2025年1月25日

第1191回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • MMWRが60年の歴史で初めて休刊 
  • MOP・NOP受容体アゴニストの最初の第3相が成功 
  • キイトルーダ・レンビマ併用試験がまたまたフェール 
  • バイオジェン、スピンラザの高用量を承認申請 
  • 黒色腫における第2のウイルス療法を承認申請 
  • バース症候群用薬の承認審査が長引く 
  • 造血幹細胞移植の前処理薬が承認 
  • JNJ、抗鬱剤Spravatoのモノセラピーが承認 
  • FDAもフルオロウラシルにおけるDPD欠損問題に注意喚起 
  • FDA、多発性硬化症用薬のアナフィラキシー・リスクを枠付き警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


MMWRが60年の歴史で初めて休刊
(2025年1月23日報道)

CDC(米国連邦疾病管理予防センター)はMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)で感染症の調査研究成果等を発表しているが、1月23日号は電子刊行されていない。トランプ新大統領が連邦政府の各種発表にブレーキをかけたことが原因のようだ。

医療ウェブ・ニュースのMedPageによると、60年の歴史を通じて初めての事態とのこと。MMWRや官報公示情報だけでなく、プレスリリースやSNS、ウェブサイトを通じた情報発信も、1月21日から2月1日までの期間、ストップするようだ。

FDAはほぼ毎日、FDA Roundupという主要な発表・活動をまとめたニューズ・リリースを出しているが、1月17日を最後に止まっている。一方で、MedWatch(有害事象情報サイト)では後記のように二件のリリースを行っている。1月21日と22日にはメーカー側が新薬や適応拡大の承認を発表しており、重要性に応じて例外も認められているのだろう(今後、影響が本格化するのかもしれないが)。

民主党と共和党の間の政権交代はバタバタするのが常だが、今回は波風がたくさん立ちそうだ。

リンク: MedPageの報道
リンク: MMWR掲載ページ

【新薬開発】


MOP・NOP受容体アゴニストの最初の第3相が成功
(2025年1月22日発表)

米国ニュージャージー州の未上場専門薬会社、Tris Pharmaは、TRN-228(cebranopadol)の第3相腹部形成術後疼痛試験で主目的を達成したと発表した。もう一本も今四半期中に成否判明する見込みで、25年内の承認申請を計画している。

オピオイドの受容体であるMOP(ミュー・オピオイド・ペプチド)受容体だけでなく、オピオイドが作動しないNOP(ノシセプチン・オルファニンFQペプチド)受容体も作動するMOP・NOP受容体アゴニスト。MOP受容体作動の副産物である幻覚や薬物依存のリスクを緩和することが期待されている。

今回のALLEVIATE1試験は米国の施設で300人の患者を偽薬、低量、高量の3群に無作為化割付けして二日間投与し、疼痛緩和作用を比較した。主評価項目はNRS(数値的評価スケール)の第4~48時における曲線下面積(累積値)。結果は、一日400mcgを投与した群が偽薬群を有意に上回った(最小二乗平均差59.2、p<0.001)。有害事象は悪心など。深刻有害事象は見られなかった。

もう一本のALLEVIATE2試験は米国の施設で中足骨初回骨切り術を伴うバニオン切除術後の疼痛を緩和する効果を偽薬と比較する。主評価項目は一本目と同じ。oxycodoneを一日4回投与する参考群も設定されている。

cebranopadolはドイツのGrünenthalが創製、2010年代に癌性疼痛で第3相試験が実施され、途中で打ち切られたようだが、ClinicalTrials.govに掲載されている最終解析成績を見ると、モルヒネ群と比べて非劣性であることが確認された。Trisは他社がギブアップした開発品をサルベージするビジネス・モデルのようで、cebranopadolは21年にPark Therapeuticsを買収して入手したもの。慢性疼痛の第3相も計画している。

米国はオピオイドの過剰摂取や乱用が活発で社会問題になっている。薬局の規制は州の管轄であるため、規制の緩い州の薬局が全米に供給しているようだ。依存性、嗜好性を引き下げるために作用のオンセットを遅らせた製剤も発売されたが、嗜好性の払拭は難しいようだ。依存リスクの小さい新規活性成分としてはVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)がNaV1.8チャネル阻害剤VX-548(suzetrigine)を上記と同様な短期投与試験二本に基づいて米国で承認申請しており、1月30日までに結果が出る見込み。腹部形成術後疼痛試験における治療効果は48なのでcebranopadolと大差無さそうだ(プロトコルや定義に違いがあるかもしれないが)。

どちらもオピオイドより効果が高いようには見えないので、依存性・嗜好性の低さをキチンと確認してアピールする必要がありそうだ。薬効は主評価項目が一番重要だが安全性はあらゆる項目が大事なので、プレスリリースや臨床試験論文だけでは情報が足りない。とりあえず、suzetrigineの審査結果が注目だ。

リンク: Tris社のプレスリリース


キイトルーダ・レンビマ併用試験がまたまたフェール
(2025年1月24日発表)

MSDとエーザイは前者のKeytruda(pembrolizumab)と後者のVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib)の第3相併用試験で提携しているが、近年はフェールが目立つ。今回、LEAP-015試験の全生存解析がフェールしたことが発表された。局所進行切除不能/転移性のher2陰性胃食道腺腫の一次治療を受ける患者を組入れて、化学療法(CAPOXまたはmFOLFOX6レジメン)に二剤を追加する便益を検討したもので、共同主評価項目のうちPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)は中間解析で達成済みだが、全生存期間は最終解析でも達成できなかった。

この二剤の第3相併用試験は、内膜腫と腎細胞腫の実薬対照試験が成功したが、LEAPシリーズの第3相は肝細胞腫のTACE(経動脈化学塞栓術)に追加した012試験が成功したものの、001、002、006、007、008、010、011、017試験がフェールし、当方が把握している範囲だけで1勝8敗と苦戦している。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


バイオジェン、スピンラザの高用量を承認申請
(2025年1月23日発表)

バイオジェンは脊髄性筋萎縮症(SMA)用薬Spinraza(nusinersen)の用量追加を欧米で承認申請し受理されたと発表した。16~17年に欧米で承認された時の用量用法は12mgを導入期は第0日、14日、28日、58日に、その後の維持期は4ヶ月毎に、髄腔内注射する。新用量は、導入期は50mgを第0日と14日に、維持期は28mgを4ヶ月毎に、髄腔内注射するもの。

第2/3相DEVOTE試験の薬効検証部分であるパートBで未治療の症候性乳児型SMA患者75人を新用量群と承認用量群に2対1割付けして6ヶ月治療し、CHOP-INTEND(Children's Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders)を観察したところ、新用量群は外部対照群(Spinrazaの承認のエビデンスとなったENDEAR試験のシャム群のうち、適合性のある症例を抜粋)を有意に上回った。承認用量群と比べても上回るトレンドがあったとのこと。深刻有害事象の発生率は60%、承認用量群は72%だった。ENDEAR試験でもシャム群のほうが発生率が高く、薬の効果が有害事象データに紛れ込んでいるのだろう。

承認用量を有意に上回らなかった点は気にかかるが、難病なので、他の評価項目で有益性が見られるならば、そして、薬物関連深刻有害事象が大きく増加しないならば、承認の可能性がるかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


黒色腫における第2のウイルス療法を承認申請
(2025年1月21日発表)

米国メリーランド州のウイルス療法開発会社、Replimune Group(Nasdaq:REPL)は、RP1(vusolimogene oderparepvec)の承認申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は7月22日。成人の抗PD-1薬による治療歴を持つ進行黒色腫にOpdivo(nivolumab)と併用することを加速承認するよう求めている。

第2相IGNYTE試験で抗PD-1抗体による治療に応答しなかった患者140人に2週毎8回投与し、Opdivoは二回目から2週毎に最大29回投与したところ、ORR(客観的反応率、RECIST 1.1 に基づく独立中央評価)が32.9%、メジアン反応持続期間は35ヶ月超だった。G4有害事象はリパーゼ上昇、肝臓酵素上昇、ビリルビン上昇、サイトカイン放出症候群、心筋炎、肝サイトーシス、脾臓破裂などでG5(致死的)は発生しなかった。

市販後薬効確認を企図する第3相IGNYTE-3試験は12歳以上の抗PD-1抗体歴、かつ抗CTLA-4抗体の治療歴/不適の切除不能ステージIIIb/IV皮膚黒色腫におけるOpdivo併用効果を医師が選んだ薬(BMSのOpdualag(nivolumabとrelatlimab)など)と比較している。29年に結果が判明する見込み。

RP1はHSV(単純ヘルペスウイルス)-1にGALV-GP R-(テナガザル白血病ウイルスのエンベローブ糖蛋白のR-モジュレータ)とGM-CSFの遺伝子を組入れて殺腫瘍性や免疫刺激性を増強したウイルス療法。類薬はHSV-1にGM-CSFの遺伝子を組入れたアムジェンのImlygic(talimogene laherparepvec)が15年に摘出術後に再発した切除不能黒色腫のモノセラピーとして承認されている。Imlygicも切除不能黒色腫のフロントライン治療にKeytruda(pembrolizumab)と併用する第3相が実施されたが、全生存期間のKeytruda比ハザードレシオが0.96とフェールした。

リンク: Replimuneのプレスリリース

【承認審査・委員会】


バース症候群用薬の承認審査が長引く
(2025年1月23日発表)

米国メリーランド州の医薬品開発会社、Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は、米国でelamipretideをバース症候群用薬として承認申請しているが、審査期限が1月29日から4月29日に延期された。10月の心臓腎臓薬諮問委員会では10人が薬効を認めたが6人は否認と意見が分かれたが、その後にFDAの求めに応じて追加情報を提出したことが主要な変更と見なされた。まあ、一筋縄で承認されると思っていた人は少ないだろう。

バース症候群はX染色体上の遺伝子の変異によりミトコンドリア障害を起こし、心不全や不整脈、敗血症、運動障害などをもたらす。男子100万人に一人の希少疾患。12歳以上の患者12人を組入れて40mgを一日一回、皮下注したクロスオーバー試験で6分歩行テストや疲労評価尺度が偽薬比有意に改善しなかった。FDAは追加試験を求めたが、患者支援団体が4000人を超える署名を集めて請願したことなどを受けて、21年に承認申請を断行。この時は受理されなかったが、24年に再度申請し、やっと受理された。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


造血幹細胞移植の前処理薬が承認
(2025年1月22日発表)

カナダのMedexus Pharmaceuticals(TSX:MDP)は、FDAがGrafapex(treosulfan)を1歳以上の急性骨髄性白血病または骨髄異形成症候群の患者に同種造血幹細胞移植を施行する際の前処理薬として承認したと発表した。fludarabineと併用する。busulfanとfludarabineを併用する標準的レジメンと比較したMC-FludT.14/L Trial II試験で2年無イベント生存率が64%対50.4%、ハザードレシオ0.65となり、非劣性解析が成功、優越性解析も成功した。2年生存率は87.5%対69.0%、深刻有害事象の発生率は8%対7%だった。上期中にロンチする考え。

Medexusはmedac GmbHから米国における独占商業化権を取得した。EUでは19年にTrecondi名で承認されている。

リンク: Medexus社のプレスリリース


JNJ、抗鬱剤Spravatoのモノセラピーが承認
(2025年1月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、FDAがSpravato(esketamine)を成人の2剤以上の経口抗鬱剤に十分応答しない鬱病に単剤投与することを承認したと発表した。NMDA受容体拮抗剤ケタミンのS異性体の点鼻用薬で、19年に欧米で抗鬱剤に追加投与する用法で承認され、20~21年には自殺思慮・行動を示すような成人鬱病に追加投与することも承認されている。

今回のエビデンスとなる試験では、プレスリリースによると、寛解率(第4週にMADRSトータル・スコアが12以下になった患者の比率)が22.5%と偽薬群の7.6%を上回った。American Society of Psychopharmacologyで学会発表されたようだが参照できなかった。この試験では2種類の用量がテストされたが、上記数値がどの群なのか、2群プールなのか、分からない。

レーベルによると、この試験の主評価項目は4週後のMADRSトータル・スコアの変化で、ベースライン値の37が56mg群は偽薬比5.1点低下、84mg群は6.8点低下した。上記数値は記載されていない。24年11月にNEI会議で発表されたポスターによると、偽薬群は7点低下に留まったのに対して56mg群は12.7点、84mg群は13.9点低下した。また、寛解率(第4週にMADRSトータル・スコアが10以下になった患者の比率)は偽薬群が6.5%、56mg群は14.6%、84mg群は21.3%だった。上記数値は記されていない。規制緩和によりレーベルに記載されていない効能を宣伝することも不可能ではなくなったため、知らないデータを見る機会が増えた。

麻薬取締法上の管理物質(CIII)。鎮静や解離感覚、乱用誤用リスク、自殺リスク(クラス・ウォーニング)などが枠付き警告されており、REMS(リスク評価管理戦略)に基づく処方流通規制が導入されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAもフルオロウラシルにおけるDPD欠損問題に注意喚起
(2025年1月24日発表)

FDAは、fluorouracilとそのプロドラッグであるcapecitabineについて、投与開始前にDPD(ジヒドロピリミジン・デヒドロゲナーゼ)欠損検査を推奨するレーベル改訂を行ったことを注意喚起した。この異化代謝酵素を欠乏する患者は致死的なこともある深刻な有害事象(粘膜炎、下痢、好中球減少症、神経毒性など)のリスクが高まるため。完全欠損型に投与することは推奨されない。部分欠損型に対する至適用量はデータ不足で明らかではない。

EMA(欧州薬品庁)も2020年にDPD欠損検査を行うよう推奨した。カフカス人種の0.5%がDPDを完全欠損、最大9%が部分欠損と推定されている。アフリカ系アメリカ人の頻度はもっと高いようだ。他の人種は不明とのこと。日本のゼローダの添付文書にも臨床使用に基づく情報として言及されているが、ごく稀であるためか、投与の適否には触れていない。

リンク: FDAのプレスリリース


FDA、多発性硬化症用薬のアナフィラキシー・リスクを枠付き警告
(2025年1月22日発表)

FDAは、テバの再発型多発性硬化症用薬Copaxone(glatiramer acetate)とサンドのGE薬であるGlatopaのレーベルを改訂し、アナフィラキシー・リスクに関する枠付き警告を追加したと発表した。96年12月から24年5月までに82件の深刻なアナフィラキシー症例がFAERS(FDAの有害事象報告システム)に届出されている。このうち19例は投与開始後1年以上経ってから発生した。多くは注射後1時間以内に発生する。51人が入院し、うち13人はICUに入室、6人は死亡した。注射薬に発赤や疼痛は付き物だが、多くの場合30分以内に解消するので、痛みが強い、またはだんだん悪化する、あるいは時間が経っても改善しないような場合は、速やかに入院/ER入室/救急ダイアルするよう呼びかけた。

FAERSに届出される有害事象例は氷山の一角と言われているが、発生率の母数になりうる治療を受けた延べ人数は300万人年と多いので、ごく稀だ。

EUでも市販後有害事象報告を検討するPRACが昨年7月に同様な発表を行っている。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)
25/2/8大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25/2/14Bavarian NordicのCHIKV VLP(チクングニア熱ワクチン)
25/2/17小野薬品のvimseltinib(腱滑膜巨細胞腫)
25/2/28SpringWorks Therapeuticsのmirdametinib(神経線維腫症1型)
25年3月推アッヴィのABBV-399(telisotuzumab vedotin、cMET陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌)
25/3/18Neurotech PharmaceuticalsのNT-501(revakinagene taroretcel、黄斑部毛細血管拡張症2型)
25/3/20Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫1L併用)
25/3/23Alnylam社のAmvuttra(vutrisiran、ATTR-CM追加)
25/3/26GSKのGSK2140944(gepotidacin、女性の非複雑尿路感染症)
25/3/27Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍)
25/3/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリ症候群)
25/3/28Mirum PharmaceuticalsのChenodal(chenodiol、脳腱黄色腫症)
諮問委員会
25/2/5DSRMAC/ADPAC:オピオイド過剰摂取に関する疫学研究成果について
25/2/24CRDAC:ノバルティスのFabhalta(C3腎症適応拡大)



今週は以上です。

2025年1月18日

第1190回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 緑内障のニコチンアミド治療に学会が見解表明 
  • セマグルチドの3倍量試験が成功 
  • ベーリンガー、イクレペルチンの第3相三本がフェール 
  • her2結合リステリア菌ワクチンを加速承認申請へ 
  • 経口IGF-1R阻害剤の甲状腺眼症試験が成功 
  • リブタヨのCSCC術後付随療法試験が成功 
  • JNJ、TAR-200の承認申請に着手 
  • Atara社、第3者の製造問題で承認取得が先送り 
  • ダトロウェイが米国でも承認 
  • カルケンスが未治療MCLに適応拡大 
  • ルマケラスがKRAS G12C変異転移CRCに適応拡大 
  • オンボーがクローン病に適応拡大 
  • PRAC、semaglutideのNAIONリスクを検討開始 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


緑内障のニコチンアミド治療に学会が見解表明
(2025年1月10日発表)

緑内障治療におけるニコチンアミド経口剤の有効性を示唆する臨床・前臨床論文が複数、刊行され話題になる中、AGA(米国緑内障学会議)とAAO(米国眼科学会)が共同で見解を表明した。臨床的便益が未確認であることや、3g/日以上を投与した試験で薬物誘導性肝障害のリスクが見られたことから、臨床試験で一日3g未満を投与し定期検査する場合などに限定するよう勧告した。

ニコチンアミドはビタミンB3の一種。疾病モデルマウスの試験で緑内障の発症を9割抑制し、ピルビン酸カルシウムと併用した小規模な試験で視野改善効果が見られたことなどが報告され、サプルメント好きなアメリカ人大衆の注目も集めているようだ。

しかし、共同声明によると、これまでの臨床試験で投与を受けた300人超のうち2人で薬物誘導性肝障害が発見された。一人はアメリカのカフカス系女性、もう一人はシンガポールの中国系女性で、肝臓病やリスク因子は持っていなかった。どちらも一日3g投与例だった。

両学会は、3g/日以上の摂取は臨床試験以外では推奨しない、3g未満の試験を行う場合もプライマリーケア医と連携して定期的に肝機能検査を行うべき、肝臓病(既往を含む)は接種してはいけない、等を勧告した。ニコチンアミドの代わりにナイアシンを用いないよう強力推奨した(同じビタミンB3だが薬物誘導性肝障害リスクが確認されている)。一般大衆に対しては、ニコチンアミド摂取中に症状が見られたら重症度に関わらず直ちにプライマリーケア医や緊急治療室に連絡するよう勧告した。

リンク: AGS-AAOポジション・ステートメント(Ophthalmology Glaucoma掲載予定稿)

【新薬開発】


セマグルチドの3倍量試験が成功
(2025年1月17日発表)

ノボ ノルディスクはsemaglutideの高量試験の結果を発表した。承認されている最大用量より体重減少効果が高そうだが、偽薬対照試験のようなので、上回ると宣伝できるのか良く分からない。投与中止例も含む数値と比べて見劣りするので、忍容性もそれなりに悪化した可能性がある。二型糖尿病の高量試験も進行中。もし承認されるようならイーライリリーの競合薬、Zepbound(tirzepatide)との効果の差をある程度埋めることができるだろう。

この後期第3相STEP UP肥満試験は成人の肥満症患者1407人を7.2mg群、偽薬群、または2.4mg群に無作為化割付けて週一回皮下注を生活習慣介入療法と共に72週間施行し、体重減少効果を比較した。主目的である7.2mgと偽薬群のTrial Product estimandベースの体重減少率(ベースラインは113kg)は各群20.7%と2.4%となり、有意な差があった。承認最大用量である2.4mg群は17.5%低下した。25%減量奏効率は夫々33.2%、0%、16.7%だった。

一方、FDAが重視するTreatment Policy estimandベースの解析は、体重減が各群18.7%、3.9%、15.6%減だった。こちらの解析手法は、被験者が投与を止めたり承認されている薬にスイッチしたりした後のデータも対象としており、現実の医療で期待できる便益により近い情報が得られる。途中で止めてしまったら体重は元に戻るだろうから、結局、患者には副作用しか与えなかったことになるからだ。スイッチした薬のデータが反映されてしまうが、例えば、もしスイッチしなかった症例と同じ成果が上がったとした場合、初めからそちらの薬を使えばよかったという話になる。

イーライリリーはZepboundとWegovy(体重管理用semaglutideの米国におけるブランド名)の直接比較試験、SURMOUNT-5の結果を昨年12月に発表している。72週間の体重減が20.2%とWegovy群の13.7%を有意に上回った。このデータはTreatment-Regimen estimand(同社はこう呼ぶ)ベースなのでSTEP UP試験の対応するデータは18.7%と15.6%となる。群間差は6.5%対3.1%なのでZepboundはWegovyの7.2mgと比べて見栄えしないが、直接比較ではないことやSTEP UPは用量群間比較試験ではないことなどから、あくまで、見栄えがしないだけである。また、両試験とも、もう一つの重要な指標である忍容性のデータが未だ公表されていない。

リンク: ノボのプレスリリース


ベーリンガー、イクレペルチンの第3相三本がフェール
(2025年1月16日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、BI 425809(iclepertin)の第3相CONNEXシリーズ試験が三本ともフェールしたと発表した。統合失調症における認知機能障害を改善する効果を偽薬と比較したが、主目的(Measurement and Treatment Research to Improve Cognition in Schizophrenia Consensus Cognitive Battery)も、副次的評価項目も、有意差がなかった。開発中止になるのではないだろうか。

GlyT1(glycine transporter type 1)を阻害する経口剤。NMDA受容体のコ・アゴニストであるグリシンの輸送体を阻害して濃度低下を防ぐ。第2相試験で10mg群と20mg群が良さそうな成績を上げたが再現されなかった。第2相は12週間投与したが第3相は10mgだけ設定し26週間投与した。

リンク: 同社のプレスリリース

her2結合リステリア菌ワクチンを加速承認申請へ
(2025年1月15日発表)

米国ニューヨーク州のOS Therapies(NYSE-A:OSTX)は、OST-HER2の後期第2相骨肉腫治療試験で主目的を達成したと発表した。FDAに加速承認を申請する考え。

弱毒化リステリア・モノサイトゲネス菌にher2の3種類のエピトープを融合したワクチン。18年にAdvaxis社(23年にAyala Pharmaceuticalsと合併し社名変更)からライセンスしたもの。今回の試験は12~39歳の難治骨肉腫で切除後に肺にだけ転移した患者39人を組入れて3週毎16回静注し、1年EFS(無再発イベント生存期間)率を他の臨床試験のデータと比較した。結果は、33%(39人中13人)対20%となり、p=0.0158だった。尚、女性19人では47%だったが男性20人は20%に留まった。副次的評価項目の3年生存率は未判明だが1年時点(91%対80%)や2年時点(61%対40%)では好ましい方向で推移している。

一本の試験でp=0.0158という成績では承認を取得するのは難しいので、希少難病であることをアピールすることになりそうだ。良く分からないのは対照群で、プレスリリースで引用されている下記論文は7本の研究者主導第2相試験の後顧的分析、EFSの出所と目されるAOST0221試験は今回と類似した患者が対象だが組入れたのは04~08年と古く、吸入用sargramostimのフェールした単群試験なので、自然歴でも偽薬群でもない。

リンク: OS社のプレスリリース
リンク: Lagmayらのポストホック解析論文抄録(J Clin Oncol 2016)


経口IGF-1R阻害剤の甲状腺眼症試験が成功
(2025年1月14日発表)

米国ミシガン州の未上場バイオ企業、Sling Therapeuticsは、J.P. Morganのヘルスケア・カンファレンスで、linsitinibの後期第2相/第3相甲状腺眼症(TED)試験で高用量群が主目的を達成したと発表した。年内にもう一本、第3相を開始する予定。既存薬と比べて特に効果が高いようには見えないが、経口剤であることや、半減期が短く忍容性に優れる可能性があることが注目点。

TEDにおける炎症や眼球突出に関わるIGF-1Rを阻害する経口剤。アステラス/OSIが腫瘍領域で開発してきたASP-7487/OSI-906をライセンスした。今回のLIDS試験は診断から12ヶ月以内の活動期で手術や放射線療法歴を持たず急ぎ施行する必要もない患者90人を偽薬群、75mg群、150mg群に無作為化割付けして一日二回、24週間経口投与し、突出応答率(突出が2mm以上、減少した患者の比率)を比較した。結果は各群19%、39%、52%となり、150mg群は偽薬を有意に上回った(p=0.01)。小分子薬の試験が成功したのは初。

眼球突出はTEDの主症状。各群の平均ベースライン値に1~2mmの偏りがあることが気にかかる。

治療時発現有害事象(可能例を含む)の発生率は各群29%、43%、55%、治療時発現有害事象による投与中止率は6%、16%、31%、深刻有害事象の発生率は3%、ゼロ、7%だった。肝機能検査値異常が見られたが可逆的で総ビリルビンの上昇を伴なってはいなかった。

IGF-1R阻害に付随することが多い有害事象に関しては、難聴、耳鳴り、高血糖、生理周期異常の何れも偽薬群と大差なかった。QT延長も発生しなかった。尤も、一群30人程度のデータなので、もっと大規模な試験で確認が必要だろう。

TEDではHorizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)のTepezza(teprotumumab-trbw)が20年に米国で、24年には日本でも、TED治療薬として承認された。第3相で突出応答率は83%(偽薬群は10%)だった。承認段階で既知の副作用だったが、23年に改めて米国のレーベルに、聴力低下の警告・事前注意が追加された。

リンク: Sling社のプレスリリース
リンク: Sling社のプレゼン資料


リブタヨのCSCC術後付随療法試験が成功
(2025年1月13日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は抗PD-1抗体Libtayo(cemiplimab-rwlc)の第3相皮膚扁平上皮腫(CSCC)術後アジュバント試験、C-POSTが中間解析で主目的を達成したと発表した。今上期中に米国などで適応拡大申請する考え。

この試験は、摘出術と術後放射線療法を終えたが再発リスクの高い415人を組入れて、当初は3週毎、12週経過後は6週毎に投与する効果を偽薬と比較した。メジアン24ヶ月追跡した最初の中間解析でDFS(無病生存期間)のハザードレシオが0.32と、臨床的にも意味のある便益が見られた。G3以上の有害事象の発生率は24%(偽薬群は14%)、有害事象による中止は10%(同1.5%)、各群2人が有害事象により死亡した。副次的評価項目の全生存期間の解析に向けて継続追跡中。

Libtayoは術前に投与した後期第2相でも病理学的完全反応率が51%(解析対象79人)と良好な成果を上げている。

他の抗PD-1抗体では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)は類似した患者群の無再発生存期間を検討したKeyNote-630試験が昨年8月に無益中止となった。

リンク: Regeneronのプレスリリース

【承認申請】


JNJ、TAR-200の承認申請に着手
(2025年1月15日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、TAR-200(膀胱内留置用gemcitabine)をBCG不応高リスク筋層非浸潤膀胱癌用薬として米国で承認申請に着手したと発表した。FDAのRTORプログラムに採用されたため、必要な資料を纏まったものから順に提出し、前倒しで審査を開始させる。

19年にTARIS Biomedicalを子会社化してパイプラインに追加した、シリコンチューブ型のデバイスを膀胱内に留置してgemcitabineを持続放出させる薬物機器複合体。エビデンスとなる第2相SunRISe-1試験の単剤投与コフォートで、完全反応率が58人中83%、1年反応持続率は75%だった(23年4月の米国泌尿器学会における発表による)。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Atara社、第3者の製造問題で承認取得が先送り
(2025年1月16日発表)

Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)はEbvallo(tabelecleucel)をEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)陽性移植後リンパ増殖性疾患用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受容した。第3者製造者におけるFDA査察で指摘事項があったことだけが主因のようだ。解決に時間がかかる可能性があるのか、同社は財務アドバイザーに戦略オプションの検討を依頼した。身売りも選択肢に含まれる。当第1四半期中にめどが立たない場合はCAR-T開発プログラムを停止し、Ebvalloも承認に向けた活動以外は開発販売権を持つピエール・ファーブルに速やかに移管する考え。承認通知と審査完了通知で正に天国と地獄だ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


ダトロウェイが米国でも承認
(2025年1月17日発表)

第一三共の抗TROP2抗体医薬複合体Datroway(datopotamab deruxtecan-dlnk)の共同開発販売パートナーであるアストラゼネカは、FDAから承認されたと発表した。成人の、ホルモン受容体陽性でher2は陰性(IHC法で0、1+、または2+且つISH法で陰性)の、切除不能または転移癌に対する内分泌療法と化学療法歴を持つ、乳癌に用いる。日本でも12月に類似した内容で承認、EUで承認審査中。

第3相TROPION-Breast01試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン6.9ヶ月と医師が選んだ化学療法(capecitabine、gemcitabine、eribulin mesylate、またはvinorelbine)を施行した群の4.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.63だった。学会発表時点では、共同主評価項目である全生存期間の解析は未成熟だが好ましいトレンドが示されているとのことだったが、レーベルにはハザードレシオ1.01、メジアン値は各群18.6ヶ月と18.3ヶ月と記されている。実薬対照試験なので悪くはないが、進行を抑制しても結局は同じことになり、見栄えが悪い。

試験薬群における間質性肺疾患/肺臓炎の発生率は4.2%、致死的症例は0.3%だった。

リンク: 同社のプレスリリース


カルケンスが未治療MCLに適応拡大
(2025年1月16日発表)

FDAはアストラゼネカのBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)を成人の自家造血幹細胞移植が適応にならない未治療のマントル細胞腫(MCL)にbendamustine及びrituximabと併用することを承認した。 65歳以上の患者を組入れた第3相ECHO試験でPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)がメジアン66.4ヶ月と、上記二剤に偽薬を併用した群の49.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、p=0.016だった、深刻有害事象の発生率は69%、致死的有害事象(最終投与後30日以内に死去)の発生率は12%でCOVID-19に関連するものが6%と約半分を占めた。

Calquenceは17年にMCLの再発治療薬として加速承認されたが、上記試験の成功により、今回、本承認に切替えられた。

リンク: FDAのプレスリリース


ルマケラスがKRAS G12C変異転移CRCに適応拡大
(2025年1月16日発表)

FDAはアムジェンのLumakras(sotorasib)を成人のKRAS G12C変異陽性転移結腸直腸癌に適応拡大した。fluoropyrimidine、oxaliplatin、そしてirinotecanを含む化学療法歴を持つ患者に、同社の抗EGFR抗体Vectibix(panitumumab)と併用で、960mgを一日一回、経口投与する。第3相CodeBreak 300試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン5.6ヶ月と、医師が選んだ薬(trifluridineとtipiracilの併用、またはregorafenib)を投与した群の2.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.49だった。尚、240mgの低量をテストした群も偽薬比ハザードレシオ0.49で統計的に有意だったはずだが、最終解析はフェールしたようだ。また、全生存期間の延長効果は検出力不足により確認されていない。

G12C変異は結腸直腸癌の3~5%で見られる。Lumakrasはこの変異を標的とする阻害剤。

リンク: FDAのプレスリリース


オンボーがクローン病に適応拡大
(2025年1月15日発表)

イーライリリーは、Omvoh(mirikizumab-mrkz)が米国で成人の中重度活性期クローン病に適応拡大したことを発表した。抗IL-23p19サブユニット抗体で23年に日欧米で中重度活性期潰瘍性大腸炎に初承認された。クローン病におけるエビデンスはステロイドと免疫調停薬に十分応答しなかった患者を組入れたVIVID-1試験で、1年後のCDAI症状寛解率が53%と偽薬群の36%を有意に上回り、共同主評価項目の1年内視鏡的応答率の解析も46%対23%となり成功した。尚、偽薬群は12週時点で応答が見られなかった場合は試験薬にスイッチするプロトコルとなっており、実際に40%がスイッチしたため、偽薬群のデータは誇張されている。

23年10月に同社が発表した共同主評価項目の定義と数値はレーベル記載値と異なり、CDAI寛解率が45.4%(偽薬群は19.6%)、内視鏡的応答率は38.0%(同9%)となっている。この違いは、おそらく、イーライリリーがEfficacy Estimandという試験薬だけの違いを評価する手法を重視し、12週時点で応答が見られず試験薬にスイッチした患者を除外して解析したのに対して、FDAがTreatment Policy Estimandを重視して二次治療に進んだ患者のデータも反映させたからだろう。イーライリリーは糖尿病薬の試験成績に関しては両方のアプローチによるデータを公表しているが、当試験では在来薬ではなく試験薬にクロスオーバーしたので、23年10月時点では製薬会社が好むアプローチの数値だけを発表したのだろう。

もし会社発表値だけが主評価項目であったとすれば、レーベル記載値は後顧的主評価項目ということになるのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 同(クローン病試験の結果について、23年10月12日付)

【医薬品の安全性】


PRAC、semaglutideのNAIONリスクを検討開始
(2025年1月17日発表)

EUの薬品承認機関EMAにおけるファーマコビジランス委員会、PRACは、ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤semaglutideについて、NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)のリスクに関する検討を開始したと発表した。既報の通り、デンマーク薬品庁が12月に検討要請した。デンマークやノルウェー、ハーバード大学などの後顧的研究でリスクが2~7倍と推定された。デンマーク薬品庁によると24年7-12月の報告件数は19件とのことなので、未報告例もあるだろうが、頻度は高くなさそうだ。

リンク: PRACのプレスリリース(関連論文のリンクあり)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)
25/2/8大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25/2/14Bavarian NordicのCHIKV VLP(チクングニア熱ワクチン)
25/2/17小野薬品のvimseltinib(腱滑膜巨細胞腫)
25/2/28SpringWorks Therapeuticsのmirdametinib(神経線維腫症1型)
諮問委員会
25/2/5DSRMAC/ADPAC:オピオイド過剰摂取に関する疫学研究成果について
25/2/24CRDAC:ノバルティスのFabhalta(C3腎症適応拡大)



今週は以上です。

2025年1月11日

第1189回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ファイザー、抗PD-1抗体のNMIBC試験が成功 
  • 老視治療用合剤の第3相が成功 
  • サークリサの皮下注用を承認申請へ 
  • バイエル、NK1/3受容体拮抗剤の内分泌療法誘導性VMS試験が成功 
  • マイクロバイオーム療法のaGvHD試験が成功 
  • ベスレミの血小板血症適応拡大試験が成功 
  • JNJ、抗EGFRxMET抗体とEGFR阻害剤の第3相で全生存の解析も成功 
  • 二種類のeIF2BアクティベータのALS試験がフェール 
  • シングリックスのプレフィルドシリンジを承認申請 
  • モデルナ、次世代COVID-19ワクチンを承認申請 
  • JNJの全身性筋無力症用薬が優先審査指定 
  • メンケス病用薬を承認申請 
  • HAEのアンチセンス薬を欧州でも承認申請 
  • RSVワクチンの警告・事前注意事項にギラン・バレー症候群が追加 
  • ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬の警告・事前注意事項に肝障害が追加 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


ファイザー、抗PD-1抗体のNMIBC試験が成功
(2025年1月10日発表)

ファイザーは、PF-06801591(sasanlimab)の第3相筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)BCG併用試験で主目的を達成したと発表した。承認申請に向かうのではないか。

PD-1を標的とするIgG4型抗体医薬で、2006年にジェネンテックのスピンアウトであるRinat Neuroscienceを買収した時に入手したパイプラインのようだ。分子量14.9kDa。類薬が多いせいか第3相治療試験は今回の、欧米中日などの施設が参加したCREST試験だけのようだ。パートAは摘出術を受けたが高リスクでBCG治療歴のない患者をsasanlimab(300mgを4週毎皮下注)・BCG併用群、BCG群、BCG短期コース群(週一回、25週でなく6週のみ)の3群に無作為化割付けした。主評価項目は併用群とBCG群のEFS(癌の進行や死亡などのイベント、治験医評価)。数値は発表されていない。この用途の第3相が成功したのは抗PD-(L)1抗体で初めて。

尚、本試験はBCG不応患者に単剤投与するパートBも設定されていたが、20~21年にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が米欧で適応拡大した余波なのか、22年8月に、安全性問題ではない理由によるとして、打ち切られた。

リンク: ファイザーのプレスリリース


老視治療用合剤の第3相が成功
(2025年1月9日発表)

英国ロンドン籍のTenpoint Therapeuticsは、Brimochol PF(brimonidine tartrate、carbachol)の二本目の第3相老視治療試験で主目的などを達成したと発表した。25年上期に承認申請する予定。

緑内障治療に用いられているアルファ2受容体作動薬とニコチン/ムスカリン・アセチルコリン受容体作動剤の固定用量合剤で、一日一回点眼する。一本目のBRIO-I試験は米国の施設で182人を組入れて奏効率(両眼近見視力が15字以上改善し遠見視力は5字以上悪化しない)を夫々の配合成分だけを投与する群と比較したところ、有意な差があった(brimonidine比でp=0.039、carbachol比は0.006)。今回のBRIO-IIは米国の施設で629人を組入れて奏効率をcarbachol群や偽薬群と比較した(数値は未公表)。

一本目のbrimonidine比p値はそれほど低くない。二本目では評価されていないのでリスク因子になりうる。また、どちらも奏効率の実数は公表されていない。二本目は23年下期に開票する予定だったが1年以上遅れた。未上場企業のためか情報が限られており、不透明感が残る。

先月、シアトルのVisus Therapeuticsを吸収合併して入手した開発品。

リンク: 同社のプレスリリース(Business Wire)


サークリサの皮下注用を承認申請へ
(2025年1月9日発表)

サノフィは抗CD38抗体Sarclisa(isatuximab-irfc)の皮下注用新製剤の第3相で主目的を達成したと発表した。難治/再発性多発骨髄腫患者531人を組入れて、pomalidomideとdexamethasoneに皮下注用を併用する群と従来の静注用を併用する群のORR(客観的反応率)と定常状態最低血中濃度を比較したところ、非劣性だった。

米国オハイオ州のEnable Injections社のenFuseハンドフリーOBDS(on-body delivery system)システムを採用している。

類薬であるジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab、hyaluronidase-fihj)は21年に皮下注用のDarzalex Faspro/ダラキューロ配合が承認されており、5年程度の遅れになる。

リンク: サノフィのプレスリリース


バイエル、NK1/3受容体拮抗剤の内分泌療法誘導性VMS試験が成功
(2025年1月9日発表)

バイエルはelinzanetantの第3相OASIS 4試験で主目的などを達成したと発表した。欧州などの施設(米国は参加せず)で乳癌のアジュバント内分泌療法によりVMS(血管運動症状;紅潮)を発症した患者474人を組入れて、第4週と第12週における中重度症状を偽薬と比較したところ、有意に改善した。数値は未発表。52週間継続追跡した安全性評価も良好だった模様。

NK1とNK3の受容体を拮抗する経口剤。閉経後VMSの治療用途で昨年8月に米国で承認申請された。23年承認のアステラスのNK-3受容体拮抗剤Veozah(fezolinetant)より2年以上遅れたが、今回の用途では先行している。

リンク: バイエルのプレスリリース


マイクロバイオーム療法のaGvHD試験が成功
(2025年1月8日発表)

フランスのMaaT Pharma (EURONEXT:MAAT)は、MaaT013の第3相GI-aGvHD(胃腸症状を伴う急性移植片対宿主病)3次治療試験で主目的を達成したと発表した。25年央に欧州で承認申請する予定。米国でも年内に第3相試験を開始する考えだ。

MaaT013は複数の健常者から採取した多様な微生物を含む浣腸用のマイクロバイオーム療法で、同社はMET(マイクロバイオーム・エコシステム・セラピー)と呼んでいる。今回のARES試験は独仏など欧州の50施設でステロイドとruxolitinibに不応不耐の成人患者66人全員に投与した。主評価項目の28日GI-ORR(胃腸全般的応答率、独立評価委員会方式)は62%(完全反応率は38%、VGPR(最良部分応答)率は20%)だった。胃腸以外における効果も見られた模様で、全臓器完全反応率36%、VGPR率18%だった(但し、具体的な評価基準は記されていない)。12ヶ月生存率の推定値は54%で、応答した患者では67%、不応例では28%だった。感染症リスクは高まらなかった。

前期第2相のHERACLES試験では24人のGI-ORR率が38%で、完全反応率は21%、VGFR率は8%、部分反応は8%だった。今回はだいぶ上向いたことになる。

米加欧州ではGI-aGvHDの三次治療患者が年3000人と推定されている。1年生存率は15%とのこと。

リンク: 同社のプレスリリース


ベスレミの血小板血症適応拡大試験が成功
(2025年1月7日発表)

ファーマエッセンシアはBesremi(ropeginterferonalfa-2b-njft)の第3相本態性血小板血症2次治療試験で実薬を凌ぐ効果を示したと発表した。PEG化インターフェロン・アルファ製剤で、欧米日で真性赤血球増加症(真性多血症)用薬として承認されているが、適応拡大申請に向かう考え。

今回のSURPASS-ET試験は174人の患者を組入れて12ヶ月間治療し、持続的応答率(modified European Leukemia Net基準、第9月と12月の二回とも応答)をanagrelide(シャイアのアグリリンの活性成分)と比較したところ、42.9%対6%で大きな差があった。治療関連深刻有害事象の発生率は2.2%対10%で下回った。

リンク: 同社のプレスリリース(Business Wire)


JNJ、抗EGFRxMET抗体とEGFR阻害剤の第3相で全生存の解析も成功
(2025年1月7日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンの抗EGFRxMET二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab-vmjw)とEGFR阻害剤Lazcluze(lazertinib)の併用療法はEGFRにエクソン19に欠損またはエクソン21にL858置換のある局所進行/転移非小細胞性肺癌のフロントライン試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がアストラゼネカのTagrisso(osimertinib)を有意に上回り、24年8月に米国で、12月にはEUでも承認され、日本でも申請中だが、この試験の副次的評価項目である全生存期間の解析も成功した。統計的に有意かつ臨床的に意味のある差が見られた模様で、データは学会で発表される。

Tagrissoも同様な化学療法併用試験がPFS延長効果が確認され、昨年2月に米国で、7月にはEUでも適応拡大した。どちらも対照薬はTagrissoで、PFSを比べるとRybrevant・Lazcluze併用はハザードレシオ0.70、メジアン値は23.7ヶ月対16.6ヶ月、Tagrisso・pemetrexed・白金薬併用はハザードレシオ0.62、メジアン29.4ヶ月対19.9ヶ月だった。Tagrisso群の数値が3ヶ月違うので患者背景が異なる可能性があり、まあまあ同程度と考えておけばよいだろう。

一方、アストラゼネカのコンボは41%成熟時の第2次中間でハザードレシオ0.75(95%信頼区間0.57-0.97)と良さそうな成績を上げたが、副次的評価項目の成功判定基準はまだ満たしていないとのことだった。

リンク: JNJのプレスリリース


二種類のeIF2BアクティベータのALS試験がフェール
(2025年1月6日発表)

Massachusetts General HospitalのSean M. Healey and AMG Center for ALSは、Northeast ALS Consortiumと共に、HEALEY ALSプラットフォーム・トライアルを通じて様々なコンパウンドのALS(筋萎縮性側索硬化症)治療効果をテストしているが、なかなか良い結果が出ない。今回、二社が開発しているeIF2B(eukaryotic initiation factor 2B)アクティベータをテストしたレジメンFとレジメンGが何れも症状改善や延命に繋がらなかったことが発表され、7連敗となった。

一つはアルファベット社系バイオベンチャーであるCalico Life Sciencesがアッヴィと共同開発しているABBV-CLS-7262(fosigotifator)、もう一つはDenali Therapeutics(Nasdaq:DNLI)のDNL343。

過去の試験薬は、レジメンAがC5インヒビターzilucoplan(日米欧で抗ACgR抗体陽性重症筋無力症に承認)、Bはミエロペルオキシダーゼ阻害剤verdiperstat(バイオヘブン/アストラゼネカの開発品)、Cは金ナノクリスタル懸濁液CNM-Au8(Clene社)、DはドパミンD2スタビライザー pridopidine(Prilenia Therapeutics)、Eは静注用トリハロースSLS-005(Seelos Therapeutics)。

治療期間が24週と短く疾病装飾的薬には厳しそうだが、ALSは致死的疾患なので悠長なことは言ってられない。ホームページにはレジメンGまでしか載っていないが、挑戦を続けてほしいものだ。

リンク: Massachusetts General Hospitalのプレスリリース(fosigotifator)
リンク: 同(DNL343)

【承認申請】


シングリックスのプレフィルドシリンジを承認申請
(2025年1月10日発表)

GSKは帯状疱疹ワクチンShingrixのプレフィルドシリンジ版をFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は6月20日。17~18年に米日欧で承認された現行の製品は接種前に抗原製剤を専用液で溶解する必要がある。

リンク: GSKのプレスリリース


モデルナ、次世代COVID-19ワクチンを承認申請
(2025年1月6日発表)

モデルナは、mRNA-1283.222を米国で承認申請していたことを株主向け書簡で公表した。次世代型のmRNAワクチンで、23年に実施したBA.4/5株対応ワクチンの第3相試験でBA.4/5株や野生株に対する免疫応答が22/23年の予防接種に採用されたBA.4/5株対応Spikevax(mRNA-1273.222)と非劣性だった。優先審査バウチャを用いて優先審査指定を獲得、審査期限は5月31日となった。

SARS-CoV-2のスパイク蛋白のうち、受容体結合ドメインとN端末ドメインだけを発現させるもの。冷蔵保存が可能になりそうで、有効期限も伸びそうだ。混合ワクチンもデザインしやすくなり、同社はCOVID-19とインフルエンザの混合ワクチン、mRNA-1083も25年に承認申請する計画だ。

リンク: 株主向け書簡


JNJの全身性筋無力症用薬が優先審査指定
(2025年1月9日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは8月に米国で、9月にはEUでも、胎児性FcRを標的とするアグリコシル化抗体、JNJ-80202135(nipocalimab)を成人の全身性筋無力症(gMG)用薬として承認申請したことを発表しているが、今回、米国で優先審査指定を受けたと発表した。通常は承認申請から60日以内にFDAから受理や優先審査指定の通知を受けるが、今頃になったのは受理が遅れたのか、それとも、指定の適否について見解の相違があったのだろうか?

第3相Vivacity-MG3試験で標準療法に十分応答しない成人の中重度gMG患者に2週毎点滴静注したところ、主評価項目であるAChR、MuSK、またはLRP4に対する抗体を持つ患者におけるMG-ADL(症状評価尺度)の改善が偽薬群を有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 同(承認申請発表、24年8月29日付)


メンケス病用薬を承認申請
(2025年1月6日発表)

インドのZydus Lifesciencesの子会社であるSentynl Therapeuticsは、CUTX-101(copper histidinate)を米国でメンケス病用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月30日。

メンケス病は銅輸送ATPaseの一つであるATP7AのX染色体性劣性遺伝子疾患で、罹患率は新生男児1~4万人に一人と推定されている。食物中の銅が吸収されず重度中枢神経障害などが出現する。Nationwide Children's Hospitalで実施された単群試験二本で、1450mcgを12ヶ月児到達までは一日二回、その後は一回、皮下注したところ、生後4週以内(早産児は修正後)に投与を開始した31人ではメジアン生存期間が177ヶ月と自然歴対照群の16ヶ月を大きく上回り、4週以降に開始した35人も62ヶ月と自然歴対照群の17ヶ月を有意に上回った。有害事象は肺炎、痙攣、脱水など。

23年にFortress Biotech(Nasdaq:FBIO)の子会社のCyprium Therapeuticsから資産を買収したもの。Cyprium社は21年にローリング承認申請開始を発表しており、22年に完了するはずだったが、この4年間に何があったのだろう?

リンク: Sentynl社のプレスリリース


HAEのアンチセンス薬を欧州でも承認申請
(2025年1月6日発表)

大塚製薬はdonidalorsenを12歳以上の遺伝性血管浮腫(HAE)の再発予防薬としてEMA(欧州薬品庁)に承認申請したと発表した。HAE発作を誘導するPKK(prekallikrein)の遺伝子翻訳を抑制するアンチセンス薬で、米国ではライセンス元のIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が承認申請し11月に受理されている。

第3相のOASIS-HAE試験で81人の患者を偽薬、80mg8週毎皮下注、または80mg4週毎皮下注に無作為化割付けして25週間の発作頻度を比較したところ、各群の期間調整後発作頻度が2.26、1.02、0.44となり、8週毎投与群は偽薬比55%、4週毎投与群は81%、抑制した。主な有害事象は注射箇所紅斑や頭痛、上咽頭炎など。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


RSVワクチンの警告・事前注意事項にギラン・バレー症候群が追加
(2025年1月7日発表)

FDAは、ファイザーのAbrysvoとGSKのArexvyの警告・事前注意事項としてギラン・バレー症候群が追加されたことを発表した。第3相試験に続いて、市販後にもごく稀だが報告されたため。ワクチンとの因果関係は明らかではない。

どちらもRSウイルスの宿主細胞に結合する部位の細胞融合前構造を抗原とするワクチンで、23~24年に米日欧で高齢者などのRSV予防薬として承認された。夫々の第3相試験で1~2万人に接種したところ、7日内の発症が1~2例あったため、市販後監視項目となった。FDAがメディケアのデータをもとに自己対照研究を行ったところ、接種後43-90日の期間と比べて1~42日間における超過リスクがAbrysvoは100万人当り9人、Arexvyは同7人と推定されたため、レーベル変更を要請した。

このデータは昨年10月のACIP(米国疾病予防管理センターのワクチン接種諮問委員会)でも議論されたが、帯状疱疹ワクチンのShingrixを二回接種した時のギラン・バレー症候群超過リスクは100万人当り3~6人とのことで、RSVワクチンが特に高いという訳でもなさそうだ。まあ、トランプ政権がどう解釈するかは、他の政策事案と同様に、予測不可能だが。

リンク: FDAのプレスリリース


ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬の警告・事前注意事項に肝障害が追加
(2025年1月3日発表)

米国マサチューセッツ州のAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)は、SEC(米国連邦証券取引委員会)を通じて公開した適時開示情報、8-Kで、22年に米欧でPK(ピルビン酸キナーゼ)欠乏症治療薬として承認されたPyrukynd(mitapivat)の米国におけるレーベルを改訂し、警告・事前注意事項として肝障害リスクを追加したことを明らかにした。別の疾患の臨床試験でPK欠乏症より高量を投与したところ肝障害が発生したため。対応として、最初の6ヶ月間とその後も必要に応じて肝機能検査を毎月実施し、異常値が検出されたら投与を中断または中止する。

PK欠乏症は赤血球が脾臓で補足分解され貧血や黄疸などを発症する。Pyrukyndは欠陥のあるPKに結合して安定化させる、アロステリック・アクティベータ。PK欠乏症向けの倍量を投与した第3相サラセミア試験でもヘモグロビン値や輸血依存を改善したが、301人中2人で6ヶ月以内に肝障害が発生した。この適応でも欧米で承認申請中。

リンク: 同社の8-K

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)
25/2/8大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25/2/14Bavarian NordicのCHIKV VLP(チクングニア熱ワクチン)
25/2/17小野薬品のvimseltinib(腱滑膜巨細胞腫)
25/2/28SpringWorks Therapeuticsのmirdametinib(神経線維腫症1型)
諮問委員会
25/2/5DSRMAC/ADPAC:オピオイド過剰摂取に関する疫学研究成果について
25/2/24CRDAC:ノバルティスのFabhalta(C3腎症適応拡大)




今週は以上です。

2025年1月4日

第1188回

【ニュース・ヘッドライン】

  • 公衆衛生局長官が飲酒の発癌リスクを強調 
  • NMDA受容体拮抗剤のアルツハイマー性激昂試験が成功 
  • ゾルゲンスマの髄腔内投与試験が成功 
  • オピオイド拮抗剤の鬱病試験がフェール 
  • 他家幹細胞療法を筋ジストロフィーに承認申請 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


公衆衛生局長官が飲酒の発癌リスクを強調
(2025年1月3日発表)

米国連邦公衆衛生局のマーシー長官は、アルコール飲料が癌の原因になりうることの啓蒙が足りないとして、製品ラベルに明記することなどを勧告した。AMA(米国医師会)のプレジデントも支持的声明を発表した。

アルコール摂取は、癌の回避可能な原因としてタバコと肥満に次ぐ第3位で、米国では年10万人がアルコール関連の癌を発症し、2万人が死亡と推定されている。これは、アルコール関連交通事故死13500人を上回る。あらゆるタイプのアルコール飲料がリスク要因になり、一日一杯未満でもリスクが高まるが、摂取量が増えると更に高まる。乳癌、結腸直腸癌、食道癌、肝臓癌、口腔内腫瘍、咽頭癌、喉頭癌の少なくとも7種類の癌で関連性が見られ、乳癌では16.4%がアルコール関連と推定されている。

代謝物のアセトアルデヒドがDNAに損傷を与えるなど、生理学的な影響に加えて、環境因、社会因、経済因が複雑に絡み合って作用すると考えられているようだ。

タバコの癌原性は過去半世紀間に周知が進んだが、アルコールに関しては米国人の過半が認知していないという。長官は摂取上限の設定や警告啓蒙を強化する考え。

リンク: 公衆衛生局のプレスリリース
リンク: 勧告資料のダウンロード頁
リンク: AMAプレジデントの声明

【新薬開発】


NMDA受容体拮抗剤の3本目のアルツハイマー性激昂試験が成功
(2024年12月30日発表)

Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)はAXS-05(dextromethorphanとbupropionの合剤)の第3相アルツハイマー性激昂試験二本の結果を発表した。5週間の治療効果を偽薬と比較したADVANCE-2試験(n=408)はCMAI(Cohen Mansfield Agitation Inventory)が13.8点低下したものの偽薬群も12.6点低下したため有意水準には達しなかったが、全員に試験薬を投与した後に167人を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付けして盲検下で再燃リスクを比較したACCORD-2試験はハザードレシオが0.276(p=0.001)と主目的を達成した。有害事象は眩暈など。二試験とも試験薬群で2名の転倒が発生したが薬物関連と見做されたのは合わせて1件だけだった。

治療試験は既に第2/3相のADVANCE-1試験が成功、CMAIが15.4点改善し、偽薬群の11.5点を有意に上回った。離脱試験もACCORD試験で主目的を達成しており、ハザードレシオ0.275(p=0.014)と今回と似たような成績を上げている。同社は25年下期に米国で承認申請する考え。

AXS-05は鎮咳去痰薬dextromethorphanと抗鬱剤bupropionの合剤で、NMDA受容体拮抗作用を持つ前者の作用時間を後者の2D6阻害作用で長期化し、一日二回の経口投与で足りるようにした。22年に米国で鬱病治療薬として承認された。

リンク: 同社のプレスリリース


ゾルゲンスマの髄腔内投与試験が成功
(2024年12月30日発表)

ノバルティスはOAV101 IT(onasemnogene abeparvovec)の脊髄性筋萎縮症(SMA)2型試験で主目的を達成したと発表した。データは今後発表される。承認申請に向かうのではないか。

19~20年に米日欧で承認された遺伝子療法薬Zolgensmaの新投与法。ZolgensmaはSMA1遺伝子に両アレル変異を持つ2歳未満のSMA1型に静注内投与するが、OAV101 ITは2歳以上18歳未満の静座可能だが自立歩行不能な未治療SMA2型(1型より発症が遅い)を対象に第3相STEER試験を実施した。主評価項目はHFMSE(Hammersmith Functional Motor Scale Expanded)総スコア。

SMA2型の遺伝子療法試験が成功したのは初。承認されている薬ではバイオジェンのSpinraza(nusinersen)が2-12歳の患者を組入れた第3相でHFMSEが15ヶ月後に3.9点改善、シャム(投与の振りだけ)群の1点悪化を有意に上回った。ロシュのEvrysdi(risdiplam)は2型と3型を組入れた1年間の試験で副次的評価項目のHFMSEにおける治療効果(偽薬比差分)が0.58だった。開発品ではScholar Rock(Nasdaq:SRRK)の抗体医薬SRK-015(apitegromab)が第3相で1年間の治療効果が1.8点だった。

OAV101 ITは2-5歳のSMA2型を組入れた第1/2相試験でHFMSEスコアが9ヶ月後に5.9点改善という良績を挙げたが、前臨床試験で後根神経節単核細胞の炎症が見られたため、19~21年にかけて部分的治験停止になったことがある。

Zolgensmaは18年に買収したAveXi社の開発品だが、AveXi社が実施した前臨床試験データに不正が発覚したり、論文撤回されたりして日本を含めて批判を受けたことがある。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


オピオイド拮抗剤の鬱病試験がフェール
(2025年1月2日発表)

Neumora Therapeutics(Nasdaq:NMRA)はNMRA-140(navacaprant)の3本の第3相鬱病試験のうち最初に開票したKOASTAL-1試験がフェールしたと発表した。米国の施設で383人を組入れて6週間投与したところ、試験薬群も偽薬群もMADRS(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale)が12.5点低下した。副次的評価項目のSHAPS(Snaith-Hamilton Pleasure Scale)の低下も各群5.8点と5.5点で有意差がなかった。女性211人のサブグループ解析ではMADRSの群間差が2.7点、p=0.07、SHAPSの差は2.3点、p=0.015と良好だったが男性では偽薬より見劣りした。

NMRA-140はカッパ・オピオイド受容体アンタゴニスト。抗鬱剤の第3相は一本位フェールしても大丈夫なように3本実施するのが常道で、残りの2本は米国以外の施設も参加している。

同社は買収などによりパイプラインを構築しており、本剤はBlackThorn Therapeutics買収で入手したもの。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


他家幹細胞療法を筋ジストロフィーに承認申請
(2025年1月2日発表)

米国カリフォルニア州のCapricor Therapeutics(Nasdaq:CAPR)はCAP-1002(deramiocel)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬としてFDAに承認申請したと発表した。第2相HOPE-2試験で10歳以上の歩行不能な患者20人を偽薬群と試験薬群に無作為化割付けして3ヶ月毎に4回、点滴静注したところ、上腕機能の評価尺度が偽薬比有意に改善した。LVEF(左室駆出率)も偽薬比4%改善した。但し、承認申請は偽薬群ではなく二つの医療施設から提供を受けた自然歴との比較がメインのようだ。第3相は102人を組入れて進行中

CAP-1002は第3者から採取したcardiosphere(心臓球)由来の細胞。本剤が分泌するエクソソームが炎症や線維化を抑制すると考えられている。核酸系DMD治療薬Viltepso(viltolarsen)を持つ日本新薬が米欧日などの販売権を持っている。

リンク: Capricorのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)
25/2/8大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25/2/14Bavarian NordicのCHIKV VLP(チクングニア熱ワクチン)
25/2/17小野薬品のvimseltinib(腱滑膜巨細胞腫)
25/2/28SpringWorks Therapeuticsのmirdametinib(神経線維腫症1型)
諮問委員会
25/1/10AADPAC:生化学工業のSI-6603(腰椎椎間板ヘルニアに伴う根性痛)
25/2/5DSRMAC/ADPAC:オピオイド過剰摂取に関する疫学研究成果について
25/2/24CRDAC:ノバルティスのFabhalta(C3腎症適応拡大)





今週は以上です。