【ニュース・ヘッドライン】
- エクソン53スキップ薬を26年に承認申請へ
- ライブリバント・ラズクルーズ併用レジメンはOSでもタグリッソを上回る
- Axsome、過度眠気治療薬は過活動・注意欠如にも有効
- VEGF-C/D結合剤の黄斑変性試験がフェール
- サノフィ、BTK阻害剤を多発性硬化症に承認申請
- MSD、キイトルーダ皮下注を承認申請したらしい
- カボメティクスが膵/膵外NETに適応拡大
- プラダー・ウィリ症候群の過食治療薬が承認
- ほぼ30年ぶりの単純尿路感染症治療薬が承認
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【新薬開発】
エクソン53スキップ薬を26年に承認申請へ
(2025年3月26日発表)
米国マサチューセッツ州ケンブリッジのWave Life Sciences(Nasdaq:WVE)は、WVE-N531の第2相DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)エクソン53スキップ試験の成績を公表した。ジストロフィン量の増加や一部の機能評価面で自然歴を上回る成果を上げた。月一回投与試験などを行って26年に米国で加速承認を申請する考え。承認ならSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のVyondys 53(golodirsen)や日本新薬のViltepso(viltolarsen)とバッティングすることになる。
このFORWARD-53試験はエクソン53スキップ薬が適応になる5~11歳のDMD患者11人に10mg/kgを2週毎投与した。加速承認のベンチマークであるジストロフィン発現量(ウエスタン・ブロット法、muscle content調整値、n=8)は、24週中間時点では正常値の9.0%だったが、48週最終解析では6.4%となった。低下したことになるが、アッセイの誤差範囲が30~35%と大きいため差があるとは言えず、他の試験方法では同程度と見なし得る結果になったようだ。8人中7人は両時点とも5%を超えた。
筋細胞壊死炎症スコアやMCP-1やIL-6のようなサロゲート・マーカーで炎症抑制作用が見られた。歩行可能な10人においてTime-to-Rise(ベースライン値6.2秒)の悪化が2秒強と、自然歴より3.8秒小さかった。
同社は東京理科大学の和田猛教授とその論文に注目したハーバード大学のグレゴリー・バーダインが共同で2008年に設立したキラルジェンが前身。
リンク: 同社のプレスリリース
ライブリバント・ラズクルーズ併用レジメンはOSでもタグリッソを上回る
(2025年3月26日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、第3相MARIPOSA試験の副次的評価項目である全生存期間を第二次中間で達成したと発表した。抗EGFRxMET二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab-vmjw)と第3世代EGFR阻害剤Lazcluze(lazertinib)をEGFRにex19欠損またはL858置換のある局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療に併用する便益を検討したもので、主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)は既に成功し、メジアン23.7ヶ月とアストラゼネカのTagrisso(osimertinib)だけを投与した群の16.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70だった。このデータに基づき米欧で適応拡大が認められている。全生存期間は第一次中間でもハザードレシオ0.80と好ましい方向を向いていたが、第2次では0.75(95%信頼区間0.61-0.92)と更に差が開いた。メジアン値は未達(Tagrisso群は36.7ヶ月)、3年生存率は60%(同51%)。有害事象は爪周囲炎やラッシュ、静脈血栓塞栓、注射箇所反応(Rybrevantは点滴静注用)がTagrisso群より多かった。
アストラゼネカも第3相FLAURA2試験で同様な患者層におけるTagrisso・化学療法併用の便益をTagrisso単剤と比較し、PFS(同上)がメジアン29.4ヶ月(Tagrisso群は19.9ヶ月)、ハザードレシオ0.62と、良好な成績を上げた。全生存の解析は第2次中間でハザードレシオ0.75(95%信頼区間0.57-0.97)と良さそうな数値が出たが、成功認定の閾値をクリアしていない。この併用法も米欧で承認された。
リンク: JNJのプレスリリース
Axsome、過度眠気治療薬は過活動・注意欠如にも有効
(2025年3月25日発表)
米国ニューヨーク州のAxsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、solriamfetolの第3相成人ADHD試験で主目的を達成したと発表した。p値はそれほど低くないので適応拡大申請は難しいのではないかと思われるが、前オーナーであるJazz Pharmaceuticalsばりに、承認しなかったら提訴する覚悟で申請に向かうのだろうか?
solriamfetolはJazzがAerial BioPharmaを通じて韓国のSK Biopharmaceuticalsから日韓中などの地域以外における開発生産販売権を取得し、19~20年に米欧でナルコレプシーや閉塞性睡眠障害による過度の眠気の治療薬Sunosiとして承認取得した。ドパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害などの作用を持つ。売上高は期待外れで21年に5800万ドルに留まったが、Axsomeは適応拡大を視野に22年に資産を取得した。
今回のFOCUS試験は516人を偽薬、150mg(承認用量と同じ)、300mg群に無作為化割付けして一日一回、経口投与し、6週後のAISRS(ADHD Investigator Symptom Rating Scale)総スコアをベースライン値(38~39点)と比較した。300mg群はトレンドに留まったが、150mg群は17.7点低下と偽薬群の14.3点低下を上回った(p=0.039)。150mg群は副次的評価項目の30%削減奏効率(p=0.024)やCGI-S(p=0.017)でも有意差があった。忍容性データは下記プレスリリースには記されていない。
リンク: Axsomeのプレスリリース
VEGF-C/D結合剤の黄斑変性試験がフェール
(2025年3月24日発表)
オーストラリアのOpthea(ASX/Nasdaq:OPT)は、OPT-302(sozinibercept)の第3相滲出型加齢黄斑変性試験がフェールしたと発表した。債権者に返済を求められる可能性があり、継続事業の前提に関する注意を促した。最近は株式売買出来高が少なく、売買停止になりそうなので、今更だろう。
この疾患ではリジェネロン/バイエルの抗VEGF-A/B抗体Eylea(aflibercept)などが普及したが、融合蛋白のOPT-302はVEGF-Cと-Dに結合するので、既存の抗体医薬が作用しないVEGFR-3の活性化も抑制することができる。後期第2相でジェネンテック/ノバルティスのLucentis(ranibizumab)より高い視力改善作用を示し、注目された。第3相COAST試験では抗VEGF抗体に十分応答しない患者約1000人を組入れて、afliberceptと併用で2mgを8週毎または4週毎に硝子体注射する便益を検討したが、52週間でBCVA(最良矯正視力)が各群12.8文字と13.5文字しか改善せず、afliberceptだけの群の13.7文字改善と大差なかった。副次的評価項目も数値が同程度だった。
同社は、開発費提供者たちに対して、開発中止など所定条件が発生した場合は開発を終了して提供額の最大4倍を返済する責務を負っている。契約改定を交渉中とのことだが、どうなることか。
リンク: 同社のプレスリリース
Equillium社、抗CD6抗体のaGvHD試験がフェール
(2025年3月29日発表)
米国カリフォルニア州の新薬開発会社、Equillium(Nasdaq:EQ)は、itolizumabの第3相急性GvHD(移植片対宿主病)試験がフェールしたことを明らかにした。一部の指標では効果の片鱗が窺えたため承認申請に向けてFDAと相談する考えだが、最後の足掻きという印象だ。
活性成分は、Biocon社が2013年にインドでプラク乾癬の治療薬として発売した抗CD6抗体。今回のEQUATOR試験はグレードIII/IVまたは胃腸症状を伴うグレードIIの未治療患者を組入れて、高量ステロイドに追加する便益を偽薬追加と比較した。必要な資金を調達するため小野薬品とライセンス・オプション契約を締結したが、行使されず、200人の組入れ目標を達成しないまま新規組入れを中止していた。
主評価項目の29日完全反応率(n=158)は43.0%で偽薬群の48.1%を上回らなかった。副次的評価項目のORR(客観的反応率)は62.0%対54.4%で上回ったが有意水準には達しなかった。一方、試験薬の投与を受けなかった3人を除外したmodified intent-to-treatベースでは、99日完全反応率が44.9%対28.6%でp=0.035、メジアン完全反応持続期間は336日対72日でp=0.017、カプラン・マイヤー推定による1年生存率は66.7%対49.6%と、ポスト・ホック解析なので有意性はないが、望ましい方向を指している。
本来ならもう一本実施してから申請となるところだが、米国のバイオ企業は手元流動性が低く、同社は第3四半期までの資金しか保有していない。株価は1ドル未満なので公募増資も難しいだろう。可能性が極小であっても、やるだけのことをやってから最期を迎える考えなのかもしれない。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
サノフィ、BTK阻害剤を多発性硬化症に承認申請
(2025年3月25日発表)
サノフィは米国でSAR442168(tolebrutinib)を多発硬化症用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年9月28日。適応症は、成人の非再発性二次進行性多発性硬化症(nrSPMS)の治療と、再発とは無関係に蓄積する障害の遅延。後者は良く分からないが、第3相成績を反映した苦心の作なのかもしれない。欧州でも承認申請中。
20年にPrincipia Biopharmaを買収して入手したBTK阻害剤。第3相はnrSPMSを組入れたHERCULES試験が成功、EDSS(Expanded Disability Status Scale)が一定以上悪化するハザードレシオが偽薬比0.69、6ヶ月内悪化率は26.9%と偽薬群の37.2%を下回った。一方、再発性多発性硬化症を組入れたGEMINI試験二本は、何れも再発抑制効果が同社のAubagio(teriflunomide)を有意に上回らなかった。近年の承認新薬はAubagioを有意に上回るものばかりなので残念な結果だが、二本のプール分析で、EDSS悪化が一定以上悪化するハザードレシオが良い数値だった。結局、二番目の目標適応症は、再発型多発性硬化症の治療に使うと再発がAubagio以外の承認薬ほど大きくは減らないが進行を抑制することはできる、という意味なのだろう。
22年に薬物誘導性肝障害の懸念からFDAだけ治験部分停止命令を発したことがあるが、上記試験は組入れが完了していたため、影響を受けなかった。HERCULES試験ではHayの法則該当例があり、うち1名は肝移植後に死亡した。
リンク: サノフィのプレスリリース
MSD、キイトルーダ皮下注を承認申請したらしい
一部報道によると、MSDは抗PD-1抗体Keytrudaの皮下注用新製剤(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)をFDAに承認申請して受理された。審査期限は25年9月23日。既存の点滴静注用は投与に30分程度かかるが、皮下注は2~3分で終了する。非小細胞性肺癌の薬物動態試験試験で第1サイクルにおけるAUC(曲線下面積)や第3サイクルにおけるCtrough(トラフ濃度)が静注用と非劣性だった。
後者の活性成分は韓国のAlteogen(KOSDAQ:196170)からライセンスしたヒアルロン酸分解酵素で、類薬のライセンス契約を多くの企業と締結しているHalozyme(Nasdaq:HALO)が特許侵害で提訴している。
【承認】
カボメティクスが膵/膵外NETに適応拡大
(2025年3月26日発表)
FDAは、Exelixis(Nasdaq:EXEL)のVEGFR拮抗剤Cabometyx(cabozantinib)を12歳以上の治療歴のある切除不能、局所進行、または転移性の分化膵神経分泌細胞腫(pNET)と、12歳以上の分化膵外神経分泌細胞腫(epNET)に適応拡大した。NCI(米国立衛生研究所)が支援した第3相CABINET試験で前者はPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が13.8ヶ月と偽薬群の3.3ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.22、後者は各8.5ヶ月、4.2ヶ月、0.40だった。
偽薬群の各52%と37%がcabozantinibにクロスオーバーしたことや、死亡者数が所定に達しておらず未成熟であることも影響したか、副次的評価項目である全生存期間の中間解析はハザードレシオが1.0を若干上回っている。PFSを主目的とする偽薬対照試験は、医師が数ヶ月治療しても効果も副作用も出ない患者に不安を感じて前倒しで検査し、進行認定して次の治療に向かうような主観バイアスが発生しないとは言えない。それだけに、急いで投与しても数ヶ月待ってから投与しても余命は同じという結果になったのは残念だ。
米日以外の権利を持つイプセンも欧州で承認申請中。同薬は日本では武田薬品が販売している。
リンク: FDAのプレスリリース
プラダー・ウィリ症候群の過食治療薬が承認
(2025年3月26日発表)
米国カリフォルニア州のSoleno Therapeutics(Nasdaq:SLNO)は、FDAがVykat XR(diazoxide choline徐放錠)を4歳以上のプラダー・ウィリ症候群(PWS)患者における過食傾向の治療薬として承認したと発表した。この適応効能を持つ薬が承認されたのは初めて。
PWSは第15染色体における父性発現遺伝子(父由来のものしか発現しないタイプの遺伝子)の消失が原因で起こる神経発達障害。新生児15000人に一人の希少疾患だ。症状は多様だが、3~4歳のころから過食と関連症状が、成長につれ知的発達障害や成長障害が、表れやすい。胃破裂による死亡リスクもあるようだ。diazoxideは高インスリン血症の治療などに用いられており、インスリンやコルチゾールの分泌を抑制、血糖値や尿酸値、レニン、免疫グロブリンGの増加をもたらす。4歳以上のPWS患者127人を組入れた第3相偽薬対照治療試験はフェールしたが、この試験などの試験薬群の患者を組入れて実施した離脱試験で、継続投与群のHQ-CT(Hyperphagia Questionnaire for Clinical Trials)スコアが16週間で2.6点の悪化に留まり、偽薬にスイッチした群の7.6点悪化を有意に下回った。
体重に応じて最初は25~150mgを一日一回、経口投与し、目標用量の100~525mg一日一回に漸増する。
一部報道によると価格は年46万ドル超とのこと。VykatはComposite特許が補填込みで2034年まで有効の見込みだが、diazoxide自体はGE化しており、服用頻度が一日2~3回で正式には適応外とは言え、巨大な価格差が正当化されるほどのものだろうか。温故知新型超高額新薬が空振りに終わった前例もある。
リンク: 同社のプレスリリース
ほぼ30年ぶりの単純尿路感染症治療薬が承認
(2025年3月25日発表)
GSKはFDAがBlujepa(gepotidacin)を非複雑性尿路感染症の治療薬として承認したと発表した。12歳以上、体重40kg以上の女性における、大腸菌、肺炎桿菌、Staphylococcus saprophyticusなどの感受株によるものが適応になる。1500mgを一日二回、5日間経口投与する。この疾患の治療薬が承認されたのはほぼ30年ぶり。
細菌のDNA複製に関わる二種類の二型トポイソメラーゼを阻害する新規作用機序。第二次トランプ政権前の古き良き時代に政府の補助金を得て開発した。第3相のEAGLE試験二本で臨床的・細菌学的複合奏効率をnitrofurantoinと比較したところ、一本では50.6%対47.0%、もう一本は58.5%対43.6%となり、いずれも非劣性解析が成功、後者は優越性解析も成功した。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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25年3月推 | アッヴィのABBV-399(telisotuzumab vedotin、cMET陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌) |
25/3/27 | Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍) |
25/4推 | JNJのnipocalimab(全身性筋無力症) |
25/4推 | ノバルティスのatrasentan(IgA腎症) |
25Q2 | アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、筋層浸潤膀胱癌) |
25/4/2 | Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ) |
25/4/18 | RegeneronのDupixent(dupilumab、特発性慢性蕁麻疹追加) |
25/4/21 | BMSのOpdivoとYervoy(nivolumabとipilimumab、肝細胞腫一次治療追加) |
25/4/26 | TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤) |
25/4/29 | Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症) |
25/4/29 | Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群) |
今週は以上です。