【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:GSK、COVID-19ワクチン用アジュバントを量産へ
- ASCO:エンハーツが第二相三本で好成績
- ASCO:キイトルーダとレンビマの併用試験二本
- ASCO:キイトルーダはMSI-H/dMMR結腸直腸癌なら一次治療にも有効
- ASCO:タグリッソがEGFRm+NSCLCの切除後アジュバントで良績
- Argenx社、抗FcRn抗体フラグメントを全身性重症筋無力症薬として承認申請へ
- イブランスの術後アジュバント試験はフェール
- GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群用薬として承認申請
- Protalix社、今度はファブリー病の酵素補充療法を承認申請
- CHMP、エボラワクチンや分子標的薬の承認を支持
- FDA、子宮筋腫による過多月経の治療薬を承認
- ロシュ、テセントリクが肝細胞腫に適応拡大
- BMS、オプジーボとヤーボイが肺癌で用法追加
- FDA、ALK阻害剤をALK転座陽性NSCLCの一次治療に承認
【今週の話題】
COVID-19:GSK、COVID-19ワクチン用アジュバントを量産へ
(2020年5月28日発表)
グラクソ・スミスクラインは、21年にパンデミックCOVID-19ワクチン用のアジュバントを10億回分生産すべく、リスクを覚悟で増産投資する決意を発表した。パンデミック期は利益を追求せず、利益はCOVID-19ワクチンの研究開発や他のパンデミックに備えた投資に充当する考え。
アジュバントはワクチンの抗原性を強化する添加物で、一回分に含まれる抗原量を節約できるので、今回のように大量の抗原が必要とされる環境下では重要な要素技術となる。通常はアルミなどを用いるが、同社は新種のアジュバントに積極的に取り組んでおり、例えば、子宮頸がんワクチンのサーバリックスには、Corixa社が開発したグラム陰性菌由来のTLR4刺激剤、monophosphoryl lipidを含有するAS04アジュバントが添加されている。
GSKはサノフィとCOVID-19ワクチンで協業を発表したが、欧州や中国でもコラボを決め、他にも多くの開発者と交渉中とのこと。サノフィ提携だけでも年10億回分以上を供給する計画なので、供給先が増えればアジュバントも10億回分では足りないが、すべての開発品が成功するとは限らないし、GSKはGSKで、10億回分を作るのは大仕事なのだろう。
どのようなアジュバントなのかはプレスリリースには記されていないが、報道によると、スクアレンなどから構成されるAS03アジュバントを想定しているようだ。2019年型パンデミックインフルエンザのワクチンとして欧州で3000万回以上、接種されたPandemrixに採用されている。
Pandemrixに関してはスエーデンやフィンランドで数百人のナルコレプシー症例が発生し、EMAが関連性を検討したことがあるが、結局、結論が出ないまま15年に販売認可が失効した(GSKが更新しなかった)。免疫機構がH1N1ウイルスと類似した蛋白を攻撃することが原因であり、ワクチンを接種しなくても感染すればナルコレプシーが起きる可能性がある、との説もあるが、アジュバントがこのリスクを高める可能性もあるのではないか。
ナルコレプシー症例は青少年が多かったが、この世代におけるCOVID-19重症化リスクはそれほど高くないのだから、真偽が分からないままCOVID-19ワクチンが実用化されたら若者は救われない。特に、日本は、事前には耳障りの良いことしか言わずに、副作用懸念が浮上したらリスクや危険便益バランスを十分に検討せずに臭いものに蓋をして済ませる性癖がある(最近では子宮頸癌ワクチン)。起きてから議論をしても上手く行かないのだから、事前に十分検討してほしいものだ。
リンク: GSKのプレスリリース
【新薬開発】
ASCO:エンハーツが第二相三本で好成績
(2020年5月29日発表)
第一三共と共同開発販売提携先のアストラゼネカは、Enhertu(trastuzumab deruxtecan、和名エンハーツ)を胃癌、肺癌、大腸癌の治療に充てた第二相試験三本の結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。何れもher2変異を持つ一部の癌だけが対象だが、概して良好で、第三相に期待がかかる。
EnhertuはロシュのHerceptinの活性成分である抗her2抗体、trastuzumabとirinotecan誘導体をテトラペプチド・リンカーで結合した抗体薬物複合体。米国で昨年12月に、日本でも今年1月に、her2陽性の切除不能/転移乳癌用薬として承認された。現時点では他の抗her2抗体を先に使うことになるが、将来的には、もっと早い段階や、Herceptinの対象にならないher2低度発現乳癌、そして他の部位のher2陽性癌にも出番を増やしていきそうだ。乳癌用薬の需要は早期乳癌の切除後のアジュバント療法用途が最大だが、忍容性が重視されるので、現時点ではEnhertuの適否は不透明である。
上記三本の一つは、DESTINY-Gastric01試験。her2陽性の切除不能/転移胃癌・胃食道接合部腺腫の三次治療で、日本で先駆け審査指定、米国でもブレークスルーセラピー指定を受けている。日本と韓国の医療施設で175人をEnhertu群(承認用量の5.4mg/kgより多い6.4mg/kgを三週毎点滴静注)と実薬群(irinotecanまたはpaclitaxelから治験医が選択)に2対1割付して、cORR(確認客観的奏効率、独立中央評価)を比較したところ、42.9%対12.5%と有意に上回った。メジアン反応持続期間も11.3ヶ月対3.9ヶ月と良好。
副次的評価項目の全生存期間は未だ中間解析だが、メジアン12.5ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオ0.59、p=0.0097となった。G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症や貧血などの骨髄抑制関連など。治療関連間質性肺疾患/肺臓炎(独立評価委員会が検証)はG3が2例、G4は1例、G5(死亡)はゼロだった。
胃癌のうちher2陽性は2割とのこと。
この試験の論点は、日韓のデータを欧米に外挿できるか否か。胃癌に関しては予てより、日米の治療成績の乖離が議論になっており、日本の執刀医に言わせれば早期発見と高度な医療技術の成果、米国側に言わせれば必ずしも寿命に影響しない早い段階の患者を切っているから。注目されるのはAvastin(bevacizumab)をcapecitabine及びcisplatinの標準的一次治療レジメンに追加する効果を検討したAVAGAST試験のサブグループ分析だ。欧州や米国の施設では全生存期間のハザードレシオが何れも0.85だったが、日韓を中心とするアジアの施設では0.97と見劣りし、全体の解析もフェールした。Avastin追加群のメジアン生存期間は大差なかったが、偽薬追加群は日本が12.1ヶ月、欧州は8.6ヶ月、米国は6.8ヶ月だった。
尤も、今回はハザードレシオが0.59ともっと良い数値が出ており、欧米でもし悪化するとしても、治療効果が消失するほどとは考えにくい。実薬対照試験であることや、三次治療試験であることを考えれば、やはり、素直に評価すべきだろう。
リンク: 両社のプレスリリース(胃癌試験)
次に、DESTINY-Lung01試験はher2陽性またはher2変異を持つ切除不能/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療試験で、こちらも6.4mg/kgを採用している。今回はher2変異42人(白金薬歴を持つ患者が91%、抗PD-1/PD-L1抗体歴は55%)のcORR(独立中央評価)が61.9%、メジアン反応持続期間は未到達であることが公表された。her2変異はher2陽性(過剰発現)とは異なった概念で、非小細胞性肺癌の2-4%で見られる由。Enhertuはher2変異転移非小細胞性肺癌でFDAのブレークスルーセラピー指定を受けている。
リンク: 同(肺癌試験)
最後に、DESTINY-CRC01はher2陽性の切除不能/転移結腸直腸癌の三次治療試験。RAS/BRAF変異癌は対象外。この試験も6.4mg/kgを採用した。cORR(独立中央評価)は45.3%、反応持続期間はメジアン未到達。一方、her2低発現サブグループの探索的解析ではcORRはゼロだった。評価対象は53人。
この試験では間質性肺疾患/肺臓炎(独立評価委員会が検証)が5人(6.4%)で発生し、G2が2例、G3が1例、G4はゼロだがG5は2人だった。
結腸直腸癌のうち2-5%がher2陽性とのこと。
リンク: 同(結腸直腸癌試験)
ASCO:キイトルーダとレンビマの併用試験二本
(2020年5月28日発表)
MSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)とエーザイのVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)の併用は、進行子宮内膜種の二次治療レジメンとして米国で承認されているが、肝臓や腎臓など多くの癌でもテストされている。ASCOでは、肝細胞腫の一次治療と抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ腎細胞腫の臨床初期中期試験結果が発表された。
KeyNote-524試験は後期第一相切除不能肝細胞腫一次治療試験。Lenvimaは体重に応じて8mgまたは12mgを一日一回、経口投与した。36人のcORR(確認客観的反応率、RECIST 1.1に基づく独立画像評価)は36%、反応持続期間はメジアン12.6ヶ月だった。mRECIST基準ではcORRは各46%と8.6ヶ月だった。G3、G4、G5の治療関連有害事象発現率は各63%、1%、3%で、致死例は急性呼吸不全、急性呼吸逼迫症候群、そして間質性穿孔と肝機能異常の併発が各1例だった。
KeyNote-146試験は第二相で抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ腎細胞腫が対象。Lenvimaは20mgを一日一回投与と、ここでも細かく用量を変えている。ORR(RECIST 1.1基準、担当医評価)は52%、反応持続期間はメジアン12ヶ月だった。治療時発現有害事象による死亡は104人中2人で、上部胃腸出血死と突然死。
リンク: 両社のプレスリリース
ASCO:キイトルーダはMSI-H/dMMR結腸直腸癌なら一次治療にも有効
(2020年5月28日発表)
MSDはKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-177試験の結果もASCOで発表した。同薬はMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)固形癌のサルベージ療法として日米で承認されているが、今回の試験はMSI-HまたはdMMR(ミスマッチ修復不全)のある切除不能/転移結腸直腸癌の一次治療として200mgを三週毎に、最大35回投与する効果を検討した。対照群は代表的な標準療法であるmFOLFOX6またはFOLFIRIで、医師の判断でbevacizumabあるいはcetuximabも追加した。
結果は、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)が中間解析で達成認定された。具体的には、ハザードレシオ0.60、p=0.0002、メジアン値は各16.5ヶ月と8.2ヶ月と、かなり良い。もう一つの全生存期間のデータがまだ熟していないため、本試験は続行されている。
マイクロサテライトは塩基配列が何度も繰り返されている箇所を指す。変異が起きやすいので、腫瘍とそれ以外の細胞を比較することで、遺伝子修復が機能しているかどうか判定することができる。dMMRも類似した概念。結腸直腸癌では5-20%が該当するとされる。
リンク: MSDのプレスリリース
ASCO:タグリッソがEGFRm+NSCLCの切除後アジュバントで良績
(2020年5月28日発表)
アストラゼネカは、Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)のEGFR変異陽性早期非小細胞性肺癌の完全切除後アジュバント試験の結果をASCOで発表した。抗癌剤の技術革新が相次ぐ現在でも未開に留まっている、治癒的完全切除が成功した患者の再発予防が成功した意義は大きい。
Tagrissoは第一世代のEGFR阻害剤の治療中にしばしば見られるT79M抵抗性変異に強いEGFR阻害剤で、EGFR活性化変異陽性非小細胞性肺癌の一次、二次治療薬として日米欧で承認されている。今回のADAURA試験は、ステージIB/II/IIIAのEGFR活性化変異非小細胞性肺癌682人を組入れて、80mgを一日一回、最大3年間投与する効果を偽薬群と比較した。主評価項目はステージIIとIIIAのサブグループのDFS(無病生存期間)で、中間解析でハザードレシオ0.17、p<0.0001となり、成功認定された。
副次的評価項目のIBも含んだ解析でもハザードレシオ0.21、p<0.0001となり、2年無病生存率は89%と偽薬群の53%を大きく上回った。全生存期間の解析は未だ成熟していない。
G3以上の有害事象発現率は各10%と3%だった。
アストラゼネカは適応拡大申請に向けて当局と相談する考え。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
Argenx社、抗FcRn抗体フラグメントを全身性重症筋無力症薬として承認申請へ
(2020年5月26日発表)
オランダのArgenx(Euronext & Nasdaq:ARGX)は、ARGX-113(efgartigimod)の第三相全身性重症筋無力症試験が成功したと発表した。年内に米国で承認申請する計画。
AGRX-113はFcRn(胎児性Fc受容体)を標的とする抗体のフラグメント。FcRnは細胞に取り込まれたIgG抗体のFc領域に結合し、リソソームに輸送されて分解されるのを防ぐ。IgG抗体の異常が係る、筋無力症や原発性免疫血小板減少性紫斑症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、尋常性天疱瘡の治療薬として臨床開発が進められている。
今回のADAPT試験は、日米欧で167人の成人を組入れて、10mg/kg週一回点滴静注群の26週間後のMG-ADL反応率を偽薬群と比較した。主評価項目のAChR抗体陽性サブグループの反応率は67.7%となり、偽薬群の29.7%を有意に上回った。陰性患者を含む全集団の反応率も有意な差があった。
同社によると、重症筋無力症は米国で65000人、日本も2万人が罹患。この8-9割がAChR抗体陽性。
リンク: 同社のプレスリリース
イブランスの術後アジュバント試験はフェール
(2020年5月29日発表)
ファイザーは、CDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib、和名イブランス)のPALLAS試験が中間解析で無益(続行しても成功する確率が極めて低い)認定されたと発表した。アカデミア主導試験で、詳細は研究者側が発表する。
ホルモン受容体陽性、her2陰性の早期乳癌を組入れた術後アジュバント試験で、内分泌療法を5年以上施行する標準療法群と、Ibranceの2年コースも施行する群の浸潤性乳癌無再発生存期間を比較した。
Ibranceはホルモン受容体陽性、her2陰性の転移性乳癌に内分泌療法薬と併用することが承認されている。忍容性が若干悪いのでアジュバント試験の成否が注目されたが、意外な結果になった。Ibranceは術前化学療法で完全反応しなかった高リスク早期乳癌の術後アジュバント試験、PENELOPE-Bも進行していて、年内に結果が出る見込み。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群用薬として承認申請
(2020年5月27日発表)
グラクソ・スミスクラインは、抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を好酸球増多症候群の治療に用いる適応拡大申請をFDAが優先審査すると発表した。審査期限は不明。POC試験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行されたのは09年で元々はリードインディケーションだったのだが、昨年、遂に第三相試験が成功、32週間の増悪発生率が56%と偽薬群の28%を有意に上回った。
Nucalaは重度好酸球性喘息症の維持療法や好酸球性多発血管炎性芽腫症の治療薬として日米欧で承認されている。
リンク: 同社のプレスリリース
Protalix社、今度はファブリー病の酵素補充療法を承認申請
(2020年5月28日発表)
Protalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX)とパートナーのChiesiは、米国でPRX-102(pegunigalsidase alfa)をファブリー病治療薬として承認申請したと発表した。三本の第三相試験のうち完了したのは類薬であるReplagal(agalsidase alfa)からスイッチする単群試験だけだが、加速承認を目指す。
同社は遺伝子を植物細胞で発現させる技術を持ち、ファイザーにライセンスしたElelyso(taliglucerase alfa)が1型ゴーシェ病治療薬として12年に米国で承認された。PRX-102も化学装飾したPEGを結合したアルファ・ガラクトシダーゼAを植物細胞で量産する。循環半減期が80時間と長いのが特徴。Replagalスイッチ試験では2mg/kgを二週毎に投与して腎機能(eGFR)の変化を観察したところ、Replagal使用中と比べて悪化ペース(スロープ)が小さかった。
メインのBALANCE試験はサノフィのFabrazymeを1年以上使用している腎機能低下患者をFabrazyme継続群とPRX-102スイッチ群に割付けて、eGFRの変化を比較する。12ヶ月中間解析で非劣性検定を、24ヶ月最終解析で優越性検定を、行う予定。もう一本は、FabrazymeやReplagalを使っていた患者にこの試験では4週毎に投与して効果や忍容性を検討する単群試験。腎リスクの小ささと投与頻度をセールスポイントにする考えなのだろう。
ファブリー病はアルファ・ガラクトシダーゼの欠乏により、分解できなかった蛋白が血管内皮や臓器に蓄積し、様々な障害をもたらす。罹患率は1~4万人に一人と推測されている。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
CHMP、エボラワクチンや分子標的薬の承認を支持
(2020年5月29日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、5月の会合で、ジョンソン・エンド・ジョンソンのエボラウイルス疾患ワクチンなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
JNJグループのヤンセン・ファーマシューティカルが承認申請したエボラウイルス疾患ワクチンは、例外的環境条項に基づく加速承認が支持された。臨床試験は免疫原性試験だけで、予防効果は動物試験のデータから類推された。対象年齢は1歳以上。
最初にZabdeno(Ad26.ZEBOV)を、8週後にMvabea(MVA-BN-Filo)を、接種する。効果がフルに発揮されるまで時間がかかるため、直ぐに必要な場合は、昨年11月にEUで承認されたMSDのErveboのほうが一回で済むため適している。
プライムワクチンのZabdenoは26型アデノウイルスにZaire種エボラウイルスの糖タンパクの全長遺伝子を導入したもの。ブースターワクチンのMvabeaは改変ワクシニア・アンカラにZaire種エボラウイルスなど5種類のウイルスの糖タンパクを導入したもので、デンマークのBavarian Nordicからライセンスした。
CHMPは、エボラ感染者を治療する医療従事者などが用いる場合はMvabea接種の4ヶ月以上後にZabdenoをもう一回接種することを検討するよう推奨している。
米国では未だ承認申請に向けた相談段階のようだ。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ヤンセンのプレスリリース
ノバルティスのPiqray(alpelisib)はPIK3CA変異陽性ホルモン受容体陽性her2陰性の局所進行性/転移乳癌で内分泌療法歴を持つ閉経後女性または男性に、fulvestrantと併用することが支持された。PI3Kアルファ阻害剤で、PI3Kの酵素活性部位であるPIK3CAに機能獲得変異が生じPI3KアルファやAktシグナルが活性化した癌を狙い打つ。変異の有無は腫瘍又は血清検体で判定する。
150mg錠二錠を一日一回経口投与した第三相では、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が11ヶ月と偽薬・fulvestrant併用群の5.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65、p<0.001だった。有害事象による治験離脱率は各5%と1%。尚、PIK3CA変異のない患者のコフォートの解析も行われたが、ハザードレシオは0.85で、95%信頼区間は1を跨いでいた。
米国では昨年5月に承認された。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース
ロシュのRozlytrek(entrectinib、和名ロズリートレク)はROS1/NTRK阻害剤。条件付き承認が支持された。適応は二つあり、NTRK遺伝子融合陽性局所進行性/転移/切除不適の固形癌でNTRK阻害剤歴を持たず他に満足できる治療オプションがない12歳以上の患者と、ROS1陽性進行非小細胞性肺癌でROS1阻害剤歴を持たない成人。
薬効のエビデンスは臨床試験におけるORR(客観的反応率)で、前者の適応では63.5%(n=74)、後者は73.4%(n=94)だった。
18年に17億ドルで買収したIgnyta社の開発品。日本で昨年6月に世界に先駆けて承認され、2ヶ月後に米国でも二つの適応で承認された。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース
Xenleta(lefamulin)も肯定的意見を得た。半合成プロイロムチリンで、細菌のリボソームにおける蛋白合成を阻害する。一般的な抗生物質が不適または不応の成人の地域感染肺炎に用いる。優遇税制を梃子に世界の知識集約型企業を誘致しているアイルランドに籍を置く、Nabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)が開発した、20年ぶりの新クラスの抗生剤だ。米国では昨年8月に承認。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Nabriva社のプレスリリース
適応拡大では、まず、アストラゼネカがMSDと共同開発販売しているLynparza(olaparib、和名リムパーザ)。生殖細胞系列BRCA1/2変異を持つ転移膵腺腫で、白金薬レジメンによる16週間以上の一次治療で進行しなかった患者の維持療法に用いる。第三相POLO試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン7.4ヶ月と偽薬群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.53、p=0.004だった。
偽薬群のORRが10%と試験薬群の20%よりは低いものの通常は0%であることを考えると異常に高いため、同様に主観の入る余地が大きいPFSだけでなく全生存期間の解析も成功してほしいところだが、必要イベント数の46%に到達した時点での中間解析ではどちらも18ヶ月強と大差なく、69%到達時でも有意差が無かった。クロスオーバーは偽薬群の15%程度なので大きな影響がありそうな感じはしない。これらのことから承認審査機関の判断が注目されたが、米国は、諮問委員会は賛成7人、反対5人と意見が分かれたものの、昨年12月に承認。CHMPも今回、肯定的評価だった。
リンク: EMAのプレスリリース
ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib、和名オフェブ)は、進行性の慢性線維化ILD(間質性肺疾患)に使うことが支持された。既承認の全身性強皮症に伴うILD以外の、自己免疫性ILDや慢性過敏性肺臓炎などが対象になるようだ。米国では3月に、日本も5月に承認された。
リンク: EMAのプレスリリース
さて、今回は承認ではないが否認でもないという発表が三件あった。一つはギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のremdesivirに関するもの。CHMPは追加データの提出を要求した。間もなく、正式な条件付き承認の申請とともに、提出される予定とのことだ。米国でEUA(非常時使用認可)、日本も特例承認と素早く対応しているのと比べて出遅れているので、世論に配慮して途中経過報告が必要と判断したのだろう。
remdesivirの承認審査は、臨床データが限られ、評価する時間も限られているので、大変だろう。供給量が限られる中、日本は侵襲的人工呼吸器やECMO装着患者を優先する方針の模様だが、第947回で書いたように、ACTT-1試験ではこのような患者に対する症状改善効果や救命効果は見られなかった。もしかしたら、治験論文に記されている程度の情報すら持たずに承認したのかもしれない。結果的に、エビデンスに基づかない医療を政府が推進する異常事態になった。
次に、ファイザーの髄膜炎菌血清群Bワクチン、Trumenba。対象年齢を1~9歳に拡大するべく承認申請したが、CHMPは首肯せず、EMAはデータだけレーベルに収載することを決めた。プレスリリースによると、3回接種しても抗体が直ぐに減少するので、足りない可能性がある。
リンク: EMAのプレスリリース
次に、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発し欧州ではムンディファーマが開発販売している二型糖尿病薬、Vokanamet。SGLT2阻害剤canagliflozinとmetforminの固定用量合剤で、前者はCREDENCE試験で中等度糖尿病性腎症の腎機能悪化や心血管死、心不全入院のリスクを削減する効果が見られたが、CHMPはVokanametの効能追加には反対した。metforminは中程度腎障害には減量する必要があるが、Vikanametの品揃えでは対応できないことが理由。御尤も。EMAはデータだけ収載することを決定した。
リンク: EMAのプレスリリース
【承認】
FDA、子宮筋腫による過多月経の治療薬を承認
(2020年5月29日発表)
FDAは、アッヴィが Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)からライセンスして開発したGnRHアンタゴニスト、elagolixの新製剤をOriahnnという製品名で承認した。最初の製品であるOrilissaは子宮内膜症の疼痛緩和に用いるが、Oriahnnは高量を子宮筋腫に伴う過多月経の出血抑制に用いる。手術以外の薬物療法が承認されたのは米国では初めて。
エストロゲン抑制に伴う副作用を緩和するためにエストロゲンやプロゲスチンを補充する、アドバック療法のニーズに対応するために二種類の製剤や用意されており、朝はestradiol及びnorethindrone acetateも配合した白と黄色のAMと記されたカプセルを、夕方はelagolixだけの白とライトブルーのPMと記されたカプセルを、服用する。
第三相試験二本では、出血抑制奏効率が70%前後と偽薬群の10%前後を大きく上回った。副作用は脳卒中や血栓症が枠付警告された。禁忌は血栓症(現在と過去、高リスクも含む)、骨粗鬆症、乳癌などのホルモン感受腫瘍(病歴も含む)、肝臓疾患、未診断の子宮異常出血。骨塩密度が不可逆的に低下するため24ヶ月以上服用してはいけない。日本で昨年承認されたGnRHアンタゴニスト、レルミナ(レルゴリクス)の使用期間が原則6ヶ月までなのと比べれば長く使える。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース
ロシュ、テセントリクが肝細胞腫に適応拡大
(2020年5月29日発表)
ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をAvastin(bevacizumab)と併用で切除不能肝細胞腫の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。リアル・タイム・オンコロジー・リビューというパイロット・プログラムの対象で、1月の承認申請から4ヶ月でスピード承認。プロジェクト・オービスの対象でもあり、今回はオーストラリアとカナダ、シンガポールの承認審査機関が並行して審査を進めた。日本は別途、承認申請中。
エビデンスとなったIMbrave150試験では、Nexavar(sorafenib)群と比べた全生存期間のハザードレシオが0.58、p=0.0006だった。メジアン生存期間は未達、Nexavar群は13.2ヶ月。G3/4の有害事象発現率はTecentriq・Avastin併用群が57%、Nexavar群は55%、G5も各5%と6%で、大差なかった。
肝細胞腫一次治療は長年、Nexavarの独壇場だったが、今回の承認を皮切りに、抗PD-L1/PD-1抗体とVEGF標的薬の併用が続々と登場するのではないか。
リンク: ジェネンテックのプレスリリース
BMS、オプジーボとヤーボイが肺癌で用法追加
(2020年5月26日発表)
BMSは、EGFRやALKに活性化変異を持たない転移/難治非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)、そして化学療法(2サイクルに抑える)を併用する用法追加がFDAに承認されたと発表した。肺癌ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)と比べて大きく後れを取っているが、5月にはOpdivo・Yervoyの二剤をPD-L1陽性非小細胞性肺癌に用いることも承認されており、だいぶ差が縮まってきた。それでも、Keytrudaが一次治療化学療法併用試験で上げた成績は競合薬と比べて信じられないほどずば抜けており、追い付くのは困難だろう。
今回の承認はCheckMate-9LA試験に基づくもの。メジアン生存期間が14.1ヶ月と化学療法(4サイクル、非扁平上皮種は維持療法も可)のみの群の10.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、p=0.0006だった。1年生存率は各63%と47%だった。PD-L1発現の有無や扁平上皮腫か否かを問わず有効だった。G3/4の治療関連有害事象発現率は47%と化学療法群の38%を上回った。
リンク: BMSのプレスリリース
FDA、ALK阻害剤をALK転座陽性NSCLCの一次治療に承認
(2020年5月26日発表)
FDAは、武田薬品が17年に子会社化したAriad PharmaceuticalsのALK阻害剤、Alunbrig(brigatinib)の適応拡大を承認した。17年の初承認ではファイザーのcrizotinibに不応・不耐のALK転座陽性転移性非小細胞性肺癌に限定したが、一次治療にも使えるようにした。日本では4年遅れで今年2月に第二選択薬として承認申請されたところ。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 武田薬品のプレスリリース(5/25付け)
今週は以上です。
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