【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:オルミエントの便益は限定的
- COVID-19:リジェネロンも抗体医薬をEUA申請
- COVID-19:アストラゼネカの抗体医薬も第3相入り
- 心筋ミオシン活性化薬のアウトカム試験が成功
- ジャズ、Xywavの過眠症試験が成功
- ファイザー、イブランスのアジュバント試験がまたフェール
- SOBI、化学療法誘導性血小板減少症の予防試験がフェール
【今週の話題】
COVID-19:オルミエントの便益は限定的
(2020年10月8日発表)
既報のように、インサイト(Nasdaq:INCY)がイーライリリーと共同開発販売しているJAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)は、NIAID(米国アレルギー・感染症研究所)主導のACTT-2試験が成功。COVID-19感染入院患者にVeklury(remdesivir)と併用するとVeklury・偽薬併用より退院が1日早まることが明らかになった。今回、学会発表に合わせてもう少し詳しいデータが発表されたが、今一つ感は払拭されなかった。
この試験は、肺CT所見または呼吸機能低下のある患者1000人超を組入れて偽薬併用群とOlumiant併用群の回復(退院又は医療ケア不要化)までの期間を比較したところ、メジアン値は各8日と7日、発生率比は1.16、p=0.04だった。特に、ベースライン時点で酸素投与を受けていたサブグループやハイ・フロー酸素/非侵襲的換気を受けていたサブグループの便益が大きかったようだ。副次的評価項目に関しては、症状改善オッズ比は1.3、p=0.04、29日死亡率は各7.8%と5.1%でp=0.09だった。
このように、p値は何れも0.01以上で統計学的に高度に有意とは言えない。死亡率の数値は良好だが有意ではない。罹患期間は1日短縮するがインフルエンザ治療薬の治療効果が5日から4日に2割短縮と比べると短縮率が小さい。上記サブグループにおける効果がどの程度だったのか、知りたいものだ。
p値が0.01を上回ったので本来ならもう一本、試験を成功させることが望ましい。イーライリリー自身も入院患者600人の第3相を行っているが、remdesivirやdexamethasoneの便益が明確になったことや、今回の併用試験が統計学上は成功したことから、早く完遂しないと患者組入れが難しくなるかもしれない。
リンク: 両社のプレスリリース
COVID-19:リジェネロンも抗体医薬をEUA申請
(2020年10月7日発表)
イーライリリーが抗SARS-CoV-2スパイク蛋白抗体LY-CoV555(bamlanivimab)のEUA(非常時使用認可)をFDAに申請したと発表したのと同日に、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)も二種類の抗SARS-CoV-2スパイク蛋白抗体のカクテルであるREGN-COV2をEUAしたと発表した。
トランプ大統領はこの薬のおかげで症状が改善したと受け止めている模様で、早期承認や患者に無償提供することをコミットした。米国連邦政府は『ワープ・スピード作戦』の一環でREGN-COV2を治療用に7-30万回分(用量がまだ決まっていないため幅がある)、予防用に42-130万回分の調達契約を結んでおり、大統領が言うまでもなく、政府が患者に無償提供することが以前から決まっている。
供給能力は、現時点では5万人分のストックがあり、数ヶ月内に30万人分に増加する見込み。8月にロシュと開発生産提携を結んでおり、米国外はロシュが生産・供給する。
思ったより早く実用化しそうだ。私は抗体医薬が本命と期待しているが、少なくとも現時点では、臨床試験のエビデンスは希薄だ。第966回で書いたように、外来治療試験ではベースライン時点で抗体を持っていた患者に対する効果は明確でなかった。入院治療が必要な患者の罹患期間を短縮し重症化・死亡リスクを削減する効果が確認されたとの発表はまだない。
リンク: リジェネロンのプレスリリース(pdfファイル)
COVID-19:アストラゼネカの抗体医薬も第3相入り
(2020年10月9日発表)
アストラゼネカはAZD7422の第3相試験を来週、開始すると発表した。一本は5000人規模の予防試験、もう一本は1100人規模の暴露後予防試験。4000人規模の治療試験も開始する予定。
AZD7422は、米国テネシー州のVanderbilt University Medical Centerが回復期血漿から同定した二種類の抗SARS-CoV-2抗体のカクテル。アストラゼネカの技術で改変し、持続期間を6-12ヶ月に延長したり、ADE(抗体依存性感染増強)リスクに配慮してFc受容体親和性を弱めたりしてある。
米国政府の補助金を受けており、20年末に最大10万回分、21年に更に100万回分を供給する計画。プレスリリースは他の国については言及していない。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
【新薬開発】
心筋ミオシン活性化薬のアウトカム試験が成功
(2020年10月8日発表)
Cytokinetics(Nasdaq:CYTK)及び共同開発パートナーのアムジェン、セルビエの三社は、心筋ミオシン活性化薬CK-1827452(omecamtiv mecarbil)の第3相心血管アウトカム試験の成功を発表した。心不全の悪化を抑制したが、心血管疾患による死亡を防ぐ効果が見られなかったのが残念だ。
このGALACTIC-HF試験は、クラスII-IVの慢性心不全で左心室機能が低下(LVEF≦35%)、ナトリウム利尿ペプチドが上昇、かつ心不全で現在または過去1年間に入院またはER歴を持つ8256人を偽薬群とCK-1827452群に無作為化割付して、心不全による入院・救急医療または心血管死のリスクを比較した。CK-1827452は一日二回経口投与、25mgで開始して血漿濃度に応じて最大50mgまで増量した。
結果は、ハザードレシオ0.92(95%信頼区間0.86-0.99)、p=0.0252だった。副次的評価項目のうち、心血管死は減少しなかった。主要虚血性心臓イベントの発生率は両群同程度だった。詳細はAHA(米国心臓協会)科学部会で11月13日に発表する予定。
慢性心不全患者は既に多くの薬を併用しており、新薬が出ても中々普及しない憾みがあるので、効果は高ければ高いほど良い。CK-1827452の場合はハザードレシオがそれほどでもなく、信頼区間を見ると殆ど効果が無い可能性が残っている。p値で見ても大きな試験である割には十分に低くはない。アストラゼネカのSGLT-2阻害剤、Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)はDAPA-HF試験で心不全入院・救急医療/死亡のハザードレシオが0.74、心血管死のハザードレシオは0.82だった。組入れ条件が若干異なるとはいえ、これだけ違うと無視できないだろう。
リンク: 三社のプレスリリース
ジャズ、Xywavの過眠症試験が成功
(2020年10月8日発表)
ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)は、Xywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)経口液の第3相特発性過眠症試験が成功したと発表した。来年第1四半期にFDAに適応拡大申請する考え。この用途でファースト・トラック指定を受けている。
Xywavは同社のナルコレプシー治療薬Xyremの活性成分であるsodium oxybatesの改良製剤で、ナトリウム摂取量を92%削減した。今年7月に7歳以上のナルコレプシー患者の傾眠や脱力発作を抑制する用途で承認された。
今回の試験は、Xywavを一定期間投与した後に、115人の患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付して、主評価項目であるEpworth Sleepiness Scaleなどを比較した離脱試験。有意な差があった。プリトリート期間には臨床的に意味のある改善が見られた由。データは離脱試験のp値しか公表されていない。
リンク: 同社のプレスリリース
ファイザー、イブランスのアジュバント試験がまたフェール
(2020年10月9日発表)
ファイザーは、CDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib、和名イブランス)の第3相PENELOPE-B試験がフェールしたと発表した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の早期乳癌の術後アジュバント療法として内分泌療法薬と併用する効果を検討したが、iDFS(無浸潤疾患生存期間)が内分泌療法と偽薬の併用と大差なかった。
Ibranceは同様な内容のPALLAS試験が5月に中間解析で無益認定されたので二戦全敗。一方、同じCDK4/6阻害剤であるイーライリリーのVerzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)はmonarchE試験が成功しており、明暗が分かれた。
敗因は何か?デザインを見比べると、PENELOPE-B試験は二重盲検(monarchEはオープン・レーベル)で、組入れが1250人(同5637人)と少なく、CDK4/6阻害剤の投与期間が1年(同2年)という違いがある。しかし、無益認定されたPALLAS試験はオープン・レーベルで5760人を組入れ、投与期間は2年とmonarchE試験と類似しているので、これらが影響したとは考えにくい。
忍容性が影響した可能性はあるのではないか。PALLAS試験は最大2年投与するプロトコルだったが、主として有害事象が理由で、被験者の42%が、途中で中止した。アジュバント療法は転移癌の場合より忍容性が重視されることを改めて思い知らされる。monarchE試験やPENELOPE-B試験の数値が明らかになれば比較できるだろう。
尤も、結果が食い違うとは必ずしも言えないかもしれない。monarchEの無浸潤疾患生存期間のハザードレシオは0.747(95%信頼区間0.596-0.932)、PALLAS試験のそれは0.93(0.76-1.15)で、信頼区間は重なっている。両試験とも、真のハザードレシオは0.76-0.93の間のどこかだったのかもしれない。
しかし、ファイザーは再挑戦しないだろうから、この用途におけるIbranceの便益が立証される機会はもうないだろう。
リンク: ファイザーのプレスリリース
SOBI、化学療法誘導性血小板減少症の予防試験がフェール
(2020年10月9日発表)
Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)は、スロンボポイエチン受容体アゴニストDoptelet(avatrombopag)の第3相化学療法誘導性血小板減少症予防試験がフェールしたと発表した。偽薬群の成績が良すぎたことが影響したと会社側は考えているようだ。
Dopteletは山之内製薬が藤沢薬品と合併した時にスピンアウトしたAkaRxに承継され、07年にライセンスした先のMGI Pharmaceuticalsが10年にエーザイの子会社に、16年にはDova Pharmaceuticalsの子会社になり、19年にSOBIがDovaを買収、と開発主体が変遷した。18-19年に欧米で手術を受ける慢性肝臓疾患患者の重度血小板減少症の治療などに承認された。
今回の試験は卵巣癌や肺癌、膀胱癌の化学療法を受けてG3/4の血小板減少症を発現した患者122人を組入れて、奏効率(次のサイクルで血小板輸血や化学療法の減量/遅延が起きない)を偽薬と比較したが、intent-to-treatでは69.5%と偽薬群の72.5%と大差なく、per-protocolでは85.0%対84.4%でほぼ同じだった。
リンク: SOBIのプレスリリース
今週は以上です。
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