【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:FDA諮問委員会の論点
- COVID-19:レムデシビルが本承認に
- バイエル、新薬が第3相で糖尿病性腎症の悪化を抑制
- ダラザレックスの幹細胞移植後地固め試験が成功
- MSDの肺炎球菌ワクチン、複数の第3相が成功
- ユニバーサル・インフルエンザ・ワクチンの第3相がフェール
- アストラゼネカ、タグリッソのアジュバント療法を承認申請
- ファイザー、20価肺炎球菌結合型ワクチンを承認申請
【今週の話題】
COVID-19:FDA諮問委員会の論点
(2020年10月22日発表)
FDAは10月22日にワクチン等生物学的製品諮問委員会を招集し、COVID-19ワクチンの承認審査基準などについて意見を聞いた。論点は多岐にわたり、多数決やコンセンサス形成を目的とする会議でもないため報道者泣かせだが、諮問委員から異論が出た主要な点について、各種報道等に基づき、まとめたい。
現在、欧米の企業では独BioNTech/ファイザーや米Moderna社、アストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどがリピッド・ナノパーティクル法やアデノウイルス法によるmRNAワクチンの大規模な第3相試験を実施している。BioNTech/ファイザーとModernaは年内にもEUA(非常時使用認可)を申請する計画だ。
FDAはガイダンス草案を公表すると共に、今回、主要な論点について意見を求めた。尚、個々のワクチンの当否については承認申請後に改めて諮問委員会が招集される見込み。
まず、安全性に関しては、追跡期間が議論になった。FDAは第3相試験の被験者の過半について最終接種(上記のうちJNJ以外は2回接種を採用)後に2ヶ月以上追跡するよう求めた。ワクチンの有害事象は接種後1~2ヶ月の間に表面化することが多いからだ。反対意見は、期間というよりは、重症化リスクの高いサブグループ(高齢者、特定の疾患、マイノリティ)の症例数が不足することを懸念する声や、ワクチン開発者からは、割合ではなく実数で判断すべきという声もあった(JNJは6万人規模なのでその5割となると先行3社の第3相の全員に匹敵する)。
ワクチンの有効率(感染者を何割減らせるか)に関しては、FDAは点推定値50%、95%信頼区間下限30%以上であることを求めている。インフルエンザ・ワクチンの数値などを参考にして決めた模様だが、感染者の急増を防ぐためには集団の60%以上が免疫を獲得する必要があるという集団免疫論者から見ると、不十分だ。また、軽症はカウントせず重症・致死的な感染症を防ぐ効果を検討すべきという意見もあった。この場合、組入れ数や追跡期間などを増やす必要が生まれるかもしれないので、スピードが犠牲になる。
開発者や治験に参加する医療従事者、被験者にとって切実な問題は、もしEUAが認められた場合、二重盲検を解除して偽薬群の患者にワクチン接種を認める倫理的な責務が生じる可能性があることだ。FDAのガイダンスは承認審査機関と相談するよう勧奨しているが、もしクロスオーバーを認めると、おそらくワクチン効率以上に重要なポイントである、感染予防効果の持続性を検証できなくなってしまう。逆に、もし認めないと、新規組入れが困難になるだろう。
データの頑強性を重視するか、開発スピードを重視するかという我が国にも当てはまる問題に加えて、米国では、大統領選も影を落として複雑性を増している。英国にはBriton has never been asked, but told(英国人は政府に尋ねられることはない、告げられるだけだ)という揶揄がある。日本人もCOVID-19治療薬やワクチンに関しては議論に殆ど参加させてもらえず、結果(治験の成功、あるいはFDAやEUのEUA/承認)を受け入れるだけの立場だが、それでも、背景を理解しておくことくらいはできるだろう。
リンク: FiercePharmaの記事
リンク: Endpoints Newsの記事
COVID-19:レムデシビルが本承認に
(2020年10月22日発表)
FDAは5月にギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir、ベクルリー)をCOVID-19治療薬としてEUA(非常時使用認可)したが、今回、正式に承認した。これまでギリアドは米国でプレスリリースを出す度にVekluryは承認されていないと注記していたが、必要なくなったわけだ。同社は重大な脅威に対応する薬を開発し承認取得した企業に交付される、Material Threat Medical Countermeasure Priority Review Voucherを取得した。他社に譲渡すれば1億ドル規模の収入を得られるだろう。
適応になるのは成人と12歳以上且つ体重40kg以上の小児の、入院を必要とするCOVID-19感染者。EUAの対象のうち体重3.5kg以上40kg未満はエビデンスが十分でないためEUAに留められた。病院に入院しなくても、医療的ケアを行うことができる施設に入っている患者なら点滴静注できる。ホワイトハウスで投与しても良いという意味だろう。
FDAが薬効と安全性のエビデンスとして採用したのはNIAID(米国アレルギー・感染症研究所)が主導したACTT-1試験と、ギリアドが実施した重症試験と中等症試験の三本。
ACTT-1は10日コースをテストして罹患期間短縮効果を確認、重症試験は5日コースと10日コースを比べたが偽薬群が設定されなかったので、薬効のエビデンスとしては弱い。効果は両群同程度だったが、非劣性解析ではないので、頑強性に欠ける。中等症試験は5日コース群の罹患期間が偽薬比有意に短かったが、10日コース群はトレンドに留まった。10日コース群のメジアン投与期間は6日間と、5日コースと大差なかったことを考えると不思議だ。
承認審査の対象にはならなかったが、WHOが主導したSOLIDARITY試験(10日コース)では主評価項目である死亡リスク抑制効果も、罹患期間短縮効果や危機的悪化抑制効果も見られなかった。
偽薬対照試験の成績をまとめると、10日コースは1勝2敗、5日コースは1勝、総計で2勝2敗となり、効くと結論すべきか、効かないと断じるべきか、コインを投げて表裏で決めるのと同じ状態である。承認審査機関にとっては2勝することが最重要で、もう一本がフェールでも容認するというのがFDAが抗鬱剤などで示している判断だが、2勝2敗となると悩ましく、諮問委員会の意見を仰いだ前例もある。今回は間に合わなかったとしても、WHOにSOLIDARITY試験のデータの提供を求め精査することになるのではないだろうか。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース
【新薬開発】
バイエル、新薬が第3相で糖尿病性腎症の悪化を抑制
(2020年10月23日発表)
バイエルは7月にBAY 94-8862(finerenone)の第3相試験成功を発表したが、今回、データをASN(米国腎臓学会)のRenal Week 2020でバーチャル発表した。大規模なアウトカム試験で糖尿病性腎症の悪化を抑制する効果が確認された。年内に承認申請する予定。
finerenoneは非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(MRA)。類薬ではspironolactoneやeplerenoneが慢性心不全などの治療薬として長年、用いられ既にGE化しているが、腎機能低下や高カリウム血症のリスクなどが見られる。今回の試験の対象疾患が腎症で、高カリウム血症がそれほど増えなかったことと対照的だ。
この、FIDELIO-DKD試験は、二型糖尿病と慢性腎疾患を患う5734人を欧米日中の施設で組入れて、finerenone(一日一回経口投与)群と偽薬群の転帰をメジアン2.6年間追跡した。主評価項目は腎不全、eGFR低下(ベースライン比で40%以上の低下が4週間以上持続)、または腎疾患死亡の複合評価項目。結果は、ハザードレシオ0.82(95%信頼区間0.73-0.93)、p=0.0014だった。個々のイベントのハザードレシオは夫々0.87、0.81、無意味(各群2例のみ)で有意水準なのはeGFR低下だけだが、腎不全も好ましい方向を向いている。
副次的評価項目のうち心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全入院の複合評価項目はハザードレシオ0.86(95%信頼区間0.75-0.99)、p=0.0339で有意だがボーダーライン近辺。個々のイベントのハザードレシオは夫々0.86、0.80、1.03、0.86で何れも有意水準ではなく、全体的に、迫力が弱い。
深刻有害事象の発現率は32%(偽薬群は34%)。高カリウム血症の発現率は18%(同9%)で深刻なものの発現率は1.6%(0.4%)だった。
finerenoneは症候性心不全の第3相アウトカム試験も日米欧などで進行中。
リンク: バイエルのプレスリリース
リンク: Bakrisらの治験論文抄録(NEJM)
ダラザレックスの幹細胞移植後地固め試験が成功
(2020年10月21日発表)
デンマークの新薬開発会社ジェンマブ(Nasdaq:GMAB)は、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)の多発骨髄腫ASCT(自家造血幹細胞移植)付随療法試験のパート2が中間解析で成功したと発表した。導出先であるジョンソン・エンド・ジョンソンが効能追加に向けて当局と相談する予定。
Darzalexはジェンマブが創製した抗CD38抗体。15年に米国で多発骨髄腫の四次治療薬として承認された後、様々な薬との併用で適応や用法を広げてきた。
今回のCASSIOPEIA試験は仏蘭白の共同治験グループが多発骨髄腫の新患でASCTが適応になる患者を組入れて、パート1では移植前にVTdレジメンにDarzalexを追加する効用を検討したところ、完全反応率の向上に成功した。今回発表されたパート2では、移植後の地固め療法として16mg/kgを8週毎に最大2年間投与するレジメンのPFS(無進行生存期間)を観察だけの群と比較したところ、ハザードレシオが0.53、p<0.0001だった。
リンク: ジェンマブのプレスリリース
MSDの肺炎球菌ワクチン、複数の第3相が成功
(2020年10月20日発表)
MSDは15価肺炎球菌ワクチンのV114(PCV-15)を年内に米国で承認申請する計画で今年6月と9月に50歳以上の健常者を組入れた第3相Prevnar 13(和名プレベナー13)対照試験の成功を発表したが、今回、更に二本の成功を発表した。
一本は50歳以上の健常者、もう一本は18~49歳で肺炎球菌感染時のリスクが高い慢性肺疾患などの有病者を組入れて、前者は1年後、後者は6ヶ月後に23価莢膜ポリサッカライド肺炎球菌ワクチンPneumovax(和名ニューモバックスNP)を接種するスケジュールの効果をPrevnar 13、そして1年/6ヶ月後にPneumovaxを接種した群と比較した。
前者の試験の主評価項目である、Pneumovax接種30日後のOPA-GMT(オプソニン化貪食活性による幾何平均抗体価)は、V114がカバーする15血清型全てについて、同程度だった。Prevnar 13は22F株と33F株をカバーしていないが、Pneumovaxでブーストするつもりなら大きな違いはないということなのかもしれない。
副次的評価項目であるV114またはPrevnar 13接種30日後のOPA-GMTは22F株と33F株についてはV114が上回り、その他の13血清型は同程度だった。18~49歳高リスク患者試験はこの指標が主評価項目で、同様な結果になった。
下記のように、Prevanar 13を販売しているファイザーは20価肺炎球菌結合ワクチンPF-06482077(20vPnC)を米国で承認申請した。来年にはこの二剤がACIPなどのワクチン接種勧奨組織の支持を獲得すべく争うことになる。
リンク: MSDのプレスリリース
ユニバーサル・インフルエンザ・ワクチンの第3相がフェール
(2020年10月23日発表)
BiondVax Pharmaceuticals(Nasdaq:BVXV)は、M-001の第三相試験がフェールしたと発表した。感染や重症化を予防する効果が偽薬を有意に上回らなかった。
季節性インフルエンザ・ワクチンはそのシーズンに流行しそうな株をA(H1)型とA(H3)型から一つずつ、そしてB型から二つを選んで、そのヘマグルチニンを抗原として配合する。予想が外れるとワクチン効率が低下することになり、米国の調査では、平均40%程度(感染者が4割減り)だが外れたシーズンは10%程度に低下するという。解決策として模索されているのがM-001のようなユニバーサル・インフルエンザ・ワクチンだ。イスラエルのWeizmann研究所が開発した技術を用いて、インフルエンザ・ウイルスの良く保存された(変異が見られない)エピトープ9種類を一つに融合したものを抗原にした。
NIH(米国衛生研究所)が実施した後期第2相試験では安全性や細胞性免疫誘導能が示されたが、今回の、東欧7ヶ国で50歳以上の健常者12463人を組入れて21日置いて二回筋注する効果を検討した試験はフェールした。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
アストラゼネカ、タグリッソのアジュバント療法を承認申請
(2020年10月20日発表)
アストラゼネカは、Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)をEGFR変異陽性非小細胞性肺癌の術後アジュバント療法に用いる適応拡大を米国で申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年第1四半期。
TagrissoはT790MなどのEGFR阻害剤抵抗性変異にも活性を持つEGFR阻害剤。EGFR活性化変異陽性非小細胞性肺癌の一次治療などに日米欧などで承認されている。今回の申請は、EGFR変異陽性の早期非小細胞性肺癌で治癒的完全切除に成功した患者に最大3年間に亘って80mgを一日一回経口投与するというもの。ADAURA試験では2年無病生存率が89%と偽薬群の53%を大きく上回った。G3以上の有害事象発現率は各10%と3%だった。
リンク: 同社のプレスリリース
ファイザー、20価肺炎球菌結合型ワクチンを承認申請
(2020年10月21日発表)
ファイザーは、20価肺炎球菌結合型ワクチンのPF-06482077(通称20vPnC)を米国で承認申請したことを明らかにした。欧州でも来年第1四半期中に申請する考え。
同社のベストセラー・ワクチンであるPrevnarは20年前に米国で承認された時は7血清型をカバーするだけだったが、9年前に欧米で承認されたPrevnar 13は13血清型、そして、今回、23血清型をカバーする大先輩のPneumovaxまであと一歩のところまで来た。第3相では20血清型のうち19でOPA-GMTがPrevnar 13/Pneumovaxと非劣性、残りの1型についてもあと一歩だった。
リンク: ファイザーのプレスリリース
今週は以上です。
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