2020年5月1日

第943回

訂正:remdesivirの中国試験について、事実関係の誤解を訂正しました。論文が刊行され、ハザードレシオ1.23はremdesivirのほうが悪いのではなく良かったことが判明しました(2020/5/1付)

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:テムセルが人工呼吸器患者の回復を支援 
  • COVID-19:NY地区入院患者の特性と転帰 
  • COVID-19:remdesivirの中国試験の結果がリーク 
  • COVID-19:ヒドロキシクロロキンは有効か 
  • Idorsia社、オレキシン受容体アンタゴニストの最初の第三相が成功 
  • BMS、オプジーボの適応拡大試験が二本成功 
  • サノフィ、髄膜菌性疾患ワクチンが承認 
  • Immunomedics、TROP-2標的ADCがTNBCに承認 
  • JNJ、イムブルビカをリツキシマブと併用することが承認 


【今週の話題】


COVID-19:テムセルが人工呼吸器患者の回復を支援
(2020年4月24日発表)

オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB、Nasdaq:MESO)は、COVID-19で中重度急性呼吸窮迫症候群を合併し人工呼吸器のサポートを受けている患者12人に同社が開発しているヒト間葉系幹細胞医薬品、Ryoncil(remestemcel-L、和名テムセル)を投与したところ、9人が人工呼吸器を外すことができ、7人が退院、死亡率は17%に留まっていることを明らかにした。この事例をもとに、北米で第2/3相試験を実施する考え。

この症例報告は、NY市のMt Sinai病院が非常時の治験許可(IND)に基づいて実施したもの。対照群がないのではっきりしたことは分からないが、次項のNY市地域全体のデータと比べると、良さそうに見える。

remestemcel-Lは健常者の骨髄から抽出した間葉系幹細胞。開発が難航し経営困難に陥った会社からMesoblastが事業取得したもの。日本ではJCRファーマが導入し15年に急性移植片宿主病(GvHD:血液癌で他家造血幹細胞移植を受けた患者などで移植細胞が患者の組織を攻撃してしまう病気)治療用の再生医療等製品として承認された。米国でも今年に入って小児急性GvHDに承認申請され、9月30日に審査期限を迎える。

リンク: Methoblastのプレスリリース

COVID-19:NY地域入院患者の特性と転帰
(2020年4月22日発表)

米国ニューヨーク市は人口の1%以上がSARS-CoV-2に感染し、その6%程度が死亡と、大きな影響を受けている。陽性判定されていない3000人の検査では13%が陽性だった。そのニューヨーク市地域でCOVID-19感染により入院した連続5700人の持病や治療、転帰などを分析した、電子医療記録による後顧的研究の論文がJAMA誌に電子刊行された。簡素なものだが、医療現場の大変さを思えば、このような分析を行ったこと自体が称賛されるべきだろう。

5700人の患者背景は、年齢はメジアン63歳(四分位範囲52-75歳)、女性が40%(!)、持病は高血圧が56%、肥満41%、糖尿病33%、喫煙経験なし84%(!)、癌は6%。臨床検査値の平均を見ると、しばしば指摘されるように、BNP値やD-dimerが参照値をかなり上回っている。

5700人中、侵襲的人工呼吸器症症例は1151人(20%)で、転帰は死亡が24%、生存退院3%で、72%は入院中。

また、5700人のうち退院・死亡した2634人の治療や転帰は、侵襲的人工呼吸器症例が320人(12%)、腎移植が81人(3%)、死亡は553人(21%)。

印象的なのは、第一に、トリアージ時点で38度以上の発熱があったのは30%、酸素補給が必要だったのは27%と、症状が多様であることだ。第二に、年代別の転帰を見るとやはり高齢なほど死亡率が上昇しているが、どの年代でも死亡するまでのメジアン入院期間が3-6日程度と、短いこと。罹患期間が2週間ともいわれる中、本研究のメジアン追跡期間は数日と短く、今後亡くなる方もいるのかもしれないが、短期死亡者が相当数いることが分かる。

尚、米国の死亡率が高く特に黒人で高い理由の一つとして、健康保険が強制ではないことが想像されているが、今回の研究に限れば殆どが民間・公的医療制度に加入していた。

リンク: Richardsonらの論文(JAMA、オープンアクセス)

COVID-19:remdesivirの中国試験の結果がリーク
(2020年4月23日発表)

COVID-19治療薬の候補の一つであるギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)は、同社やNIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導する大規模な第三相試験が進行中で、ギリアドの重症入院患者を対象とする試験の結果は今月末飲み込み。中等症入院患者試験とNIAID試験の結果は5月末の見込みだが、報道によると、5月上中旬に判明する可能性があるようだ。このほかに、INSERM(フランス国立保健医学研究所)もDisCoVeRy試験を実施中。

先に開始された中国の研究者主導試験は、流行が一巡して患者組入れが困難になったため、重症入院患者試験も軽中等症試験も打ち切られたが、前者の結果がWHOのサイトの手違いで公開されてしまった。Boston Globe系のニュースメディア、STATが発見し、9行程度の記述のスクリーンショットとともに報じた。現在は撤回されている。治験論文がまだ学術誌の査読中で、著者から許可を得ていない情報を公開してしまったようだ。

内容は失望的なものだった。首都医科大学がスポンサーとなって中日友好医院などの施設で237人をremdesivir群と偽薬群に2対1無作為化割付して、臨床症状改善(退院から死亡までの6段階の分類が2段階以上改善)までの期間を盲検で検討したところ、ハザードレシオは1.23で、統計的に有意な差はなかった。28日死亡率も13.9%対12.8%で有意ではないが向きが違う。PCR陰転も有意な差はなかった。有害事象による離脱率は11.6%対5.1%で上回った。

ギリアド側は、途中で打ち切られた試験なので十分な検出力はないと指摘している(最初の治験登録では452人目標だった)。ギリアドは、潜在的な便益のトレンドが、早い段階で治療を受けた患者で特に、示唆されたことを指摘している。上記資料では言及されていないので、論文刊行まで何とも言えない。

(抗ウイルス剤なので感染後早い段階で投与したほうが良いのだろうが、サルの試験とは異なり、臨床では感染12時間後、24時間後ではなく、1~2週間後が普通なのだろうから、どの程度早く投与する必要があるのか定量情報が必要だ。)

何れにせよ、対照試験一本だけでは結論は出せない。ギリアドの重症入院患者試験は5日コースと10日コースの二群で偽薬群が無いので、客観評価は難しい。5月に偽薬対照試験の結果が出るまで答えはお預けだ。

リンク: STATの報道
リンク: ギリアドのコメント

COVID-19:ヒドロキシクロロキンは有効か
(2020年4月24日発表)

COVID-19の治療法として複数の医薬品や新薬の試験的投与や臨床試験が進行しているが、今のところ、効果が確立したと言えるような薬は見つかっていない。それどころか、デザインが不十分なので決定的とは言えないがフェールした試験も少なくない。大統領就任前から医学的リテラシーに疑問の声も上がっているトランプ大統領がゲームチェンジャーと呼んだhydroxychloroquine(HCQ)/chloroquineも同じで、EMAは早くから心毒性などに注意を呼び掛けてきたが、FDAも、遂に、QT延長(突然死との関連が指摘されている心電図兆候)を密接に監視し、入院患者以外には使わないよう警告した。

リンク: FDAの安全性情報

それに先駆け、退役軍人保険局のデータを用いた後顧的研究が失望的な結果になったことが判明した。

査読前の論文草稿サーバーであるmedRxivで公開されたMagagnoliらの研究論文によると、退役軍人保険局の医療施設に4月11日までに入院した388人の確定SARS-CoV-2感染患者のデータを分析したところ、HCQによる治療を受けた97例の死亡率は27.8%、HCQとazithromycin(AZ)を施行された113例は22.1%、HCQ暴露が無かった158例(この3割はazithromycinあり)は11.4%だった。HCQ群のほうが重症であったが、これらの因子を調整した後のハザードレシオでも、HCQ群は非HCQ群の2.61倍(95%信頼区間1.10-6.17、p=0.03)だった。HCQ・AZ併用群も1.14倍だったが統計的に有意ではなかった。他の評価項目でもHCQの有望性は見られなかった。

この試験の対象はメジアン69歳、6割超がアフリカ系とかなり偏っている。解析方法もtime-to-event分析ではなく、そのせいか、分析対象が退院又は死亡した患者だけで入院したままの患者が除外されている。後顧的分析はベースラインに偏りが出やすく、例えば、未承認薬で患者同意書を取る必要のある薬を敢えて使わなければならない患者と、使わずに済んだ患者を比較するのは無理がある。本論文は修正ハザードレシオを使うことで克服しようとしているが、数百例では適切な修正はできないのではないか?

結果についても、HCQが死亡リスクを高めるとしたら、AZが特効薬でないかぎり、HCQとAZを併用した群の死亡リスクも高いはずだ。上記のFDA安全性情報は、AZもQT延長リスクがあり併用で更に高まる可能性を指摘している。

このように奇妙な点も多いが、死亡リスク2倍という指摘は無視できない。in vitroでSAR-CoV-2を抑制した用量はリウマチなどに承認されている用量の数倍なので副作用リスクがもっと高まるだろう。キチンとした試験で効果や安全性を確認する必要がある。

リンク: Magagnoliらの論文草稿

朗報は、ノバルティスがGE薬子会社のサンドを通じてHCQの第三相COVID-19試験を行うと発表したこと。Johns Hopkins大のDr. Richard Chaissonが主導して、米国の医療施設で入院患者440人を偽薬群、HCQ群、HCQ・AZ併用群に無作為化割付して転帰を比較する。5月に開始、結果は6月にも判明する見込み。

ノバルティスは臨床研究に資するため1.3億回分のHCQを寄付することをコミットしているが、今回の試験が成功しても発生する知的所有権を独占してアクセスを妨げるようなことはしないと表明している。

話は飛躍するが、GE薬は巨額を投じて臨床試験を行っても果実を独占できないので、民間企業が今回のような適応拡大試験を行うのは異例だ。通常は、似たような薬を新薬として開発しGE薬より高く販売して投資を回収する。しかし、そうして開発された新薬が売れず旧薬のオフレーベル使用が続く事例は少なくない。新薬として開発するのは時間も費用もかかるので、公的組織や医療保険業界がスポンサーになって、GE薬の新用途での開発を推進するような仕組みを作るほうが全体最適だろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(4月20日付)


【新薬開発】


Idorsia社、オレキシン受容体アンタゴニストの最初の第三相が成功
(2020年4月20日発表)

Idorsia(SIX: IDIA)は、ACT-541468(daridorexant)の最初の第三相不眠症治療試験が成功したと発表した。もう一本は今年7-9月期に判明する見込みで、その後に承認申請に向かうものと思われる。

Idorsiaはアクテリオンがジョンソン・エンド・ジョンソンに買収された時にスピンアウトした会社で、複数の開発後期パイプラインを持っている。daridorexantはオレキシン受容体アンタゴニストで、日米で承認されているMSDのBelsomra(suvorexant)やエーザイのDayvigo(lemborexant)と同作用機序・同適応症となる。今回の第三相では1ヶ月後と3ヶ月後の客観的/主観的睡眠潜時や中途覚醒時間、日中の運動機能などが有意に改善した由。プレスリリースは長いが具体的なデータは記されていない。

日本ではイドルシア ファーマシューティカルズ ジャパンが持田製薬と共同開発販売提携を結んでいる。

リンク: Idorsiaのプレスリリース

BMS、オプジーボの適応拡大試験が二本成功
(2020年4月20日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)の適応拡大試験二本が成功したと発表した。データは未公表。適応拡大申請に向かうことになりそうだ。

一つは悪性胸膜中皮腫の一次治療においてYervoy(ipilimumab)と併用する効果を化学療法と比較したCheckMate-743試験。OpdivoとYervoyの併用用量は二種類あるが、本試験は前者が3mg/kgを2週毎、後者は1mg/kgを6週毎投与。化学療法はcisplatinまたはcarboplatinをpemetrexedと併用する標準療法。PD-L1は不問。主評価項目の全生存期間が中間解析で成功認定された。

Opdivoは悪性胸膜中皮腫では二次治療に承認されている。

リンク: BMSのプレスリリース

もう一本は進行/転移腎細胞腫の一次治療においてCabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)錠と併用する効果をファイザーのSutent(sunitinib)と比較したCheckMate-9ER試験。主評価項目のPFS(無進行生存期間)に加えて、副次的評価項目とされた全生存期間(オープンレーベル試験なので重要)も中間解析で目的達成した。

Opdivoは腎細胞腫では単剤で二次治療に、米国ではYervoy併用で中高リスク患者の一次治療にも、承認されている。CabometyxはExelixis(Nasdaq:EXEL)が開発したVEGFR阻害剤で、腎細胞腫の二次治療だけでなく一次治療にも日米欧で承認されている。CabometyxだけでもSutentに勝ったのだから、本試験はSutentを上回るだけでは不十分、Cabometyxの数値をどこまで伸ばせるかどうかが注目点になる。

OpdivoのライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)は、一次治療にファイザーのもう一つのVEGFR阻害剤、Inlyta(axitinib)と併用することが承認されている。

リンク: BMSとExelixisのプレスリリース


【承認】


サノフィ、髄膜菌性疾患ワクチンが承認
(2020年4月24日発表)

サノフィは、FDAが髄膜菌性疾患ワクチンMenQuadfiを承認したと発表した。A/C/Y/W株をカバーするジフテリアトキソイド結合ワクチンで、対象年齢が2歳以上と広いことが特徴。

リンク: サノフィのプレスリリース

Immunomedics、TROP-2標的ADCがTNBCに承認
(2020年4月22日発表)

FDAは、Immunomedics(Nasdaq:IMMU)のTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)をトリプル・ネガティブ転移乳癌(TNMBC)で二次の治療歴を持つ患者向けに加速承認した。審査期限は6月2日なので前倒しだが、審査は二巡目でFDAは一巡目に治験成績については大きな問題を指摘していなかった模様なので、サプライズとは言い難い。

TrodelvyはEGP-1(epithelial glycoprotein-1:別名TROP-2)を標的とする抗体をirinotecanの活性代謝物であるSN-38と結合したADC(抗体薬物複合体)。EGP-1はher2、エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体の全ての発現が陰性であるトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)の80%以上で発現する一方、正常細胞には少ない。FDAのリリースによると、第1/2相試験でORR(客観的反応率、担当医評価、n=108)が33.3%、メジアン反応持続期間は7.7ヶ月だった。

このデータに基づき18年に承認申請されたが、工場査察時にデータの改ざんなどが発覚、審査完了となった。CEO退任を経て、19年12月に再承認申請され、承認に漕ぎ着けた。好中球減少症と下痢が枠付警告となった。

ORRなどの代理マーカーに基づいて加速承認を受けた場合、別途、臨床試験を行って延命効果や症状改善効果を確認する必要がある。Immunomedicsは17年にASCENT試験を開始したが、承認に手間取る間に、先日、独立データ監視委員会が繰上げ成功認定した。データは未公表。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Immunomedicsのプレスリリース

JNJ、イムブルビカをリツキシマブと併用することが承認
(2020年4月21日発表)

FDAは、70歳以下で未治療のCLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)にジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)とrituximabを併用することを承認した。FCRレジメン(fludarabine、cyclophosphamide、rituximabの併用)と比較したE1912試験でPFSハザードレシオが0.34だった。37ヶ月時点のPFSは88%とFCRレジメンの75%を上回った。

ImbruvicaはBTK阻害剤。適応・用法開発が積極的に行われており、今回の承認はCLLでは6回目、全6疾患領域では11回目となる。

リンク: FDAのプレスリリース



今週は以上です。

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