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)が、成人神経線維腫症1型の第3相試験で主目的を達成したと発表した。対象年齢拡大申請に向かうのではないか。

20~22年に米欧日で神経線維腫症1型の小児における症候性、切除不能な叢状神経線維腫の治療薬として承認されている。対象年齢は、米国が2歳以上、EUは3歳以上、日本は注意事項として3歳未満及び19歳以上における有効性や安全性は確認されていないことに言及と、若干異なっている。エビデンスはNCI(米国立がん研究所)が主導した第2相試験。

今回の第3相KOMETは145人を試験薬と偽薬に無作為化割付けしてcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)を比較した。統計的に有意且つ臨床的に意味のある優越性が示されたとのこと。

神経線維腫症1型は3000~4000人に一人の常染色体性優性遺伝性疾患。RAS~PI3K/AKT経路を抑制すべきニューロフィブロミンの変異が見られる。小児で発症するが患者数は成人が7割を占める由。

類薬ではファイザーからスピンアウトしたSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)がアロステリックMEK1/2阻害剤mirdametinibを小児と成人の切除不能神経線維腫症1型関連叢状神経線維腫用薬として米国で承認申請中で、審査期限は来年2月28日。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


抗TIGHT抗体の中止された第3相が良好な結果に
(2024年11月5日発表)

米国カリフォルニア州の医薬品開発会社、Arcus Biosciences(Nasdaq:RCUS)は、抗TIGHT抗体AB154(domvanalimab)と抗PD-1抗体AB122(zimberelimab)を併用で局所進行/転移非小細胞性肺癌のフロントライン治療に用いたARC-10試験の第1部における成績をSITC(がん免疫療法学会)年次総会で発表した。PD-L1を強度発現(TPS≧50%)する、分子標的薬が適応にならない患者における、併用(以下、DZ群)やzimberelimab単剤(Z群)の効果を白金ベース化学療法(CT群)と比較したもので、途中で打ち切られたためn=95と小規模な解析になってしまったが、点推定値自体は良好だ。ギリアド・サイエンシズと提携して進行している第3相STARプログラムの結果に期待がかかる。

DZ群、Z群、CT群のメジアン生存期間はそれぞれ未達、24.4ヶ月、11.9ヶ月で、DZ群はCT比のハザードレシオが0.43(95%信頼区間0.20-0.93)、Z群比では0.64(同0.32-1.25)、Z群はCT比で0.63(0.30-1.29)だった。一方、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオはそれぞれ0.69、0.69、1.07とチグハグ。3群のcORR(確認客観的反応率)は44.7%、35.0%、35.3%だった。

Keytrudaは類似した試験でCT比ハザードレシオが全生存期間は0.6、PFSは0.5だった。今回のZ群とCT群の全生存期間ハザードレシオの点推定値はこれと同程度であり、そのZ群よりDZ群はさらに良かったので、良好な結果と考えられる。

この種の癌の第一選択はMSDのKeytruda(pembrolizumab)なのでパート1はKeytrudaがこの用途で承認されていない国で、各群2:2:1割付けして実施した。打ち切りとなったのはFDAがCTではなくKeytruda対照とするよう求めたため。

ギリアド提携で開始したSTAR-121試験はEGFR/ALK変異の無い局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療として上記二剤を化学療法と併用し、標準療法であるKeytruda・化学療法併用とPFS(無進行生存期間)や全生存期間を比較する。治験登録によると27年に主解析が行われる見込み。局所進行切除不能/転移性の胃、食道、胃食道接合部腺腫を組入れてFOLFOX/CAPOXに二剤を追加する効果をOpdivo追加と比較するSTAR-221試験も進行中で、全生存期間の解析結果が26年にも判明する見込みだ。

抗TIGHT抗体は抗PD-(L)1抗体とのシナジーが期待される抗体の一つだが、これまでの成果は判然としない。domvanalimabはFc領域を沈黙化する工夫を施しており、承認第1号の期待がかかっている。

リンク: Arcus社のプレスリリース


タミバロテンのMDS試験がフェール
(2024年11月12日発表)

米国マサチューセッツ州ケンブリッジの医薬品開発会社、Syros Pharmaceuticals(Nasdaq:SYRS)は、SY-1425(tamibarotene)の第3相RARA遺伝子過剰発現新患高リスクMDS(骨髄異形成症候群)試験がフェールしたと発表した。融資が引き上げられたら現金枯渇の危機を迎えることになる。

このSELECT-MDS-1試験はazacitidineに追加して寛解率を向上することを図った。偽薬追加群は過去の試験と大差ない18.8%となったが、併用群は23.8%に留まり、p=0.208だった。

Oxford Financeから融資を受ける際に本試験がフェールしたら債務不履行扱いにする旨、合意していたたため、4360万ドルの繰上げ弁済を求められる可能性が高い。同社の24年9月末の現金・現金等価物残高は5830万ドル。

tamibaroteneは日本で発見されたレチノイン酸受容体アルファ作動薬 。日本で05年に再発・難治性急性前骨髄球性白血病アムノレイクとして発売された。Syrosは15年に現在はラクオリア創薬の子会社であるテムリック社から欧米市場における開発販売権を取得した。

リンク: Syrosのプレスリリース


Eyenovia社、近視用薬の第3相がフェールし戦略オプションを検討
(2024年11月15日発表)

米国NY州の眼科用薬開発販売会社、Eyenovia(Nasdaq:EYEN)は、MicroPine(atropine点眼薬)の第3相CHAPERONE試験が独立データ監視委員会による中間解析評価で主目的達成しなかったと明らかにした。臨床試験を中止すると共に、株主価値最大化に向けた戦略オプション(合併など)の検討を開始した。

同社は薬剤を角膜を覆うように分布させるOptijet技術を持ち、23年に米国でMydCombi(tropicamide、phenylephrine hydrochloride)が目の検査や手術時の瞳孔散大措置用薬として 承認された。Optijetは千寿製薬にも技術供与されている。

今回の試験は低用量のatropine(0.01%または0.1%)を用いて小児進行性近視の3年間の進行を、視力検査で0.5ディオプター未満に抑えることを狙った。中間解析をファイナル・アンサーにしたのは、おそらく、資金面の制約だろう。

リンク: Eyenoviaのプレスリリース

【承認申請】


Regeneron、デュピクセントを蕁麻疹に再申請
(2024年11月25日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はDupixent(dupilumab)を特発性慢性蕁麻疹の治療に用いる適応拡大を米国で再申請した。抗H1ヒスタミンに十分応答しない12歳以上の小児と成人に用いる。審査期限は25年4月18日。

23年3月の初回申請は審査完了通知を受領したが、LIBERTY-CSU CUPID試験のスタディCが成功し、スタディAと合わせてエビデンスが二本揃った。この二本はバイオ薬未経験の患者を組入れて、それまで用いていた薬にDupixentを追加したもの。間のスタディBは抗IgE抗体Xolair(omalizumab)に不十分応答/不耐の患者を組入れて標準療法のみの群と比較したもので、中間解析で無益認定されたが盲検続行したところ、主評価項目のISS7改善はp値が0.0449(アルファの配分は0.043なのでフェール)、副次的評価項目のUAS7はp=0.0390(主評価項目がフェールしたので正式な検定ではない)と、あと一歩だった。日本ではスタディAとBを元にバイオ薬歴不問で承認されたが、米国は認められなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


Dato-Dxdの申請取下げ/別件申請
(2024年11月12日発表)

第一三共はアストラゼネカと共同開発しているDS-1062(datopotamab deruxtecan、通称Dato-DXd)の米国における承認申請の一部を取下げ、やや異なった適応で新たに承認申請した。FDAのフィードバックを考慮したもので、ある程度、予想されたことだ。EMA(欧州医薬品庁)の判断も注目される。

この抗TROP2抗体医薬複合体は、成人の治療歴のある局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌と、成人の全身性治療歴のある切除不能/転移、ホルモン受容体陽性、her2陰性乳癌用薬として、欧米で承認申請され2月に受理された。日本でも3月に後者の適応症で申請されている。

肺癌用途におけるエビデンスとなったTROPION-Lung01試験では、扁平上皮腫サブグループにおけるPFS(無進行生存期間)がメジアン2.8ヶ月とdocetaxel群の3.9ヶ月を下回り、ハザードレシオは1.38だったが、承認申請されたそれ以外の癌(腺腫など)ではメジアン5.6ケ月対3.7ヶ月、ハザードレシオ0.63と、良好だった。その時点では非扁平上皮腫サブグループの全生存期間のハザードレシオは0.77と、未成熟ではあるものの好ましい方向を向いていたが、最終解析では0.84(95%信頼区間0.68-1.05)、メジアン14.6ヶ月と12.3ヶ月と、便益が縮小してしまった。尤も、実薬対照試験であることや検出力が低下するサブグループ分析であることを考えれば、ハザードレシオが物足りなく95%上限が1を少し位上回っても大目に見てもらえる可能性はあるように感じられた。

似たような薬であるギリアド・サイエンシズのTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)も似たような第3相がフェールしており、こちらは、非扁平上皮腫サブグループでも便益が見られなかった。薬の違いなのか、試験のデザインや実施環境の違いなのか、良く分からないが、DS-1062の評価に影を落としても不思議はない。

新しい目標適応症は成人の治療歴(EGFR標的薬を含む)を持つ局所進行/転移EGFR変異陽性非小細胞性肺癌。第2相のTROPION-Lung05と上記Lung01、そして初期段階のTROPION-PanTumor01試験に基づき加速承認を求めた。データは現時点では不明で、12月6日にESMO Asia学会で3本のプール分析結果が発表される予定。

リンク: 両社のプレスリリース


遅報:卵巣癌の二新薬併用を承認申請
(2024年10月31日発表)

米国のVerastem Oncology(Nasdaq:VSTM)はRAF/MEK阻害剤VS-6766(avutometinib)とFAK(焦点接着斑キナーゼ)阻害剤VS-6063(defactinib)を併用で治療歴のある難治LGSOC(低グレード漿液性卵巣癌)の治療レジメンとして用いるローリング承認申請を完了した。前者は3.2mgを週二回、後者は200mgを一日二回、28日サイクルで21日経口投与した試験で、cORR(確認客観的反応率、n=109)が27%だった。KRAS変異を持つ57人では37%、野生型の52人では15%だった。G3以上の有害事象はクレアチニン・フォスフォキナーゼ値上昇など。第3相は欧米豪韓の施設で白金レジメンによる治療歴を持つ難治LGSOCにおけるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を医師の選んだ薬(pegylated liposomal doxorubicinなど)と比較している。

avutometinibは20年に中外製薬からライセンス、defactinibは12年にファイザーからライセンスしたもの。

リンク: Verastemのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Ocalivaは本承認されず
(2024年11月12日発表)

Alfasigmaの傘下に入ったIntercept Pharmaceuticalsは、16年に米国で難治原発性胆汁性胆管炎の治療薬として加速承認されたOcaliva(obeticholic acid)を本承認に切り替えるべく申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAは安全性について引き続き検討する考えなので、承認取消の可能性はまだ残っているだろう。

市販後薬効確認試験であるCOBALT試験では、肝臓関連有害事象イベントのハザードレシオが偽薬比0.84(95%信頼区間0.61-1.16)とフェールした。市販後に非代償性肝硬変などが禁忌になったが、引き続き適応となる被験者の半分弱に当たる症例の解析でも同0.88(0.47-1.65)と、まあ似たような結果になった。適応変更を受けて、検出力を確保するために途中で様々な評価対象イベントが追加されたが、肝移植・死亡だけをカウントした副次的評価項目を見ると、intent-to-treatではハザードレシオ1.18(0.72-1.93)、適応サブグループでは4.77(1.03-22.09)と悪かった。また、この薬の難点である薬物誘導性肝障害の発生率はintent-to-treatで11%(偽薬群は5%)、適応サブグループでは5%(同1%)だった。

9月の諮問委員会に上程されたが、便益が棄権を上回ると判定した委員は1名のみで、10名はNoと回答、3人はどちらとも言えないとして棄権した。

EUは16年に条件付き承認したが、今年8月に取消となった。但し、理由は不明だが9月にEUの一般裁判所が取消の一時的差止命令を出したため、撤回された。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、抗癌剤やアルツハイマー用薬などに肯定的意見
(2024年11月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月14日の会合で、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ブリストル マイヤーズ スクイブのAugtyro(repotrectinib)は成人のROS1陽性進行非小細胞性肺癌と12歳以上のNTRK遺伝子融合のある進行固形癌(但し、NTRK阻害剤歴を持つ、またはNTRK標的薬以外の薬は不応不適の場合)に条件付き承認することが支持された。何れもORR(客観的反応率)と反応持続期間のデータに基づく。22年にTurning Point Therapeuticsを株式価値41億ドルで買収して入手した大環状ROS1/TRK/ALKチロシンキナーゼ阻害剤で、米国は23年11月に、日本では今年9月に、初承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

InflaRx(Nasdaq:IFRX)のGohibic(vilobelimab)はC5a補体に結合するキメラ抗体。SARS-CoV-2による急性呼吸逼迫症候群を発症し全身性コルチコステロイド治療と侵襲性人工呼吸措置(ECMO(体外式膜型人工肺)を含む)を受けている患者向けに例外的条項に基づいて承認することが支持された。臨床試験は途中でFDA勧奨に基づき治験実施施設による階層化を導入したのが裏目に出たのか有意水準に届かなかったが、オリジナルの解析計画に基づく事後的解析では28日死亡のハザードレシオが0.674、p=0.027と良好なものになっていた。米国で23年4月にEUA(非常時使用認可)を受けている。

リンク: EMAのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Cilag InternationalのLacluze(lazertinib)とRybrevant(amivantamab-vmjw)は、EGFRにex19delやex21 L858R変異を持つ成人の進行非小細胞性肺癌の一次治療に二剤併用することが支持された。前者は韓国企業からライセンスした変異EGFR阻害剤で今回が初肯定的意見。後者はEGFRとMETの二重特異性抗体で21年にEGFRにex20ins活性化変異を持つ非小細胞性肺癌に承認されている。この併用法は8月に米国で承認、日本ではRybrevantは承認済み、併用は承認申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

CHMPは、メーカー側の請求により再審査を行い、エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)に関する肯定的意見をまとめた。7月に否定的意見を出したが、外部の意見なども踏まえて、副作用を被り易いApoE4ホモ接合型の患者を適応外とした上で譲歩した。臨床試験ではARIA-E(アミロイド関連画像異常-浮腫)の発生率が12.6%、ARIA-H(同、出血)が16.9%だったが、二つの遺伝子のうちApoE4型が一つだけ、または無いサブグループでは各8.9%(偽薬群は1.3%)と12.9%(同6.9%)と若干低かった。便益の程度はApoE4ホモ接合型を除外しても大差なく、CDR-SBの悪化は1.22(偽薬群は1.75)だった。適応を制限してもリスクがなくなるわけではないので、米国同様に、第1、5、7、14回目の投与の前にMRI検査を行う必要がある。

ApoE4多型は老人性アルツハイマー病のリスク因子で、治療や予防のニーズが特に高い。ARIAはMRI検査所見の一つで、ほとんどは症状を伴わないので、ホモ接合型を除外するかどうかは難しい判断だろう。米日は除外せず使うかどうかは医師や患者の判断に委ねた。一方、英国は、ApoE4ホモ接合型を適応外として承認した。

lecanemabは2007年12月にエーザイがスウェーデンのBioArctic Neuroscienceからライセンスした抗アミロイド・ベータ抗体。

リンク: EMAのプレスリリース(11/14付)

以下の適応・用法追加も肯定的意見を受けた。

  • サノフィのSarclisa(isatuximab)・・・成人の幹細胞移植不適な未治療多発骨髄腫にbortezomib、lenalidomide、dexamethasoneと併用。米国では9月に承認、日本でも一変申請中。
  • サノフィのKevzara(sarilumab)・・・2歳以上の伝統的合成DMARDsに応答不十分な活性期多関節炎型若年性特発性関節炎。プリフィルドではない製品も追加される。米国で6月に承認された時は幼小児に適さないプリフィルドのシリンジやペンしかなかったため体重63kg以上の患者に適応限定された。
  • MSDのKeytruda(pembrolizumab)・・・成人の切除不能非上皮性悪性胸膜中皮腫の一次治療に白金薬及びpemetrexedと併用。米国では上皮型か否かを問わず9月に承認されたが、上皮型の全生存期間ハザードレシオは0.89と、それ以外の0.57と比べて見劣りした。
  • ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)・・・成人の高マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機能不全(dMMR)の切除不能/転移結腸直腸癌の一次治療に二剤併用。
  • アストラゼネカのTagrisso(osimertinib)・・・成人のEGFRにex19del/ex21 L858R変異を持つ局所進行切除不能非小細胞性肺癌で、白金薬ベースの化学放射線療法中に、またはその後に、進行していない患者の維持療法

  • 新薬の否定的意見は一件、CHMPが承認に後ろ向きで申請撤回となったのが二件、公表された。

    Legacy Healthcare (France) S.A.S.は、ガラナの種、カカオの種、玉ねぎの抽出物とレモンを配合した局所スプレー製剤、Cinainuを2-17歳の中重度円形脱毛症向けに承認申請したが、否定的意見となった。CHMPは、治験成績が不十分、治験品と市販用製品の同等性が示されていない、など様々な難点を列挙している。

    アステラス製薬が23年に59億ドルで買収したIveric BioはC5阻害剤avacincaptad pegolの開発に成功し23年8月に米国で地図状萎縮治療薬として承認獲得したが、EUでは申請撤回となった。CHMPは臨床的に意味のある視力の改善に繋がらないことなどから後ろ向きな姿勢を示した。他社の類薬も米国で承認されたがEUはダメだった。

    大塚製薬のInaqovi(decitabine、cedazuridine)はある種の新患急性骨髄性白血病の治療薬として既に承認されているが、米国(Inqovi名)で初承認された時の適応であるMDS(骨髄異形成症候群)とCMML(慢性骨髄探求性白血病)は申請撤回となった。CHMPは便益が確立したとは言えないと評価しているようだ。

    【承認】


    AADC欠損症の遺伝子療法が承認
    (2024年11月13日発表)

    PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)は、FDAがKebilidi(eladocagene exuparvovec-tneq)をAADC(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症の治療薬として加速承認したと発表した。年齢や重症度に基づく適応限定はない。脳内に投与する遺伝子療法の承認は初。希少疾患優先審査バウチャを取得した。

    この疾患は常染色体性劣性遺伝疾患で、ドパミンを前駆体から生成するのに必要な脱炭酸化酵素の遺伝子(DOC)に変異があり、ドパミンが欠乏、乳児期から発達遅延や運動障害を示す。Kebilidiはアデノ随伴ウイルス2型をベクターとしてDOCを導入するもので、定位脳手術により被殻内に点滴投与する。台湾や米国、イスラエルで13人の小児重症患者を組入れた第2相試験で、薬効評価対象12人中8人(67%)が第48週に新たな粗大運動(定頸、座位など)マイルストーンを達成した。自然歴43例ではメジアン7.2歳まで追跡しても達成例はなかった。

    警告事前注意事項は施術関連合併症とジスキネジア。

    市販後薬効確認は被験者の長期追跡試験。最近よく見られるように、超希少難病なので緩和されている。

    欧州では22年にUpstaza名で例外的条項に基づき承認された。米国承認が遅れたのはFDAが市販品と臨床試験品の同等性確認を求めたため。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
    24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
    24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群
    24年12月推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、小細胞性肺癌)
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    24/12/29Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfontカプセル、古典的先天性副腎過形成)
    24/12/30Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfont経口液)
    諮問委員会
    24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)
    24/11/21CTGTAC:アストラゼネカのAndexxa(遺伝子組換え不活化血液凝固Xa因子-zhzo)



    今週は以上です。

    2024年11月9日

    第1080回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • FDA、経口フェニレフリンをOTC薬から除外へ 
    • テゼスパイアの副鼻腔炎試験が成功 
    • Intra-Cellular Therapies、ポスト・マーケティング試験が成功 
    • ASH:新規CAR-Tの承認申請用多発骨髄腫試験が良好に推移 
    • ASH:BTK阻害剤のITP試験が成功 
    • サレプタ、ペプチド結合DMD薬の開発を中止 
    • 中国企業がEGFR阻害剤を承認申請 
    • JNJ、ダラキューロをくすぶり型多発性骨髄腫に適応拡大申請 
    • HAEのアンチセンス薬を承認申請 
    • Merus、her2xher3二重特異性抗体の審査期間が延長 
    • 新規CAR-Tが承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    FDA、経口フェニレフリンをOTC薬から除外へ
    (2024年11月7日発表)

    FDAは、フェニレフリン塩酸塩とフェニレフリン酒石酸塩を経口OTC薬の配合成分として認めない旨の法令案(proposed order)を連邦官報で公開した。パブコメは25年5月7日まで。その後、最終決定することになりそうだ。

    鬱血除去剤は風邪薬やアレルギー用薬の配合成分として広く用いられているが、あまり良い記憶がない。PPA(phenylpropanolamine)は脳卒中のリスクが高まることが判明、pseudoephedrineに切り替えが進んだが、2003年頃から不適切使用が問題になり、処方は不要だが薬剤師の説明を受けた上で所定の数量だけ購入できるbehind-the-counter薬化された。代わりにover-the-counter薬の主役に立ったのがphenylephrineで、22年の販売量は2.4億箱/ボトルとpseudoephedrineの5倍近くに達している。

    ところが、07年以降に実施された季節性アレルギー鼻炎などの症状改善試験が三本ともフェールした。経口投与時の生物学的利用率が従来言われていた38%と全く異なる1%足らずであることが判明し、10~40mgを4時間毎経口投与するだけでは足りないことが原因と考えられている。FDAは23年9月に諮問委員会を招集し意見を求めたが、全員が薬効なしと判定した。用量を増やして再試験するのは、副作用が増える可能性があることや、代替品もあることから、すべての委員が反対した。

    総合感冒薬は他の活性成分を配合するか、鬱血除去剤は配合しないかの選択になる。点鼻用のphenylephrineは、従来通り、販売可能。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: FDAの法令案

    【新薬開発】


    テゼスパイアの副鼻腔炎試験が成功
    (2024年11月8日発表)

    アストラゼネカとアムジェンは、夫々、Tezspire(tezepelumab-ekko)が第3相CRSwNP(鼻ぽりーぶを伴う慢性副鼻腔炎)試験で主目的を達成したと発表した。データは学会などで発表する。適応拡大申請も行うだろう。

    TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子)に結合する抗体で、21~22年に米欧日で管理不良重症喘息症用薬として承認された。今回のWAYPOINT試験は成人の点鼻ステロイド不応重度CRSwNPを対象に、ポリープのサイズや鼻詰まりを改善する効果を検討した。

    難治CRSwNPではRegeneron Pharmaceuticalsの抗IL-4Rサブユニット抗体Dupixent(dupilumab)が19~20年に、GSKの抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)が21~24年に、夫々、米欧日で承認されており、どれを最初に使うべきか、悩ましくなってきた。

    リンク: アストラゼネカのプレスリリース


    Intra-Cellular Therapies、ポスト・マーケティング試験が成功
    (2024年11月5日発表)

    Intra-Cellular Therapies(Nasdaq:ITCI)はCaplyta(lumateperone)の第3相維持療法試験(304試験)で主目的を達成したと発表した。19年に米国で成人の統合失調症治療薬として承認された時にコミットした試験で、Caplytaによる治療に応答した228人を偽薬スイッチ群と継続投与群に無作為化割付けして症状再発リスクを26週間に亘り比較したもの。結果は、ハザードレシオが0.37、各群の再発リスクは38.6%と16.4%となり、長期継続投与の有効性が示された。

    Caplytaは5-HT2A受容体とドパミンD2受容体のアンタゴニスト。承認のエビデンスは第3相二本のうち一本と後期第2相。双極性障害に伴う鬱病を治療した第3相も二勝一敗となり21年に米国で承認された。鬱病試験は二本とも成功し、適応拡大申請の予定。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ASH:新規CAR-Tの承認申請用多発骨髄腫試験が良好に推移
    (2024年11月5日発表)

    米国カリフォルニア州の医薬品開発会社、Arcellx(Nasdaq:ACLX)は、12月に開催されるASH(米国血液学会)の抄録が公開されたのを受けて、CART-ddBCMA(anitocabtagene autoleucel)の承認申請用第2相iMMagine-1試験の途中経過を公表した。

    CART-ddBCMAはBCMAを標的とするキメラ抗原受容体-T細胞療法で、短鎖可変領域抗体フラグメントに代えて免疫原性が低く安定的な合成タンパク、Dドメインを、4-1BB、CD3ゼータと共にT細胞に導入している。

    当試験は異なった作用機序を持つ3種類以上の医薬品による治療歴を持つ患者110人を組入れる計画だが、今回は58人のデータ。ORR(全般的反応率、独立評価委員会方式)は95%、CR/sCR(完全反応/厳格完全反応)は62%で、先行類薬と見比べても良好だ。G3/4サイトカイン放出症候群(CRS)は発生せず、G3のICANSの発生率も2%に留まった。但し、有害事象による死亡が3人あり、原因は後腹膜出血、CRS、真菌感染症となっており、一部は試験薬関連とのこと。CRSはG3/4はなかったがG5があったということなのだろうか?

    同社はギリアド・サイエンシズの子会社のKite Pharmaと共同開発商業化提携を結んでおり、米国では共同販売、米国外はKiteが販売する計画。

    リンク: Arcellxのプレスリリース
    リンク: Freemanらの抄録(ASH 2024、No. 1031)


    ASH:BTK阻害剤のITP試験が成功
    (2024年11月5日公開)

    サノフィは4月にSAR444671(rilzabrutinib)の第3相免疫性血小板減少症(ITP)試験が成功し今年下期に欧米で承認申請する計画であることを明らかにしたが、ASH(米国血液学会)の抄録が公表され、概要が明らかになった。このLUNA3試験はメジアン4治療歴を持ち既存治療不応の慢性ITP患者に偽薬または400mgを一日二回経口投与し、持続的血小板反応(24週の治療期間の後半12週中8週以上で血小板数が50000/マイクロリットル以上)を比較した。偽薬群はゼロだったが試験薬群は23%が達成した。試験薬群はレスキュー治療や出血のリスクが低下し、身体疲労も改善した。12月8日にPlenary Scientific Sessionで詳細発表される予定。

    SAR444671は20年にPrincipia Biopharmaを37億ドルで買収して入手した、高度選択的、可逆的、共有結合性のBTK阻害剤。天疱瘡の第3相はフェールした。喘息症でも第3相に進む予定。

    リンク: Kuterらの抄録(ASH 2024、No. 5)


    サレプタ、ペプチド結合DMD薬の開発を中止
    (2024年11月6日発表)

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、24年第3四半期決算発表に合わせて、SRP-5051(vesleteplirsen)をはじめとするPPMO(ペプチド結合フォスフォロジアミデート・モルフォリノ・オリゴマー)技術に基づく化合物の開発を中止すると発表した。低マグネシウム血症のリスクが見られたため。

    SRP-5051は、16年に米国でエクソン51スキップに応答するデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として承認されたExondys 51(eteplirsen)と同様な、エクソン51スキップ薬。PMOにペプチドを結合して組織浸透性を高め、効果や持続性を向上するPPMO技術のリード・コンパウンドだ。第2相試験でWestern blot法によるジストロフィン発現がExondys 51群より大きく増加し注目されたが、深刻な低マグネシウム血症が1名で発生、22年にFDAが治験停止を命じた。検査強化などを導入し再開が認められたが、一度発生すると投与を止めても持続することや、FDAが早期の加速承認申請に後ろ向きであることを考慮し、開発中止を決めた。

    リンク: 同社の24年第3四半期決算プレスリリース

    【承認申請】


    中国企業がEGFR阻害剤を承認申請
    (2024年11月8日発表)

    中国のDizal Pharmaceutical(SHEX:688192)は米国でDZD9008(sunvozertinib)をEGFRにエクソン20挿入変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌用薬として承認申請した。白金ベースの化学療法に不応/再発した患者が対象。今年のASCO(米抗臨床腫瘍学会)発表によると、中国や米国、日韓などで実施された第2相WU-KONG1B試験で、cORR(確認客観的反応率、独立評価委員会査読)が41%、完全反応率は3%だった。メジアン追跡期間が5.5ヶ月と短く、反応持続期間は未だメジアン値に達していない。治療時発現有害事象は下痢、ラッシュ、クレアチンフォスフォキナーゼ値上昇など。同適応症の第3相一次治療化学療法対照試験が進行中(日本の施設は参加していない)。

    DZD9008は選択的不可逆的EGFR阻害剤。上記試験では200mgもテストしたが、300mg一日一回が至適用量とのこと。中国では別の試験に基づき23年8月に同適応症で条件付き承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


    JNJ、ダラキューロをくすぶり型多発性骨髄腫に適応拡大申請
    (2024年11月8日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗CD38抗体daratumumabの皮下注用製剤を欧米で高リスクくすぶり型多発性骨髄腫に適応拡大申請した。日本も参加した第3相AQUILA試験で成人患者390人を組入れてPFS(活性期多発性骨髄腫に進行又は死亡)を積極的監視療法と比較したところ、有意に上回った。先日公開された、12月のASH(米国臨床腫瘍学会)の抄録によると、ハザードレシオは0.49、メジアン値は未達(積極的監視群は41.5ヶ月)だった。5年生存率は93%(同86.9%)でハザードレシオ0.52(95%信頼区間0.27-0.98)と好ましい傾向が見られた。G3/4治療時発現有害事象の発生率は40.4%(同30.1%)、致死例の発生率は1.0%(同2.0%)だった。

    この皮下注用製剤の製品名は米国ではDarzalex Faspro、EUではDarzalex SC、日本ではダラキューロ。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: Dimopoulosらの抄録(ASH 2024、No. 773)


    HAEのアンチセンス薬を承認申請
    (2024年11月4日発表)

    Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は米国でdonidalorsenを承認申請し受理されたと発表した。12歳以上の小児成人の遺伝性血管浮腫(HAE)による発作を抑制する。審査期限は25年8月21日。

    HAE発作に関連するprekallikreinの遺伝子の翻訳・生成を妨げる、アンチセンス薬。80mgを8週または4週毎に皮下注した第3相試験で24週間のHAE発作頻度が夫々偽薬比55%と81%、低かった。

    欧州でもライセンシーの大塚製薬が24年内に承認申請する見込み。

    リンク: Ionisのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    Merus、her2xher3二重特異性抗体の審査期間が延長
    (2024年11月5日発表)

    オランダ本社のMerus(Nasdaq:MRUS)は米国でMCLA-128(zenocutuzumab)をNRG1融合陽性の非小細胞性肺癌や膵管腺腫用薬として承認申請しているが、審査期限が来年2月4日に3ヶ月延期されたと発表した。CMC(化学、製造、管理)に関する追加情報を提出したことに伴うものとのことだが、詳細は不明。

    NRG1はher3のレガンドであるneuregulinの遺伝子で、上記癌の1%前後で癌原性遺伝子融合が見られる。MCLA-128はher2とher3を標的とする二重特異性抗体。neuregulinをブロックしてPI3K/AKT/mTOR経路の活性化を妨げる。22年のASCO(米国臨床腫瘍学会)発表によると、2週毎に750mgを2~4時間点滴静注した第1/2相eNRGy試験と日本を含む17ヶ国で実施した早期アクセスプログラムの合計でNRG1融合陽性非小細胞性肺癌は46人中16人(35%)、同膵管腺腫は19人中8人(42%)、がORR(客観的反応率、試験医評価)を達成した。至適用量を投与した208人におけるG3/4治療関連有害事象の発生率は5%、G5は一名(点滴関連反応)だった。23年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)発表によると、非小細胞性肺癌79人におけるORRは37.2%、メジアン反応持続期間は14.9ヶ月だった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    新規CAR-Tが承認
    (2024年11月8日発表)

    FDAは英国のAutolus Therapeutics(Nasdaq:AUTL)が申請したAucatzyl(obecabtagene autoleucel)を成人の難治/再発前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病用薬として承認した。CD19を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法で、CD19に結合した後の遊離が早いため副作用が起きにくいとされる。9日置いて二回に分けて投与する点もユニーク。FDAは6月にCAR-T各種製品のREMS(リスク評価緩和戦略)を簡素化したが、今回初めて、REMSを課さなかった。

    第2相FELIX試験で65人中42%が3ヶ月以内に完全寛解を達成した。メジアン完解持続期間は14.1ヶ月。他のCAR-Tと同様にCRS(サイトカイン放出症候群)やICANS(免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群)、そして二次性血液学的腫瘍のリスクが枠付き警告されているが、G3以上の発現率は、CRS(G3のみ)は3%と低く、神経学的毒性(G5あり)は12%だった

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
    24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
    24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
    24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群)
    24年12月推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、小細胞性肺癌)
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、非扁平上皮非小細胞性肺癌)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    24/12/29Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfontカプセル、古典的先天性副腎過形成)
    24/12/30Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfont経口液)
    諮問委員会
    24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)
    24/11/21CTGTAC:アストラゼネカのAndexxa(遺伝子組換え不活化血液凝固Xa因子-zhzo)



    今週は以上です。

    2024年11月2日

    第1079回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • Sage、産後鬱病治療薬の販売を中止へ 
    • ノボ、セマグルチドの第3相MASH試験が成功 
    • 抗インターフェロン・ガンマのマクロファージ活性化症候群試験が成功 
    • ゾコーバの同居人感染予防試験が成功 
    • ケサンラの緩徐漸増法がARIA-Eを抑制 
    • エムパベリの適応拡大試験が成功 
    • ノバルティス、新規抗IgE抗体の開発を断念 
    • エーザイ、レケンビの維持療法用皮注用製剤を承認申請 
    • PTC、米国でナンセンスDMD用薬を承認申請 
    • ノバルティス、放射性医薬をプリキモに適応拡大申請 
    • 劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法を再申請 
    • ファビハルタを日中欧でC3腎症に適応拡大申請 
    • テリックス、PET造影剤を承認申請 
    • FDA諮問委員会、sotagliflozinの適応拡大を支持せず 
    • アステラス、欧州で地図状萎縮用薬の申請を取り下げ 
    • ノバルティスのCML用薬が一次治療に加速承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    Sage、産後鬱病治療薬の販売を中止へ
    (2024年10月29日発表)

    Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)は、19年に米国で産後鬱の治療薬として承認されたZulresso(brexanolone)の販売を、24年一杯で終了することを決定した。24年1-9月の売上高は300万ドル。連続点滴ではなく経口投与できるZurzuvae(zuranolone)が産後鬱だけに承認され市場が大きい鬱病全般には承認されなかったために、製品ラインアップの整理や全社的なリストラが必要になった。

    両製品はGABA A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレーター。Zulressoは60時間点滴静注、Zurzuvaeは一日一回、5日間、経口投与する。Zurzuvaeは鬱病試験も第3相が二勝一敗だったので承認されても不思議はなかったが、審査完了通知を受領した。治療効果が小さいと判定されたのではないかとの見方もあるようだ。日本ではZurzuvaeをライセンスした塩野義製薬が9月に日本で鬱病薬として承認申請した。

    リンク: Sageのプレスリリース

    【新薬開発】


    ノボ、セマグルチドの第3相MASH試験が成功
    (2024年11月1日発表)

    ノボ ノルディスクは皮下注用semaglutideの第3相MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)試験のパート1で共同主評価項目を達成したと発表した。25年上期に欧米で承認申請する考え。このESSENCE試験はステージ2または3の肝線維化を伴うMASH患者1200人を組入れて偽薬または2.4mgを週一回、皮下注し、病状進行を240週間追跡するもの。パート1は最初の800人を72週追跡し、肝線維症改善奏効率と脂肪肝炎解消奏効率を群間比較した。尚、肝線維症と脂肪肝炎のうち片方が改善してももう片方が悪化したら奏功とは判定されない。結果は、前者が各群22.5%と37.0%、後者は34.1%と62.9%で、何れも試験薬が有意に上回った。

    3月に米国でMASH治療薬として加速承認されたMadrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)の甲状腺ホルモン受容体ベータ・アゴニストRezdiffra(resmetirom)は、類似した第3相で、52週時点の前者の奏効率が23~28%(偽薬群は13~15%)、後者は24~36%(同9~13%)だった。幅があるのは評価者により多寡があるため。ノボの試験とは投与期間が異なり、奏効判定基準が同じとは限らないので、比較は難しい。尚、Rezdiffraは一日一回経口投与する。

    semaglutideはGLP-1作用剤。米国では二型糖尿病にWegovy名で、肥満症向けはOzempic名で、経口投与用製剤が二型糖尿病向けにRybelsus名で、承認されている。

    リンク: ノボのプレスリリース


    Sobi、マクロファージ活性化症候群試験が成功
    (2024年10月30日発表)

    Sobi(STO:SOBI)は、emapalumab-lzsgの第3相マクロファージ活性化症候群(MAS)試験が成功したことをACR(米国リウマチ学会)で発表した。24年内に米国で適応拡大申請する予定。

    スイスのNovimmuneを買収して入手したインターフェロン・ガンマを標的とする抗体医薬で、18年に米国でGamifant名でHLH(原発性血球貪食リンパ組織球症)の治療薬として承認された。難治再発性の、進行性で従来治療不耐な患者27人(メジアン年齢1歳)に投与した臨床試験で反応率が63%だった。

    今回の試験は全身性若年性特発性関節炎などのStill病患者におけるMASの治療効果をテストしたもの。MASは発熱、肝脾腫、肝機能不全、血球減少症などを伴う疾患で、二次性HLHと分類されている。二本の試験のプール分析を行ったところ、第8週の完全反応率が53.8%(n=39)、72%の患者はステロイドの用量を1mg/kg/日以下に減量することができた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ゾコーバの同居人感染予防試験が成功
    (2024年10月29日発表)

    塩野義製薬は、日本などでCOVID-19治療薬として承認されているゾコーバ(Xocova、ensitrelvir)の第3相曝露後発症予防試験、SCORPIO-PEP)で主目的を達成したと発表した。米国や日本などで実施されたグローバル試験で、COVID-19発症後72時間以内の患者と同居する12歳以上の非感染者約2400人を偽薬群とensitrelvir群に無作為化割付けして5日間投与し、初回投与から10日間のCOVID-19発症リスクを比較したところ、後者が有意に下回った。データは学会などで発表する予定。

    SARS-CoV-2が変遷しCOVID-19感染症が以前ほど重体化しにくくなり感染後も自宅で過ごすケースが増えたので、感染者だけでなく家族などにも服用させて流行の広がりを抑えるのは意味がある。特に、例えば妊婦や呼吸器/心血管疾患のようなリスク因子を持つ人には選択肢の一つになるかもしれない。いずれにせよ、有用性は両群の発症率次第だろう。

    類薬ではファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)は曝露後予防試験がフェールした。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文)


    ケサンラの緩徐漸増法がARIA-Eを抑制
    (2024年10月29日発表)

    イーライリリーはCTAD(アルツハイマー病臨床試験)カンファレンスで7~9月に米日で早期アルツハイマー病用薬として承認された抗アミロイド・ベータ抗体Kisunla(donanemab-azbt)の用量緩徐漸増試験の結果を発表した。テストした3用法のうち一つでARIA-E(アミロイド関連画像異常-浮腫)の発生を4割以上抑制することができた。一部変更申請に向かうのではないか。

    この後期第3相TRAILBLAZER-ALZ 6試験は、早期症候性アルツハイマー病の成人約840人を3種類の用量漸増群と承認されている用法群に無作為化割付けして、ARIA-Eの発生率などを24週に亘り観察した。承認用法群では24%と、承認の根拠となったTRAILBLAZER-ALZ 2試験の24%と同程度だったが、一番良かった群(以下、至適用法群)では14%に留まり、他の2群では18%強だった。ARIA-EのリスクはApoE4多型を持つ人で高く、二つの遺伝子とも該当するホモ接合型では特に高まるが、至適用法群のホモ接合型患者における発生率は19%と承認用法群の57%を大きく下回った(因みに承認申請用試験におけるホモ接合型の発生率は50%)。

    リスクが低下しても効果まで低下したら悩ましくなるが、至適用法群のアミロイド・プラク水準は67%低下し、承認用法群の69%低下と同程度だった。

    ARIA-Eは多くが無症状だが、学会発表に関する一部報道によると、症候性ARIA-Eも抑制された模様だ。一方、ARIA-H(アミロイド関連画像異常ー出血)は大差なかったようだ。

    至適用法群で、ARIA-E発生後に卒中様症状を示しtPA治療を受けた患者が1名、脳実質内出血により死亡した。至適用法の弱点というよりは、抗アミロイド・ベータ抗体のこれまでの臨床試験で稀に見られた現象がこの用法でも発生したということだろう。おそらく、実医療でも発生するだろうから、抗アミロイド・ベータ治療を受けていることを緊急搬送先の脳卒中救急医にどのように使えるか、考える必要があるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    エムパベリの適応拡大試験が成功
    (2024年10月26日発表)

    Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq: APLS)と開発販売パートナーのSwedish Orphan Biovitrum(Sobi)は、Empaveli(pegcetacoplan)の第3相VALIANT試験で主目的等を達成したと8月に公表したが、詳細をASN(米国腎臓学会)で発表した。

    12歳以上のC3G(C3腎症)またはIC-MPGN(免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎)の患者124人を組入れて、1080mgを週二回皮下注したところ、26週間で蛋白尿(尿蛋白クレアチニン比のlog変換値)が偽薬比68.1%低下した。C3GでもIC-MPGNでも、青年でも成人でも、腎移植を受けた患者でもそれ以外でも、低下が見られた。副次的評価項目だが最も重要な指標であるeGFR(推算糸球体濾過量)でも群間差が+6.3mL/分/1.73m2となり、名目p=0.03だった。

    重度有害事象発現率は4.8%(偽薬群は6.6%)、有害事象による治験離脱は両群同程度だった。髄膜炎菌性髄膜炎や被包性細菌による深刻感染症は見られなかった。

    25年初めに米国で適応拡大申請する考え。欧州でもSobiが25年内に申請する考え。

    EmpaveliはC5補体阻害剤。発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として21年に米欧で、23年には日本でも、承認された。硝子体注射用製剤のSyfovreも加齢性黄斑変性による地図状萎縮の治療薬として23年に米国で承認された。

    リンク: 両社のプレスリリース


    ノバルティス、新規抗IgE抗体の開発を断念
    (2024年10月29日発表)

    ノバルティスは、24年第3四半期決算発表の中で、第3相段階だったQGE031(ligelizumab)の開発を打ち切ることを明らかにした。同社がジェネンテックと共同開発し重度難治喘息症などの治療に用いられているXolair(omalizumab)と同様な、免疫グロブリンEを標的とする抗体医薬で、親和性がXolairの88倍高いことが注目された。しかし、第3相慢性特発性蕁麻疹試験で掻痒改善効果がXolairを有意に上回らず、今年1月に第3相ピーナツ・アレルギー試験も中止された。

    同社は同じく抗IgE抗体のtalizumabの開発も中止しており、ネクスト・ゾレアをなかなか見つけられずにいる。

    リンク: ノバルティスの24年第3四半期決算補足情報(p.16に記載あり)

    【承認申請】


    エーザイ、レケンビの維持療法用皮注用製剤を承認申請
    (2024年10月31日発表)

    エーザイはバイオジェンと共同開発販売している早期アルツハイマー病用薬Leqembi(lecanemab-irmb)の皮下注用新製剤を、点滴静注用製剤による導入療法を終えた患者の維持療法として米国で承認申請した。オートインジェクターで360mgを週一回、15秒かけて投与する。点滴静注用製剤は10mg/kgを2週毎に1時間かけて投与するのでだいぶ簡便になる。もしかしたら自己注も可能になるかもしれない。

    皮下注は720mg週一回が10mg/kg2週毎静注と生物学的に同等と言われていたが、申請された量は半分だ。そういえば3月に承認申請された静注用製剤の維持療法(月一回)も、用量やタイミングが良く分からない。

    リンク: バイオジェンのプレスリリース


    PTC、米国でナンセンスDMD用薬を承認申請
    (2024年10月30日発表)

    PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は7月にTranslarna(ataluren)をナンセンス変異のあるデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として再承認申請したが、無事、受理された。初回の申請はfile over protest(受理されなかったことに異議を申し立てた上で承認申請)によるもので、案の定、審査完了通知を受領したが、このような場合の再申請はPDUFA(処方薬ユーザー・フィー法)の適応対象外であるようで、審査期限(PDUFA日)は設定されない由。

    数奇な経緯を持つ薬で、EUでは14年に条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験である041試験で臨床的便益が確認されなかったため、9年後にEMA(欧州薬品庁)が年次更新を打ち切るよう勧告した。PTCが新しいデータを提出したことや手続き上の問題があったことから欧州委員会に差し戻されたものの、CHMP(医薬品専門家委員会)が今年10月に四たび否定的意見をまとめた。

    米国は16年に承認申請を却下(refuse to file)したが、17年にfile over protestが認められ受理を余儀なくされた。9月に開催された諮問委員会では11人の委員中10人が薬効の確認が不十分と判定、10月に審査完了となった。ところが、今回はFDAが前向きで、再申請に至った。筋ジストロフィーのような希少疾患やアルツハイマー病のような難病における新薬承認のハードルを引き下げたからだろう。同社のプレスリリースによると、041試験で72週間治療したところ、6分歩行距離(p=0.0248)、NorthStar Ambulatory Assessment(p=0.0283)、10メートル歩行走行(p=0.0422)、4段昇段(p=0.0293)などの評価項目で偽薬比有意な差が見られたとのこと。当方の理解とはだいぶp値が異なっている。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ノバルティス、放射性医薬をプリキモに適応拡大申請
    (2024年10月29日発表)

    ノバルティスは、24年第3四半期決算の中で、米国でPluvicto(lutetium Lu 177 vipivotide tetraxetan)の適応拡大申請を行ったことを明らかにした。現在はアンドロゲン受容体回路阻害剤とタクサン・ベースの化学療法による治療歴を持つ患者が適応だが、未だ化学療法は受けていない段階(プリキモ)での使用を求めるもの。第3相PSMAfore試験でPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)がメジアン12ヶ月と、前治療とは異なるアンドロゲン受容体回路阻害剤を投与した群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.41だった。

    ドイツの癌研究所DKFZとハイデルベルグ大学病院が共同開発した、PSMAに結合するライガンドと放射線核種を結合した放射性医薬。ノバルティスはEndocyte社を約21億ドルで買収して入手、22年に米欧で販売承認を取得した。

    リンク: ノバルティスのプレスリリース


    劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法を再申請
    (2024年10月29日発表)

    Abeona Therapeutics(Nasdaq:ABEO)はEB-101(prademagene zamikeracel)を劣性遺伝性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)の治療法として米国で再承認申請した。23年に申請したが、製造法やバリデーションに関する挙証が不十分として今年4月に審査完了通知を受領していた。承認審査におけるCMC(化学、製造、管理)に関わる問題は第3者には見当がつかないので、結果を見守るしかない。

    RDEBは真皮と表皮をつなぐ係留線維の構成成分である7型コラーゲンの遺伝子、COL7A1に機能喪失変異があり、皮膚に水疱やびらんが生じやすく、感染症や扁平上皮腫のリスクがある。食道などに生じると摂食減少、栄養障害を合併することがある。米国の推定患者数は3000人。EB-101は患者のケラチノサイトや前駆細胞にex vivoでCOL7A1遺伝子を導入、シート化して焼灼した病変床に縫合固定化するもの。第3相では治癒率や疼痛緩和が治療しなかった病変を大きく上回った。臨床試験ではインディアナ大学製と同社製の二種類のバッチを用いたため、同等性の確認を求められ承認申請が遅延した経緯がある。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ファビハルタを日中欧でC3腎症に適応拡大申請
    (2024年10月27日発表)

    ノバルティスは、ASN(米国腎臓学会)における学会発表に合わせて、Fabhalta(iptacopan)をC3G(C3腎症)の治療に用いる適応拡大申請を日本、中国、欧州で行い、米国でも年内に予定していることを公表した。

    23~24年に夜間ヘモグロビン血症治療薬として米欧日で承認された経口可逆的B因子阻害剤。適応拡大申請のエビデンスとなる第3相APPEAR-C3G試験で成人のC3腎症患者に200mgを一日二回、経口投与したところ、24時間尿蛋白クレアチニン比が6ヶ月で偽薬比35.1%低下した。副次的評価項目だが最も重要なeGFR(推算糸球体濾過率)は偽薬比2.2mL/分/1.73m2改善したが検出力不足だったのかp=0.19だった、

    リンク: 同社のプレスリリース


    テリックス、PET造影剤を承認申請
    (2024年10月24日発表)

    Telix Pharmaceuticals(ASX:TLX)は米国でPixclara(18F-floretyrosine)を神経膠腫のPET(陽電子放出断層撮影)造影剤として承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は来年4月26日。この種の造影剤がこの適応で承認されれば初。

    リンク: 同社のプレスリリース


    筋層非浸潤膀胱癌用薬を承認申請
    (2024年10月15日発表)

    UroGen Pharma(Nasdaq:URGN)は米国でUGN-102(mitomycin 0.18%)を低グレード中等リスクの筋層非浸潤膀胱癌用薬として承認申請し受理された。審査期限は来年6月13日。術後アジュバントなどに用いられているmitomycinの新製剤で、カテーテルなどで膀胱内に注入すると体内でゲル化し薬剤を長期にわたり放出する。第3相でDFS(無病生存期間)を第一選択の治療法であるTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)と比較したところ、UGN-102群(一回投与、TURBT併用可)のハザードレシオは0.45(95%信頼区間0.29-0.68)だった。UGN-102だけを施行した患者の第3月完全反応率は64.8%、TURBT群は63.6%だった。深刻有害事象の発現率は7.9%、治療時発現有害事象による死亡が2名(8%)発生した。

    同社は類似した製品であるJulmyto(mitomycin 0.4%)が20年に米国で成人の低グレード上部尿路上皮癌用薬として承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、sotagliflozinの適応拡大を支持せず
    (2024年11月1日発表)

    FDAは10月31日にEMDAC(内分泌学代謝薬諮問委員会)を招集し、Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)が慢性腎疾患を伴う一型糖尿病の血糖治療薬として承認申請したZynquista(sotagliflozin)について意見を聞いた。便益が棄権を上回るか、という質問に3人がYES、11人がNOと回答した。審査期限は12月20日。

    このSGLT1/2阻害剤はInpefaというブランド名で、23年に米国で慢性心不全や心血管リスク因子を持つ二型糖尿病や慢性腎疾患などの心不全リスクを抑制する適応・効能で承認された。一型糖尿病用途は18年に当時のライセンシーのサノフィが欧米で承認申請したが、米国では承認されず、EUでは19年に承認されたが22年に申請取り下げとなった。

    ボトルネックとなったのは糖尿病ケトアシドーシスのリスク。二型糖尿病でも起こりうるが、一型では発生率が上がる。第3相試験ではnumber needed to halmが26だった(26人に投与すると一人が発症する)。今回の申請では適応を慢性腎疾患を伴う患者に限定したが、第3相ではeGFRが45~60mLの患者47人中3人と偽薬群の42人中ゼロを上回っており、糖尿病性ケトアシドーシスの懸念は払拭されていない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    アステラス、欧州で地図状萎縮用薬の申請を取り下げ
    (2024年10月28日発表)

    アステラス製薬はavacincaptad pegolをEUでも承認申請していたが、取り下げた。詳細は不明だが、Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)の類薬であるSyfovre(pegcetacoplan)もEUでは承認されなかった。CHMP(医薬品専門家委員会)が11月の会議後に取下げ時点における評価を公表するだろう。

    Iveric Bioを59億ドルで買収して入手した硝子体注射用C5阻害剤。米国で23年8月に加齢性黄斑変性による地図状萎縮の治療薬として承認された。

    Syfovreも米国では23年2月に同適応症で承認されたが、EUはCHMPが否定的意見をまとめ、Apellisが再審請求中。CHMPは、病変の拡大を抑制したが臨床的に意味のある便益は見られず、日常生活機能も改善しなかったことや、他の種類の加齢性黄斑変性を誘発するリスクが危惧されることなどを指摘している。

    リンク: アステラスのプレスリリース(和文)


    【承認】


    ノバルティスのCML用薬が一次治療に加速承認
    (2024年10月29日発表)

    FDAはノバルティスのScemblix(asciminib)を慢性期フィラデルフィア陽性慢性骨髄性白血病(Ph+CML-CP)の新患成人に用いる適応拡大を加速承認した。21~22年に米日欧で2種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤歴を持つPh+CML-CPなどに承認されたが、一次治療承認で対象患者数が6~7倍に増加する。尤も、競合も多く、同社自身が開発したimatinibも発売後23年経った今でも人気があるようだ。

    第3相ASC4FIRST試験で48週MMR(分子遺伝学的第奏効)率が67.7%と、標準療法群(imatinib、nilotinib、dasatinib、bosutinibの中から医師が選ぶ)の49.0%を大きく上回り、imatinibだけとの比較でも69%対40%と上回った。G3以上の有害事象や有害事象治験離脱は少なかった。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
    24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
    24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
    24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
    24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群)
    24年12月推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、小細胞性肺癌)
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、非扁平上皮非小細胞性肺癌)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    24/12/29Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfontカプセル、古典的先天性副腎過形成)
    24/12/30Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfont経口液)
    諮問委員会
    24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)
    24/11/21CTGTAC:アストラゼネカのAndexxa(遺伝子組換え不活化血液凝固Xa因子-zhzo)



    今週は以上です。

    2024年10月27日

    第1078回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • サンガモ、ファブリー病の遺伝子療法を来年にも加速承認申請へ 
    • 大塚、抗APRIL抗体のIgA腎症試験が成功 
    • リベルサスのCVOTが成功 
    • Marinus、抗癲癇薬の適応拡大試験フェール 
    • シクロベンザプリン舌下錠を線維筋痛症に承認申請 
    • ACIP、肺炎球菌ワクチンの推奨範囲を拡大 
    • ファイザー、RSVワクチンの適応が18歳以上に拡大 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    サンガモ、ファブリー病の遺伝子療法を来年にも加速承認申請へ
    (2024年10月22日発表)

    Sangamo Therapeutics(Nasdaq:SGMO)はST-920(isaralgagene civaparvovec)を従来計画より3年前倒しで25年下期に米国でファブリー病に承認申請する考えを明らかにした。FDAとの会議で、現在進行中の第1/2相試験の52週eGFR(推算糸球体濾過率)データに基づいて加速承認を申請することに同意を得た。102週データで臨床的便益を確認する必要があるが、FDAは、市販後薬効確認試験を実施して本承認に切替えることまではマストではない、という考えも示されたとのこと。FDAは希少遺伝子疾患の承認に際してサロゲート・マーカーを活用する方針を示しているが、臨床的便益を計測するのが困難で長期間かかる場合は加速承認で放置することを容認するのは妥協を更に一歩、進めた印象だ。

    ST-920は、ファブリー病で欠乏するalpha-Galactosidase-Aの遺伝子をアデノ随伴ウイルスをベクターとして肝臓志向的に導入する。これまでに第1/2相STAAR試験に33人の患者を組入れている。ベンチャー企業の例に漏れず手元資金に余裕がないため、提携や資金調達が実現するまで第3相入りを見送っていた。

    ファブリー病は複数の酵素補充療法が承認されている。23年に欧米で承認されたProtalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX)のElfabrio(pegunigalsidase alfa-iwxj)のエビデンスはFabrazyme(agalsidase beta)対照試験でeGFRが非劣性だったこと。21年3月にFabrazymeが加速承認から本承認に切り替わりUnmet medical needsが改善したためElfabrioの52週eGFRに基づく加速承認が認められるかどうか不透明になったが、米国連邦職員の渡航規制により審査が遅れ、結果的に、102週eGFRに基づく本承認となった。このため、ST-920が順調に加速承認されればFabrazyme本承認後の最初の事例になるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【新薬開発】


    大塚、抗APRIL抗体のIgA腎症試験が成功
    (2024年10月22日発表)

    大塚ホールディングは、sibeprenlimabの第3相IgA腎症試験で主目的を達成したと発表した。加速承認申請に向け承認審査機関と相談する考え。承認されればファースト・イン・クラスになりそうだ。

    18年に4.3億ドルで完全子会社化したマサチューセッツ工科大学発のイン・シリコ創薬ベンチャー、Visterraの開発品で、ガラクトースの欠損により機能不全となった免疫グロブリンAの産生において重要な役割を果たすAPRIL(A PRoliferation Inducing Ligand)に結合、阻害する。このVISIONARY試験ではACE阻害剤/ARB(SGLT2阻害剤併用可)による治療を受けている成人患者530人を組入れて、400mgを4週毎皮下注する便益を偽薬と比較した。主評価項目である9ヶ月後のUPCR(尿蛋白/クレアチニン比)が統計的に有意な、且つ臨床的に意義のある治療効果を示した。副次的評価項目である24ヶ月後のEGFR(推算糸球体濾過率)は26年初めに開票する見込み。前例に倣えば、UPCRで加速承認、EGFRで本承認切替となろう。

    IgA腎症ではここ数年、次々と新薬が承認されているので、これらの薬との優越や、併用の可能性が注目される。

    抗APRIL抗体では23年にノバルティスがETA受容体拮抗剤や抗APRIL抗体を開発するChinook Therapeuticsを買収、24年にはVertex TherapeuticsがBAFF/ARRIL標的融合蛋白povetaciceptを開発するAlpine Immune Sciencesを買収するなど、IgA腎症などの自己免疫疾患におけるポテンシャルに注目した企業買収が活発化している。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdf)


    リベルサスのCVOTが成功
    (2024年10月21日発表)

    ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤Rybelsus(semaglutide)の第3相心血管アウトカム試験、SOULで主目的を達成したと発表した。年末前後に欧米で効能追加申請する予定。

    Rybelsusは二型糖尿病や肥満症、心不全など多くの適応を持つsemaglutideの経口投与用製剤。19~20年に米欧日で二型糖尿病薬として承認された。SOUL試験は欧米中日などの施設で心血管疾患を合併した二型糖尿病患者9560人を組入れて、標準療法に加えて偽薬またはRybelsusを一日一回投与し、心血管リスクを比較した。主評価項目は3点MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的卒中の何れかが初回発生するリスク)。結果は偽薬群より14%小さかった。三疾患何れも偽薬群を下回った。

    Rybelsusは第3相PIONEER 6試験でも3点MACEが偽薬群より21%少なく、主目的である非劣性解析は成功したが優越性は確立しなかった。心血管死は半減したがイベント数の多い非致死的心筋梗塞は18%多かった。今回は3倍の被験者を組入れたので検出力が高まったはずだが、リスク抑制効果の点推定値は見劣りする結果になってしまった。

    ところで、Rybelsusは9月にEUで新規格が承認されていたことに今回初めて気づいた。活性成分が半分の量で生物学的同等性を達成しており、供給不足の緩和にも資するかもしれない。いかにして達成したのかは分からなかった。

    Rybelsusの剤形の比較

    従来製剤新規製剤
    形状楕円形円形
    用量3、7、14mg1.5、4、9mg
    添加剤サルカプロザートナトリウム、
    ポビドンK90、
    結晶セルロース、
    ステアリン酸マグネシウム
    サルカプロザートナトリウム、
    ステアリン酸マグネシウム
    塩含有23mg23mg未満
    有効期間30ヶ月(3mgは2年)3年
    注:有効期間は日本と異なる。
    出所:EUのSPC(製品概要)から作成


    リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


    Marinus、抗癲癇薬の適応拡大試験フェール
    (2024年10月24日発表)

    Marinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)は22~23年に米欧でZtalmy経口液(ganaxolone)のCDKL5(cyclin-dependent kinase-like 5)欠乏障害用薬としての承認を取得後、適応拡大試験を進めてきたが、第3相結節性硬化症関連癲癇発作の予防試験がフェールした。28日間当りの頻度が19.7%減少したが偽薬群の10.2%減と比べたp値は0.09だった。他の用途のデータも思わしくなかったため、これ以上の開発は打ち切り、人員削減を進めると共に戦略的代替的選択肢(身売りなど)を検討する考えであることを公表した。

    ganaxoloneはCoCebsys社を子会社化したPurdue Pharmaから2003年にライセンスした中枢神経選択的GABA-Aポジティブ・アロステリック・モジュレータ。23年の売上高は19.6百万ドル、24年上期は15.5百万ドルだった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    シクロベンザプリン舌下錠を線維筋痛症に承認申請
    (2024年10月16日発表)

    米国ニュージャージー州の新薬開発会社、Tonix Pharmaceuticals(Nasdaq:TNXP)は、TNX-102 SL(cyclobenzaprine HCl)を線維筋痛症治療薬として承認申請した。米国では07~09年に線維筋痛症治療薬3剤が承認/適応追加承認されたが、今回承認されれば16年ぶりの新薬となる。

    活性成分は5HT2Aやアルファ1、H1、ムスカリンM1受容体などのアゴニストで米国では1977年に承認され、筋攣縮などの治療に用いられてきた。Tonixの開発品は舌下錠で、活性成分とマンニトールを共晶製剤して安定性を高めたとのこと。就寝前に投与した試験で疼痛が偽薬比有意に緩和し、不眠の改善も見られた。有害事象は口や舌の感覚鈍麻など。深刻有害事象では薬物関連疑い例の急性膵炎が見られた。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    ACIP、肺炎球菌ワクチンの推奨範囲を拡大
    (2024年10月23日発表)

    CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は肺炎球菌ワクチンの推奨範囲拡大を推奨した。今後、CDCが検討した上で最終決定する。米国は予防用ワクチンの普及に前向きで、CDCが推奨すれば官民の健康保険の還付対象になるので、大きな一歩だ。

    現在の成人に関する接種勧奨範囲は、65歳以上の未接種者、特定の基礎疾患やリスク因子を持つ19-64歳の未接種者、そして最新のワクチンより少ない株しかカバーしていないワクチンを接種した特定の成人だが、未接種者全員が勧奨となる年齢を50歳以上に引き下げることを一名以外の委員が支持した。反対意見は、ファイザーとMSDの製品のうち、カバレッジが広く費用対効果が大きいMSD品だけ勧奨すべきと主張した。

    18~22年の感染例を元に各ワクチンのカバー率を推定したGierkeらの分析によると、19~64歳ではMSDのCapvaxive(21価)が81%、ファイザーのPrevnar 20が58%、どちらもカバーしていない株の感染例が6%だった。65歳以上においては各85%、54%、8%だった。

    リンク: ファイザーのプレスリリース
    リンク: MSDのプレスリリース
    リンク: Gierkeのプレゼンテーション用資料(24年2月ACIP、pdfファイル)

    【承認】


    経口ペネムが女性の単純性尿路感染症に承認
    (2024年10月25日発表)

    FDAはIterum Therapeutics(Nasdaq:ITRM)のOrlynvah(sulopenem etzadroxil、probenecid)を成人女性の単純性尿路感染症の治療薬として承認した。感受する細菌(大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス・ミラビリス)に感染し、他の経口抗菌薬による治療方法がない、または限定的である場合に用いる。一日二回、5日間、経口投与する。新規ペネム系抗菌剤と痛風治療薬として承認されている有機アニオントランスポーターOAT-1阻害剤probenecidの固定用量合剤で、経口ペネムは初。

    複雑性尿路感染症の治療に用いることは承認されていない(点滴静注用製剤と錠剤を用いた実薬対照非劣性試験が二本フェールした)。単純性尿路感染症はそれほど深刻ではないため原因菌を検査せずに薬を選択投与することが多いが、この段階でペネム系を用いると、耐性が生じた場合に切り札のペネム系抗菌剤が使えないので困ったことになる。9月の諮問委員会では適応制限が必要という意見が多かったが、培養検査で菌を確認することが推奨されているが義務付けはされなかった。

    単純性尿路感染症治療薬は4月にUtility TherapeuticsのPivya(pivmecillinam)が米国では初めて承認された(欧日では既にGE化)。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ファイザー、RSVワクチンの適応が18歳以上に拡大
    (2024年10月22日発表)

    ファイザーはFDAがRSVワクチンAbrysvoの適応を18~59歳のリスク因子を持つ人たちに拡大することを承認したと発表した。臨床試験で免疫原性が高齢者のデータと非劣性だった。重度RSV疾患のリスクを高める基礎疾患(慢性肺疾患、心血管疾患(単純高血圧を除く)、糖尿病など)の有病率は米国の18~49歳においては9.5%、50~64歳では24.3%とのこと。

    RSVワクチンではGSKのArexvyが欧米では50歳以上に承認、モデルナのmResviaが60歳以上に承認されている。CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は7月の委員会でArexvyを50~59歳に推奨するには材料不足として判断を留保したが、10月24日の委員会でも60歳未満に推奨するのは時期尚早と判定した。

    ACIPにおけるプレゼンによると、ギラン・バレー症候群のリスクに関しては、10月までのデータでArexvyにおける超過リスクは100万回当り7(95%信頼区間2-11)、Abrysvoでは同じく9(0-18)と推測。これはGSKの帯状疱疹ワクチンShingrix(二回接種)における同じく3~6とそれほど違わない。本人や社会全体の便益と危険は、サブグループ毎に慎重に考慮検討する必要があるようだ。要検討事項の具体例としては、特定の基礎疾患を持つ人は60歳未満でも重度RSV下部気道感染症のリスクが60歳以上と同程度か、人種によっては60歳未満でもリスクが白人より高いか、重度RSV下部気道感染症のリスクを高める基礎疾患の内容は60歳未満と60歳以上で異なるか、などが示されたようだ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
    24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
    24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
    24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
    24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
    24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
    諮問委員会
    24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)
    24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)



    今週は以上です。

    2024年10月21日

    第1077回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • MSD、RSV予防用抗体の治験が成功 
    • Jazz社、Zepsyreの生き残りが賭かった試験が成功 
    • GSK、長期作用性抗IL-5抗体が慢性副鼻腔炎の第3相も成功 
    • BioNTech、抗CTLA4抗体の第3相試験を部分停止 
    • tecovirimatのエムポックス試験がフェール 
    • ギリアド、トロデルビの一部適応を返上へ 
    • CHMP、アレモなどの承認を支持 
    • ビロイが米国でも承認 
    • ヴィアレブが米国でも承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    MSD、RSV予防用抗体の治験が成功
    (2024年10月17日発表)

    MSDは7月にMK-1654(clesrovimab)の後期第2相/第3相試験の成功を発表したが、 IDWeek 2024(米国感染症学会週間)で成績を公表した。日本も含む多施設で初めてRSVシーズンを迎える健康な早産児や正期産児に一回筋注して150日間追跡したところ、一種類以上の症状を伴うRSV関連MALRI(下部気道感染症による受診)リスクが偽薬比60.4%小さかった。副次的評価項目であるRSV関連入院は84.2%抑制、RSV関連の下部気道感染症による入院に限定すると90.9%抑制、重度のRSV関連MALRIは91.7%抑制された。ポストホック分析だが、2症状以上を伴うRSV関連MALRIは88.0%抑制された。

    IDWeek 2024では第3相実薬対照試験の中間解析結果も発表された。初めてのRSVシーズンを迎える、感染時重症化リスク因子を持つ幼児をMK-1654群とpalivizumab(Synagis)群に無作為化割付けしたところ、安全性は同程度で薬物関連の深刻有害事象は発生しなかった。RSV関連MALRI(1症状以上)の発生率は各群3.6%と3.0%、RSV関連入院は1.3%と1.5%で何れも同程度だった。

    2025-26シーズンの発売に向けて承認審査機関と相談する考え。

    MK-1654はRSVのF蛋白に結合する長期作用性抗体。類薬のSynagisはRSVシーズンの間、毎月投与する必要があるが、MK-1654は、Beyfortus(nirsevimab-alip)と同様に、1シーズンに一回で足りる。

    尚、Synagisはアストラゼネカの子会社であるメディミューンが開発。Beyfortusも同社が開発したが販売はサノフィが行っている。

    リンク: MSDのプレスリリース


    Jazz社、Zepsyreの生き残りが賭かった試験が成功
    (2024年10月15日発表)

    米国のJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)はポリメラーゼII阻害剤Zepzelca(lurbinectedin)の適応拡大試験が成功したと発表した。25年上期に承認申請する考え。市販後薬効確認試験の一つがフェールし前途が危ぶまれたが、生き残れそうだ。本承認切替も可能なのではないか。ライセンス元であるスペインのPharmaMar(MSE:PHM)も25年上期に欧州で初承認申請する計画。

    PharmaMarは海洋生物から抗癌活性を持つ物質を発掘している会社。カリブ海や地中海に生息するホヤの一種から発見した物質を雛形とするYondelis(trabectedin)が欧州で卵巣癌などに、日本で悪性軟部腫瘍に、米国で進行脂肪肉腫/平滑筋肉腫だけに、承認されている。Zepzelcaは転移性小細胞性肺癌で白金薬歴を持つ成人患者に単剤投与した第2相をエビデンスとして20年に米国で加速承認されたが、市販後薬効確認試験の一つである第3相小細胞性肺癌二次治療doxorubicin併用試験で全生存期間が実薬対照群を有意に上回らなかった。但し、ハザードレシオは0.967、メジアン生存期間は10.6ヶ月、対照群は9.9ヶ月というものなので、劣っている可能性を完全には否定できないにしても疑うほどではなかった。第三者が承認取消を請願したが、FDAは、投与量が2.0mg/m2と承認用量の3.2mg/m2より少ないことや単剤投与でないことから、却下した。

    今回のImforte試験はロシュがスポンサーでJazzも資金拠出した。進展型小細胞性肺癌の一次治療としてTecentriq(atezolizumab)と carboplatin、etoposideによる導入療法を受け疾病安定化以上の応答があった患者の維持療法として、3.2mg/m2とTecentriqを3週毎投与する群の全生存期間やPFS(無進行生存期間、独立評価)をTecentriqだけの群と比較したもの。数値は未発表。

    リンク: Jazzのプレスリリース
    リンク: PharmaMarとJazzのプレスリリース


    GSK、長期作用性抗IL-5抗体が慢性副鼻腔炎の第3相も成功
    (2024年10月14日発表)

    GSKはGSK3511294(depemokimab)の第3相CRSwNP(鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎)試験二本で主目的を達成したと発表した。データは未公表。

    同社は4週毎皮下注用抗IL-5抗体Nucalara(mepolizumab)を好酸球性喘息症や好酸球増多がしばしば見られるCRSwNPの治療薬として既にラインアップしているが、depemokimabはIL-5親和性を増強しFc領域を装飾して血漿半減期を延長、6ヶ月に一回の皮下注を実現した。重度好酸球性喘息症の第3相、SWIFT-1と2が成功し、米国で年内に、日欧でも25年に承認申請する予定。

    今回の試験では52週時点の内視鏡的鼻ポリープ評価と49-52週の鼻閉塞尺度の両方の主評価項目で偽薬比統計的に有意な差があった。

    喘息症試験の成功を発表した時は「統計的に有意且つ臨床的に意味のある」と記していたが、今回は統計的に有意であったことだが記している。何か意味があるのだろうか。

    リンク: 同社のプレスリリース


    BioNTech、抗CTLA4抗体の第3相試験を部分停止
    (2024年10月18日届出)

    FDAは、BioNTech(Nasdaq:BNTX)の抗CTLA4抗体、BNT316(gotistobart)の第3相非小細胞性肺癌試験に関して部分的な停止を命じた。同社がSEC(米国証券取引委員会)に提出した適時開示資料で明らかにした。

    このPRESERVE-003試験は抗PD-(L)1抗体に応答しなかった転移非小細胞性肺癌の患者を組入れて単剤投与し、全生存期間をdocetaxelと比較したもの。IDMC(独立データ監視委員会)が中間解析でサブグループ間の違いを指摘したため、自発的に新規組入れを停止しFDAに報告した経緯があり、FDAは追認した格好だ。BioNTechは、FDAは扁平上皮腫とそれ以外で結果が異なることを懸念したのではないか、と推測しているが、おそらく、同社またはIDMCがこの懸念で部分停止を決めたのだろう。

    BNT316は米国メリーランド州のOncoC4からONC-392の共同開発商業化権を取得したもの。第1/2相試験で抗PD-(L)1抗体抵抗性転移非小細胞性肺癌の27人に10mg/kgを投与したところ、ORR(客観的反応率)が29.6%(部分反応が7人、完全反応が1人)だった。G3/4免疫関連有害事象の発現率は30%だった。

    抗CTLA4抗体は2品が承認されているが独特の有害事象リスクを持ち、試験成績は対象や用法などにより区々だ。

    リンク: BioNTechのForm 6-K


    tecovirimatのエムポックス試験がフェール
    (2024年10月18日報道)

    SIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)はTPOXX(tecovirimat)の第3相エムポックス治療試験がフェールしたことを8月に公表したが、データがID Week 2024(米国感染症学会週間)で報告された。NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導したPALM 007試験で、コンゴ民主共和国で体重3kg以上の小児と成人の入院患者597人を組入れて病変治癒するまでのメジアン期間を観察したところ、試験薬群は8日、標準療法だけの群は7日、競合リスク・ハザード比は1.13(95%信頼区間0.97-1.31)、p=0.14と、両群大差なかった。58日死亡率は両群とも1.7%だった。

    TPOXXは欧米でアニマル・ルール(臨床試験を行うのは困難または非倫理的である場合に、動物における薬効確認試験とヒトの安全性試験データだけを承認申請する)に基づき天然痘治療薬として承認され、EUでは体重13kg以上の小児成人のエムポックス治療にも例外的条項に基づき承認されている。数少ない治療薬であるだけにサプライズだが、無効と決まったわけではないようだ。エムポックスは天然痘より症状が軽い模様で、ある程度以上重い患者でないと大きな便益が表面化しないのかもしれない。今回の試験の偽薬群の病変治癒期間は前提よりだいぶ短く、入院させて手厚く治療したのが良かったのかもしれない(通常は重くなければ外来で治療する)。他の臨床試験では小さい子供は組入れず、HIV/AIDSなど免疫低下患者の比率がもっと高い。これらのことから、重症化リスクの高い患者だけテストすれば成功する期待が残っているようだ。

    リンク: MedPage Todayの記事

    【承認審査・委員会】


    ギリアド、トロデルビの一部適応を返上へ
    (2024年10月18日発表)

    ギリアド・サイエンシズは、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の米国における一部適応を返上する考えであることを明らかにした。主用途であるトリプル・ネガティブ乳癌などにおける承認には影響しない。

    米国では白金薬や抗PD-(L)1抗体による治療歴を持つ局所進行/転移尿路上皮腫に用いることが21年に加速承認されたが、第3相TROPiCS-04試験で延命効果が化学療法群を数値上上回るだけに留まり、有害事象による死亡の増加が見られたため返上する。

    Trodelvyは22年にImmunomedics社を210億ドルで買収して入手した、抗EGP-1(別名TROP-2)抗体とSN-38トポイソメラーゼ阻害剤の抗体薬物複合体。

    リンク: 同社のプレスリリース


    CHMP、アレモなどの承認を支持
    (2024年10月18日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    ノボ ノルディスクのAlhemo(和名アレモ、一般名concizumab)はTFPIに結合する抗体。12歳以上のインヒビターを持つA型/B型血友病の出血予防にルーチン投与する。一足先に日本で23年9月に承認され、今年6月にはインヒビターを持たない患者に使用することも承認された。米国は23年4月に審査完了通知を受領し、適切な投与を担保するための追加施策と生産プロセスに関する追加情報などを求められた。

    リンク: EMAのプレスリリース

    CSL(ASX:CSL)グループのSeqirus社は二種類の三価インフルエンザ・ワクチンの肯定的意見を得た。鶏卵培養型のFluadと犬腎細胞培養型のFlucelvaxで、どちらもA/H1N1型、A/H3N2型、B/ビクトリア系統の不活化表面抗原を配合している。B型インフルエンザ・ウイルスの流行がビクトリア系統だけになってきたことを受けて、四価ではなく三価のワクチンに回帰するもの。

    リンク: EMAのプレスリリース(Fluad)
    リンク: 同(Flucelvax)

    ドイツのLindis Biotech GmbHのKorjuny(catumaxomab)は成人のEpCAM陽性腫瘍による癌性腹水の腹腔内治療薬。全身性抗腫瘍治療が適さない場合に用いる。2008年のASCO(米国臨床腫瘍学会)における発表によると、余命2~3ヶ月の患者に投与した第2/3相穿刺術付随試験では、再穿刺術または死亡までのメジアン期間が46日と穿刺術だけの11日より有意に長く、メジアン生存期間は170日対72日で数値上上回った。症状改善作用も見られた。

    腫瘍細胞のEpCAMとT細胞のCD3を架橋する三重機能性抗体(今日では二重特異性抗体と呼ぶ方が一般的と思われる)。Fresenius Biotech GmbHがTrion Pharmaからライセンスして09年にEUで上記と同じ適応の販売承認をRemovab名で得た。Trion Pharmaを設立したHorst Lindhoferは三重機能性抗体の発明者とされ、Removabは最初に承認された二重特異性抗体とされる。売れなかったのかTrionは13年に会社清算となったが、Lindhofer氏は諦めず、Lindis Biotech GmbHを設立して14年にcatumaxomabのIPやノウハウを取得した。RemovabはFreseniusから販売承認を継承したNeovii Biotech GmbHが17年に商業上の理由で返上したが、Lindhofer氏は諦めず、再承認取得まであと一歩となった。

    リンク: EMAのプレスリリース

    Serum Life Science Europe GmbHのSiiltibcy(遺伝子組換え型結核菌由来抗原rdESAT-6、rCFP-10)は結核の診断薬。生後28日以上の小児と成人に投与して、2~3日後に遅延型過敏反応が現れたら陽性と判定される。含有する二種類の抗原はBCGワクチンには含まれていないので接種歴不問で利用できる。尚、EMAのプレスリリースでは承認申請者をVakzine Projekt Management GmbHと記している箇所もあるが、23年に上記に社名変更されている。元々はドイツの国策研究開発機関だったが18年にSerum Institute of Indiaが過半を保有する株主になった。

    リンク: EMAのプレスリリース

    アストラゼネカのWainzua(米国名Wainua、一般名eplontersen)はヒト・トランスサイレチンのmRNAに特異的に結合するアンチセンス薬。成人の遺伝性トランスサイレチン調停アミロイドーシス患者におけるポリニューロパシーの治療に4週毎皮下注する。オートインジェクターで自己注可。第3相試験で血清トランスサイレチン濃度を抑制し症状悪化を遅らせる効果を示した。米国では23年12月に承認された。Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製、アストラゼネカは米国で共同開発販売、欧州などでは単独開発販売している。

    リンク: EMAのプレスリリース

    適応拡大が支持されたのは、まず、サノフィの抗IL-6Rアルファ抗体Kevzara(sarilumab)を成人のリウマチ性多発筋痛症に用いること。コルチコステロイドに十分反応しない、または、コルチコステロイドのテイパリング中に再燃した患者が適応になる。米国では昨年2月に承認された。類薬である中外/ロシュのActemra(tocilizumab)が有効と考えられているが未承認。

    ノバルティスのCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)は早期乳癌の術後アジュバント療法に用いる。ホルモン受容体陽性、her2陰性のステージII/III乳癌で摘出術後の再発リスクが高い患者にアロマターゼ阻害剤と併用する。閉経前/閉経期女性や男性はLHRH類縁体を併用する。米国では9月に適応拡大された。

    BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE/HKEX:6160)のTevimbra(tislelizumab)は二種類の消化器癌向けに支持された。一つは、成人の切除不能局所進行転移PD-L1陽性食道扁平上皮腫の一次治療に白金薬と併用、もう一つは、成人の局所進行切除不能転移PD-L1陽性her2陰性胃/食道胃接合部腺腫の一次治療。PD-L1の検査・判定方法は数種類あるが、Tevimbraの場合、TAP(使用域陽性スコア)が5%以上なら陽性判定される。米国でも申請されているが前者は治験施設査読の遅れなどにより審査遅延、後者は審査期限未到来。

    TheramexのYselty(linzagolix choline)は非ペプチド系のGnRH受容体アンタゴニスト。薬物治療又は外科治療歴のある子宮内膜症の女性の症状管理に用いる。キッセイ薬品から欧州などにおける権利を取得した。米国でも欧州同様に子宮筋腫用薬として承認されているが、ライセンシーのObsEva SAが経営破綻してしまったため、適応拡大申請したかどうか明らかでない。

    薬効再審査案件では、PTCセラピューティクスのデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Translarna(ataluren)に関して、CHMPは4回目の否定的意見をまとめた。14年に条件付き承認したが市販後薬効確認試験がフェールしたため昨年9月に条件付き承認の年次更新を見送るよう勧告し、再審請求を受けたが今年1月に意見維持を決定した。ところが、欧州委員会が勧告を受け入れず再検討を求めたため、新たに提出された市販後患者登録のデータなどを検討し、SAG-N(神経学科学的諮問グループ)にも諮問した。結局、結論は変わらず、否定的意見→意見維持の手続きを繰り返すことになった。

    奇妙なことに、加速承認申請を拒否し、その後の薬効確認試験がフェールしたため17年に承認を拒否したFDAは、今年に入って急に軟化、7月に承認申請に至った。チグハグだ。

    リンク: PTCのプレスリリース

    【承認】


    ビロイが米国でも承認
    (2024年10月18日発表)

    FDAはアステラス製薬のVyloy(zolbetuximab-clzb)を承認した。Claudin 18.2を標的とするキメラ抗体で、成人のClaudin 18.2陽性、her2陰性の局所進行切除不能/転移性の胃/食道胃接合部腺腫の一次治療にfluoropyrimidine及び白金薬ベースの化学療法と併用する。第3相試験二本で二種類の異なったレジメンに追加したところ全生存期間の延長につながった。

    BioNTechの創設者夫妻が設立したGanymed Pharmaceuticalsを買収して入手した。3月に日本で、9月にはEUでも、承認されている。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ヴィアレブが米国でも承認
    (2024年10月17日発表)

    アッヴィのVyalev(foslevodopa、foscarbidopa)が米国で進行パーキンソン病用薬として承認された。レボドパとカルビドパのプロドラッグを皮下注用ポンプで24時間持続点滴する。症状管理が上手く行っていない患者に12週間投与した第3相試験でオンタイム(パーキンソン症状が発現していない時間)が2.72時間増加し、levodopaとcarbidopaを経口投与した群の0.97時間増を有意に上回った。有害事象による治験離脱率は22%で、内容は幻覚、点滴箇所反応、点滴箇所感染症など。対照群は1%だった。

    22年12月に日本でヴィアレブ名で承認されたが、米国はFDAがポンプに関する追加情報を求めたり、第三者工場の製造問題の道連れになったりしたため、三巡目でやっと承認された。欧州では22年に非中央手続きで承認されている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
    24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)・・・審査期限超過
    24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxil、probenecid(単純尿路感染症)
    24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
    24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
    24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
    24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
    24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
    諮問委員会
    24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)
    24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)
    注:アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)は審査期限が来年1月17日に延期。

    今週は以上です。

    2024年10月12日

    第1076回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • EMA、利益相反規制を強化 
    • ターゼナの前立腺癌試験で延命効果も確認 
    • キイトルーダのペリアジュバントHNSCC試験が成功 
    • PTC社、フリードライヒ運動失調症用薬の承認申請を断行へ 
    • 抗ミオスタチン抗体のSMA試験が成功 
    • JNJ、薬剤放出ディバイスの膀胱癌試験が無益中止 
    • Neuvivo、ALS用薬の承認申請を断行 
    • Aldeyra、ドライアイ用薬を再承認申請 
    • PTC社、フェニルケトン尿症治療薬を米国でも承認申請 
    • 遅報:Elevar、肝臓癌用薬を再承認申請 
    • FDA諮問委員会、バース症候群用薬の評価が分かれた 
    • Zealand社、先天性高インスリン血症の適応まだ取得できず 
    • ファイザーの抗TFPI抗体が承認 
    • ジェネンテックのPI3K阻害剤が承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    EMA、利益相反規制を強化
    (2024年10月10日発表)

    EMA(欧州薬品庁)は諮問委員などに関する利益相反規制の強化を決めた。EU司法裁判所が不備を認定したため。今後は、承認申請されている製品と同じ疾病に用いる製品に関与している人や臨床試験の主任研究員なども対象となり、また、CHMPなどだけでなく、SAG(科学的諮問グループ)やAHEG(アド・ホック専門家グループ)、ETF(エマージェンシー・タスク・フォース)、MSSG(薬品不足対応グループ)、MDSSG(医療機器不足対応グループ)などでも利益相反管理が行われる。

    きっかけは、スペインのPharmaMar(MSE:PHM)が多発骨髄腫用薬として申請したAplidin(plitidepsin)が承認されず提訴した件と、フランスのDebrégeas et associés Pharmaがアルコール依存症治療薬として申請したHopveus(sodium oxybate)が承認されず提訴した件に関する控訴審判決。前者は一部の委員が他社の競合薬の開発に関わっていることなど、後者はAHEG委員のうち2名に利益相反が認められることなどを、利益相反と認定した。EMAは両案件の承認審査をやり直すとともに、審査中の案件も一部やり直したため、エーザイ/バイオジェンがアルツハイマー病薬として承認申請したLeqembi(lecanemab)などの審査も遅延した。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【新薬開発】


    ターゼナの前立腺癌試験で延命効果も確認
    (2024年10月10日発表)

    ファイザーはPARP阻害剤Talzenna(talazoparib)を乳癌に加えて前立腺癌にも開発し、23~24年に米日欧で成人の去勢抵抗性前立腺癌の転移後初度治療にXtandi(enzalutamide)と併用することが承認された。厳密な適応は国によって異なり、米国はでHRR(相同組換え修復)遺伝子に変異、日本ではBRCA遺伝子に変異、EUでは化学療法が臨床的に適応にならないことが要件となっている。エビデンスとなる第3相TALAPRO-2試験は共同主評価項目であるHRR遺伝子変異陽性コフォートだけでなく全被験者の解析でもrPFS(放射線学的無進行生存期間、盲検独立中央評価)がXtandi・偽薬併用群を有意に上回ったが、HRR遺伝子変異陽性コフォートのハザードレシオが0.46であるのに対して、陰性のサブグループは事後的分析で0.70と見劣りしたことなどが影響したものと推測される。

    今回、上記試験の全生存期間の最終解析が成功したことが発表された。PFSと同様に、HRR遺伝子変異コフォートも、全被験者の解析も成功した。数値は未発表。HRR変異陰性サブグループの数値が注目される。

    リンク: 同社のプレスリリース


    キイトルーダのペリアジュバントHNSCC試験が成功
    (2024年10月8日発表)

    MSDはKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-689試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。適応拡大申請に向かうのではないか。ステージIII/IV局所進行性頭頚部扁平上皮腫(HNSCC)の切除術を予定する新患患者704人を組入れて、術後に一定期間、標準的化学療法を施行する群と、術前術後にKeytrudaも投与する群のEFS(無イベント生存期間)を比較したところ、後者が有意に上回った。期中に副次的評価項目に格下げされた主要病理学的反応率の解析も成功した。同じく副次的評価項目の全生存期間はトレンドに留まっている。解析する順位が最上位に位置付けられているCPS(Combined Positive Score)が10以上のサブグループの数値が有意水準に到達していないため1以上や全被験者の正式な解析ができないと書いており、おそらく、検出力が高くなる後二者の名目p値は良好なのだろう。

    それにしても、HNSCCにおける治験成績はぶれまくっている。白金薬治療歴を持つ進行患者を組入れたKeyNote-040試験では全生存期間が実薬対照群を有意に上回らなかった。但し、点推定値自体は良好で、多重解析を予定していなかったら、成功判定されていたかもしれない。CPSが20以上の患者の一次治療として白金薬レジメンと併用したKeyNote-048試験では全生存期間がcetuximabと白金薬レジメンを併用した群を有意に上回った。一方、局所進行性の患者を対象に化学放射線療法に追加してEFS延長を目指したKeyNote-412試験はトレンドに留まった。

    リンク: MSDのプレスリリース


    PTC社、フリードライヒ運動失調症用薬の承認申請を断行へ
    (2024年10月8日発表)

    PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)はPTC-743(vatiquinone)が第3相フリードライヒ運動失調症試験の長期延長試験で疾病進行を遅らせる作用を示したため12月に米国で承認申請する考えであることを発表した。Stealth BioTherapeuticsがバース症候群治療薬として承認申請したelamipretide(後述)と似たような経緯であり、最初のハードルは受理されるかどうかだろう。

    フリードライヒ運動失調症の多くではミトコンドリア蛋白の遺伝子機能低下が見られる。PTC-743はミトコンドリアにおけるエネルギー・酸化ストレス経路の制御に関わる15リポキシゲナーゼの阻害剤。第3相MOVE-FAに成人小児146人を組入れて72週間治療し、mFARSの変化を比較したが、偽薬群は2.83点、試験薬群は1.22点、群間差は1.6でp=0.14とフェールした。但し、重要な指標である直立安定性サブスケールでは名目p値が0.021だった。治療時発現深刻有害事象の発現率は両群とも11%だった。

    この発表からほぼ1年半経ち、今回、追跡期間を144週に伸ばしたデータと自然歴(FACOMS疾病登録)の比較で、mFARSの群間差が3.7点、p<0.0001となったことが明らかにされた。3年間の進行を半分に抑制した由。

    リンク: 同社のプレスリリース


    抗ミオスタチン抗体のSMA試験が成功
    (2024年10月7日発表)

    米国マサチューセッツ州ケンブリッジの新興バイオ企業、Scholar Rock(Nasdaq:SRRK)は、SRK-015(apitegromab)の第3相2/3型脊椎筋委縮症(SMA)試験、SAPPHIREで主目的を達成したと発表した。25年第1四半期に欧米で承認申請する考え。

    同社はTGFベータ・スーパーファミリーの研究で実績を持ち、社名(水石)はその構造が水石に似ていることに因んでいる。第3相はSpinraza(nusinersen)またはEvrysdi(risdiplam)による治療を受けている2歳以上の歩行不能な2型、3型SMA患者188人を偽薬、10mg/kg、または20mg/kgを4週毎点滴静注する3群に無作為化割付けして52週間治療し、HFMSE(Hammersmith Functional Motor Scale Expanded)の変化を比較した。共同主評価項目は2~12歳の156人における、2用量群プール・データと20mg/kg群の偽薬比。

    2用量群プール分析ではHFMSE(ベースライン値は26点)が偽薬調整後で1.8点改善した(p=0.0192)。次順位の20mg/kg群の解析は偽薬調整後で1.4点改善したがp=0.1149でフェールした。この試験では多重性を補正するために片方が0.05超であった場合はもう片方が0.025以下なら成功判定するプロトコルだったため、前者が成功認定された。10mg/kg群が2.2点改善した(名目p=0.0121)ことが寄与した格好だ。13~21歳の32人(偽薬と20mg/kg群に割付け)の探索的解析でも好ましいトレンドが見られた由。深刻有害事象の発現率は偽薬群10%、10mg/kg群17%、20mg/kg群22%だった。

    POC試験では20mg/kgしかテストしなかったが、薬力学/薬物動態面でも忍容性でも10mg/kgと大差なかったようなので、低用量だけ承認申請するのではないか。

    尚、Spinrazaの類似試験では15ヶ月後のHFMSEが3.9点改善、シャム群は1.0点悪化し、偽薬調整後の治療効果は4.9点だった。Evrysdiの類似試験ではHFMSE(副次的評価項目)が1年後に0.95点改善、偽薬群は0.37点改善し治療効果は0.58点だった。

    SRK-015は、筋肉の成長を抑制するmyostatinの非活性体である潜在型myostatinを標的とするIgG4ラムダ型抗体。類薬はBiohaven Pharmaceuticals(NYSE:BHVN)の抗myostatinアドネクチンtaldefgrobep alfaも向こう半年以内に第3相結果が判明する予定。ロシュも中外由来の抗体RG6237/GYM329で第2/3相試験中。

    リンク: Scholar社のプレスリリース


    JNJ、薬剤放出ディバイスの膀胱癌試験が無益中止
    (2024年10月7日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンは、TAR-200の第3相SunRISe-2試験が中止になったことに関して声明を発表した。画期的な治療法になりうると自信を持っており、予定通り、やや異なった癌を組入れた第2相SunRISe-1試験に基づいて25年初めに米国でTAR-200単剤を承認申請する考え。

    19年に買収したTARIS Biomedicalの開発品で、シリコンチューブ型ディバイスを膀胱内に留置してgemcitabineを持続放出させる。SunRISe-2試験では全摘術不適または拒否の高リスク筋層浸潤膀胱癌(MIBC)550人を組入れて、同社が開発している抗PD-1抗体JNJ-63723283(cetrelimab)と併用で3週毎に最大3年間投与する群のEFS(無イベント生存期間)を同時化学放射線療法と比較した。独立データ監視委員会(IDMC)の推奨と事前に設定された中間解析に基づき、優越性不実により中止された。

    一方、SunRISe-1試験はBCG治療歴のある全摘不適/拒否の高リスク非筋層浸潤膀胱癌(NMIBC)を組入れてTAR-200、cetrelimab、両剤併用の完全反応率を検討したもの。今年のAUA(米国泌尿器学会)の発表によるとTAR-200単剤群の完全反応率(n=58)は83%、1年反応持続率は74%、深刻有害事象の発生率は7%だった。第3相はBCG歴のない高リスクNMIBC試験や、BCG後に再発し全摘不適/拒否の高リスクNMIBC試験が進行中だが、成否判明は2030年頃の見込み。

    プレスリリースが妙なのは、第一に、SunRISe-2試験の成功のハードルが高いことを最初に記していること。恰も、誰かが先に発表または報道したのを受けて釈明を兼ねた声明を出したかのようだ。尤も、ClinicalTrials.govにはJanssen Research & Developmentがスポンサー兼届出者と記されているので、運営も成果発表も研究者共同治験グループが主導する試験ではなさそうだが。第二に、中止の経緯や理由がはっきりと記されていないこと。優越性が示されないため中止とあるが、通常は中間解析で有意差が出なくても粛々と続行するところだ。更に、通常なら、中間解析に基づきIDMCが中止推奨した、と書くところだろう。おそらく、IDMCは無益認定までは踏み込んでいないのだろう。

    以上のことから邪推すると、IDMCが安全性または生存に関わる懸念を表明し、中間解析の結果も中止基準には触れないがすごく良いものでもなかったため中止したのではないか、と思ってしまう。学会発表などを控えて公表できないのかもしれないが、このような邪推を排するためには踏み込んだ説明が必要だろう。

    リンク: JNJのプレスリリース

    【承認申請】


    Neuvivo、ALS用薬の承認申請を断行
    (2024年10月7日発表)

    米国カリフォルニア州の新興医薬品開発会社Neuvivoは、NP001をALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認申請した。受理されるだろうか。

    pH調整亜塩素酸ナトリウム製剤で、4週毎に3-5日連続で30分点滴静注を反復する。第2相試験で発症3年未満、FVCが70%以上の136人を偽薬、1mg/kg、2mg/kgの3群に無作為化割付けしてALSFRS-R(機能評価尺度)を比較したところ、ベースライン(38点)比で各群4.7点、4.1点、3.7点低下し、両用量とも偽薬比有意な差は見られなかった。肺活量の解析もフェールした。比較的良い成果があった高CRP値患者に限定して後期第2相を実施したが、ALSFRS-Rも、肺活量も、フェールした。但し、40~65歳のサブグループでは比較的良好な数値が出た。このため、今回の承認申請は適応を何らかのサブグループに絞ったものと想像される。

    Neuvivoは、この二本の試験を実施したNeuraltus Pharmaceuticalsの創業者らが2021年に設立したようだ。経緯やNeuraltus社の帰趨は不明。

    リンク: Neuvivoのプレスリリース


    Aldeyra、ドライアイ用薬を再承認申請
    (2024年10月3日発表)

    Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(reproxalap)をドライアイの兆候・症状治療薬として米国で再承認申請した。2年前に承認申請していたが、薬効のエビデンスが兆候に関しては二本あるものの症状は1本しかなかったため審査完了通知を受領。改めてドライアイ疾患チャンバー試験(1~3時間強風を当てて目を乾燥させ不快感を計測する)を成功させた。結果論で言えば、この試験を先にやっていればもっと早く承認申請できただろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    PTC社、フェニルケトン尿症治療薬を米国でも承認申請
    (2024年10月1日発表)

    PTCセラピューティクスはPTC923(sepiapterin)を小児と成人のフェニルケトン尿症用薬として米国で承認申請し受理された。先輩格であるバイオマリンのKuvan(sapropterin)はテトラヒドロビオプテリン(BH4)の合成類縁体だが、sepiapterinはBH4の前駆体を化学合成したもの。第3相離脱試験で継続投与群のPhe値が偽薬にスイッチした群を有意に下回った。欧州では3月に申請、ブラジルや日本でも承認申請する考えだ。2020年にCensa Pharmaceuticalsを買収して入手した。

    リンク: PTC社のプレスリリース


    遅報:Elevar、肝臓癌用薬を再承認申請
    (2024年9月23日発表)

    韓国のHLB(028300:KS)の子会社であるElevar Therapeuticsは、米国で抗PD-1抗体camrelizumabとVEGFR-2阻害剤rivoceranibを切除不能肝細胞腫の併用一次治療に再承認申請した。23年5月に承認申請したが、camrelizumabを生産するHengrui Pharmaの工場におけるCMC(化学、製造、管理)問題や、米国連邦職員の渡航制限によりロシアとウクライナの治験実施施設の査察ができないことなどから、今年5月に審査完了通知を受領していた。会合でFDAが前者は解消、後者は承認申請後で可と伝えた模様だ。

    camrelizumabは中国では19年にJiangsu Hengrui Pharmaceuticals(江蘇恒瑞医薬、上海:600276)が承認を取得、23年2月には上記試験に基づき肝細胞腫に適応拡大した。rivoceranibは米国のAdvenchen Laboratoriesが中国の権利をHengruiに、それ以外の地域の権利をHLBに、ライセンスした。HLBは、その後、全世界の権利を取得しHengruiに対するライセンス元となった。中国では14年に承認取得。一般名はUSANでもINNでもrivoceranibだが中国ではapatinibと呼ばれClinicalTrials.govでは試験によりどちらかの名称が登録されている。

    リンク: Elevar社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、バース症候群用薬の評価が分かれた
    (2024年10月10日発表)

    FDAは心臓腎臓薬諮問委員会を招集し、米国のStealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)がバース症候群の治療薬として承認申請したelamipretideについて意見を聞いたところ、薬効を認めた委員が10人、認めなかった委員が6人と、意見が分かれた。BSF(バース症候群財団)が報じたほど強力勧奨とは思えないが、いずれにせよ、採決結果は参考に過ぎず、審査担当部署がどう判断するか、そして難病薬の承認に前向きなFDA上層部が介入するか否か、注目される。審査期限は来年1月29日。

    バース症候群はX染色体上のtafazzinをコードする遺伝子などに変異があり、cardiolipinが欠乏しミトコンドリア機能が低下、心不全や不整脈、白血球減少症などを発症する。40歳以上生存することは少なく、4歳までに死亡する患者も少なくない。罹患率は男性100万人当り1人、推定患者数は米国で130~150人、世界で230~250人。elamipretideはcardiolipinに結合しミトコンドリア機能を改善するとされる。

    第2/3相TAZPOWER試験で12歳以上の患者12人に40mgまたは偽薬を一日一回、12週にわたり皮下投与したところ、6分歩行検査の成績が試験薬群は約443m(ベースライン値は400m)、偽薬群は444m(同413m)となり、有意な差がなかった。共同主評価項目である疲労改善効果も見られなかった。FDAは再試験を推奨したが同社は患者数が少ないことや深刻な難病であることなどから、一部の副次的評価項目の改善や、延長試験のデータ、そしてジョンズ・ホプキンズの自然歴データ19例との比較などを行い、承認申請を断行した。BSFも4200人を超える署名を集めて後押しした。

    深刻な超希少疾患では十分な症例を集めるのは難しく、無作為化割付けしても上手く行くようには思えず、また、もしその疾患が様々な疾患のごった混ぜであった場合、ノイズに騙されるリスクを内在する。TAZPOWERの試験成績を見ても、12人中2人は試験薬にも、クロス・オーバー後に投与した偽薬にも、良く応答し6分歩行距離が増加している。不十分なエビデンスに基づいて承認の当否を判断するのは躊躇されるが、再試験の間に患者が死んでいくことを受け入れるのも耐え難い。かと言って、効くかどうか分からない薬を承認してしまうと、その後の新薬開発の妨げになる可能性がある。一番合理的なのは、米国には未承認薬が効くかどうか試してみる権利(right to try)が認められたので、再試験が成功し再申請するまでの間、製薬会社が患者に無償提供することだろう。

    リンク: Fierce Biotechの報道
    リンク: Barth Syndrome Foundationの声明


    Zealand社、先天性高インスリン血症の適応まだ取得できず
    (2024年10月8日発表)

    Zealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)は糖尿病患者の重度低血糖症治療薬Zegalogue(dasiglucagon)を超希少疾患である小児先天性高インスリン血症に適応拡大すべく23年にFDAに承認申請したが、また審査完了通知を受領した。一回目と同様に、薬効や安全性、品質面の問題ではなく、生産委託先の査察が完了していないため。予定より遅れ8~9月に実施されたが、指摘事項が解消と認定されたかどうか、通知待ちのようだ。

    この承認申請は、3週間以内の短期治療に関わるものと、ウェアラブル・ポンプによる3週超の連続投与に関わるものに分かれている。後者は追加情報の提出が必要になり、年内に回答する予定。

    リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


    【承認】


    ファイザーの抗TFPI抗体が承認
    (2024年10月11日発表)

    FDAはファイザーのHympavzi(marstacimab-hncq)を12歳以上のインヒビターを持たないA型またはB型の血友病用薬として承認した。週一回、オートインジェクターで皮下注射して出血事故を抑制する。

    体内のTFPI(組織因子経路インヒビター)に結合して、TFPIが活性化血液凝固第X因子及び組織因子・活性化第VII因子複合体と結合して凝固反応を抑制するのを妨げる。臨床試験で血液凝固因子の予防的投与を行わない群と比べて出血事故を大きく抑制し、予防的投与を行った群と比べても見劣りしない効果を示した。価格は年795,600ドルと、競合薬と同様に高い。欧州では9月にCHMPが肯定的意見をまとめた。日本では2月に承認申請された。

    インヒビターがないなら血液凝固因子補充療法が第一選択だろうから、需要が本格化するのはインヒビターを持つ、ロシュの抗第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体Hemlibra(emicizumab-kxwh)が適応にならないB型血友病向けが、承認されてからだろう。

    類薬はノボ ノルディスクのアレモ(コンシズマブ/concizumab)が昨年9月に日本でインヒビター保有のA/B型血友病に承認され、今年6月に非保有者に適応拡大した。米国でも申請されたが審査完了通知を受領し、適切な投与を担保するための施策の検討や生産プロセスに関する追加情報などを求められた。欧州でも承認審査中。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ジェネンテックのPI3K阻害剤が承認
    (2024年10月10日発表)

    FDAはロシュ・グループのジェネンテックが申請したItovebi(inavolisib)を審査期限の7週間前倒しで承認した。成人の局所進行/転移乳癌のうち、PIK3CA変異があり、ホルモン受容体陽性、her2陰性で、内分泌療法薬による術後アジュバント療法中または完了後1年以内に再発し、その後の治療を未だ受けていない患者が適応になる。ファイザーのCDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib)、及び、選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーターfulvestrantと併用する。エビデンスとなるINAVO120試験ではPFS(無進行生存期間)のメジアン値が15.0ヶ月とIbrance、fulvestrant、偽薬の3剤を投与した群の7.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.43だった。副次的評価項目の全生存は未成熟で有意水準に到達していないが、中間解析のハザードレシオは0.64(95%信頼区間0.43-0.97)と好ましい方向を向いている。レーベル上の警告・事前注意事項は高血糖、口内炎、下痢、胚胎毒性。

    ホルモン受容体陽性乳癌のうちPIK3CA変異は4割。PI3K阻害剤はノバルティスのPiqray(alpelisib)やアストラゼネカのTruqap(capivasertib)が一足先に承認されているが、Itovebiの適応の分かりやすい違いはCDK4/6阻害剤も併用すること。一方で、術後アジュバントでCDK4/6阻害剤を使った患者にも有効なのかは別途、臨床試験が必要だろう。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
    24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
    24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
    24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
    24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
    24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24/11/9アステラス製薬のzolbetuximab(claudin18.2陽性胃・胃食道接合部腺腫)
    24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
    24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
    24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
    24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
    24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
    諮問委員会
    24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)
    24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)



    今週は以上です。

    2024年10月5日

    第1075回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 振り返ると奴が(負けて)いる 
    • カルケンスを未治療マントル細胞腫に承認申請 
    • エンハーツをher2ちょっと発現乳癌に適応拡大申請 
    • Darzalex皮下注の4剤併用一次治療を承認申請 
    • アッヴィ、抗c-MET抗体薬物複合体を承認申請 
    • オプジーボも切除可能非小細胞性肺癌の術前術後投与が承認 
    • レットヴィモの甲状腺髄様腫適応が本承認 
    • EMA、5アルファ還元酵素阻害剤の安全性を検討へ 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    振り返ると奴が(負けて)いる
    (2024年10月2日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンは、後顧的リアル・ワールド研究で、転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)の治療におけるErleada(apalutamide)の延命効果がenzalutamide(アステラス製薬/ファイザーの競合薬、Xtandi)を有意に上回ることが判明したと発表した。

    電子医療記録に基づいて、18年12月からの5年間にmCRPCの最初のアンドロゲン受容体阻害剤としてErleada(1800人)による治療を受けた患者の全生存期間を調べたところ、24ヶ月生存率は87.6%で、enzalutamide(1909人)による治療を受けた患者と比べてハザードレシオは0.77(95%信頼区間0.62-0.96)、p<0.019だった。

    因みに、各剤のこの用途における承認のエビデンスとなったアンドロゲン枯渇療法併用偽薬対照試験では、Erleadaの全生存ハザードレシオは0.52、24ヶ月生存率は82.4%(偽薬群は73.5%)、Xtandiの試験ではハザードレシオ0.66だった。

    この研究は、FDAのリアル・ワールド・エビデンスに関するガイダンスに即したもの。後顧的研究は、色々解析して差が出たものだけを発表したのではないかと疑われないよう配慮するのが一般的なので、他の適応である転移去勢抵抗性前立腺癌や非転移去勢抵抗性前立腺癌などにおける分析も発表したほうが良いだろう。p値はそれほど低くないので、もう一本エビデンスが欲しい所だ。

    リンク: JNJのプレスリリース

    【承認申請】


    カルケンスを未治療マントル細胞腫に承認申請
    (2024年10月3日発表)

    アストラゼネカはBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)を未治療のマントル細胞腫に用いる適応追加申請をFDAに行い、受理された。優先審査を受け、審査期限は25年第1四半期とだけ明かされている。第3相ECHO試験で65歳以上の患者を組入れて、bendamustine及びrituximabと併用による6サイクルの導入療法と、維持療法(最初の2年間はrituximab併用)を施行したところ、PFS(無進行生存期間)がメジアン66.4ヶ月とCalquenceの代わりに偽薬を投与した群の49.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.016だった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟で、偽薬群の多くが進行後にCalquenceなどのBTK阻害剤にクロスオーバーしたため便益が稀薄化されている可能性があるが、ハザードレシオは0.86と好ましい方向を指している。

    COVID-19が流行した影響を調整するためCOVID-19関連死をセンサリングすると、PFSはハザードレシオ0.64、全生存期間は0.75と、点推定値が上向くとのこと。本当はもっと効くと考えるべきか、感染症リスクの反映と受け止めるべきか、難しい。

    適応拡大が承認されれば、17年の二次治療における加速承認も本承認に切替えられるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    エンハーツをher2ちょっと発現乳癌に適応拡大申請
    (2024年10月1日発表)

    第一三共とアストラゼネカは、米国でEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の適応拡大申請を行った。切除不能/転移乳癌で転移後に一つ以上の内分泌療法を受けたが化学療法は未だの患者のうち、her2発現度が低(IHC法検査で2+かつISH法検査で陰性、またはIHCで1+)、あるいは極低(IHCで0だが不完全な/かすかな/かろうじて膜染色が認められる)が新たに適応になる見込み。

    エビデンスとなるDESTINY-Breast06試験では、主評価項目であるher2低サブグループ713人のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン13.2ヶ月とcapecitabineなどで治療した群の8.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。探索的解析である極低サブグループ(判定が難しいせいか、治療施設の判定を中央査読)の152人では各群のメジアンPFSが13.2ヶ月と8.3ヶ月と低サブグループと大きな差はなかった。しかし、ハザードレシオは0.78と若干悪化し、症例数が少ないせいか一般的な有意判定閾値には達しなかった。
    >
    IHC法のアウトプットは3+、2+、1+、0の4種類だが、極低は0より大きく1より小さいという新たな小分類だ。3+や2+ですら医療施設の判定とセントラルラボの判定が食い違うことがあるようなので、0と0超1未満を正しく判別することができるのか、という素朴な疑問を持つ。ASCOは1+と0の識別の信頼性にすら疑問を呈している。もしこの点に問題がないようなら、そして、her2極低発現サブグループの全生存期間が失望的なものでなければ、her2治療薬の歴史に新しい局面を切り開くことになる。

    リンク: 両社のプレスリリース


    Darzalex皮下注の4剤併用一次治療を承認申請
    (2024年9月30日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンはDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)をASCT(自家造血幹細胞移植)以外の当初治療を予定する未治療多発骨髄腫に用いる適応・用法追加をFDAに承認申請した。第3相CEPHEUS試験に基づくもので、VRdレジメン(bortezomib、lenalidomide、dexamethasoneの3剤併用)に追加した群は主評価項目であるMRD(微小残存病変、感度10万分の1)陰転率が60.9%と、VRdレジメンだけの群の39.4%を上回り、オッズ比2.37、統計的に有意だった。PFS(無進行生存期間)もハザードレシオ0.57で有意だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    アッヴィ、抗c-MET抗体薬物複合体を承認申請
    (2024年9月27日発表)

    アッヴィはABBV-399(telisotuzumab vedotin、通称Teliso-V)を第2相試験データに基づきFDAに承認申請したと発表した。レセプター・チロシン・キナーゼであるcMETに結合する抗体と微小管重合阻害剤MMAEの抗体薬物複合体で、非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)の25%で見られる、EGFRは野生型のままだがcMETが過剰発現しているタイプを標的とする。成人の治療歴のある患者を組入れたLUMINOSITY試験でc-MET高発現(免疫組織適合性アッセイで腫瘍細胞の50%以上が3+)の78人におけるORR(客観的反応率、独立中央評価)が34.6%(95%下限24.2%)、メジアン反応持続期間は9.0ヶ月、中程度発現(同じく25%以上50%未満が3+)の83人では22.9%(95%下限14.4%)、7.2ヶ月だった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    オプジーボも切除可能非小細胞性肺癌の術前術後投与が承認
    (2024年10月3日発表)

    FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を成人の切除可能(腫瘍が4cm以上でリンパ節陽性)な、EGFR変異やALK再構成のない非小細胞性肺癌に用いることを承認した。摘出術前に白金薬などによる化学療法と併用し、術後は1年間、単剤投与する。第3相CheckMate-77T試験でEFS(増悪事象など無しで生存)のハザードレシオが化学療法だけの群と比べて0.58だった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟だが中間解析で好ましくない傾向は見られていない。

    BMSもプレスリリースを出しているが、FDAのリリースで目を惹くのは、術前投与の有害事象が手術に影響するリスクに言及していること。上記試験で手術のキャンセルに至った症例は12人、Opdivo群の5.3%で、化学療法だけの群の3.5%を上回った。手術が予定より遅れた症例も4.5%対3.9%で若干上回った。

    この指摘で思い起こすのは7月の、アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)に関する諮問委員会で議題に上がった、本当に術前術後両方投与する必要があるのか、というFDAの問題意識だ。ImfinziとOpdivoは既に治験結果が出ているので承認されたが、今後開始される試験は、術前又は術後と術前術後の両方を検討するよう求められるだろう(術前術後は今回で3剤が既に承認されており今更偽薬対照試験はできないだろうが)。

    図表:抗PD-(L)1抗体の非小細胞性肺癌術前/術後試験のサマリー
    介入時期試験名試験薬ハザードレシオ
    術後IMpower-010atezolizumab0.66 (0.50-0.88)
    KEYNOTE-091pembrolizumab0.73 (0.60-0.89)
    ADJUVANT BR.31durvalumab有意差なし
    術前CHECKMATE-816nivolumab0.63 (0.45-0.87)
    術前術後KEYNOTE-671pembrolizumab0.58 (0.46-0.72)
    AEGEANdurvalumab0.68 (0.53-0.88)
    CHECKMATE-77Tnivolumab0.58(0.42-0.81)
    注:ハザードレシオの対象はEFS(無イベント生存期間)またはDFS(無病生存期間)、偽薬対照。ADJUVANT BR.31試験はPD-L1発現>25%のサブグループのDFS。カッコ内は95%信頼区間。
    出所:各種資料より作成。

    リンク: FDAのプレスリリース

    レットヴィモの甲状腺髄様腫適応が本承認
    (2024年9月27日発表)

    FDAはイーライリリーのRET阻害剤、Retevmo(selpercatinib)のRET変異のある進行/転移甲状腺腫における加速承認を本承認に切替えた。2歳以上が適応になる。市販後薬効確認試験のLIBRETTO-531試験で効果をVEGFR阻害剤のcabozantinibまたはvandetanib(医師が選択)を投与する群と比較したところ、PFSのハザードレシオが0.28と大きな差があった。メジアン値は各群、未達と16.8ヶ月。

    レーベルを読んで興味深いのは、副作用の患者評価指標が薬効試験成績の箇所に記載されていること。事前に設定された副次的薬効評価項目である、煩わしい副作用を経験した時間(比率)は各群8%と24%、全く経験しなかった患者の比率は61%と30%だった。有害事象による離脱率が各群4.7%と27%と、忍容性が上回ったことと整合している。

    末期癌におけるQOL調査は概して回収率が低く、信頼性を十分に担保できないことが少なくない。しかし、この試験は被験者290人中222人から、FACT GP5(Functional Assessment of Cancer Therapy item GP5)に基づく回答を取得できた。有害事象データの鏡像に過ぎないと言ってしまえばそれまでなのだが、かってはクリアできなかったFDAのハードルを、乗り越える姿を見るのは感慨深い。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    EMA、5アルファ還元酵素阻害剤の安全性を検討へ 
    (2024年月日発表)

    EMA(欧州薬品庁)は、5アルファ還元酵素阻害剤の自殺思慮/行為リスクに関する検討を開始した。18~41歳の脱毛症の治療薬として承認されているfinasterideの1mg錠とスプレー、良性前立腺肥大の対症療法であるfinasterideの5mg錠とdutasterideの0.5mgカプセルが対象で、まず、製薬会社に保有する情報(有害事象報告、前臨床などの研究成果、自殺思慮/自殺を抑制するための対応など)の提出を求めた。

    両活性成分とも20年以上前に承認され既にGE化している。鬱病など精神面の有害事象リスクは既にレーベルに記載されているが、自殺思慮/行為に言及されているのはfinasterideの1mg錠だけのようだ(どちらもEMAによる中央審査により承認された薬ではないためEMAのサイトには添付文書が掲載されておらず、代わりに、元EU加盟国である英国のEMCサイトで確認)。今回の発議国であるフランスの承認審査機関の調査によると、これまでに自殺・自殺思慮の有害事象報告が468件あり、うち93件は死亡に至った(多くは自殺によるものと推測された)。finasteride服用者の致死例で最も多かったのは1mgだった。

    尚、米国のレーベルには市販後に報告された有害事象として自殺思慮・行為が記されている。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】

    PDUFA
    24/10推ファイザーのmarstacimab(血友病)
    24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
    24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
    24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
    24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
    24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
    24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
    24/11/9アステラス製薬のzolbetuximab(claudin18.2陽性胃・胃食道接合部腺腫)
    24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
    24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
    24/11/27ロシュのRG6114(inavolisib、PIK3CA変異乳癌)
    24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
    24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
    24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
    諮問委員会
    24/10/10CRDAC:Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)
    24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)



    今週は以上です。