2025年10月18日

第1129回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、医薬品9品目に迅速審査バウチャを供与 
  • セローノもトランプ政権とディール 
  • ロシュ、抗IL-6抗体の黄斑浮腫試験は一勝一敗に 
  • ESMO:アストラゼネカ、イミフィンジが2本の試験で良績 
  • ESMO:キイトルーダの卵巣癌試験、延命効果も確認 
  • JNJ、抗BCMA・CD3抗体と抗CD38抗体の多発骨髄腫二次治療併用試験が成功 
  • ノバルティス、ファビハルタがIgA腎症試験で臨床的目標も達成 
  • Praxis社の抗振戦薬、中間解析で無益認定も、最終解析が成功 
  • HSV治療薬の第3相が成功 
  • リリー、経口GLP-1作用剤T2D試験がまた成功 
  • ファイザー、her2tk阻害剤の一次治療試験が成功 
  • Regeneron、難聴治療薬の承認申請を計画 
  • JNJ、コンビ薬がBRCA変異転移CSPCに優先審査指定 
  • キエジ、喘息症の三剤合剤を米国でも承認申請 
  • ハンター症候群用薬の承認審査が長引く 
  • CHMPが気管支拡張症用薬などの承認を支持 
  • テゼスパイアが難治慢性副鼻腔炎に適応拡大 
  • 経口セマグルチドもMACE抑制作用が承認 
  • リンヴォクが炎症性腸疾患でTNF阻害剤不適に適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


FDA、医薬品9品目に迅速審査バウチャを供与
(2025年10月16日発表)

FDAは製薬会社9社にCNPV(委員長の国家的優先バウチャ)を供与したと発表した。数ヶ月内に更なる品目を発表する予定とのこと。

CNPVは、国家の重要課題に資する以下のような医薬品について、承認審査期間を1~2ヶ月に短縮するもの。

  • アメリカの公衆衛生上の危機に対応
  • 革新的な治療をアメリカ人に提供
  • 充足されない医療ニーズに対処
  • 国家安全保障を鑑み国内生産を増強

対象9品目で承認申請されたばかりなのは、Disc MedicineのDISC-0974(bitopertin)。9月30日に12歳以上のEPP(X染色体関連のものも含む)に加速承認申請された。申請発表を見落としていたため今更ながら追記すると、EPPは常染色体優性遺伝性疾患で、ヘム変換が進まずプロトポルフェリンが骨髄や赤血球、皮膚などに蓄積し、光線過敏などの症状を示す。2019年にClinuvel PharmaceuticalsのNC1-Rアゴニスト、Scenesse(afamelanotide)が米国で承認されている。bitopertinはヘム生合成に必要なグリシン・トランスポータ1の阻害薬でロシュからライセンスした。臨床試験でプロトポルフェリンIXを減らす作用が見られた。

CNPVの要件として承認申請の60日以上前にCMC(化学、製造、管理)に関する申請資料を提出しなければならない。Disc社は既に提出済みなのだろうか?尤も、CNPVは別の開発品に利用することも可能だ。但し、希少疾患用薬に関する優先審査バウチャと異なり、他社に売却して換金することはできない。

EMD Serono(ドイツのメルクの子会社)のPergoveris(follitropin alfa、lutropin alfa)は生殖補助医療。EUでは07年に承認されているが米国はこれから承認申請する(次項参照)。

サノフィのTzield(teplizumab-mzwv)は抗CD3エプシロン鎖抗体。8歳以上のステージ2の一型糖尿病用薬として22年に承認されているので、対象拡大に関するものだろうか。過去の承認に関するものである可能性もあるが、これをやっていたら切りがないだろう。

Achieve Life Sciences(Nasdaq:ACHV)のcytisiniclineは25年6月に禁煙補助薬として承認申請されているが、FDAの発表文ではニコチン・ベイピング依存症向けと記されているので、電子タバコ依存症に関わるものなのかもしれない。

Regeneron PharmaceuticalsのDB-OTOはotoferlin関連難聴の遺伝子療法。25年末までに承認申請される見込み(下記参照)。

イタリアのDompé farmaceuticiのOxervate(cenegermin-bkbj)は、FDA発表文によると、失明用薬。点眼用の遺伝子組換え型神経成長因子で、米国では18年に神経栄養性角膜炎用薬として承認されている。この疾患は重症化すると失明のリスクが生じるため、リスク抑制作用を確認してレーベル収載申請する考えなのだろうか?

Revolution Medicines(Nasdaq:RVMD)のRMC-6236(daraxonrasib)は癌原性変異を生じたRASの阻害剤。日本も参加する転移性膵管腺癌の第3相などが進行中で、26年に成功すれば承認申請に向かうことになる

残りの二品目は重要な医薬品を国内生産するもの。GSKのAugmentin XRと、メーカーは不明だが全身麻酔用ketamineが対象。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CNPVプログラム開始に関するプレスリリース(6/17付)


セローノもトランプ政権とディール
(2025年10月16日発表)

独メルクの米国子会社であるEMD Seronoは米国大統領の行政命令に呼応して体外受精補助薬全てを直接販売することなどを発表した。ファイザーやアストラゼネカに続いた。

同社はこの医療領域の大手で遺伝子組換え型卵胞刺激ホルモン薬Gonal-F(follitropin alfa)などをラインアップしている。条件を満たす消費者にはリスト・プライスの84%引きで提供する考え。政府が1月にロンチするTrumpRx.govでも販売する考えだ。

上記のように、米国未発売のPergoveris(follitropin alfa、lutropin alfa)も承認申請する予定。遺伝子組換え型卵胞刺激ホルモンと遺伝子組換え型黄体化ホルモンの合剤で、一度に注射できるメリットと、合剤は患者自己負担が小さくなるメリットがある。

米国の製造施設や研究開発に投資することを条件に、トランプ政権が計画している医薬品輸入に関する重課税を回避することでも商務省と合意した。

リンク: 独メルクのプレスリリース

【新薬開発】


ロシュ、抗IL-6抗体の黄斑浮腫試験は一勝一敗に
(2025年10月17日発表)

ロシュはRG6179(vamikibart)の第3相非感染性ブドウ膜炎性黄斑浮腫(UME)試験二本の結果概要をAAO(米国眼科学会)で発表した。一本は2用量群ともシャム(空気を振りかけるだけ)群を有意に上回ったがもう一本はどちらもフェールした。但し、プレスリリースの書き振りでは悲観的な受け止めではないようだ。当局と相談する考え。

抗IL-6抗体で、Fc領域を改変し血中から速やかに消失するように誂えた。4週毎に硝子体注射する。第3相は何れも約250人を組入れて、0.25mg群と1mg群の第16週における奏効率(BCVA(最良矯正視力)が15字以上改善)をシャム群と比較した。MEERKAT試験はシャム群の奏効率との差が各用量19.9%と36.9%となり、いずれもp<0.001だった。一方、日本も参加したSANDCAT試験は各用量20.7%と10.9%となり、有意ではなかった。

ロシュはBCVAという評価尺度の変動性や、患者背景や同時服用薬の多様さが影響した可能性があると指摘している。公表データも変なところがあり、SANDCAT試験における0.25mg群の95%信頼区間はMEERKAT試験とほぼ重なっているのにNS(有意差なし)。1mg群の成績は0.25mg群を下回っているが、p値は0.0699とあと2歩3歩だった。

リンク: 同社のプレスリリース

ESMO:アストラゼネカ、イミフィンジが2本の試験で良績
(2025年10月17日発表)

アストラゼネカはESMO(欧州臨床腫瘍学会)で抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相POTOMAC試験とMATTERHORN試験のデータを発表した。後者の適応は承認申請中、前者も申請するのではないか。

Imfinziは筋層浸潤膀胱癌の切除術術前術後療法としても承認されているが、今回のPOTOMAC試験は膀胱癌の7割を占める筋層非浸潤膀胱癌で、TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)を受けた高リスク患者を組入れて、BCGによる付随療法に1年間追加投与する便益を非盲検下で検討した。追加投与群のDFS(高リスク疾患の再発、進行、または死亡)はBCGだけの群と比べてハザード・レシオ0.68、p=0.0154、メジアン値は両群とも未達で2年DFS率は87%とBCG群の82%を上回った。全生存期間の解析は元々検出力不足であるためか有意水準には達していないものの、点推定値は0.80と好ましい。G3/4有害事象発生率は34%対17%で上回った。

この試験は、Imfinziは術前術後に投与する一方で需給ひっ迫とされるBCGは術前にしか投与しない群も設定されたが、フェールした。

この用途ではファイザーも1月に抗PD-1抗体sasanlimabの第3相CREST試験が成功しており、8月の第2四半期決算発表時に承認申請に進んだことを明らかにした。

もう一本のMATTEHORN試験は、切除可能、早期、または局所進行性の胃・胃食道接合部癌の切除術を受ける患者を組入れて、標準的術前術後療法であるFLOT(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatin、docetaxel)レジメンに追加する便益を検討した。FLOTは術前術後に2サイクルずつ施行するがImfinziの術後は12サイクル。中間解析で主目的のEFS(無イベント生存率、盲検独立中央評価)がハザード・レシオ0.71となり、副次的評価項目の全生存期間も中間解析で0.78、p=0.025と、アルファの0.0001には及ばなかったが好ましいものだった。同社は米欧日で適応拡大申請し、米国は今四半期に審査結果が判明する見込み。

今回、全生存期間の最終解析結果が発表された。ハザード・レシオ0.78、p=0.021と中間解析と大差ないが、アルファ割当ての0.0499をクリアした。3年生存率は69%とFLOTだけの群の62%を上回った。サブグループでは被験者の9割を占めたPD-L1陽性(TAPが1%以上)例でもたった1割の陰性でも点推定値は大差なかった。但し、各種報道によると、ESMOで発表された女性やリンパ節非浸潤、びらん性などのサブグループ分析は点推定値が1前後だったようだ。

リンク: 同社のプレスリリース(POTOMAC試験)
リンク: 同(MATTERHORN試験)


ESMO:キイトルーダの卵巣癌試験、延命効果も確認
(2025年10月16日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相KeyNote-896/ENGOT-ov65試験で全集団における全生存期間の延長も確認したと発表した。米国などで適応拡大申請中なのではないかと推測されるが、エビデンスが強固になった。

この試験は白金抵抗性卵巣癌を組入れて、paclitaxelに偽薬またはKeytrudaを追加(bevacizumab併用も可)する便益を比較したもの。共同主評価項目であるPD-L1陽性(CPS≧1)サブグループ及び全集団のPFS(無進行生存期間、独立データ監視委員会評価)は5月に中間解析で達成した。副次的評価項目の全生存期間もPD-L1陽性サブグループでは達成したが、今回の最終解析で、全集団でも達成した。データは未発表。

リンク: 同社のプレスリリース


JNJ、抗BCMA・CD3抗体と抗CD38抗体の多発骨髄腫二次治療併用試験が成功
(2025年10月16日発表)

ジョンソン エンド ジョンソンは、皮下注用抗BCMA・CD3バイスペシフィック抗体Tecvayli(teclistamab-cqyv)と皮下注用抗CD38抗体Darzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)を1~3次治療歴を持つ難治再発多発骨髄腫の治療に当てる便益を、米国で承認されているDarzalex Faspro及びdexamethazoneとpomalidomideまたはbortezomibを3剤併用するレジメンと比較したところ、主目的のPFSに加えて、全生存期間の中間解析も有意に上回った。データは未発表。

Tecvayliは22年にEUで多発骨髄腫の4次治療薬として、米国では5次治療薬として、24年12月には日本でも標準治療が困難な場合に限定で、単剤投与することが承認されている。用法追加申請するのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース


ノバルティス、ファビハルタがIgA腎症試験で臨床的目標も達成
(2025年10月16日発表)

ノバルティスはFabhalta(iptacopan)が第3相APPLAUSE-IgAN試験で腎機能の悪化を遅らせる効果を示したと発表した。米国では24年8月にサロゲート・マーカーに基づき加速承認されているが、26年に本承認に切替を申請する考え。

Fabhaltaは経口可逆的B因子阻害剤。発作性夜間ヘモグロビン尿症やC3腎症に米欧日で承認されている。今回の試験は標準治療を受けている原発性IgA腎症の成人を組入れて、他剤の承認申請用試験と同様に、9ヶ月時のUPCR(尿蛋白クレアチニン比)改善作用に基づき加速承認を取得、24ヶ月時のeGFR(推算糸球体濾過量)悪化抑制作用に基づき本承認に切替、という狙いだった。

リンク: 同社のプレスリリース


Praxis社の抗振戦薬、中間解析で無益認定も、最終解析が成功
(2025年10月16日発表)

米国の医薬品開発会社、Praxis Precision Medicines(Nasdaq:PRAX)は、PRAX-944(ulixacaltamide) が第3相本態性振戦試験二本で主目的などを達成したと発表した。26年初めに承認申請する考え。第2相はフェール、第3相の一本も中間解析で無益認定されたことを考えると大逆転だ。

振戦に関わるCTC(小脳-視床-皮質)回路における異常神経発火を阻害する、T型カルシウム・チャネル・ブロッカー。第3相Essential 3試験は米国の施設で抗癲癇薬を非服用/1剤のみ服用の本態性振戦患者を8週間の偽薬対照治療試験(スタディ1)と試験薬を全員に8週間投与して応答した患者を偽薬と試験薬に無作為化割付けした4週間の離脱試験(スタディ2)に盲検割付けした。偽薬または60mg(漸増)を一日一回経口投与した。スタディ1の主評価項目はmADL11(日常生活動作改変11項目尺度、0~33点で大きいほど重い)、2は応答維持率。

25年2月、独立データ監視委員会がスタディ1の中間解析に基づいて無益認定したが、解析モデルの前提が妥当でなかった可能性があるため、他の分析方法を探索するよう勧告した。しかし、その時点では組入れがかなり進んでいたことなどから同社は続行を決めた。『葬送のフリーレン』のデンケンを連想するが、醜くとも最後まで足掻くのは新興企業の常である。

スタディ1はmodified intent-to-treatベース(473人中432人)の解析で偽薬群は1.7点低下、試験薬群は4.3点低下でp<0.0001。スタディ2は238人を組入れmADL11が3ポイント以上改善した80人を無作為化割付けしたところ、応答維持率は偽薬群が33%、試験薬群は55%、p=0.037だった。

薬物関連治療時発現有害事象のよる試験離脱率はスタディ1の偽薬群が1.7%、試験薬群は27.0%、スタディ2の試験薬群は28.1%だった。

変なのは、スタディ2の離脱フェーズ組入れ数が導入フェーズの1/3に過ぎないことだ。スタディ1の成績を考えれば5割越えになりそうなものだが、被験者都合を含めて離脱が多かったのだろうか?保守的な観点から、あるいは安全性面の要件を満たすために、薬効確認に必要な人数以上の患者を組入れたのだろうか?

また、離脱試験のp値はそれほどでもない。服用を続けても5割近くは応答が持続しないというのも残念な結果だ。

リンク: 同社のプレスリリース


HSV治療薬の第3相が成功
(2025年10月16日発表)

ドイツのAicuris Anti-infective Cures AGは、AIC316(pritelivir)が第3相PRIOH-1試験で主目的を達成したと発表した。26年に承認申請する考え。

同社は06年にバイエルの感染症薬事業を継承してスピンアウトした。MSDに導出したletermovirが臓器移植後サイトメガロウイルス感染症の予防薬Prevymisとして17~18年に米欧日で承認された実績を持つ。AIC316はヘリカーゼとプライマーゼの複合体を阻害する経口抗ウイルス薬。本試験は免疫が低下した、難治性単純ヘルペス感染症の102人を薬物抵抗性の有無は不問で組入れて、負荷用量400mg、維持用量100mgを治癒または28日経過まで一日一回投与する効果を標準治療薬(foscarnetやcidofovirなどから担当医が選択)と比較した。主評価項目は完治した病変の比率。点推定値等は未発表だが、p値は0.0047だった。

第2相試験論文が14年にNew England Journal of Medicineに刊行されてから11年、抗微生物薬の開発は何と時間がかかることだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


リリー、経口GLP-1作用剤のT2D試験がまた成功
(2025年10月15日発表)

イーライリリーは中外製薬からライセンスした経口GLP-1受容体作動剤、LY3502970(orforglipron)の第3相試験を進めていて、肥満症用途は年内に、二型糖尿病(T2D)向けは26年に、承認申請する計画だ。今回、T2Dの第3相試験二本の結果概要が公表され、残りはあと一本になった。

ACHIEVE-2試験はmetforminだけでは血糖値を十分に管理できない成人患者962人を組入れて、3mg、12mg、または36mgを追加した各群の40週HbA1c(ベースライン値は8.1%)をアストラゼネカのSGLT-1阻害剤dapagliflozin追加群と比較した。intent-to-treatに近いtreatment regimen estimandベースでは各群1.2%、1.5%、1.6%、0.8%低下し、3用量とも統計的に有意に上回った。efficacy estimandベースでは1.3%、1.7%、1.7%、0.8%低下と、似たような結果になった。

ACHIEVE-5試験はinsulin glargineを単独あるいはmetforminやSGLT-2阻害剤と併用で治療しても不十分な成人患者546人を組入れて、上記3用量を追加する便益を偽薬追加と比較した。40週A1c(ベースライン値は8.5%)がtreatment regimen estimandベースで各群1.6%、1.9%、1.8%、0.8%低下し3群とも偽薬を有意に上回った。efficacy estimandベースでは1.5%、2.1%、1.9%、0.8%低下した。この試験はglargineの用量をtreat-to-targetアルゴリズムに即して滴定した。そのためか、偽薬追加群も大きく低下している。

4月に結果発表されたACHIEVE-1試験と同様に、12mgと36mgの群間差はあまり大きくない。注射用GLP-1作用剤と同様に、HbA1c治療における至適用量上限は体重治療のそれより低いようだ。

リンク: リリーのプレスリリース


ファイザー、her2tk阻害剤の一次治療試験が成功
(2025年10月14日発表)

ファイザーは、Tukysa(tucatinib)の第3相HER2CLIMB-05試験がポジティブな結果になったと発表した。データは未公表。適応拡大申請に向かうだろう。第一三共/アストラゼネカのEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)とどちらが良いか、気になるところだ。

23年に買収したSeagenが18年にOncothyreonを買収して入手したher2チロシン・キナーゼ阻害剤。20年に米国でher2標的薬歴を持つ切除不能/転移乳癌用薬として承認され、日本でも今年3月に承認申請された。今回の試験は、her2陽性転移性乳癌で、転移後の初治療としてタクサン系薬、trastuzumab、pertuzumabの3剤併用によるインダクションを受け疾病安定化以上の応答を示した約650人を組入れて、trastuzumabとpertuzumabによるメンテナンス療法に追加する便益を偽薬追加と比較した。主評価項目であるPFS(無進行生存期間、治験医評価)が統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を示した。副次的評価項目である全生存期間の解析は未だ成熟していない。

Enhertuも第3相DESTINY-Breast09試験が成功しているが、インダクション・フェーズを別建てにしないオーソドックスなデザインになっているため、データを見比べるのは難しい。メンテナンス期は3剤併用ではなく2剤併用なので、薬代は少なくなる(はず)。

リンク: ファイザーのプレスリリース


Regeneron、難聴治療薬の承認申請を計画
(2025年10月12日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は、otoferlin変異型難聴の遺伝子療法であるDB-OTOの治験論文がNew England Journal of Medicineのホームページで電子刊行されたこと、及び、年内に承認申請すべくFDAと相談することを発表した。

otoferlinは内耳の蝸牛で変換された電気信号を聴覚神経に伝達する上で重要な役割を果たす蛋白。米国の新生児のうち、年に20~50人ほどは、otoferlinのOTOF遺伝子の機能喪失変異により先天的難聴を示す。最重度の場合は蝸牛インプラントを施行するが完全な回復には至らないようだ。DB-OTOはOTOF遺伝子と細胞選択的に発現を促すMyo15プロモータをアデノ随伴ウイルス・ベクターで導入するもの。

欧米の施設で実施されている第1/2相CHORD試験で12人に施行したところ、12人中9人が応答した。応答の定義は、第24週のPTA(行動純音聴力検査)でdBHL(デシベル聴力水準)平均閾値が70を下回ること。3人は正常な聴力感度を示した。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Valayannopoulosらの治験論文抄訳(NEJM)

【承認申請】


JNJ、コンビ薬がBRCA変異転移CSPCに優先審査指定
(2025年10月16日発表)

ジョンソン エンド ジョンソンはFDAがAkeega(niraparib、abiraterone acetate)がBRCA変異陽性転移CSPC(去勢感受性前立腺癌)に関して優先審査指定されたと発表した。EUのように申請に先立つわけではないので、適応拡大申請していたのだろう。EUでは7月に適応拡大申請している。

日本以外の市場で前立腺癌における権利を持つPARP1/2阻害剤と自社開発のCYP17阻害剤Zytigaの活性成分の合剤。23年に欧米でBRCA変異陽性の転移去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認された。適応拡大は第3相AMPLITUDE試験に基づくもの。今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)での発表によると、BRCA変異を持つサブグループ191人の解析でPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)のハザード・レシオがZytiga比0.52だった。全生存期間の中間解析は有意水準に達していない。G3/4有害事象発生率は75%対59%で上回った。

リンク: JNJのプレスリリース


キエジ、喘息症の三剤合剤を米国でも承認申請
(2025年10月15日発表)

イタリアのChiesi Farmaceuticiの米国法人は、成人喘息症の維持療法用3剤配合薬を米国で承認申請し受理されたと発表した。コルチコステロイドのbeclometasone dipropionate、ベータ2作用剤formoterol fumarate、そして抗コリン薬glycopyrrolateを一度に吸入できるpMDI(加圧噴霧式定量吸入器)製品。EUで17年にCOPD向けに、21年には今回の申請と同じTRIMARAN試験とTRIGER試験に基づき喘息症向けに、承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


ハンター症候群用薬の承認審査が長引く
(2025年10月13日発表)

米国カリフォルニア州のDenali Therapeutics(Nasdaq:DNLI)はDNL310(tividenofusp alfa)をハンター症候群(MPS II型)用薬としてFDAに承認申請し、加速承認審査を受けているが、審査期限が26年1月5日から4月5日に3ヶ月延期された。FDAに要請されて薬理学的情報を追加提出したことが申請内容の主要な変更と見做されたようだ。薬効や安全性、バイオマーカーに関わるものではないとのこと。

DNL310はハンター症候群で欠乏するiduronate 2-sulfataseの補充療法で、血管脳関門のtransferrin receptorやCD98 heavy chain amino acid transporterに結合するFc領域を付加することにより血管脳関門透過性を高めている。第1/2相試験で脳脊髄液ヘパラン量が正常またはそれに近い水準に低下した。臨床的便益を武田薬品のElaprase(idursulfase)と比較する第2/3相COMPASS試験も進行中。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMPが気管支拡張症用薬などの承認を支持
(2025年月日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

インスメッドが申請したBrinsupri(brensocatib)は可逆的DPP1阻害剤。12歳以上の、過去12ヶ月間に2回以上の増悪を経験したNCFB(非嚢胞性線維症気管支拡張症)に1日1回経口投与する。日本も参加した第3相ASPEN試験で10mg群も25mg群も肺の増悪リスクを偽薬比20%抑制した。米国では8月に承認。日本でも年内申請見込み。16年にアストラゼネカからライセンスしたもの。

リンク: EMAのプレスリリース

サノフィのWayrilz(rilzabrutinib)は経口可逆的共有結合性BTK阻害剤。成人の、前治療に十分応答しない免疫性血栓性血小板減少症に用いる。日本も参加した第3相LUNA3試験で持続的血小板反応率が23%と、偽薬群のゼロを上回った。CHMPによると、特にコルチコステロイド且つ又スロンボポイエチン受容体作動剤と併用した時に高い効果を示す。8月に米国で承認。日本でも10月に承認申請された。20年にPrincipia Biopharmaを買収して入手したコンパウンド。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、否定的意見となったのはサノフィのRezurock(belumosudil)。免疫細胞の分化や細胞線維化に関与するリン酸化酵素、ROCK2の阻害薬で、12歳以上体重40kg以上の慢性移植片対宿主病(cGvHD)の二次治療薬として承認申請された。CHMPは、実薬対照試験が実施されていないこと、他剤併用が可能で試験薬単独の効果が判別し難いこと、承認審査中に一次治療試験が無益中止になったこと、2030年4月までに市販後追加試験の結果報告が見込めず条件付き承認の条件も満たさないことなどを重視した。

サノフィは権利を持つKadmonを買収して入手、21年に米国で、24年には日本でもMeiji Seikaファルマが、承認を取得しているので意外。

リンク: EMAのプレスリリース

9月に新薬承認申請が撤回されたのは、フランスのLaboratoire Aguettantが24-28週早産児の気管支肺異形成症用薬として申請したHydrocortisone Aguettant。CHMPは、薬効のエビデンスが10年以上前の臨床試験論文であることや、そのデザインや実施方法が十分に適切ではないこと、敗血症や脳室内出血、深刻胃腸副作用などが発生していることなどから、便益が危険を上回るとは言えないと考えていた。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大や剤形・投与方法追加も支持された。

  • BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel):成人のBTK阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ難治/再発マントル細胞腫。米国では5月に承認。
  • CStone Pharmaceuticals(基石薬業)の抗PD-L1抗体Cejemly(sugemalimab):成人の切除不能ステージIII非小細胞性肺癌における白金ベース化学放射線療法後維持療法。但し、EGFR阻害剤やALK、ROS1に特定の変異を持たずPD-L1陽性である場合。中国では22年に承認。米国は偽薬ではなく抗PD-(L)1抗体対照試験を求められたため申請を断念。
  • ロシュのGazyva(obinutuzumab):成人のISN/RPS 2003年分類でクラスIII(巣状ループス腎炎)またはIV(びまん性ループス腎炎)(クラスV(膜性ループス腎炎)複合例も可)の活性期ループス腎炎にmycophenolate mofetilと併用。米国の審査期限は今月。
  • Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab):皮膚扁平上皮腫の摘出術と放射線療法を終えた高リスク成人の付随療法。米国では今月承認された。
  • アストラゼネカのSaphnelo(anifrolumab):21~22年に米日欧で承認された中重度全身性エリテマトーデス用薬。点滴静注用に加えて、皮下注用の承認が支持された。第3相で症状が偽薬比有意に改善した。
  • Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat):22年に米欧でピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬として新薬承認され、今回、成人の輸血依存又は非依存のアルファ/ベータ・サラセミアに用いることが支持された。新規格の100mgフィルムコート錠を用いる。米国は審査期限が12月7日に延期された。
  • ノバルティスのScemblix(asciminib):フィラデルフィア染色体陽性の慢性期慢性骨髄性白血病に承認されているが、3次以降限定の解除が支持された。ASC4FIRST試験に基づくもので、米国では24年10月に加速承認、日本でも5月に承認された。

以下の2件については過去の判断が継続された。

  • テバのVMAT-2阻害剤Austedo(deutetrabenazine):1日1回投与型製品が6月に成人の中重度遅発性ジスキネジア用薬として肯定的意見を得たが、既に承認されている活性成分の水素分子を重水素分子に置換してあるものの、薬効や安全性などが異なるという証左がないため、新規活性成分とは認められなかった(。認められればGE化を10年間防ぐことができる)。テバは再審請求したが結論は変わらなかった。米国では17年に1日2回投与型製剤が、23年には1日1回投与型製剤が、承認されている。
  • ファイザーのOxbryta(voxelotor):22年に鎌状赤血球用薬として承認したが、効能追加試験二本で死亡や血管閉塞性クリーゼに群間の偏りが発生、24年9月にCHMPが暫定的な承認停止をEMAに勧告、同月、ファイザーは全世界で全ロット回収を決めた。今回、CHMPは暫定的承認停止の継続を勧告した。

【承認】


テゼスパイアが難治慢性副鼻腔炎に適応拡大
(2025年10月17日発表)

アストラゼネカとアムジェンはFDAがTezspire(tezepelumab-ekko)を12歳以上の管理不良CRSwNP(鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎)に適応拡大を承認したと発表した。第3相試験でポリープや鼻詰まりが偽薬比有意に改善し、手術が適応になった患者も少なかった。抗TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子)抗体で、21~22年に米欧日で管理不良喘息症に承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース


経口セマグルチドもMACE抑制作用が承認
(2025年10月17日発表)

ノボ ノルディスクはFDAが二型糖尿病薬Rybelsus(semaglutide)の効能追加を承認したと発表した。日本も参加した第3相SOUL試験に基づくもので、成人の二型糖尿病でMACE(主要有害心血管事象)のリスクが高い患者のリスクを偽薬比14%抑制した。同活性成分の皮下注用製品も別の試験に基づき承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


リンヴォクが炎症性腸疾患でTNF阻害剤不適に適応拡大
(2025年10月13日発表)

アッヴィはFDAがJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)の適応拡大を承認したと発表した。リウマチ性関節炎など多くの疾患で承認されているが、全身性治療歴のある中重度活性期炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)のうち、TNF阻害剤に不応不耐だけでなく、臨床的に推奨されない患者にも使うことが可能になった。

リンク: 同社のプレスリリース


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate点眼、進行性近視)
25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫再承認)
25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)
25/11推Fondazione TelethonのTelethon 003(etuvetidigene autotemcel、Wiskott-Aldrich症候群)
25/11推ノバルティスのLOU-064(remibrutinib、慢性特発性蕁麻疹)
25/11推ノボ ノルディスクの経口semaglutide(肥満症、25mg追加)
25/11推ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、二型糖尿病の末梢動脈疾患追加)
25/11推Biohaven PharmaceuticalのBHV-4157(troriluzole、脊髄小脳失調症)
25/11推田辺三菱製薬のND0612(levodopa、carbidopa、パーキンソン病)
25/11推Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab、皮膚扁平上皮腫追加)
25/11推バイエルのBAY 2927088(sevabertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
25/11推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、胃・胃食道接合部腫瘍における周術期療法を追加)
25/11/18Arrowhead PharmaceuticalsのARO-APOC3(plozasiran、家族性カイロミクロン血症)
25/11/28ビステラ(大塚製薬子会社)のsibeprenlimab(IgA腎症)
25/11/30Kura OncologyのKO-539(ziftomenib、急性骨髄性白血病)
25/11/30Ascendis PharmaのTransCon CNP(navepegritide、軟骨無形成症)
25/11/30ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-bysp、濾胞性リンパ腫2次治療を追加)
25/12推Intra-Cellular TherapeuticsのCaplyta(lumateperon、鬱病アジュバントを追加)
25/12推ノボ ノルディスクのSogroya(somapacitan、低出生体重児等に適応拡大)
25/12推ノバルティスのOAV101 IT(onasemnogene abeparvovec髄腔内投与、脊髄性筋萎縮症)
25/12/5BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、辺縁帯リンパ腫追加)
25/12/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
25/12/11GSKのGSK2140944(gepotidacin、淋病)
25/12/12LIB TherapeuticsのLIB003(lerodalcibep、高脂血症)
25/12/13Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍)・
25/12/14アムジェンのUplizna(inebilizumab-cdon、重症筋無力症追加)
25/12/15Innovivaのzoliflodacin(淋病)
25/12/16GSKのGSK3511294(depemokimab、好酸球性喘息症と慢性副鼻腔炎)
26/12/16Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
25/12/20Rhythm Pharmaceuticalsのsetmelanotide(後天的視床下部性肥満症)
25/12/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
25/12/26OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)
25/12/26CytokineticsのCK-3773274(aficamten、閉塞性肥大性心筋症)
25/12/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
25/12/30Concert TherapeuticsのCORT-125134(relacorilant、クッシング症候群)
25/12/30Vanda Pharmaceuticalsのtradipitant(乗り物酔い)



今週は以上です。

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