2017年12月17日

2017年12月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • シャイアー、ロシュの血友病薬を特許侵害で提訴 
  • ASH:bcl-2阻害剤併用がCLLに好成績 
  • ASH:ロシュのCD79b標的ADCがリンパ腫に好成績 
  • ロシュ、テセントリクとアバスチンの腎癌試験成功 
  • キイトルーダ、胃癌実薬対照試験がフェール 
  • イーライリリー、片頭痛予防薬を承認申請 
  • リジェネロンも抗PD-1抗体の承認申請を開始 
  • BMS、腎癌のオプジーボ・ヤーボイ併用療法を承認申請 
  • MSD、キイトルーダをPMBCLに適応拡大申請 
  • CHMP、武田や協和発酵などの新薬に肯定的意見 
  • ヌーカラ、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に適応拡大 
  • ゼルヤンツ、乾癬性関節炎に適応拡大 


【今週の話題】


シャイアー、ロシュの血友病薬を特許侵害で提訴
(2017年12月14日発表)

英国のシャイアー社は、11月に米国でA型血友病の出血予防薬として承認されたHemlibra(emicizumab)がシャイアーの'590特許を侵害するとしてジェネンテックと中外製薬を提訴するとともに、販売を禁じる予備的差止め命令の申立てを行った。

薬は命や健康に係るのでもし特許侵害が認められてもロイヤルティ支払いなど金銭的賠償で和解するのが通例だが、可能性としてはジェネンテックが販売できなくなる事態も考えられる。このため、シャイアーは患者に対する影響を熟慮した上での決断と釈明している。

シャイアーは、裁判所の決定が出るのは来年夏ごろと予想しているようだ。同社が指摘するように、それまでは直接的な影響はないが、混乱を避けるためにHemlibraを使うのを先送りするようなことは十分に考えられる。

リンク: シャイアーのプレスリリース

【新薬開発】


ASH:bcl-2阻害剤併用がCLLに好成績
(2017年12月12日発表)

ロシュは、Venclexta(venetoclax、欧州名Venclyxto)の第三相CLL(慢性リンパ性白血病)試験の結果をASH(米国血液学会)で発表した。良好な内容で、ロシュは適応追加申請する予定。

2~4次治療を受ける患者を組入れて標準治療の一つであるRituxan(rituximab)とbendamustineの併用群とRituxanとVenclextaの併用群のPFS(無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオが0.17(95%信頼区間0.11-0.25)と大きく改善した。メジアン値は標準療法群が17.0ヶ月、試験薬群は未達。

全生存期間の解析は未成熟で有意性は持たない模様だが、ハザードレシオ0.48(95%信頼区間0.25-0.90)なので問題はない。G3/4有害事象は白血球減少症が増加したが熱性のものは二剤併用より少なかった。

Venclextaはジェネンテックとアッヴィが共同開発した選択的bcl-2阻害剤。16年に欧米で再発難治性CLLのモノセラピーとして承認された。米国は二社が共同で、海外はアッヴィが販売する。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASH:ロシュのCD79b標的ADCがリンパ腫に好成績
(2017年12月10日発表)

ロシュは、RG7596/DCDS4501A(polatuzumab vedotin)の第二相試験の結果もASHで発表した。再発難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で造血幹細胞移植に適さない患者を組入れて、標準療法の一つであるRituxanとbendamustineの併用と、更にRG7596も使うトリプルセラピーを比較したところ、完全反応率が各15%と40%、p=0.012となった。

全生存期間の探索的解析も、ハザードレシオ0.35(95%信頼区間0.19-0.67)、メジアンは各4.7ヶ月と11.8ヶ月と順調なもの。G3/4の有害事象は熱性白血球減少症など骨髄抑制が増加した。

B細胞性リンパ腫に特異的に発現するCD79bに結合するADC(抗体薬物複合体)で、B細胞受容体と共にインターナライズして細胞内でMMAE細胞毒を放出する。シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)の技術を用いて開発したもの。上記の用途・用法で米国ではブレークスルー・セラピー指定、EUでもPRIME指定を受けている。

11月に第三相入りした。CD20陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一次治療を受ける患者を組入れて、標準的な5剤併用療法であるR-CHOPと、R-CHOPのvincristineに代えてRG7596を併用するレジメンのPFSを比較する。2021年にデータベースロックの見込み。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、テセントリクとアバスチンの腎癌試験成功
(2017年12月11日発表)

ロシュは、局所進行性転移性腎細胞腫の一次治療第三相試験であるIMmotion151試験のPFS解析が成功したと発表した。データは今後、学会発表の予定。適応拡大申請に向かうのではないか。

抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)と抗VEGF抗体Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)の併用を標準療法であるファイザーのSutent(sunitinib)と比較したところ、主評価項目の一つであるPD-L1陽性サブグループのPFSが有意に延長した由。もう一つの主評価項目である全ユニバースの全生存期間はデータが未成熟とのこと。

Avastinはインターフェロン・アルファと併用で腎癌一次治療に承認されている。メジアンPFSは10.2ヶ月とインターフェロン・アルファだけの群の5.4ヶ月を上回り、ORR(客観的反応率)も30%対12%で上回った。後述のようにBMSのOpdivoを使うレジメンもSutentを大きく上回った。151試験のデータが発表された段階で見比べることになる。

リンク: ロシュのプレスリリース

キイトルーダ、胃癌実薬対照試験がフェール
(2017年12月14日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の第三相061試験がフェールしたことを発表した。PD-L1陽性胃癌の二次治療における延命効果をpaclitaxelと比較したが、全生存ハザードレシオは0.82(95%信頼区間0.66-1.03)と惜しくも届かなかった。共同主評価項目であるPFSもフェールした由。

Keytrudaは9月に米国でPD-L1陽性胃癌の三次治療薬として承認されたが、薬効のエビデンスは第二相試験のORR(客観的反応率)なので頑強ではない。061試験が補強的裏付けになることが期待されたが駄目だった。一次治療試験も進行中なのでこちらに期待することになる。

抗PD-1/PD-L1抗体は様々な癌の臨床試験が行われているが、球数が増えれば当りだけでなく外れも増える。百発百中の特効薬ならともかく、効く効かないの境界線はあやふやなので、ちょっとの違いでボールがアウトと判定されてしまう。Keytrudaは頭頚部癌でも薬効確認試験の一つがフェール。Tecentriqは最初の適応である膀胱癌の薬効確認試験がフェールした。BMSのOpdivoの肺癌試験がフェールしたことも大変意外だった。これからも七転び八起きで進んで行くのだろう。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


イーライリリー、片頭痛予防薬を承認申請
(2017年12月11日発表)

イーライリリーは、LY2951742(galcanezumab)を片頭痛予防薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。CGRP(calcitonin gene-related peptide)を中和する抗体医薬で、月一回皮注。第三相試験では、月間の片頭痛日数が偽薬比2日前後、少なかった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

リジェネロンも抗PD-1抗体の承認申請を開始
(2017年12月13日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィは、米国でREGN2810(cemiplimab)のローリング承認申請を開始した。抗PD-1抗体で、適応は局所進行性転移性皮膚扁平上皮腫。承認されている薬はなく、ブレークスルー・セラピー指定を受けている。薬効のエビデンスは第二相試験で、独立委員会査読による客観的反応率(ORR)が46.3%だった。

リンク: サノフィのプレスリリース

BMS、腎癌のオプジーボ・ヤーボイ併用療法を承認申請
(2017年12月13日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を併用で局所進行性転移性腎細胞腫の一次治療に用いる適応拡大を承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年4月16日。

214試験に基づくもので、ORRが41.6%と標準療法であるSutent(sunitinib)を投与した群の26.5%を有意に上回り、反応持続期間も上回った。一方、共同主評価項目であるPFSの解析はメジアン11.6ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオ0.82(95%信頼区間0.64-1.05)で、有意ではなかった。

この試験は中間全生存解析データに基づいてデータ監視委員会が成功認定した。中重度リスク・サブグループのハザードレシオは0.63、全ユニバースでも0.68となっており、PFSと整合性に欠けるものの、もしどちらも正しいのだとしたら、重視すべきは全生存期間だろう。

リンク: BMSのプレスリリース

MSD、キイトルーダをPMBCLに適応拡大申請
(2017年12月11日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)を再発難治性PMBCL(原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫)に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。審査期限は来年4月3日。

薬効のエビデンスは同種幹細胞移植歴を持つ、あるいは不適な患者29人を組入れた小規模な第二相試験。第三者委員会査読によるORRが41%(完全反応24%)で、ブレークスルー・セラピー指定された。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、武田や協和発酵などの新薬に肯定的意見
(2017年12月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会議で、以下の新薬に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース

Alofisel(darvadstrocel、開発コードCx601)はベルギーのTiGenix(Euronext Brussels:TIG)が開発した脂肪由来の幹細胞療法。幹細胞療法として初承認となる見込み。非・軽度活性期管腔クローン病の成人の、複雑肛囲瘻の二次治療に用いる。第三相試験では寛解率が50%と、偽薬群の34%を有意に上回った。作用機序はリンパ球の増殖や炎症促進的サイトカインの放出の抑制と考えられている。主な有害事象は膿瘍、瘻孔、肛門周囲痛、処置痛など。

欧州など米国外のこの用途での開発販売権は武田薬品が保有している。米国での承認申請は、今年ロンチされた別の第三相試験の結果を待って行う考え。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース(pdfファイル)

Crysvita(burosumab、開発コードKRN23)は協和発酵キリンがUltragenyx Ph'cal(Nasdaq:RARE)と共同開発した抗FGF23完全ヒト化モノクローナル抗体。X染色体遺伝性低リン血症で、骨疾患の放射線学的裏付けのある筋骨格成長期の1歳以上の青少年に用いる。成人の第三相も行われたはずだが、承認された適応は限定的だ。

条件付き承認で、薬効や安全性を確認するため3本の追加試験を実施して2020年までにEMAに提出する。

リンク: EMAのプレスリリース

ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide)は週一回投与型GLP-1作用剤。二型糖尿病の血糖治療に用いる。体重も低下する。心血管アウトカム試験で良い成績を上げた。経口剤も開発中。米国では今月、承認された。日本は今月の第一部会に上程されたが継続審議となった。

リンク: ノボのプレスリリース

英国のDiurnal Group(AIM:DNL)のAlkindi(hydrocortisone)は幼小児や青年の原発性副腎機能不全の治療に用いる。活性成分は50年前から成人青年患者の治療に用いられている。幼児には錠剤を破砕して投与するが、用量が不安定で苦みが出るため飲み残しの心配もある。Alkindiは顆粒でカプセルを開けて量を調整することもできるため便利。

特別に小児用に開発された、特許保護を受けられない医薬品を対象とするPUMAという制度が適用され、10年間の独占権が与えられる。来年下期に発売される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Diurnal社のプレスリリース

適応拡大では、イーライリリーの中重度乾癬治療薬、Taltz(ixekizumab)を乾癬性関節炎の治療に用いることが支持された。DMARDs(疾病装飾的抗リウマチ薬)に十分に反応しない、あるいは不耐の活性期患者に用いる。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


ヌーカラ、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に適応拡大
(2017年12月12日発表)

FDAはグラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を難治性EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、旧称チャーグ・ストラウス症候群)の治療に用いる適応拡大を承認した。EGPAはしばしば成人になってから好酸球増多型喘息症を発症するので既存の適応である好酸球増多型の喘息症と似ている。臨床試験では24週寛解率が28%と偽薬群の3%を上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

ゼルヤンツ、乾癬性関節炎に適応拡大
(2017年12月14日発表)

ファイザーは、FDAがXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)を中重度乾癬性関節炎に適応拡大したと発表した。DMARDs(疾病装飾的抗リウマチ薬)に十分反応しない活性期患者に用いる。リウマチ性関節炎に承認されているJAK阻害剤で、インターロイキンの受容体の細胞内シグナル伝達を阻害、免疫反応を抑制する。経口剤で、一日二回服用のオリジナルの製剤と一日一回のXRがある。

並行して潰瘍性大腸炎にも適応拡大申請されているが、ファイザーが追加データを提出したため、審査期限が来年3月から6月に延期された。

免疫抑制剤は癌や感染症に対する免疫も弱めるので長期的な安全性を十分に検討して、適応毎に便益と比較する必要がある。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: 同(潰瘍性大腸炎の審査期間延長。12/12付け)






今週は以上です。

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