2016年4月3日

2016年4月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:HOPE-3試験成功
  • 抗IL-4受容体抗体のアトピー試験が成功
  • カルチノイド症候群の画期的新薬が承認申請
  • CHMPが遺伝子療法などに肯定的意見
  • FDA諮問委員会がパーキンソン性精神症状治療薬を支持
  • safinamideは審査完了通知
  • 肝中心静脈閉塞症の治療薬が米国でも承認

【今週の話題】


ACC:HOPE-3試験成功
(2016年4月2日発表)

スタチンと降圧剤を用いた心血管アウトカム試験、HOPE-3の結果がACC米国心臓学会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。血圧やLDL-C値を問わずに、心血管疾患リスクが中程度の患者12705人を組入れてメジアン5.6年間治療したところ、スタチンは心筋梗塞などのリスクを有意に削減したが降圧剤は有意ではなかった。色々な解釈が可能だが、私は、これまでと同様に、スタチンはLDL-C値が高くなくても有効、降圧剤は高血圧症だけに有効、と考えたい。

HOPE-3は2x2ファクトリアル・デザインで、スタチンと偽薬、降圧剤と偽薬、スタチンと降圧剤の併用と偽薬併用、の三種類の試験を一編に行った。組入れ条件は、男は55歳以上でリスク因子一つ以上、女は65歳で二つ以上。リスク因子は高ウエスト・ヒップ・レシオ、低HDL-C値、喫煙経験、異脂血症、冠疾患早発の家族歴、中度腎疾患で、心筋梗塞初発予防試験らしい内容。

実際に組み入れられた患者のベースライン値を見ると、平均年齢65歳、女が全体の38%。リスク因子は高ウエスト・ヒップ・レシオに該当が87%(平均値0.94、因みにBMIは27)、低HDL-Cは36%。高血圧の患者は38%のみで全体の平均血圧は138/82 mm Hg。LDL-C値の平均は128mg/dL。hsCRPのメジアン値は2.0。アスピリン服用者は全体の11%となっている。

主評価項目は複合評価項目が二つ。一つは典型的なもので心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の何れか。もう一つは、更に、心停止蘇生や心不全、血管再建術施行を加えたもの。どちらも類似した結果なので以下では前者だけを記す。

介入法は、スタチンがCrestor(rosuvastatin)の10mg/日または偽薬。降圧剤は日本でいえば武田のエカード配合錠HD二錠と同じで、Atacand(candesartan)の16mg/日とhydrochlorothiazideの12.5mg/日の併用または偽薬併用。初発予防試験であるせいか、用量控えめ。

結果は、スタチン試験はハザードレシオ0.76、p=0.002で臨床的にも統計的にも良い数値が出た。LDL-C値の群間差は40mg/dL。スタチンの過去の試験と同様に、LDL-C値が高い人も高くない人も下げれば下げただけ心血管疾患リスクが低下することを示した。

尤も、初発予防試験なので発生率は4.8%が3.7%に、1.1ポイント下がっただけ。1000人に一年間投与すると2人を心筋梗塞などから救うことができるが、残りの998人は飲んでも飲まなくても同じだ。Crestorの初発予防試験、JUPITORはhsCRP値の高い患者はリスクも応答性も高いという仮説に基づいて実施されたが、HOPE-3試験のサブグループ分析では、高くても低くても結果は大差なかった。

スタチン群は筋痛や白内障手術が若干多かった。Number needed to harmはNumber needed to treatと同程度なので、結局、筋痛や白内障より心筋梗塞の方が深刻なのでどちらを選ぶかと聞かれれば前者を選ぶ、という程度の話になる。

降圧剤試験はハザードレシオ0.93、p=0.40で有意な差はなかった。candesartanの用量は過去のアウトカム試験と比べて少なく、hydrochlorothiazideは心血管アウトカム試験の裏付けはないので、薬の選択が適切でなかった可能性もあるが、血圧の群間差は6/3 mm Hgと必要最小限は超えている。高血圧症サブグループの解析では良い数字が出ているので、やはり、高血圧でない人の血圧を下げても意味はないのだろう(腎症などの高血圧以外の承認用途は除く)。

副作用では低血圧や眩暈などが増加した。

併用試験はハザードレシオ0.71、p=0.005となった。スタチン、ARB、利尿薬の『ポリピル』の有効性を示したことになるが、降圧試験はフェールしたのだから、本当に三剤必要なのかは分からない。血圧や血糖値は高くても低くても病気なので下げ過ぎないように注意しなければならないが、低LDL-C症という病気は聞いたことがない。新生児のLDL-Cはもっと少ない由であり、大人は平均値でも高すぎるのかもしれない。だから、LDL-Cだけがlower is betterであったとしても、納得できないことではないのである。

リンク: Yusufらの治験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

【新薬開発】


抗IL-4受容体抗体のアトピー試験が成功
(2016年4月1日発表)

リジェネロンと開発パートナーであるサノフィは、REGN668/SAR231893(dupilumab)の第三相アトピー性皮膚炎試験が二本とも成功したと発表した。16年第3四半期に承認申請する予定。

dupilumabはTh2免疫に関わるIL-4/IL-13の受容体をブロックするトランスジェニックマウス抗体で、アトピーや好酸球性喘息症向けに開発されている。今回の第三相試験は、局所製剤だけでは管理不良の中重度患者を偽薬、300mg週一回皮注、同二週間に一回皮注の何れかに割り付けて奏効率を比較した。dupilumabは負荷用量600mgを採用。奏効率は、16週間の治療後のグローバル評価(0~4の5段階)がベースライン(3以上を組入れ)から0~1に改善した患者の比率。

結果は、二本の試験で偽薬群が8~10%であったのに対してdupilumab群は36~38%と有意に上回った。投与間隔はどちらでも効果に大差なさそうだ。有害事象は注射箇所反応や結膜炎が増加したが、感染症は増えなかった。

リンク: 両社のプレスリリース(PRNewswire)

【承認申請】


カルチノイド症候群の画期的新薬が承認申請
(2016年3月30日発表)

米国テキサス州のLexicon Pharmaceuticals(Nasdaq;LXRX)は、LX1032(telotristat etiprate)をカルチノイド症候群の腸活動改善薬として米国で承認申請した。TPH(トリプトファン水酸化酵素)阻害剤で、一日三回、経口投与する。カルチノイド症候群は神経内分泌細胞の腫瘍化が原因でセロトニンが過剰生産され、腸症状をもたらす。そこで、セロトニン生産の調律酵素であるTPHを阻害するもの。米国と日本以外の市場ではイプセンが開発販売する。

リンク: Lexiconのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが遺伝子療法などに肯定的意見
(2016年4月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、4月1日に終了した3月の会議でADA-SCIDの遺伝子療法などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのStrimvelis(開発コードGSK2696273)は、アデノシンデアミナーゼ欠損症による重度複合型免疫不全症(ADA-SCID)の遺伝子療法。患者の骨髄からCD34陽性細胞を採取して、レトロウイルス・ベクターを使ってヒト・アデノシンデアミナーゼのcDNAを導入。患者に点滴すると体内で免疫細胞に成熟・増殖する。ADA-SCIDはHLA型適合の近親者の造血幹細胞を移植できれば一番良いが、できない場合にStrimvelisが適応になる。

ADA-SCIDの遺伝子治療は研究史が長いが、やっと実用化に漕ぎ着けた。イタリアのFondazione Telethon and Fondazione San Raffaeleが開発、2010年にGSKがライセンスしたもの。

EUの遺伝子療法は12年にUniQureの重度家族性リポプロテイン・リパーゼ欠乏症治療薬、Glyberaが承認されている。小児向けや、遺伝子をex vivoで導入する薬はStrimvelisが初めてになろう。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

Amicus Therapeutics(Nasdaq:FOLD)のファブリー病治療薬、Galafold(migalastat hydrochloride)も肯定的意見を受けた。酵素補充療法ではなく、ファーマシューティカル・シャペロンと呼ばれる不思議なタイプの薬で、機能不全のアルファ・ガラクトシダーゼA酵素に結合して、本来いるべき場所に移動して機能できるように仕向ける。二日に一回、経口投与するだけなので点滴より負担が少ない。

但し、特定のタイプの患者にしか有効性が認められない。ファブリー病に係る800以上の遺伝子変異のうち269種類だけで、患者の35~50%が該当するとのことだ。

臨床成績は明確ではなく、米国での承認申請は遅れていて、年内実施の見込み。忍容性は比較的良い模様だ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Amicusのプレスリリース(GLOBE NEWSWIRE)

ジョンソン・エンド・ジョンソンがデンマークのジェンマブ(Nasdaqコペンハーゲン:GEN)からライセンスして開発したDarzalex(daratumumab)も肯定的意見となった。抗CD38完全ヒト化抗体で、多発骨髄腫でプロテアソム阻害剤と免疫調停剤による治療を既に受けて、最終治療に反応しなかった患者に単剤投与する。第二相試験に基づく条件付き承認で、昨年11月に承認された米国と同様に、第三相試験で延命効果を確認する必要がある。

この第三相試験が成功したことも3月30日に発表された。再発性難治性の患者を対象に、Velcade(bortezomib)とdexamethasoneを併用する標準的療法と更にDarzalexも投与する三剤併用療法のPFS(無進行生存期間)を比較したところ、中間解析で有意差が確認された。早晩、欧米で適応拡大申請されることになるだろう。

Darzalexの主な有害事象は点滴関連反応で、治験では48%で発生。このほかに、貧血など骨髄抑制も起きる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ジェンマブのプレスリリース(第三相試験成功、3/30付)

適応拡大は、まず、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)とBMSのYervoy(ipilimumab)を悪性黒色腫に併用することが支持された。但し、Opdivoの単剤投与と比べてPFS延長効果が確立しているのはPD-1低発現腫瘍のみ、という注記が付された。治験のサブグループ分析結果のとおりで、おそらく、PD-1高発現腫瘍以外はOpdivoの効果が弱いためYervoyによる補完が有効なのだろう。

この二剤の併用の話を聞く度に、貧乏人は麦を食え、私も食っているという声が脳裏に鳴り響く。15年前、このような資料を作り始めた頃は、自分が病気になった時に日本で使えるのか一抹の不安があった。今日では解消したが、自分が病気になった時に薬代を払えない心配は年々高まっている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

話はそれるが、再発性クラシックホジキンリンパ腫の適応拡大申請がEMAに受理されたことが発表された。第二相試験に基づくもので、データは年内に発表される見込み。

リンク: BMSのプレスリリース(適応拡大申請、3/30付)

エーザイのHalaven(eribulin mesylate)は脂肪肉腫に用いることが支持された。アントラサイクリン系抗癌剤などによる治療歴を持つ手術不能/転移性患者に用いる。第三相試験ではメジアン生存期間が15.6ヶ月とdacarbazineの8.4ヶ月を上回った。日本では軟部腫瘍全般に承認されたが、EUは米国同様に脂肪肉腫に限定した。

リンク: EMAのプレスリリース

FDA諮問委員会がパーキンソン性精神症状治療薬を支持
(2016年3月29日発表)

FDAの精神薬理学薬諮問委員会は、ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)がパーキンソン病の精神症状治療薬として承認申請した5-HT2Aインバース・アゴニスト、ACP-103(pimavanserin tartrate)を検討し、12対2で賛成が反対を上回った。薬効については12人、忍容性は11人の委員が支持した。

200人を組入れた臨床試験では、幻覚や妄想に係る症状判定スコアが偽薬比有意に改善した。パーキンソン病症状は悪化しなかった。深刻な有害事象の発生率が7.98%と偽薬群の3.5%を上回った。薬との関係は判然としないようだが、致死的な有害事象のリスクが枠付き警告される可能性がある。

リンク: ACADIAのプレスリリース

safinamideは審査完了通知
(2016年3月29日発表)

スイスのNewron Pharmaceuticals(SIX:NWRN)と開発販売パートナーであるイタリアのZambon、そして米国の販売提携先であるUS WorldMedsは、FDAからXadago(safinamide)の審査完了通知を受領したことを発表した。

14年5月に承認申請した時は書類の不備で受理されず、半年遅れた。今回、承認されなかった理由は薬物依存試験が実施されていないからとのことであり、全般的に、承認申請が稚拙な印象がある。私自身も、脳血管関門を通過する薬は薬物乱用・依存・離脱試験が必要という話を今回初めて知ったのだが、思い当たる節が数年前から起きている。

リンク: Newronのプレスリリース

【承認】


肝中心静脈閉塞症の治療薬が米国でも承認
(2016年3月30日発表)

FDAは、ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)のDefitelio(defibrotide sodium)を肝VOD(中心静脈閉塞症)治療薬として承認した。造血幹細胞移植後に肝臓の循環障害が発生し、腎臓や肺の障害を合併した成人・小児に用いる。この病気の治療薬は初。

肝VODの発生率は2%以下だが、重度だと100日生存率21~31%と極めて深刻な状態になる。Defitelioはブタ粘膜由来のオリゴデオキシリボヌクレオチドで血栓溶解作用を持つ。二本の単群臨床試験では100日生存率が38~45%だった。深刻な有害事象は出血やアレルギー反応。

EUでは13年10月に例外的環境条項に基づいて承認された。

元々はイタリアのGentiumが承認申請したが承認されなかった。同社をジャズが10億ドルで買収し、米国の権利をシグマ-タウから頭金7500万ドル、達成報奨金1億7500万ドルで買い戻した。元手がかかっているので値段も高くなる。

リンク: FDAのリリース
リンク: ジャズのプレスリリース




今週は以上です。

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