【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:リジェネロンも抗体医薬の入院患者試験組入れを部分停止
- COVID-19:リジェネロンの抗体医薬の外来治療試験が成功
- アッヴィ、老眼治療薬を承認申請へ
- ファイザー、JAK1阻害剤をアトピー性皮膚炎に承認申請
- リジェネロン/サノフィ、抗PD-1抗体をNSCLC1Lに承認申請
- 第一三共/アストラゼネカ、米国でもエンハーツを胃癌に効能追加申請
- JNJ、Xareltoを下肢血行再建術後血栓予防に適応拡大申請
- ドライアイのステロイド治療薬が承認
【今週の話題】
COVID-19:リジェネロンも抗体医薬の入院患者試験組入れを部分停止
(2020年10月30日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は二種類の抗SARS-CoV-2抗体のカクテルであるREGN-COV2を軽中等症外来患者や中等症重症入院患者の治療、そして濃厚接触者などの暴露後予防に第2/3相や第3相試験を実施中。外来治療試験は仮説検証的コフォートの解析が良好な結果になったことが発表された(次項参照)が、中等重症入院患者試験は独立データ監視委員会がハイフロー酸素投与や人工呼吸器装着コフォートの新規組み入れを一時停止するよう勧告した。安全性に係るシグナルが見られたため。ローフロー酸素投与や酸素投与不要患者のコフォートの組入れは継続する。また、外来治療試験については組入れ停止勧告していない。
イーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体医薬、LY-CoV555(bamlanivimab)も、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)主導の入院患者試験、ACTIV-3の新規組入れが中止になった。元々はREGN-COV2と同様に安全性懸念が生じて組入れ停止になったのだが、精査の結果、安全性面での顕著な群間差は見られなかったものの、便益も見られなかった。NIAIDやイーライリリーの外来治療試験や予防試験は続行。
リジェネロンの入院患者試験は、ハイフロー酸素/人工呼吸器患者の追加分析で暗雲が晴れて再開される可能性が未だ残っているが、別々に行われた類似した薬の試験が似たような結果になってきたことを考えると、抗体医薬は肺炎を合併し呼吸窮迫が重症化した患者には無効、あるいは有害、である可能性が高まったと考えざるを得ないだろう。
なぜ効かないのか不明だが、感染初期の患者はウイルスの増殖が症状を牽引するが、肺炎や臓器障害などの合併症は免疫・血栓反応の異常亢進が原因である可能性があり、受動的免疫療法である抗体医薬はピント外れなのかもしれない。
両社は軽中等症で重症化リスク因子を持つ患者の治療薬としてFDAにEUA(非常時使用認可)を申請している。尤も、感染早期の軽中度患者全部に有効なわけではなさそうだ。リジェネロンの抗体医薬の軽中度外来患者試験では、自分で作った抗体を多く保有する患者に対する効果が小さかったからだ。無意味な費用や副作用リスクを回避するためには事前に中和抗体またはウイルスの量的検査を行ってスクリーニングすることが望ましいが、費用や時間が増えるデメリットもあるので、判断が難しい。
ACTIV-3試験がフェールした原因として考えられるのは、もしかしたらVekluryと併用したのが良くなかったのかもしれない。REGN-COV2の試験でもVekluryあるいはdexamethasoneを併用した症例が多かったのではないだろうか。
米国のトランプ大統領がCOVID-19に感染し酸素投与が必要になって入院した時、医師団が最初に投与したのがREGN-COV2で、大統領は回復したのはこの未承認薬のお陰と考えているようだ。しかし、実際には、運が良かったと形容する方が適切のようだ。
リンク: リジェネロンのプレスリリース
リンク: ACTIV-3試験の新規組入れ中止に関するNIAIDのプレスリリース(10月26日付)
リンク: イーライリリーのプレスリリース(同上)
COVID-19:リジェネロンの抗体医薬の外来治療試験が成功
(2020年10月28日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-COV2の第2/3相軽中等症患者外来治療試験が成功したと発表した。8gと2.4gのウイルス抑制作用とCOVID-19関連受診リスクを偽薬と比較したところ、有意な差があった。
REGN-COV2は三種類の抗SARS-CoV-2抗体のカクテル。今回の試験のほかに入院患者治療試験や予防試験が進行中で、米国では軽中等症外来患者の治療薬としてEUA(非常時使用認可)申請中。
この外来試験については9月に最初の275人の記述的分析結果が発表されている。今回は、仮説検証的コフォート524人のウイルス学的評価と再受診リスクの分析が行われた。結果は、両用量群合計で、元々のウイルス量が多かった(≧1000万コピー/mL)サブグループは第7日までのウイルス量低下が偽薬比有意に大きかった(群間差は0.68log10コピー/mL/日)。全集団の解析でも有意に大きかった(同0.36 log10 コピー/mL/日)。
合計799人のCOVID-19関連受診発生率は2.8%で、偽薬群(6.5%)より57%小さかった(p=0.024)。リスク因子(年齢50歳以上、BMI30kg/m2以上、心血管や肺、肝臓、心臓の疾患や代謝性疾患)を一つ以上持つ患者では72%小さかった(p=0.0065)。尤も、『受診』の中には電話による問診から救急治療まで様々なイベントが含まれているので、主観や裁量の余地が小さく、臨床的に重要なイベントだけの数値を確認する必要があるだろう。
尚、8g群も2.4g群も効果は同程度だった。
今回は症状持続期間などの厳格な分析は行われなかったようだが、ウイルス量と症状の相関などは見られなかった由だ。
忍容性は高用量群で点滴反応が若干増えた程度で、低用量なら大きな問題はなさそうだ。
罹患期間短縮化効果が確認されなかった点を除けば、概ね期待通りの結果と言えそうだ。外来治療で足りるなら症状はそれほど重要ではないだろうから、求められる便益は、罹患期間の短縮やウイルス量低下の促進というよりは重症化リスクの緩和だろう。だからこそ、リジェネロンはEUAの適応として、本試験の対象のうち、転帰が悪い可能性のある高リスク患者だけを想定しているのだろう。
REGN-COV2は感染者自身の抗体の代替・補充なので、自分で十分な量を作れた患者にはあまり効かない可能性がある。今回は元々のウイルス量が多くはなかったサブグループ(≒自分で多くの抗体を作れたであろうサブグループ)のデータが公表されていないが、もし十分な効果がないなら、事前に検査をしてスクリーニングすべきかどうか、検討する必要があるだろう。忍容性は低用量なら大きな問題はなさそうだし、米国は患者負担ゼロの方針なので医療費の問題も発生しないが、当面の年産規模がロシュと合わせて1000万人分程度なので、無駄打ちは減らしたいところだ。
リンク: 同社のプレスリリース
【新薬開発】
アッヴィ、老眼治療薬を承認申請へ
(2020年10月28日発表)
アッヴィは、AGN-190584(pilocarpine)の第三相老眼治療試験が二本とも成功したと発表した。21年上期に承認申請の予定。効果はどの程度なのか、安全性のハードルが高そうだがクリアできているのか、データ発表が注目される。
19年に買収したアラガンの開発品で、緑内障やドライ・アイの治療薬として用いられているムスカリン受容体アゴニスト、pilocarpineを老眼に転用する。作用機序は瞳孔括約筋の収縮の補助と推測されている。第三相試験では両目に一日一回、1ヶ月に亘って点眼し、奏効率を偽薬と比較した。奏効の定義は、一本では1ヶ月の治療でDCNVA(距離矯正近見視力)が3行以上改善、もう一本ではDCNVA3行以上改善かつCDVA(矯正遠見視力)が5字以上悪化しないこと。
試験薬群の治療時発現深刻有害事象はゼロ。治療時発現有害事象は頭痛や結膜充血、霞目、目の痛みなど。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
ファイザー、JAK1阻害剤をアトピー性皮膚炎に承認申請
(2020年10月27日発表)
ファイザーは、JAK1阻害剤PF-04965842(abrocitinib)を12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎の経口治療薬として欧米で承認申請したことを発表した。EUでは受理された。第3相は偽薬対照試験二本とDupixent(dupilumab)群も設定された局所治療併用試験で100mgと200mgを一日一回投与する効果と安全性を検討。後者の試験では副次的評価項目の一つである第2週時点の掻痒で200mg群がDupixent群を有意に上回り、100mg群も数値上上回った。深刻有害事象の発現率は各群大きな差はなかったが、全ての臨床試験のデータをプールして評価する必要があろう。
JAK1阻害剤ではアッヴィのRinvoq(upadacitinib)も徐放製剤のアトピー性皮膚炎試験が三本とも成功した。
JAK1阻害剤は免疫抑制剤なのでウイルス性疾患や癌のリスクが高まらないか、大規模長期のデータベースで検証する必要があるだろう。アトピー性皮膚炎の免疫抑制剤ではアステラスのProtopic(tacrolimus)やノバルティスのElidel(pimecrolimus)のリンパ腫リスクが市販後に顕在化し大きな波紋を呼んだ前例がある。JAK阻害剤は血栓性疾患のリスクも散見されるので要注意だ。
リンク: ファイザーのプレスリリース
リジェネロン/サノフィ、抗PD-1抗体をNSCLC1Lに承認申請
(2020年10月29日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)をPD-L1高度陽性(≧50%)の局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療として欧米で承認申請し、受理されたと発表した。米国では優先審査を受け、審査期限は来年2月28日。
第3相試験では350mgを3週毎に点滴静注したところ、主評価項目であるPD-L1高度陽性サブグループの全生存期間が化学療法群と比べてハザードレシオ0.67、p=0.002と、有意に上回った。有害事象による治験離脱率は6%対4%で大差なかった。
Libtayoは18年に米国で、19年にはEUでも、転移/根治不能局所進行性扁平上皮癌に用いることが承認された。
リンク: 同社のプレスリリース
第一三共/アストラゼネカ、米国でもエンハーツを胃癌に効能追加申請
(2020年10月28日発表)
第一三共とアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki、和名エンハーツ)をher2陽性の切除不能転移胃・胃食道接合部腺腫の三次治療薬として米国で効能追加申請し、受理された。優先審査で、審査期限は来年1-3月期。抗her2抗体trastuzumabによる治療歴を持つ患者が適応になる。米国ではブレークスルー・セラピー指定と希少疾患用薬指定を受けている。
日本と韓国の施設で実施した第2相DESTINY-Gastric01試験のデータに基づくもので、6.4mg/kgを3週毎に点滴静注してcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)を医師が選んだ薬(irinotecanまたはpaclitaxel)と比較したところ、42.9%対12.5%、メジアン反応持続期間は11.3ヶ月対3.9ヶ月で上回った。副次的評価項目の全生存期間は中間解析で12.5ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオは0.59でp=0.0097だった。
G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症などの骨髄抑制とその合併症など。治療関連間質性肺疾患/肺臓炎(第三者が査読)は12例で発現率9.6%、うちG3は2例、G4は1例でG5(致死的)はゼロだった。
リンク: 両社のプレスリリース
JNJ、Xareltoを下肢血行再建術後血栓予防に適応拡大申請
(2020年10月26日発表)
バイエルのXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を米国で開発販売しているジョンソン・エンド・ジョンソンは、症候性PAD(末梢動脈疾患)の下肢血行再建術付随療法として米国で適応拡大申請した。VOYAGER PAD試験で術後10日以内の患者に2.5mgを一日二回、低量アスピリン(一日一回)と併用したところ、主要有害下肢・心血管イベントが3年間(カプラン・メイヤー推定)で17.3%と偽薬併用群の19.9%を下回り、ハザードレシオ0.85、p=0.009だった。
抗血栓薬は血栓予防効果と出血リスクのバランスを取るのが難しいが、本試験では大出血(TIMI定義)が3年間で2.65%と偽薬群の1.87%を上回ったものの、p=0.07でぎりぎり有意ではなかった。極めて重要なリスクである頭蓋内出血や致死的出血も有意な増加は見られなかった。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
ドライアイのステロイド治療薬が承認
(2020年10月27日発表)
Kala Pharmaceuticals(Nasdaq:KALA)は、Eysuvis(loteprednol etabonate)がFDAにドライアイ治療薬として承認されたと発表した。コルチコステロイドの粘膜浸透性点眼液で兆候症状発現時に最大2週間、点眼する。ウイルス性角膜炎・結膜炎は禁忌。
米国ではドライアイの診断を受けた患者が1700万人以上いて、その8-9割は症状が慢性的ではなく、間歇的と推測されている。既存の治療薬は常用するが、症状が一時的なら治療も頓服的で足りるのかもしれない。
リンク: 同社のプレスリリース
今週は以上です。
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