【ニュース・ヘッドライン】
- BI社、統合失調症のデジタル治療試験が成功
- イーライリリーの経口GLP-1作用剤
- Journavxの慢性疼痛向けはDPNを優先
- ブレヤンジを辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請
- BI社のher2チロシン・キナーゼ阻害剤が承認
- ジャズのClpPアゴニストがK27M変異びまん性正中グリオーマに加速承認
- ノバルティス、レクビオのモノセラピーが承認
- cALD遺伝子療法のレーベル改訂
- FDAもIxchiqの使用制限を解除
- オピオイド鎮痛剤の長期使用警告を強化
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【新薬開発】
BI社、統合失調症のデジタル治療試験が成功
(2025年8月7日発表)
ベーリンガー・インゲルハイムと米国のClick Therapeuticsは、BI 3972080/CT-155の第3相CONVOKE試験で主目的を達成したと発表した。10月にECNP(欧州神経精神薬理学会)の学会シンポジウムで発表する予定。
Click社はPDT(医家デジタル治療)アプリの開発を進めており、3月には大塚製薬と共同開発したRejoynが大鬱病の補助療法としてFDAの510(k)認可を受けた。BI 3972080/CT-155は統合失調症の経験的(experiential)陰性症状の補助療法。昨年4月にFDAのブレークスルー・ディバイス指定を受けた。
今回のCONVOKE試験は、向精神薬治療を受け安定的な状態だが経験的陰性症状を示す統合失調症の患者における補助療法としての効果を対照デジタル・アプリと比較した。主評価項目は第16週におけるCAINS-MAP(Negative Symptoms, Motivation and Pleasure Scale)。忍容性は良好とのこと。
尚、統合失調症の陰性症状のうち、意欲低下、引きこもり、関心喪失などを経験的陰性症状と呼び、感情鈍麻や言語障害などは表出性(expressive)陰性症状と呼ぶようだ。
リンク: 両社のプレスリリース
イーライリリーの経口GLP-1作用剤
(2025年8月7日発表)
イーライリリーは経口GLP-1作用剤LY3502970(orforglipron)の最初の第3相体重管理試験で全用量とも主目的を達成したと発表した。もう一本の結果を待って25年末までにグローバルに承認申請する考え。
18年に中外製薬からライセンスした、GLP-1受容体を作動する経口剤。二型糖尿病では3mg、12mg、または36mgを一日一回投与した第3相ACHIEVE-1試験でHbA1c(偽薬調整後)が各群0.8%、1.1%、1.1%低下した。今回のATTAIN-1試験は肥満またはリスク因子を持つオーバーウェイトで糖尿病ではない患者3127人を組入れて偽薬、3mg、12mg、または36mgを一日一回、72週間投与し、体重減少率を比較した。米国のレーベルに記載されるであろうtreatment-regimen estimandベースで各群2.1%、7.5%、8.4%、11.2%低下した。非HDLコレステロール量や最大血圧なども低下した。
12~45mgをテストした第2相肥満症試験では8~12%低下しており(偽薬群は2%)、今回も同程度だったことになる。5月に承認申請がFDAに受理されたノボ ノルディスクのGLP-1作用剤、経口semaglutideは類似したデザインの第3相OASIS 4試験で体重が13.6%低下した(偽薬群は2.7%)。両剤とも、イーライリリーの皮下注用GIP/GLP-1作用剤Mounjaro(tirzepatide)より見劣りすることになる。尤も、GLP-1受容体を作動する薬は多段階の用量漸増を完遂して最大用量に到達できる患者が決して多くないと言われており、現実の医療における差はここまで大きくならないかもしれない。
株式市場の期待はもっと高かったようだ。今回の発表で一番大きく低下したのは株価だった(14%)。
リンク: 同社のプレスリリース
Journavxの慢性疼痛向けはDPNを優先
(2025年8月4日発表)
Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は25年第2四半期決算発表に合わせてNaV1.8チャネル阻害剤の開発状況をアップデートした。リード・コンパウンドで1月に米国で成人の中重度急性疼痛治療薬Journavxとして承認されたsuzetrigineは慢性疼痛用途でもDPN(糖尿病性末梢神経痛)の第3相試験中。疼痛性腰仙骨神経根症でも第3相入りさせる予定だったが、代わりに、もう一本DPN試験を実施すると決めた。FDAが慢性神経痛用途で幅広い適応を認めることに後ろ向きな姿勢を示したため。
また、次世代品とされるVX-993の第2相バニオン術後鎮痛試験がフェールしたことも明らかにした。SPID48(Sum of the Pain Intensity Differenceの48時間平均)が最大用量で74.5と、偽薬群の50.2を上回ったものの(有意性は不明)、実薬参考群の数値を下回った。suzetrigineも類似した第3相試験で実薬を上回ることができなかったので、十分な差別化は難しいと判断したのだろう、モノセラピーの開発を断念した。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
エプキンリを濾胞性リンパ腫の二次治療に適応拡大申請
(2025年8月7日発表)
デンマークのジェンマブ(Nasdaq:GMAB)は、Epkinly(epcoritamab-bysp)が第3相EPCORE FL-1試験の中間解析で共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)も達成したと発表した。米国では既に適応拡大申請が優先審査として受理され、審査期限は25年11月30日であることも明らかにした。
アッヴィと共同開発販売している抗CD3xCD20二重特異性抗体。23年に米欧日で再発/難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫用薬として加速承認/承認され、24~25年には米欧日で再発/難治濾胞性リンパ腫の3次治療に適応拡大した。今回の試験は成人の再発/難治濾胞性リンパ腫で化学療法薬と抗CD20抗体による一次治療歴を持つ患者を組入れて、lenalidomideとrituximabのレジメンに追加する便益をオープン・レーベルで検討した。もう一つの主評価項目であるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)は5月に達成、適応拡大申請のエビデンスとなった。PFSはハザードレシオが0.21、pは0.0001未満とこちらも良好な結果になった。
リンク: ジェンマブのプレスリリース
ブレヤンジを辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請
(2025年8月4日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブは米国でBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)を成人の難治/再発性辺縁帯リンパ腫(MZL)の3次治療に適応拡大申請して受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は2025年12月5日。承認されればCAR-T療法で初となる。
第2相TRANSCEND FL試験のMZLコフォートでORR(客観的反応率、独立評価委員会方式、n=66)が95.5%、完全反応率62.1%、反応者の88.6%は24ヶ月以上持続した。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
BI社のher2チロシン・キナーゼ阻害剤が承認
(2025年8月8日発表)
FDAはベーリンガー・インゲルハイムのHernexeos(zongertinib)を成人の切除不能/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌用薬として加速承認した。her2チロシン・キナーゼ阻害剤で、her2チロシン・キナーゼ・ドメインに活性化変異を持ち全身性治療歴のある患者が適応になる。コンパニオン診断薬であるLife TechnologiesのOncomine Dx Target Testも承認された。
120mg(体重90kg以上は180mg)を一日一回、経口投与する。エビデンスとなるBeamion LUNG-1試験で白金ベース化学療法と抗her2抗体薬物複合体による治療歴を持つ患者34人におけるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が44%、うち27%は反応が6ヶ月以上持続した。白金ベース化学療法歴を持ちher2標的薬は未経験の71人ではORRが75%、6ヶ月反応持続率は58%だった。警告注意事項は肝毒性、左室機能不全、間質性肺疾患/肺臓炎、胚胎毒性。
日本でも2月に承認申請された。
リンク: FDAのプレスリリース
ジャズのClpPアゴニストがK27M変異びまん性正中グリオーマに加速承認
(2025年8月6日発表)
FDAはJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のModeyso(dordaviprone )を1歳以上のH3 K27M変異のあるびまん性正中グリオーマで前治療に疾病進行だった患者向けに加速承認した。新患向け第3相試験が欧米アジア日本の施設で進行中。
ヒストンH3 K27M変異は脳室、視床、脳橋、脊髄、脳幹の腫瘍の過半で見られる。本薬は腫瘍のサバイバルを増強するミトコンドリア蛋白を分解するClpPのアゴニストで、Rasシグナルに関わるドパミン受容体D2のアンタゴニスト作用も持つ。成人の場合、625mgを週一回、経口投与する。
加速承認のエビデンスは5本の試験合計で50人の統合解析(DIPG(びまん性橋膠腫)、原発性脊髄腫瘍、病理学的非定型、脳脊髄液播種は対象外)。ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価、RANO(Response Assessment in Neuro-Oncology)2.0基準)が22%、メジアン反応持続期間は10.3ヶ月だった。警告・事前注意事項は過敏反応、QTc延長、胚胎毒性。
Jazzが今年4月に9.35億ドルで買収したChimerixが、21年にOncoceuticsを買収して入手したもの。日本の権利は大原薬品が19年にライセンスした。
リンク: FDAのプレスリリース
ノバルティス、レクビオのモノセラピーが承認
(2025年7月31日発表)
ノバルティスは、PCSK9を標的とするRNA介入薬、Leqvio(inclisiran)の用法変更がFDAに承認されたと発表した。高脂血症用薬で、スタチン併用という限定が解除されモノセラピーが可能になった。
エビデンスとなった臨床試験には言及されておらず、レーベルにも記載されていない。同社は、昨年、単剤投与のV-MONO試験が成功したと発表している。治験論文によると、アテローム硬化性心血管疾患のリスクが低・中程度のコレステロール治療薬を服用していない患者を組入れて6ヶ月治療したところ、LDL-Cが偽薬調整後で47.9%低下した。exetimibe群と比較しても35.4%大きく低下した。
リンク: ノバルティスの米国法人のプレスリリース
リンク: TaubらのVICTORION-Mono試験論文(Journal of the American College of Cardiology、2025年)
【医薬品の安全性】
cALD遺伝子療法のレーベル改訂
(2025年8月7日発表)
FDAはbluebird bio(Nasdaq:BLUE)のcALD(脳副腎白質ジストロフィー)用薬、Skysona(elivaldogene autotemcel)のレーベル改訂を承認したと発表した。骨髄異形成症候群などの血液癌が散見されるため、適応をHLA適合他家造血幹細胞移植が不可能な場合に限定するなどの措置を取った。
22年に4~17歳の早期活性期cALD向けに加速承認された遺伝子療法。レンチ・ウイルス・ベクターを用いて欠失しているABCD1遺伝子をin vivoで導入する。臨床試験の段階でベクターの関与が疑われる血液腫瘍が見られ、時間経過による症例増加が危惧されたが、その通りになったようだ。承認時点では67人中3人だったが今年7月時点では同10人に増加した。診断されたタイミングは幅が大きく、治療の14ヶ月~10年後となっている。
欧州では21年に承認されたがHLA適合兄弟姉妹の造血幹細胞移植が不可能な場合に限定されていた。尚、同社は承認の3ヶ月後に欧州市場撤退を決め、承認返上している。
リンク: FDAのプレスリリース
FDAもIxchiqの使用制限を解除
(2025年8月7日発表)
FDAは、Valneva SE(Euronext Paris:VLA)の弱毒化生チクングニア熱ワクチン、Ixchiqについて、60歳以上に接種しないという勧告を解除すると共に、レーベルを改訂して接種対象を、気持ち、狭めた。
23年に米国で、24~25年にはEUや英国でも承認されたが、市販後に深刻な神経学的事象や心臓事象が17例報告され、その多くが65歳以上であったため、リスクの精査が終わるまでの暫定的措置として、5月に、FDAは60歳以上、EUのPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は65歳以上の、接種停止を勧告した。しかし、7月のEUに続き、FDAも解除した。
理由は良く分からない。累積接種回数は4万回超と報道されており、深刻神経学的/心臓有害事象の発生頻度は2000~3000人に一人と推測するが、副作用症例の全てが報告されるわけではないので実際はもっと多いのだろう。感染時のリスクと比べたら許容できるということなのかもしれない。
レーベル変更は、まず、適応が、蚊が媒介するウィルスに曝露するリスクが『増加する』人から『高い』人に変更された。次に、海外渡航者の殆どには推奨しないことを明記した。
では、誰が接種すべきなのか?自分で考えるしかないが、チクングニアが流行している地域にある程度の期間、滞在する人などが候補になるのだろう。CDC(米国疾病管理予防センター)によると、ボリビア、中国広東省、ケニア、マダガスカル、モーリシャス、マヨット、レユニオン、ソマリア、スリランカで流行している。
リンク: FDAのプレスリリース
オピオイド鎮痛剤の長期使用警告を強化
(2025年8月1日発表)
FDAはオピオイド鎮痛剤メーカーに長期使用時のリスクを警告するレーベル変更を求めたと発表した。承認後コミットメントとして実施された観察的試験で薬物依存や誤用などが見られたため、即放性製剤をできるだけ少量で、できるだけ短期間、用いるよう推奨する。数日間を超えて投与する場合は頓服使用なども検討する。持効性製剤は即放性製剤など他の手段が不十分な時のみ使用する。処方時に、naloxoneなどの解毒剤の説明も行う。離脱症状を回避するため止める時は漸減する。
また、薬物相互作用にgabapentinoidsを追加した。過剰摂取に伴う症状として中毒性白質脳症を追加した。
市販後観察的試験では、1~6%の患者でオピオイド依存の診断基準に合致する兆候症状が見られた。9%で治療目的とは異なった用途に使用されていた。22%が処方用途で誤った用法をしていた。
リンク: FDAのプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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25/8推 | UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症) |
25/8/12 | InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症) |
25/8/15 | Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症) |
25/8/19 | PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症) |
25/8/21 | Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫) |
25/8/27 | PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症) |
25/8/27 | Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症) |
25/8/29 | サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症) |
25/8/31 | エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加) |
25/9推 | バイエルのKerendia(finerenone、心不全追加) |
25/9/7 | Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア) |
25/9/22 | Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症) |
25/9/22 | バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加) |
25/9/22 | ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療) |
25/9/23 | MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa) |
25/9/25 | Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症) |
25/9/25 | OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症) |
25/9/28 | サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症) |
今週は以上です。
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