2016年3月13日

2016年3月13日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • LIGHT試験の教訓 
  • ザーコリ、ROS1陽性非小細胞性肺癌に承認 
  • EUがZydeligの安全性を再検討へ 


【今週の話題】


LIGHT試験の教訓
(2016年3月8日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)が武田薬品と共同販売している体重管理薬、ContraveのLIGHT試験の論文がJournal of American Medical Association誌上に刊行された。米国の266施設が8910人の肥満症・高リスクオーバーウェート患者を組み入れて実施した心血管アウトカム試験で、多くの医療関係者の情熱とボランティアの好意そして推定100~200億円が注ぎ込まれたが、臨床試験の厳格性を理解しない人々によって無駄にされた。教訓とすべき試験である。

Contraveは鬱病や薬物依存の治療薬として承認されているbupropionと、アルコールやオピオイド依存の治療薬naltrexoneの夫々の徐放性製剤を合剤にしたもの。どちらもエネルギー消費を促したり空腹感を抑制したりする作用を持ち、また、naltrexoneはbupropionの作用に対する代償機構を抑制するのでシナジーが期待される。2014年に米国で、2015年にはEUでも、肥満症や心血管リスク因子を持つオーバーウェート患者の体重管理支援薬として承認された。

LIGHT試験はFDAの要請で実施されたもので、目的は心血管リスクが偽薬比有意に劣っていないことを確認すること。主評価項目は心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合評価項目。発症者が378人に達した段階で解析を行い、ハザードレシオの信頼区間上限が1.4未満なら目的達成とみなす。

最終解析が出るまで承認されないのでは新薬発売が遅くなってしまうため、予定イベント数の25%に到達した段階で中間解析を行いハザードレシオ信頼区間上限が2.0未満なら、大きなリスクはないとみなし、他に問題がなければ承認する。糖尿病薬にも適用されているやり方だ。Contraveは中間解析で2.0を下回ったため、最終解析を待たずに米国で承認された。

歯車が狂ったのはオレキシジェンがこの中間解析の詳細を記述した特許を取得し、その概要をSEC提出資料に記載したことが原因だ。Contrave群の発生率は0.7%、偽薬群は1.3%、ハザードレシオ0.59、95%信頼区間0.39~0.90という大変良いもので、同社の株価は大きく上昇したが、情報リークに対する批判も高まっていった。

なぜなら、進行中の試験の途中データをリークするのは参加者に先入観を与えるので禁じ手である。また、中間解析は検出力が低く例え統計的に有意であっても信頼性が十分でないので必要以上に喧伝すべきではない。新薬開発に携わる者には常識と呼ぶべきルールを踏みにじったため、宣伝目的のリークと疑われてしまったのである。

公平のため記しておくと、特許明細書に発明の裏付けとして治験の内容を詳述するのは珍しくない。成立した特許は公開されるので、その事実を公表することで投資家に周知徹底するのも上場企業として妥当な行動である。オレキシジェンは上記SEC提出資料の中で、心血管リスク削減効果が確立していないことを明記しており、患者を誤認させる意図は感じられない。また、武田に関しては、各種報道によると、情報公開に反対した由である。

私自身はオレキシジェンが販売促進のために疑わしいデータを喧伝したとは思っていないのだが、何れにせよ、結果は悲惨なことになった。第一に、治験を離脱してContraveを服用する被験者が増加、最終解析前に打ち切らざるをえなくなった。もう一度やり直すことになり、真実解明が5年遅れる見込みになった。

第二に、予定イベント数の50%に到達した段階の解析ではハザードレシオ0.88、修正99.7%信頼区間0.57~1.34となり、予防効果が見られなかった。信頼区間はオーバーラップしているので真の値は0.57と0.90の間のどこかなのかもしれないが、最初はContrave群の方が少なかったのにやがて大きく増加したのだとしたら、楽観的に考えることは許されない。どの期間のデータを取り出すかによって答えが変わるのだとしたら、多重解析のデメリットを強く意識する必要がある。

なぜこのようなことが起きるのか、私には理解できない。しかし、現実に起きた以上、将来、同じことが発生すると肝に銘じなければならない。特殊なケース、皆が悪人ではないと言い張るだけでは過去の失敗から学ぶことはできない。

リンク: S. Nissenらの治験論文(JAMA誌)
海外医薬ニュースの過去の報道:
2013年12月1日号~オレキシジェン、体重管理薬の心血管アウトカム試験中間データをFDAに提出へ
2015年3月8日号~科学か、知的財産か、投資家保護か、それが問題だ
2015年5月17日号~治験は厳格にやらないと数百億円をドブに捨てることに

【承認】


ザーコリ、ROS1陽性非小細胞性肺癌に承認
(2016年3月1日発表)

ファイザーは、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリカプセル)をROS1陽性非小細胞性肺癌に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。XalkoriはALKやc-METを阻害する経口剤で、ALKとEML4などの遺伝子が融合した変異ALK陽性非小細胞性肺癌に承認されている。非小細胞性肺がんのうち、変異ALK陽性は1~7%、今回のROS1陽性は1%程度と推定されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUがZydeligの安全性を再検討へ
(2016年3月11日発表)

EUの薬品承認機関であるEMAは、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のZydelig(idelalisib)の安全性について再検討することを明らかにした。用法・適応拡大試験三本で死亡者が対照群より多かったため。感染症によるものが多い模様だ。まずPRAC(医薬品監視リスク評価委員会)が検討し、その結果をもとにCHMP(医薬品委員会)が結論を出す予定。

ZydeligはPI3Kデルタという、造血細胞特異的に分布する、B細胞の活性化や増殖、生存に不可欠な酵素を阻害する経口剤。EUでは慢性リンパ性白血病(二次治療だが17p欠損など一部のタイプには一次使用可、rituximab併用、ofatumumab併用もCHMPが肯定的評価)と濾胞性リンパ腫(二次治療、モノ)に承認されている。

死亡率に偏りがあったのがどの試験なのか不明だが、比較的大規模な試験としては、慢性リンパ性白血病ではrituximab及びbendamusutineと三剤併用、濾胞性リンパ腫/非ホジキン型リンパ腫ではこの二剤の夫々と二剤併用試験が行われている。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

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