2025年8月29日

第1222回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • CDCの複数の高官がCOVID-19ワクチン政策を巡り免職/辞任 
  • FDA、一転してチクングニア熱生ワクチンの承認を停止 
  • FDA、有害事象報告件数を日次発表 
  • リリー、ベージニオの術後投与試験で延命効果も確認 
  • C5生成阻害剤の第3相筋無力症試験が成功 
  • イーライリリー、経口GLP-1アゴニストのT2D肥満試験が成功し承認申請へ 
  • ウィフガートの抗AChR抗体を持たない筋無力症試験が成功 
  • 25/26シーズンのCOVID-19ワクチンが承認 
  • レパーサが初発予防に承認 
  • レケンビのMRI検査は早めに始めるべし 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


CDCの複数の高官がCOVID-19ワクチン政策を巡り免職/辞任
(2025年8月27日発表)

第2次トランプ政権下の医療政策は大きく変貌しており高官人事の面でも波乱万丈だ。今回は、FDAがCOVID-19ワクチンの適応範囲を狭めたこと(後記)などに反発した、HHS(アメリカ合衆国保健福祉省)傘下で感染症対策などを担うCDC(疾病管理予防センター)のヘッドが更迭され、抗議のため主要部門のヘッドなど3人が辞任した。

ワクチンの承認はFDAの権限なのでCDCのディレクターが反対するのは奇異だが、おそらく、背景には、HHSのロバート・F・ケネディ長官がCDCの役割を縮小しようとしている(と報じられている)ことがあるのだろう。今回、COVID-19ワクチンの適応範囲を狭めたことは、大流行期が終わったことを考えれば自然な成り行きと思っていたが、CDCの役割を一部取り込んだという側面もあるのだろう。HHS長官はワクチン全般に対して慎重あるいは懐疑的なスタンスのようなので、それに対する反発もあったのではないか。

CDCディレクターのSusan Monarez博士は1ヶ月前に議会で承認されたばかり。HHSはXで退任と発表したが、博士の弁護士はメディアに退任も免職もないと回答、その後、免職が正式発表された。CDCの主要部門であるNational Center on Immunization and Respiratory DiseasesとNational Center for Emerging and Zoonotic Infectious Diseasesのヘッド、及び、Deputy Director and Chief Medical Officerを担っていた3名が抗議の意を示して辞任、MedPageTodayがその書簡を掲載した。

CDCでは6月にACIP(ワクチン接種諮問委員会)の全委員が解任され、ワクチンに否定的ともいわれる委員などが任命された。CDCのCOVID-19ワクチンに関するワークグループはRetsef Levi博士がチェアに選任されたが、博士は2年前にXでCOVID-19のmRNAワクチンの接種を止めるよう呼びかけたことがある。

FDAでもSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー遺伝子療法、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)の販売を安全性を理由に中止するよう要請した直後に生物学的製剤担当部署であるCBERのヘッドが退任し、FDAが販売再開を認めた後に再任されるという、三日天下ならぬ十日不在事件があった。米国の公衆衛生政策はどうなってしまうのだろうか。

リンク: ワシントン・ポストの関連記事(8/28付)
リンク: MedPageTodayの関連記事(同日に辞任した3名の書簡を掲載)
リンク: 同(Levi博士に関する記事、8/28付)


FDA、一転してチクングニア熱生ワクチンの承認を停止
(2025年8月25日発表)

FDAは、フランスのValneva SE(Euronext Paris:VLA)が販売しているチクングニア熱弱毒化生ワクチン、Ixchiqの承認を停止したと発表した。ついこの間、60歳以上の接種停止を解除したばかりなのに、FDAの右往左往は未だ続いている。

Ixchiqは米国では23年11月に、EUでも24年6月に、チクングニア・ウイルスに曝露するリスクのある成人向けに承認された。24年の会社売上高は0.94億ユーロ。薬効のエビデンスは免疫原性試験でチクングニア熱予防効果が確立していないため、FDAは加速承認に留めた。接種者の1%以上で重度チクングニア様有害事象が見られため、市販後試験で安全性を確認するよう求めた。

その後、チクングニア熱が流行し接種キャンペーンが開始された国や地域で深刻有害事象が観察されたことから、25年5月にFDAが60歳以上の接種停止勧告を、EMA(欧州薬品庁)は65歳以上の接種禁止を暫定的に決定したが、EMAは7月に、FDAは8月6日付で、解除した。投与実績と比べれた発生頻度が1万人当り6人程度とそれほど高くないため、便益が上回ると判断したのだろう。

FDAがなぜ12日後に見解を変えたのか、理由は必ずしも明確ではない。Valneva宛て承認停止通知は、VAERS(FDAのワクチン有害事象報告システム)に届け出られた深刻有害事象件数が制限解除時点の32件から4件増加し、うち1件は55歳男性であることを理由にしているが、たった1割増えただけだ。

メーカー宛て通知の名義人であるCBER(生物学的製剤評価研究センター)のヘッドであるVinayak Prasadディレクターは、安全性懸念が浮上したSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)を7月に自主的販売停止に追い込んだのと前後して不透明な理由で退任したが、8月に再任された。複数の報道によると、復帰は8月9日付、つまり、FDAがElevidysの再発売を容認したりValnevaの制限を解除したりした後である。おそらく、この二件とも、B.C./A.C.ならぬBefore PrasadがAfter Prasadに遷移したことに伴うゴタゴタなのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース


FDA、有害事象報告件数を日次発表
(2025年8月22日発表)

FDAはFAERS(FDA有害事象報告システム)の受入れ件数をこれまでの四半期ごとではなく日次で公表し始めた。下記の二番目のサイトにリンクが置かれている。内容を見ると件数だけで、薬剤毎の内訳などは分からない。薬の副作用リスクをもっと重視する意気込みだけ示した、というところだろうか。

FDAの有害事象報告は様々な理由で必ずしも実態を表さない。04年にMSDがCOX-2阻害剤Vioxx(rofecoxib)の自主回収を発表した時は、同薬に関する有害事象報告数が一ヶ月で二桁増加した。リスクが表面化したことに加えて、集団訴訟参加者の募集を開始した法律事務所がFAERSに届け出たり、医師と服用者などが夫々に届け出たりしたことが牽引したと言われている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: FDA Adverse Event Reporting System (FAERS) Public Dashboard


【新薬開発】


リリー、ベージニオの術後投与試験で延命効果も確認
(2025年8月27日発表)

イーライリリーはVerzenio(abemaciclib)がmonarchE試験で副次的評価項目の全生存期間を達成したと発表した。統計的に有意かつ臨床的に意味のある延長を見た。全集団の解析なのか、米国の適応範囲で日本の添付文書にも掲載されているコフォート1だけの解析なのか、そして、コフォート2はどうなったのか、プレスリリースには記されていない。

この試験は、ホルモン受容体陽性her2陰性のリンパ節転移乳癌で摘出術を受けたが再発高リスクの男女を組入れて、tamoxifenやアロマターゼ阻害剤による内分泌療法(最長10年)にVerzenioの2年コースを追加する便益を偽薬追加と比較したもの。中間解析で主評価項目のiDFS(無浸潤疾患生存)を達成した。21~22年に米日欧で適応拡大が承認されたが、FDAは被験者5600人余のうち、特に高リスクな患者を組入れたコフォート1の症例(5100人余)の中の、IHC検査でKi-67スコアが20%以上の患者(2000人余)に適応を限定した。2年後にKi-67基準は撤回されたが、その時点ではまだ、全生存期間の解析は熟していなかった。

上記のコフォート1は、病理検査で同側腋窩リンパ節の4個以上で転移陽性、または、1~3個陽性で、原発腫瘍径5cm以上(術前薬物療法前の画像検査も可)又はModified Bloom-Richardson grading systemによる組織学的分類がグレード3の患者を組入れた。異なった基準で高リスク患者をスクリーニングしたコフォート2も設定されていて、腋窩リンパ節の1~3個で転移陽性かつKi-67が20%以上の患者500人余を組入れていた。早期乳癌術後アジュバント試験の組入れ数としては少なく、検出力が乏しいのではないかと想像されるが、気になるのは、適応拡大承認時のレーベルに、コフォート2における全死亡が偽薬追加群の2倍(253人中10人対264人中5人)だった事実が記されていることだ。

コフォート2は適応外と考えられるので目を瞑ることも許されるだろうが、検出力が不足であるにしても前回よりは高まったであろう今回の解析でどんな数字になったのか、気になるところだ。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


C5生成阻害剤の第3相筋無力症試験が成功
(2025年8月26日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はcemdisiranの第3相全身性重症筋無力症(gMG)試験で主目的を達成したと発表した。FDAと相談した上で26年第1四半期に承認申請する考え。

RNA介入薬のスペシャリスト、Alnylam PHarmaceuticals(Nasdaq:ALNY)からライセンスした短鎖RNA介入薬で、補体C5の発現を妨げる。今回のNIMBLE試験は成人の抗AChR抗体を持つgMG患者を組入れて、600mg12週毎皮下注群、抗C5抗体pozelimabと200mgずつ4週毎皮下注群、偽薬4週毎皮下注群に無作為化割付けして投与し、24週MG-ADL総スコア(日常生活機能を患者自身が評価する)の変化を比較した。各群4.52点、3.96点、2.22点低下し、2試験薬群ともに偽薬比有意な差があった。深刻な治療時発現有害事象の発生率は各群3%、9%、14%だった。gMG悪化によるものが各群1%、5%、17%なので薬効の裏返しみたいなものだ。

承認されているC5阻害剤の治験成績は偽薬修正後で2点前後なので、遜色ない数値だ。

尚、この試験は免疫抑制剤の同時使用が認められていた。上記数値は使用量の調整後だが、どう影響したかは明らかではない。

pozelimabはgMGでは出番がなさそうだが、23年にCHAMPLE症候群の治療薬Veopozとして米国で承認され、様々な適応拡大試験が進行中。

リンク: 同社のプレスリリース


イーライリリー、経口GLP-1アゴニストのT2D肥満試験が成功し承認申請へ
(2025年8月26日発表)

イーライリリーは二型糖尿病(T2D)と肥満症/オーバーウェイト(ow)を合併する患者を組入れたLY3502970(orforglipron)の第3相ATTAIN-2試験で主目的などを達成したと発表した。糖尿病ではない肥満症やowを組入れたATTAIN-1試験なども成功しており、グローバルな承認申請を開始する考え。

中外製薬からライセンスしたGLP-1受容体作動剤。一日一回、経口投与する。今回の試験は、1600人超の患者を偽薬、6mg、12mg、36mg群に無作為化割付けして72週後の体重低下率を比較した。各群2.5%、5.1%、7.0%、9.6%となり、多重性調整後で3目標用量群とも偽薬比有意な差があった(治療を途中で止めた患者も継続追跡するtreatment-regimen estimandベース)。

副次的評価項目のHbA1c低下は各群0.5%、1.2%、1.5%、1.7%。有害事象による治験離脱率は各群4.6%、6.1%、10.6%、10.6%だった。

リンク: 同社のプレスリリース


ウィフガートの抗AChR抗体を持たない筋無力症試験が成功
(2025年8月25日発表)

オランダのアルジェニクスは、Vyvgart(efgartigimod alfa-fcab)のADAPT SERON試験で主目的を達成したと発表した。全身性重症筋無力症(gMG)の患者の8~9割はアセチルコリン受容体(AChR)に対する自己抗体を持っていて、同薬は22年に米日欧で抗AChR抗体陽性患者向けに承認されている。今回の試験は陰性患者を4週間治療し、MG-ADL(Myasthenia Gravis Activities of Daily Living)総スコアの変化を偽薬と比較したところ、統計的に有意かつ臨床的に有意な差があった。25年内に抗MuSK抗体を持つ患者、抗LRP4抗体を持つ患者、そして何れも持たないトリプル・ネガティブの患者向けに適応拡大申請する予定。

Vyvgartは抗FcRn(胎児性Fc受容体)抗体フラグメント。類薬であるUCBのRystiggo(rozanolixizumab-noli)が23年に米国で抗AChR抗体陽性や抗MuSK抗体陽性の成人患者に、25年にはジョンソン エンド ジョンソンのImaavy(nipocalimab-aahu)が抗AChR抗体陽性と抗MuSK抗体陽性の成人と12歳以上の小児に、承認されており、競争が激化している。また、アストラゼネカの抗C5抗体Ultomiris(ravulizumab-cwvz)やUCBのC5インヒビターZilbrysq(zilucoplan)も抗AChR抗体陽性gMGに承認されている。

リンク: アルジェニクスのプレスリリース

【承認】


25/26シーズンのCOVID-19ワクチンが承認
(2025年8月27日発表)

ファイザー/BioNTech、モデルナ、そしてNovavaxは、夫々、FDAが25/26シーズン用のCOVID-19ワクチンを承認したと発表した。第2次トランプ政権下になって、適応範囲が狭められた。

ファイザー/BioNTechのComirnatyはLP.8.1株のRNAを採用。先に承認されたEUや日本では生後6ヶ月以上が適応だが、FDAは、EUA(非常時使用認可)されていた6ヶ月~4歳の適応を剥奪し、高リスク持病を持つ人5~64歳または65歳以上とした。モデルナもLP.8.1株対応で、対象年齢下限はSpikevaxが6ヶ月、常温保存可能なmNEXSPIKEは12歳である点がComirnatyと異なる。

Novavaxの抗体ワクチンNuvaxovidは、ライセンシーの武田薬品が日本で一変申請したLP.8.1対応品が承認されたところだが、米国では24/25年フォーミュラと同じJN.1対応品が承認された。

3品とも、レーベルにはLP.8.1に対する有効性を示すエビデンスが記されていない。いちいち書かない考えなのかもしれないが、FDAが偽薬対照重症化予防試験の実施を求める可能性が取り沙汰される中、免疫原性試験のデータすら記載されていないのは、含意があるのかもしれない。まあ、レーベルに記載されていない事実を宣伝すると即、違法になった時代はすでに終わり、各社のプレスリリースにはNB.1.8.1株("Nimbus")にも免疫原性試験で有効とか、JN.1対応ワクチンより高力価とか、記されているので、レーベルの文言にこだわる必要はないのだが。

リンク: ファイザーとBioNTechのプレスリリース
リンク: モデルナのプレスリリース
リンク: Novavaxのプレスリリース


レパーサが初発予防に承認
(2025年8月25日発表)

アムジェンは抗PCSK9抗体Repatha(evolocumab)の適応拡大・用法追加がFDAに承認されたと発表した。家族性高脂血症の場合は、他のコレステロール治療薬に追加だけでなくモノセラピーも可能になった(成人の高脂血症は以前からモノセラピー可能)。更に、心血管疾患リスクのある患者はLDL-C値不問で適応になるが、既発患者限定が解除され初発予防にも使えるようになった。但し、根拠となるような臨床試験のデータは記載されていないので、FDA側の考え方の変化によるものなのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】




レケンビのMRI検査は早めに始めるべし
(2025年8月28日発表)

FDAは、エーザイ/バイオジェンの早期アルツハイマー病用薬Leqembi(lecanemab)の副作用を早期発見するために実施するMRI検査を、従来より早く行うよう推奨した。安全性情報の発出は8月28日付だが、レーベル変更は21日付で承認されており、米国のウェブサイトには改訂後のレーベルが掲載されている。

ARIA-E(アミロイド関連造影異常-浮腫)という必ずしも症候性ではないが重度の転帰を招く可能性もある副作用を早期に発見するために、初回投与前と第5回、7回、そして14回目の前にMRI検査を実施する必要があるが、新たに、3回目の前の検査も導入された。FDAが深刻なARIA-Eが生じた101例の発生時期を分析したところ、2回目と3回目の間に2例、3回目と4回目の間に22例、4回目と5回目の間に41例、5回目以降は36例と、早い段階の発生が多かった。4回目より前の24例は何れも症候性で予定外のMRIにより診断が確定したもの。致死例6人のうち、一人は5回目投与前の検査で診断されその時点では症状はなかったが、残り5人は投与の0~8日後に症状が現れてからMRIが実施されたもので、このうち4人は3回目投与の後だった。

これら症例の多くは3回目投与の前に検査していれば重症化を免れたかもしれない。3回目以降に発症した患者ももっと早く発見して深刻化を防げたかもしれない。

レーベルにはもう一つ、実務的に重要な変更がある。これらの検査を投与の約1週間前に実施して結果を投与前に確認することを原則とするよう明記しているのだ。これまでも実践されていただろうが、MRIがあるような大規模な病院に何度も通える患者ばかりではないだろうから、治療の制約になる場合もあるだろう。

尚、レケンビは日本でも5回目、7回目、14回目の投与前にMRI検査を受けるプロトコルになっている。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
25Q4ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1015550(nerandomilast、特発性肺線維症)
25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
25/10Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab-rwlc、皮膚扁平腫瘍術後療法))
25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/10/7Jazz PharmaceuticalsのZepzelca(lurbinectedin、進展期小細胞性肺癌にTecentriq併用)
25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate 0.1mg/mL)
25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)



今週は以上です。

2025年8月23日

第1221回

【ニュース・ヘッドライン】

  • アストラゼネカ、フルミストを自己噴霧用にロンチ 
  • CSL、ワクチン事業をスピンアウトへ 
  • NO-ビマトプロストの二本目の第3相が成功 
  • リンヴォックの二本目の脱毛症試験も成功 
  • ctDNA検査でスクリーニングしたMIBCの術後テセントリク試験が成功 
  • ステルス、バース症候群用薬を再承認申請 
  • 脊髄小脳失調症用薬の諮問委員会は開催せず 
  • PTCのフリードライヒ運動失調症薬は承認されず 
  • Hunter症候群用薬の審査期間が延長 
  • ファンコニ貧血用薬の欧州における承認申請を撤回 
  • 遺伝性血管浮腫のアンチセンス薬が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


アストラゼネカ、フルミストを自己噴霧用にロンチ
(2025年8月15日発表)

アストラゼネカは点鼻噴霧用季節性インフルエンザ・ワクチンFluMistを米国の消費者に直接販売する、FluMist Homeをロンチした。成人は自分自身で、2~17歳の小児は親や介護者が、接種する。米国はインフルエンザ・ワクチンなどを薬局で接種することが可能だが、アクセシビリティがさらに一歩前進する。

購入希望者がオンラインで質問票に回答した上で発注すると、オンライン・ファーマシーのASPN Pharmaciesの有資格医療従事者が内容を確認し処方、Polaris Pharmacy Servicesが指定された日に冷蔵宅配する。カリフォルニアやイリノイ、テキサス、フロリダなど34州で実施する予定で、ニュー・ヨークやイリノイ、テキサスなどは規制があるため25/26年シーズンは見送る。

FluMistは07年に米国で、11年にEUで、23年には日本でも承認された弱毒化生ワクチン。米国では2歳以上に承認されている。自己点鼻はユーザビリティ試験(指示通りに接種できるか確認する)に基づき24年9月に承認された。注射を回避できるメリットと、喘鳴歴等やアスピリン同時使用に関わる注意事項や注射用より高価というデメリットがある。

リンク: 同社の米国法人のプレスリリース


CSL、ワクチン事業をスピンアウトへ
(2025年8月19日発表)

オーストラリアのCSL(ASX:CSL)は、25年6月期決算発表に合わせて、人員削減や研究開発拠点整理などのリストラ策や、ワクチン事業を担うCSL Seqirusをデマージ(英国言語圏におけるスピンアウトの同義語)する計画を明らかにした。CSL同様にオーストラリア証券取引所に上場する考え。

Seqirusは14年にノバルティスから買収したインフルエンザ・ワクチン事業が母体。犬腎細胞培養技術に基づき、季節性インフルエンザ・ワクチンや鳥インフルエンザの流行に備えるパンデミック/プリパンデミック・ワクチンなどを開発・販売している。25年6月期の売上高は約19億米ドル、営業利益は約10億米ドル。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


NO-ビマトプロストの二本目の第3相が成功
(2025年8月21日発表)

フランスのNicOx S.A.は、NCX 470(一酸化窒素供与性bimatoprost)の第3相緑内障治療試験、Denaliで主目的を達成したと発表した。3年前にMont Blanc試験も成功しており、26年上期に米国で承認申請する考え。興和が欧米日本などのライセンスを持っている。

NCX 470はNicOxが保有する一酸化窒素供与体結合技術を用いて、bimatoprostだけでなく一酸化窒素によっても房水流出を促すように仕向けたもの。第3相はNicOxと中国などの権利を持つOcumension Therapeuticsが共同で資金負担・実施した。米国と中国の解放隅角緑内障/高眼圧症の患者を各試験約700人ずつ組入れて、0.1%点眼液を一日一回投与する便益を標準療法であるlatanoprost 0.005%と比較したところ、主評価項目である眼圧低下作用(24週間に3回、朝夕二回ずつ計測)が7.9~10.0mmHg対7.1~9.8mmHgとなり非劣性が確認された。前回のMont Blancでは各群8.0~9.4mmHg対7.1~9.4mmHgで非劣性だった。副次的評価項目の優越性解析はどちらもフェールした。有害事象は結膜充血(発生率22%対9%)など。

中国でもOcumensionが申請するものと推測される。日本は第3相試験が始まったところ。

リンク: 同社のプレスリリース


リンヴォックの二本目の脱毛症試験も成功
(2025年8月21日発表)

アッヴィはJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)の第3相重度円形脱毛症試験、UP-AAにおいて、7月に成功発表したスタディ2に続き、スタディ1も主目的を達成したと発表した。適応拡大申請に向かう予定。

UP-AA試験は欧米日本などの施設で12~64歳の重度円形脱毛症患者を二本合計で1399人組み入れて、偽薬、15mg、または30mgを一日一回経口投与する便益を検討した。主評価項目は24週のSALT≦20達成率(頭皮の約8割以上で毛が生えている)。各群3.4%、45.2%、55.0%となり、両用量とも偽薬を有意に上回った。尚、スタディ2では各群3.4%、44.6%、54.3%で両用量とも偽薬比有意だった。治療時発現深刻有害事象発生率は各群0.7%、1.9%、1.8%。スタディ2では0%、1.4%、2.8%だった。

JAK1阻害剤の中では良さそうな成績だ。円形脱毛症用途では塗り薬も承認されているが、忍容性は優劣あるのだろうか?他の種類の薬も含めて、65歳以上が対象外なのは、効果が望み難いのか、それとも安全性が不安なのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


ctDNA検査でスクリーニングするテセントリクの第3相が成功
(2025年8月18日発表)

米国テキサス州の遺伝子検査機器会社、Natera(Nasdaq:NTRA)は、Signatera ctDNAテストによるスクリーニングの有効性などを検討した第3相IMvigor011試験で主目的を達成したと発表した。FDAにPMA(販売前承認)を申請する考え。

このロシュが主導した試験は、MIBC(筋層浸潤膀胱癌)の摘出術を受けた患者760人を1年間定期的に検査して、MRD(微小残存病変)陽性だが造影検査で再発していないと評価された患者を偽薬群とロシュのTecentriq(atezolizumab)群に無作為化割付けし、DFS(再発、転移、あるいは死亡無く生存する期間)を比較した。副次的評価項目である全生存期間も含めて、統計的に有意且つ臨床的に意味のある群間差が見られた。

ロシュはプレスリリースを出していないが、メディアの問い合わせに対して、適応拡大の申請を計画していると回答した由。Tecentriqは術後筋層浸潤尿路上皮癌をMRD不問で組入れたIMvigor010試験がフェールしたが、ctDNA陽性サブグループでは良さそうな数値が出たため、今回の試験に進んだ経緯がある。

悩ましいのは、MIBC付随療法はアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を術前、術後に用いたNIAGARA試験が成功し、今年3月に米国で、7月にはEUでも、適応拡大が承認され、日本でも申請中だ。術前にImfinziを使ったら術後にctDNA検査もTecentriqも使わないので、出番が限られてしまう。一方で、ctDNAテストがTecentriqに有効ならImfinziにも有効なのではないか、Imfinziも術前に検査してスクリーニングできるのか?、そもそも術前投与は必要なのか、等など、二本の試験の成績を整合的に理解する上で必要な情報が数多残る。

リンク: Natera社のプレスリリース

【承認申請】


ステルス、バース症候群用薬を再承認申請
(2025年8月21日発表)

Stealth BioTherapeutics(22年にNasdaq上場廃止)はMTP-131(elamipretide)を再承認申請した。FDAは3日後に受理、PDUFA(処方薬ユーザー・フィー法)は26年2月15日だが、FDAから今年9月26日にゴールする計画である旨の連絡があった由。本案件は異例に異例を重ねている。

対象疾患であるバース(Barth)症候群は米国で百数十人、世界で二百数十人が罹患と推定される超希少ミトコンドリア疾患。ほぼ全てが男性。TAZ遺伝子の変異により、心不全や不整脈、白血球減少症や敗血症、運動障害などを合併するリスクがある。同社はミトコンドリア標的ペプチド(MTP・・・Mitsubishi Tanabe Pharmaの略ではない)を開発しており、MTP-131はバース症候群で欠乏するcardiolipinに結合してミトコンドリア膜の構造を正常化すると考えられている。40歳以上生存することは少なく、死亡率は最初の4年間が最も高いとされる。

第2/3相TAZPOWER試験に12歳以上の患者12人を組入れて、40mg一日一回皮下注による6分歩行テスト改善作用を偽薬と比較したが、フェールした。Stealthは21年に承認申請を断行したが受理されず、追加試験の実施を求められた。しかし、患者数が少なく臨床試験が困難であることから、代替案として傾向スコア・マッチングによる自然歴対照試験を実施したところ、6分歩行テスト成績の改善が80メートル対1メートル、p=0.0005となったため、24年1月に改めて承認申請した。優先審査指定されなかったため見直しを要請し、認められたが、審査期限は25年1月29日のままだった。心臓腎臓薬諮問委員会で16人中10人が薬効を支持したため承認が期待されたが、審査期限が4/29に延期され、更に1ヶ月遅れで審査完了通知を受領した。

理由は必ずしも明らかではないが、会社側発表を読む限りでは、会社側が通常承認に代えて膝伸筋力の改善作用に基づく加速承認を打診し、FDA側も前向きな姿勢を示したものの、精査が必要と考えているようだ。だからこそ、会社側がクラス1審査(申請の2ヶ月後に回答)を望んだのに対して、FDA側はクラス2(6ヶ月後に回答)を示唆したのだろう。先行きが慮られたが、FDAが1ヶ月余で審査を終えるつもりなら、残されたチェックポイントは少ない/軽度なのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 同(8/18付)

【承認審査・委員会】


脊髄小脳失調症用薬の諮問委員会は開催せず
(2025年8月21日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は米国でBHV-4157(troriluzole)を脊髄小脳失調症用薬として承認申請している。FDAは、審査期限を3ヶ月延期した時に、諮問委員会招集の意向を示したが、招集しないことで決まった。同社がプレスリリースではなくSEC(証券取引委員会)にフォーム8-Kを提出する形で公表したもの。従来通り、第4四半期に審査結果が通知されることを期待している。

審査期限延期は同社が追加データを提出したことに伴うものだったので、内容は明かされなかったので、諮問委員会上程を検討するほど難しい問題が発生したかと危惧された。招集を断念したということは、同社が説得力のある情報を提供し諮問の必要性が薄れたとも、諮問するまでもなく承認見送りに向け舵を切ったとも、解釈できるが、第2次トランプ政権下のFDAは前例が当てはまらず、推測が難しい。ここ数ヶ月、新薬承認に関わる諮問委員会が開催・決定されていないことを考えると、コンセンサスとは必ずしも合致しない考えを持つFDAや上部組織であるHHS(保健福祉省)の上層部が、諮問委員会招集自体に反対しているのではないかと疑われる。この場合、承認の可能性を占う材料にはなりえないことになる。

BHV-4157は側索硬化性筋萎縮症用薬riluzoleのプロドラッグで血液中のアミノペプチダーゼによりriluzoleに変換される。経口投与頻度が一日二回から一回に減り、食物影響を受けない。EUにも承認申請したが、偽薬対照試験がフェールしたことや、EMAは薬効や安全性がriluzoleと異なることが確立していないとして新規活性成分と認めなかったことなどから、撤回した。

リンク: 同社のForm 8-K(8/21付)


PTCのフリードライヒ運動失調症薬は承認されず
(2025年8月19日発表)

ニュー・ジャージー州のPTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は米国でPTC-743(vatiquinone)を成人・小児のフリードライヒ運動失調症(FA)薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効の挙証が不十分で、追加試験が必要と指摘された。

FAはミトコンドリアにおけるエネルギーの制御に関わるfrataxinの機能不全を伴う遺伝子疾患。PTC-743は15-リポキシゲナーゼ(15LO)を阻害して機能不全の影響を緩和することが期待された。しかし、成人・小児146人を組入れた第3相MOVE-FA試験は、主評価項目である7~21歳の患者123人におけるmFARS(modified Friedreich Ataxia Rating Scale)の72週間の悪化が偽薬群と大差なかった。

同社は、直立安定性サブスケールの名目p値が0.021であったことや、長期延長試験で144週のmFARS悪化が自然歴より小さかったことなどをエビデンスとして承認申請を断行したが、認められなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


Hunter症候群用薬の審査期間が延長
(2025年8月18日発表)

米国メリーランド州のRegenxbio(Nasdaq:RGNX)は3月にRGX-121(clemidsogene lanparvovec)をHunter症候群用薬としてFDAに加速承認を求め、優先審査指定を受けたが、審査期限が11月9日から26年2月8日に延期されたと発表した。

ハンター症候群の治療は患者で欠乏するiduronate-2-sulfataseの補充療法が実用化されているが、RGX-121はその遺伝子をAAV9ベクターを用いて脳脊髄投与するもの。臨床試験で脳脊髄液中のヘパラン硫酸D2S6量(疾病活動性のバイオマーカー)が16週後に86%低下した。審査期間延長は、この試験の12ヶ月データを追加提出したことに伴うもの。承認前査察は問題なく終了し、安全性に関する懸念も指摘されていない由。

今回も、審査期限ぎりぎりではなく3ヶ月も早く通知が来た。FDA新体制の方針変更なのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


ファンコニ貧血用薬の欧州における承認申請を撤回
(2025年8月22日発表)

米国ニュー・ジャージー州のRocket Pharmaceuticals(Nasdaq:RCKT)はEUでRP-L102(mozafancogene autotemcel)をファンコニ貧血症の遺伝子療法として承認申請していたが、8月11日付で撤回した。EMA(欧州薬品庁)が公表したもの。EMAは、エビデンスが1~7歳の患者を合わせて14人を組入れた3本の単群試験だけであることや、将来の骨髄不全リスクを抑制できるか明らかではないこと、そして、幹細胞にFANCA遺伝子が何コピー組入れられたか投与前に確認する手法が確立していないことなどから、承認しない方向で考えていた由。

ファンコニ貧血の6~7割を占めるA型ではDNA損傷修復に関わるFANCA遺伝子が十分に機能せず、貧血症などを示し、白血病や心腎疾患を合併するリスクもある。劣性遺伝疾患で有病率は100万人当り5人程度。治療は同種幹細胞移植など。RP-L102は患者から採取した造血幹細胞にレンチウイルスベクターを用いて正常なFANC遺伝子を挿入し、培養した上で患者に戻す。

同社は米国でもローリング承認申請を着手したが、8月7日の第2四半期決算発表時に優先順位の観点からRP-L102に対する追加投資は行わない旨、公表しているので、既に撤回したかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


遺伝性血管浮腫のアンチセンス薬が承認
(2025年8月21日発表)

アンチセンス薬のスペシャリストであるIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、FDAがDawnzera(donidalorsen)を遺伝性血管浮腫(HAE)薬として承認したと発表した。12歳以上の患者が80mgを4週毎に自分で皮下注する。8週毎も可。第3相OASIS-HAE試験で半年間の発作発生頻度が4週毎投与群は偽薬比81%、8週毎群は55%、低かった。警告注意事項は過敏反応。

HAEは米国患者数が7000人程度と希少疾患だが、発作予防薬が続々と発売されている。Dawnzeraは、治療が順調なら8週毎投与にシフトして投与頻度や薬剤費を抑制できることが長所。EUではライセンシーの大塚製薬が承認申請中。

リンク: Ionisのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEylea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)→25Q4に延期
25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
25Q4ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1015550(nerandomilast、特発性肺線維症)
25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
25/10Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab-rwlc、皮膚扁平腫瘍術後療法))
25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/10/7Jazz PharmaceuticalsのZepzelca(lurbinectedin、進展期小細胞性肺癌Tecentriq併用)
25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate 0.1mg/mL)
25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)





今週は以上です。

2025年8月16日

第1220回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • イーライリリー、英国でチルゼパチドを値上げへ 
  • 膀胱癌周術期にキイトルーダ・パドセブ併用が有効 
  • ノバルティス、シェーグレン症候群とITPの第3相が成功 
  • IO Biotech、癌ワクチンの第3相がフェールもサブグループ・データに期待 
  • ファイザー、抗P-セレクチン抗体の第3相がフェール 
  • Biohaven社、リルゾール類薬の強迫性障害用途は開発中止 
  • GSK、淋病治療薬を承認申請 
  • Arvinas、SERDを承認申請 
  • 線維筋痛症薬が15年ぶりに承認 
  • 初の呼吸器乳頭腫症用薬が承認 
  • ウゴービがMASHに適応拡大 
  • インスメッド、非嚢胞性線維症気管支拡張症の新薬が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


イーライリリー、英国でチルゼパチドを値上げへ
(2025年8月14日発表)

CNBCなど複数の報道によると、イーライリリーは体重管理薬tirzepatideの英国におけるリスト・プライスを値上げすることでNHS(英国政府の公的医療制度)と合意した。トランプ米国大統領が医薬品の内外価格差の是正を呼びかけたことが引き金、という見方が多い。

GIP/GLP-1受容体アゴニストで肥満症用途では23年11月に英米で、翌月にはEUで、その1年後には日本でも、承認された。米国や日本では二型糖尿病向けの製品名はMounjaro、肥満症向けはZepboundと別名販売されているが、欧州ではMounjaroに統一されている。英国では当初、1ヶ月分のリスト・プライスが用量により92~122ポンドだったが、9月1日付で133~330ポンドに1.4~2.7倍に値上げする。英国は薬価抑制に熱心でイーライリリーも薬価収載前に値引きを迫られたのかもしれないが、価格改定により欧州他地域水準に近づける考え。

それでも米国と比べれば半値水準なので、米国を最恵国待遇するには届かないが、できることからやっていくということなのかもしれない。

リンク: CNBCの報道

【新薬開発】


膀胱癌周術期にキイトルーダ・パドセブ併用が有効
(2025年8月12日発表)

ファイザー及びアステラス製薬と、MSDは、夫々、第3相EV-303/KeyNote-905試験で主目的を達成したと発表した。ファイザー/アステラス側は適応拡大に向けて当局と相談する考え。

この日本も参加したグローバル試験は、MIBC(筋層浸潤膀胱癌)の摘出術を受ける、白金薬術前療法に不適または拒否の患者595人を、MSDのKeytruda(pembrolizumab)術前(3サイクル)術後(14サイクル)療法群、摘出術のみの群、Keytruda術前術後療法に加えてファイザー/アステラスのPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)も術前(3サイクル)術後(6サイクル)に投与する併用群に無作為化割付けして、EFS(無イベント生存期間:複合評価項目で、術前療法に対する応答が不十分なだけでもヒットと判定されるようだ)をオープン・レーベルで比較した。

主評価項目は併用群と手術だけの群の比較。最初の中間解析で達成した。副次的評価項目の一つである全生存期間も達成した。データは未発表。

Keytruda単剤投与群も設定されているということは、併用がマストなのか、単剤だけで十分ではないのかという疑問には未だ答えが出ていないのだろう。そのせいか、MSD側は適応拡大申請に言及していない。

この二剤併用は白金薬が適応になるMIBCにおける治癒的膀胱全摘・骨盤リンパ節郭清付随療法試験、第3相EV-304/Keynote-B15試験も進行中。

Padcevは2011年にSeattle GeneticsがAgensysからライセンスしたが、同年、アステラスがAgensysを買収し、23年にはファイザーがSeagen(Seattle Geneticsから社名変更)を買収したため、両社が呉越同舟することになった。ファイザーが共同開発販売しているメルクの抗PD-L1抗体Bavencio(avelumab)ではなくライバルの製品と併用しているが、この試験が始まったのは19年で買収前だった。

リンク: MSD側のプレスリリース


ノバルティス、シェーグレン症候群とITPの第3相が成功
(2025年8月11日、12日発表)

ノバルティスはVAY736(ianalumab)の第3相シェーグレン症候群試験二本で主目的を達成したと発表した。データは未発表。学会でデータを発表するとともに、グローバルに承認申請する予定。

BAFF-Rを標的とする抗体医薬で、抗体依存性細胞毒性によりB細胞を枯渇するとともに、BAFF-Rが調停するB細胞の機能や生存に介入する。様々な自己免疫疾患に試験されている。

今回の第3相は成人の活性期患者を対象に、一本は300mgを月一回皮下注群、もう一本は月一回群と3ヶ月に一回群の、52週後の症状を偽薬群と比較した。主評価項目はESSDAI(EULAR Sjögren’s syndrome disease activity index)。第2相試験では300mg月一回投与群のESSDAIが24週で1.92点低下した。

翌日、今度は第3相免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)試験で主目的を達成したことも発表した。ステロイド治療でも血小板数が十分に回復しない患者を組入れて、経口トロンボポエチン受容体作動剤Promacta(eltrombopag、和名レボレード)に追加する便益を検討したもので、主評価項目である治療フェールまでの期間や、副次的評価項目である血小板数持続的改善達成率などが偽薬追加群を上回った。治験登録によると二種類の用量が設定されているようだが、両方達成したのかは不明。この疾患では一次治療ステロイド併用試験、VAYHIT1試験も進行中で、両方の結果が揃う27年に承認申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース(シェーグレン症候群、8/11付)
リンク: 同(免疫性血小板減少性紫斑症、8/12付)


IO Biotech、癌ワクチンの第3相がフェールもサブグループ・データに期待
(2025年8月11日発表)

米国ニューヨーク州のIO Biotech(Nasdaq:IOBT)は、Cylembio(imsapepimut、etimupepimut)の第3相IOB-013/KN-D18試験がフェールしたが好成績を示したサブグループがあるためFDAと今後を相談すると発表した。あわよくば承認申請する考えのようだ。

同社は腫瘍細胞だけでなく免疫抑制作用を持つ細胞も標的とするT-Winプラットフォーム技術に基づき癌治療用ワクチンを開発している。Cylembioは免疫逃避に関与するIDO1(indoleamine 2,3-dioxygenase 1)のペプチド抗原とPD-L1のペプチド抗原を組み合わせたものでアジュバントが添加されている。今回の試験は切除不能/転移黒色腫で一次治療を受ける407人を組入れて、MSDのKeytruda(pembrolizumab)に追加する便益を検討した。試験薬は85mcgを3週毎(但し最初の2サイクルは第8日も)に皮下注し、両剤とも最大2年間投与した。

主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はメジアン値は19.4ヶ月とKeytrudaだけの群の11.0ヶ月を上回ったが、ハザード・レシオは0.77(95%信頼区間0.58-1.00)、p=0.056(閾値は0.045)となり、有意差が出なかった。サブグループ分析でPD-L1陰性130人は16.6ヶ月対3.0ヶ月、ハザード・レシオ0.54(同0.35-0.85)だった。ポストホックだが抗PD-1抗体による術前術後療法歴を持たない371人でもメジアン24.8ヶ月対11.0ヶ月、ハザード・レシオ0.74(同0.56-0.98)、名目p=0.006と良さそうな数字が出ている。

全生存期間は未成熟だがハザード・レシオ0.79(同0.57-1.10)と好ましい方向を向いている。あと6~9ヶ月で成熟する見込みだ。

薬効確認試験一本で承認を取ろうと思ったらp値が0.05 x 0.05で0.0025未満であることが望まれる。ワクチンなので評価項目はPFSより全生存期間のほうが良さそうに思われるので、6~9ヶ月待ったほうが良いのではないか(手持ち資金が足りるならば)。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザー、抗P-セレクチン抗体の第3相がフェール
(2025年8月15日発表)

ファイザーはPF-07940370(inclacumab)の第3相鎌状赤血球症試験で主目的を達成できなかったことを公表した。静脈閉塞性クリーゼ(VOC)歴を持つ患者241人を組入れて30mg/kgを12週毎に点滴静注する便益を検討したが、VOC再発を抑制することができなかった。本試験は当初は23年に開票する見込みだったが遅延した。もう一本は組入れが遅く、昨年3月に中止となっている。

ロシュの抗P-セレクチン抗体をライセンスしたもので、ファイザーは22年にGlobal Blood Therapeuticsを企業価値ベース54億ドルで買収して入手した。その時点で既に米欧で鎌状赤血球症薬として承認されていた鎌状ヘモグロビン重合阻害剤、Oxbryta(voxelotor)も市販後薬効確認試験で死亡の不均衡が観察され、24年9月に製品回収・臨床試験中止の暫定的措置が取られた。

リンク: ファイザーのプレスリリース


Biohaven社、リルゾール類薬の強迫性障害用途は開発中止
(2025年8月11日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)の第3相強迫性障害試験がフェールしたと発表した。薬効の兆しが見られず、この用途の開発中止する。

活性成分はALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として米欧日で承認されているベンゾチアゾル系グルタミン酸塩放出阻害剤、riluzoleのプロドラッグ。血液中のアミノペプチダーゼによりriluzoleに変換される。同社はアルツハイマー病や全般不安障害などで第3相試験を実施したが思わしい結果は出なかった。強迫性障害も第2/3相試験がフェール、用量を増やして再挑戦したもの。

米国で脊髄小脳失調症用薬として承認申請し、優先審査を受けたが、審査期間延長で結果が出るのは今年第4四半期の見込み。この用途も第3相がフェールしたため最初の申請は受理されなかったが、偽薬群の成績が予想以上だったため自然歴対照分析を行った上で改めて申請した経緯がある。今のFDAは前例が当て嵌まるのか当て嵌まらないのか、反応が読みづらいこともあり、承認されるかどうか不透明感がある。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


GSK、淋病治療薬を承認申請
(2025年8月11日発表)

GSKはGSK2140944(gepotidacin)を米国で12歳以上の非複雑性淋菌感染症治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年12月11日。

25年に米国で非複雑性尿路感染症治療薬Blujepaとして承認されたトポイソメラーゼ阻害剤。米国連邦政府のBARDA(生物医学先端研究開発機構)などと共同開発した。淋病におけるエビデンスであるEAGLE-1試験は、約600人を組入れて3000mg(750mg錠4個)を10~12時間おいて2回、経口投与する効果をceftriaxone(500mg筋注)とazithromycin(1g経口)のレジメンと比較した。主評価項目である3~7日後のテスト・オブ・キュア評価における微生物学的奏効率は各群92.6%と91.2%、調整後の群間差は-0.1%、95%信頼区間下限は-5.6%となり、非劣性判定閾値の-10%をクリアした。

必ずしも大きな市場ではないので、ブロックバスターを期待するというよりは、抗生物質耐性菌が蔓延する事態に備える意味合いのほうが大きいようだ。

リンク: GSKのプレスリリース


Arvinas、SERDを承認申請
(2025年8月8日発表)

Arvinas(Nasdaq:ARVN)と共同開発パートナーのファイザーは、ARV-471/PF-07850327(vepdegestrant)を米国で承認申請し受理されたと発表した。選択的エストロゲン受容体零落剤(SERD)で、エストロゲン受容体1(ER1)に変異がありエストロゲン受容体(ER)陽性、her2陰性の進行/転移乳癌の成人に、内分泌療法の次の手段として用いることを予定している。審査期限は26年6月5日。

日本も参加した第3相VERITAC-2試験に、内分泌療法薬とCDK4/6阻害剤による1~2次治療歴を持つER陽性her2陰性進行/転移乳癌624人を組入れて、200mgを一日一回経口投与する便益をfulvestrant4週毎(但し2回目は2週後)筋注群と比較したところ、intent-to-treatベースのPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はハザード・レシオが0.83、p=0.07とフェールしたものの、アロマターゼ阻害剤抵抗性を示すER1変異のあるサブグループ(被験者の4割強)では同0.58、p<0.001、メジアン値は5.0ヶ月対2.1ヶ月となり、ハザード・レシオが目標の0.6を下回った。

全生存期間の解析は未成熟。G3以上の有害事象発生率は各群23.4%と17.6%、有害事象治験離脱率は2.9%と0.7%だった。疲労や悪心、肝臓酵素上昇などが見られた。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


線維筋痛症薬が15年ぶりに承認
(2025年8月15日発表)

米国ニュー・ジャージー州の温故知新型中枢神経系用薬開発会社、Tonix Pharmaceuticals(Nasdaq:TNXP) は、FDAがTonmya(cyclobenzaprine HCl)を成人の線維筋痛症薬として承認したと発表した。就寝前に2.8mg舌下錠を最初の14日間は1錠、その後は2錠、服用する。第3相試験3本のうち2本で、第14週の疼痛が偽薬比有意に改善した。睡眠なども改善した。警告・事前注意事項は胚胎毒性、セレトニン症候群、三環系抗鬱剤やアトロピンでしばしば見られる心血管系や中枢神経系の有害事象、自動車/機械運転時の中枢神経抑制、口腔内粘膜有害事象。

活性成分は1977年にヤンセンが米国で鎮痙薬Flexerilとして承認取得したが既にGE化した。同社は舌下錠とすることで生物学的利用率などを向上した。線維筋痛症薬は07~09年に米国で3剤が相次いで承認されたが、その後は新薬が途絶えていた。

リンク: 同社のプレスリリース


初の呼吸器乳頭腫症用薬が承認
(2025年8月14日発表)

FDAは、米国メリーランド州の医薬品開発会社、Precigen(Nasdaq:PGEN)のPapzimeos(zopapogene imadenovec-drba)を成人のRRP(再発性呼吸器乳頭腫症)用薬として承認した。ヒト・パピローマ・ウイルスが惹起する疾患なので、増殖能が除去されたゴリラ・アデノウイルスを用いてHPV-6/11抗原を作る遺伝子を導入し、T細胞免疫を誘導する。5x10^11パーティクル・ユニットを12週間内に4回、皮下注する。ファースト・イン・ヒューマン単群試験で過去1年間に3回以上の切除術を受けた35人中18人、51%が、1年以上、切除術を受けずに済んだ。警告・事前注意事項は注射箇所反応と血栓性イベント。

同社は加速承認を申請したが本承認された。CBER(生物学的製剤評価研究センター)のヘッドに復帰したVinay Prasad氏は、無作為化割付試験が常に必要なわけではないと下記のプレスリリースでコメントしている。

同社によると、米国の成人患者数は推定27000人。RRPは1~4歳で診断されることが多く、多くは良性だが症状緩和のため一生で数百回のレーザー焼灼/摘出術を受ける患者も多いようだ。幼小児向けも開発されるのだろうか?

リンク: FDAのプレスリリース


ウゴービがMASHに適応拡大
(2025年8月15日発表)

ノボ ノルディスクは、GLP-1受容体アゴニストWegovy(semaglutide)が米国で成人のMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)に適応拡大したと発表した。ステージ2または3(肝線維症が中程度から進行段階)の患者が適応となり、肝硬変合併は適応外。低カロリー食事療法と運動療法を併用する。GLP-1作用剤のMASH承認は初。

第3相ESSENCE試験で最初の主評価項目である肝線維症が悪化せずに脂肪肝炎が解消した患者の比率が63%と偽薬群の34%を有意に上回り、シーケンシャルな主評価項目である脂肪肝炎が悪化せずに肝線維症改善した患者の比率も37%対22%で有意差があった。

リンク: 同社のプレスリリース


インスメッド、非嚢胞性線維症気管支拡張症の新薬が承認
(2025年8月12日発表)

インスメッド(Nasdaq:INSM)はFDAがBrinsupri(brensocatib)を12歳以上のNCGBE(非嚢胞性線維症気管支拡張症)用薬として承認したと発表した。この疾患で承認を取得した薬は初。

アストラゼネカからライセンスして開発したファースト・イン・クラスのDPP1阻害剤。NCGBEで増加し増悪時にはさらに増加する好中球エラスターゼなどをDPP1が活性化するのを妨げる。日本も参加した第3相グローバル試験、ASPENで、10mgと25mgの両群(どちらも一日一回投与)とも、肺増悪イベントが偽薬群より2割前後少なかった。警告・事前注意事項はラッシュなどの皮膚有害事象、歯肉歯周有害事象。弱毒化生ワクチンの使用は避ける。

10mgと25mgは薬効面でも安全性面でも大きくは変わらない。10mg群は副次的評価項目である気管支拡張剤投与後のFEV1(一秒量)の52週間の低下が偽薬群と大差なかったが、承認されたのだから、決定的な弱点ではないのだろう。となると、10mgと25mg、どちらを選んだらよいか、レーベルを読んでもよく分からない。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)→承認
25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)→承認
25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)→承認
25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
25/9/25OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)→12/26に延期
25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)



今週は以上です。

2025年8月9日

第1219回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • BI社、統合失調症のデジタル治療試験が成功 
  • イーライリリーの経口GLP-1作用剤 
  • Journavxの慢性疼痛向けはDPNを優先 
  • ブレヤンジを辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請 
  • BI社のher2チロシン・キナーゼ阻害剤が承認 
  • ジャズのClpPアゴニストがK27M変異びまん性正中グリオーマに加速承認 
  • ノバルティス、レクビオのモノセラピーが承認 
  • cALD遺伝子療法のレーベル改訂 
  • FDAもIxchiqの使用制限を解除 
  • オピオイド鎮痛剤の長期使用警告を強化 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


BI社、統合失調症のデジタル治療試験が成功
(2025年8月7日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと米国のClick Therapeuticsは、BI 3972080/CT-155の第3相CONVOKE試験で主目的を達成したと発表した。10月にECNP(欧州神経精神薬理学会)の学会シンポジウムで発表する予定。

Click社はPDT(医家デジタル治療)アプリの開発を進めており、3月には大塚製薬と共同開発したRejoynが大鬱病の補助療法としてFDAの510(k)認可を受けた。BI 3972080/CT-155は統合失調症の経験的(experiential)陰性症状の補助療法。昨年4月にFDAのブレークスルー・ディバイス指定を受けた。

今回のCONVOKE試験は、向精神薬治療を受け安定的な状態だが経験的陰性症状を示す統合失調症の患者における補助療法としての効果を対照デジタル・アプリと比較した。主評価項目は第16週におけるCAINS-MAP(Negative Symptoms, Motivation and Pleasure Scale)。忍容性は良好とのこと。

尚、統合失調症の陰性症状のうち、意欲低下、引きこもり、関心喪失などを経験的陰性症状と呼び、感情鈍麻や言語障害などは表出性(expressive)陰性症状と呼ぶようだ。

リンク: 両社のプレスリリース


イーライリリーの経口GLP-1作用剤
(2025年8月7日発表)

イーライリリーは経口GLP-1作用剤LY3502970(orforglipron)の最初の第3相体重管理試験で全用量とも主目的を達成したと発表した。もう一本の結果を待って25年末までにグローバルに承認申請する考え。

18年に中外製薬からライセンスした、GLP-1受容体を作動する経口剤。二型糖尿病では3mg、12mg、または36mgを一日一回投与した第3相ACHIEVE-1試験でHbA1c(偽薬調整後)が各群0.8%、1.1%、1.1%低下した。今回のATTAIN-1試験は肥満またはリスク因子を持つオーバーウェイトで糖尿病ではない患者3127人を組入れて偽薬、3mg、12mg、または36mgを一日一回、72週間投与し、体重減少率を比較した。米国のレーベルに記載されるであろうtreatment-regimen estimandベースで各群2.1%、7.5%、8.4%、11.2%低下した。非HDLコレステロール量や最大血圧なども低下した。

12~45mgをテストした第2相肥満症試験では8~12%低下しており(偽薬群は2%)、今回も同程度だったことになる。5月に承認申請がFDAに受理されたノボ ノルディスクのGLP-1作用剤、経口semaglutideは類似したデザインの第3相OASIS 4試験で体重が13.6%低下した(偽薬群は2.7%)。両剤とも、イーライリリーの皮下注用GIP/GLP-1作用剤Mounjaro(tirzepatide)より見劣りすることになる。尤も、GLP-1受容体を作動する薬は多段階の用量漸増を完遂して最大用量に到達できる患者が決して多くないと言われており、現実の医療における差はここまで大きくならないかもしれない。

株式市場の期待はもっと高かったようだ。今回の発表で一番大きく低下したのは株価だった(14%)。

リンク: 同社のプレスリリース


Journavxの慢性疼痛向けはDPNを優先
(2025年8月4日発表)

Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は25年第2四半期決算発表に合わせてNaV1.8チャネル阻害剤の開発状況をアップデートした。リード・コンパウンドで1月に米国で成人の中重度急性疼痛治療薬Journavxとして承認されたsuzetrigineは慢性疼痛用途でもDPN(糖尿病性末梢神経痛)の第3相試験中。疼痛性腰仙骨神経根症でも第3相入りさせる予定だったが、代わりに、もう一本DPN試験を実施すると決めた。FDAが慢性神経痛用途で幅広い適応を認めることに後ろ向きな姿勢を示したため。

また、次世代品とされるVX-993の第2相バニオン術後鎮痛試験がフェールしたことも明らかにした。SPID48(Sum of the Pain Intensity Differenceの48時間平均)が最大用量で74.5と、偽薬群の50.2を上回ったものの(有意性は不明)、実薬参考群の数値を下回った。suzetrigineも類似した第3相試験で実薬を上回ることができなかったので、十分な差別化は難しいと判断したのだろう、モノセラピーの開発を断念した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


エプキンリを濾胞性リンパ腫の二次治療に適応拡大申請
(2025年8月7日発表)

デンマークのジェンマブ(Nasdaq:GMAB)は、Epkinly(epcoritamab-bysp)が第3相EPCORE FL-1試験の中間解析で共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)も達成したと発表した。米国では既に適応拡大申請が優先審査として受理され、審査期限は25年11月30日であることも明らかにした。

アッヴィと共同開発販売している抗CD3xCD20二重特異性抗体。23年に米欧日で再発/難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫用薬として加速承認/承認され、24~25年には米欧日で再発/難治濾胞性リンパ腫の3次治療に適応拡大した。今回の試験は成人の再発/難治濾胞性リンパ腫で化学療法薬と抗CD20抗体による一次治療歴を持つ患者を組入れて、lenalidomideとrituximabのレジメンに追加する便益をオープン・レーベルで検討した。もう一つの主評価項目であるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)は5月に達成、適応拡大申請のエビデンスとなった。PFSはハザードレシオが0.21、pは0.0001未満とこちらも良好な結果になった。

リンク: ジェンマブのプレスリリース


ブレヤンジを辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請
(2025年8月4日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは米国でBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)を成人の難治/再発性辺縁帯リンパ腫(MZL)の3次治療に適応拡大申請して受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は2025年12月5日。承認されればCAR-T療法で初となる。

第2相TRANSCEND FL試験のMZLコフォートでORR(客観的反応率、独立評価委員会方式、n=66)が95.5%、完全反応率62.1%、反応者の88.6%は24ヶ月以上持続した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


BI社のher2チロシン・キナーゼ阻害剤が承認
(2025年8月8日発表)

FDAはベーリンガー・インゲルハイムのHernexeos(zongertinib)を成人の切除不能/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌用薬として加速承認した。her2チロシン・キナーゼ阻害剤で、her2チロシン・キナーゼ・ドメインに活性化変異を持ち全身性治療歴のある患者が適応になる。コンパニオン診断薬であるLife TechnologiesのOncomine Dx Target Testも承認された。

120mg(体重90kg以上は180mg)を一日一回、経口投与する。エビデンスとなるBeamion LUNG-1試験で白金ベース化学療法と抗her2抗体薬物複合体による治療歴を持つ患者34人におけるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が44%、うち27%は反応が6ヶ月以上持続した。白金ベース化学療法歴を持ちher2標的薬は未経験の71人ではORRが75%、6ヶ月反応持続率は58%だった。警告注意事項は肝毒性、左室機能不全、間質性肺疾患/肺臓炎、胚胎毒性。

日本でも2月に承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース


ジャズのClpPアゴニストがK27M変異びまん性正中グリオーマに加速承認
(2025年8月6日発表)

FDAはJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のModeyso(dordaviprone )を1歳以上のH3 K27M変異のあるびまん性正中グリオーマで前治療に疾病進行だった患者向けに加速承認した。新患向け第3相試験が欧米アジア日本の施設で進行中。

ヒストンH3 K27M変異は脳室、視床、脳橋、脊髄、脳幹の腫瘍の過半で見られる。本薬は腫瘍のサバイバルを増強するミトコンドリア蛋白を分解するClpPのアゴニストで、Rasシグナルに関わるドパミン受容体D2のアンタゴニスト作用も持つ。成人の場合、625mgを週一回、経口投与する。

加速承認のエビデンスは5本の試験合計で50人の統合解析(DIPG(びまん性橋膠腫)、原発性脊髄腫瘍、病理学的非定型、脳脊髄液播種は対象外)。ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価、RANO(Response Assessment in Neuro-Oncology)2.0基準)が22%、メジアン反応持続期間は10.3ヶ月だった。警告・事前注意事項は過敏反応、QTc延長、胚胎毒性。

Jazzが今年4月に9.35億ドルで買収したChimerixが、21年にOncoceuticsを買収して入手したもの。日本の権利は大原薬品が19年にライセンスした。

リンク: FDAのプレスリリース


ノバルティス、レクビオのモノセラピーが承認
(2025年7月31日発表)

ノバルティスは、PCSK9を標的とするRNA介入薬、Leqvio(inclisiran)の用法変更がFDAに承認されたと発表した。高脂血症用薬で、スタチン併用という限定が解除されモノセラピーが可能になった。

エビデンスとなった臨床試験には言及されておらず、レーベルにも記載されていない。同社は、昨年、単剤投与のV-MONO試験が成功したと発表している。治験論文によると、アテローム硬化性心血管疾患のリスクが低・中程度のコレステロール治療薬を服用していない患者を組入れて6ヶ月治療したところ、LDL-Cが偽薬調整後で47.9%低下した。exetimibe群と比較しても35.4%大きく低下した。

リンク: ノバルティスの米国法人のプレスリリース
リンク: TaubらのVICTORION-Mono試験論文(Journal of the American College of Cardiology、2025年)

【医薬品の安全性】


cALD遺伝子療法のレーベル改訂
(2025年8月7日発表)

FDAはbluebird bio(Nasdaq:BLUE)のcALD(脳副腎白質ジストロフィー)用薬、Skysona(elivaldogene autotemcel)のレーベル改訂を承認したと発表した。骨髄異形成症候群などの血液癌が散見されるため、適応をHLA適合他家造血幹細胞移植が不可能な場合に限定するなどの措置を取った。

22年に4~17歳の早期活性期cALD向けに加速承認された遺伝子療法。レンチ・ウイルス・ベクターを用いて欠失しているABCD1遺伝子をin vivoで導入する。臨床試験の段階でベクターの関与が疑われる血液腫瘍が見られ、時間経過による症例増加が危惧されたが、その通りになったようだ。承認時点では67人中3人だったが今年7月時点では同10人に増加した。診断されたタイミングは幅が大きく、治療の14ヶ月~10年後となっている。

欧州では21年に承認されたがHLA適合兄弟姉妹の造血幹細胞移植が不可能な場合に限定されていた。尚、同社は承認の3ヶ月後に欧州市場撤退を決め、承認返上している。

リンク: FDAのプレスリリース


FDAもIxchiqの使用制限を解除
(2025年8月7日発表)

FDAは、Valneva SE(Euronext Paris:VLA)の弱毒化生チクングニア熱ワクチン、Ixchiqについて、60歳以上に接種しないという勧告を解除すると共に、レーベルを改訂して接種対象を、気持ち、狭めた。

23年に米国で、24~25年にはEUや英国でも承認されたが、市販後に深刻な神経学的事象や心臓事象が17例報告され、その多くが65歳以上であったため、リスクの精査が終わるまでの暫定的措置として、5月に、FDAは60歳以上、EUのPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は65歳以上の、接種停止を勧告した。しかし、7月のEUに続き、FDAも解除した。

理由は良く分からない。累積接種回数は4万回超と報道されており、深刻神経学的/心臓有害事象の発生頻度は2000~3000人に一人と推測するが、副作用症例の全てが報告されるわけではないので実際はもっと多いのだろう。感染時のリスクと比べたら許容できるということなのかもしれない。

レーベル変更は、まず、適応が、蚊が媒介するウィルスに曝露するリスクが『増加する』人から『高い』人に変更された。次に、海外渡航者の殆どには推奨しないことを明記した。

では、誰が接種すべきなのか?自分で考えるしかないが、チクングニアが流行している地域にある程度の期間、滞在する人などが候補になるのだろう。CDC(米国疾病管理予防センター)によると、ボリビア、中国広東省、ケニア、マダガスカル、モーリシャス、マヨット、レユニオン、ソマリア、スリランカで流行している。

リンク: FDAのプレスリリース


オピオイド鎮痛剤の長期使用警告を強化
(2025年8月1日発表)

FDAはオピオイド鎮痛剤メーカーに長期使用時のリスクを警告するレーベル変更を求めたと発表した。承認後コミットメントとして実施された観察的試験で薬物依存や誤用などが見られたため、即放性製剤をできるだけ少量で、できるだけ短期間、用いるよう推奨する。数日間を超えて投与する場合は頓服使用なども検討する。持効性製剤は即放性製剤など他の手段が不十分な時のみ使用する。処方時に、naloxoneなどの解毒剤の説明も行う。離脱症状を回避するため止める時は漸減する。

また、薬物相互作用にgabapentinoidsを追加した。過剰摂取に伴う症状として中毒性白質脳症を追加した。

市販後観察的試験では、1~6%の患者でオピオイド依存の診断基準に合致する兆候症状が見られた。9%で治療目的とは異なった用途に使用されていた。22%が処方用途で誤った用法をしていた。

リンク: FDAのプレスリリース


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
25/9推バイエルのKerendia(finerenone、心不全追加)
25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
25/9/25OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)
25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)



今週は以上です。

2025年8月2日

第1218回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • トランプ大統領、製薬会社17社に値下げ要請 
  • FDAがElevidysの再出荷を認可、CBERヘッドが退任 
  • マンジャロ、心血管アウトカム試験でトルリシティと非劣性 
  • リンヴォックの円形脱毛症試験が成功 
  • JAK1阻害剤ジセレカのaxSpA試験が成功 
  • ジャイパーカのCLL/SLL試験が成功 
  • 汎PI3K・mTORC1/2阻害剤の第3相が成功 
  • GSK、抗TIM-3抗体の第3相がフェール 
  • ベネクレクスタ・カルケンス併用を承認申請 
  • トレムフィアの関節損傷抑制作用を効能追加申請 
  • イミフィンジを胃・GEJ癌に適応拡大申請 
  • 皮下注用ダラザレックスの適応拡大申請が審査完了に 
  • Regeneron社、複数の承認申請が審査完了に 
  • ノボ、アレモが米国でもインビビター保有限定の解除 
  • 新規老視治療薬が承認 
  • PTC社のPKU用薬が承認 
  • エムパベリがC3腎症などに適応拡大 
  • FDA、クラトムを高量含有する商品の麻薬指定を推奨 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


トランプ大統領、製薬会社17社に値下げ要請
(2025年7月31日発表)

米国連邦のトランプ大統領は大手製薬会社17社に書簡を送付し、米国の医薬品価格を主要国で最低水準にするために果たすべき行動を通知した。60日以内に回答するよう求めている。拒否された場合は連邦政府のあらゆる手段を通じて米国家族を守る由。最初にぶち上げて、相手の出方によっては譲歩するという、いつものやり口のようだ。関税交渉のパターンで言えば、双方が譲歩することによって、政府側も、相手側も、成果を国民(株主)にアピールする(アメリカには朝三暮四という言葉がないのだろう)。

米国の薬価は日本やEUと比べて高い。トランプ大統領は第一次政権でも是正を図ったが実現しなかった。第二次政権では、5月に最恵国(MFN)待遇を求める大統領令を発出したが、薬品製造者との協議で十分な進捗が見られなかったため、次の段階に進んだ。要求事項は、

  • 全メディケイド患者にMFN価格を提供する
  • 他の先進国で新薬の価格を米国より割安にしない
  • 患者に直接販売する手段を用意する(MFN価格を上回らないことが条件)
  • 製薬会社が海外で値上げするのを政府が支援する(収入増加を値下げなどの手段で米国に還元することが条件)

  • 書簡送付先は、アッヴィ、アムジェン、アストラゼネカ、ベーリンガー・インゲルハイム、ブリストル マイヤーズ スクイブ、イーライリリー、EMDセラノ、ジェネンテック、ギリアド・サイエンシズ、GSK、ジョンソン エンド ジョンソン、メルク(北米外ではMSD)、ノバルティス、ノボ ノルディスク、ファイザー、Regeneron Pharmaceuticals、サノフィ。

    リンク: ホワイトハウスの関連ファクト・シート


    FDAがElevidysの再出荷を認可、CBERヘッドが退任
    (2025年7月28日発表)

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)が開発し米国外ではロシュ/中外製薬が開発販売しているElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)は、FDAが急転直下、出荷再開を認めた。前後してCBER(FDAの生物学的製剤担当部門)のヘッド退任が判明したため、何らかの関係があるのではないかと報じられている。

    Elevidysは、Peter Marks(M.D., Ph.D.)がFDAのCBER(生物学的製剤評価研究センター)のヘッド(director)であった頃に担当部署の評価を覆して23年に加速承認した、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子療法。24年にはFDAがフェールした市販後薬効確認試験に基づいて本承認し、この試験で対象外とされた8歳以上の患者や歩行不能な患者にも、夫々、本承認、加速承認した。ところが、今年は波乱万丈で、まず、トランプ政権と対立したMarks博士がFDAを去り、Elevidysに批判的な意見を表明していたVinayak Prasad(M.D., M.P.H.)が後任に選ばれた。

    そこに、Elevidys投与患者二人が肝障害により死亡したことが判明した。どちらも、日本では承認されていない8歳以上の歩行不能な患者だった。FDAはSareptaに自発的出荷停止をリクエスト。Sareptaは歩行可能な患者までストップすることに一旦は拒否したが、週明けに停止した。ところが、数日後にFDAが自発的出荷停止を解除するよう推奨した。ブラジルで報告された死亡例はElevidysが原因とは考えられないから、という理由だが、最初の出荷停止要請は米国の2例が発端であるはずなので、話が繋がらない。

    各種報道がこの急転をPrasad博士の退任と関連付けている。5月にCBERのヘッドに選任され6月にはChief Medical and Scientific Officerという新設の役職を兼任と、トランプ政権下のFDAのキー・パーソンだったので、意外な展開だ。理由は明らかではないが、以前から加速承認制度に懐疑的な意見を表明していたことなどに大統領の一部の有力支援者が猛反対していることや、承認可能通知が陸続したことなどが契機と報じられている。

    Martin Makary(M.D., M.P.H.)がFDA長官に就任して以来、位置付けが良く分からないパネル討議が開催されたり、不透明な動きが相次いでいるが、また一つ謎が増えた。

    図表:Elevidysを巡る動き
    22年9月米国で承認申請
    23年5月米国申請後に組織改正で担当移管した部署が諮問委員会を開催、支持8人、反対6人。
    23年6月FDAが加速承認。担当部署の反対をCBERのヘッドが覆す。
    23年10月市販後薬効確認試験で主評価項目(NSAA)がフェール。
    24年6月加速承認を本承認に切替(諮問委員会は招集せず)、第3相の対象ではない8歳以上にも歩行不能者にも加速承認。
    同月欧州で条件付き承認を申請
    24年8月日本で承認申請
    25年3月米国の歩行不能な16歳男子DMD患者が急性肝障害を経て死亡
    25年5月条件付き且つ期限付き承認
    25年6月米国の歩行不能な15歳男子DMD患者が急性肝不全を経て死亡。Sareptaが歩行不能者に対する投与停止を決定。
    25年7月:
    16日SareptaがFDAと枠付き警告で合意と発表
    17日Elevidysと同じAAVrh74ベクターを用いた肢帯型筋ジストロフィー向け開発品の臨床試験で6月に51歳男性が肝不全で死去していたことが判明。
    18日FDAが自発的出荷停止を要求もSareptaが拒否
    21日一転してSareptaが米国で自発的一時的出荷停止。ロシュが米国承認に基づき承認された一部国で出荷停止。
    24日ブラジルの当局が出荷等の一時停止を決定。米国2症例が動機だが、ブラジルでも6月に8歳の歩行可能患者が死亡していたことを公表。但し、報告医は重度インフルエンザ感染症によるunrelatedなものと評価。
    24日CHMPが月例会議でElevidysの承認に否定的意見
    25日FDAがブラジルの死亡例を検討中と発表
    28日FDAが歩行可能なDMDに関する自発的出荷停止の解除を推奨
    出所:各種資料より作成

    リンク: FDAのプレスリリース(出荷停止解除推奨、7/28付)
    リンク: MedPageの記事(Prasad退任、7/30付)

    【新薬開発】


    マンジャロ、心血管アウトカム試験でトルリシティと非劣性
    (2025年7月31日発表)

    イーライリリーはGIP/GLP-1受容体アゴニストMounjaro(tirzepatide)の心血管アウトカム試験、Surpass-CVOTの結果を明らかにした。日本を含むグローバルな施設でアテローム硬化性心血管疾患を合併する二型糖尿病患者13,299人を組入れて、MACE-3(心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中)のリスクを同社のGLP-1作用剤Trulicity(dulaglutide)と比較したところ、非劣性だった(ハザード・レシオは0.90、95.3%信頼区間0.83-1.01、非劣性マージンは1.05)。優越性検定はフェールした。

    副次的評価項目の3年体重減少率(各群12%と5%)やA1c低下(1.7%対0.9%)はアルファ調整前で有意、全死亡はハザード・レシオ0.84、95%信頼区間0.75-0.94)だった。有害事象による離脱率は各群13%と10%。9月のEASD(欧州糖尿病学会)で詳細を発表し、年内にレーベル追加申請を行う考え。

    Trulicityは偽薬対照のREWIND試験で主評価項目のMACE-3の優越性ハザード・レシオが0.88、95%信頼区間0.79-0.99だった。この二本からMounjaroの偽薬比ハザード・レシオを単純計算すると0.88 x 0.90=0.79程度となる。

    競合するノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide)がSUSTAIN 6で示した優越性ハザード・レシオ0.74は凌げなかったことになるが、異なった試験のデータを掛け算するのは禁じ手である。

    リンク: イーライ・リリーのプレスリリース


    リンヴォックの円形脱毛症試験が成功
    (2025年7月30日発表)

    アッヴィはJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)を重度円形脱毛症の治療に当てた第3相試験のうち、一本で主目的を達成したと発表した。もう一本は第3四半期に結果判明する見込み。

    この日本も参加したUP-AA試験は12~64歳の重度円形脱毛症患者(二本合わせて1399人)を偽薬群、15mg群、30mg群に無作為化割付けして24週間治療し、SALT(Severity of Alopecia Tool)スコアが20以下(評価対象エリアの80%以上で毛が生えている)になった患者の比率を比較した。SALTのベースライン平均値は83.8。

    結果は、各群3.4%、44.6%、54.3%だった。有害事象は承認用途と同様。本試験では主要心血管有害事象や腫瘍、死亡は発生しなかった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    JAK1阻害剤ジセレカのaxSpA試験が成功
    (2025年7月28日発表)

    イタリアのAlfasigmaは、Jyseleca(filgotinib)が第3相OLINGUITO試験で主目的を達成したと発表した。EUや英国で適応拡大申請する考え。

    日欧などで難治性のリウマチ性関節炎や潰瘍性大腸炎の治療に承認されているJAK1阻害剤。Galapagos(Euronext: GLPG)がアボットや後にはギリアド・サイエンシズと共同開発したが、米国では追加試験を求められ、提携解消を経て、事業をAlfasigmaに譲渡した。JAK阻害剤は心血管疾患や感染症、腫瘍のリスクが高まる可能性があり、禁忌や適応制限、減量などの措置が導入されているが、Jyselecaはラットや犬の試験で臨床用量の数倍の量で精子異常が見られたため、FDAが精巣安全性試験を求めた経緯がある。

    今回の試験は、従来薬または生物学的製剤に十分応答しないaxSpA(体軸性脊椎関節炎)を組入れて偽薬または200mg(承認用途と同じ)を一日一回、経口投与し、16週後のASAS40の変化を比較した。X線で異常が確認できるr-axSpA258人でも、確認されないnr-axSpA237人でも、効果が見られた。

    この試験は、心血管リスクを持たない患者は52週の延長試験を経て100mg群と200mg群に無作為化割付けしてさらに追跡する。65歳以上と心血管リスクを持つ患者は16週経過後に100mgにスイッチして更に追跡する。長期試験で上記リスクを確認する考えだろう。リスクや緩和方法を検討せず漫然と販売し続けるよりよっぽど良心的だ。

    リンク: 同社のプレスリリース(BusinessWire)


    ジャイパーカのCLL/SLL試験が成功
    (2025年7月29日発表)

    イーライリリーは、非共有結合性BTK阻害剤Jaypirca(pirtobrutinib)の第3相BRUIN CLL-314で主目的を達成したと発表した。今年後半に結果が判明する同313試験の結果と合わせて、グローバルに適応拡大申請する考え。

    314試験はBTK阻害剤歴を持たないCLL/SLL(慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫)におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)をジョンソン エンド ジョンソンのBTK阻害剤Imbruvia(ibrutinib)と比較するもの。BTK阻害剤以外の治療歴を持つサブグループでも、初治療を含むintent-to-treatベースでも、非劣性解析が成功した。優越性の名目p値は0.05を下回った。副次的評価項目のPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)は未成熟だが、特に初治療225人において、好ましい数値が出ているようだ。公式な優越性解析が予定されている。全生存期間が悪化する様子は見られなかった。

    313試験は未治療患者だけを組入れて化学免疫療法と比較するもの。主評価項目はPFS(同)。

    BTK阻害剤はORRやPFSが必ずしも延命効果に繋がるとは限らない。314試験はBTK阻害剤同士の比較なので何とも言えないが、313試験は全生存期間の解析結果が将来の注目点になりそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    汎PI3K・mTORC1/2阻害剤の第3相が成功
    (2025年7月28日発表)

    ミネアポリス(米国)の医薬品開発企業、Celcuity(Nasdaq:CELC)は、gedatolisibの転移乳癌二次治療薬としての便益を検討した第3相VIKTORIA-1試験で主目的を達成したと発表した。今年第4四半期に承認申請する考え。

    ワイス時代からの開発品をファイザーからライセンスした、PAM(PI3K/Akt/mTOR)パスウェイ阻害剤。川上に位置するPI3Kのクラス1アイソフォーム4種類全てを阻害すると共に、川下のmTORC1とmTORC2も阻害してエスケープを抑制する。第3相は欧米アジアの施設で成人のホルモン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌で、アロマターゼ阻害剤・CDK4/6阻害剤併用治療に不応/再進行した患者を組入れて、PIK3CA遺伝子に変異を持つ変異型コフォートと持たない野生型コフォートのそれぞれにおける効果をオープン・レーベルで検討した。

    今回成功したのは野生型コフォートの解析。fulvestrant群、fulvestrantとgedatolisibの二剤併用群、fulvestrant、palbociclib、そしてgedatolisibの三剤併用群のPFS(無進行生存期間、独立中央評価)がメジアンで2.0ヶ月、7.4ヶ月、9.3ヶ月となり、二剤併用群はfulvestrant比ハザード・レシオ0.33(95%信頼区間0.24-0.48)、三剤併用群は同0.24(同0.17-0.35)と、大変良い結果が出た。

    変異型コフォートはfulvestrant、palbociclib、及びgedatolisibの三剤併用の便益をfulvestrantとノバルティスのPI3Kアルファ阻害剤alpelisibの二剤併用と比較するとともに、組入れがこの二群の1/3なので参考群という位置付けなのだろうがfulvestrant・gedatolisib併用群も設定されている。25年末に結果が判明する見込み。

    リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)



    (2025年8月1日発表)

    ニューヨーク(米国)の未上場医薬品開発会社、Spine BioPharmaは、SB-01が第3相腰椎椎間板変性症(DDD)試験で主目的を達成しなかったことを公表した。一部施設で大きな偽薬効果が見られるため除外して集計すると有意にあと一歩になるため、規制当局と承認申請に向けて相談する考え。

    TGFベータを阻害する、アミノ酸7個の合成ペプチド。09年に韓国Ensol BiosciencesからライセンスしたYuhan CorporationがYH14618として韓国でDDDの第2相試験を実施したが、開発を断念。18年にSpine社が韓国外での開発商業化権をYuhamから取得し、24年には脊椎関連以外の疾患における権利もEnsolから取得している。

    今回のMODEL試験は米国の施設でDDDによる慢性疼痛の417人を1.5mLを椎間板に一回注射する群とシャム群に無作為化割付けして、第6月の複合的奏効率を比較した。奏功の定義は、疼痛のNRS(数値評価尺度)が2点以上改善、且つ、Oswestry Disability Index(ODI:疼痛関連機能障害の尺度)が15点以上改善。試験薬群は67%と意味のある改善を見た、シャム群の数値は未公表。シャム群の複合的奏効率が想定範囲内だった施設だけの解析(n=227)では各群70%と59%でp=0.051だった。

    副次的評価項目であるODIだけの解析は試験薬群が75%、シャム群は非公表、有意ではなかった。上記事後的サブグループ分析では79%対69%、p=0.04だった。安全性は良好だった。

    Yuhanの試験成績はClinicalTrials.govに収載されていない。

    リンク: Spine社のプレスリリース(Business Wire)


    GSK、抗TIM-3抗体の第3相がフェール
    (2025年7月30日発表)

    GSKは、25年第2四半期決算発表に際して、GSK-4069889(cobolimab)の第3相COSTAR試験がフェールしたことを明らかにした。詳細は不明。この試験はPD-(L)1阻害剤と化学療法による治療歴を持つ非小細胞性肺癌を対象に、docetaxelに同社の抗PD-1抗体Jemperli(dostarlimab-gxly)を単独でまたはcobolimabと合わせて追加する便益を検討したもの。主目的の全生存期間延長を達成できなかった。

    免疫イフェクター細胞などで発現する免疫チェック・ポイント、TIM-3(T cell immunoglobulin and mucin domain 3)を阻害する抗体。19年に買収したTesaroが14年にAnaptysBioから導入した。TIM-3阻害は抗PD-(L)1抗体と補完的な免疫増強効果が期待される作用機序の一つだが、最初に第3相入りしたノバルティスのMBG453(sabatolimab)は多発骨髄腫試験がフェールし開発中止となった。

    リンク: GSKのプレスリリース

    【承認申請】


    ベネクレクスタ・カルケンス併用を承認申請
    (2025年7月29日発表)

    アッヴィは、bcl-2阻害剤Venclexta(venetoclax)をアストラゼネカのBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)と併用で未治療慢性リンパ性白血病に用いる適応拡大を米国で申請したと発表した。アストラゼネカのスポンサーで実施された第3相AMPLIFY試験でPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)が標準療法である化学免疫療法群(fludarabine、cyclophosphamide、rituximabのFCRレジメン又はbendamustineとrituximabのBRレジメン)を有意に上回った。

    アストラゼネカは欧州で6月に承認取得。当試験の標準療法群は米国では標準ではないという意見があるため気になっていたが、アッヴィと同日に行われた今期第2決算発表に際して、米国でも適応拡大申請したことが発表された。

    リンク: アッヴィのプレスリリース


    トレムフィアの関節損傷抑制作用を効能追加申請
    (2025年7月29日発表)

    ジョンソン エンド ジョンソンのTremfya(guselkumab)は20年に欧米で成人の活性期乾癬性関節炎に適応拡大しているが、関節損傷抑制試験の成功を受けて、米国で効能追加申請を行った。後期第3相のAPEX試験で8週毎または4週毎皮下注を24週間反復したところ、vdH-S(PsA modified van der Heijde-Sharp・・・骨びらんと関節裂隙の狭小化を評価する尺度)の変化が各群0.54と0.55となり、共に偽薬群の1.35を有意に下回った。抗IL-23抗体で関節損傷抑制作用が確認されたのは初。

    リンク: JNJのプレスリリース


    イミフィンジを胃・GEJ癌に適応拡大申請
    (2025年7月28日発表)

    アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を米国で切除可能なステージII、III、IVA胃・胃食道接合部癌に適応拡大申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は今年第4四半期。EUや日本などでも申請中。

    第3相MATTERHORN試験に基づくもので、摘出術の前後にFLOT(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatin、docetaxelの併用レジメン)を2回ずつ施行する周術期療法にImfinziを術前2回、術後は12回追加したところ、中間解析でEFS(無イベント生存期間)がFLOTだけの群を上回り、ハザード・レシオは0.71だった。全生存期間のハザード・レシオも34%到達時点の中間解析で0.78、p=0.025と、割当てられたアルファ(0.0001)には及ばないものの好ましい方向を指していた。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    皮下注用ダラザレックスの適応拡大申請が審査完了に
    (2025年8月1日発表)

    ジョンソン エンド ジョンソンはDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)を造血幹細胞移植を受けない未治療多発骨髄腫に適応拡大申請し、EUでは4月に造血幹細胞移植限定が解除されたが、米国は審査完了通知を受領した。FDAの工場査察時に何らかの指摘事項があった模様。薬効や安全性に関わるものではなく、承認用途において供給問題は発生していないとのこと。

    この皮下注用抗CD38抗体は、VRdレジメン(bortezomib、lenalidomide、及びdexamethasone)に追加する便益を検討したCEPHEUS試験で、主目的の全般的微小残存病変(MRD)陰転率(感度:10万分の1)が60.9%と、VRd群の39.4%を有意に上回った。PFSのハザードレシオも0.57で統計的に有意だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Regeneron社、複数の承認申請が審査完了に
    (2025年8月1日発表)

    Regeneron PharmaceuticalsもFDA査察絡みで複数の承認申請が審査完了になってしまったことを第2四半期決算発表リリースの中で公表した。何れも、ノボ ノルディスクが子会社化したCatalentの充填施設における問題がボトルネックになった。同じようなことが以前にもあったことが気にかかる。同社は委託先変更も検討しているようだ。

    一つは、硝子体注射用抗VEGF抗体Eylea HDに関わるもので、適応拡大(網膜静脈閉塞症における黄斑浮腫糖尿病性網膜症)、全適応における維持期4週毎投与(頻度引き上げ)、そしてプリフィルド・シリンジの投入(2mg製剤と異なりシリンジしかない)。FDAがCatalent Indianaを査察した時の指摘事項が原因で解消まで承認お預けとなった。22年に一部の適応で維持期の投与頻度に12週毎または16週毎を追加すべく申請した時も、優先審査バウチャを用いて迅速承認を図ったが、Catalentの充填施設における指摘事項が原因で承認が2ヶ月遅れた。

    もう一つは抗CD20xCD3バイスペシフィック抗体REGN1979(odronextamab)。難治再発濾胞性リンパ腫とびらん性大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として23年に承認申請したが、一巡目は市販後薬効確認試験の進捗がFDAの期待ほど進捗していなかったため、審査完了通知を受領した。今年2月に再申請が受理されたが、Catalentのせいで、再び審査完了に終わった。尚、EUでは24年8月にOrdspono名で条件付き承認されている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    ノボ、アレモが米国でもインビビター保有限定の解除
    (2025年7月31日発表)

    ノボ ノルディスクはFDAがAlhemo(concizumab-mtci)を12歳以上のインヒビターを持たないA型/B型血友病の予防的投与に用いることを承認したと発表した。第3相explorer8試験でA型血有病患者が特発的/外傷性出血の治療を受けるリスクが出血時投与群と比べ0.14(86%小さい)、B型患者では0.21だった。日本では昨年6月に承認、欧州では7月にCHMPで肯定的意見を得た(但し、A型は重度、B型は中重度の患者のみ)。

    AlhemoはTFPI(組織因子経路インヒビター)に対する抗体医薬。23~24年に日米欧でインヒビターを持つA型/B型血友病に承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    新規老視治療薬が承認
    (2025年7月31日発表)

    米国カリフォルニア州の眼科薬開発会社、LENZ Therapeutics(Nasdaq:LENZ)は、FDAがVizz(aceclidine 1.44%点眼液)を成人の老視治療薬として承認したと発表した。第3相試験二本で、近見視力を改善し遠見視力を悪化させない作用を示した。第3相は一日一回投与だったが、2分おいて二回投与する用法で承認された。警告注意事項は一時的な霞目、瞳孔縮小剤で稀に報告される網膜裂孔・網膜剥離、虹彩炎。第4四半期に発売する予定。

    活性成分は欧州などで緑内障治療薬として承認されているアセチルコリン受容体アゴニスト。米国では初承認で、老視に承認されたのは世界初。瞳孔収縮作用によりピンホール効果が生まれ老眼が改善する。

    リンク: 同社のプレスリリース


    PTC社のPKU用薬が承認
    (2025年7月26日発表)

    PTCセラピューティクスはFDAがSephience(sepiapterin)を小児・成人のフェニルケトン血症(PKU)用薬として承認したと発表した。EUでは6月に承認、日本でも1月に承認申請されている。

    既存のPKU用薬であるバイオマリンのKuvan(sapropterin)は、患者が欠乏するフェニルアラニン水酸化酵素のコファクター、BH4(テトラヒドロビオプテリン)の類縁体だが、SephienceはBH4の前駆体であるセピアプテリンを合成したもの。どちらも経口剤。

    リンク: PTC社のプレスリリース


    エムパベリがC3腎症などに適応拡大
    (2025年7月28日発表)

    Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)はFDAがEmpaveli(pegcetacoplan)を12歳以上のC3腎症と原発性IC-MPGN(免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎)に適応拡大したと発表した。C3補体阻害剤で皮下注用製剤が米欧日でPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)などに、硝子体注射用製剤Syfovreが米国で加齢黄斑変性の地図状萎縮に、承認されている。今回の疾患は米国で5000人、欧州で8000人が罹患と推定される希少疾患。臨床試験で蛋白尿が偽薬比68%少なくなった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    FDA、クラトムを高量含有する商品の麻薬指定を推奨
    (2025年7月29日発表)

    FDAは7-hydroxymitragynine(略称7-OH)を規制物質法に基づく規制の対象とするようDEA(麻薬取締局)に推奨したと発表した。DEAは9年前に最も厳しいスケジュール1指定することを検討したが、世論の反対を経て断念した経緯がある。トランプ政権下の揺り戻しの一つだ。

    7-OHはクラトムという植物の葉に微量含まれる成分。薬としても食品添加物としても承認されていないが、ネットやガソリン・スタンド、たばこ代用品販売店などで高量を含有するグミやアイスクリーム・コーンなどが、適切な表示なしに、販売されているとのこと。FDAによると、薬物依存、離脱症状、不眠、不安、癲癇、致死的呼吸抑制などのリスクがあり、有害事象報告が増加している。FDAは6月に7社に警告状を発出したが、今回、DHCPレター(医療従事者向け通知)を発出して注意を呼び掛けた。

    DHCPレターの中で、Makary FDA長官は、2000年代に依存リスクが高いことに気付かないまま通常の施術にオピオイドを何度も処方していたことを思い出すのは、他の多くの医療従事者と同様に自分にとっても、辛いことと述懐している。意見が分かれる中で今回のアクションを取った背景の一つなのだろう。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
    25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
    25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
    25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
    25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
    25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
    25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
    25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
    25/9推バイエルのKerendia(finerenone、心不全追加)
    25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda sc(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/25OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)




    今週は以上です。