【ニュース・ヘッドライン】
- FDA、6月の3諮問委員会を発表
- アストラゼネカ、COVID-19ワクチンの承認を返上
- マイクロバイオーム療法のパイオニアに経営破綻の影
- 抗IL-36受容体抗体の汎発性膿疱性乾癬試験、維持療法も成功
- otoferlin変異型先天性難聴の遺伝子治療
- CG Oncology、膀胱癌ウイルス療法の第3相が好調に推移
- BMS、OYCT併用がまたフェール
- Keytrudaの内膜腫切除後アジュバント試験がフェール
- ファイザーのDMD遺伝子療法の試験で再び死亡例
- NRG1陽性肺癌・膵癌の二重特異性抗体を承認申請
- Travere社、Filspariの本承認切替を申請
- VANZA TRIPLEを承認申請
- BMS、オプジーボ皮下注などを承認申請
- RSVのmRNAワクチンは承認遅延
- FDA、チオプリンの妊婦肝内胆汁鬱血症を警告
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【今週の話題】
FDA、6月の3諮問委員会を発表
(2024年5月7日発表)
FDAは諮問委員会の在り方を再検討しており、その余波なのか、昨年12月から今年2月まで、殆ど召集されなかった。方向性が固まったのか、6月13日頃に諮問委員会の在り方に関する諮問委員会が招集されると報じられている。軌を一にして新たな召集予定が五月雨式に発表されるようになり、今回、6月の諮問委員会予定が一挙に3件、発表された。
6月4日はPDAC(精神薬理学薬諮問委員会)がLykos TherapeuticsのMDMAカプセル(midomafetamine)を討議する。PTSDの精神療法を施行する時に補助薬として服用させるもの。現在はDEA(麻薬取締局)が依存リスクが高く医療における有用性もない物質として規制が最も厳しいスケジュールIに指定しているが、承認されたら規制緩和されるはずだ。現在、複数のサイケデリック(幻覚を齎す危険のある物質)が医療用途で開発されているが、この物質が第1号になりそうだ。
6月5日はVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製品諮問委員会)が2024/2025シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討する。当初は5月16日の予定だったが、最近の流行株を踏まえて、リスケされた。オミクロン株は当初のオミクロン対応ワクチンがカバーしていなかったBA.2系統が様々な亜系統に発展してきたが、今春は米国でKP.2型のシェアが急上昇し、CDC(米国疾病管理予防センター)は4月14日~27日の2週間に25%を占めトップに上がったと推測している。EMA(欧州薬品庁)はJN.1株を抗原とする考えだが、FDAは、その孫系統に当たるKP.2型を選ぶべきか、諮問するものと推測される。
6月10日はPCNSDAC(末梢中枢神経系薬諮問委員会)がイーライリリーが早期症候性アルツハイマー病用薬として承認申請したLY3002813(donanemab)を議論する。22年にリリーが加速承認を申請したが長期投与症例数の不足を指摘され、23年に追加提出したが、審査期限が延長され、更に、諮問委員会の日程が決まるまで2ヶ月か費やされた。論点は、臨床試験でアミロイド関連造影異常の発生率が先に承認されたエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)より高いことや、タウの水準が高い患者しか組入れていないため低い患者に関するエビデンスが第2相などしかないこと、アミロイド・ベータが除去されたら投与を中止するというユニークな用法の当否などが考えられる。
リンク: FDAのプレスリリース(5/7付)
アストラゼネカ、COVID-19ワクチンの承認を返上
(2024年月日発表)
アストラゼネカが3月にEUでCOVID-19ワクチンVaxzevriaの承認申請を撤回していたことが判明した。EMA(欧州薬品庁)の関連ウェブサイトに記されている。
オックスフォード大学が創製した、チンパンジーに感染するアデノウイルスを不活化しSARS-Cov2のスパイク蛋白の遺伝子を結合した、ウイルスベクター・ワクチン。20年12月に英国で、翌年1月にはEUで、5月には日本で、何れも特例/条件付きで承認された。RNAワクチンと異なり極低温保存が不要で通常の冷蔵庫で半年以上補完できることや、同大学が利潤を上乗せせずに販売する方針を打ち出したこと、そして低中所得国のニーズに応えるためSerum Institute of Indiaに製造販売権を供与したことなどから広く用いられたが、安全性がやや見劣りし、おそらくそれが原因で米国では承認されなかった。ベータ株以降のウイルスの変遷に対応できなかったこともあり、売上高が尻すぼみになった。
この機会に、改めて、人類全体の脅威に立ち向かう武器を開発し利益度外視で提供したオックスフォード大学、アストラゼネカ、Serum Institute of Indiaを称賛したい。
製品名 | メーカー | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
---|---|---|---|---|
Comirnaty | ファイザー | 36,781 | 37,806 | 11,220 |
Spikevax | モデルナ | 17,675 | 18,435 | 6,671 |
Vaxzevria | アストラゼネカ | 3,981 | 1,798 | 12 |
Ad26.COV2.S | JNJ | 2,385 | 2,179 | 1,117 |
Nuvaxovid | ノババックス | - | 1,555 | 531 |
リンク: EMAのVaxzevria情報頁
マイクロバイオーム療法のパイオニアに経営破綻の影
(2024年5月1日発表)
Seres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)は、SEC(米国証券取引委員会)に提出したフォーム8-K適時開示情報の中で、Oaktree Fundなどの債権者から債務不履行による破産申立ての通知を受領したことを明らかにした。BacThera社に生産目標達成金約2800万ドルを払わなかったため。会社側は反論しているが、1年前に最初の新薬が承認されたばかりなのに、残念な事態だ。
このVowstは健常者の腸由来の精製・エタノール処理されたファーミキューテス門芽胞によるマイクロバイオーム治療薬。難治性クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)で抗菌剤治療済みの患者の再燃リスクを抑制するために、一日一回、3日間経口投与する。臨床試験では第8週の再燃率が12%と偽薬群の40%を大きく下回った。
この細菌は抗生物質治療により他の細菌が減衰すると俄かに勢力を増す。抗生剤多用により感染例が増えており、対策の一つが常在菌を移植して有害菌を制すマイクロバイオーム療法だ。もし経営破綻するようなことになったら、抗微生物薬の開発がいかに困難かを示す新たな逸話になる。
リンク: Seresのフォーム8-K(SECサイト)
【新薬開発】
抗IL-36受容体抗体の汎発性膿疱性乾癬試験、維持療法も成功
(2024年5月9日発表)
AnaptysBio(Nasdaq:ANAB)は抗IL-36受容体抗体ANB019(imsidolimab)の第3相GEMINI-2試験が良好な結果になったことを明らかにした。年内に米国で承認申請する予定。また、年内に導出先も決定する考え。
先に成功したGEMINI-1試験では、汎発性膿疱性乾癬(GPP)患者45人を偽薬群、300mg一回静注群、750mg一回静注群に無作為化割付けして4週時点の奏効率(GPP医師総合評価尺度で寛解またはほぼ寛解)を比較したところ、各群13.3%、53%、53%となり、高用量群は偽薬比p=0.0131と有意な差があった(低量群のpは不明)。試験薬群の奏効者16人を組入れて偽薬または200mgを月一回皮下注したのがGEMINI-2では、偽薬スイッチ群の24週奏効維持率が25%に留まったのに対して継続投与群は100%だった。
リンク: 同社のプレスリリース
otoferlin変異型先天性難聴の遺伝子治療
(2024年5月8日発表)
Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はotoferlin変異による先天性難聴の遺伝子治療をテストする第1/2相CHORD試験の進捗をASGCT(米国遺伝子細胞治療学会)で発表した。他にも複数の企業・アカデミアが独自の遺伝子療法の開発を進めており、また、他の遺伝子変異による難聴の遺伝子治療も研究されている。
同社の遺伝子治療薬、DB-OTOは、23年に子会社化したDecibel Therapeuticsの開発品で、非病原性アデノ随伴ウイルス・ベクターを用いてotoferlinを内耳の蝸牛細胞選択的に発現させるもの。最初の症例は、遺伝子治療試験では最も幼い生後11ヶ月で施行したところ、6週後にはABR(聴性脳幹反応)検査やPTA(純音聴力検査)による行動聴力検査の成績が改善し、第24週には後者が正常水準にまで達した。4歳で投与した第2症例も6週時点の聴力が改善した。治療関連有害事象や深刻有害事象は発生していない由。
本試験は22人を組入れる予定で、パートAで片耳に投与して至適用量を決定し、パートBは両耳を治療する。順調なら来年にも承認申請する考えだ。
報道によると、ASGCTではこの分野で先行する中国の臨床成績も発表された。Shanghai Refreshgene TherapeuticsのAAV1-hOTOFで、1月のLancet論文では6人中5人のARBが改善と報告されたが、今回、11人中10人に積み上がった。
先天性難聴のうちotoferlin変異を伴う患者は米国で年20~50人とかなり少ないようだ。遺伝子変異で一番多いと推測されているGJB2変異型に関してはDecibel TherapeuticsがAAV.103を創製、臨床入りに向けて研究を進めている。
リンク: Regeneronのプレスリリース
CG Oncology、膀胱癌ウイルス療法の第3相が好調に推移
(2024年5月3日発表)
米国カリフォルニア州の未上場医薬品開発会社、CG Oncologyは、CG0070(cretostimogene grenadenorepvec)の第3相試験の中間解析結果を再び発表した。主評価項目であるエニータイム完全反応率は75.2%と前回とほぼ同じ。目標症例数にかなり近づいてきた割には承認申請予定が25年下期であることが不思議。そもそも、単群試験とは言え何度も中間解析データを発表したり、数週間後に再検査して反応が持続していることを確認した症例だけをカウントする通常の評価方法とは異なる数値を用いたりするのが妥当なのか、良く分からない。
CG0070は増殖性アデノウイルスにGM-CSFとE2F-1プロモータを結合して免疫刺激性を強化し腫瘍細胞選択発現性を持たせた腫瘍溶解性ウイルス療法。第3相BOND-003試験は、BCGに応答しなかった高リスク非筋層浸潤上皮内膀胱癌(NMICB CIS)の患者を組入れて、週一回のペースで6回投与し、反応なら維持療法に移行、不応の場合は導入療法を繰り返した。昨年12月に発表された66人の中間解析では完全反応率が75.7%、反応から6ヶ月以上経過した患者の74.4%で反応が持続していた。今回、AUA(米国泌尿器学会)で発表された105人の中間解析では完全反応率が75.2%だった。有害事象は膀胱の痙攣、頻尿、排尿障害など。
この試験には、20年に日韓台における独占開発販売権を取得したキッセイ薬品も参加している。
リンク: 同社のプレスリリース
BMS、OYCT併用がまたフェール
(2024年5月10日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の第3相CheckMate-73L試験で主評価項目がフェールしたと発表した。切除不能局所進行ステージIII非小細胞性肺癌の一次治療として、同時化学放射線療法(CCRT)とOpdivoを施行し、維持療法としてOpdivoとYervoyを投与する便益を検討したが、CCRTだけを施行し維持療法はImfinzi(durvalumab)だけの対照群と比べて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を有意に伸ばすことができなかった。
非小細胞性肺癌(NSCLC)の第3相Opdivo・Yervoy・化学療法(OYCT)併用一次治療試験は、転移/難治NSCLCを対象に化学療法を2サイクルに抑えたCheckMate-9LA試験で全生存期間が化学療法4サイクル群を上回ったが、進行非扁平上皮NSCLCを組入れたCheckMate-227試験のパート2は化学療法を数値上上回っただけだった。また、日本臨床腫瘍研究グループが主導した進行・再発NSCLC試験はKeytruda(pembrolizumab)とCTを併用した群より治療との因果関係が否定できない死亡が多く、中止された。
対象患者層が若干異なるものの、これら4本を総合的に考えると、化学療法にOpdivoとYervoyの二剤を追加する手法は上手く行くこともそれほどでもないこともある。化学療法と抗PD-1/PD-L1抗体のレジメンに抗CTLA4抗体を追加する手法はなかなか上手く行かない。
尚、73L試験は維持療法にYervoyを使わない群も設定されているが、数多くの副次的評価項目の一つに過ぎないためか、結果は記されていない。常識的に考えれば大差なかったのだろう。
リンク: BMSのプレスリリース
Keytrudaの内膜腫切除後アジュバント試験がフェール
(2024年5月9日発表)
MSDはKeynote-B21試験のフェールを発表した。新患高リスク内膜腫(子宮体癌)1095人を組入れて、治癒的摘出術後の標準的な化学療法(放射線療法併用も可)にKeytruda(pembrolizumab)を追加することでDFS(無病生存期間)の延長を図ったが、有意な差はなかった。このため、共同主評価項目である全生存期間の正式な解析は見送られた。
Keytrudaは治療歴のある進行内膜腫に、マイクロサテライト不安定性またはミスマッチ修復不全がある場合は単剤、どちらもない場合はエーザイと共同開発販売しているLenvima(lenvatinib)と併用することが承認されている。一次治療化学療法併用試験も成功し適応拡大申請中。
リンク: 同社のプレスリリース
ファイザーのDMD遺伝子療法の試験で再び死亡例
(2024年5月7日発表)
Parent Project Muscular Dystrophyなどの複数のDMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)患者支援団体は、ファイザーのPF-06939926(fordadistrogene movaparvovec)の臨床試験に参加した患者が新たに一名死亡したことを報告した。添付されている同社のコミュニティ・レターによると、米豪の施設で2~3歳のDMD患者10人を組入れた第2相DAYLIGHT試験に参加して13年初めに投与を受けた患者が死亡した。原因は不明。両組織とも、遺族や親しい友人知人に哀悼の意を表明している。
同薬はDMDの殆どで欠損するジストロフィンを補うために、遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)をベクターとして短いがある程度機能するミニジストロフィンを導入する。日本を含む11ヶ国で4~7歳のAAV9中和抗体を持たない患者を組入れた第3相CIFFREO試験が進行中で、昨年4月に投与を完了し、1年後の粗大運動機能などを評価しているところだ。この試験の偽薬群の患者は1年後に試験薬群にクロスオーバーする計画だったが、今回の事態を受けて、停止した。
過去には後期第1相試験で補体系の過剰活性化による深刻有害事象が発現したり、深刻な筋力低下が3例発生しジストロフィンの特定のエクソンに変異を持つ患者を対象外とするプロトコル変更が行われたことがある。21年12月には後期第1相の歩行不能者コフォートで1名が死亡しFDAが治験停止命令を出したことがあり、その後、施術後7日間入院・観察するプロトコルが導入された。
DMDの遺伝子療法ではサレプタ・セラピューティックスのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)が23年6月に米国で加速承認された。4~5歳限定で、第3相が成功なら6~7歳も適応になる見込みだったが、副次的評価項目しか成功しなかったので先行き不透明だ。
リンク: Parent Project Muscular Dystrophyのプレスリリース
リンク: ファイザーのコミュニティ・レター(Parent Project Muscular Dystrophyサイトに収載されているもの、pdfファイル)
【承認申請】
NRG1陽性肺癌・膵癌の二重特異性抗体を承認申請
(2024年5月6日発表)
オランダのMerus N.V.(Nasdaq:MRUS)はMCLA-128(zenocutuzumab)を米国でNRG1(neuregulin 1)融合陽性の非小細胞性肺癌と膵管腺腫の治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は不明。
her2とher3の二重特異性抗体で、her3がNRG1の刺激によりher2とヘテロダイマー化するのを妨げる。NRG1融合は稀で、非小細胞性肺癌も膵管腺腫も1%前後を占めるに過ぎない。臨床試験ではRNAシーケンシングで検査した症例が過半を占めた。
便益のエビデンスは、第1/2試験eNRGyと拡大アクセスプログラムに参加した日本も含む17ヶ国64施設の症例。22年のASCO(米国臨床腫瘍学会)での発表によると、非小細胞性肺癌46人におけるORR(客観的反応率、RECISTベース治験医評価)は35%、膵管腺腫19人では42%だった。他のNRG1融合陽性癌を含む79人全体では34%で、メジアン反応持続期間は9.1ヶ月だった。G3/4有害事象発現率は36%、G5は3%でG5治療関連有害事象は0.5%(点滴関連反応による)だった。23年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると、非小細胞性肺癌79人におけるORRは37.2%、メジアン反応持続期間は14.9ヶ月だった。
リンク: 同社のプレスリリース
Travere社、Filspariの本承認切替を申請
(2024年5月6日発表)
米国カリフォルニア州の新興製薬会社、Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、昨年2月に米国で原発性IgA腎症の治療薬として加速承認されたFilspari(sparsentan)を本承認に切替えるよう申請した。第3相irbesartan対照試験、PROTECTの36週中間解析における尿蛋白クレアチニン比の改善に基づき加速承認されたが、同試験の110週解析でeGFRの低下が対照薬より小さい傾向が見られた。有意差は出ていないので、FDAの判断や、承認後は医療保険機関の評価が注目される。
FilspariはアンジオテンシンIIタイプ1受容体とエンドテリンA受容体のデュアル・アンタゴニスト。06年にブリストル マイヤーズ スクイブからインライセンスしたPharmacopeia社を08年に買収したLegand Pharmaceuticals(Nasdaq:LGND)から12年にインライセンスしたもの。今年4月にEUでも条件付き承認、日本ではレナリスファーマが第3相試験の治験許可を提出したところだ。
リンク: Travereのプレスリリース
VANZA TRIPLEを承認申請
(2024年5月6日発表)
Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、24年第2四半期決算発表に合わせて、vanza tripleと通称される3剤併用を6歳以上の嚢胞性線維症の治療薬として欧米で承認申請したことを明らかにした。米国では優先審査バウチャを用いて6ヶ月審査を求める。呼吸機能改善作用は同社の既存薬と非劣性に留まるが、一日一回服用で足りるので簡便。同社にとってはロイヤルティ率が下がるメリットもある。
19~20年に米欧で承認されたTrikafta/Kaftrioの配合成分のうち、elexacaftorをvanzacaftorに、ivacaftorをdeutivacaftorに変更してtezacaftorと組み合わせたもの。Trikaftaは朝服用し夕方にivacaftorだけ服用するが、 vanza tripleは朝だけで済む。12歳以上のCFTR遺伝子にヘテロF508欠損と最小機能変異を持つ患者を組入れた試験と、Trukaftaに感受するその他の変異を持つ患者を組入れた試験の二本でppFEV1(1秒量%予測値)がTrikafta比非劣性だった。嚢胞性線維症の診断基準の一つである汗中塩化物の改善は有意に上回った。安全性は同程度。
リンク: 同社のプレスリリース
BMS、オプジーボ皮下注などを承認申請
(2024年5月6日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤を米国で、MSI-H(マイクロサテライト高不安定性)/dMMR(ミスマッチ修復不全)陽性の転移結腸直腸癌におけるYervoy(ipilimumab)併用法をEUで、それぞれ承認申請し受理されたと発表した。前者の審査期限は25年2月28日。
皮下注用新製剤はHalozyme社のrHuPH20ヒアルロン酸分解酵素を用いて皮下吸収を向上する技術が用いられている。第3相CheckMate-67T試験で腎細胞腫患者における28日間血中濃度や最低濃度が点滴静注用と非劣性で、副次的評価項目であるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)も非劣性だった。Opdivoに対する抗体の発生率が22.8%と点滴静注群の7%を上回ったが、今回のプレスリリースでは言及されていないので、臨床的な重要性は低いと判定されたのだろう。Opdivoの様々な承認用法のうち、Yervoy併用だけは対象外(Yervoy併用終了後の単剤維持療法期は可)。
MSI-H/dMMR転移結腸直腸癌は米国では17年に主要三剤を既に使い終わった患者限定で加速承認されたが、EUはエビデンス不十分と見なされ申請撤回となった。今回は成人の一次治療に二剤を併用するもので、エビデンスは第3相CheckMate-8HW試験。医師が選んだ化学療法(mFOLFOX-6またはFOLFIRI;bevacizumabまたはcetuximab併用可)と比べてPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.21、メジアン値は未達(95%下限38.4ヶ月)対5.9ヶ月(95%上限7.8ヶ月)だった。
この試験は二次以降の治療を受ける患者も含めた全ユニバースにおける二剤併用とOpdivo単剤の比較も主目的だが、まだ成熟しておらず追跡継続中。第2相CheckMate-142試験では併用の9ヶ月生存率が85%とOpdivo単剤の75%を上回ったが、第3相で再現されれば、MSDのKeytruda(pembrolizumab)と差別化要素になりうる。
リンク: 同社のプレスリリース(オプジーボ皮下注)
リンク: 同(EU二種変更申請)
【承認審査・委員会】
RSVのmRNAワクチンは承認遅延
(2024年5月10日発表)
モデルナはRSV予防用のmRNAワクチン、mRNA-1345を欧米で承認申請しているが、米国は審査完了が3週ほど遅れる見込みになった。優先審査バウチャ(売買相場1億ドル)を用いて早期承認獲得を目指したが、審査期限の5月12日を前に、FDAから、手続き上の制約で遅れること、5月末までの審査完了を見込んでいること、の通知を受領した。詳細は不明だが、薬効や安全性、品質面の言及はないとのこと。CDC(米国疾病管理予防センター)のワクチン諮問委員会、ACIPで検討されるのは6月26~27日の予定で、実際に接種が始まるのは秋ごろなので、この程度の遅延なら大きな影響はないだろう。
日本を含む22ヶ国の60歳以上37000人を組入れた第3相では、二つ以上の症状を伴うRSV性下部気道疾患を83%抑制し、共同主評価項目である三つ以上の症状を伴う症例も82%抑制した。但し、メジアン追跡期間を3.7ヶ月から8.6ヶ月に長期化した解析では効果がどちらも63%に低下した。
リンク: 同社のプレスリリース
【医薬品の安全性】
FDA、チオプリンの妊婦肝内胆汁鬱血症を警告
(2024年4月29日発表)
FDAは、azathioprineまたはその活性代謝物である6-mercaptopurineを妊婦に投与する時のICP(肝内胆汁鬱血症)リスクを警告した。市販後有害事象報告に基づくもので、投与を止めると改善するため、発症したら中止するよう勧告した。製薬会社にレーベル改訂を要請している。
azathioprineは自己免疫疾患や血液癌など様々な病気に用いられているが、妊婦ICPは専らIBD(炎症性腸疾患)やSLE(全身性エリテマトーデス)の患者で報告されている。どちらも未承認用途だが、AGA(米国消化器病学会)やACR(米国リウマチ学会)がケースバイケースで妊娠後の継続投与を容認している。
リンク: FDAの警告
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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24/5/12 | モデルナのmRNA-1345(RSVワクチン)・・・遅延 |
24/5/13 | Dynavax TechnologiesのHEPLISAV-B(血液透析中の成人のB型肝炎予防を追加) |
24/5/14 | アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症) |
24/5/16 | Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫) |
24/5/23 | BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治リンパ腫) |
24/5/31 | BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫) |
24/6/4 | Catalyst PharmaceuticalsのFirdapse(amifampridine phosphate、LEMSにおける最大1日量を100mgに引き上げ) |
24/6/7 | GSKのArexvy(重症RSVリスクを持つ50~59歳に拡大) |
24/6/10 | Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎) |
24/6/12 | アムジェンのAMG 757(tarlatamab、小細胞性肺癌3次治療) |
24/6/15 | BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大) |
24/6/16 | GeronのGRN163L(imetelstat、輸血依存骨髄異形成症候群) |
24/6/17 | MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン) |
24/6/21 | SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除) |
24/6/21 | BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌) |
24/6/21 | argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加) |
24/6/21 | MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加) |
24/6/26 | Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法) |
24/6/26 | 第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療) |
24/6/27 | リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加) |
24/6/28 | ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加) |
24/6/30 | Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型) |
諮問委員会 | |
24/5/24 | EMDAC:ノボ ノルディスクのinsulin icodec(週一回皮下注用インスリン) |
24/6/4 | PDAC:Lykos TherapeuticsのMDMAカプセル(midomafetamine、PTSD補助療法) |
24/6/5 | VRBPAC:次シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討 |
24/6/10 | PCNSDAC:イーライリリーのLY3002813(donanemab、アルツハイマー病) |
今週は以上です。
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