【ニュース・ヘッドライン】
- カルケンスのMCL一次治療併用試験が主目的達成
- エンハーツ、her2低/極低発現のHR+MBC2/3次治療試験が成功
- リリーのベージニオ、前立腺癌は二連敗
- トレムフィアをEUでクローン病にも承認申請
- デュピクセントのCOPD承認が遅延の可能性
- CHMP、ロシュのOcrevusの皮下注用新製剤に肯定的意見
- ふりかけ用バルベナジンが承認
- WHIM症候群用薬が承認
- FDA、Tivdakを本承認
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【新薬開発】
カルケンスのMCL一次治療併用試験が主目的達成
(2024年5月2日発表)
アストラゼネカはBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)の第3相マントル細胞腫(MCL)一次治療試験で主目的のPFS(無進行生存期間)を達成したと発表した。全生存期間の解析は未成熟だが好ましい方向を向いているようだ。
Calquenceは米欧日で慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫用薬として承認されているが、米国では最初にMCLの二次治療薬として加速承認された。今回のECHO試験はその当時にコミットメントした市販後薬効確認試験と推測される。65歳以上の未治療MCLにbendamustineとrituximabを併用する標準療法の一つにCalquenceを追加する便益を偽薬追加と比較したところ、PFSに統計的に有意且つ臨床的に重要な差があった。
PFSは全生存期間のサロゲート・マーカーとして認知されているため通常はPFSが有意に上回れば承認に値するが、BTK阻害剤はPFSの向上が必ずしも全生存期間の向上に結び付かない憾みがあり、FDAが慎重な姿勢を見せている。二次治療の本承認切替は認められるだろうが、一次治療追加申請が認められるかどうか、注目される。
奇妙なのは、下記のプレスリリースが末尾で本試験はCOVID-19流行期に行われたこと、そして、血液癌はCOVID-19重症化リスクが高いことに言及していることだ。何か関係があるのだろうか?同社はCalquenceを用いてCOVID-19関連サイトカイン・ストームを治療する第2相試験を実施したことがあり、フェールしたのだが、このことも何か関係あるのだろうか?
リンク: 同社のプレスリリース
エンハーツ、her2低/極低発現のHR+MBC2/3次治療試験が成功
(2024年4月29日発表)
進行/転移乳癌の全身性治療は、最初にエストロゲン受容体やプロゲスチン受容体、her2などの発現検査を実施、結果に基づいて治療法を選択する。最初の二つの受容体(合わせてホルモン受容体と呼ぶ)とher2は背反的であることが多く、前者が陽性なら内分泌療法、後者ならher2標的薬を化学療法薬と組み合わせて治療する。だが、第一三共/アストラゼネカの抗her2抗体薬物複合体、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の登場で、境界線がどんどん曖昧になり、とうとう、これまでher2陰性と片付けられてきた乳癌まで有用性が認められた。
1998年にジェネンテックが米国で抗her2抗体Herceptin(trastuzumab)を発売した頃はIHC(免疫組織化学染色)法で2+以上と判定されれば適応になったが、その後、2+でもISH(in situ ハイブリダイゼーション)法で遺伝子増幅が陰性と判定された場合は反応率が低いことが判明、her2標的薬の適応はIHC法で3+、あるいは2+でISH法陽性、と範囲が縮小した。この常識を覆したのが、22年に米国で承認されたEnhertuの適応拡大だ。2+でISH法陰性、あるいは、1+であれば、ホルモン受容体の陽性陰性を問わず、2次/3次治療に使えるようになった。
サプライズが大きいほど、懐疑的な意見も増える。ASCOは、適応拡大の根拠となったDESTINY-Breast04試験の対象がher2低発現だけでIHC法で0となる癌のデータを欠いていることから、敢えてher2低発現癌だけを取り上げることを躊躇する姿勢を示した。筆者のような素人には嫌いだから嫌いと言っているだけにも聞こえるが、何れにせよ、今回、議論に決着を着けることになるかもしれない臨床試験、DESTINY-Breast06が、良好な結果になったことが両社から発表された。
この試験はホルモン受容体陽性進行/転移乳癌で、転移後に2次以上の内分泌療法歴、または内分泌療法とCDK4/6阻害剤の併用一次治療に抵抗性を示し、her2が低発現または極低発現(IHC法で10%以下の腫瘍細胞に不完全で、かすかな/かろうじて膜染色が認められる)の患者866人を組入れて、5.4mg/kgを3週毎投与する便益を標準治療(capecitabine、paclitaxel、またはnab-paclitaxel)と比較した。主評価項目であるher2低発現サブグループ713人におけるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)は統計的に有意な、かつ臨床的に意味のある、延長を見た。副次的評価項目である全集団の解析も有意且つ意味のある延長を示した。探索的な解析である極低サブグループだけでも臨床的に意味のある延長があった(探索的なので統計学的な評価はエラーになる)。全生存期間の解析は未成熟だが、低発現サブグループでも、全集団でも、トレンドが見られた。極低サブグループは言及されていないが症例数が少ないのでどちらにせよあまりあてになりそうにない。
IHC法の従来のアウトプットは3+、2+、1+、0の4種類だが極低は0より大きく1より小さい(>0<1)という新小分類だ。3+や2+ですら医療施設の判定とセントラルラボの判定が食い違うことがあるようなので、0と>0<1を正しく判別することができるのだろうか、という素朴な疑問がある。ASCOも1+と0の識別の信頼性に疑問を呈している。もしこの点に問題がないようなら、そして、her2極低発現サブグループの全生存期間が失望的なものでなければ、her2治療薬の歴史に新しい局面を切り開くことになる。
IHC法に基づくher2判定基準
IHC3+:10%超の腫瘍細胞に強い完全な全周性の膜染色が認められる
IHC2+:10%超の腫瘍細胞に不完全および/または弱/中程度の全周性の膜染色が認められる、または、10%以下の腫瘍細胞に強い完全な全周性の膜染色が認められる
IHC1+:10%超の腫瘍細胞にかすかな/かろうじて部分的な膜染色が認められる
IHC0:染色増が認められない、または、10%以下の腫瘍細胞に不完全で、かすかな/かろうじて膜染色が認められる
出所:HER2検査ガイド乳癌編(乳がんHER2検査病理部会)
リンク: 両社のプレスリリース
リリーのベージニオ、前立腺癌は二連敗
(2024年4月30日発表)
イーライリリーは24年第1四半期決算の発表に合わせてCDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib)の前立腺癌試験、CYCLONE-3が中間解析で無益認定となったことを明らかにした。転移ホルモン感受前立腺癌を組入れてabirateroneとprednisoneの併用に追加することでPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)の向上を図ったが、偽薬追加と大差なかった。転移去勢抵抗性前立腺癌を組入れたCYCLONE-2試験も2月にフェールしており、前立腺癌の第3相は二本とも打ち切りになった。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
トレムフィアをEUでクローン病にも承認申請
(2024年5月1日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen-Cilag Internationalは、EUで抗IL-23p19サブユニット抗体Tremfya(guselkumab)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎と中重度活性期クローン病の治療に適応拡大申請したと発表した。乾癬やリウマチ性関節炎の治療薬として欧米日で承認取得、今年3~4月には米日で潰瘍性大腸炎に追加申請したが、クローン病の申請はEUが初めてではないか。エビデンスはGALAXI 2と3で、後者の成績は今後、発表する予定。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
デュピクセントのCOPD承認が遅延の可能性
(2024年5月2日発表)
Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を中重度好酸球性COPD(慢性閉塞性肺疾患)用薬として欧米日で適応拡大申請しているが、FDAが第3相二本のサブグループ分析データを提出するよう求めたことが24年第1四半期決算発表に合わせて公表された。今月末の期限より早く提出する考えだが、審査期間中に重要な情報が追加提出された場合、FDAは審査期限(今回の場合、6月27日)を最大3ヶ月、延期することができる。
Dupixentはアトピー性皮膚炎、慢性特発性蕁麻疹、結節性痒疹、好酸球性喘息症、鼻ポリープ、そして好酸球性食道炎と多くの疾患に承認されている。
リンク: 同社の24年第1四半期フォーム10-Q(第52頁に記載)
CHMP、ロシュのOcrevusの皮下注用新製剤に肯定的意見
(2024年4月29日発表)
ロシュは、EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPが抗CD20抗体Ocrevus(ocrelizumab)の皮下注用新製剤の承認に肯定的意見をまとめたと発表した。予想通り、年央に承認されそうだ。米国でも申請中で会社側は9月の承認を見込んでいる。
最近よく見る、ヒト遺伝子組換えヒアルロン酸分解酵素を同時投与することで抗体医薬の皮下吸収を促進するHalozyme Therapeutics社の技術を応用した、開発品。従来の静注用製剤は最初の2回は3.5時間、3回目以降は2時間かけて点滴するが、皮下注用製剤は10分点滴で足りるので、患者の拘束時間が短くなる。長時間占有できるベッドの無い医療施設でも投与することが可能になる。効果や忍容性は静注用と大差ないようだ。
適応は再発性多発性硬化症と一次進行性多発性硬化症で現在と同じ。
リンク: ロシュのプレスリリース
【承認】
ふりかけ用バルベナジンが承認
(2024年4月30日発表)
Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)はIngrezza(valbenazine)の新製剤、Ingrezza SprinkleカプセルがFDAに承認されたと発表した。遅発性ジスキネジアやハンチントン舞踏病を治療するVMAT2(小胞性モノアミントランスポーター2)阻害剤で、従来の経口カプセルと同じ用量・投与頻度だが、中身をテーブルスプーン一杯分の柔らかい食物(ヨーグルトやプディングなど)にふりかけて摂取する。調査によるとハンチントン舞踏病患者の62%、中重度の不随意運動を伴う遅発性ジスキネジア患者の37%が、食物などの嚥下に困難を感じており、ふりかけ製剤のほうが飲みやすいかもしれない。カプセルごと飲み込んでもよいが、ミルクや飲料水にふりかけて飲んではいけない。
日本ではオリジナルの製剤をライセンシーの田辺三菱製薬が遅発性ジスキネジア治療薬ジスパルとして販売している。
リンク: 同社のプレスリリース
WHIM症候群用薬が承認
(2024年4月29日発表)
X4 Pharmaceuticals(Nasdaq:XFOR)はFDAがXolremdi(mavorixafor)を12歳以上のWHIM症候群の治療薬として承認したと発表した。米国の推定患者数は1000人と少なく、年間薬剤費は49.64万ドル(体重50kg以下は37.23万ドル)と高い。希少疾患優先審査バウチャ(転売相場は1億ドル前後)も取得した。
WHIM症候群は常染色体優性遺伝による原発性免疫不全で、CXCR4受容体をコードする遺伝子の機能獲得変異が原因で白血球の移動が抑制され、ヒトパピローマウイルスによる疣贅(W)、低ガンマグロブリン血症(H)、再発性細菌感染症(I)、骨髄性細胞貯留(M)といった症状が発現する。mavorixaforは経口CXCR4阻害剤。100mgカプセル4個(体重50kg以下の場合は3個)を空腹時に一日一回服用する。臨床試験では循環成熟好中球やリンパ球が増加し、感染リスクも低下した。主な有害事象は血小板減少症や粃糠疹など。代謝をCYP2D6に強度依存する薬の併用は禁忌。催奇性やQTc延長リスクがある。
自家造血幹細胞移植に用いる末梢血幹細胞の得率を向上するCXCR4阻害剤Mozobil(plerixafor)を開発したAnorMed社がオリジン。AnorMedはジェンザイムが買収、そのジェンザイムを買収したサノフィから14年に権利を取得して旗揚げしたのがX4社だ。
リンク: X4社のプレスリリース
FDA、Tivdakを本承認
(2024年4月29日発表)
FDAはSeagenのTivdak(tisotumab vedotin-tftv)を本承認に切替えたと発表した。化学療法に進行、または再発した難治転移子宮頸癌の治療に用いる。
シアトル・ジェネティクス(のちにSeagenに改名、その後ファーザーが子会社化)が完全ヒト化抗体の先駆者の一社であるジェンマブと共同開発したTF(組織因子)を標的とする抗体薬物複合体。第2相単群試験のORR(客観的反応率)と持続期間のデータに基づき21年に加速承認され、市販後薬効確認試験である第3相innovaTV 301試験における延命効果で本承認に至った。メジアン生存期間は11.5ヶ月、化学療法群は9.5ヶ月、ハザードレシオは0.70。この試験はある種の結膜疾患/病歴や目のスティーブン・ジョンソン症候群、末梢神経症を除外条件としていたが、結膜疾患や末梢神経症が主要な有害事象だった。
日本はジェンマブが承認申請する考えのようだ。
リンク: FDAのプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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24/5/12 | モデルナのmRNA-1345(RSVワクチン) |
24/5/13 | Dynavax TechnologiesのHEPLISAV-B(血液透析中の成人のB型肝炎予防を追加) |
24/5/14 | アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症) |
24/5/16 | Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫) |
24/5/23 | BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治リンパ腫) |
24/5/31 | BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫) |
24/6/4 | Catalyst PharmaceuticalsのFirdapse(amifampridine phosphate、LEMSにおける最大1日量を100mgに引き上げ) |
24/6/7 | GSKのArexvy(重症RSVリスクを持つ50~59歳に拡大) |
24/6/10 | Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎) |
24/6/12 | アムジェンのAMG 757(tarlatamab、小細胞性肺癌3次治療) |
24/6/15 | BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大) |
24/6/16 | GeronのGRN163L(imetelstat、輸血依存骨髄異形成症候群) |
24/6/17 | MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン) |
24/6/21 | SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除) |
24/6/21 | BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌) |
24/6/21 | argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加) |
24/6/21 | MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加) |
24/6/26 | Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法) |
24/6/26 | 第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療) |
24/6/27 | リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加) |
24/6/28 | ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加) |
24/6/30 | Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型) |
諮問委員会 | |
24/4/25 | DSRMAC/PDAC:clozapineのREMS緩和 |
24/5/16 | VRBPAC:次シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討 |
24/5/24 | EMDAC:ノボ ノルディスクのinsulin icodec(週一回皮下注用インスリン) |
今週は以上です。
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