2016年4月17日

2016年4月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、マリゼブの欧米開発を断念
  • MSD、ダニアレルギー舌下錠を承認申請
  • MSD、Keytrudaの適応拡大申請
  • BMS、オプジーボの適応拡大申請
  • ロシュ、抗PD-L1で第二の承認申請
  • bcl-2阻害剤が遂に承認
  • EU、カナグルや抗C型肝炎ウイルス薬の安全性を検討へ



【新薬開発】


MSD、マリゼブの欧米開発を断念
(2016年4月8日発表)

MSDはマリゼブ(オマリグリプチン)の欧米での開発を断念すると発表した。安全性問題ではなくビジネス上の理由とのことだが、ついこの前まで承認申請の意向を示していただけに、不透明感が残る。

マリゼブは二型糖尿病の治療に用いるDPP-4阻害剤。日本で昨年9月に承認、米国でも15~16年に承認申請される見込みだった。同社のベストセラーDPP-4阻害剤、Januvia(sitagliptin、和名ジュニュビア/グラクティブ)との違いは、一日一回ではなく週一回の服用で足りることで、ほかには日本で昨年3月に承認された武田薬品のザファテック(トレラグリプチンコハク酸塩)だけである。経口剤なので決定的なアドバンテージではないが、重要な差別化要因になりうるはずだ。

日本でしか販売されないガラパゴス型医薬品の難点は、慢性疾患用薬に求められる長期大規模試験のエビデンスが望めないことだ。グローバル開発品と異なり大きな売上高が見込めないため、数百億円の費用を正当化できないからだ。日本は糖尿病薬の安全性に関心が薄く、欧米で心血管リスクが議論になった時は日本の患者の死因で一番多いのは心血管リスクではなく癌という理由で多寡を括り、癌のリスクが議論になるやシカトに一転した。このため、日本限定品は安全性監視も疎かになる懸念がある。

他に無いなら兎も角、DPP-4阻害剤もそれ以外の血糖治療薬もたくさんあるので、あえてガラヤクを使う必然性はないだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


MSD、ダニアレルギー舌下錠を承認申請
(2016年4月12日発表)

MSDは、Mitizaxを米国で承認申請し受理されたと発表した。ダニ由来の抗原を含有する舌下錠で、家ダニアレルギーの減感作療法。低量の抗原に毎日曝露することで免疫寛容を目指す。

減感作療法も、注射ではなく経口液や舌下錠の開発も、フランスなど欧州大陸が先行している。MitizaxはデンマークのAlk AbelloのAcarizaxをライセンスしたもので、日本では鳥居薬品がミティキュアとして昨年9月に製造販売承認を取得した。

Alk AbelloとMSDは芝やブタクサのアレルギーの減感作療法も商品化している。スギ花粉は欧米の患者が少ないので、日本が開発を主導している。

リンク: MSDのプレスリリース

MSD、Keytrudaの適応拡大申請
(2016年4月13日発表)

PD-1/PD-L1を標的とする抗体療法は、BMS/小野薬品とMSDの先陣争いにロシュなど第二グループが加わり、毎週のようにニュースが出ている。今週も勢ぞろいで、まず、MSDが米国で行ったKeytruda(pembrolizumab)の適応拡大申請が受理された。再発性転移性の頭頸部扁平上皮腫に、白金薬の次の二次治療薬として用いる。用量は黒色腫や非小細胞性肺癌の2mg/kgではなく200mgに固定。三週間に一回点滴静注は同じ。優先審査を受け、審査期限は8月9日。

リンク: MSDのプレスリリース

BMS、オプジーボの適応拡大申請
(2016年4月14日発表)

次に、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)は、再発性古典的ホジキンリンパ腫の適応拡大申請が3月のEUに続いて米国でも受理された。優先審査を受ける。審査期限は、まだ連絡が来ていないのか、プレスリリースに記されていない。

リンク: BMSのプレスリリース

ロシュ、抗PD-L1で第二の承認申請
(2016年4月11日発表)

最後に、ロシュは抗PD-L1抗体のRG7446/MPDL3280A(atezolizumab)の承認申請が米国で受理されたと発表した。用途はPD-L1陽性の局所進行性・転移性非小細胞性肺癌で、白金薬による一次治療後の二次治療。EGFR変異型ならEGFR阻害剤、ALK融合蛋白陽性ならALK阻害剤も既に使用済みであることが条件になる。大規模な第I/II相試験に基づく承認申請で、反応率は20%前後。

ロシュは3月にも尿路上皮癌の承認申請が受理されたことを発表しており、二つの適応症で並行して審査されることになる。どちらも優先審査で、審査期限はそれぞれ9月12日と10月19日。

尿路上皮癌の開発は三社の中でロシュが最も先行しているが、非小細胞性肺癌の二次治療はKeytrudaもOpdivoも承認済み。違いが出るとしたらPD-L1検査の有効性に関する医師の評価次第だろう。KeytrudaはPD-L1陽性だけが適応、Opdivoは限定されていないが、現状では、検査を割愛できるためOpdivoの方が好まれている模様だ。

ロシュは腫瘍だけでなく腫瘍に入り込んだ免疫細胞のPD-L1も検査することによって応答予測性を向上する手法を取っており、ヘッドライン数値を見る限りでは、強陽性に絞り込んだほうが良さそうだ。費用や副作用を考えれば絞り込むのがベストであり、医療従事者や患者にデータをアピールすることができれば優先使用薬の座を獲得できるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認】


bcl-2阻害剤が遂に承認
(2016年4月11日発表)

FDAは、Venclexta(venetoclax)を17p欠損型慢性リンパ性白血病(CLL)の二次治療薬として承認した。bcl-2阻害剤の承認は初。アッヴィ(NYSE:ABBV)とジェネンテックが07年に開始したbcl-2阻害剤の共同研究開発の成果で、米国は両社が共同販売、海外はアッヴィが販売する。17p欠損の判定もアボットのVysis CLL FISH Probe Kitを用いており、ロシュ色が薄い。

17p欠損は、癌の抑制に係る遺伝子がある17番染色体単腕が欠落しており、予後が悪い。初治療を受けるCLL患者では1割程度だが、再発患者は2~5割で見られる。bcl-2は白血球などのアポトーシス抵抗性に係る蛋白で、CLLではしばしば過剰発現が見られる。

VenclextaのORR(客観的反応率)は80%と高い。深刻な副作用は、熱性好中球減少症、溶血性貧血、肺炎、腫瘍壊死症候群。リスクを抑制するために20mg(一日一回、経口)で開始して400mgまで漸増する。また、抗尿酸薬でプリメディケーションする。効果は高いが副作用も強いので注意が必要。

bcl-2阻害剤というと思い出すのはジェンタがアベンティスと共同開発したGenasense(oblimersen)だ。臨床試験であと一歩のところまで進んだのだが、成就しなかった。薬が今一つだったのか、併用薬として開発したせいか、17p欠損という切り口がまだ無かったせいか?今となっては分からないが、何れにせよ、アッヴィとジェネンテックは、画期的新薬の開発に失敗し12年に破産したジェンタの轍を踏まないですんだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EU、カナグルや抗C型肝炎ウイルス薬の安全性を検討へ
(2016年4月15日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発した二型糖尿病のSGLT2阻害剤、Invokana(canagliflozin、和名カナグル)の安全性検討を開始した。長期大規模試験で下肢切断が増加する懸念が浮上したため。市販後医薬品安全性監視とリスク評価を担う委員会、PRACが他のSGLT2阻害剤メーカーも含めてデータ提出を求めている。

欧米の承認審査機関は高血糖治療薬を開発する企業に長期大規模試験の実施を求めている。心筋梗塞や心不全、骨疾患、癌、肝腎疾患などが増えないか、長期的な安全性を確認することが目的だ。糖尿病や高血圧、高脂血症の治療目的は深刻な合併症を回避することであり、多くの患者は症状がないため治療効果を体感できない。リスクの低い患者も治療を受けるので、それだけ、高い安全性が求められる。癌のような命に係る病気の治療薬との違いである。

長期大規模試験のメリットは、発生頻度の低い副作用についてもある程度信用できるデータが集まることだ。canagliflozinの場合は、進行中の大規模アウトカム試験、CANVASで、足指などの下肢切断の増加が見られた。具体的には、開始用量である100mgを投与した群では1000人年当り発生数が7例、最大用量の300mg群では5例と、偽薬群の3例を上回った。

もう一本、CANVAS-R試験でも1000人年当り7例と、偽薬群の5例よりやや多かった。有意ではなかったが、追跡期間がCANVAS試験の4.5年に対して0.75年と短いため、説得力は十分ではない。他の試験ではリスクが見られなかった由だが、これも、期間が短いせいかもしれない。

数値を見る限りではリスクはそれほど高くなく、この程度なら、何かの過ちである可能性も否定できないだろう。大規模試験は検出力が高いので、多くの項目で群間比較を行うと偶然に有意差が出てしまうリスクがある。それでも、効能に関する解析なら否定的に考えるべきだが、安全性に関しては警戒的に受け止めるべきだ。下肢切断を防ぐことは糖尿病治療の目的の一つなのだから、もし増えるとしたら話が違う。

リンク: EMAのリリース(canaglifozin)

EMAは3月にC型肝炎の治療に用いられるDAA(直接作用抗ウイルス薬)の安全性検討を開始したが、今回、範囲を広げることを発表した。B型肝炎の再活性化に加えて、肝臓腫瘍の再発リスクも調査する。ReigらがJournal of Hepatology誌で発表した調査が切っ掛け。

DAAはウイルスの複製増殖を直接的に阻害する一連の新薬のこと。登場する前の代表的な治療薬であるアルファ・インターフェロンは免疫賦活、ribavirinは作用機序が不明瞭で、米国では、単剤では無効と考えられているようだ。一方、DAAはC型肝炎ウイルスのゲノム研究で発見されたプロテアーゼ、ポリメラーゼ、複製複合体の構成蛋白などに結合阻害する。

この調査はDAA治療を受けている肝細胞腫歴を持つ患者58人を対象とした分析。メジアン追跡期間5.7ヶ月の間に、3人が死亡、16人が放射線学的再発となり、再発率27%と高かった。通常はどの程度なのか、抄録には記されていない。

DAAは標的が明確だが免疫賦活などの効果は期待できない。従って、副作用である可能性も、単に効能がないだけの可能性もありそうだ。対照試験ではなさそうなので、解釈も難しい。

SGLT2阻害剤の話も、DAAの話も、今の段階ではリスクがあるともないとも言えそうにない。検討結果を待ちたい。

リンク: Reigらの論文(Journal of Hepatology)
リンク: EMAのリリース(DAA)




今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2016年4月10日

2016年4月10日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:スタチン不耐患者の選択肢 
  • FDA諮問委員会が胆汁性肝硬変治療薬を支持 
  • ギリアド、Descovyが米で承認 
  • EUがGiotrifの適応を拡大 
  • EUがオプジーボの二適応症を承認 
  • FDA、オングリザとネシーナの心不全リスクを通知 

【今週の話題】


ACC:スタチン不耐患者の選択肢
(2016年4月3日発表)

EBMの本旨は、当たり前なことを当たり前で済まさないことだ。スタチン不耐にはスタチン以外のコレステロール治療薬が有効?そりゃそうでしょう。小学生でも分かること、大学入試の問題にもならない。だが、本当にそうなのだろうか?

スタチンは、2001年にセリバスタチンが横紋筋溶解症の懸念からリコールになったため、今でも悪いイメージを持っている人がいる。これまでに数多くの長期アウトカム試験が敢行され、症例数と服用者の比率は数千人に一人と、プライマリーケア用薬でも群を抜いているにも関わらず。

スタチン不耐患者は本当に不耐なのか?単なる食わず嫌いなのではないか?同じコレステロール低下薬でもスタチン以外なら忍容するのか?心臓疾患予防効果は劣後しないか?

この三つの疑問のうち二つに答える臨床試験、GAUSS-3の結果がACC米国心臓学会とJournal of American Medical Associationで発表された。

第一の問いに答えるため、LDL-C高値だがスタチン不耐歴のある491人を組み入れて偽薬とatorvastatinの20mgのクロスオーバー試験を行ったところ、42.6%の患者は筋症状がatorvastatinだけで発生し偽薬では発生しなかった。

臨床試験にはスクリーニングバイアスが付き物だ。過去に重い副作用を経験した人は参加しないだろうし、治験の意義を考えれば、患者が不耐と言ったというだけでは組み入れないだろう。だから42%という数字を全患者の平均値とみなすことはできない。それでも、結構いたという印象だ。

次に、第二の問いに答えるため、不耐患者199人と新たにクレアチニンキナーゼ高値の19人を組み入れて、evolocumab (アムジェンの抗PCSK9抗体、420 mgを月一回皮注)群とezetimibe(10 mgを一日一回経口投与)に2対1割付して24週間治療したところ、LDL-Cが各54.5%と16.7%低下した。

心臓疾患予防効果を調べたわけではないが、取り敢えずLDL-Cは下がることが判明した。

筋症状はezetimibe群の28.8%とevolocumab群の20.7%で発生。それにより投与をやめたのは各6.8%と0.7%だった。油断はできないが、多くの患者が忍容することが判明した

リンク: Nissenらの治験論文(JAMA、オープンアクセス)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が胆汁性肝硬変治療薬を支持
(2016年4月7日発表)

FDAの胃腸薬諮問委員会はインターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)が原発性胆汁性肝硬変(PBC)の治療薬として承認申請したOcaliva(obeticholic acid)を検討し、17人の諮問委員全員が承認を支持した。審査期限は5月29日。

OcalivaはPBCの代表的な治療薬であるウルソデオキシコール酸のアナログで、ファルネソイドX受容体に対する力価が著しく高い。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と二つの適応症に開発されている。PBCではウルソデオキシコール酸に十分に反応しない、あるいは不耐の患者を適応としている。

第三相試験ではアルカリフォスファターゼ及び総ビリルビン正常化率を検討したところ、5mg群も10mg群も46~47%で偽薬群の10%を有意に上回った。尚、総ビリルビンについては元々異常上昇していない患者が多かったため治療効果が明確ではなかった。

忍容性面では重度の掻痒が増加、10mgでは10%が掻痒で治験離脱したが、5mgは1%だった。偽薬群はゼロ。LDL-C値の上昇とHDL-C値の低下も見られた。

Ocalivaは日本では大日本住友製薬がDSP-1747として開発中。

リンク: インターセプトのプレスリリース

【承認】


ギリアド、Descovyが米で承認
(2016年4月4日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、FDAがDescovyを12歳以上のHIV-1感染者の治療薬として承認したことを発表した。核酸系逆転写阻害剤emtricitabineとtenofovir alafenamide fumarate(TAF)のコンビ薬。

TAFはtenofovir disoproxil fumarateと同じtenofovirのプロドラッグだが薬物動態が良く少量で副作用を抑えながら治療することができる。HIV/AIDS薬は3A4阻害剤を併用してブーストする薬が少なくないが、そのような薬と併用する場合はTAFの量を減らす。

EUでは2月にCHMPの肯定的意見を得た。日本は日本たばこが今年、、承認申請する計画。

リンク: ギリアドのプレスリリース

EUがGiotrifの適応を拡大
(2016年4月7日発表)

2月のCHMPで肯定的意見を得た適応拡大のうち、今週は、ベーリンガー・インゲルハイムのEGFR・her2阻害剤Giotrif(afatinib)を扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療に単剤投与することが承認された。EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌の一次治療単剤療法として先に承認されている。

今回の適応拡大のエビデンスとなったTarceva対照試験では延命効果が有意に上回った。このタイプの患者にTarcevaを使うことが適切なのかどうか、議論の余地がありそうだが、もし偽薬並みの効果がなかったとしてもGiotrifは有意に上回ったのだから、承認されてしかるべきである。とはいえ、もし使えるなら、次のOpdivo(nivolumab)の方が効果が高いだろう。

リンク: ベーリンガーのプレスリリース

EUがオプジーボの二適応症を承認
(2016年4月6日発表)

2月のCHMP肯定的意見では、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を扁平上皮以外の非小細胞性肺癌や腎細胞腫の二次治療に用いる適応拡大も承認された。前者は臨床試験でメジアン生存期間が12.2ヶ月と、代表的な二次治療薬であるdocetaxelを投与した群の9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73だった。これまでは扁平上皮の非小細胞性肺癌限定だったが、対象人口が倍以上に増えることになる。

2%以上の患者で発生した深刻な有害事象は肺炎、肺塞栓、呼吸困難、胸水、呼吸不全。

腎細胞腫試験ではメジアン生存期間が25ヶ月とeverolimus(ノバルティスのmTOR阻害剤Afinitor)を投与した群の19.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73だった。

リンク: BMSのプレスリリース(腎細胞腫)
リンク: BMSのプレスリリース(肺癌)

【医薬品の安全性】


FDA、オングリザとネシーナの心不全リスクを通知
(2016年4月5日発表)

FDAは二種類のDPP-IV阻害剤の心不全リスクに関する安全性通知を発出した。アストラゼネカのOnglyza(saxagliptin、和名オングリザ)は大規模アウトカム試験SAVORで心不全による入院が有意に増えた(Onglyza群の発生率3.5%、偽薬群2.8%、p=0.007)。

一方、武田薬品のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)の大規模アウトカム試験EXAMINE試験では有意な差がなく、一安心したのだが、FDAや諮問委員会は無垢とはみなさなかった。今回のFDA発表によると、心不全入院の発生率は3.9%で偽薬群の3.3%より高かった。統計的に有意ではないが差は0.6ポイントでOnglyzaの0.7ポイントと大差ない。

Nesinaの第三相試験で心不全がしばしば見られたのは、営業戦略上、Actos(pioglitazone)服用患者を多く組入れた影響もあるのではないかと感じていたが、EXAMINE試験に関してはActos服用比率は3%だけなので、関係なさそうだ。

それにしても、この2剤、2アウトカム試験について諮問委員会が検討してから既に1年経つ。FDAが結論を出すのがずいぶん遅かったが、無理もない。心不全の患者は他の薬にスイッチする可能性があるが、もし他のDPP-IV阻害剤にもリスクがあるなら意味がないかもしれないからだ。慎重に検討したはずなので、その結論は重視せざるを得ない。

リンク: FDAの安全性通知



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2016年4月3日

2016年4月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:HOPE-3試験成功
  • 抗IL-4受容体抗体のアトピー試験が成功
  • カルチノイド症候群の画期的新薬が承認申請
  • CHMPが遺伝子療法などに肯定的意見
  • FDA諮問委員会がパーキンソン性精神症状治療薬を支持
  • safinamideは審査完了通知
  • 肝中心静脈閉塞症の治療薬が米国でも承認

【今週の話題】


ACC:HOPE-3試験成功
(2016年4月2日発表)

スタチンと降圧剤を用いた心血管アウトカム試験、HOPE-3の結果がACC米国心臓学会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。血圧やLDL-C値を問わずに、心血管疾患リスクが中程度の患者12705人を組入れてメジアン5.6年間治療したところ、スタチンは心筋梗塞などのリスクを有意に削減したが降圧剤は有意ではなかった。色々な解釈が可能だが、私は、これまでと同様に、スタチンはLDL-C値が高くなくても有効、降圧剤は高血圧症だけに有効、と考えたい。

HOPE-3は2x2ファクトリアル・デザインで、スタチンと偽薬、降圧剤と偽薬、スタチンと降圧剤の併用と偽薬併用、の三種類の試験を一編に行った。組入れ条件は、男は55歳以上でリスク因子一つ以上、女は65歳で二つ以上。リスク因子は高ウエスト・ヒップ・レシオ、低HDL-C値、喫煙経験、異脂血症、冠疾患早発の家族歴、中度腎疾患で、心筋梗塞初発予防試験らしい内容。

実際に組み入れられた患者のベースライン値を見ると、平均年齢65歳、女が全体の38%。リスク因子は高ウエスト・ヒップ・レシオに該当が87%(平均値0.94、因みにBMIは27)、低HDL-Cは36%。高血圧の患者は38%のみで全体の平均血圧は138/82 mm Hg。LDL-C値の平均は128mg/dL。hsCRPのメジアン値は2.0。アスピリン服用者は全体の11%となっている。

主評価項目は複合評価項目が二つ。一つは典型的なもので心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の何れか。もう一つは、更に、心停止蘇生や心不全、血管再建術施行を加えたもの。どちらも類似した結果なので以下では前者だけを記す。

介入法は、スタチンがCrestor(rosuvastatin)の10mg/日または偽薬。降圧剤は日本でいえば武田のエカード配合錠HD二錠と同じで、Atacand(candesartan)の16mg/日とhydrochlorothiazideの12.5mg/日の併用または偽薬併用。初発予防試験であるせいか、用量控えめ。

結果は、スタチン試験はハザードレシオ0.76、p=0.002で臨床的にも統計的にも良い数値が出た。LDL-C値の群間差は40mg/dL。スタチンの過去の試験と同様に、LDL-C値が高い人も高くない人も下げれば下げただけ心血管疾患リスクが低下することを示した。

尤も、初発予防試験なので発生率は4.8%が3.7%に、1.1ポイント下がっただけ。1000人に一年間投与すると2人を心筋梗塞などから救うことができるが、残りの998人は飲んでも飲まなくても同じだ。Crestorの初発予防試験、JUPITORはhsCRP値の高い患者はリスクも応答性も高いという仮説に基づいて実施されたが、HOPE-3試験のサブグループ分析では、高くても低くても結果は大差なかった。

スタチン群は筋痛や白内障手術が若干多かった。Number needed to harmはNumber needed to treatと同程度なので、結局、筋痛や白内障より心筋梗塞の方が深刻なのでどちらを選ぶかと聞かれれば前者を選ぶ、という程度の話になる。

降圧剤試験はハザードレシオ0.93、p=0.40で有意な差はなかった。candesartanの用量は過去のアウトカム試験と比べて少なく、hydrochlorothiazideは心血管アウトカム試験の裏付けはないので、薬の選択が適切でなかった可能性もあるが、血圧の群間差は6/3 mm Hgと必要最小限は超えている。高血圧症サブグループの解析では良い数字が出ているので、やはり、高血圧でない人の血圧を下げても意味はないのだろう(腎症などの高血圧以外の承認用途は除く)。

副作用では低血圧や眩暈などが増加した。

併用試験はハザードレシオ0.71、p=0.005となった。スタチン、ARB、利尿薬の『ポリピル』の有効性を示したことになるが、降圧試験はフェールしたのだから、本当に三剤必要なのかは分からない。血圧や血糖値は高くても低くても病気なので下げ過ぎないように注意しなければならないが、低LDL-C症という病気は聞いたことがない。新生児のLDL-Cはもっと少ない由であり、大人は平均値でも高すぎるのかもしれない。だから、LDL-Cだけがlower is betterであったとしても、納得できないことではないのである。

リンク: Yusufらの治験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

【新薬開発】


抗IL-4受容体抗体のアトピー試験が成功
(2016年4月1日発表)

リジェネロンと開発パートナーであるサノフィは、REGN668/SAR231893(dupilumab)の第三相アトピー性皮膚炎試験が二本とも成功したと発表した。16年第3四半期に承認申請する予定。

dupilumabはTh2免疫に関わるIL-4/IL-13の受容体をブロックするトランスジェニックマウス抗体で、アトピーや好酸球性喘息症向けに開発されている。今回の第三相試験は、局所製剤だけでは管理不良の中重度患者を偽薬、300mg週一回皮注、同二週間に一回皮注の何れかに割り付けて奏効率を比較した。dupilumabは負荷用量600mgを採用。奏効率は、16週間の治療後のグローバル評価(0~4の5段階)がベースライン(3以上を組入れ)から0~1に改善した患者の比率。

結果は、二本の試験で偽薬群が8~10%であったのに対してdupilumab群は36~38%と有意に上回った。投与間隔はどちらでも効果に大差なさそうだ。有害事象は注射箇所反応や結膜炎が増加したが、感染症は増えなかった。

リンク: 両社のプレスリリース(PRNewswire)

【承認申請】


カルチノイド症候群の画期的新薬が承認申請
(2016年3月30日発表)

米国テキサス州のLexicon Pharmaceuticals(Nasdaq;LXRX)は、LX1032(telotristat etiprate)をカルチノイド症候群の腸活動改善薬として米国で承認申請した。TPH(トリプトファン水酸化酵素)阻害剤で、一日三回、経口投与する。カルチノイド症候群は神経内分泌細胞の腫瘍化が原因でセロトニンが過剰生産され、腸症状をもたらす。そこで、セロトニン生産の調律酵素であるTPHを阻害するもの。米国と日本以外の市場ではイプセンが開発販売する。

リンク: Lexiconのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが遺伝子療法などに肯定的意見
(2016年4月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、4月1日に終了した3月の会議でADA-SCIDの遺伝子療法などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのStrimvelis(開発コードGSK2696273)は、アデノシンデアミナーゼ欠損症による重度複合型免疫不全症(ADA-SCID)の遺伝子療法。患者の骨髄からCD34陽性細胞を採取して、レトロウイルス・ベクターを使ってヒト・アデノシンデアミナーゼのcDNAを導入。患者に点滴すると体内で免疫細胞に成熟・増殖する。ADA-SCIDはHLA型適合の近親者の造血幹細胞を移植できれば一番良いが、できない場合にStrimvelisが適応になる。

ADA-SCIDの遺伝子治療は研究史が長いが、やっと実用化に漕ぎ着けた。イタリアのFondazione Telethon and Fondazione San Raffaeleが開発、2010年にGSKがライセンスしたもの。

EUの遺伝子療法は12年にUniQureの重度家族性リポプロテイン・リパーゼ欠乏症治療薬、Glyberaが承認されている。小児向けや、遺伝子をex vivoで導入する薬はStrimvelisが初めてになろう。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

Amicus Therapeutics(Nasdaq:FOLD)のファブリー病治療薬、Galafold(migalastat hydrochloride)も肯定的意見を受けた。酵素補充療法ではなく、ファーマシューティカル・シャペロンと呼ばれる不思議なタイプの薬で、機能不全のアルファ・ガラクトシダーゼA酵素に結合して、本来いるべき場所に移動して機能できるように仕向ける。二日に一回、経口投与するだけなので点滴より負担が少ない。

但し、特定のタイプの患者にしか有効性が認められない。ファブリー病に係る800以上の遺伝子変異のうち269種類だけで、患者の35~50%が該当するとのことだ。

臨床成績は明確ではなく、米国での承認申請は遅れていて、年内実施の見込み。忍容性は比較的良い模様だ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Amicusのプレスリリース(GLOBE NEWSWIRE)

ジョンソン・エンド・ジョンソンがデンマークのジェンマブ(Nasdaqコペンハーゲン:GEN)からライセンスして開発したDarzalex(daratumumab)も肯定的意見となった。抗CD38完全ヒト化抗体で、多発骨髄腫でプロテアソム阻害剤と免疫調停剤による治療を既に受けて、最終治療に反応しなかった患者に単剤投与する。第二相試験に基づく条件付き承認で、昨年11月に承認された米国と同様に、第三相試験で延命効果を確認する必要がある。

この第三相試験が成功したことも3月30日に発表された。再発性難治性の患者を対象に、Velcade(bortezomib)とdexamethasoneを併用する標準的療法と更にDarzalexも投与する三剤併用療法のPFS(無進行生存期間)を比較したところ、中間解析で有意差が確認された。早晩、欧米で適応拡大申請されることになるだろう。

Darzalexの主な有害事象は点滴関連反応で、治験では48%で発生。このほかに、貧血など骨髄抑制も起きる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ジェンマブのプレスリリース(第三相試験成功、3/30付)

適応拡大は、まず、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)とBMSのYervoy(ipilimumab)を悪性黒色腫に併用することが支持された。但し、Opdivoの単剤投与と比べてPFS延長効果が確立しているのはPD-1低発現腫瘍のみ、という注記が付された。治験のサブグループ分析結果のとおりで、おそらく、PD-1高発現腫瘍以外はOpdivoの効果が弱いためYervoyによる補完が有効なのだろう。

この二剤の併用の話を聞く度に、貧乏人は麦を食え、私も食っているという声が脳裏に鳴り響く。15年前、このような資料を作り始めた頃は、自分が病気になった時に日本で使えるのか一抹の不安があった。今日では解消したが、自分が病気になった時に薬代を払えない心配は年々高まっている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

話はそれるが、再発性クラシックホジキンリンパ腫の適応拡大申請がEMAに受理されたことが発表された。第二相試験に基づくもので、データは年内に発表される見込み。

リンク: BMSのプレスリリース(適応拡大申請、3/30付)

エーザイのHalaven(eribulin mesylate)は脂肪肉腫に用いることが支持された。アントラサイクリン系抗癌剤などによる治療歴を持つ手術不能/転移性患者に用いる。第三相試験ではメジアン生存期間が15.6ヶ月とdacarbazineの8.4ヶ月を上回った。日本では軟部腫瘍全般に承認されたが、EUは米国同様に脂肪肉腫に限定した。

リンク: EMAのプレスリリース

FDA諮問委員会がパーキンソン性精神症状治療薬を支持
(2016年3月29日発表)

FDAの精神薬理学薬諮問委員会は、ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)がパーキンソン病の精神症状治療薬として承認申請した5-HT2Aインバース・アゴニスト、ACP-103(pimavanserin tartrate)を検討し、12対2で賛成が反対を上回った。薬効については12人、忍容性は11人の委員が支持した。

200人を組入れた臨床試験では、幻覚や妄想に係る症状判定スコアが偽薬比有意に改善した。パーキンソン病症状は悪化しなかった。深刻な有害事象の発生率が7.98%と偽薬群の3.5%を上回った。薬との関係は判然としないようだが、致死的な有害事象のリスクが枠付き警告される可能性がある。

リンク: ACADIAのプレスリリース

safinamideは審査完了通知
(2016年3月29日発表)

スイスのNewron Pharmaceuticals(SIX:NWRN)と開発販売パートナーであるイタリアのZambon、そして米国の販売提携先であるUS WorldMedsは、FDAからXadago(safinamide)の審査完了通知を受領したことを発表した。

14年5月に承認申請した時は書類の不備で受理されず、半年遅れた。今回、承認されなかった理由は薬物依存試験が実施されていないからとのことであり、全般的に、承認申請が稚拙な印象がある。私自身も、脳血管関門を通過する薬は薬物乱用・依存・離脱試験が必要という話を今回初めて知ったのだが、思い当たる節が数年前から起きている。

リンク: Newronのプレスリリース

【承認】


肝中心静脈閉塞症の治療薬が米国でも承認
(2016年3月30日発表)

FDAは、ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)のDefitelio(defibrotide sodium)を肝VOD(中心静脈閉塞症)治療薬として承認した。造血幹細胞移植後に肝臓の循環障害が発生し、腎臓や肺の障害を合併した成人・小児に用いる。この病気の治療薬は初。

肝VODの発生率は2%以下だが、重度だと100日生存率21~31%と極めて深刻な状態になる。Defitelioはブタ粘膜由来のオリゴデオキシリボヌクレオチドで血栓溶解作用を持つ。二本の単群臨床試験では100日生存率が38~45%だった。深刻な有害事象は出血やアレルギー反応。

EUでは13年10月に例外的環境条項に基づいて承認された。

元々はイタリアのGentiumが承認申請したが承認されなかった。同社をジャズが10億ドルで買収し、米国の権利をシグマ-タウから頭金7500万ドル、達成報奨金1億7500万ドルで買い戻した。元手がかかっているので値段も高くなる。

リンク: FDAのリリース
リンク: ジャズのプレスリリース




今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2016年3月27日

2016年3月27日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗Sclerostin抗体の男性骨粗鬆症試験が成功
  • バイオマリン、フェニルケトン尿症治療薬の第三相が成功
  • Xa阻害剤の入院患者VTE予防試験がフェール
  • シムジアはヒュミラに勝てず
  • 統合失調症性認知障害治療試験がフェール
  • テバの抗IL-5も米国で承認
  • イーライリリーの抗IL-17Aも米国で承認
  • 肺炭疽の新薬が米国で承認


【新薬開発】


抗Sclerostin抗体の男性骨粗鬆症試験が成功
(2016年3月21日発表)

UCBと共同開発者のアムジェン、そして日本市場の共同開発者であるアステラス製薬は、抗Sclerostinヒト化抗体CDP7851/AMG785(romosozumab)の第三相男性骨粗鬆症試験が成功したと発表した。
閉経後女性の試験も既に二本成功しており、年内に承認申請されるのではないか。

この試験は、Tスコアが-2.50以下(骨粗鬆症)、あるいは-1.50以下で骨粗鬆症性骨折歴を持つ、55歳以上の男性245人をromosozumab群と偽薬群に2対1無作為化割付けして12ヶ月間治療し、腰椎の骨密度の低下を比較した。romosozumabは210mgを月一回、皮注した。数値は発表されていないが、有意な差があった。

忍容性面では、深刻な有害事象の発生率は両群、同程度。注射箇所反応は5.5%と偽薬群の3.7%を上回り、心血管深刻有害事象(第三者査読)は各4.9%と2.5%だった。

SclerostinはWntや骨形態形成蛋白のパスウェイを阻害して造骨細胞の活動を阻害する。アフリカ人の一部はSclerostinの遺伝子に機能喪失変異を持ち、骨密度が異常に高い。romosozumabはSclerostinを阻害して造骨を促進する。この点では遺伝子組換え型副甲状腺ホルモンForteo(teriparatide)と似ており、従って、発がん性をじっくりと調べる必要があるだろう。過去の試験では乳がんや良性腎オンコサイトーマを発症した患者がいた。

また、心血管安全性も重要なポイントだ。第三者による査読が行われたということは、リスクを疑う何らかの根拠があることを示している。

リンク: UCBのプレスリリース
リンク: アステラス製薬のプレスリリース

バイオマリン、フェニルケトン尿症治療薬の第三相が成功
(2016年3月21日発表)

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、BMN 165(pegvaliase、通称PEGPAL)の第三相フェニルケトン尿症試験の成功を発表した。離脱試験で、事前に全員に試験薬を投与し、フェニルアラニン値が一定以上低下したレスポンダーだけを継続投与する群と偽薬にスイッチする群に無作為化割付け、数値の変化を比較した。BMN 165は20mgまたは40mgを一日一回、皮注。

結果は、継続投与群のフェニルアラニン値がベースライン平均値503.9umol/L、8週間後527.2umol/Lと同程度で推移したのに対して、偽薬スイッチ群は536.0umol/Lが1385.7umol/Lにリバウンドした。

本試験では二次的評価項目として注意不足や気分の改善度合いを検討したが、有意差はなかった。主な有害事象の発生率は過敏反応が39%と偽薬群の14%を上回った。

フェニルケトン尿症はフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の欠乏で精神障害などを合併する。治療法はフェニルアラニン制限食。BMN 165は遺伝子組換え型PEG化フェニルアラニン・アンモニア・リアーゼで、PAHの代替品として機能する。フェニルアラニン食事制限を緩和できる可能性があり、この試験では、健常者に推奨される一日蛋白量の75%を摂取できたと推測されるとのことだ。

この試験の結果判明は14年の見込みだったが、途中でデザインを変更したため長期化した。免疫原性が原因で効かない患者や増量が必要な患者が予想以上に多かった模様で、上記のように、レスポンダーだけを組み入れることにした。このようなケースではランイン期間中のレスポンダー率やドロップアウト率のチェックが必須だが、まだ発表されていない。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

Xa阻害剤の入院患者VTE予防試験がフェール
(2016年3月24日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、PRT054021(betrixaban、別名MLN-1021)の第三相試験の結果を発表した。心不全など重い疾患で入院し、安静が必要であるために静脈血栓塞栓を発症するリスクが高い患者7513人を組入れて、betrixabanの長期コース(35~47日)と標準的な薬物療法(低分子量ヘパリンのenoxaparinを6~14日間、皮注)の予防効果を比較した。

American Heart Journal誌に刊行されたデザインペーパーには明記されていないが、主評価項目は三種類のユニバースにおける静脈血栓塞栓をシーケンシャルに解析する。最初の解析はベースライン時点のD-Dimerが高値の患者が対象で、母集団の62%が該当した。結果は、相対リスク0.806、p値は0.054で、有意な差はなかった(この試験は中間無益性解析が行われたが、最終解析のアルファは0.05とされた)。

二番目の解析であるD-Dimer高値または75歳以上(母集団の91%)のユニバースでは、相対リスク0.800、p=0.029だった。三番目である母集団全体の解析は0.760、0.006となった。どちらも0.05を下回っているが、第一の解析がフェールしたらその後の解析は全てフェールになる。

サイコロを6回振れば1が1回以上出る確率は100%だ。一度で止めて多重性を回避しないと、素人は騙せてもプロにはインチキがばれてしまう。前期第二相試験のような仮説検証的試験ならともかく、第三相の薬効確認試験は厳格にやらないといけない。もし結論が間違っていた場合、将来の患者も含めて極めて沢山の人たちに誤った治療を行うリスクがあるからだ。

大出血や致死的出血は両群大差なかった。Portolaは承認審査機関と相談する考え。標準療法より有意に優れていなくても同程度なら承認に値するが、この試験は非劣性検定ではないのでエビデンスとしては万全ではない。もし承認されても、enoxaparinより長期間投与しなければならないので使い難い。

そもそも、このような患者には薬物療法でなくても予防法は色々ある。薬物療法がマイノリティにとどまっているのは出血リスクがあるからであり、従って、新薬は予防効果か、出血リスクか、どちらかで優れていることが望まれる。

残念なことに、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban)のenoxaparin対照試験では予防効果が優れていたが出血事故が増加した。BMS/ファイザーのElquis(apixaban)は効果が同程度、出血は増加。今回の試験はD-Dimer値に基づいて高リスク患者をスクリーニングすることでリスクとベネフィットのバランスを向上しようとしたが、上手く行かなかった。

Portolaは武田薬品がミレニアムを買収した時にスピンアウトした会社で、Xa阻害剤の中和剤であるandexanet alfaが承認審査中。Xa阻害剤は既に類薬が沢山あり、大規模な試験が必要で開発コストが高い。先行品が挫折した入院患者が突破口になれば良かったが、フェールしたことで、難しい状況になった。

リンク: Portolaのプレスリリース
リンク: Cohenらのデザインペーパー(American Heart Journal誌、オープンアクセス)

シムジアはヒュミラに勝てず
(2016年3月24日発表)

UCBはCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)の抗リウマチ効果をアッヴィのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)と直接比較した試験の結果を発表した。12週間後ACR20はそれぞれ69.2%と71.4%、2年後低疾病活動(LDA)達成率は35.5%と33.5%となり、有意な差はなくフェールした。深刻な有害事象や同じく感染症の発生率は大差なかった。

CimziaはTNFアルファに結合するモノクローナル抗体のフラグメント、HumiraもTNFアルファに結合するモノクローナル抗体で、メカニズム的には同工異曲であり、効果に大差なくても不思議はない。しかし、Humiraは二週間に一回の投与では反応率が低く不十分な患者は週一回にスイッチしたほうが良いと考えられており、Humiraの底力を思い知らされた。

リンク: UCBのプレスリリース

統合失調症性認知障害治療試験がフェール
(2016年3月24日発表)

米国のフォーラム・ファーマシューティカルズは、EVP-6124/MT-4666(encenicline hydrochloride)の第三相試験がフェールしたと発表した。リストラを行う予定。

バイエルから中枢神経系領域での権利を取得したアルファ7ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニストで、今回の試験では統合失調症患者の認知障害を治療する効果を検討したが、駄目だった。

日本では田辺三菱製薬が独占開発販売権を持っていて日本の施設もこの試験に参加していた。

リンク: フォーラムのプレスリリース

【承認】


テバの抗IL-5も米国で承認
(2016年3月23日発表)

FDAは、テバ(NYSE:TEVA)の抗IL-5ヒト化抗体、Cinqair(reslizumab)を重度好酸球性喘息症の維持療法用薬として承認した。16歳以上の患者の喘息発作を防ぐために4週間に一回、点滴静注する。深刻な有害事象は命に係る過敏反応。副作用で多いのはアナフィラキシー、腫瘍、筋痛。

腫瘍はビックリするが、治験での発生率は0.6%と偽薬群の0.3%より高いものの、部位は様々なので薬との因果関係は曖昧。多くは半年以内の発現と早いので、癌を発生させる効果を疑う理由は少なく、あるとしたら癌の成長を促進する効果だろう。

類薬ではグラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体、Nucala(mepolizumab)が、昨年11月に、適応症は同じだが12歳以上の患者に承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: テバのプレスリリース

イーライリリーの抗IL-17Aも米国で承認
(2016年3月22日発表)

FDAはイーライリリーの抗IL-17Aヒト化抗体、Taltz(ixekizumab)を中重度プラク乾癬の治療薬として承認した。角化細胞の増殖活性化に関与するIL-17Aを中和する。臨床試験では、バイオ薬の代表的な治療薬であったアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より効果が高かった(プール分析でPASI75が各87%と41%)。

抗IL-17Aではノバルティスの(secukinumab)も昨年、承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: イーライリリーのリリース(PR Newswireのサイト)

肺炭疽の新薬が米国で承認
(2016年3月21日発表)

FDAは肺炭疽の治療や暴露後予防、予防に用いる薬を承認した。ニュージャージーの未上場企業、Elusys社のAnthim(obiltoxaximab)で、炭疽菌の毒素に結合するモノクローナル抗体。静注だけでなく筋注も可能なので医療資源が限定的な地域や環境でも使える。抗菌作用はないので抗生剤と併用する。

米国は生物兵器対策として肺炭疽用薬の開発を後押ししており、グラクソ・スミスクラインが買収したヒューマン・ジノム・サイエンシーズのABthraxも12年に承認されている。Anthimの開発も2億ドル以上の補助金を受けており、需要も戦略的国家備蓄に限定されるだろう。

肺炭疽は症例数がごく少数で、致死率が高いため偽薬対照試験を実施するのは困難である。このため、臨床試験では忍容性だけを確認し、薬効は軍の研究施設でサルに薬と炭疽菌を投与する試験を行う。

リンク: FDAのリリース
リンク: Elusysのプレスリリース




今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2016年3月20日

2016年3月20日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • イーライリリー、アルツハイマー病試験でまた主評価項目変更
  • ロシュ、抗PD-L1の承認申請をFDAが受理
  • バイエル、コバールトリイが米国で承認
  • EMAがZydeligに関する注意事項を発表


【新薬開発】


イーライリリー、アルツハイマー病試験でまた主評価項目変更
(2016年3月15日発表)

イーライリリーはアルツハイマー病の抗体医薬で第三相試験を実施しているが、主評価項目を変更することを決めた。解析開始前なので問題はないのだろうが、感じが悪い。

この抗可溶性アミロイドベータヒト化抗体、LY2062430(solanezumab)は既に二本の第三相試験が実施され、一本目はフェールした。事後的分析で軽度患者の認知機能に関しては効果が兆しが見られたため二本目の解析計画を途中で変更し、主評価項目の解析対象から中度患者を除外し軽度に限定、薬効評価は認知機能と生活機能の二種類だったが認知機能だけに限定した。しかし、二本目はこの解析でもフェールした。

今回の三本目は、軽度アルツハイマー病でアミロイドベータの蓄積が認められる患者2100人を組入れて偽薬または400mgを4週間に一回、静注し、18ヶ月間の病状変化をモニターする。当初の計画では主評価項目は二種類あり、認知機能の指標としてADAS-cog14、生活機能指標はADCS-iADLが採用された。前者のアルファは0.001、後者は0.045の計画だった。今回、ADCS-iADLを二次的評価項目に格下げしたのでADAS-cog14のアルファが増加し検出力がかなり高まったはずだ。

この試験の成否は本年末から来年にかけて判明するだろう。アミロイド仮説に基づく薬は直接的、間接的にブロックするワクチン、抗体、小分子薬の何れも第三相がフェールしており、検出力の多寡に関わらず、楽観はできないだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


ロシュ、抗PD-L1の承認申請をFDAが受理
(2016年3月15日発表)

ロシュは、抗PD-L1ヒト化抗体のRG7446/MPDL3280A(atezolizumab)を米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は9月12日。局所進行性・転移性の尿路上皮癌で白金薬の前治療歴を持つ患者の二次治療に用いる。ロシュのプレスリリースを読む限りではPD-L1陽性癌に限定してはいないようだ。エビデンスとなる第二相試験ではORR(客観的反応率)が15%で、PD-L1陽性癌では18%、強陽性(2以上)は26%、陰性は10%だった。

PD-L1の受容体であるPD-1をブロックする抗体医薬は既に小野薬品/BMSのOpdivo(nivolumab)やMSDのKeytruda(pembrolizumab)が黒色腫や肺癌などに承認されている。ロシュが膀胱癌をリードインディケーションに選んだのは、先行二品が未承認なので、優先審査を受けたり承認後も先に販促したりできるからだろう。スペクトラム自体は大差ないのではないか。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認】


バイエル、コバールトリイが米国で承認
(2016年3月17日発表)

バイエルはFDAがKovaltry(和名コバールトリイ)をA型血友病薬として承認したと発表した。遺伝子組換え型の全長ヒト血液凝固第VIII因子で、製造過程でヒトや動物由来の蛋白を用いていない点がコージネイトなど既存薬との違い。EUでは2月に承認。日本でも2月に第二部会を通過した。出血リスクの高い患者のルーチン予防に用いる時は週2~3回投与する。

リンク: バイエルのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMAがZydeligの副作用対策を発表
(2016年3月18日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)の抗癌剤、Zydelig(idelalisib)は欧米で慢性リンパ性白血病や濾胞性リンパ腫の二次治療に用いられているが、適応や併用法を拡大するための臨床試験で死亡者の増加が見られた。深刻な感染症が増えた模様だ。承認審査機関ではEMAが3月11日に、FDAも14日に、この事実を公表し注意喚起した。FDAによると、ギリアドは進行中の試験6本を全て中止した。

18日には、EMAの市販後監視委員会であるPRACが、暫定的対策を発表した。ニューモシスチス・イロヴェチ肺炎(旧称カリニ肺炎)のリスクがあるため全患者に抗生剤を投与せよ、感染症や白血球数をモニターせよ、全身性感染症の患者には用いない、の三点だ。

ZydeliqはPI3Kデルタという、造血細胞特異的に分布する、B細胞の活性化や増殖、生存に不可欠な酵素を阻害する経口剤。慢性リンパ性白血病のうち17p-del型やTP53変異型は既存の薬に反応しないためZydeliqを一次治療に用いることが認められていたが、今回、EMAは、二次治療に限定した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: FDAのアラート(3/14付)



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2016年3月13日

2016年3月13日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • LIGHT試験の教訓 
  • ザーコリ、ROS1陽性非小細胞性肺癌に承認 
  • EUがZydeligの安全性を再検討へ 


【今週の話題】


LIGHT試験の教訓
(2016年3月8日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)が武田薬品と共同販売している体重管理薬、ContraveのLIGHT試験の論文がJournal of American Medical Association誌上に刊行された。米国の266施設が8910人の肥満症・高リスクオーバーウェート患者を組み入れて実施した心血管アウトカム試験で、多くの医療関係者の情熱とボランティアの好意そして推定100~200億円が注ぎ込まれたが、臨床試験の厳格性を理解しない人々によって無駄にされた。教訓とすべき試験である。

Contraveは鬱病や薬物依存の治療薬として承認されているbupropionと、アルコールやオピオイド依存の治療薬naltrexoneの夫々の徐放性製剤を合剤にしたもの。どちらもエネルギー消費を促したり空腹感を抑制したりする作用を持ち、また、naltrexoneはbupropionの作用に対する代償機構を抑制するのでシナジーが期待される。2014年に米国で、2015年にはEUでも、肥満症や心血管リスク因子を持つオーバーウェート患者の体重管理支援薬として承認された。

LIGHT試験はFDAの要請で実施されたもので、目的は心血管リスクが偽薬比有意に劣っていないことを確認すること。主評価項目は心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合評価項目。発症者が378人に達した段階で解析を行い、ハザードレシオの信頼区間上限が1.4未満なら目的達成とみなす。

最終解析が出るまで承認されないのでは新薬発売が遅くなってしまうため、予定イベント数の25%に到達した段階で中間解析を行いハザードレシオ信頼区間上限が2.0未満なら、大きなリスクはないとみなし、他に問題がなければ承認する。糖尿病薬にも適用されているやり方だ。Contraveは中間解析で2.0を下回ったため、最終解析を待たずに米国で承認された。

歯車が狂ったのはオレキシジェンがこの中間解析の詳細を記述した特許を取得し、その概要をSEC提出資料に記載したことが原因だ。Contrave群の発生率は0.7%、偽薬群は1.3%、ハザードレシオ0.59、95%信頼区間0.39~0.90という大変良いもので、同社の株価は大きく上昇したが、情報リークに対する批判も高まっていった。

なぜなら、進行中の試験の途中データをリークするのは参加者に先入観を与えるので禁じ手である。また、中間解析は検出力が低く例え統計的に有意であっても信頼性が十分でないので必要以上に喧伝すべきではない。新薬開発に携わる者には常識と呼ぶべきルールを踏みにじったため、宣伝目的のリークと疑われてしまったのである。

公平のため記しておくと、特許明細書に発明の裏付けとして治験の内容を詳述するのは珍しくない。成立した特許は公開されるので、その事実を公表することで投資家に周知徹底するのも上場企業として妥当な行動である。オレキシジェンは上記SEC提出資料の中で、心血管リスク削減効果が確立していないことを明記しており、患者を誤認させる意図は感じられない。また、武田に関しては、各種報道によると、情報公開に反対した由である。

私自身はオレキシジェンが販売促進のために疑わしいデータを喧伝したとは思っていないのだが、何れにせよ、結果は悲惨なことになった。第一に、治験を離脱してContraveを服用する被験者が増加、最終解析前に打ち切らざるをえなくなった。もう一度やり直すことになり、真実解明が5年遅れる見込みになった。

第二に、予定イベント数の50%に到達した段階の解析ではハザードレシオ0.88、修正99.7%信頼区間0.57~1.34となり、予防効果が見られなかった。信頼区間はオーバーラップしているので真の値は0.57と0.90の間のどこかなのかもしれないが、最初はContrave群の方が少なかったのにやがて大きく増加したのだとしたら、楽観的に考えることは許されない。どの期間のデータを取り出すかによって答えが変わるのだとしたら、多重解析のデメリットを強く意識する必要がある。

なぜこのようなことが起きるのか、私には理解できない。しかし、現実に起きた以上、将来、同じことが発生すると肝に銘じなければならない。特殊なケース、皆が悪人ではないと言い張るだけでは過去の失敗から学ぶことはできない。

リンク: S. Nissenらの治験論文(JAMA誌)
海外医薬ニュースの過去の報道:
2013年12月1日号~オレキシジェン、体重管理薬の心血管アウトカム試験中間データをFDAに提出へ
2015年3月8日号~科学か、知的財産か、投資家保護か、それが問題だ
2015年5月17日号~治験は厳格にやらないと数百億円をドブに捨てることに

【承認】


ザーコリ、ROS1陽性非小細胞性肺癌に承認
(2016年3月1日発表)

ファイザーは、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリカプセル)をROS1陽性非小細胞性肺癌に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。XalkoriはALKやc-METを阻害する経口剤で、ALKとEML4などの遺伝子が融合した変異ALK陽性非小細胞性肺癌に承認されている。非小細胞性肺がんのうち、変異ALK陽性は1~7%、今回のROS1陽性は1%程度と推定されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUがZydeligの安全性を再検討へ
(2016年3月11日発表)

EUの薬品承認機関であるEMAは、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のZydelig(idelalisib)の安全性について再検討することを明らかにした。用法・適応拡大試験三本で死亡者が対照群より多かったため。感染症によるものが多い模様だ。まずPRAC(医薬品監視リスク評価委員会)が検討し、その結果をもとにCHMP(医薬品委員会)が結論を出す予定。

ZydeligはPI3Kデルタという、造血細胞特異的に分布する、B細胞の活性化や増殖、生存に不可欠な酵素を阻害する経口剤。EUでは慢性リンパ性白血病(二次治療だが17p欠損など一部のタイプには一次使用可、rituximab併用、ofatumumab併用もCHMPが肯定的評価)と濾胞性リンパ腫(二次治療、モノ)に承認されている。

死亡率に偏りがあったのがどの試験なのか不明だが、比較的大規模な試験としては、慢性リンパ性白血病ではrituximab及びbendamusutineと三剤併用、濾胞性リンパ腫/非ホジキン型リンパ腫ではこの二剤の夫々と二剤併用試験が行われている。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2016年3月6日

2016年3月6日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ビクトーザも心血管リスクを削減した
  • バイオマリン、CLN2病治療薬を承認申請へ
  • ロシュ、抗IL-13抗体の第三相は一勝一敗
  • アディノベイトをEUでも承認申請
  • ロシュ、Gazyvaがリンパ腫に適応拡大
  • ギリアド、TAFの三剤合剤をFDAが承認
  • FDAが長期作用性B型血友病用薬を承認
  • イムブルビカ、CLL一次治療が承認

【今週の話題】


ビクトーザも心血管リスクを削減した
(2016年3月4日発表)

二型糖尿病の血糖治療薬は心血管疾患を防ぐのか、それとも、リスクを高めるのか?薬物療法の普及に大きな貢献をしたランドマーク的試験、UKPDSでは、インスリンに対する懸念が後退し、metforminがリスクを削減するかもしれないという希望が浮上した。

ところが、血糖値を正常値近くに矯正する強化療法を検討したACCORD試験ではリスクが高まった。PPAR作動剤の試験では、心筋梗塞が減少したが心不全が増加した。FDAは血糖治療薬を開発する企業に心血管アウトカム試験の実施を要請。承認申請用の試験でハザードレシオの95%上限が一定の範囲内だったら承認後に、超過の場合は承認前に、実施しなければならない。

これまでの成績は区々で、殆どの新薬は良くも悪くもなかったが、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同販売しているJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)のEMPA-REG試験が大成功、主目的である非劣性解析だけでなく優越性の解析も成功した。標準治療に加えて偽薬を追加した群と比べて、Jardianceを追加した群は心血管死・心筋梗塞・脳卒中リスクが14%小さかった。

そして今回、ノボ ノルディスクがGLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)のLEADER試験の成功を発表した。二型糖尿病で心血管疾患歴・高リスクの9340人をVictoza群と偽薬群に割り付けて心血管死・心筋梗塞・脳卒中の発生状況を追跡したもので、主評価項目は何れか一つが発生するリスク(複合評価項目)だが、個々のイベントも低下傾向にあった模様だ。データは6月のADA米国糖尿病学会で発表される予定。投資家向け電話会議が開催されたが、具体的な内容は開示されなかった。

Jardianceは、少なくとも現時点では、SGLT2阻害剤の中で心血管リスク削減効果が実証された唯一の製品。同様に、Victozaも、GLP-1作用剤の中で唯一。同種の薬の中でシェアを更に増やす可能性が高まった。liraglutideは肥満症治療薬Saxendaとしても販売されており、こちらの普及にも追い風になるだろう。

臨床試験にはノウハウがあり、積極的に取り組む企業や国は経験から多くを学ぶことができる。例えば、PPAR作動剤は発売当初、効果が弱いというイメージがあった。当時の典型的な治験手法であった3ヶ月の試験でHbA1cがSU剤やmetforminほど下がらなかったからである。ところが、その後、効果がフルに発揮されるまで4ヶ月程度かかることが判明。一方、SU剤の効果は1年経つと低下することが明らかになった。この結果、SU剤と直接比較試験を行う場合は1~2年追跡する、という必勝法が編み出された。

インスリン三社は糖尿病試験を知悉しているので他社の製品と違う結果が出ても直ぐには受け容れ難いところがある。LEADER試験の結果は今年後半に医薬品審査機関に提出される予定。FDAが心血管リスク削減効果を認めるかどうか、注目される。

リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース

【新薬開発】


バイオマリン、CLN2病治療薬を承認申請へ
(2016年3月2日発表)

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、cerliponase alfaの第1/2相ピボタル試験が良好な結果になり、年央までに欧米でCLN2病治療薬として承認申請する考えであることを発表した。

CLN2病はライソゾーム疾患の一つで、遺伝子変異が原因でトリペプチジルペプチダーゼ1が機能しない。有病率は20万人に一人で、急速に進行する致死的神経変性疾患とされる。cerliponase alfaは遺伝子組換え型ヒト・トリペプチジルペプチダーゼ1で、脳室内に二週間に一回、点滴投与する。

今回の試験では24人の患者に一回300mgを48週間に亘って投与したところ、病状スケール(最良が6、最悪はゼロ)の悪化が0.43単位と、自然歴データの2.1単位と比べて小さかった。治験完了者23人中15人で病状が安定した。治療薬関連深刻有害事象は過敏反応と点滴反応。

同剤は欧米で希少病薬指定を受けており、米国ではブレークスルー・セラピー指定されている。深刻な疾患なので、症例数が少なく対照試験でないという難点はある程度は容認されるだろう。問題は過敏反応・点滴反応。ドロップアウトが1例と少ないので、深刻といってもなんとかできるものではないのかもしれないが、もし命にかかわるなら、承認の妨げになるかもしれない。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

ロシュ、抗IL-13抗体の第三相は一勝一敗
(2016年2月29日発表)

ロシュは抗IL-13ヒト化抗体RG3637(lebrikizumab)の第三相重度喘息症試験が一勝一敗となったことを発表した。後期第二相試験のバイオマーカー分析結果に基づいてスクリーニングし、二種類の用量を52週間に亘りテストしたが、成功した方の試験でも後期第二相の成績より見劣りした由。

この試験は、二種類の管理薬を併用しても病状を十分に管理できず、血清中ペリオスチン濃度または血中好酸球数が高い喘息症患者を対象に、喘息増悪抑制効果やFEV1改善効果を検討したもの。一本はどちらも有意に優れていたが、もう一本は増悪が大差なかった。

抗IL-13抗体はアストラゼネカもCAT-354(tralokinumab)も喘息症の第三相が進行中で、来年に開票する見込み。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


アディノベイトをEUでも承認申請
(2016年3月2日発表)

バクスアルタ(NYSE:BXLT)はAdynoviをEUでも承認申請したと発表した。12歳以上のA型血友病患者の出血治療やルーチン予防に用いる。同社の全長血液凝固第VIII因子、Advateにポリエチレン・グリコールを結合して半減期を1.4~1.5倍に長期化したもので、ルーチン予防に用いる時の投与頻度を週3~4回から2回に減らすことができる。

米国ではAdynovate名で昨年11月に承認、日本でもアディノベイト名で先月、第二部会を通過した。EUは成人と青少年向けを同時に申請するよう求めているためスケジュールが遅くなっている。

リンク: バクスアルタのプレスリリース

【承認】


ロシュ、Gazyvaがリンパ腫に適応拡大
(2016年2月29日発表)

ロシュは、FDAがGazyva(obinutuzumab)の適応拡大を承認したと発表した。13年に慢性リンパ性白血病(CLL)の一次治療薬として承認されているが、新たに、濾胞性リンパ腫の二次治療が認められた。

Gazyvaは同社のRituxan(rituximab)と同じCD20を標的とする抗体医薬で、違いは、可変領域の一部をヒト由来のアミノ酸に替えたヒト化抗体であること、そして、フコースが無くADCC活性が高いこと。翻訳後装飾でフコースが付与されるのを回避する技術としては協和発酵のポテリジェント技術が有名でロシュの子会社であるジェネンテックも導入したことがあるが、Gazyvaはロシュが05年に買収したGlycArt社のGlycoMAb技術を用いている。

抗体関連技術のうちマウスやバクテリオファージにヒトの抗体を発現させる完全ヒト化抗体技術は当初考えられたほど凄くはなく、臨床的な薬効や安全性はヒト化抗体と大差ないように感じられる。フコース欠如抗体はGazyvaが最初の試金石であったが、CLL一次治療試験でRituxanを有意に上回り、プルーフ・オブ・テクノロジーに成功した。

今回の承認はRituxan代替ではなく、一次治療でRituxanを用いて進行・再発した患者の二次治療。Treanda(bendamustine、和名トレアキシン)併用で6サイクル施行し、その後は単剤で2ヶ月毎に最長2年間、維持療法を行う。第三相試験ではTreandaだけの群と比べてPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.48だった。この試験は低悪性度非ホジキン型リンパ腫を対象としたが、被験者の8割が濾胞性リンパ腫であったためか、このタイプだけに承認された。

リンク: ロシュのプレスリリース

ギリアド、TAFの三剤合剤をFDAが承認
(2016年3月1日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はFDAがOdefseyを承認したと発表した。核酸系逆転写阻害剤tenofovirの新しいプロドラッグであるtenofovir alafenamide fumarate(略称TAF)を配合した一連の新薬・合剤の一つで、同社のもう一つの核酸系逆転写阻害剤emtricitabineとジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤rilpivirine(単剤の製品名Edurant、和名エジュラント)を配合。

12歳以上のHIV/AIDSでウイルス量が10万コピー/mL以下の患者の一次治療や、治療成績が良好な患者のスイッチに使うことができる。一日一回一錠服用するだけでHAARTと呼ばれる多剤併用療法が可能。乳酸アシドーシスや肝脂肪を伴う重度肝腫大、B型肝炎の劇性増悪が枠付き警告されている。

Knight Therapeutics社から1.25億ドルで購入した優先審査バウチャーを用いて、申請の8ヶ月後に承認を取得した。

リンク: ギリアドのプレスリリース

FDAが長期作用性B型血友病用薬を承認
(2016年3月4日発表)

FDAは、CSLベーリングのIdelvionを成人と小児のB型血友病用薬として承認した。血液凝固第IX因子にアルブミンを結合して作用を長期化したもので、米国の長期作用性製剤としては第2号。出血治療、予防、術後出血管理、そしてルーチン予防に用いる。CSLによると、12歳以上のルーチン予防に用いる場合は14日に一回で足りる可能性がある。

リンク: FDAのリリース
リンク: CSLベーリングのプレスリリース

イムブルビカ、CLL一次治療が承認
(2016年3月4日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)はFDAがImbruvica(ibrutinib)を慢性リンパ性白血病(CLL)や小リンパ球性リンパ腫(SLL)の一次治療で承認したと発表した。これまでは17p欠損など一部の難治性を除いて二次治療だけだった。CLL/SLL以外ではマントル細胞リンパ腫の二次治療にも承認されている。

適応拡大のエビデンスとなった第三相試験では、65歳以上の初めて治療を受ける患者269名をchlorambucil群とImbruvica群に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオ0.16という大変良い数値が出た(メジアン値は18.9ヶ月と未到達)。ORR(反応率)は各35.3%と82.4%でこれも統計的に有意だった。

ImbruvicaはBruton's tyrosine kinase(Btk)を阻害する経口剤。ファーマサイクリクスがジョンソン・エンド・ジョンソンと11年に提携し共同開発販売しているが、このファーマサイクリクスを15年にアッヴィが210億ドルで買収した。

リンク: アッヴィのプレスリリース



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/