2025年10月11日

第1228回

【ニュース・ヘッドライン】

  • アストラゼネカもトランプ大統領の要請に応える 
  • アルファ線照射薬が第2相で良績 
  • アストラゼネカ、アルドステロン合成酵素阻害剤の第3相がまた成功 
  • ダトロウェイのTNBC試験が成功 
  • 制御性T細胞に注目した幹細胞移植法を承認申請 
  • リブタヨがCSCC術後アジュバントに適応拡大 
  • 10年ぶりのIPF新薬が承認 
  • カービクティの枠付き警告を追加 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


アストラゼネカもトランプ大統領の要請に応える
(2025年10月10日発表)

トランプ米国大統領は、5月に、医薬品メーカーに薬価を先進国で最低の水準に抑える最恵国待遇(MFN)を求め、7月には、大手17社に書簡を送付して以下の4点を要請したところ、ファイザーに続いて、今回、アストラゼネカも全ての受け入れを表明した。他社も追随するだろう。

  • メディケイド患者にMFN価格を提供する
  • 他の先進国が新薬の価格統制を行って、米国におけるイノベーションにタダ乗りしないよう努める
  • 大統領のアメリカ・ファーストという貿易政策により増加する海外収入を米国患者に還元する
  • 米国患者に直接販売する場合に大きな値引きを行う

アストラゼネカのプレスリリースは以下の施策にも言及している。

  • 条件を満たす患者に慢性疾患用処方薬のリスト・プライスを最大80%ディスカウント
  • TrumpRx.govプラットフォーム(患者に直接販売するインターネット・サイト)に参加
  • 米国で販売する薬品のすべてを米国で生産できるようにするため、輸入関税の3年間猶予を受ける
  • 向こう5年間に米国における製造・研究開発に500億ドルを投じる計画を発表済み
  • ヴァージニア州で体重管理・代謝領域や抗体薬物複合体の製造施設を着工したところ

3番目は英語が変だが、不慮の事態で完遂できなくなるリスクに配慮した記述なのかもしれない。

尚、ホワイト・ハウスのリリースは直接購入者が受けるディスカウントについて具体例を挙げている。

  • COPD用薬Bevespi Aerosphere(glycopyrronium、formoterol fumarate)はディール価格の654%引き
  • COPD用薬Breztri Aerosphere(budesonide、glycopyrrolate、formoterol fumarate)は同98%引き
  • 喘息症用薬Airsupra(albuterol、budesonide)は同96%引き

ディール価格とは何を意味するのだろうか?信じられない値引き率だが、値引き前の価格が想像できなかったら意味がない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: ホワイト・ハウスの『Fact Sheet』

【新薬開発】


アルファ線照射薬が第2相で良績
(2025年10月8日発表)

サノフィとフランスのOrano Medは、AlphaMedix(SAR447873、Pb212-DOTAMTATE)が第2相AlphaMedix-02試験で良好な成績を出したと発表した。データはESMO(欧州臨床腫瘍学会、10/17-21)で発表する。承認審査機関と協議する考え。

放射性核種の銅-212をソマトスタチン受容体に結合するペプチドと結合した、ノバルティスのLutathera(lutetium Lu 177 dotatate)と似たような局所性放射線療法だが、核種が異なりベータ線ではなくアルファ線を局所的に放射する。2015年、フランスの原子力事業の一翼を担うOranoがAreva、放射性医薬子会社がAreva Pharma名だった頃に、米国のRadioMedixと共同開発、昨年9月にサノフィにグローバルな開発販売権を供与した。製造はOrano Med。

この第2相試験はソマトスタチン系薬による治療歴を持つソマトスタチン受容体陽性の切除不能/転移GEP-NETs(膵消化管神経内分泌腫瘍)61人を組入れて。8週おきに4サイクル施行する便益を検討した。主評価項目はORR(客観的反応率)。24年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で、放射性核種による治療歴を持つサブグループ36人におけるORRが56%であったことが公表されている。G3/4有害事象の発生率は58%、深刻有害事象発生率は31%だった。

Lutatheraは第3相ソマトスタチン系薬対照試験に基づいて承認を取得しており、もしAlphaMedixが今回の試験で承認されるとしたら、放射性核種による治療歴を持つ患者のサルベージ用途だけではないか。

リンク: サノフィのプレスリリース


アストラゼネカ、アルドステロン合成酵素阻害剤の第3相が二本目も成功
(2025年10月7日発表)

アストラゼネカはbaxdrostatが第3相BAX24試験で主目的などを達成したと発表した。データは11月のAHA(米国心臓協会)で公表する予定。利尿剤を含む3種類の降圧剤を服用してもASBP(24時間血圧計による平均最大血圧)が130mmHg以上の抵抗性高血圧症患者218人に偽薬または2mgを一日一回、経口で12週間、追加投与したところ、統計的に有意かつ高度に臨床的に意味のある改善が見られた。心筋梗塞などのリスクが高まりがちな朝の血圧管理も良好だった。

7月には日本も参加した第3相BaxHTN試験の成功も発表された。管理不良/治療抵抗性(2種類/3種類併用しても座位最大血圧が140mmHg以上)高血圧患者に12週投与したところ、座位最大血圧が偽薬群は5.8mmHg、1mg群は14.5mmHg、2mg群は15.7mmHg低下した。他にも複数の試験が進行中だが、アストラゼネカは承認申請を考えている様子だ。ミネラリス セラピューティクス(Nasdaq:MLYS)が田辺三菱製薬からライセンスしたlorundrostatを26年頃に承認申請する見込みなので、出遅れないようにしないといけない。

baxdrostatはロシュのRO6836191をライセンスしたCinCor Pharmaを23年に買収して入手したもの。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


ダトロウェイのTNBC試験が成功
(2025年10月6日発表)

第一三共はDatroway(datopotamab deruxtecan-dlnk)の第3相TROPION-Breast02試験で主目的を達成したと発表した。データは未公表。

TROP2に結合する抗体とトポイソメラーゼ阻害剤をリンカーで繋げた抗体薬物複合体。24~25年に日米欧でホルモン受容体陽性、her2陰性切除不能/転移乳癌における内分泌療法/化学療法の次の手段として承認された。今回の試験は局所再発切除不能/転移トリプル・ネガティブ乳癌の一次治療を受ける、抗PD-(L)1抗体不適の患者644人を組入れて、化学療法と比較した。共同主評価項目である全生存期間とPFS(無進行生存期間)が統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を見た。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)

【承認申請】


制御性T細胞に注目した幹細胞移植法を承認申請
(2025年10月6日発表)

米国カリフォルニア州のOrca Bio(未上場)はOrca-TをFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は26年4月6日。

通常の他家造血幹細胞移植と異なり、制御性T細胞を高度に単離して、初日に造血幹細胞と共に移植して免疫バリアを形成させた上で、48時間後に通常のT細胞を通常の他家造血幹細胞移植より少量、移植することで、慢性移植片対宿主病(cGVHD)リスクを抑制する。第3相Precition-T試験に急性骨髄性白血病や高リスク骨髄異形成症候群などの患者187人(メジアン43歳)を組入れて、骨髄破壊的前処理後にtacrolimusと投与したところ、1年無cGVHD生存率が78%と、標準的な他家造血幹細胞移植をtacrolimusおよびmethotrexateとともに施行した群の38%を上回り、ハザード・レシオは0.26だった。副次的評価項目の全生存期間はまだ中間解析段階で有意差が出ていないが、1年生存率が各群94%と83%、ハザード・レシオは0.49と好ましい方向を向いている。中重度cGVHD発生率は各群13%と44%だった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


リブタヨがCSCC術後アジュバントに適応拡大
(2025年10月8日発表)

FDAはRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)のLibtayo(cemiplimab-rwlc)の適応拡大を承認した。皮膚扁平上皮腫(CSCC)の外科的切除および術後放射線療法を受けた、再発リスクの高い成人患者に350mgを3週毎投与する。第3相C-POST試験の中間解析でDFS(無再発生存期間)の偽薬比ハザード・レシオが0.32、2年DFS率は87%、偽薬群は64%だった。Lybtayoは抗PD-1抗体だがPD-L1の発現が1%未満の陰性患者でも陽性サブグループと大差ない効果が見られた。G3以上の有害事象発現率は24%、偽薬群は14%。

リンク: FDAのプレスリリース


10年ぶりのIPF用薬が承認
(2025年10月7日発表)

FDAはベーリンガー・インヘルハイムのPDE4阻害剤、Jascayd(nerandomilast)を成人の特発性肺線維症(IPF)用薬として承認した。10年超ぶりの新薬。進行性肺線維症でも申請中。欧州や日本でも両適応症に申請中。

18mgを12時間おきに経口投与する。不耐なら9mgに半減可(但し、ロシュのEsbriet(pirfenidone)併用下では相互作用により9mgでは効果が発揮されない)。第3相試験と第2相試験でFVCが偽薬比有意に低下した。主要副次的評価項目であるIPF増悪/呼吸器因入院/死亡は18mg群が偽薬比ハザードレシオ1.17、9mg群は1.03、全死亡は同0.66と0.95で、何れも有意ではなかった。

有害事象は下痢など。代謝がCYP3A4に依存するため、中強度インデューサーは併用禁忌、強阻害剤併用時は用量を9mgに半減する。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


カービクティの枠付き警告を追加
(2025年10月10日発表)

FDAはCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)のレーベル改訂を承認したと発表した。枠付き警告にIEC-EC(免疫イフェクター細胞関連小腸大腸炎)を追加すると共に、臨床成績セクションにCARTITUDE-4試験における延命データを掲載するもの。

Legend Biotechがジョンソン エンド ジョンソン・グループのJanssen Biotechと共同開発販売しているBCMA標的型CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法。枠付き警告は、他に、サイトカイン放出症候群、ICANS(免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群)、パーキンソン症状やギランバレー症候群、血球貪食症候群やマクロファージ活性化症候群、血球減少症、二次性血液がんのリスクが列挙されている。

IEC-ECは臨床試験や市販後有害事象報告で下痢や腹痛などが報告されている。支持的療法や非経口栄養に加えてステロイドなど免疫抑制措置が必要になる。腸穿孔や敗血症を合併し死亡した症例もある。治療しても改善しない場合はT細胞リンパ腫の除外診断を行う。

ポジティブな材料は、成人の1~3次治療歴を持ちlenalidomide抵抗性の多発骨髄腫患者を組入れたCARTITUDE-4試験の、事前に予定されていた第2次中間解析で、全生存解析が成功したこと。Carvyktiの米国ウェブサイトには未だ新しいレーベルが掲示されていないので昨年9月の会社発表を参照すると、メジアン34ヶ月の追跡で実薬対照群(PVdレジメン=pomalidomide+bortezomib+dexamethasoneまたはDPdレジメン=daratumumab+pomalidomide+dexamethasone)比ハザード・レシオが0.55(95%信頼区間0.39-0.79)だった。カプラン・マイヤー・カーブは当初の1年間は対照群を上回ると報じられているので、解釈が難しいが、厳格な統計学を当てはめる傾向のあるFDAが認めたのだから、比例ハザード・モデルの前提がどうのこうの言う必要はないのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate点眼、進行性近視)
25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫再承認)
25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)
25/11推JNJのTremfya(guselkumab皮下注、潰瘍性大腸炎)
25/11推Fondazione TelethonのTelethon 003(etuvetidigene autotemcel、Wiskott-Aldrich症候群)
25/11推ノバルティスのLOU-064(remibrutinib、慢性特発性蕁麻疹)
25/11推ノボ ノルディスクの経口semaglutide(肥満症、25mg追加)
25/11推ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、二型糖尿病の末梢動脈疾患追加)
25/11推Biohaven PharmaceuticalのBHV-4157(troriluzole、脊髄小脳失調症)
25/11推田辺三菱製薬のND0612(levodopa、carbidopa、パーキンソン病)
25/11推Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab、皮膚扁平上皮腫追加)
25/11推バイエルのBAY 2927088(sevabertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
25/11推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、胃・胃食道接合部腫瘍における周術期療法を追加)
25/11/18Arrowhead PharmaceuticalsのARO-APOC3(plozasiran、家族性カイロミクロン血症)
25/11/28ビステラ(大塚製薬子会社)のsibeprenlimab(IgA腎症)
25/11/30Kura OncologyのKO-539(ziftomenib、急性骨髄性白血病)
25/11/30Ascendis PharmaのTransCon CNP(navepegritide、軟骨無形成症)
25/11/30ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-bysp、濾胞性リンパ腫2次治療を追加)
25/12推Intra-Cellular TherapeuticsのCaplyta(lumateperon、鬱病アジュバントを追加)
25/12推ノボ ノルディスクのSogroya(somapacitan、低出生体重児等に適応拡大)
25/12推ノバルティスのOAV101 IT(onasemnogene abeparvovec髄腔内投与、脊髄性筋萎縮症)
25/12/5BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、辺縁帯リンパ腫追加)
25/12/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
25/12/11GSKのGSK2140944(gepotidacin、淋病)
25/12/12LIB TherapeuticsのLIB003(lerodalcibep、高脂血症)
25/12/13Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍)・
25/12/14アムジェンのUplizna(inebilizumab-cdon、重症筋無力症追加)
25/12/15Innovivaのzoliflodacin(淋病)
25/12/16GSKのGSK3511294(depemokimab、好酸球性喘息症と慢性副鼻腔炎)
26/12/16Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
25/12/20Rhythm Pharmaceuticalsのsetmelanotide(後天的視床下部性肥満症)
25/12/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
25/12/26OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)
25/12/26CytokineticsのCK-3773274(aficamten、閉塞性肥大性心筋症)
25/12/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
25/12/30Concert TherapeuticsのCORT-125134(relacorilant、クッシング症候群)
25/12/30Vanda Pharmaceuticalsのtradipitant(乗り物酔い)



今週は以上です。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。