2025年1月25日

第1191回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • MMWRが60年の歴史で初めて休刊 
  • MOP・NOP受容体アゴニストの最初の第3相が成功 
  • キイトルーダ・レンビマ併用試験がまたまたフェール 
  • バイオジェン、スピンラザの高用量を承認申請 
  • 黒色腫における第2のウイルス療法を承認申請 
  • バース症候群用薬の承認審査が長引く 
  • 造血幹細胞移植の前処理薬が承認 
  • JNJ、抗鬱剤Spravatoのモノセラピーが承認 
  • FDAもフルオロウラシルにおけるDPD欠損問題に注意喚起 
  • FDA、多発性硬化症用薬のアナフィラキシー・リスクを枠付き警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


MMWRが60年の歴史で初めて休刊
(2025年1月23日報道)

CDC(米国連邦疾病管理予防センター)はMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)で感染症の調査研究成果等を発表しているが、1月23日号は電子刊行されていない。トランプ新大統領が連邦政府の各種発表にブレーキをかけたことが原因のようだ。

医療ウェブ・ニュースのMedPageによると、60年の歴史を通じて初めての事態とのこと。MMWRや官報公示情報だけでなく、プレスリリースやSNS、ウェブサイトを通じた情報発信も、1月21日から2月1日までの期間、ストップするようだ。

FDAはほぼ毎日、FDA Roundupという主要な発表・活動をまとめたニューズ・リリースを出しているが、1月17日を最後に止まっている。一方で、MedWatch(有害事象情報サイト)では後記のように二件のリリースを行っている。1月21日と22日にはメーカー側が新薬や適応拡大の承認を発表しており、重要性に応じて例外も認められているのだろう(今後、影響が本格化するのかもしれないが)。

民主党と共和党の間の政権交代はバタバタするのが常だが、今回は波風がたくさん立ちそうだ。

リンク: MedPageの報道
リンク: MMWR掲載ページ

【新薬開発】


MOP・NOP受容体アゴニストの最初の第3相が成功
(2025年1月22日発表)

米国ニュージャージー州の未上場専門薬会社、Tris Pharmaは、TRN-228(cebranopadol)の第3相腹部形成術後疼痛試験で主目的を達成したと発表した。もう一本も今四半期中に成否判明する見込みで、25年内の承認申請を計画している。

オピオイドの受容体であるMOP(ミュー・オピオイド・ペプチド)受容体だけでなく、オピオイドが作動しないNOP(ノシセプチン・オルファニンFQペプチド)受容体も作動するMOP・NOP受容体アゴニスト。MOP受容体作動の副産物である幻覚や薬物依存のリスクを緩和することが期待されている。

今回のALLEVIATE1試験は米国の施設で300人の患者を偽薬、低量、高量の3群に無作為化割付けして二日間投与し、疼痛緩和作用を比較した。主評価項目はNRS(数値的評価スケール)の第4~48時における曲線下面積(累積値)。結果は、一日400mcgを投与した群が偽薬群を有意に上回った(最小二乗平均差59.2、p<0.001)。有害事象は悪心など。深刻有害事象は見られなかった。

もう一本のALLEVIATE2試験は米国の施設で中足骨初回骨切り術を伴うバニオン切除術後の疼痛を緩和する効果を偽薬と比較する。主評価項目は一本目と同じ。oxycodoneを一日4回投与する参考群も設定されている。

cebranopadolはドイツのGrünenthalが創製、2010年代に癌性疼痛で第3相試験が実施され、途中で打ち切られたようだが、ClinicalTrials.govに掲載されている最終解析成績を見ると、モルヒネ群と比べて非劣性であることが確認された。Trisは他社がギブアップした開発品をサルベージするビジネス・モデルのようで、cebranopadolは21年にPark Therapeuticsを買収して入手したもの。慢性疼痛の第3相も計画している。

米国はオピオイドの過剰摂取や乱用が活発で社会問題になっている。薬局の規制は州の管轄であるため、規制の緩い州の薬局が全米に供給しているようだ。依存性、嗜好性を引き下げるために作用のオンセットを遅らせた製剤も発売されたが、嗜好性の払拭は難しいようだ。依存リスクの小さい新規活性成分としてはVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)がNaV1.8チャネル阻害剤VX-548(suzetrigine)を上記と同様な短期投与試験二本に基づいて米国で承認申請しており、1月30日までに結果が出る見込み。腹部形成術後疼痛試験における治療効果は48なのでcebranopadolと大差無さそうだ(プロトコルや定義に違いがあるかもしれないが)。

どちらもオピオイドより効果が高いようには見えないので、依存性・嗜好性の低さをキチンと確認してアピールする必要がありそうだ。薬効は主評価項目が一番重要だが安全性はあらゆる項目が大事なので、プレスリリースや臨床試験論文だけでは情報が足りない。とりあえず、suzetrigineの審査結果が注目だ。

リンク: Tris社のプレスリリース


キイトルーダ・レンビマ併用試験がまたまたフェール
(2025年1月24日発表)

MSDとエーザイは前者のKeytruda(pembrolizumab)と後者のVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib)の第3相併用試験で提携しているが、近年はフェールが目立つ。今回、LEAP-015試験の全生存解析がフェールしたことが発表された。局所進行切除不能/転移性のher2陰性胃食道腺腫の一次治療を受ける患者を組入れて、化学療法(CAPOXまたはmFOLFOX6レジメン)に二剤を追加する便益を検討したもので、共同主評価項目のうちPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)は中間解析で達成済みだが、全生存期間は最終解析でも達成できなかった。

この二剤の第3相併用試験は、内膜腫と腎細胞腫の実薬対照試験が成功したが、LEAPシリーズの第3相は肝細胞腫のTACE(経動脈化学塞栓術)に追加した012試験が成功したものの、001、002、006、007、008、010、011、017試験がフェールし、当方が把握している範囲だけで1勝8敗と苦戦している。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


バイオジェン、スピンラザの高用量を承認申請
(2025年1月23日発表)

バイオジェンは脊髄性筋萎縮症(SMA)用薬Spinraza(nusinersen)の用量追加を欧米で承認申請し受理されたと発表した。16~17年に欧米で承認された時の用量用法は12mgを導入期は第0日、14日、28日、58日に、その後の維持期は4ヶ月毎に、髄腔内注射する。新用量は、導入期は50mgを第0日と14日に、維持期は28mgを4ヶ月毎に、髄腔内注射するもの。

第2/3相DEVOTE試験の薬効検証部分であるパートBで未治療の症候性乳児型SMA患者75人を新用量群と承認用量群に2対1割付けして6ヶ月治療し、CHOP-INTEND(Children's Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders)を観察したところ、新用量群は外部対照群(Spinrazaの承認のエビデンスとなったENDEAR試験のシャム群のうち、適合性のある症例を抜粋)を有意に上回った。承認用量群と比べても上回るトレンドがあったとのこと。深刻有害事象の発生率は60%、承認用量群は72%だった。ENDEAR試験でもシャム群のほうが発生率が高く、薬の効果が有害事象データに紛れ込んでいるのだろう。

承認用量を有意に上回らなかった点は気にかかるが、難病なので、他の評価項目で有益性が見られるならば、そして、薬物関連深刻有害事象が大きく増加しないならば、承認の可能性がるかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


黒色腫における第2のウイルス療法を承認申請
(2025年1月21日発表)

米国メリーランド州のウイルス療法開発会社、Replimune Group(Nasdaq:REPL)は、RP1(vusolimogene oderparepvec)の承認申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は7月22日。成人の抗PD-1薬による治療歴を持つ進行黒色腫にOpdivo(nivolumab)と併用することを加速承認するよう求めている。

第2相IGNYTE試験で抗PD-1抗体による治療に応答しなかった患者140人に2週毎8回投与し、Opdivoは二回目から2週毎に最大29回投与したところ、ORR(客観的反応率、RECIST 1.1 に基づく独立中央評価)が32.9%、メジアン反応持続期間は35ヶ月超だった。G4有害事象はリパーゼ上昇、肝臓酵素上昇、ビリルビン上昇、サイトカイン放出症候群、心筋炎、肝サイトーシス、脾臓破裂などでG5(致死的)は発生しなかった。

市販後薬効確認を企図する第3相IGNYTE-3試験は12歳以上の抗PD-1抗体歴、かつ抗CTLA-4抗体の治療歴/不適の切除不能ステージIIIb/IV皮膚黒色腫におけるOpdivo併用効果を医師が選んだ薬(BMSのOpdualag(nivolumabとrelatlimab)など)と比較している。29年に結果が判明する見込み。

RP1はHSV(単純ヘルペスウイルス)-1にGALV-GP R-(テナガザル白血病ウイルスのエンベローブ糖蛋白のR-モジュレータ)とGM-CSFの遺伝子を組入れて殺腫瘍性や免疫刺激性を増強したウイルス療法。類薬はHSV-1にGM-CSFの遺伝子を組入れたアムジェンのImlygic(talimogene laherparepvec)が15年に摘出術後に再発した切除不能黒色腫のモノセラピーとして承認されている。Imlygicも切除不能黒色腫のフロントライン治療にKeytruda(pembrolizumab)と併用する第3相が実施されたが、全生存期間のKeytruda比ハザードレシオが0.96とフェールした。

リンク: Replimuneのプレスリリース

【承認審査・委員会】


バース症候群用薬の承認審査が長引く
(2025年1月23日発表)

米国メリーランド州の医薬品開発会社、Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は、米国でelamipretideをバース症候群用薬として承認申請しているが、審査期限が1月29日から4月29日に延期された。10月の心臓腎臓薬諮問委員会では10人が薬効を認めたが6人は否認と意見が分かれたが、その後にFDAの求めに応じて追加情報を提出したことが主要な変更と見なされた。まあ、一筋縄で承認されると思っていた人は少ないだろう。

バース症候群はX染色体上の遺伝子の変異によりミトコンドリア障害を起こし、心不全や不整脈、敗血症、運動障害などをもたらす。男子100万人に一人の希少疾患。12歳以上の患者12人を組入れて40mgを一日一回、皮下注したクロスオーバー試験で6分歩行テストや疲労評価尺度が偽薬比有意に改善しなかった。FDAは追加試験を求めたが、患者支援団体が4000人を超える署名を集めて請願したことなどを受けて、21年に承認申請を断行。この時は受理されなかったが、24年に再度申請し、やっと受理された。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


造血幹細胞移植の前処理薬が承認
(2025年1月22日発表)

カナダのMedexus Pharmaceuticals(TSX:MDP)は、FDAがGrafapex(treosulfan)を1歳以上の急性骨髄性白血病または骨髄異形成症候群の患者に同種造血幹細胞移植を施行する際の前処理薬として承認したと発表した。fludarabineと併用する。busulfanとfludarabineを併用する標準的レジメンと比較したMC-FludT.14/L Trial II試験で2年無イベント生存率が64%対50.4%、ハザードレシオ0.65となり、非劣性解析が成功、優越性解析も成功した。2年生存率は87.5%対69.0%、深刻有害事象の発生率は8%対7%だった。上期中にロンチする考え。

Medexusはmedac GmbHから米国における独占商業化権を取得した。EUでは19年にTrecondi名で承認されている。

リンク: Medexus社のプレスリリース


JNJ、抗鬱剤Spravatoのモノセラピーが承認
(2025年1月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、FDAがSpravato(esketamine)を成人の2剤以上の経口抗鬱剤に十分応答しない鬱病に単剤投与することを承認したと発表した。NMDA受容体拮抗剤ケタミンのS異性体の点鼻用薬で、19年に欧米で抗鬱剤に追加投与する用法で承認され、20~21年には自殺思慮・行動を示すような成人鬱病に追加投与することも承認されている。

今回のエビデンスとなる試験では、プレスリリースによると、寛解率(第4週にMADRSトータル・スコアが12以下になった患者の比率)が22.5%と偽薬群の7.6%を上回った。American Society of Psychopharmacologyで学会発表されたようだが参照できなかった。この試験では2種類の用量がテストされたが、上記数値がどの群なのか、2群プールなのか、分からない。

レーベルによると、この試験の主評価項目は4週後のMADRSトータル・スコアの変化で、ベースライン値の37が56mg群は偽薬比5.1点低下、84mg群は6.8点低下した。上記数値は記載されていない。24年11月にNEI会議で発表されたポスターによると、偽薬群は7点低下に留まったのに対して56mg群は12.7点、84mg群は13.9点低下した。また、寛解率(第4週にMADRSトータル・スコアが10以下になった患者の比率)は偽薬群が6.5%、56mg群は14.6%、84mg群は21.3%だった。上記数値は記されていない。規制緩和によりレーベルに記載されていない効能を宣伝することも不可能ではなくなったため、知らないデータを見る機会が増えた。

麻薬取締法上の管理物質(CIII)。鎮静や解離感覚、乱用誤用リスク、自殺リスク(クラス・ウォーニング)などが枠付き警告されており、REMS(リスク評価管理戦略)に基づく処方流通規制が導入されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAもフルオロウラシルにおけるDPD欠損問題に注意喚起
(2025年1月24日発表)

FDAは、fluorouracilとそのプロドラッグであるcapecitabineについて、投与開始前にDPD(ジヒドロピリミジン・デヒドロゲナーゼ)欠損検査を推奨するレーベル改訂を行ったことを注意喚起した。この異化代謝酵素を欠乏する患者は致死的なこともある深刻な有害事象(粘膜炎、下痢、好中球減少症、神経毒性など)のリスクが高まるため。完全欠損型に投与することは推奨されない。部分欠損型に対する至適用量はデータ不足で明らかではない。

EMA(欧州薬品庁)も2020年にDPD欠損検査を行うよう推奨した。カフカス人種の0.5%がDPDを完全欠損、最大9%が部分欠損と推定されている。アフリカ系アメリカ人の頻度はもっと高いようだ。他の人種は不明とのこと。日本のゼローダの添付文書にも臨床使用に基づく情報として言及されているが、ごく稀であるためか、投与の適否には触れていない。

リンク: FDAのプレスリリース


FDA、多発性硬化症用薬のアナフィラキシー・リスクを枠付き警告
(2025年1月22日発表)

FDAは、テバの再発型多発性硬化症用薬Copaxone(glatiramer acetate)とサンドのGE薬であるGlatopaのレーベルを改訂し、アナフィラキシー・リスクに関する枠付き警告を追加したと発表した。96年12月から24年5月までに82件の深刻なアナフィラキシー症例がFAERS(FDAの有害事象報告システム)に届出されている。このうち19例は投与開始後1年以上経ってから発生した。多くは注射後1時間以内に発生する。51人が入院し、うち13人はICUに入室、6人は死亡した。注射薬に発赤や疼痛は付き物だが、多くの場合30分以内に解消するので、痛みが強い、またはだんだん悪化する、あるいは時間が経っても改善しないような場合は、速やかに入院/ER入室/救急ダイアルするよう呼びかけた。

FAERSに届出される有害事象例は氷山の一角と言われているが、発生率の母数になりうる治療を受けた延べ人数は300万人年と多いので、ごく稀だ。

EUでも市販後有害事象報告を検討するPRACが昨年7月に同様な発表を行っている。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)
25/2/8大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25/2/14Bavarian NordicのCHIKV VLP(チクングニア熱ワクチン)
25/2/17小野薬品のvimseltinib(腱滑膜巨細胞腫)
25/2/28SpringWorks Therapeuticsのmirdametinib(神経線維腫症1型)
25年3月推アッヴィのABBV-399(telisotuzumab vedotin、cMET陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌)
25/3/18Neurotech PharmaceuticalsのNT-501(revakinagene taroretcel、黄斑部毛細血管拡張症2型)
25/3/20Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫1L併用)
25/3/23Alnylam社のAmvuttra(vutrisiran、ATTR-CM追加)
25/3/26GSKのGSK2140944(gepotidacin、女性の非複雑尿路感染症)
25/3/27Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍)
25/3/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリ症候群)
25/3/28Mirum PharmaceuticalsのChenodal(chenodiol、脳腱黄色腫症)
諮問委員会
25/2/5DSRMAC/ADPAC:オピオイド過剰摂取に関する疫学研究成果について
25/2/24CRDAC:ノバルティスのFabhalta(C3腎症適応拡大)



今週は以上です。

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