2024年5月25日

第1056回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ネスレ、GLP-1作用剤ユーザー向け食品を投入 
  • 長期作用性抗IL-5抗体の第3相喘息管理試験が成功 
  • JNJ、トレムフィアの潰瘍性大腸炎維持療法試験も成功 
  • 住友ファーマ、米国でビベグロンの適応拡大申請 
  • Verastem、卵巣癌二剤併用の承認申請に着手 
  • FDA諮問委員会、ノボの週一回投与インスリンは一型糖尿病には支持せず 
  • FDA、皮下注用オプジーボの審査期限を前倒し 
  • EU、Translarnaの承認を撤回するのか、しないのか、どっちなんだい? 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


ネスレ、GLP-1作用剤ユーザー向け食品を投入
(2024年5月21日発表)

アメリカにおける普及率が96%に達するスマホは、第三者が様々な専用ケースやストラップを販売している。GLP-1作用剤の成人における普及率はまだ1%台、2030年予測でも9%と爆発的普及に向けたマイルストーンである10%台には乗らない見込みだが、早くも、関連商品が現れた。食品コングロマリットのネスレがGLP-1作用剤などによる体重管理を行っている消費者向けに、Vital Pursuitブランドの製品群を米国で10月以降に発売する計画を発表したのだ。高量のタンパクと繊維質や必須栄養素を多く含み、量は控え目。ピザやパスタなどの冷凍食品が既存の製品とそれほど変わらない価格で販売される模様だ。

GLP-1作用剤は除脂肪体重も減少するので筋力や骨に対する長期的な影響を懸念する声もあり、その対策として、筋細胞増強剤の第2相試験も複数の企業が実施している。GLP-1作用剤関連フィーバーはどこまで広がるだろうか。

リンク: ネスレ(米国法人)のプレスリリース

【新薬開発】


長期作用性抗IL-5抗体の第3相喘息管理試験が成功
(2024年5月21日発表)

GSKは、GSK3511294(depemokimab)の第3相重度好中球性喘息症試験、SWIFT-1と2で主目的を達成したと発表した。報道によると、まず米国で今年下期に、25年には日本や欧州でも、承認申請する考え。

IL-5に高親和性、高力価で結合する抗体医薬で、Fc領域をYTE改変して半減期を長期化した。15~16年に米欧日で承認された同社の抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)は4週毎皮下注だが、depemokimabは6ヶ月毎。鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎などのIL-5が関与する2型炎症の第3相試験が進行中。

今回の試験は、中程度以上の吸入コルチコステロイドを含む2剤以上を併用しても喘息発作を十分に管理できない患者に追加投与する便益を偽薬追加と比較した。主評価項目は52週間における臨床的に重要な増悪。統計的に有意、かつ臨床的に意味のある抑制効果が見られた。数値は未発表。他の抗体医薬からスイッチする第3相も進行中。

リンク: 同社のプレスリリース


JNJ、トレムフィアの潰瘍性大腸炎維持療法試験も成功
(2024年5月20日発表)

ジョンソンエンドジョンソンはTremfya(guselkumab)の第3相中重度潰瘍性大腸炎維持療法試験、QUASAR Maintenanceのトップラインを公表した。第2相、第3相寛解導入試験で第12週に臨床的応答を達成した患者を偽薬群、100mg8週毎皮下注群、200mg4週毎皮下注群に無作為化割付けして第44週臨床的寛解率を比較したところ、各群18.9%、45.2%、50.0%となり、投与を打ち切らないで継続したほうが良いことが示された。尚、在来薬やバイオ薬、JAK阻害剤に十分応答しないまたは不耐の中重度活性期潰瘍性大腸炎の第3相寛解導入試験導入試験では第12週臨床的寛解率が22.6%と偽薬群の7.9%を有意に上回った。

抗IL-23p19サブユニット抗体で、17~18年に米欧日で乾癬などの治療薬として承認された。今回の適応でも3月に米国で、4~5月には日欧でも、追加申請された、

リンク: JNJのプレスリリース

【承認申請】


住友ファーマ、米国でビベグロンの適応拡大申請
(2024年5月13日発表)

住友ファーマは米国で選択的ベータ3アドレナリン受容体作動剤Gemtesa(vibegron)の適応拡大申請を行い受理された。米国では20年に成人の切迫尿失禁を伴う過活動膀胱(OAB)の治療薬として承認されているが、今回は、米国法人のプレスリリースによると、前立腺肥大症の薬物療法を受けている患者のOAB症状を適応とする考え。既存の適応と一部重複するのではないかと思われるが、承認されれば、競合薬であるアステラス製薬のMyrbetriq(mirabegron)との違いを浮き彫りにすることができるのではないか。米国プレスリリースによると審査期限は24年度の第3四半期。

第3相では現適応と同じ75mgを一日一回、12週間、経口投与して排尿回数と尿意切迫感回数の抑制効果を調べたところ、前者は一日平均で2.04回(偽薬群は1.30回)、後者は2.88回(同1.93回)と有意な差があった。

Myrbetriqの米国のレーベルによると、膀胱排出道閉塞(bladder outlet obstruction)などによる尿貯留のある患者は貯留リスクが高まるので注意すべき。今回の被験者と同じではないが重複する部分もあるのではないか。また、Myrbetriqは薬物代謝酵素である2D6を阻害するので薬物相互作用に注意が必要だがGemtesaはこのような作用はない。

リンク: Sumitomo Pharma Americaのプレスリリース


Verastem、卵巣癌二剤併用の承認申請に着手
(2024年5月24日発表)

Verastem Oncology(Nasdaq:VSTM)はRAF/MEK阻害剤VS-6766(avutometinib)とFAK阻害剤VS-6063(defactinib)を成人の全身性治療歴を持つ難治KRAS変異型低グレード漿液性卵巣癌に併用するローリング承認申請に着手した。今年下期に第2相RAMP 201試験の1年追跡データを提出して完了し、優先審査で加速承認するよう求める考え。1年データでKRAS野生にも効果が認められたら変異型に限定されない可能性もあるようだ。日欧でも承認申請に向けて当局と相談する構え。

前者でRAFとMEKを強力に阻害し、MEKを阻害すると活性化するFAK代替的経路を後者で阻害するアイディア。前者は3.2mgを週二回、後者は200mgを一日二回、3週連続経口投与して1週休むサイクルを反復する。1年前のASCO(米国臨床腫瘍学会)で上記試験のパートAで29人中45%がcORR(確認客観的反応率)を達成した旨発表されたが、今回、拡大コフォートを含む109人では27%に留まったことが明らかにされた。KRAS変異57人では37%、野生52人では15%と、どちらも前回発表より低下したが、比較的高いKRAS変異限定で申請することを決めた。有害事象による治験離脱離脱率は9%。3月に第3相実薬対照試験、RAMP 301を米欧豪韓などで開始、年内に270人の組入れを完了する考え。

低グレード漿液性卵巣癌は米国で年1000~2000人が発症し、うち3割程度がKRAS変異を持つ。(第2相はKRAS変異を意識的に組入れたのだろう)。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、ノボの週一回投与インスリンは一型糖尿病には支持せず
(2024年5月24日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集しノボ ノルディスクが糖尿病用薬として承認申請した週一回皮下注用インスリン、Awiqli(insulin icodec)の一型糖尿病における便益と安全性について意見を求めた。複数の報道によると、11人の委員のうち7人が、便益が危険を上回る(承認に値する)とは言えないと回答した。尚、二型糖尿病に関しては問題がないようでアジェンダに上がっていない。欧州では3月にCHMP(医薬品科学的評価委員会)が一型・二型両方に肯定的意見をまとめたが、一型に用いると低血糖が増加するため便益が明白な場合だけに用いるよう、条件を付けている。

一型糖尿病を組入れた第3相ONWARDS 6試験では第26週のHbA1cがベースラインの7.6%から0.47%低下し、insulin degludec(同社の一日一回皮下注用Tresiba)群の0.52%と非劣性だったが、ADA基準に基づくレベル2(空腹時血糖値が54mg/dL未満)またはレベル3(他者のサポートが必要になるなどの重度事象)の低血糖事象の人年当り発生率が17.0対9.2と上回り、率比は1.8だった。FDAは第2相試験後会議で、一日一回型インスリンと異なり作用が安定的でなく2~4日後にピークがあるため理想的な薬剤とは言えないと指摘していたが、第3相でも低血糖イベントは2~4日後が多かった。

ノボは適応を持続血糖モニター使用者や低血糖歴のない患者に限定する案などを提示したが、このような患者だけを組入れた第3相でも偏りが生じているため、FDAは慎重な姿勢を示した。上記の低血糖例は殆どがレベル2で深刻な症例は少なかったが、臨床試験は選ばれた医療施設の選ばれた医師が厳選された被験者を通常より密接に観察しながら行うものなので、現実の医療ではもっと多くの、もっと重い副作用が表面化する可能性がある。

FDAによると一型糖尿病の患者の22%は二週間に一回、基礎インスリンの注射を逃す。このリスクも大きいので、CHMPのように、頻繁に失念したり事情があって打たなかったりする人に限定して承認する可能性もあるのではないか。

イーライリリーの週一回型インスリン、LY3209590(insulin efsitora alfa)は一型糖尿病の第3相試験で低血糖が増えるかどうか、注目される。

リンク: MedPage Todayの報道


FDA、皮下注用オプジーボの審査期限を前倒し
(2024年5月21日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo皮下注(nivolumab、hyaluronidase human)を米国で承認申請しているが、FDAが審査期限を25年2月28日から今年12月29日に変更したと発表した。理由は不明。BMSがFDA受理を公表したのは5月6日なので、10ヶ月審査なら来年2月末でも不思議ではないが、12月29日だと計算が合わない。受理日が変更されたのか、それとも、部外者が見当を付け難いオリジナル生物学的製剤に関するルール(FDAの受理期限である申請受領60日後から起算)が当てはめられたのだろうか?現行のPDUFAは理解できない事例が少なくない。

リンク: 同社のプレスリリース


EU、Translarnaの承認を撤回するのか、しないのか、どっちなんだい?
(2024年5月20日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はTranslarna(ataluren)をジストロフィン遺伝子にナンセンス変異を持つデュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として開発、14年にEUで5歳以上の歩行可能な患者向けに条件付き承認を獲得した。第2相がフェールしたためCHMPが一旦は否定的意見をまとめたが、再審査で肯定的意見に転じた。波乱は発売後も続き、15年に6分歩行テストの改善を図った第3相がフェール、再チャレンジしたが22年にフェールし、とうとう、23年9月、CHMPが条件付き承認の年次更新を行わないよう勧告した。会社側は再審請求したが今回は変わらなかった。歩行能力改善作用が確認されなかったこと、ジストロフィン発現があまり増加しないこと、会社側が行った患者登録のデータとの比較分析は病態や治療方針などが異なるため信頼性が低いことなどが理由。

米国では16年に承認申請したが受理されず、抗議に基づく承認申請という強硬手段をとったが17年に審査完了通知を受理した。

ところが、今年に入って二つのサプライズが発表された。まず、FDAとの協議を経て米国で年央に承認申請する計画。詳細は明らかにされていないためFDAが同意しなかった可能性もあるが、近年、希少疾患用薬の承認のハードルが低下しているので、一発逆転も考えられないでもない。

もう一つが今回の発表。CHMPが意見をまとめれば通常はEMAが追認し、欧州委員会が最終決定するが、なんと、欧州委員会が差戻した。CHMP会合と23年のSAG(科学的諮問グループ)会合を無効と判定、再審査を求めた。PTCは24年の営業収入を6~6.8億ドルとガイダンスしていたが、不確実性により撤回した。

欧州委員会が何を考えているのか不明だが、思い出すのは欧州裁判所のHopveus判決の余波だ。EMAがHopveus(sodium oxybate)をアルコール依存治療薬として承認しなかったため提訴した案件で、控訴審が原審を覆し、SAG招集手続きの違法性と一部委員の利益相反を認定し、EMAに再審査を求めた。

その余波で、エーザイがアルツハイマー病薬治療薬として承認申請し24年3月にCHMPが予定していたLeqembi(lecanemab)に関する質疑応答がキャンセルされてしまった。おそらく、改めてSAGを招集することになり承認が遅延するだろう。

今回も、おそらく、同じパターンで、Translarnaの承認取消が手続き上の理由で猶予になった、のではないだろうか。

リンク: PTC社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/5/31BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫)
24/6/4Catalyst PharmaceuticalsのFirdapse(amifampridine phosphate、LEMSにおける最大1日量を100mgに引き上げ)
24/6/7GSKのArexvy(重症RSVリスクを持つ50~59歳に拡大)
24/6/10Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎)
24/6/15BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大)
24/6/16GeronのGRN163L(imetelstat、輸血依存骨髄異形成症候群)
24/6/17MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン)
24/6/21SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除)
24/6/21BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌)
24/6/21argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加)
24/6/21MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加)
24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
24/6/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
諮問委員会
24/6/4PDAC:Lykos TherapeuticsのMDMAカプセル(midomafetamine、PTSD補助療法)
24/6/5VRBPAC:次シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討
24/6/10 PCNSDAC:イーライリリーのLY3002813(donanemab、アルツハイマー病)



今週は以上です。

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