2017年12月24日

2017年12月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • タシグナのレーベルに止め時が記載 
  • エーザイ/バイオジェン、中間解析は何もなし 
  • セルジーン、レブラミドのリンパ腫試験がフェール 
  • 新種の分子標的抗癌剤が承認申請 
  • AlnylamもhATTRアミロイドーシス治療薬を欧州申請 
  • ノバルティス、braf阻害剤とMEK阻害剤を黒色腫アジュバント用に適応拡大申請 
  • 参天のブドウ膜炎治療薬は審査完了に 
  • FDAがSpark社の遺伝子療法を承認 
  • FDA、アンジオテンシンIIを承認 
  • 新作用機序の緑内障用薬が米国で承認 
  • またまたSGLT2阻害剤が承認 
  • オプジーボ、黒色腫切除後アジュバント療法に適応拡大 
  • パージェタ、高リスク限定で乳癌切除後アジュバントに適応拡大 
  • ボシュリフ、一次治療に適応拡大承認 
  • アレセンサ、欧州でも一次治療承認 
  • ICSにLABAを併用しても支障はない 


【今週の話題】


タシグナのレーベルに止め時が記載
(2017年12月22日発表)

医薬品は使い方によって毒にも薬にもなるので何時、どのような患者にどのように投与するか、使い方に関する情報が極めて重要だ。もう一つ、治癒する疾患以外は止め時も重要なはずだが、教えてくれる人はいない。製薬会社にとっては患者が服用し続けるほうが都合がよいからだろう。

患者が少なく大きな需要は期待できなくても価格を高くすれば開発費を回収できる。腫瘍学でこの命題を証明したのがノバルティスの慢性骨髄性白血病(CML)薬、Gleevec(imatinib、和名グリベック)だ。ノバルティスによると、当時のCEOで妹を白血病で失ったDaniel Vasellaが開発部門の反対を押し切って開発を進めた。発売当時は私も大きな期待はしていなかったが、米国でCMLによる死亡者が減少するなど大きな成果を上げ、年商も超大型化した。

問題は、高価な薬をいつまで飲み続けなければならないのか、分からないことだ。研究者主導で様々な研究が行われたが、遂に、ノバルティスがGleevecの次に発売したTasigna(nilotinib、和名タシグナ)で、止め方に関する情報が米国のレーベルに記載された。

慢性期CMLで3年間治療を続け、所定の成果を上げた患者は服用を止めることができる。但し、定期的に検査を受ける必要がある。臨床試験では、止めた患者の1年無再発率は5割前後だった。

答えが自分に都合が良かろうが悪かろうが、情報があること自体が重要だが、それはそれとして、半々となると悩ましい。再発リスクと金銭や副作用面の負担を天秤にかけて当否を判断することになるのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

【新薬開発】


エーザイ/バイオジェン、中間解析は何もなし
(2017年12月21日発表)

エーザイとバイオジェンは、BAN2401の後期第二相早期アルツハイマー病試験の中間解析が行われが成功認定基準は満たされなかったと発表した。最終解析結果は来年後半にまとまる見込み。アルツハイマー病試験は成功確率が低いので、失望的だが意外感は小さい。

BAN2401はプロトフィブリルを標的とするヒト化モノクローナル抗体。脳細胞に悪影響を与えるのはアミロイドベータモノマーではなく可溶性アミロイドベータプロトフィブリルだという研究成果に立脚する。スエーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンス社からエーザイが開発販売権を取得。バイオジェンはエーザイと複数のアルツハイマー病パイプラインを共同開発している。

今回の試験は、アルツハイマー性軽度認知障害または軽度アルツハイマー病の患者856人をBAN2401の5種類の用量用法に割付けて症状改善効果を検討するもの。アダプティブ・デザインが採用されており、途中で成績をチェックして良い群の割付けを増やしていく。二重盲検を維持しなければならないので、評価・割付けはスポンサーや医療従事者には知らせないはずである。

中間解析はADCOMSという新しい評価スケールを用いてベイジアン解析を行った。ADCOMSは、アルツハイマー病の代表的な病状評価スケールであるADAS-cog、CDR-SB、MMSEの構成項目の中から、感受性の高いものを過去の治験データに基づいて発掘し組み合わせたもの。後ろ向き研究なので、今回の前向き試験で仮説の妥当性を検証することになるだろう。アダプティブ・デザインやADCOMSの採用で、臨床試験に必要な症例数や期間を2~3割削減する狙いがあるようだ。

ベイジアン解析は、AとBを単純に比較するのではなく、違いが一定以上であるという仮説を検証する。通常の解析は、治療効果が小さくてもサンプル数を多くすれば統計的に有意という結論を導くことができる。治験論文の読者は、統計的には有意だが臨床的には無意と呟くことしかできない。ベイジアン解析なら、臨床的に意味のあるハードルを設定することができる。今回の試験では12ヶ月間のADCOMSの悪化が偽薬比25%以上小さいという仮説が真であるベイズ確率が80%以上なら成功、とされた。

最終解析はADCOMSやCDR-SBなどの18ヶ月間の変化を評価する。

アミロイド仮説に基づくコンパウンドの臨床試験は、ほとんど壊滅状態と言って良い状態だ。物事が上手く行かない時は勝負する戦域以外ではリスクを取らないのが賢明だ。局面を複雑にすると失敗した時に敗因が明確にならないからだ。今回の試験も、オーソドックスなデザインを採用すべきではなかったか、というのが私の感想だ。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: 201試験の治験登録
リンク: ADCOMSに関する論文(Wangら、J Neurol Neurosurg Psychiatry、オープンアクセス)

セルジーン、レブラミドのリンパ腫試験がフェール
(2017年12月21日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)を濾胞性リンパ腫の一次治療併用療法に用いる第三相試験、RELEVANCEがフェールしたことが発表された。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の維持療法試験もフェールしており、どうも芳しくない。偽薬対照試験も行われているので結果が注目される。

今回の試験は、Rituxan(rituximab)と併用する効果をR-CHOPなどの標準療法と比較したもの。共同主評価項目である寛解率(CR/CRu)も進行抑制延命効果(PFS)もフェールした。但し、少なくとも、標準療法より有意に劣ってはいなかった。

Revlimidはサリドマイドと同様にIMiDs(免疫調停薬)と呼ばれる抗癌剤で、多発骨髄腫や骨髄異形成症候群、マントル細胞リンパ腫に承認されている。

リンク: セルジーンのプレスリリース

【承認申請】


新種の分子標的抗癌剤が承認申請
(2017年12月20日発表)

Loxo Oncology(Nasdaq:LOXO)は、米国でLOXO-101(larotrectinib)のローリング承認申請を開始した。ニューロンの制御などに係るTRK(tropomyosin receptor kinase)を阻害する経口剤で、適応は、レガンドの刺激なしで活性化するNTRK融合蛋白陽性の成人・小児がん。米国の癌の0.5~1%、1500~5000人が該当するとのことだ。

発生部位は特定されていないが、臨床試験では唾液腺癌、幼児線維肉腫、甲状腺腫、結腸癌、肺癌、黒色腫、紡錘細胞肉腫、胆管癌、筋周皮腫などの患者が比較的多かった。NTRK融合蛋白陽性率が比較的高いのは唾液腺癌や分泌乳癌。

臨床試験ではORR(客観的反応率)が76%、うち完全反応12%、部分反応64%だった。小児試験ではORRが93%。有害事象は神経認知性副作用や好中球減少症、悪心、肝機能検査値異常など。

Loxoは先月、バイエルとの提携を発表した。頭金4億ドル、承認に係る達成報奨金が6.5億ドル、米国外の売上高に係る達成報奨金が5億ドル、開発費は折半という大きなもので、バイエルは米国で共同販促、海外は単独販売する。

リンク: Loxoのプレスリリース

AlnylamもhATTRアミロイドーシス治療薬を欧州申請
(2017年12月18日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)とサノフィ子会社であるジェンザイムは、ALN-TTR02(patisiran)を遺伝性トランスサイレチン調停アミロイドーシス(hATTR)の治療薬として欧州で承認申請したと発表した。加速審査を受けることが既に決まっている。米国でも今月、ローリング承認申請が完了。日本でもジェンザイムが申請準備中。

hATTRはトランスサイレチンの遺伝子に変異があり組織に沈着して神経細胞などにダメージを与える。罹患者は世界に5万人と推測されている。ALN-TTR02はトランスサイレチン遺伝子のmRNAを標的とするsiRNA(RNA介入)薬で、発現を妨げる。第三相試験では神経症状評価スコアやQOLが改善し、偽薬群の悪化と対称的な結果になった。

リンク: 両社のプレスリリース

ノバルティス、braf阻害剤とMEK阻害剤を黒色腫アジュバント用に適応拡大申請
(2017年12月22日発表)

ノバルティスは、Tafinlar(dabrafenib)とMekinist(trametinib)の二剤を併用で黒色腫の切除後アジュバント療法に用いる適応拡大を米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は公表されていない。

夫々braf阻害剤とMEK1/2阻害剤で、転移性黒色腫などに併用することが承認されている。適応拡大の根拠となる第三相試験では、BRAF V600変異を持つステージIIIの黒色腫を完全切除した患者を組入れて再発予防効果を検討したところ、再発または死亡のハザードレシオが0.47と偽薬群より有意にリスクを削減した。全生存期間のハザードレシオも0.57、p=0.0006と、アルファの配布が小さく有意水準には達しなかったものの、数値的には良好な結果になった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


参天のブドウ膜炎治療薬は審査完了に
(2017年12月21日発表)

参天製薬はDE-109(sirolimus)を非感染性後眼部ブドウ膜炎治療薬として欧米で承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領した。有効性の裏付けが不十分と判定された模様だ。欧州も昨年5月に否定的評価を受け、申請撤回となった。当時のCHMPのリリースによると、単群試験で示された薬効が不明確であり、また、生産工程における減菌方法に懸念がある。

リンク: 参天のプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


FDAがSpark社の遺伝子療法を承認
(2017年12月19日発表)

FDAは、Spark Therapeutics(Nasdaq:ONCE)のLuxturna(voretigene neparvovec-rzyl)を両アレル性のRPE65変異関連網膜ジストロフィーの治療薬として承認した。患者に直接投与する遺伝子療法としては初。米国の一部の医療施設で来年、治療が開始される予定。欧州でも承認審査中。難病で治療やケアの費用が嵩むことから、100万ドルと著しく高い価格が付けられる見込み。

両アレルRPE65変異関連網膜ジストロフィーは、光を電気信号に変える過程に係るRPE65蛋白に変異があり、視力が弱い。米国の推定患者数は1000~2000人。Luxturnaは増殖能を持たないアデノ随伴ウイルスにRPE65の遺伝子を組入れた遺伝子療法で、1.5x10の11乗vg(ベクターゲノム)を片目ずつ、網膜下注射する。

臨床試験では、暗い部屋で矢印などに従って歩行する能力が偽薬比有意に改善した。評価方法が新しく治療効果は1.6点程度であったため諮問委員会が招集されたが、委員は臨床的に重要な差と判定した。

Sparkは希少小児疾患優先審査バウチャーを獲得する。患者が少ないため大きな売上を見込み難い希少小児疾患用薬の開発を促進するための制度で、次回承認申請する時に優先審査を受けることができる。転売も可能で、3.5億ドルの値が付いたこともあるが、最近は1.3億ドル程度が相場のように見える。

同社はフィラデルフィア小児病院(CHOP)の遺伝子治療研究を商業化するため2013年に設立された会社。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Sparkのプレスリリース

FDA、アンジオテンシンIIを承認
(2017年12月21日発表)

FDAは、La Jolla Pharmaceutical Company(Nasdaq:LJPC)のGiapreza(angiotensin II)を敗血症などの血液分布異常性ショックの治療薬として承認した。エピネフィリンやカテコラミンに十分に反応しない患者の三次治療に用いる。

La Jollaによると、米国では血液分布異常性ショックが年80万件発生し、うち30万件が三次治療の対象になるとのこと。審査期限が来年2月末であったためか、発売は来年3月の予定。

La Jollaは2000年代に全身性エリテマトーデス腎症用薬の開発がフェールし、会社清算に向けて株主総会を招集したり、逆合併を画策したりしたこともあったが、何とか立ち直ることが出来そうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: La Jollaのプレスリリース

新作用機序の緑内障用薬が米国で承認
(2017年12月18日発表)

Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)は、FDAがRhopressa(netarsdil mesylate)を緑内障治療薬として承認したと発表した。点眼用Rhoキナーゼ阻害剤で、小柱網による眼房水排出を促進する。臨床試験では一日二回投与もテストしたが忍容性があまり良くなかったため一日一回だけが実用化された。眼圧が26mmHg以上の患者は、代表的な緑内障降圧剤であるtimololを一日二回投与するのと比べて効果が不十分になる。

latanoprost配合剤のRoclatanも開発中で米国では18年に承認申請する計画。

リンク: Aerieのプレスリリース

またまたSGLT2阻害剤が承認
(2017年12月22日発表)

MSDとファイザーは、FDAがSteglatro(ertugliflozin)を二型糖尿病治療薬として承認したと発表した。SGLT2阻害剤で血液中のグルコースを尿とともに排出させる。metformin配合剤やMSDのDPP4阻害剤であるsitagliptin配合剤も同時に承認された。

同じ作用機序の製品が既に数多く存在し今更の感があるが、MSDはsitagliptinの販売チャネルを生かせる強みがある。SGLT2阻害剤とDPP4阻害剤の合剤は米国で初。元々はファイザーのパイプラインだが、MSDが利益の6割を得る形で開発販売提携(日本は除く)を結んだ。

リンク: MSDのプレスリリース

オプジーボ、黒色腫切除後アジュバント療法に適応拡大
(2017年12月20日発表)

BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を黒色腫完全切除後のアジュバント(再発予防)に用いる適応拡大が米国で承認された。リンパ節転移が適応になる。238試験のエビデンスに基づくもので、18ヶ月後のRFS(無再発生存率)が66.4%と、既承認薬であるYervoy(ipilimumab)の52.7%を有意に上回リ、ハザードレシオは0.65(95%信頼区間0.53-0.80)だった。

リンク: BMSのプレスリリース

パージェタ、高リスク限定で乳癌切除後アジュバントに適応拡大
(2017年12月21日発表)

ロシュは、FDAがPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)をher2陽性早期乳癌の切除後アジュバント療法として化学療法やHerceptin(trastuzumab)と併用する適応拡大を承認したと発表した。リンパ節転移やホルモン受容体陰性などの高リスク患者が適応になる。

エビデンスであるAPHINITY試験では、侵襲的乳癌再発・死亡のハザードレシオが0.81(95%信頼区間0.66-1.00)、p=0.045とギリギリ有意だった。3年無再発生存率は94.1%対93.2%と1ポイント改善するだけで物足りない。サブグループ分析ではリンパ節転移ありのハザードレシオが0.77、なしは1.13、ホルモン受容体陰性は0.76、陽性は0.86だったため、高リスク患者限定となった。

リンク: ロシュのプレスリリース

ボシュリフ、一次治療に適応拡大
(2017年12月19日発表)

ファイザーは、Bosulif(bosutinib、和名ボシュリフ)を慢性骨髄性白血病の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。臨床試験で12ヶ月時点のMMR(分子遺伝学的大寛解)達成率が47.2%と、同じsrc/abl阻害剤で一次治療薬として承認されているimatinibの36.9%を有意に上回った。再発治療は500mgを一日一回、経口投与するが、一次治療は400mg一日一回。

Bosulifはファイザーが買収したワイスの開発品。一次治療適応拡大は臨床試験の資金拠出や実施も含めてAvillion社にアウトソースしており、承認に伴い達成報奨金を支払う。

リンク: ファイザーのプレスリリース

アレセンサ、欧州でも一次治療承認
(2017年12月21日発表)

ロシュは、Alecensa(alectinib、和名アレセンサ)をALK陽性局所進行性・転移性非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。中外製薬が創製したALK阻害剤で、ファースト・イン・クラスであるファイザーのXalkori(crizotinib)の次に使う薬としてデビューしたが、日本で実施された一次治療直接比較試験が成功、今回の承認につながった。米国では11月に適応拡大承認。

リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


ICSにLABAを併用しても支障はない
(2017年12月20日発表)

FDAは、喘息症の代表的な発作予防法である吸入ステロイド(ICS)と長期作用性ベータ2作用剤(LABA)の併用療法に関して、喘息関連死リスクに関する枠付き警告を解除すると発表した。ICSだけより発作予防効果が高いものの、いざ発生したら症状が重く死亡リスクも高まるのではないかという懸念があったが、メーカーが実施した大規模試験により、懸念が払拭された。

具体的には、4本の試験合計35000人規模のメタアナリシスで、深刻な喘息関連イベント(死亡、気管挿管、入院)の発生数が併用群は116例、ICS単剤群は105例、ハザードレシオ1.10(95%信頼区間0.85-1.44)で、数値上は上回りリスクが1.43倍である可能性は否定されていないものの、有意に上回ってはいなかった。個々のイベントでは、入院が115例対105例、死亡が2例対ゼロ、気管挿管が1例対2例だった。

ICS/LABA併用が喘息のステップアップセラピーの一つとして普及する中、あたかも都市伝説であるかのように忘れ去られつつあった長年の懸案事項が解決した。いつものことながら、FDAの粘り強さには敬服する。

リンク: FDAの安全性情報







今週は以上です。

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2017年12月17日

2017年12月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • シャイアー、ロシュの血友病薬を特許侵害で提訴 
  • ASH:bcl-2阻害剤併用がCLLに好成績 
  • ASH:ロシュのCD79b標的ADCがリンパ腫に好成績 
  • ロシュ、テセントリクとアバスチンの腎癌試験成功 
  • キイトルーダ、胃癌実薬対照試験がフェール 
  • イーライリリー、片頭痛予防薬を承認申請 
  • リジェネロンも抗PD-1抗体の承認申請を開始 
  • BMS、腎癌のオプジーボ・ヤーボイ併用療法を承認申請 
  • MSD、キイトルーダをPMBCLに適応拡大申請 
  • CHMP、武田や協和発酵などの新薬に肯定的意見 
  • ヌーカラ、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に適応拡大 
  • ゼルヤンツ、乾癬性関節炎に適応拡大 


【今週の話題】


シャイアー、ロシュの血友病薬を特許侵害で提訴
(2017年12月14日発表)

英国のシャイアー社は、11月に米国でA型血友病の出血予防薬として承認されたHemlibra(emicizumab)がシャイアーの'590特許を侵害するとしてジェネンテックと中外製薬を提訴するとともに、販売を禁じる予備的差止め命令の申立てを行った。

薬は命や健康に係るのでもし特許侵害が認められてもロイヤルティ支払いなど金銭的賠償で和解するのが通例だが、可能性としてはジェネンテックが販売できなくなる事態も考えられる。このため、シャイアーは患者に対する影響を熟慮した上での決断と釈明している。

シャイアーは、裁判所の決定が出るのは来年夏ごろと予想しているようだ。同社が指摘するように、それまでは直接的な影響はないが、混乱を避けるためにHemlibraを使うのを先送りするようなことは十分に考えられる。

リンク: シャイアーのプレスリリース

【新薬開発】


ASH:bcl-2阻害剤併用がCLLに好成績
(2017年12月12日発表)

ロシュは、Venclexta(venetoclax、欧州名Venclyxto)の第三相CLL(慢性リンパ性白血病)試験の結果をASH(米国血液学会)で発表した。良好な内容で、ロシュは適応追加申請する予定。

2~4次治療を受ける患者を組入れて標準治療の一つであるRituxan(rituximab)とbendamustineの併用群とRituxanとVenclextaの併用群のPFS(無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオが0.17(95%信頼区間0.11-0.25)と大きく改善した。メジアン値は標準療法群が17.0ヶ月、試験薬群は未達。

全生存期間の解析は未成熟で有意性は持たない模様だが、ハザードレシオ0.48(95%信頼区間0.25-0.90)なので問題はない。G3/4有害事象は白血球減少症が増加したが熱性のものは二剤併用より少なかった。

Venclextaはジェネンテックとアッヴィが共同開発した選択的bcl-2阻害剤。16年に欧米で再発難治性CLLのモノセラピーとして承認された。米国は二社が共同で、海外はアッヴィが販売する。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASH:ロシュのCD79b標的ADCがリンパ腫に好成績
(2017年12月10日発表)

ロシュは、RG7596/DCDS4501A(polatuzumab vedotin)の第二相試験の結果もASHで発表した。再発難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で造血幹細胞移植に適さない患者を組入れて、標準療法の一つであるRituxanとbendamustineの併用と、更にRG7596も使うトリプルセラピーを比較したところ、完全反応率が各15%と40%、p=0.012となった。

全生存期間の探索的解析も、ハザードレシオ0.35(95%信頼区間0.19-0.67)、メジアンは各4.7ヶ月と11.8ヶ月と順調なもの。G3/4の有害事象は熱性白血球減少症など骨髄抑制が増加した。

B細胞性リンパ腫に特異的に発現するCD79bに結合するADC(抗体薬物複合体)で、B細胞受容体と共にインターナライズして細胞内でMMAE細胞毒を放出する。シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)の技術を用いて開発したもの。上記の用途・用法で米国ではブレークスルー・セラピー指定、EUでもPRIME指定を受けている。

11月に第三相入りした。CD20陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一次治療を受ける患者を組入れて、標準的な5剤併用療法であるR-CHOPと、R-CHOPのvincristineに代えてRG7596を併用するレジメンのPFSを比較する。2021年にデータベースロックの見込み。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、テセントリクとアバスチンの腎癌試験成功
(2017年12月11日発表)

ロシュは、局所進行性転移性腎細胞腫の一次治療第三相試験であるIMmotion151試験のPFS解析が成功したと発表した。データは今後、学会発表の予定。適応拡大申請に向かうのではないか。

抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)と抗VEGF抗体Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)の併用を標準療法であるファイザーのSutent(sunitinib)と比較したところ、主評価項目の一つであるPD-L1陽性サブグループのPFSが有意に延長した由。もう一つの主評価項目である全ユニバースの全生存期間はデータが未成熟とのこと。

Avastinはインターフェロン・アルファと併用で腎癌一次治療に承認されている。メジアンPFSは10.2ヶ月とインターフェロン・アルファだけの群の5.4ヶ月を上回り、ORR(客観的反応率)も30%対12%で上回った。後述のようにBMSのOpdivoを使うレジメンもSutentを大きく上回った。151試験のデータが発表された段階で見比べることになる。

リンク: ロシュのプレスリリース

キイトルーダ、胃癌実薬対照試験がフェール
(2017年12月14日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の第三相061試験がフェールしたことを発表した。PD-L1陽性胃癌の二次治療における延命効果をpaclitaxelと比較したが、全生存ハザードレシオは0.82(95%信頼区間0.66-1.03)と惜しくも届かなかった。共同主評価項目であるPFSもフェールした由。

Keytrudaは9月に米国でPD-L1陽性胃癌の三次治療薬として承認されたが、薬効のエビデンスは第二相試験のORR(客観的反応率)なので頑強ではない。061試験が補強的裏付けになることが期待されたが駄目だった。一次治療試験も進行中なのでこちらに期待することになる。

抗PD-1/PD-L1抗体は様々な癌の臨床試験が行われているが、球数が増えれば当りだけでなく外れも増える。百発百中の特効薬ならともかく、効く効かないの境界線はあやふやなので、ちょっとの違いでボールがアウトと判定されてしまう。Keytrudaは頭頚部癌でも薬効確認試験の一つがフェール。Tecentriqは最初の適応である膀胱癌の薬効確認試験がフェールした。BMSのOpdivoの肺癌試験がフェールしたことも大変意外だった。これからも七転び八起きで進んで行くのだろう。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


イーライリリー、片頭痛予防薬を承認申請
(2017年12月11日発表)

イーライリリーは、LY2951742(galcanezumab)を片頭痛予防薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。CGRP(calcitonin gene-related peptide)を中和する抗体医薬で、月一回皮注。第三相試験では、月間の片頭痛日数が偽薬比2日前後、少なかった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

リジェネロンも抗PD-1抗体の承認申請を開始
(2017年12月13日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィは、米国でREGN2810(cemiplimab)のローリング承認申請を開始した。抗PD-1抗体で、適応は局所進行性転移性皮膚扁平上皮腫。承認されている薬はなく、ブレークスルー・セラピー指定を受けている。薬効のエビデンスは第二相試験で、独立委員会査読による客観的反応率(ORR)が46.3%だった。

リンク: サノフィのプレスリリース

BMS、腎癌のオプジーボ・ヤーボイ併用療法を承認申請
(2017年12月13日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を併用で局所進行性転移性腎細胞腫の一次治療に用いる適応拡大を承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年4月16日。

214試験に基づくもので、ORRが41.6%と標準療法であるSutent(sunitinib)を投与した群の26.5%を有意に上回り、反応持続期間も上回った。一方、共同主評価項目であるPFSの解析はメジアン11.6ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオ0.82(95%信頼区間0.64-1.05)で、有意ではなかった。

この試験は中間全生存解析データに基づいてデータ監視委員会が成功認定した。中重度リスク・サブグループのハザードレシオは0.63、全ユニバースでも0.68となっており、PFSと整合性に欠けるものの、もしどちらも正しいのだとしたら、重視すべきは全生存期間だろう。

リンク: BMSのプレスリリース

MSD、キイトルーダをPMBCLに適応拡大申請
(2017年12月11日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)を再発難治性PMBCL(原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫)に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。審査期限は来年4月3日。

薬効のエビデンスは同種幹細胞移植歴を持つ、あるいは不適な患者29人を組入れた小規模な第二相試験。第三者委員会査読によるORRが41%(完全反応24%)で、ブレークスルー・セラピー指定された。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、武田や協和発酵などの新薬に肯定的意見
(2017年12月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会議で、以下の新薬に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース

Alofisel(darvadstrocel、開発コードCx601)はベルギーのTiGenix(Euronext Brussels:TIG)が開発した脂肪由来の幹細胞療法。幹細胞療法として初承認となる見込み。非・軽度活性期管腔クローン病の成人の、複雑肛囲瘻の二次治療に用いる。第三相試験では寛解率が50%と、偽薬群の34%を有意に上回った。作用機序はリンパ球の増殖や炎症促進的サイトカインの放出の抑制と考えられている。主な有害事象は膿瘍、瘻孔、肛門周囲痛、処置痛など。

欧州など米国外のこの用途での開発販売権は武田薬品が保有している。米国での承認申請は、今年ロンチされた別の第三相試験の結果を待って行う考え。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース(pdfファイル)

Crysvita(burosumab、開発コードKRN23)は協和発酵キリンがUltragenyx Ph'cal(Nasdaq:RARE)と共同開発した抗FGF23完全ヒト化モノクローナル抗体。X染色体遺伝性低リン血症で、骨疾患の放射線学的裏付けのある筋骨格成長期の1歳以上の青少年に用いる。成人の第三相も行われたはずだが、承認された適応は限定的だ。

条件付き承認で、薬効や安全性を確認するため3本の追加試験を実施して2020年までにEMAに提出する。

リンク: EMAのプレスリリース

ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide)は週一回投与型GLP-1作用剤。二型糖尿病の血糖治療に用いる。体重も低下する。心血管アウトカム試験で良い成績を上げた。経口剤も開発中。米国では今月、承認された。日本は今月の第一部会に上程されたが継続審議となった。

リンク: ノボのプレスリリース

英国のDiurnal Group(AIM:DNL)のAlkindi(hydrocortisone)は幼小児や青年の原発性副腎機能不全の治療に用いる。活性成分は50年前から成人青年患者の治療に用いられている。幼児には錠剤を破砕して投与するが、用量が不安定で苦みが出るため飲み残しの心配もある。Alkindiは顆粒でカプセルを開けて量を調整することもできるため便利。

特別に小児用に開発された、特許保護を受けられない医薬品を対象とするPUMAという制度が適用され、10年間の独占権が与えられる。来年下期に発売される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Diurnal社のプレスリリース

適応拡大では、イーライリリーの中重度乾癬治療薬、Taltz(ixekizumab)を乾癬性関節炎の治療に用いることが支持された。DMARDs(疾病装飾的抗リウマチ薬)に十分に反応しない、あるいは不耐の活性期患者に用いる。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


ヌーカラ、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に適応拡大
(2017年12月12日発表)

FDAはグラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を難治性EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、旧称チャーグ・ストラウス症候群)の治療に用いる適応拡大を承認した。EGPAはしばしば成人になってから好酸球増多型喘息症を発症するので既存の適応である好酸球増多型の喘息症と似ている。臨床試験では24週寛解率が28%と偽薬群の3%を上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

ゼルヤンツ、乾癬性関節炎に適応拡大
(2017年12月14日発表)

ファイザーは、FDAがXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)を中重度乾癬性関節炎に適応拡大したと発表した。DMARDs(疾病装飾的抗リウマチ薬)に十分反応しない活性期患者に用いる。リウマチ性関節炎に承認されているJAK阻害剤で、インターロイキンの受容体の細胞内シグナル伝達を阻害、免疫反応を抑制する。経口剤で、一日二回服用のオリジナルの製剤と一日一回のXRがある。

並行して潰瘍性大腸炎にも適応拡大申請されているが、ファイザーが追加データを提出したため、審査期限が来年3月から6月に延期された。

免疫抑制剤は癌や感染症に対する免疫も弱めるので長期的な安全性を十分に検討して、適応毎に便益と比較する必要がある。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: 同(潰瘍性大腸炎の審査期間延長。12/12付け)






今週は以上です。

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2017年12月10日

2017年12月10日


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO IO:テセントリクの肺癌化学療法併用試験が成功 
  • ロシュ、Hemlibraは月一回投与でも足りる 
  • SABCS:ファイザーのPARP阻害剤も乳癌試験成功 
  • SABCS:ノバルティス、CDK4/6阻害剤の閉経前乳癌試験が成功 
  • イムブルビカ、ワルデンストレームマクログロブリン血症のリツキサン併用試験が成功 
  • サイラムザ、胃癌一次治療は承認申請見送り 
  • サノフィ、クロストリジウム・ディフィシル・ワクチンの開発を中止 
  • Clovis、PARP阻害剤を適応拡大申請 
  • ノボ、週一回型GLP-1作動剤が承認 
  • 大日本住友、米国でネブライザ用LAMAが承認 
  • アバスチンが神経膠腫に本承認 
  • 抗PD-1/PD-L1抗体とiMiDの併用問題について(フォローアップ) 
  • フィリピンがデング熱ワクチンのリコールを要求 


【新薬開発】


ESMO IO:テセントリクの肺癌化学療法併用試験が成功
(2017年12月7日発表)

ロシュの抗PD-L1抗体、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower150試験の結果がESMO IO(欧州臨床腫瘍学会免疫腫瘍学)会議で発表された。非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用試験で、類薬ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)が同様な患者を対象とした第1/2相試験で良い結果を出し米国で適応拡大が認められたが、キチンとした第三相試験で延命効果を確認したのは今回が初めて。ロシュは適応拡大申請する考え。

内容は如何にもロシュで、対照群(C群)はcarboplatinとpaclitaxelだけでなくAvastin(bevacizumab)も使う三剤併用。試験薬群(B群)は更にTecentriqも使う四剤併用で、この二群の比較がメインになっている。但し、非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療におけるAvastin採用率は欧米で20~30%、日本でも50%以下に留まっていることを考慮したのか、Avastin以外の三剤を併用する群(A群)も設定された。

もう一つのロシュらしさは、抗PD-1/PD-L1抗体の応答予測因子としてよく用いられるPD-L1発現だけではなく、イフェクターT細胞の活動性を示唆するCXCL9やインターフェロン・ガンマのmRNA発現度合いも評価するTeff指標を用いたプリスクリーニングの有効性を検討したこと。主解析は4種類あり、評価項目がPFS(無進行生存期間、担当医評価)と全生存期間の二種類、ユニバースが被験者のうちALK/EGFR変異のない患者(ITT-WT)と、そのうちTeffが平均以上の患者(高Teff-WT)の二種類のマトリクスとなっている。

ESMO IO会議ではPFSの解析結果が発表された。ITT-WTはハザードレシオ0.62(95%信頼区間0.52-0.74)、p<0.0001。メジアン値は四剤併用群が8.3ヶ月、三剤併用が6.8ヶ月なので大差ないが、免疫療法によくあるパターンで、時間が経過するにつれて違いが大きくなっていく。ロシュも心得ていて、7~8ヶ月時点ではなく1年経過時点の無進行生存率が37%対18%とダブルスコアであったことをプレスリリースで主張している。

高Teff-WTの解析も成功した。ハザードレシオ0.505、メジアン11.3ヶ月対6.8ヶ月なのでこのタイプの方がよく効くように見えるが、低Teff-WTの解析でも95%上限が1を下回っており、プリスクリーニングに使えるようには見えない。PD-L1発現も手掛かりになりそうには見えない。更に、ALK/EGFR変異型もPFSが延長した。結局、この試験のデータを見る限りでは、プリスクリーニングする必要はなく万人に何らかの便益があるということになる。

全生存期間の解析は未成熟だがITT-WTのハザードレシオは0.775、95%上限は0.970、p=0.0262、メジアン生存期間は19.2ヶ月対14.4ヶ月となっており、今のところ良好。このまま行けば18年上期に予定されている中間解析で有意差が出ても不思議はない。

上記のKeytrudaの021試験では、PFSのハザードレシオが0.53、メジアンは13.0ヶ月対8.9ヶ月で、Tecentriqより良い数字だが、標準療法群(Avastinは使わない)の数値がIMpower150試験より良いので、被験者の背景に違いがあるかもしれない。全生存期間のハザードレシオは0.59でここでも良い数字が出ているが、サンプル数が少ないせいか、有意差は出ていない。

米国はこの試験の反応率のデータなどに基づき適応拡大を承認したが、EUは懐疑的で申請撤回となった。数値は良いがエビデンスとしての頑強性に難がある、と言えるだろう。

さて、IMpower150試験で意外だったのは、Tecentriqとcarboplatin、paclitaxelのA群のデータだ。C群(Avastin、carboplatin、paclitaxel)と比べてPFSハザードレシオが0.936で大差なし、ORR(客観的反応率)も各49%と48%で大差なし、全生存もハザードレシオ0.884、メジアン17.9ヶ月で大差なかった。試みに四剤併用群と見比べるとメジアン生存期間の差は1ヶ月余に過ぎず、四剤併用ではなくTecentriq、carboplatin、paclitaxelの三剤で足りるのではないかと思わざるを得ない。

四剤併用は有害事象による治験離脱率が33%とC群の25%、A群の14%より高く、治療関連深刻有害事象発生率も各25%、19%、19%となっており、忍容性が見劣りする。更に、薬剤費も大きく膨らむ。副作用や財務面のコストに見合う便益があるのか、評価が難しい。

この試験でTeffによるスクリーニングを重視したのは、おそらく、過去の第二相、第三相でPFSに有意差が出なかったからだろう。全生存期間の解析は二本とも成功したが、結果が出るまで時間がかかるし、他社の類薬と差別化するには斬新な切り口が欲しいところだ。だが、Teffも、TC/ICも、OAK試験と異なり有効ではなかった。もし有効なら、費用対効果がもっと良くなっていたかもしれないが、残念なことだ。

Tecentriqは尿路上皮細胞腫や非小細胞性肺癌の再発治療に単剤投与する用途で欧米で承認されている。日本でも非小細胞性肺癌(PD-L1発現は不問)に承認申請され、第二部会を通過したところ。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、Hemlibraは月一回投与でも足りる
(2017年12月7日発表)

中外製薬が開発した血液凝固第IX因子と第X因子を架橋する二重特異性抗体、Hemlibra(emicizumab-kxwh)はインヒビターを持つA型血友病の出血予防薬として11月に米国で承認されたところだが、インヒビターを持たない患者を組入れた試験に続いて、今回、両方を組入れて皮注頻度を週一回ではなく4週間に一回に減らしたHAVEN 4試験が成功したことを海外のライセンスを持つ親会社のロシュが発表した。

A型血友病で頻繁に出血する患者は第X因子をルーチン投与して予防する。持効性製剤が続々と発売されたが、皮注で、しかも月一回で足りるなら大きなセールスポイントになりそうだ。

NEJM誌にSpark TherapeuticsがPfizerと共同開発している遺伝子療法の治験論文が刊行された。血友病の治療は着々と進歩しているようだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

SABCS:ファイザーのPARP阻害剤も乳癌試験成功
(2017年12月8日発表)

ファイザーの経口PARP阻害剤、talazoparibの第三相局所進行性・転移性乳癌試験が成功したことがSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で発表された。

生殖細胞系BRCA1/2変異を持つ、ホルモン受容体陽性且つher2陰性、あるいはトリプルネガティブの乳癌に対する効果を実薬(capecitabine、eribulin、gemcitabine、vinorelbineの中から担当医が選択)と比較したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.54(95%信頼区間0.41-0.71)、p<0.0001と、有意に優れていた。

効果はホルモン受容体陽性、陰性を問わず、トリプルネガティブに対しても良好な結果だった。前治療の数にも影響されなかったとのこと。深刻な有害事象の発生率は31.8%対29.4%と若干増えたが、有害事象による治験離脱率は7.7%対9.5%で若干少なかった。ファイザーは、承認審査機関と相談する考え。

talazoparibaは、16年に140億ドルで買収したメディベーション社のパイプラインで、元々はバイオマリン社から資産買収したもの。

リンク: ファイザーのプレスリリース

SABCS:ノバルティス、CDK4/6阻害剤の閉経前乳癌試験が成功
(2017年12月6日発表)

ノバルティスのCDK4/6阻害剤、Kisqali(ribociclib)の第三相閉経前乳癌試験、MONALEESA-7の成功がSABCSで発表された。ホルモン受容体陽性、her2陰性の患者を組入れて、卵胞ホルモン抑制剤goserelinとエストロゲンブロッカー(tamoxifenまたはアロマターゼ阻害剤)を併用する対照群と、更にKisqaliも投与する群を比較したところ、PFSのハザードレシオが0.553(95%信頼区間0.44-0.69)、メジアン値は対照群の13.0ヶ月に対して23.8ヶ月と、有意に改善した。

有害事象による試験離脱は各3.0%と3.6%で大差なかった。

類薬は複数あるが、tamoxifen併用で有意なPFS改善効果が確認されたのは初めて。適応拡大申請に向かうのではないか。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

イムブルビカ、ワルデンストレームマクログロブリン血症のリツキサン併用試験が成功
(2017年12月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)の第三相ワルデンストレームマクログロブリン血症試験が成功したと発表した。再発性難治性で初めて治療を受ける患者にRituxan(rituximab)と併用する効果を検討したもの。独立データ監視委員会が中間薬効解析に基づいて盲検解除を勧告した。

盲検解除されたデータを承認審査機関に報告し相談する考え。単剤投与は米国では15年に承認されている。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのヤンセン子会社のプレスリリース

サイラムザ、胃癌一次治療は承認申請見送り
(2017年12月8日発表)

イーライリリーは、Cyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)の第三相胃癌一次治療試験、RAINFALLの結果を公表した。5-FUまたはcapecitabineをcisplatinと併用するレジメンに追加する効果を検討したところ、主評価項目であるPFSの解析は成功したものの、二次的評価項目だが臨床的には最も重要な全生存期間の解析がフェール。承認申請を見送ることを決めた。

CyramzaはVEGFR2/KDRを標的とする抗体医薬で、胃癌や非小細胞性肺癌の二次治療に承認されている。同じ胃癌でありながら事実上、フェールしたのは不思議だ。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

サノフィ、クロストリジウム・ディフィシル・ワクチンの開発を中止
(2017年12月1日発表)

サノフィは、クロストリジウム・ディフィシル関連下痢を予防するワクチン、ACAM-Cdiffの大規模な第三相試験を実施していたが、中間解析で独立データ監視委員会が無益性認定したことを明らかにした。臨床開発を中止する。

デング熱ワクチンDengvaxiaと同様に、08年にAcambis社を買収して入手したパイプラインが暗礁に乗り上げた。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認申請】


Clovis、PARP阻害剤を適応拡大申請
(2017年12月5日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、米国でRubraca(rucaparib)の適応拡大承認を申請し受理されたと発表した。審査期限は来年4月6日。欧州は来年、承認申請の予定。

遺伝子複製ミスの修復に係るポリ(ADPリボーゼ)ポリメラーゼを阻害する経口剤で、昨年12月に米国でBRCA変異型末期卵巣癌の三次治療薬として承認された。コンパニオン・ダイアグノスティックとして同時に承認されたのがロシュ・グループのFoundation Medicine(Nasdaq:FMI)の次世代シーケンシング検査だ。

今回の適応拡大申請は、白金感受性卵巣癌の二次治療以降として白金薬による治療を受け反応した患者を組入れた維持療法試験、ARIEL3に基づくもの。PFS(第三者委員会査読後)はメジアンが13.7ヶ月と偽薬群の5.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.35、統計的に有意だった。

主評価項目のうち最初の解析であるBRCA変異サブグループの数値はもっと良かったが、シーケンシャルに実施された上記の全ユニバースの解析も成功。主評価項目ではなく探索的解析だが、BRCA変異のないサブグループも良好な結果になった。このため、ClovisはBRCA不問で承認することを求めている。

治療関連有害事象による治験離脱率は14%と偽薬群の2.6%を上回った。骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病の治療時発現は372例中3例、偽薬群はゼロだった。

リンク: Clovisのプレスリリース

【承認】


ノボ、週一回型GLP-1作動剤が承認
(2017年12月5日発表)

ノボ ノルディスクは、Ozempic(semaglutide)がFDAに二型糖尿病薬として承認されたと発表した。同社のVictoza(liraglutide)と同じ皮注用ヒトGLP-1誘導体だが、一日一回ではなく週一回投与で足りる。また、Emisphere TechnologiesのEligen技術を用いて開発した経口剤が第三相段階であり、成功すれば市場性が飛躍的に高まるだろう。

Victozaは週一回型GLP-1作用剤であるイーライリリーのTrulicity(dulaglutide)にシェアを食われているが、OzempicはTrulicity対照試験でHbA1cや体重の低下が有意に上回った。巻き返しが始まるだろう。

10月に開催されたFDA内分泌代謝学薬諮問委員会は心血管アウトカム試験の評価と網膜症性合併症のリスクを重点的に検討した。SUSTAIN試験ではMACE(主要有害心血管イベント)のハザードレシオが対照群比0.74となり非劣性解析が成功。優越性解析も成功したがポストホック分析なので頑強性は万全ではない。

この試験では失明が5例と対照群の1例を上回り、硝子体出血や網膜症治療なども含めた網膜症性合併症の発生率は3.0%(対照群は1.8%)、ハザードレシオ1.76、p=0.02だった。血糖治療の合併症予防効果を立証したランドマーク的試験であるDCCT試験でも最初の二年間は増加し三年目から減少したので、血糖治療を開始・強化する場合は小血管性合併症が増加しないか注意する必要があるのだろう。

日本でも承認審査中。先日、薬食審・医薬品第一部会で審議されたが、継続審議となった。理由は不明だが、網膜症リスクと推測されている。

リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース

大日本住友、米国でネブライザ用LAMAが承認
(2017年12月6日発表)

大日本住友製薬の米国子会社であるサノビオンは、FDAがLonhala MagnairをCOPD治療薬として承認したと発表した。長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤(LAMA)であるグリコピロニウム臭化物の新製剤で、Pari GmbHの電子ネブライザ、eFLOWで一日二回、吸入する。5年前に企業買収で入手したコンパウンド。

LAMAはCOPDの代表的な維持療法で、ベーリンガー・インゲルハイムのSpiriva(tiotropium)が高いシェアを持つ。長期作用性ベータ2作用剤やコルチコステロイドはネブライザ用が存在するが、LAMAはなかった。少数派だがネブライザを好む患者には朗報。競合は、テラバンスが11月にTD-4208(revefenacin)を承認申請した。米国ではマイランが販売する。

リンク: 大日本住友製薬のプレスリリース(pdfファイル)

アバスチンが神経膠腫に本承認
(2017年12月5日発表)

ロシュ・グループのジェネンテックは、Avastin(bevacizumab)を神経膠腫の二次治療に用いることがFDAに正式承認されたと発表した。加速承認は09年なので、効能が確認されるまで8年も費やしたことになる。

時間がかかったのは、承認後薬効確認試験で全生存期間の解析がフェールしたため。放射線化学療法をベースにAvastinを使う群と使わない群のPFSを比較したところ、ハザードレシオ0.64、メジアン値は10.6ヶ月対6.2ヶ月と、有意に改善したが、共同主評価項目である全生存のハザードレシオは0.88、メジアン16.8ヶ月対16.7ヶ月と失望的な結果になった。

一次治療試験もPFSは改善したが全生存期間は延びなかった。PFSは客観性を担保するためにCT/MRI画像に基づいて評価するのが一般的だが、Avastinのような血管新生阻害剤は、血管の浸透性が低下し造影剤の漏出が減少するので、癌の大きさが変わらなくても画像上は退縮したように見える。従って、全生存期間のほうを重視すべきである。それでも本承認されたのは、症状など総合的な評価に基づくものだろう。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース


【医薬品の安全性】


抗PD-1/PD-L1抗体とiMiDの併用問題について(フォローアップ)
(2017年12月5日発表)

多発骨髄腫の治療にはセルジーン社のRevlimid(lenalidomide)やThalomid(thalidomide)などiMiD(免疫調停的薬)と呼ばれる薬が広く用いられている。破竹の勢いで様々な癌に適応を広げている抗PD-1/PD-L1抗体もiMiD併用試験が多数、進行していたが、MSDのKeytruda(pembrolizumab)の第三相試験で死亡者が対照群の1.6倍と大きな群間の偏りが発生したため、FDAが7月にクリニカルホールド(治験停止)を命じた。

今回、BMSとロシュが、一部の治験の部分停止解除を発表した。何れも第一相、第二相試験で、BMSのくすぶり型の第三相試験、CheckMate-602は解除されていないので、嫌疑が晴れた訳ではなさそうだ。それでも、グレイがオフホワイトに変わったような印象だ。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

フィリピンがデング熱ワクチンのリコールを要求
(2017年12月4日発表)

複数の報道によると、フィリピン政府はサノフィにデング熱ワクチンのDengvaxiaをリコールするよう求めている。年20万人が感染とリスクが高く、それ故に無料キャンペーンを行って70万人以上が接種する実績を挙げただけに、裏切られた思いなのだろう。導入したのは前政権なので非難しやすいという側面もありそうだ。

12月3日号で書いたように、サノフィは、デング熱ワクチンのDengvaxiaについて接種対象の選別を求めるレーベル変更を行う予定であることを発表した。デングウイルス感染歴を持つ人は予防効果を享受できるが、未経験者が接種すると、いざ感染した時に重症になりやすいことが判明したため。接種前に感染歴を確認するよう努め、病気のリスクとワクチンのリスクを検討した上で、接種の是非を判断するよう求める。

デングは一回目の感染は軽く済むが二回目は重くなることがしばしばある模様だ。原因は明確ではない。一般的な株が4種類あるが、最初に感染した株と違う株だと体が過敏反応してしまうとか、一回目の感染でできた抗体が一定の力価範囲内だとリスクが高まるとか諸説ある。

一回目の自然感染が軽くなりがちだとしたら、本人に自覚がなく未感染と申告して接種対象から外れてしまうような事態も考えられるので、選別がワークするとは限らない。

また、デングウイルス感染が二回目のほうが深刻だとしたら、武田が開発しているワクチンでも同様な現象が起きないか、精査する必要があるだろう。

リンク: CNNの報道(CNNを応援したいと思っているのは私だけでしょうか?)







今週は以上です。

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2017年12月3日

2017年12月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • バベンチオ、胃癌試験はフェール 
  • ポテリジオ、米国で承認申請 
  • オプジーボとヤーボイの併用療法をEUで腎細胞腫一次治療に承認申請 
  • 遺伝子一斉検査が承認 
  • 月一回皮注用ブプレノルフィンが承認 
  • レパーサのMACE抑制効果が承認 
  • トルツ、乾癬性関節炎も承認 
  • ゾーフィゴとザイティガの併用試験が早期中止に 
  • デング熱ワクチンは却って危険? 


【新薬開発】


バベンチオ、胃癌試験はフェール
(2017年11月28日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相末期胃癌三次治療試験がフェールしたことを明らかにした。paclitaxelなど医師が選んだ薬を投与した対照群と比べて全生存期間を有意に延長することができなかった。

胃癌の第三相試験は一次治療でFOLFOXを施行した後の維持療法試験も進行中。免疫力を強化するメカニズムなので化学療法で免疫力が低下する前の患者のほうが上手く行くかもしれない。

BavencioはPD-L1を標的とする抗体医薬だが、受容体であるPD-1を標的とするOpdivo(nivolumab)は日本中心に実施された試験が成功した。尤も、メジアン生存期間は偽薬群の4ヶ月が5ヶ月に伸びただけだった。海外の試験の結果が注目される。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


ポテリジオ、米国で承認申請
(2017年11月28日発表)

協和発酵キリンは、mogamulizumabを全身治療歴を有するCTCL(皮膚T細胞リンパ腫)の薬として米国で承認申請し受理された。優先審査指定され、来年6月4日までに結果が判明する予定。

日本で12年にCCR4陽性成人T細胞白血病用薬ポテリジオとして承認された抗CCR4ヒト化ポテリジェント抗体で、14年にはCCR4陽性CTCL/PTCL(末梢T細胞リンパ腫)に用いることも承認された。

米国の新薬承認申請は第三相実薬対照試験の結果に基づくものである由。日本でも同試験に基づき、CCR4陽性や投与回数の限定を解除すべく承認事項一部変更申請が行われた。

リンク: 協和発酵のプレスリリース(pdfファイル)

オプジーボとヤーボイの併用療法をEUで腎細胞腫一次治療に承認申請
(2017年11月28日発表)

BMSは、抗PD-1抗体のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)と抗CTLA-4抗体のYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)の併用を様々な癌に開発しているが、今回、腎細胞腫の一次治療レジメンとしてEUに承認申請し、受理された。中等度以上のリスクを持つ患者が対象。根拠となる214試験では、ORR(客観的反応率)と全生存期間が標準的治療薬であるファイザーのSutent(sunitinib)を有意に上回った。PFS(無進行生存期間)では有意差が出なかったが、ハザードレシオは0.82なので悪くはない。

この併用レジメンの難点は忍容性で、被験者の22%が有害事象により治験を離脱した。対照群は12%だった。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


遺伝子一斉検査が承認
(2017年11月30日発表)

抗癌剤は遺伝子分析に基づくセグメンテーションが進み、同じ肺癌でもEGFR活性化変異型にはEGFR阻害剤、ALK融合蛋白陽性型ならALK阻害剤、BRAF活性化変異型にBRAF阻害剤と使い分けるようになった。ALKやROSの変異型のように該当確率が著しく低いものがあるので、コストや手間を考えれば、一度に全部検査できれば好都合だ。お誂え向きの検査がFDAに承認された。米国ケンブリッジのFoundation Medicine(Nasdaq:FMI)のFoundationOne CDx(F1CDx)だ。

NGS(次世代シーケンシング)技術に基づく体外診断で、324の遺伝子の変異を探索できる。薬物療法の選択に係るものでは、EGFR、ALK、BRAF、her2、KRAS、BRCA、マイクロサテライト不安定性など。個々の遺伝子変異の検査アッセイと評価を照らし合わせたところ、正診率が94.6%だった。

ラボで開発された検査なのでFDAの承認を取る必要はないが、今回はメーカーが自発的に承認申請した。ブレークスルー・デバイス指定を受けている。FDAとCMS(メディケア・メディケイド・センター)が並行して審査する制度が適用された結果、承認と共に保険適用が決まった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Foundation Medicine社のプレスリリース

月一回皮注用ブプレノルフィンが承認
(2017年11月30日発表)

FDAは、Indivior(LSE:INDV)のSublocade(buprenorphine)をオピオイド使用障害の治療薬として承認した。皮注用デポ製剤で月一回投与で足りる。口腔粘膜吸収製剤による治療を受けている、用量が安定した患者がスイッチすることができる。

米国はオピオイドの消費が異常に多く、副作用による死者も多いため乱用や薬物依存が社会問題になっている。カウンセリングや心理社会的療法など総合的な治療の補助薬がブプレノルフィンで、オピオイド受容体をブロックしてオピオイドの効果を妨げる。静注は致死的であるため、枠付き警告とともに、REMS(リスク評価管理戦略)が導入された。

Indiviorは、Reckitt Benckiserから2014年にからスピンアウトされた、ブプレノルフィン関連製品の大手企業。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Indiviorのプレスリリース

レパーサのMACE抑制効果が承認
(2017年12月1日発表)

アムジェンは、FDAがRepatha(evolocumab、和名レパーサ)の効能としてMACE(主要有害心血管イベント)抑制を承認したと発表した。

Repathaは肝臓のLDL-C受容体の零落に係るサブチリシン/ケキシン9型に結合する抗体医薬で、LDL-C値を半減することができる。FOURIER心血管アウトカム試験では、主評価項目であるMACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)、不安定狭心症入院、または冠再建術のリスクが偽薬群比15%小さかった。副次的評価項目であるMACEだけの解析では20%小さかった。メジアン2.2年間の追跡でMACE発生率は試験薬群が5.9%、偽薬群は7.4%だったので、Number Needed to Treatは約67となる。

スタチンと比べても高価な薬であるため、アムジェンは米国の医療保険機関に返金保証を提案している。Repathaで治療中に心筋梗塞などを発症した場合は薬剤費を返金するというもので、英国の公的医療保険がしばしば要求するやり方と似ている。CAR-Tなど超高額な医療でも成果報酬方式が散見され、個人的には抜本的な解決にならないと思うが、注目すべき動きだ。

リンク: アムジェンのプレスリリース

トルツ、乾癬性関節炎も承認
(2017年12月1日発表)

イーライリリーは、Taltz(ixekizumab、和名トルツ)を活性期乾癬性関節炎の治療に用いる適応拡大をFDAが承認したと発表した。DMARDに追加、または単剤投与する。

16年に中重度乾癬治療薬として承認された抗IL-17Aヒト化抗体で、乾癬性関節炎の第三相試験二本では、ACR20奏効率が一本は58%(偽薬群は30%)、もう一本は53%(同20%)だった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ゾーフィゴとザイティガの併用試験が盲検解除に
(2017年11月30日発表)

バイエルは、ERA223試験のデータ監視委員会が盲検を繰り上げ解除するよう勧告したことを明らかにした。この試験は、去勢抵抗性前立腺癌で無/軽症状、化学療法未経験の806人を組入れて、ジョンソンエンドジョンソンのZytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)とステロイドを併用する標準的療法と、更にXofigo(radium-223 dichloride、和名ゾーフィゴ)も用いるレジメンのSSE-FS(無症候性筋骨格イベント生存期間)を比較した。

ところが、中間解析で三剤併用群の骨折や死亡が標準療法群より多いことが判明。今回の勧告に至った。

同じレジメンを採用した他の試験では同様な現象は見られなかった由。Xofigoは骨に分布してアルファ線を放出、周辺の癌細胞を攻撃する。化学療法不応不適の症候性去勢抵抗性前立腺癌の骨転移を治療する用途で承認されているが、骨に問題が生じていない患者には却って有害なのかもしれない。

リンク: バイエルのプレスリリース

デング熱ワクチンは却って危険?
(2017年11月29日発表)

サノフィは、デング熱ワクチンのDengvaxiaについて接種対象の選別を求めるレーベル変更を行う予定であることを発表した。デングウイルス感染歴を持つ人なら予防効果を享受できるが、未経験者が接種すると、いざ感染した時に重症になりやすいことが判明。接種前に感染歴を確認するよう努め、病気のリスクとワクチンのリスクを検討した上で、接種の是非を判断するよう推奨する。

デングは一回目の感染は軽く済むが二回目は重くなることがしばしばある模様だ。原因は明確ではない。一般的な株が4種類あるが、最初に感染した株と違う株だと体が過敏反応してしまうとか、一回目の感染でできた抗体が一定の力価範囲内だとリスクが高まるとか、言われている。感染経験のない人がDengvaxiaを接種すると一回目の感染と同じことになってしまう可能性があるようだ。

Dengvaxiaは15年12月のメキシコを皮切りに中南米やアジアなどで承認されたが、4種類の株のうち1種類にはあまり効かないことや、16年に未感染者に対するリスクを問題提起する論文がScience誌で刊行されたことなどが原因で、売上高が伸び悩んでいる。今回のレーベル変更で更に減少しそうだ。

原因不詳なので何とも言えないが、もし問題がワクチンではなくデング感染自体にあるとしたら、武田薬品が開発しているワクチンにも同様なリスクがないかどうか、十分に検討すべきだろう。

リンク: サノフィのプレスリリース
リンク: Fergusonらの論文(Science誌)





今週は以上です。

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2017年11月26日

2017年11月26日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、Tecentriqの肺炎試験成功 
  • ロシュ、Hemlibraの血友病試験成功 
  • サイトキネティックス、ALSの第三相はフェール 
  • バイエル、吸入用抗生物質の第三相がフェール 
  • Acorda、A2A受容体阻害剤の開発を中止 
  • JNJ、ダラザレックスの適応拡大を申請 
  • HIV/AIDSの二剤合剤が承認 
  • JNJ、抗IL-23抗体がEUで承認 


【新薬開発】


ロシュ、Tecentriqの肺炎試験成功
(2017年11月20日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab)の第三相肺癌試験、IMpower150のPFS(無進行生存期間)解析が成功したと発表した。データは未公表。欧米の承認審査機関に結果を提出する予定。

TecentriqはPD-L1を標的とするヒト化抗体で、定常領域の最適化も行われている。16年に米国で転移性尿路上皮癌の一次治療、そして非小細胞性肺癌の二次治療に承認された。日本でも後者の適応で薬食審医薬品第二部会を通過したところ。

IMpower150試験は、末期非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療を受ける1202人を組入れて、carboplatin、paclitaxel、Avastin(bevacizumab)の三剤併用レジメンと更にTecentriqも使う四剤併用のPFSと全生存期間を検討したもの。全ユニバースの解析と、Teffと呼ばれる遺伝子署名を持つサブグループの解析の両方が成功した。

共同主評価項目である全生存期間の解析は未成熟だが数値は好ましいものである模様。次の解析は18年上期に行われる。

この試験では、carboplatin、paclitaxel、Tecentriqの三剤を用いる群も設定されたが、アルファが配分されていない模様で、検出力なしとのこと。

それでも、一群400例程度なので治験の規模としては十分。全生存の次回解析が有意でなくても良い方向に向かっているようならば、米国だけでなく欧州でも承認される可能性があるのではないか。

扁平上皮非小細胞性肺癌を対象とした第三相試験は別途進行中。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、Hemlibraの血友病試験成功
(2017年11月20日発表)

ロシュは、Hemlibra(emicizumab-kxwh)の第三相試験成功を発表した。7月に日本で、11月には米国でも承認された抗第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体で、現在の適応はA型血友病で遺伝子組換え型第VIII因子に反応しないインヒビター(抗第VIII因子抗体)保有患者だが、今回のHAVEN 3試験はインヒビターを持たない12歳以上の患者における出血予防効果をルーチン予防を行わない群と比較したもの。適応拡大申請に向かうだろう。

承認されている用量用法は最初の4回は3mg/kg、その後の維持用量は1.5mg/kgを週一回皮注だが、今回は維持用量が3mg/kgを二週間に一回投与する群も設定された。出血リスクが高いのに何もしない群が相手なので当然と言えば当然だが、両用量とも出血頻度が有意に減少した。

第VIII因子によるルーチン予防を前から施行していた患者は維持用量1.5mg/kgを週一回の第4の群に割付けられたが、第VIII因子を使っていた頃より出血頻度が減少した。直接比較試験ではないので第VIII因子より予防効果が高いかどうかは分からない。

インヒビターを持たない患者は遺伝子組換え型第VIII因子という予防手段が既に存在するので、インヒビターを持つ患者よりも普及のハードルが高そうだ。もし直接比較試験で効果や忍容性が優れているようなら、追い風になるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

サイトキネティックス、ALSの第三相はフェール
(2017年11月21日発表)

サイトキネティックス(Nasdaq:CYTK)は、CK-2017357(tirasemtiv)の第三相ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験がフェールしたと発表した。主評価項目である24週肺活量(SVC)だけでなく、二次的評価項目も全てフェールした。中高用量群に割付けられた、よく忍容して減量しなかった患者は偽薬との差が最も大きかったが、それでも有意水準には達していないとのことなので、判断が難しい。

CK-2017357は速筋トロポニン活性化剤。同社は第二世代品のCK-2127107の第二相試験を行っており、今後はこちらにスイッチすることになりそうだ。CK-2017357より忍容性が良いとのことなので、ドロップアウトや減量による治療効果の希薄化が小さいかもしれない。

同社はアステラス製薬と速筋トロポニン活性化剤の研究開発提携を結んでおり、CK-2127107の共同開発販売権とCK-2017357のライセンスオプションを供与している。

リンク: サイトキネティックスのプレスリリース

バイエル、吸入用抗生物質の第三相がフェール
(2017年11月24日発表)

バイエルは、Amikacin Inhale(amikacin吸入用エアロゾル液)の第三相グラム陰性ベンチレータ関連肺炎試験がフェールしたと発表した。アミノグリコシド系抗生物質の肺分布をネクター社(Nasdaq:NKTR)のPDDS技術で大きく改善した薬剤だが、30日生存率は標準療法と偽薬の群と大差なかった。

リンク: バイエルのプレスリリース

Acorda、A2A受容体阻害剤の開発を中止
(2017年11月20日発表)

NY州の医薬品開発会社、Acorda Therapeutics(Nasdaq:ACOR)は、SYN115(tozadenant)の開発中止を決めた。パーキンソン病で第三相段階だったが、無顆粒球症や敗血症による死亡が複数発生。当初は、血球計算の頻度を週一回に増やすことで対処しようとしたが、ワークしなかった。

SYN115は選択的アデノシンA2A受容体阻害剤。16年にフィンランドのBiotie社を3.6億ドルで買収して入手した。15年に進行パーキンソン病患者のオフタイム削減効果を検討する第三相試験を開始したが、後期第二相とあわせて累計300人年の投与実績に対して敗血症が7例発生、5人が死亡した。7例中4例では無顆粒球症が見られた。

作用機序との関連は明確ではない。A2A受容体拮抗剤はMSDやVernalisも開発していたことがあったが、無顆粒球症リスクは見られなかったようだ。開発に成功したのは協和発酵キリンがノウリアスト(イストラデフィリン)をパーキンソン病治療薬として日本で販売しているだけなので、そのデータも検討する必要があるのではないか。

リンク: Acordaのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、ダラザレックスの適応拡大を申請
(2017年11月21日発表)

ジョンソンエンドジョンソンは、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)を多発骨髄腫の一次治療に用いる適応拡大を欧米で承認申請した。

ジェンマブからライセンスした抗CD38完全ヒト化抗体で、15年に米国で多発骨髄腫の四次治療薬として承認された。日本でも今月、薬価収載。

一次治療のエビデンスはALCYONE試験。自家造血幹細胞移植に適さない多発骨髄腫のフロントライン治療として、JNJ/武田薬品のVelcade(carfilzomib)とmelphalan、prednisoneを併用するVMPレジメンと更にDarzalexも併用する群のPFS(無進行生存期間)を比較したもので、中間解析でハザードレシオ0.50、95%信頼区間0.38-0.65となり成功認定された。

リンク: JNJのプレスリリース(米国申請)
リンク: JNJのプレスリリース(EU申請)


【承認】


HIV/AIDSの二剤合剤が承認
(2017年11月21日発表)

ジョンソンエンドジョンソンは、FDAがJulucaをHIV/AIDSの維持療法として承認したことを発表した。欧州でも承認審査中。

塩野義製薬が創製し欧米ではViiVヘルスケア(GSK、塩野義、ファイザーのHIV/AIDS合弁)が販売するインテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤、Tivicay(dolutegravir)と、ジョンソンエンドジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤、Edurant(rilpivirine)の活性成分の合剤で、標準的な3~4剤併用療法を受けてウイルス抑制に成功した患者が適応になる。二剤合剤で他の薬を併用しなくても良いレジメンは初。

リンク: JNJのプレスリリース

JNJ、抗IL-23抗体がEUで承認
(2017年11月23日発表)

ジョンソンエンドジョンソンは、Tremfya(guselkumab)がEUで中重度乾癬治療薬として承認されたと発表した。IL-23のp19サブユニットに結合する完全ヒト化抗体で、臨床試験では奏効率がTNF阻害剤のHumira(adalimumab)より有意に高かった。米国は7月に承認。日本でも4月に承認申請された。

リンク: JNJのプレスリリース






今週は以上です。

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2017年11月19日

2017年11月19日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アルナイラム、hATTR治療薬を承認申請 
  • 大塚、米国でトルバプタンの適応拡大に再挑戦 
  • ムコ多糖症VII型の治療薬が米国で承認 
  • 日本発の抗体医薬が再び承認 
  • ポテリジェント抗体が米国で承認 
  • スーテント、腎癌アジュバント療法が承認 
  • センサー付き医薬品が承認 
  • FDA、フェブリクの心臓疾患死リスクを通知 


【承認申請】


アルナイラム、hATTR治療薬を承認申請
(2017年11月16日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTR02(patisiran)のローリング承認申請を開始した。適応は遺伝性TTR調停アミロイドーシス(hATTR)の治療。同社初の承認申請で、RNA介入薬の承認申請も初。

臨床試験では、偽薬群は神経症状が悪化したがpatisiran群は若干改善した。深刻な有害事象は下痢、心不全、起立性低血圧、肺炎、心室ブロックなどで、下痢は試験薬関連有害事象とされた。死亡や有害事象による治験離脱の発生率は偽薬群より小さかった。

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)の子会社であるAkcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)も前後してIONIS-TTRRx(inotersen)を欧州で承認申請、米国でもまもなく申請予定だが、夫々の臨床試験のデータを見比べると、効果も忍容性もアルナイラムに軍配が上がりそうだ。

ローリング承認申請は米国の制度で、承認申請に必要な三種類の書類のうち完成したものから逐次提出して審査を開始してもらうもの。今回も、前臨床とCMC(化学、生産、管理)を提出。年内に臨床データを提出して申請を完了する予定。

欧州で年内に、日本やブラジルでは来年、開発販売権を持つサノフィのジェンザイム部門が承認申請する見込み。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

大塚、米国でトルバプタンの適応拡大に再挑戦
(2017年11月6日発表)

大塚製薬はバソプレシン2受容体拮抗剤のSamsca(tolvaptan、和名サムスカ)を三つの用途で販売している。心不全による体液貯留の治療、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群による低ナトリウム血の治療、そして常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の進行抑制だ。このうち、ADPKDは14年に日本で、15年にはJinarc名でEUでも承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。被験者の腎機能が元々それほど悪くなかったせいか臨床的な効用が明確ではなく、肝毒性も懸念されるためだ。

大塚は追加試験を実施、eGFR(推算糸球体濾過量)の低下が偽薬比有意に抑制されることを確認し、学会やNEJM誌で発表した。1年間の治療で偽薬群が3.61mL/分/1.73m2低下したのに対して、tolvaptan群は2.34mL/分/1.73m2の低下に留まり、統計的に有意な差があった。前回のTEMPO試験では各3.70mLと2.72mLだったので、tolvaptan群の成績が若干よかったことになる。ランイン期間中に投与して忍容した患者だけを組入れた工夫も寄与したかもしれない。

この結果を踏まえて米国で適応拡大申請し、受理された。審査期限は来年4月24日。

リンク: 大塚のプレスリリース

【承認】


ムコ多糖症VII型の治療薬が米国で承認
(2017年11月15日発表)

FDAはMepsevii(vestronidase alfa-vjbk)をムコ多糖症(MPS)VII型の治療薬として承認した。MPS VII型は患者数が世界で150人以下と推測される超希少疾患で、ベータグルクロニダーゼの欠乏によりグリコサミノグリカンが分解されず組織に蓄積、低身長や心弁異常、肝膵肥大など様々な症状をもたらす。

Mepseviiは希少疾患用薬の開発に特化した米国カリフォルニア州の医薬品会社、Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)の開発品。欠乏酵素を二週間に一回、補充する。臨床試験ではグリコサミノグリカンデルマタン硫酸の尿排泄量を主評価項目としたが、FDAは臨床的な効能とは見なさなかった模様で、プレスリリースには6分歩行テストの結果が記されている。第三相とEAP(早期アクセスプログラム)の症例では偽薬群を平均18メートル上回った。

主な有害事象は点滴箇所反応、下痢、ラッシュ、アナフィラキシーなど。

報道によると、Ultragenyxは年37.5万ドル程度の正味価格で発売する考えのようだ。超希少疾患なのでピーク年商は1億ドル行かない見込みだが、希少小児疾患優先審査証書(RPDPRB)を取得することができた。新薬開発を促すためのインセンティブで、次に承認申請する時に優先審査を受けることができる。審査が順調に進めば半年ほど早く承認取得できるので、激しい開発競争が繰り広げられている分野では大きな価値がある。譲渡も可能で、最近ではSareptaがギリアド・サイエンシズに1億2500万ドルで売却した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Ultragenyxのプレスリリース

日本発の抗体医薬が再び承認
(2017年5月16日発表)

FDAはHemlibra(emicizumab-kxwh)を第8因子インヒビターを持つA型血友病患者の出血予防薬として承認した。審査期限は来年2月だったが、近年のFDAは重要な薬や特に問題のない薬は早く承認する傾向がある。

A型血友病は遺伝子組換え型第8因子で出血を治療し、頻繁に出血する場合はルーチン投与して予防する。薬に対する抗体(インヒビター)ができて無効になった場合は、ノボ ノルディスクの遺伝子組換え型活性化第7因子や活性化プロトロンビン複合体製剤(シャイアの血漿由来製剤、FEIBA)を使う。

Hemlibraは血液凝固第IX因子と第X因子の二重特異性抗体で、第VIII因子に代わって活性化第XI因子による第X因子の活性化を架橋する。最初の4回は3mg/kg、その後は1.5mg/kgを週一回、皮注する。ロシュグループの中外製薬が創製、米国ではジェネンテックが販売する。

臨床試験で血栓性微小血管障害症(TMA)による死亡があったためFDAの評価や対処法が注目されたが、症例に即した順当な内容だった。枠付き警告によると、Hemlibra療法を施行中に出血しFEIBAでレスキュー治療する時は、TMAや血栓塞栓症を防ぐために、100単位/kg/24時間超のペースで24時間超投与するべきではない、症状が現れたらFEIBAを止める。

価格は44万ドル(初年度は48万ドル)程度に設定されるようだ。FEIBAはもっと高いが、Hemlibraはインヒビターを持たない患者向けにも第三相が進行中であり、長期作用性第8因子と比べて著しく割高にならないようにしたのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

ポテリジェント抗体が米国で承認
(2017年11月14日発表)

アストラゼネカはFasenra(benralizumab)が重度好酸球型喘息症の維持療法薬としてFDAに承認されたと発表した。好酸球などで発現するIL-5受容体のアルファチェーンを標的とする抗体。グラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab)やテバ・ファーマスーティカルのCinqair(reslizumab)の類薬だ。

こちらも日本のBioWa(協和発酵キリン・グループ)が創製したPOTELLIGENT抗体で、糖鎖にフコースがなく抗体依存性細胞毒性が増強されている。日本や欧州でも承認審査中。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

スーテント、腎癌アジュバント療法が承認
(2017年11月16日発表)

FDAはファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)を腎細胞腫の摘出術後アジュバント療法に用いる適応拡大を承認した。9月に開催された諮問委員会で賛否が真っ二つに分かれたことを考えると、審査期限まで2ヶ月残しての承認は意外だ。

根拠となったS-TRAC試験では、5年経っても再発したり死亡したりしなかった患者の比率が59%と偽薬群の51%より有意に高かった。この試験は延命効果の検出力を持たないが、5年生存率は81.4%対81.9%で大差ない。2019年の最終解析でもっと良い数字が出るか、注目される。

同様な用途ではSutentとバイエルのNexavar(sorafenib)を偽薬と夫々比較したASSURE試験はフェールした。Sutentは効く時も効かない時もある、なんてことはないだろうから、原因を解明してほしいものだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

センサー付き医薬品が承認
(2017年5月13日発表)

FDAはAbilify MyCiteを承認した。大塚の非定型向精神薬aripiprazoleの中にProteus Digital Health社のセンサーを埋め込んだ錠剤で、胃腸通過時に発するシグナルを体に張り付けたパッチ型ウェラブル端末が探知し、Wi-Fiとネット経由で情報をポータルサイトにアップロードする。医師や介護者が、患者の同意を得た上で、服薬状況を監視することができるようになる。

医薬品に本物であることを示すICタグを付けるとか、ウェラブルに血圧センサーを付けるとか、胃腸診断用カプセル型カメラとかはこれまでにもあったが、遂にセンサー付き錠剤が登場した。薬にもIoT時代の到来だ。尤も、大塚は直ぐに量販する考えはない模様。コストやニーズの面でまだ改良の余地があるのだろう。

非定型向精神薬は患者が飲みたがらないことがあり、急性治療用には経口剤だけでなく注射用が、安定期用には一日一回経口投与だけでなく1ヶ月以上持続する注射用製剤も商品化されている。センサー内包型は、患者のアドヒアランスを確認したり、臨床試験でデータの頑強性を検証する上で有益だろう。ちゃんと飲まないと、ばれる、というプレッシャーを与えることもできる。

但し、FDAのプレスリリースによると、実際に患者のコンプライアンス(アドヒアランス)が改善するかどうかは確認されていない。シグナルを探知できなかったり、遅れたりすることもあるのでリアルタイム監視には適さないと記されているので、頼りない印象だ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Proteusのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA、フェブリクの心臓疾患死リスクを通知
(2017年11月15日発表)

FDAは、Uloric(febuxostat、和名フェブリク、欧州名Adenuric)の心臓疾患リスクに関する安全性通知を発出した。武田薬品が実施したallopurinol対照安全性確認試験の予備的解析で、心臓関連死の増加が見られた由。データは未発表。最終解析を受領・分析した上でフォローアップする考え。

Uloricはキサンチンオキシダーゼ阻害薬。尿酸の合成を阻害し、高尿酸血による痛風を治療する。帝人が創製し日本で販売、米国はライセンシーの武田が09年に発売、最初に承認された欧州ではイプセンやメラリーニが販売している。

心血管リスク自体は既知だ。承認前の臨床試験では重要な心血管イベントの発生率(1000人年当り)が13と対照群の4倍以上だった。このため、FDAは承認に際してレーベルに記載するとともに、武田薬品に安全性確認試験の実施を要求した。

6000人以上の痛風患者を組入れて、MACE(主要心臓有害事象:心臓関連死、非致死的心臓発作、非致死的卒中、緊急血行再建術)を観察した試験の結果が承認から8年経って判明。MACE全体は増加しなかったものの、心臓関連死亡と全死亡のリスクが増加していた。

リンク: FDAのプレスリリース








今週は以上です。

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2017年11月12日

2017年11月12日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダのEU適応拡大申請撤回は症例数不足が遠因? 
  • ノバルティス、抗VEGF-A抗体のnAMD試験成功 
  • ノバルティス、CDK4/6阻害剤の閉経前乳癌試験成功 
  • ノバルティス、CAR-Tを欧州でも承認申請 
  • CHMPが抗IL-5抗体などの承認を支持 
  • MSDのCMV用薬が承認 
  • 第二のB型肝炎ワクチンが承認 
  • アドセトリス、CTCLにも承認 
  • ゼルボラフがBRAF-V600変異陽性エルドハイム・チェスター病に承認 
  • アレセンサも一次治療承認 


【今週の話題】


キイトルーダのEU適応拡大申請撤回は症例数不足が遠因?
(2017年11月10日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、承認申請が撤回された場合、審査状況を公表する。不当な審査をして撤回に追い込んだわけではないことを示す目的だろう。今回、MSDが抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の適応拡大申請を撤回したことに関する発表があった。

MSDは転移性非扁平上皮性非小細胞性肺癌の一次治療にpemetrexed及びcarboplatinと三剤併用する適応拡大を欧米で承認申請し、米国では承認されたが、EUは申請撤回したことを10月に公表した。EMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、主臨床試験の症例数が限定的であるため不確実性が残っており、承認できないという暫定的意見だったことが今回、明らかにされた。

それ以上の詳細は不明だが、症例数が足りないために延命効果が統計学的に確認できず、PD-L1発現と応答性の関係も十分に検討できないという意味なのではないだろうか。

11月5日号で書いたように、この承認申請は第1/2相KEYNOTE-021試験のGコフォートのORR(客観的反応率)とPFS(無進行生存期間)に基づくもの。前者は55%とpemetrexedとcarboplatinの二剤だけを用いる標準療法の29%を有意に上回り、PFSのハザードレシオは0.53で統計的に有意、メジアンは13.0ヶ月対8.9ヶ月だった。治療関連深刻有害事象の発生率は39%対26%で副作用も増加した。

全生存期間はメジアン10ヶ月追跡時点のハザードレシオが0.90、14ヶ月時点は0.69、18ヶ月時点で0.59と徐々に良い数値に変わっていったが、検出力不足で18ヶ月時点でも95%信頼期間が0.34-1.05と広く、有意差が出ていない。点推定値は良好なので延命効果を疑う余地は小さいが、承認審査機関は一次治療用途に関しては拙速を慎むことが少なくない。

抗PD-1/PD-L1抗体は、幾つかの臨床試験ではPD-L1発現度合いと応答性に相関が見られ、幾つかでは大差なかった。Keytrudaは肺癌の一次治療と再発治療に単剤投与することが承認されているが、一次治療の適応になるのは著高発現(TPS≧50%)だけ、再発治療は高発現(TPS≧1%)だけと、異なっている。

今回の用途は発現状況不問と、更に異なっている。探索的解析で高発現(TPS≧1%)サブグループのORRは三剤併用群が54%、標準療法群は38%、低発現(<1%)サブグループは各57%と13%と、どちらもに差がなかったので、疑う余地は大きくはないが、他の用途との整合性をどう説明したらよいのか、悩ましい。PFSやOSのサブグループ分析を見てみたいものだが症例数が少なく患者背景に偏りがあっても不思議はないので意味のある解析はできないのかもしれない。

MSDは、021試験と類似した内容の第三相KEYNOTE-189の解析計画を変更し、PFSだけでなく全生存期間も主評価項目とすることを決定した。そのため、年内にデータベースロック、18年にも成否判明する予定が19年に遅れることになったが、570人を組入れるのでPD-L1低発現サブグループの症例数も各群100人前後が予想され、応答予測性の解析を行うのに十分ではないとしてもある程度信頼できるデータが出せるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: MSDの申請撤回通知(10月11日付)


【新薬開発】


ノバルティス、抗VEGF-A抗体のnAMD試験成功
(2017年11月10日発表)

ノバルティスは、RTH258(brolucizumab)の第三相nAMD(新生血管加齢性黄斑変性)試験二本が成功したと発表した。BCVA(最良矯正視力)の48週時点での改善が実薬であるafliberceptと比較して非劣性。二次的評価項目のうち16週時点の疾病活動性やIRF(網膜嚢胞液)/SRF(網膜下液)、網膜厚の解析は、RTH258の6mgを用いた群がaflibercept群より有意に良かった。

二本のうち一本は3mgもテストしたがもう一本は6mg群しか設定されておらず、おそらく、6mgを標準用量とする考えなのだろう。

臨床試験で用いたロットと量産ラインで生産するロットの同等性を確認し、18年に承認申請する予定。

RTH258は、aflibercept(リジェネロン/バイエルのEylea、和名アイリーア)やranibizumab(米国ではジェネンテック、それ以外ではノバルティスが販売するLucentis)と同様にVEGF-Aを標的とする抗体医薬。受容体に結合する可変領域の単鎖だけからなるフラグメントで、分子量が26kDaとafliberceptの115kDa、ranibizumabの48kDaより小さいため、分布や全身的曝露の面で優れる可能性がある。

臨床的な違いは投与頻度。afliberceptの承認用法は最初の三回は4週毎、その後は8週毎だが、RTH258の第三相は4回目からは12週毎(必要なら8週毎も可)という投与スケジュールを採用した。硝子体注射の頻度が少なく、一回当たりの薬価が同じなら年間費用が安くなる。実際の医療では病状が安定したら様子を見て悪化したら再治療というパターンが多いが、RTH258は網膜厚の悪化が少ないとのことなので、この治療方針でも投与頻度が少なくて済みそうだ。

RTH258はグループのアルコン社が09年にスイスのESBATech社を買収して入手したもの。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ノバルティス、CDK4/6阻害剤の閉経前乳癌試験成功
(2017年11月8日発表)

ノバルティスは、Kisqali(ribociclib)を閉経前転移性乳癌の治療に用いる第三相試験が成功したと発表した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の患者を組入れて、tamoxifen、letrozole、anastrozoleのうち何れかとgoserelinを併用する標準療法と、更にKisqaliを加える三剤併用両方のPFS(無進行生存期間)を比較したもの。データは未発表。

Kisqaliはホルモン受容体陽性、her2陰性の乳癌に用いるCDK4/6阻害剤で、今年、閉経後の患者の一次治療にアロマターゼ阻害剤と併用する薬として欧米で承認されたところ。売上面では発売が2年先行したファイザーのIbrance(palbociclib、和名イブランス)の後塵を拝しているので、適応は多いほうが良い。尚、日本では開発中止になった模様だ。

CDKは細胞分裂時の細胞周期の進行を調停する酵素。KisqaliはCDK4の結晶構造を解明したAstex Pharmaceuticals(後に大塚製薬が子会社化)との共同研究の成果。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


ノバルティス、CAR-Tを欧州でも承認申請
(2017年11月6日発表)

ノバルティスはCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞療法)のKymriah(tisagenlecleucel)をEUに承認申請した。米国では8月に再発・難治性急性リンパ性白血病用薬として承認され、10月には再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に適応拡大申請したところ。EUではこの二つの適応を申請した。

米国での発売はノバルティスが先行したが、対象患者数の多い後者の適応ではギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)が買収したKite社のYescarta(axicabtagene ciloleucel)が先に承認された。EUでもYescartaが7月申請と先行している。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPが抗IL-5抗体などの承認を支持
(2017年11月10日発表)

欧州の薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議で以下の新薬と適応拡大に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

まず、新規活性成分では、アストラゼネカグループのメディミューンが協和発酵キリングループのBioWaからライセンスした抗IL-5受容体アルファチェーンPOTELLIGENT抗体、Fasenra(benralizumab、協和発酵キリンの開発コードKHK4563)。好酸球増多型の重度喘息症で吸入ステロイドとベータ2作用剤を併用しても増悪を十分に防げない患者のステップアップセラピーに用いる。日米でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、Ocrevus(ocrelizumab)はロシュの抗CD20抗体トリオの第三弾。Rituxan(rituximab)は定常領域をヒトのアミノ酸配列に置換したキメラ抗体、Ocrevusは可変領域の一部も置換したヒト化抗体、Gazyva(obinutuzumab)もヒト化抗体だが結合するエピトープが異なり、また、BioWaのPOTELLIGENTと異なる技術を用いてフコースのない糖鎖を作り抗体依存的細胞毒性を向上、という違いがある。

適応は再発型あるいは一次進行型の多発性硬化症。Rituxanより免疫性副作用が小さいため、元々はリウマチ性関節炎など幅広い分野で臨床開発が行われたが、アジアの施設で日和見症候群が発生したのを機に戦線縮小した。再発型の臨床試験では再発率がアムジェンのAvonexより46%低く、一次進行型試験では12週間の障害進行リスクが偽薬比24%小さかった。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

シャイアが子会社化したバクスアルタのAdynovate(rurioctocog alfa pegol)はA型血友病の血液凝固第VIII因子補充療法。頻繁に出血する患者は定期的に投与するルーチン予防を受ける。同社のAdvateは週3~4回の投与が必要だが、Nektar(Nasdaq:NKTR)の技術を用いてPEG化したAdynovateなら週2回で足りる。もっと少ない製品も存在するが、Advateを使っている患者がスイッチするには適しているかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのCMV(サイトメガロウイルス)治療・予防薬Prevymis(letermovir)は前後して米国で承認されたため、後述する。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を再発性CD30陽性皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)に用いることが支持された。欧州などでの権利を持つ武田薬品が申請したもの。前後して米国で承認されたため、後述。

新製剤では、Dr. Falk Pharma GmbHのJorveza (budesonide)が好酸球性逆流性食道炎治療薬として支持された。様々な用途で用いられているステロイドの口内分散錠で、投与すると90%の患者で食道から好酸球がいなくなる。希少疾患用薬指定されており、加速評価を受けた。

リンク: EMAのプレスリリース

再審制度に基づき二回目の審査を受けた品目では、Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq: VNDA)の非定型向精神薬、Fanaptum(iloperidone)は、再び否定的意見となった。統合失調症治療薬として承認申請されたが、副作用や薬物相互作用リスクと効果のバランスを取るのが難しく、CHMPの評価によれば効果が小さく作用のオンセットが遅く、QT延長リスクがある。

FDAは09年に承認したが、QT延長リスクや用量漸増期間の長さを考慮して、他の薬の使用を先に検討するよう推奨した。

【承認】


MSDのCMV用薬が承認
(2017年11月9日発表)

MSDは、FDAがPrevymis(letermovir)をサイトメガロウイルス(CMV)治療・予防薬として承認したと発表した。12月に発売予定。

同種造血幹細胞移植を受けた、CMV抗体陽性の成人患者に一日一回、経口又は静注投与する。移植後約100日間続ける。臨床試験では臨床的に重要なCMV感染症の発生率(24週間)が37.5%と偽薬群の60.6%を下回った。死亡率は各群12%と28%だった。副作用は嘔吐と咳、末梢浮腫など。催不整脈性を持つ模様だ。

quinazolinesという新クラスの抗ウイルス剤で、CMVのテルミナーゼ複合体を阻害する。バイエルの感染症治療薬部門がスピンアウトしたドイツのAiCuris GmbHから12年に開発商業化権を取得した。

リンク: MSDのプレスリリース

第二のB型肝炎ワクチンが承認
(2017年11月9日発表)

Dynavax Technologies(Nasdaq:DVAX)は、FDAがHeplisav-Bを承認したと発表した。B型肝炎ウイルスの表面抗原とTLR9アゴニストを結合したワクチンで、18歳以上の大人が適応になる。B型肝炎ワクチンの承認はGSKのEngerix-B以来、四半世紀ぶり。

Dynavaxは07年にMSDにアウトライセンスしたが翌年、解消。臨床試験でウェゲナー肉芽腫が発生してクリニカルホールドになったり、心血管イベントに偏りが発生したりして開発や承認審査に時間がかかったが、承認申請から足掛け5年、やっと承認された。

Engerix-Bは市販歴が長く、新生児も含めて乳幼児にも使えるので、Heplisav-Bの対象は、接種歴を持たない、二型糖尿病などの高リスク患者ということになる。長所は、3回接種ではなく2回接種で同程度の予防効果を期待できること。

リンク: Dynavaxのプレスリリース

アドセトリス、CTCLにも承認
(2017年11月9日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を再発性の原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫やCD30陽性菌状息肉腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。どちらも皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の一般的なサブタイプ。上記のEMAのプレスリリースでは皮膚T細胞リンパ腫と記されているが、米国はシアトル・ジェネティクスが承認申請した時のプレスリリースも今回もこの二タイプを特定しており、FDAに適応を削られた訳ではなさそうだ。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

ゼルボラフがBRAF-V600変異陽性エルドハイム・チェスター病に承認
(2017年11月6日発表)

FDAは、ロシュのZelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)をBRAF-V600変異を持つエルドハイム・チェスター病(ECD)の治療に用いる適応拡大を承認した。ECDは白血球の一種である組織球が異常増殖する超希少疾患で米国の患者数は500人以下とされる。V600変異は二人に一人が該当する。ZelborafはPlexxikon(後に第一三共が買収)からライセンスしたBRAF阻害剤で11年にBRAF-V600変異を持つ転移性切除不能悪性黒色腫用薬として承認されている。

適応拡大の根拠となったバスケット試験はBRAF-V600変異を持つ癌を発生部位を問わずに組入れたもの。ECD患者では最良総合反応率が54.5%だった。Keytrudaのマイクロサテライト不安定性腫瘍のように、原発部位ではなく遺伝子シグナチュアに基づいてスクリーニングする手法が少しずつ出始めている。今回のような超希少疾患の場合は、様々な病気を一度に試験することで開発費用や期間を効率化できるのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

アレセンサも一次治療承認
(2017年11月7日発表)

ロシュは、Alecensa(alectinib、和名アレセンサ)をALK陽性の局所進行性転移性非小細胞性肺癌の一次治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。臨床試験ではPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価委員会が査読)がメジアン25.7ヶ月と、一次治療が承認されている類薬であるファイザーのXalkori(crizotinib)の10.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.50、統計的に有意だった。

Alecensaは中外製薬が創製したALK阻害剤で、ALK阻害活性や中枢神経移行性がXalkoriより高く、特に脳転移に対する効果が高い。

リンク: ロシュのプレスリリース






今週は以上です。

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2017年11月5日

2017年11月5日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 先天性TTRアミロイドーシス用新薬二剤の第三相が成功 
  • アストラゼネカの抗IL-13抗体も第三相フェール 
  • ノバルティス、CAR-Tの適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会が長期放出性ブプレノルフィンを支持 
  • MSD、キイトルーダの適応拡大申請を撤回 
  • アストラゼネカのBTK阻害剤が米国で承認 
  • ボシュロム、緑内障治療薬が米国で承認 


【新薬開発】


先天性TTRアミロイドーシス用新薬二剤の第三相が成功
(2017年11月2日発表)

遺伝子アンチセンス技術に基づく新薬開発で鎬を削る二社が、先天性トランスサイレチン(hATTR)アミロイドーシス治療薬の第三相試験を相次いで成功させた。米国東海岸ケンブリッジのAlnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)と西海岸のIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)だ。どちらも2018年に欧米で発売される可能性がある。データを見比べるとAlnylamの開発品のほうが効果や安全性が高そうにみえる。

。hATTRアミロイドーシスは遺伝子変異したトランスサイレチンが様々な臓器に蓄積し障害を与える。AlnylamのALN-TTR02(patisiran)はsiRNA。特定のメッセンジャーRNAを沈黙させることでトランスサイレチンの生産を抑制する。治験では一回投与で最大94%減少した。

第三相試験はポリニューロパチーを合併するステージI/IIの患者225人を試験薬群2、偽薬群1の割合で無作為化割付して、mNIS+7(Modified Neuropathy Impairment Score)やQOL-DN(Norfolk-Quality of Life-Diabetic Neuropathy)の変化などを比較した。試験薬は0.3mg/kgを三週間毎に70分点滴静注。日本の大学病院も参加した模様だ。

結果はパリで開催された第一回欧州ATTRアミロイドーシス患者医師会議で発表された。主評価項目のmNIS+7は試験薬群が6.0ポイント低下(改善)、偽薬群は28.0ポイント増加、治療効果は34.0で統計学的に有意。二次的評価項目であるQOL-DNは各6.7ポイント低下と14.4ポイント上昇で治療効果21.1、統計的に有意。深刻な有害事象の発生率は36.5%で偽薬群の40.3%を上回らなかった。下痢、心不全、起立性低血圧、肺炎、心室ブロックなどが中心で、下痢以外は試験薬関連とはみなされなかった。

Ionisの開発品は後述のように肝腎毒性や血小板減少リスクが見られるが、patisiranの試験では見られなかった。

Alnylamは年内に米国で、来年には日本やブラジルでも、承認申請する予定。希少疾患用薬の研究開発でサノフィのジェンザイム部門と協業しており、patisiranは北米や欧州ではAlnylamが、日本などそれ以外の地域はジェンザイムが、開発販売を担当する。

リンク: Alnylamのプレスリリース

IonisのIONIS-TTRRx(inotersen)はトランスサイレチンの遺伝子翻訳を阻害するアンチセンス薬。こちらの第三相もポリニューロパチーを合併する患者を試験薬群と偽薬群に2対1割付して、mNIS+7とQOL-DNの変化を比較した。組入れは約170人、投与方法は週一回皮注。

15ヶ月治療後の治療効果は、共同主評価項目の一つであるmNIS+7が19.7ポイント。もう一つのQOL-DNは11.68ポイントで、試験薬群は0.99ポイント増加、偽薬群は12.67ポイント増加した。

二本の試験のQOL-DNに注目すると、偽薬群の数値は大差ないので患者背景が大きく異なるとは考えにくい。patisiranとinotersenの差はinotersenと偽薬の差とそれほど変わらないので、もし直接比較試験が行われたならば統計的に有意な差が出るかもしれない。

もう一つ差があるのが安全性。inotersenの試験では試験薬群で5人死亡、偽薬群はゼロだった。5人中4人は病気の進行に伴うもので試験薬との関連はないと判定されたが、頭蓋内出血後の死亡例は関連が疑われる。深刻な有害事象は血栓性血小板減少症や腎障害が数例報告されたが、早期に発見し対応するプロトコルの導入後は深刻例が稀になったとのこと。

Ionisは欧州で承認申請した。米国でも申請する予定。開発販売提携も模索する考え。10年にグラクソ・スミスクラインがライセンス・オプションを取得したが、研究開発分野を絞り込む戦略変更に伴い、行使しなかった。

リンク: Ionisのプレスリリース
リンク: 同(欧州承認申請、11/3付け)

セルジーン、S1PR1/5調節剤の第三相成功
(2017年10月28日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、S1PR1/5調節剤ozanimodの第三相再発型多発性硬化症試験、RADIANCEの結果をECTRIMS-ACTRIMSで発表した。0.5mgまたは1mgを一日一回投与する二群の年率再発率(ARR)をAvonex(interferon beta-1a)と比較したところ、各0.22、0.17、0.28となり、両用量とも有意に少なかった。

類似した内容のSUNBEAM試験も成功しており、二本の独立した試験で再発予防効果が確認されたことになる。一方、障害の進行を遅らせる効果を確認する目的で行われた二本の試験のプール分析は、3ヶ月EDSS進行率が各群6.5%、7.6%、7.8%となり、有意差がなかった。セルジーンは年内に承認申請する計画。

15年にReceptos社を72億ドルで買収して入手したコンパウンドで、S1PR調節剤の第一号であるノバルティス/田辺三菱のGilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)と異なりS1PR3作用を持たないため、心血管・肝臓副作用が小さい可能性がある。EDSS進行抑制作用はベータインターフェロンと大差ないようだが、Gilenyaの試験も有意差がなかったので、減点にはならないだろう。

リンク: セルジーンのプレスリリース

アストラゼネカの抗IL-13抗体も第三相フェール
(2017年11月1日発表)

アストラゼネカはCAT-354(tralokinumab)の第三相喘息症試験が二本ともフェールしたと発表した。

以前に実施した第三相試験のサブグループ分析でFeNO(呼気一酸化窒素)上昇患者では増悪が減少したため、このタイプだけを組入れて新たに増悪予防試験と経口ステロイド減量試験を開始した経緯がある。CAT-354はIL-13を標的とする抗体医薬なので、IL-13の活動性更新と関連するFeNO値に基づいてスクリーニングするのは一理あったのだが、奏功しなかった。

抗IL-13抗体ではロシュのRG3637(lebrikizumab)も喘息症第三相試験が一勝一敗だった。ペリオスチン濃度を応答性予測因子に使えるという話もあったが、ワークしなかったのか、この用途は開発中止になった。

どちらもアトピー性皮膚炎など皮膚学用途で他社がインライセンスし開発中。今年、欧米でアトピー性皮膚炎薬として承認されたリジェネロン/サノフィのDupixent(dupilumab)はIL-4とIL-13の受容体の共通部位を標的としており、抗IL-13抗体もメカニズム的には可能性がありそうだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


ノバルティス、CAR-Tの適応拡大申請
(2017年10月31日発表)

ノバルティスはKymriah(tisagenlecleucel)を再発性難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に用いる適応拡大をFDAに承認申請した。8月に米国で難治性再発性の前駆B急性リンパ性白血病(Pre-B ALL)に承認されたばかり。

キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法と呼ばれる新しいタイプの薬で、B細胞特異的に発現するCD19に結合する抗体の単鎖可変領域やTCR共刺激伝達領域を患者から採取したT細胞に導入して、体内に戻すと、抗原提示不要でB細胞を攻撃する。ノバルティスはペンシルバニア大学から開発販売権を取得した。

ライバルはギリアド・サイエンシズが119億ドルで買収したKite PharmaのYescarta(axicabtagene ciloleucel)で、10月に再発性難治性DLBCL用薬として承認されたところ。市場性はこの用途のほうが大きく、ノバルティスはキャッチアップする恰好だ。

Kymriahの薬剤費は47.5万ドル。寛解率が高く、費用も骨髄移植は80万ドルとのことだが、悩ましいほど高価だ。ノバルティスは1ヶ月以内に癌が反応しなかったら無料というPay-for-Performanceディールを米国の医療保険向けにオファーしており、日本でも検討している模様。DLBCL用途は反応率がPre-B ALLより低いのでノバルティスは別のアレンジメントを考えている模様だが、ギリアドの出方に左右される面もありそうだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が長期放出性ブプレノルフィンを支持
(2017年10月31日、11月1日発表)

FDAの精神薬理学薬諮問委員会と薬品安全性リスク管理諮問委員会は、オピオイド使用障害(OUD)の治療補助薬として承認申請されたブプレノルフィンの長期管理放出製剤二剤を検討し、過半数の委員が承認を支持した。

米国はオピオイド系鎮痛剤が大量に消費されており、多くは疼痛治療目的ではなく遊びやオピオイド依存と言われる。キチッと規制すれば良さそうなものだが、医療や薬局の規制は州政府の管轄であり、規制の緩い一部の州にオピオイド処方箋数が集中しているらしい。過剰投与による死亡も多く、50歳以下の死因としては一番多いとのことだ。

薬物療法で良く用いられるbuprenorphine舌下錠の代替として開発されたのが今回の二剤。英国のIndivior社(LSE:INDV)が承認申請したRBP-6000は月一回皮注のデポ製剤で、サノフィのEligard(leuprolide、日本ではアステラスのエリガード)などと同じATRIGEL管理放出技術を用いている。諮問委員会では18人が承認を支持、1人が反対。300mgをずっとではなく、3回目からは100mgに減らす用法が支持された。審査期限は11月30日。

尚、Indiviorはレキット・ベンキーザーでbuprenorphine舌下錠などを販売していた部門が14年にスピンアウトして設立された会社。

リンク: Indiviorのプレスリリース(10/31付け)

米国のBraeburn Pharmaceuticalsが承認申請したCAM2038は体内で液体から結晶性ゲルに変わり、徐々に分解して内部の活性成分を放出する。14年にスエーデンのCamurus AB(NASDAQ STO: CAMX)からインライセンスした。週一回または月一回、皮注。諮問委員会では17人が一部の用量を除いて承認に賛成、3人が全用量反対だった。審査期限は来年1月19日。

リンク: Braeburnのプレスリリース(11/1付け)

MSD、キイトルーダの適応拡大申請を撤回
(2017年10月27日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療にpemetrexed及びcarboplatinと併用する適応拡大を欧米で承認申請し、米国では5月に承認されたが、EUは撤回した。承認後薬効確認試験のデザインを変更し全生存期間の解析を共同主評価項目にしたことも公表されたので、おそらく、EUは延命効果が未確認であることに難色を示しているのだろう。

この承認申請はKEYNOTE-021試験のGコフォートのORR(客観的反応率)とPFS(無進行生存期間)に基づくもので、前者は55%とpemetrexedとcarboplatinの二剤だけを用いる標準療法の29%を有意に上回り、PFSのハザードレシオは0.53で統計的に有意、メジアンは13.0ヶ月対8.9ヶ月だった。治療関連深刻有害事象の発生率は39%対26%で副作用も増加した。

全生存期間はメジアン10ヶ月追跡時点のハザードレシオが0.90、14ヶ月時点は0.69、18ヶ月時点で0.59と徐々に良い数値に変わっていったが、検出力不足で95%信頼期間は0.34-1.05と広く、有意差が出ていない。

抗癌剤は深刻な副作用リスクを伴うので体の一部に過ぎない腫瘍部位だけを見て功罪を判定することはできない。副作用で死亡するリスクと天秤にかけるためには、功罪差し引きで寿命が延びることを証明するのが望ましい。再発治療に関しては贅沢を言えないかもしれないが、一次治療で既に薬が存在するなら明確な延命効果が欲しいところである。

しかし、FDAは近年、今回のKeytrudaのようにPFSだけで承認するケースが増えてきた。癌の種類や治療段階、その医薬品の他の治療段階における効果などに基づいてケースバイケースで判断しているのだろう。決め打ちすれば空振りも増加するので善し悪しである。例えば、Keytrudaは頭頚部癌の承認後薬効確認試験がフェールしてしまった。難しい判断なので承認審査機関によって異なっても不思議はない。

MSDは、021試験と類似した内容の第三相KEYNOTE-189の解析計画を変更し、PFSだけでなく全生存期間も主評価項目とすることを明らかにした。年内にデータベースロック、18年にも成否判明するはずだったが、19年に遅れることになった。

KeytrudaはBMSのOpdivo(nivolumab)と並ぶ抗PD-1抗体の双璧だが、肺癌一次治療ではOpdivoに差を付けており、Keytrudaの米国需要の過半を占めるようになった。それだけに、Opdivoやロシュやアストラゼネカの抗PD-L1抗体には追い付くチャンスが生まれた。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


アストラゼネカのBTK阻害剤が米国で承認
(2017年10月31日発表)

FDAはアストラゼネカのCalquence(acalabrutinib)をマントル細胞リンパ腫の二次治療薬として加速承認した。承認申請受理が8月、審査期限は来年第1四半期だったのでスピード承認だ。第二相試験の独立評価委員会評価に基づくORR(客観的反応率)に基づくもので、完全寛解率40%、部分反応率41%、合計81%だった。深刻な有害事象は出血、感染症、心房細動、二次性原発腫瘍など。bendamustine及びrituximabと併用で承認後薬効確認試験が進行中。

15年にAcerta Pharmaを子会社化して入手したBTK阻害剤で、B細胞の増殖、移行、走化性、接着に関わるBruton tyrosine kinaseを阻害する。一日二回、経口投与。BTK阻害剤としては13年に米国で承認されたジョンソン・エンド・ジョンソン/アッヴィのImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)に次ぐ第二号だが、マントル細胞リンパ腫におけるORRはImbruvicaの試験より高く、忍容性も上回るように見える。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ボシュロム、緑内障治療薬が米国で承認
(2017年11月2日発表)

Valeant Pharmaceuticals(NYSE:VRX)の完全子会社であるボシュロムとフランスの眼科用薬開発会社Nicox(Euronext Paris:COX)は、FDAがVyzulta(latanoprostene bunod)点眼液を承認したと発表した。開放隅角緑内障または高眼圧症の眼内圧治療に用いる。第三相試験ではtimolol maleateと降圧作用が非劣性で、優越性の解析でもpが0.05を下回った。

点眼後にプロスタグランジンF2アルファと酸化窒素に分離する、NO供与薬。2010年にボシュロムがライセンスしたもので、NicoxのNO供与技術を用いた薬が米国で承認されたのは初めて。

リンク: Valeantのプレスリリース






今週は以上です。

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2017年10月29日

2017年10月29日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アッヴィの抗IL-23p19抗体も第三相試験成功 
  • アムジェン、CETP阻害剤の自社開発を断念 
  • ロシュ、アバスチンの卵巣癌一次治療適応拡大を申請 
  • atalurenはやっぱり承認されず 
  • GSKの帯状疱疹ワクチンが米国で承認 
  • ソリリス、重症筋無力症に承認 
  • EU、Zinbryta(daclizumab)の規制を強化へ 


【新薬開発】


アッヴィの抗IL-23p19抗体も第三相試験成功
(2017年10月26日発表)

アッヴィはABBV-066/BI 655066(risankizumab)の第三相中重度乾癬治療試験が成功したことを明らかにした。偽薬や実薬とPASI90奏効率を比較したもので、ジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab、和名ステラーラ)を投与する群が設定された二本は何れも75%となり偽薬群(一本は2%、もう一本は5%)やStelara群(42%と48%)を上回った。Humira(adalimumab)対照試験では72%対47%で有意に上回った。

IL-23はTh17細胞が誘導する免疫に関与するサイトカインで、活性化した抗原提示細胞が発現し、T細胞をTh17細胞に分化させる。StelaraはIL-23とIL-12のサブユニットであるp40に結合するがrisankizumabはIL-23だけに関わるp19サブユニットに結合するヒト化抗体で、IL-12阻害に伴う有害事象を誘導しにくい可能性がある。

16年にベーリンガー・インゲルハイムから共同開発商業化権を取得したもの。Humiraで皮膚科チャネルに実績を持つアッヴィが販売、ベーリンガーは喘息症領域でコプロモするオプションを留保している。抗IL-23p19抗体は7月にジョンソン・エンド・ジョンソンのTremfya(guselkumab)が米国で承認、MSDのMK-3222(tildrakizumab)が欧米で承認審査中と、開発競争が活発化している。

リンク: アッヴィのプレスリリース

アムジェン、CETP阻害剤の自社開発を断念
(2017年10月25日発表)

アムジェンは、17/12期第3四半期決算発表リリースの中で、AMG 899の開発を断念し導出する考えであることも明らかにした。13年に田辺三菱製薬がオランダのデジマファーマに導出したCETP阻害剤で、アムジェンは15年にデジマを買収したばかりだが、MSDのanacetrapibの心血管アウトカム試験がフェールしたため見切りを付けた。

リンク: アムジェンのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、アバスチンの卵巣癌一次治療適応拡大を申請
(2017年10月26日発表)

ロシュは、Avastin(bevacizumab)を末期卵巣癌の一次治療に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理されたと発表した。審査期限は来年6月25日。carboplatinとpaclitaxelのコースに併用し、終了後はAvastinだけの維持療法を続ける。GOG-0218試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン18.2ヶ月間とcarboplatin・paxlitaxelだけのコースの12.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.64で統計的に有意な差があった。

欧州や日本では既に承認されているが、米国はAvastinのPFS延長効果が必ずしも延命効果につながらないことからFDAが慎重なスタンスを取っており、適応拡大が遅れている。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


atalurenはやっぱり承認されず
(2017年10月25日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はTranslarna(ataluren)をナンセンス変異を持つデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として開発、EUでは14年に条件付き承認を取得したが、米国はFDAから審査完了通知を取得したことが発表された。第三相試験がフェールしたこと、承認申請を断行したがFDAに受理されず不服申立て手続きに訴えたこと、諮問委員会で11人の委員中10人が薬効確認不十分と判定したことを考えれば、意外感はない。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの多くはジストロフィン遺伝子に機能喪失変異を持つ。Translarnaは、変異により生まれた翻訳終了箇所を示す塩基配列を「読み過ごす」よう仕向ける作用を持つと考えられているが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーや嚢胞性線維症の臨床試験がフェールしたため、疑義も生じている。

リンク: PTCのプレスリリース

【承認】


GSKの帯状疱疹ワクチンが米国で承認
(2017年10月23日発表)

グラクソ・スミスクラインはShingrixが米国で承認されたと発表した。遺伝子組換え型帯状疱疹ワクチンで、MSDのZostavaxのような生ワクチンではなく、AS01Bアジュバントで免疫原性を強化している。Zostavaxは60歳以上が対象だがShingrixは50代に対する効果も確立しており、また、70歳以上でも効果が落ちない。二回接種で、合わせて280ドルで販売される模様。

ACIPワクチン委員会も50歳以上に接種を勧奨した。Zostavaxとどちらを選好すべきかも採決になり、15人の委員のうち8人がShingrixを選んだ。

Shingrixは昨年11月にEUで、今年4月には日本でも、承認申請された。

リンク: GSKのプレスリリース(10/23付)
リンク: 同(ACIP勧奨について、10/25付)

ソリリス、重症筋無力症に承認
(2017年10月23日発表)

カナダのアレクシオン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Soliris(eculizumab、和名ソリリス)を難治性全身性重症筋無力症の治療に用いる適応拡大をFDAが承認したと発表した。神経筋接合部のアセチルコリン受容体を攻撃する自己免疫抗体を持つ患者が適応になる。米国の全身性重症筋無力症患者6~8万人のうち5~10%が対象になる模様。

EUでは今年8月に承認。日本でも3月に効能追加申請されたところ。

リンク: アレクシオンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EU、Zinbryta(daclizumab)の規制を強化へ
(2017年10月27日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの薬物監視・リスク評価委員会、PRACは、Zinbryta(daclizumab)の適応や肝機能監視を厳格化することを勧告した。医薬品科学的評価委員会であるCHMPの検討を経て実施される見込み。

ZinbrytaはIL-2の受容体のアルファチェーン、CD25に結合するヒト化抗体で、再発寛解型多発性硬化症の治療に用いる。規制強化の原因は自己免疫性肝障害のリスク。臨床試験では1.7%の患者で深刻な肝反応が発生、致死例もあった。自己免疫性なので予測は困難、投与を止めた後も6ヶ月間は発症の可能性がある。

PRACは、適応を二種類の疾病緩和的薬を試みても十分に反応せず他に適当な薬がない患者に限定し、治療開始前から終了の6ヶ月後まで少なくとも月一回の肝機能検査を行うことを勧奨した。

内容的にはEUと前後して承認した米国の適応・検査頻度を踏襲した格好だ。

Zinbrytaはアッヴィとバイオジェンが共同開発販売。活性成分はロシュが臓器移植時の免疫抑制剤として発売したことがあるが、商業上の理由で打ち切られた。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

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2017年10月22日

2017年10月22日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • JNJ、抗IL-6抗体と抗CD123抗体でセットバック 
  • セルジーン、クローン病用薬の第三相を中間解析で打ち切り 
  • テバも抗CGRP抗体を承認申請 
  • BMS、オプジーボの黒色腫再発予防を適応拡大申請 
  • アストラゼネカ、抗PD-L1抗体を肺癌維持療法に適応拡大申請 
  • アストラゼネカ、PARP阻害剤を転移性乳癌に適応拡大申請 
  • VEGFR阻害剤が腎細胞腫一次治療に適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会がsemaglutideの承認を支持 
  • FDAが第二のCAR-Tを承認 



【新薬開発】


JNJ、抗IL-6抗体と抗CD123抗体でセットバック
(2017年10月17日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗IL-6完全ヒト化抗体のCNTO 136(sirukumab)を中重度リウマチ性関節炎の治療薬として日米欧で承認申請していたが、断念することを決めた。2017年第3四半期決算に関するプレスリリースの中で公表したもの。

8月に開催されたFDA関節炎諮問委員会では13人の委員のうち12人が承認に反対した。臨床試験で100人年当りの死亡率が50mg群(4週毎皮注)で0.5、100mg群(2週毎皮注)で0.8と、偽薬群の0.2を大きく上回ったため。類薬が既に存在することもあり、FDAは安全性の確認が不十分と判定、審査完了通知を送付した。

CNTO 136はグラクソ・スミスクラインが共同開発していたが、今年7月に、パイプラインの選択と集中戦略に基づいて権利を返還した。

IL-6や受容体を標的とする抗体医薬は中外/ロシュのActemra(tocilizumab)が代表格で、リジェネロン/サノフィのKevzara(sarilumab)も今年、欧米で承認された。JNJも抗IL-6キメラ抗体のSylvant(siltuximab)が多発骨髄腫用薬として欧米で14年に承認されている。

JNJは、JNJ-56022473/CSL362(talacotuzumab)の臨床試験中止も発表した。オーストラリアのCSLがXencor(Nasdaq:XNCR)の固定領域改変技術を用いて創製しヤンセンにライセンスした抗CD123抗体で、急性骨髄性白血病のP2/3段階だった。理由は開示されていないが、CD3とCD123に結合するバイスペシフィック抗体のJNJ-63709178は、昨年、クリニカルホールドになった。

CD123を標的とする抗体医薬では、協和発酵キリンのポテリジェント抗体、KHK2823も第一相段階。

リンク: JNJのプレスリリース

セルジーン、クローン病の第三相を中間解析で打ち切り
(2017年10月19日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)はGED-0301(mongersen)の第三相クローン病試験を中止すると発表した。データ監視委員会が中間無益性評価に基づき勧告したもの。安全性に関しては群間の大きな偏りは見られなかったとのこと。二本目の第三相試験の開始は見送りになった。セルジーンは第二相潰瘍性大腸炎試験の全分析結果を待って次の方策を決定する考え。

GED-0301は、免疫抑制的サイトカインであるTGF-ベータ1の細胞内シグナル伝達を阻害するSMAD7を標的とする、核酸アンチセンス薬。アイルランドのNogra Pharmaから頭金7.1億ドルと開発販売目標達成金最大18.65億ドルで世界独占開発販売権を取得したもの。NEJMに論文刊行された第二相試験は良さそうな結果だったが、意外な転帰になった。

リンク: セルジーンのプレスリリース


【承認申請】


テバも抗CGRP抗体を承認申請
(2017年10月17日発表)

テバ(NYSE:TEVA)は米国でTEV-48125(fremanezumab)を片頭痛予防薬として承認申請したことを発表した。アムジェンを皮切りに各社が続々と承認申請する見込みの抗CGRP抗体の一つで、偏頭痛発作時に増加し鎮静化すると減少する、片頭痛に関与している可能性のあるcalcitonin gene-related peptideを標的としている。

ジェネンテックの中枢神経系スピンアウトであるRinatがRN-307として開発していたもので、Rinatを買収したファイザーが導出した企業をテバが14年に頭金2億ドルと後発債務6.25憶ドルで買収し入手した。

リンク: テバのプレスリリース

BMS、オプジーボの黒色腫再発予防を適応拡大申請
(2017年10月16日発表)

BMSはOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の適応拡大をFDAに申請し、受理されたことを明らかにした。ステージIIIbからIVまでの黒色腫の完全切除後に、高リスク患者の再発予防に用いる。エビデンスとなるCheckMate-238試験は中間解析で目的を達成。対照薬であるYervoyと比べて、無再発生存のハザードレシオが0.65と有意に優れていた。有害事象による治験離脱率は9.7%とYervoy群の42.6%を下回り、症例数906人のうち、治療関連の死亡はゼロだった(Yervoy群は2人)。

優先審査を受ける。審査期限は公表されていない。

リンク: BMSのプレスリリース

アストラゼネカ、抗PD-L1抗体を肺癌維持療法に適応拡大申請
(2017年10月17日発表)

アストラゼネカはImfinzi(durvalumab)を切除不能非小細胞性肺癌で化学放射線療法後の維持療法に用いる適応拡大を米国で承認申請し受理された。優先審査を受ける。審査期限は公表されていない。

承認申請の根拠となった第三相試験(日本の施設も参加)は、ステージIIIの非扁平上皮非小細胞性肺癌で白金薬レジメンによる一次治療と放射線療法を受けて疾病安定化あるいは部分・完全反応だった患者をImfinzi群と偽薬群に無作為化割付した。PD-L1発現は不問。結果は、Imfinzi群のPFS(無進行生存期間)がメジアン16.8ヶ月、偽薬群は5.6ヶ月となり、ハザードレシオは0.52、統計的に有意だった。共同主評価項目である全生存の解析は今後、行われる。

この用途で承認されればPD-L1/PD-1を標的とする抗体医薬では初めて。既に腫瘍学領域の代表的なガイドラインであるNCCNガイドラインには9月に採用されたとのこと。MSDのKeytruda(pembrolizumab)は一次治療に承認されているが適応はPD-L1高発現だけ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカ、PARP阻害剤を転移性乳癌に適応拡大申請
(2017年10月18日発表)

アストラゼネカは、Lynparza(olaparib)を転移性乳癌に用いる適応拡大申請をFDAに行い、受理された。優先審査を受ける。審査期限は来年第1四半期。切除後再発予防または転移後にアンスラサイクリン系とタクサン系の薬による前治療歴を持ち(ホルモン陽性癌の場合はホルモン療法も)、生殖細胞系BRCA1/2変異がありher2陰性の転移性乳癌が適応になる。

第三相試験(日本も参加)では第三者査読後のメジアンPFS(無進行生存期間)が7.0ヶ月と化学療法群(capecitabine、vinorelbineまたはeribulin)の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.58、統計的に有意だった。全生存の解析は元々検出力不足で、ハザードレシオ0.90、95%信頼区間0.63-1.29となっている。有害事象による治験離脱は4.9%対7.7%でやや下回り、G3以上の有害事象の発生率も36.6%対50.5%で低かった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

VEGFR阻害剤が腎細胞腫一次治療に適応拡大申請
(2017年10月16日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)はCabometyx(cabozantinib)を腎細胞腫一次治療に用いる適応拡大をFDAに承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は来年2月15日。

承認申請の根拠となった中高度リスクの転移性腎細胞腫を組入れた第二相試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が8.2ヶ月と一次治療の標準療法であるファイザーのSutent(sunitinib)の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、統計的に有意だった。全生存期間の解析は未成熟だがメジアン30.3ヶ月対21.8ヶ月、ハザードレシオ0.80、95%信頼区間0.50~1.26だった。

リンク: Exelixisのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がsemaglutideの承認を支持
(2017年10月18日発表)

FDA内分泌学代謝学薬諮問委員会は、ノボ ノルディスクが二型糖尿病治療薬として承認申請したNN9535(semaglutide)の臨床成績を検討し、17人の委員のうち16人が便益がリスクを上回ると判定した。一人は棄権したが、網膜安全性をもっと検討すべきという見解のようだ。

NN9535は週一回投与型のGLP-1作用剤で、血糖値だけでなく体重も減少する。3297人を組入れた心血管アウトカム試験では、MACE(主要有害心血管イベント)の発生率が6.6%と対照群(8.9%)比で非劣性だった。ポストホック分析だが優越性解析も成功。主として非致死的脳卒中と非致死的心筋梗塞が少なかった。

意外なのは糖尿病性合併症(硝子体出血、失明、治療など)の発生率が3.0%と対照群の1.8%を上回ったこと。特に、治験開始前から糖尿病性網膜症だった患者の発生率が8.2%対5.2%と増加した。

FDAの分析によると血糖値が短期間に上昇あるいは低下すると網膜に悪影響が出る。糖尿病の代表的なアウトカム試験の一つであるDCCTでも、血糖値の強化治療(今日の標準療法)を行った群は当時の標準療法群よりも網膜症が多く発生したが、3年目以降は逆転したとのことだ。網膜合併症の判定方法が必ずしも厳格でなかったこともあり、FDAは重要視していないようだ。他の新薬の心血管アウトカム試験では見られなかった現象なので釈然としないが、一般的に、FDAの判断は信憑性が高い。

ノボはEmisphere TechnologiesのEligen技術を用いてsemaglutideを錠剤化、第三相試験を実施している。GLP-1作用剤の経口剤は初めてなので注目される。

リンク: ノボのプレスリリース


【承認】


FDAが第二のCAR-Tを承認
(2017年10月18日発表)

FDAはYescarta(axicabtagene ciloleucel)を大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬として承認した。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、転換濾胞性リンパ腫(TFL)、そして原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBCL)が適応になる。

ギリアド・サイエンシズが8月に119億ドルで買収したKite Pharmaが承認申請したCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法で、患者からアフェレーシスで採取したT細胞に、B細胞リンパ腫で発現するCD19とT細胞活性化副刺激因子であるCD3ゼータやCD28などを繋げた遺伝子を導入し、患者の体内に戻すと、B細胞を攻撃する。8月に急性リンパ性白血病に承認されたノバルティスのKymriah(tisagenlecleucel)に次ぐCAR-Tの第二号。

報道によると価格は37.3万ドルで、企業買収プレミアム(市場価格に対する上乗せ)を転嫁したのか、想定より高い。Kymriahは47.5万ドルだが白血球アフェレーシスの費用を含んでいて、また、治療に反応しなかったら無料という成果報酬制を医療保険などに提案している。

第二相試験では完全寛解率が51%と、既存のサルベージ療法が5%に留まるのと比べて良い成果を上げた。深刻な有害事象はサイトカイン放出症候群や神経学的毒性。第二相では治療時発現有害事象による死亡が3例あったが、早期に発見して中外/ロシュのActemra(tocilizumab)や抗癲癇薬levetiracetam(UCBのイーケプラの活性成分)で治療するプロトコルを導入した後は改善した模様だ。

日本は今年1月に第一三共が製造開発販売権を取得している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース







今週は以上です。

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2017年10月15日

2017年10月15日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • JNJ、『第二のイクスタンジ』を承認申請 
  • イーライリリー、Verzenioの一次治療適応拡大申請と肺癌適応拡大フェール 
  • 今月のCHMPは新薬なし 
  • 米国初の遺伝子療法が諮問委員会を通過 
  • Rhoキナーゼ阻害剤も諮問委員会を通過 


【承認申請】


JNJ、『第二のイクスタンジ』を承認申請
(2017年10月11日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはARN-509(apalutamide)を非転移性去勢抵抗性前立腺癌用薬として米国で承認申請した。この用途で正式に承認されれば初。

ファーザー/アステラス製薬のXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)と同じ学者が創製した高力価アンドロゲン・シグナル・インヒビターで、JNJは13年に開発会社を一時金6.5億ドル、達成報奨金最大3.5億ドルで買収した。

第三相試験は、前立腺癌のアンドロゲン枯渇療法を施行中にPSA値が急上昇し始めた、しかしまだ転移はしていない患者1200人を組入れて、240mgを一日一回経口投与する群と偽薬群の無転移生存期間を比較した。データは今後、学会発表される予定。

前立腺癌の治療は進行段階に応じて細分化されており、XtandiもJNJのZytiga(abiraterone)も一つ一つ、適応を増やしてきた。ARN-509も今後は他剤とバッティングする用途で開発を進めることになる。Zytigaとの併用がどの程度上手く行くかが注目点の一つになりそうだ。

リンク: JNJのプレスリリース

イーライリリー、Verzenioの一次治療適応拡大申請と肺癌適応拡大フェール
(2017年10月12日発表)

イーライリリーのCDK4/6阻害剤、Verzenio(abemaciclib)は9月に米国でホルモン受容体陽性her2陰性乳癌に承認されたところ。内分泌療法歴を持つ患者にFaslodex(fulvestrant、和名フェソロデックス)と、または、内分泌療法と化学療法歴を持つ患者のサルベージに単剤で、用いる。CDK4/6阻害剤の開発・販売はファイザーやノバルティスが先行しているので適応拡大が急務だが、先週は、一次治療適応拡大申請と肺癌の第三相試験フェールが発表された。

一次治療はアロマターゼ阻害剤併用で、PFS(無進行生存期間)がメジアン16.4ヶ月とアロマターゼ阻害剤だけの群の9.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.55、統計的に有意だった。治療時発現有害事象は好中球減少症や下痢が対照群より多かった。下痢の発生率は他社のCDK4/6阻害剤と見比べてもやや高い。米国で承認申請が受理され、優先審査指定された。

また、欧州や日本で9月に承認申請したことも明らかにされた。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

一方、肺癌適応拡大試験は、変異krasを持つ非小細胞性肺癌の二次・三次治療における効用をロシュのEGFR阻害剤、Tarceva(erlotinib)と比較したが、全生存期間を有意に延長することはできなかった。Tarceva群の成績が過去の治験より良かったとのことだ。データは今後、学会発表される予定。

PFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)では活性が見られた由だが、盲検ではないので、主観的評価より全生存のような客観性の高いデータのほうを信じるべきだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース(10/10付け)


【承認審査・委員会】


今月のCHMPは新薬なし
(2017年10月13日発表)

欧州の薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会議で以下の適応拡大に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。尚、今月はロシュが多発硬化症用薬として申請した抗CD20ヒト化抗体、Ocrevus(ocrelizumab)の結論が期待されたが意見がまとまらなかったようで、画期的新薬に関する肯定的意見はゼロだった。

リンク: EMAのプレスリリース

まず、ジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤、Zytiga(abiraterone)。転移性ホルモン感受性前立腺癌で高リスクの新患にアンドロゲン枯渇療法(ADT)と併用することが支持された。癌の進行の早い段階で用いることができるようになり、対象患者数が広がる。日米でも適応拡大承認審査中。

現在の適応は、ADTがフェールしたが症状は未だない、あるいは軽いため化学療法が適応にならない患者と、ADTも化学療法(docetaxel)も受けたが進行した患者。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、中外製薬が創製し海外ではロシュが販売するAlecensa(alectinib)。現在は、同じALK阻害剤であるファイザーのXalkori(crizotinib)がフェールしたALK陽性非小細胞性肺癌に承認されているが、二次治療限定を解除することが支持された。日本で実施されたJ-ALEX試験がエビデンス。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカがBMSから買収したGLP-1作用剤、Bydureon(exenatide、和名ビデュリオン)は二型糖尿病治療薬として承認されているが、基礎インスリンに併用することも支持された。Byetta(exenatideの即放製剤)の開発段階で実施された試験の成績が悪く、インスリンを減らしてGLP-1作用剤で補うのは難しい印象があったが、用量に注意すれば不可能ではないのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

米国初の遺伝子療法が諮問委員会を通過
(2017年10月12日発表)

FDAのCTGT(細胞、組織、遺伝子療法)諮問委員会は、Spark Therapeutics(Nasdaq:ONCE)が承認申請したLuxturna(voretigene neparvovec)の臨床成績を検討し、16人の諮問委員全員が便益がリスクを上回ると判定した。承認審査期限は来年1月12日。Spark社はフィラデルフィア小児病院(CHOP)の遺伝子治療研究を商業化するために設立された会社。遺伝子療法が承認されれば米国初。

適応・効能は、両アレルRPE65調停性遺伝性網膜疾患による視力低下の改善。RPE65は光を感じるのに必要なレチナールのリサイクルに係る遺伝子で、変異があると視力が次第に低下する。患者数は欧州5ヶ国と米国で合わせて3500人と推定されている。Luxturnaはアデノ随伴ウイルスをベクターとしてRPE65遺伝子を網膜下に導入する。臨床試験では一回だけ投与した。

第三相試験ではMLMTという新しい検査方法を用いて薬効を評価した。暗い部屋の中で矢印などに従ってドアまで歩行する能力を様々な光量の下でテストするもので、試験薬群は偽薬群を1.6点上回り、統計的に有意な差があった。偽薬対照試験終了後に偽薬群からクロスオーバーした患者も含めると29人中27人で改善が見られた。視力は偽薬比9文字改善したが統計的に有意ではなかった。臨床試験全体で深刻な有害事象は施術関連中心窩間伐による視力低下と細菌性眼内炎の二例。軽中度の副作用も、専ら、注射に伴うものだった。

FDAは、MLMTで1.6点という治療効果が臨床的に重要であるかどうか、そして、深刻副作用に配慮して対象を限定すべきかどうか(年齢制限や、効果が小さいので進行した患者を除外するなど)を諮問したが、諮問委員の評価は概ね良好だった。

リンク: Sparkのプレスリリース

Rhoキナーゼ阻害剤も諮問委員会を通過
(2017年10月13日発表)

FDA皮膚科眼科用薬諮問委員会は、Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)が承認申請したRhopressa(netarsudil mesylate)を検討し、薬効に関しては10人全員が、便益がリスクを上回るかどうかは9人が、支持した。大きな問題はなさそうなので来年2月28日の審査期限までに承認されるのではないか。

緑内障の治療に用いるRhoキナーゼ阻害剤の点眼液で、一日一回投与で足りることが特徴。効果は完璧ではなく、第三相試験の一本目は降圧作用がtimolol比非劣性ではなかった。サブセグメント分析で眼圧が26mmHg以上の患者(緑内障の新患の2割が該当)の成績が見劣りしたため、二本目の試験の解析対象を20~25mmHgの患者だけに変更したところ、非劣性解析に成功した。従って、26mmHg以上は適応外とされるだろう。

効果がやや弱い場合は増量を考えることになるが、Rhopressaは一日二回投与試験のドロップアウトが多かったので、無理そうだ。18年に米国で承認申請する予定のlatanoprost配合剤は、眼圧が各活性成分だけより2~3mmHg大きく低下するので、高眼圧患者の代替的選択肢になりそうだ。

リンク: Aeria社のプレスリリース





今週は以上です。

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2017年10月8日

2017年10月8日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • aTTP治療薬の第三相が成功 
  • iclaprim、10年を経て再承認申請へ 
  • イグザレルト、ESUS試験はフェール 


【新薬開発】


aTTP治療薬の第三相が成功
(2017年10月2日発表)

ベルギーのAblynx(Euronext Brussels:ABLX)は、ALX-0081(caplacizumab)の第三相試験が成功したと発表した。後天性血栓性血小板減少性紫斑症(aTTP)の急性期治療効果を検討したもので、主評価項目である血小板数正常化までの期間が偽薬比有意に短かった。数値は未発表。

臨床的効能を検証する副次的評価項目は、四項目のうち二項目が成功。aTTP関連死亡・再発・主要血栓塞栓イベントの複合評価項目が偽薬比74%減(主として再発が少なかった)。投与中止後28日間のフォローアップ期間も含めて試験期間中のaTTP再発が67%減少した。

一方、出血性有害事象の発生率は66%と偽薬群の49%を上回ったが、多くは軽中度だった。

aTTPは、フォン・ヴィレブランド(vW)因子を切断するADAMTS13という酵素の機能不全が原因でvW因子の塊ができて毛細血管が狭隘化、赤血球が通過できず破壊される。急性期治療は血漿交換が有効だが、それでも死亡率15%と言われている。

ALX-0081はvW因子を標的とする抗体医薬で、特徴は軽鎖を持たないこと。同社がナノバディと呼ぶ技術で、通常の抗体と比べて分子量が12~15kDaとやや小さく、親和性が高く安定的で、投与方法がフレキシブルとのこと。第三相では、毎日血漿交換療法を行い、免疫抑制剤も使った上で、偽薬またはALX-0081を、初回は10mgをボーラス静注、その後は同量を一日一回、皮注した。

Ablynxは18年に米国で承認申請する計画。EUは今年2月に第二相試験のデータ(血小板数正常化まで3日、偽薬群は4.9日)に基づいて承認申請済み。

リンク: Ablynxのプレスリリース

iclaprim、10年を経て再承認申請へ
(2017年10月4日発表)

Motif Bio(Nasdaq:MTFB)は、MTF-100(iclaprim)の二本目の第三相試験成功を発表した。急性細菌性皮膚皮膚構造感染症(ABSSSI)の治療効果をvancomycinと比較したもので、一本目と同様に、奏効率が米国基準でもEU基準でも非劣性だった。18年第1四半期に欧米で承認申請する計画。

iclaprimはMRSA作用性広スペクトラム抗生剤でグラム陽性菌による感染症の治療に用いる。ロシュが創製、抗生剤分野のスピンアウトであるArpidaが開発して08年に複雑皮膚皮膚構造感染症の治療薬として承認申請したが、FDAも諮問委員会も、EUのCHMPも、承認を認めなかった。

難点は二つあり、一つは非劣性解析の方法。第三相試験は二本とも奏効率がlinezolid比非劣性と判定されたが、非劣性マージン(奏効率の差の95%下限)が12.5%とやや甘く、FDAの基準である10%を用いるとフェールする。第二はQT延長リスク。linezolid群は1~2ミリ秒延びる程度だったが、iclaprim群は6~8ミリ秒延びた。QT延長は必ずしも不整脈につながるとは限りないが、稀だが突然死のリスクを高める可能性があり、回避できるなら回避したほうが良いし、甘受するなら便益を明確にしたい。

Arpidaは開発を断念。その後、iclaprimの開発販売権は転々としたが、最終的にMotif Bioが入手、FDAや諮問委員会の意見に則したデザインで再挑戦。今回の成功につながった。

FDAからABSSSI及びHAP(院内感染肺炎・・・別途、第三相試験中)用途でQIPD(認定感染症治療薬指定)を得ており、承認時には一定期間の市場独占権や換金可能な優先審査バウチャーを獲得できる。大手製薬会社が抗生物質の開発に熱意を喪失したことに危機感を感じて米国議会が導入した制度がよくワークしており、もしインセンティブが無かったらiclaprimはお蔵入りしていたかもしれない。

それはそれとして、承認されるかどうか、売れるかどうかは未だ不透明なところが残っている。最初の第三相と対照薬を変えたのは、FDA諮問委員会の助言も得ているので、おそらく問題はないだろうが、他に何か弱点が見つかった時に減点材料になりかねない。安全性はQT延長リスクが減点だが、腎毒性が小さく腎臓疾患を持つ患者に使いやすいのは加点材料。抗生物質は承認審査の過程で稀だが深刻なリスクが表面化することがしばしばあり、油断を自戒しなければならない。

尚、治療時出現有害事象は、それによる治験離脱は一本はvancomycin群と同程度、もう一本は少ない。深刻例も一本は同程度、もう一本は少なく、死亡例は二本とも試験薬群がゼロ、vancomycin群一例だった。

リンク: Motifのプレスリリース

イグザレルト、ESUS試験はフェール
(2017年10月5日発表)

バイエルとジョンソン・エンド・ジョンソンは、経口Xa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)のNAVIGATE ESUS試験がフェールしたことを明らかにした。発症後間もない、塞栓源を特定できない塞栓性脳卒中(ESUS)の患者7214人を31ヶ国の施設で組入れて、Xarelto(15mgを一日一回)とアスピリン(100mg一日一回)の二次予防効果を比較したが、独立データ監視委員会が中間解析で無益性を認定した。

効果の面ではアスピリンを有意に上回る確率は極めて低いと判定された。安全性主評価項目である大出血(ISTH基準)は両群とも少なかったが、Xarelto群のほうが多かった。

Xareltoは様々な血栓塞栓性疾患に承認されていて、脳梗塞では心原性脳卒中予防に用いられている。心房細動患者は心臓の血流が滞って血栓ができることがあり、流れて脳血管で詰まると心原性脳梗塞になる。一方、ESUSは検査をしても血栓ができた原因が分からない。虚血性脳卒中の25%が該当すると言われる。塞栓ならXa阻害剤が有効であっても不思議はなかったが、残念な結果になった。

リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。

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