2020年5月17日

第946回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:米国で抗原検査が初承認 
  • COVID-19:FDAがアボットの迅速核酸検査の偽陽性報告を検討へ 
  • ASCO:ロシュの抗TIGIT抗体がNSCLCにおける抗PD-L1抗体の効果を増強 
  • ASCO:ノバルティスも抗PD-1抗体を開発 
  • ASCO:オプジーボ、ヤーボイ、CTの併用で非小細胞性肺癌の全生存期間を延長 
  • MSD、キイトルーダのトリプルネガティブ乳癌と古典的ホジキンリンパ腫試験が成功 
  • 臍帯血由来の細胞療法の第三相造血幹細胞移植試験が成功 
  • サノフィ、抗CD38抗体の多発骨髄腫二次治療試験が成功 
  • 禁煙補助薬の第三相ドライアイ試験が成功 
  • MyoKardia社、症候性閉塞性肥大型心筋症の第三相が成功 
  • Genfit、PPAR作動剤の第三相NASH試験がフェール 
  • サノフィ、寒冷凝集素症用薬を承認申請 
  • ブループリント社、GIST治療薬の適応拡大ならず 
  • BMS、CAR-Tは7月に再承認申請へ 
  • スノビオン、dasotrelineの承認申請を撤回 
  • FDA、GIST4次治療薬を3ヶ月前倒しで承認 
  • FDA、オプジーボとヤーボイの併用を非小細胞性肺癌の一次治療に承認 
  • FDA、ポマリストをカポジ肉腫に承認 
  • FDA、Clovis社のPARP阻害剤をBRCA変異前立腺癌に効能追加 
  • リムパーザ、卵巣癌一次治療後維持療法にベバシズマブ併用が承認 


【今週の話題】


COVID-19:米国で抗原検査が初承認
(2020年5月8日発表)

Quidel(Nasdaq:QDEL)は、SARS-CoV-2の抗原検査がFDAの緊急時使用認可(EUA)を取得したと発表した。検査時間は15分で、特定の条件を満たす医療施設ならポイント・オブ・ケア検査として使用することができる。

同社のSofia 2蛍光免疫アナライザー用のラテラル・フロー免疫蛍光サンドイッチ法アッセイで、鼻腔や上咽頭スワブの中のヌクレオカプシド蛋白抗原を検出する。季節性コロナウイルスには反応しないがSARS-CoV(SARSウイルス)とSARS-CoV-2を識別することはできない。

試験成績は、上咽頭スワブ冷凍検体(陽性59例、陰性84例)を用いた試験では感度が80%(95%信頼区間下限68%)、特異度100%(同96%)だった。鼻から採取したスワブ検体(陽性5例、陰性43例)の感度は80%(同37.6%)、特異度は100%(同91.8%)だった。感染者を見落とすリスクがある一方で、あらぬ疑いをかけるリスクはあまり高くなさそうだ。

初期出荷は40万テスト。数週内にキャパを100万テスト/週に増強する計画。

因みに、日本でも富士レビオのエスプラインSARS-CoV-2が承認された。鼻咽頭ぬぐい液中のSARS-CoV-2を検出するイムノクロマト技術による抗原検査試薬で、30分以内に青いラインが二本、現れたら陽性と判定される。国内臨床検体72例の試験では、感度(RT-PCR法との陽性一致率)は37%、特異度(陰性一致率)は98%だった。また、行政検査検体124例では各66.7%と100%だった。何れも、ウイルス量の多い検体では感度がもっと高かった。

リンク: Sofia 2 SARS Antigen FIAのEUA要旨
リンク: Quidelのプレスリリース
リンク: Quidel Sofia 2 SARS Antigen FIA説明ページ
リンク: エスプライン SARS-CoV-2の添付文書(PDMAサイト)

COVID-19:FDAがアボットの迅速核酸検査の偽陽性報告を検討へ
(2020年5月14日発表)

FDAは3月にAbbot ID NOW COVID-19の非常時使用認可(EUA)を行ったが、偽陽性に関する15例の有害事象報告を受領したため、調査を開始したと発表した。

米国でインフルエンザ、連鎖球菌A、RSVのPOC(ポイント・オブ・ケア)検査機器として広く用いられているID NOWという等温増幅PCR用のアッセイで、陽性なら5分、陰性でも13分と結果が早いことが特徴。取扱説明書に記載されている試験データによると感度も特異度も100%。認可当時のプレスリリースによると、アボットは一日に5万件の検査を想定して供給する計画だった(通算第940号参照)。

検査に誤りは付き物で、偽陽性や偽陰性の原因としては、機器の欠点だけでなく、検体の採取方法や特性(ウイルス量など)、ウイルス輸送媒体の種類や欠陥、など様々な要素を考えうるようだ。FDAとアボットは、症例報告を精査するとともに、判定が陰性でも臨床的な兆候や症状と一致していなかったら別の製品で検査するようレターを発出する考え。更に、アボットは市販後監視試験を行うことを同意した。

上記15例の詳細は不明だが、アボットのプレスリリースでは先日、bioRxiv(査読前論文原稿のサーバー)で公開された、ニューヨークのアカデミア研究者が行った試験に触れている。論文原稿によると、Cepheid Xpert Xpress SARS-CoV-2とAbbot ID NOW COVID-19で検査したところ、前者で陽性だった検体のうち鼻咽頭スワブでは3割、鼻スワブでは5割が後者では陰性判定だった。

臨床試験のデータは、選ばれた医療施設の選ばれた医師が、数多くの組入れ基準や除外基準に基づいて厳選された理想的な被検者に、厳格に定められた、時には現実の医療とは乖離したプロトコルに即して、通常の医療より密接に患者を観察・検査して、取得したものである。現実の医療では治療成績はもっと低く、副作用はもっと多く発生し、その転帰はもっと悪いと考えるべきである。

それにしても、この乖離は大きく、原因究明は急務だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アボットのプレスリリース
リンク: BasuらのAbbot ID NOW COVID-49に関する研究論文草稿(bioRxiv)


【新薬開発】


ASCO:ロシュの抗TIGIT抗体がNSCLCにおける抗PD-L1抗体の効果を増強
(2020年5月14日発表)

5月29日から31日にかけて実施されるASCO(米国臨床腫瘍学会)バーチャル・ミーティングの抄録公開に合わせて、多くの医薬品会社がプレスリリースを出している。一部メディア向けのプレス・ブリーフィングの内容も報じられている。いくつかを紹介しよう。

近年、抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の併用レジメンに続けとばかりに、免疫チェックポイント阻害剤の併用法の開発が活発化している。今年のASCOでは、ロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と抗TIGHT抗体RG6058(tiragolumab)の第二相非小細胞性肺癌一次治療試験の結果が発表される予定。

プレスリリースなどによると、PD-L1陽性(TPS≧1%)の転移非小細胞性肺癌135人を二剤併用群とTecentriq・偽薬併用群に無作為化割付して効果を比較したところ、ORR(客観的反応率)は各31.3%と16.2%、PFS(無進行生存期間)は各5.4ヶ月と3.6ヶ月でハザードレシオは0.57(95%信頼区間0.37-0.90)だった。G3以上の治療関連有害事象発現率は各15%と19%で二剤併用のほうが小さかった。有害事象治験離脱率も各7.5%と10.3%。

TPS≧50%の58例と1-49%の77例のサブグループ分析を見ると、前者はORRが55.2%対17.2%、PFSハザードレシオ0.33(95%信頼区間0.15-0.72)とかなり良いが、後者はそれほど大きな差はなさそうだ。

今年3月に日米欧などで第二相と同じような内容の第三相試験が始まった。これに先駆け、進展型小細胞性肺癌でも、Tecentriq、carboplatin、及びetoposideのレジメンに追加する効果を検討する第三相が始まっている。

TIGIT(T-cell immunoreceptor with immunoglobulin and ITIM domains)は活性化T細胞やNK細胞などの免疫細胞のチェックポイント蛋白で、CD155がTIGITに結合すると抑制的刺激が、CD226に結合すると活性化刺激が伝わる。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASCO:ノバルティスも抗PD-1抗体を開発
(2020年5月13日発表)

ノバルティスのIgG4型抗PD-1抗体、PDR001(spartalizumab)の第三相試験の探索的パートの結果も発表される。先行品が数多いので偽薬対照試験を行うだけでも工夫が必要だが、17年に開始された第三相の特徴は、BRAF-V600変異を持つ切除不能/転移黒色腫の一次治療として、同社のTafinlar(dabrafenib、和名タフィンラー)及びMekinist(trametinib、和名メキニスト)と三剤併用すること。分子標的薬は特定のタイプの癌に高い効果を示すが抵抗性が生じることがあり、チェックポイント阻害剤は反応率はそれほどでもないが反応持続期間が長い傾向があるので、補完性があるかもしれないのだが、実際に併用試験が行われるのは珍しい。

パート1では9人を組入れて忍容性を、パート2では27人を組入れて癌の微小環境やバイオマーカーとの関連性を検討した。薬効面では、ORR(客観的反応率、治験医評価)は78%で、完全反応率は44%だった。完全反応例ではベースライン時点で腫瘍微小環境における免疫抑制的因子の発現が顕著に少なかった。なんだそうか、ま、そうだろうなという感じだ。

パート3では500人を組入れて無作為化割付偽薬対照二重盲検試験を行う。今年後半に結果が判明する見込み。

リンク: LongらのASCO抄録

ASCO:オプジーボ、ヤーボイ、CTの4剤併用で非小細胞性肺癌の全生存期間を延長
(2020年5月13日発表)

BMSはCheckMate-9LA試験のヘッドラインを公表した。転移性非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)及びYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を化学療法(CT)と併用する効果を検討した第三相オープンレーベル試験で、昨年10月に中間解析で成功認定されたことが公表された。Opdivoは非小細胞性肺癌における開発成果がライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)に劣後しており、4剤併用で一気に逆転できるかどうか注目されたが、決定的ではなさそうだ。

この試験はPD-L1発現の有無や扁平上皮腫か否かは問わずEGFRやALK変異を除外して組入れた719人を、Opdivo(360mgを三週毎点滴静注)とYervoy(1mg/kgを6週毎点滴静注)を化学療法と併用する群と化学療法だけの群に無作為化割付して、全生存期間を比較した。化学療法は扁平上皮種はpaclitaxel、それ以外はpemetrexedを、carboplatinまたはcisplatinと併用した。特徴的なのは、化学療法群は最大4サイクル(pemetrexedは維持療法として継続投与可)施行したが、四剤併用群の化学療法は最大2サイクルに留めたこと。忍容性向上を企図したものと推測される。

中間解析でハザードレシオ0.69(96.71%信頼区間0.55-0.87)、p=0.0006となった。PD-L1の発現状況や、扁平/非扁平を問わず便益が見られた由。この解析は全被験者を8.1ヶ月以上追跡した時点のものだが、学会抄録によると、12.7ヶ月時点では4剤併用群のメジアン生存期間は15.6ヶ月、化学療法群は10.9ヶ月だった。ハザードレシオは0.66で、PD-L1発現が1%未満のサブグループでは0.62、1%以上では0.64だった。

G3/4の投与薬関連有害事象発現率は各47%と38%だった。

米国で承認されたOpdivoとYevoyの二剤併用は、CheckMate-227試験のPD-L1陽性患者だけの解析で全生存期間が17.1ヶ月、化学療法群は14.9ヶ月で、ハザードレシオは0.79と上記の4剤併用の数値より大きくなっている。

MSDは扁平上皮腫と非扁平上皮腫を別の試験で行ったので比較が難しいが、Keytrudaと化学療法の三剤併用で前者はハザードレシオ0.64、後者は0.49だった。ヘッドライン・データを見る限りでは、高価なバイオ薬を二剤使うメリットは感じられない。

リンク: BMSのプレスリリース

MSD、キイトルーダのトリプルネガティブ乳癌と古典的ホジキンリンパ腫試験が成功
(2020年5月13日発表)

MSDは2月にKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のトリプルネガティブ乳癌試験の成功を発表したが、データがASCOで発表される。このKeyNote-355試験は切除不能/転移トリプルネガティブ乳癌で転移後の化学療法を初めて受ける患者を組入れて、Keytrudaを併用する効果を偽薬併用と比較した。化学療法はpaclitaxel、nab-paclitaxel、gemcitabineとcarboplatinの併用の中から医師が選んでした。主評価項目は欲張りで、CPS≧10のサブグループ、CPS≧1サブグループ、そしてintent-to-treatベースのPFSと全生存期間。

中間解析でCPS≧10サブグループ(被験者の38%を占める)のPFSが成功認定された。メジアン値は各9.7ヶ月と5.6ヶ月、ハザードレシオは0.65、p=0.0012だった。一方、CPS≧1(75%を占めた)サブグループではハザードレシオ0.74、p=0.0014となり、数値は良好だったが、成功認定の閾値を下回らなかった。intent-to-treatは0.82で、上位解析がフェールしたため有意性検定は行われなかった。

この試験は全生存期間の解析に向けて継続中。

抗PD-1/PD-L1抗体のトリプルネガティブ乳癌というと、ロシュのTecentriq(atezolizumab)を、PD-L1を発現する腫瘍浸潤免疫細胞の割合が1%以上を占める癌にnab-paclitaxelと併用することが日米欧で承認されている。PFSハザードレシオは0.60だった。数値はTecentriqのほうが良いが、KeytrudaのCPSは免疫細胞だけでなく腫瘍細胞のPD-L1発現状況も評価するのでベースが異なり、比較は難しい。いつも思うのだが、企業の壁を越えて、PD-L1検査アッセイや検査方法の標準化を進めるべきではないか。

リンク: MSDのプレスリリース

Keytrudaは古典的ホジキンリンパ腫の再発治療試験もASCOで発表される。KeyNote-204試験は自家幹細胞移植後に再発した、あるいは不適な、難治再発古典的ホジキンリンパ腫における効果を承認薬であるAdcetris(brentuximab vedotin)と比較した。結果は、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン13.2ヶ月とAdcetrisの8.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.65、p=0.00271だった。Adcetrisは一次治療にも承認されているので過去に治療歴を持つ患者も組入れられていたが、ハザードレシオは0.34と、Adcetris歴のないサブグループの0.67より良い数値になっている。G3-5治療関連有害事象の発現率は各19.6%と25.0%だった。Keytruda群では治療関連死が1例(肺炎)発生した。

この試験は17年に米国で古典的ホジキンリンパ腫の4次治療薬として加速承認された時のフェーズIVコミットメント。

リンク: 同社のプレスリリース

臍帯血由来の細胞療法の第三相造血幹細胞移植試験が成功
(2020年5月12日発表)

Gamida Cell(Nasdaq:GMDA)は、omidubicelの第三相血液癌造血幹細胞移植試験が成功したと発表した。好中球生着の中央値が12日と、標準的な臍帯血移植を施行した群の22日より有意に短かった(p<0.001)。生着成功率(per protocol、移植42日後まで評価)は各96%と88%だった。同社は今年第4四半期に米国でローリング承認申請を開始する計画。

Gamida Cellはイスラエルのバイオベンチャーで、ノバルティスが第二位株主になっている。細胞培養時の活性酸素や一酸化窒素による悪影響をニコチンアミドで抑制することによって造血幹細胞・前駆細胞の機能性を強化する、NAM技術を適用して臍帯血を処理した細胞療法がomidubicelだ。欧米で希少疾患用薬指定、米国でブレークスルー・セラピー指定を受けている。

第三相は欧米アジアの医療施設で臍帯血移植を受ける高リスク血液癌の125人を組入れた。試験薬群は感染リスクが小さく入院期間は短かった。

Intent-to-Treatの症例数は試験薬群が62人、対照群は63人だがper Protocolは各52人と58人となっており、試験薬群のほうがプロトコル通りに施行できた数がやや少ない。偶然なのか、十分な量を取得できないなどの理由があったのか、学会・論文発表が期待される。

リンク: Gamida社のプレスリリース
リンク: Horwitzらの第1/2相論文(Journal of Clinical Oncology)

サノフィ、抗CD38抗体の多発骨髄腫二次治療試験が成功
(2020年5月12日発表)

サノフィは、Sarclisa(isatuximab-irfc)の第三相IKEMA試験が成功したと発表した。データは学会発表の予定。米国で今年3月に三次治療薬として承認されたところだが、本試験に基づき二次治療に追加申請する計画。

IKEMAは1~3次の治療歴を持つ難治多発骨髄腫302人を組入れて、Kyprolis(carfilzomib)と低量dexamethasoneを併用するKdレジメンと、更にSarclisaも使うレジメンのPFS(無進行生存期間)を比較したオープンレーベル試験。抗CD38抗体の5年先輩であるジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab)も同様な内容のCANDO試験が成功、今年2月に米国で適応拡大申請された。抗CD38抗体は忍容性面の理由で数時間かけて点滴静注する必要があるが、Darzalexは数分で足りる皮注製剤が欧米で承認審査中と、先行逃げ切り体制だ。

Sarclisaはイミュノジェン(Nasdaq:IMGN)との広範な共同研究プロジェクトを通じてライセンスしたもの。

リンク: サノフィのプレスリリース

禁煙補助薬の第三相ドライアイ試験が成功
(2020年5月11日発表)

米国ニュージャージー州の新興医薬品開発会社、Oyster Point Pharma(Nasdaq:OYST)は、OC-01(varenicline)の第三相ドライアイ試験が成功したと発表した。後期第二相試験のデータと合わせて、今年下期にFDAに承認申請して、21年第4四半期に発売を狙っている。

ファイザーが禁煙補助薬として販売しているニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)部分作動剤、Chantix(和名チャンピックス)の活性成分を点鼻スプレー化したもので、鼻腔の三叉神経のnAChRを刺激して、涙の分泌を制御する副交感神経に働きかける。Oysterは米国で眼科用または点鼻薬として開発販売する権利をファイザーからライセンスした。Chantixは米国で06年に発売された薬だが、ライセンスした特許は早くても22年8月まで失効しないとのこと。

第三相のONSET-2は、ドライアイで人工涙液を用いている米国の患者758人を低用量群(0.6mg/mL、一日二回)、高用量群(1.2mg/mL、同)、コントロールに無作為化割付したダブルマスク試験。主評価項目は4週間の治療後の奏効率(シルマー試験で10mm以上増加)。結果は、各群44%、47%、26%となり、両用量とも偽薬比有意に上回った。ベースライン比で平均11.0mm、11.2mm、5.9mm増加した(両用量とも有意)。

症状面では、副次的評価項目であるEDS(Eye Dryness Score)の結果は検査方法により区々だった。COVID-2流行の影響で評価不能例が増えて統計学的な検出力が低下した面もあるようだ。

シルマー試験は涙を試験紙にしみこませて計量する。ドライアイなどの診断に使われているが、第三相の薬効評価項目として妥当なのだろうか?FDAの事前プロトコル評価を受けているのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース

MyoKardia社、症候性閉塞性肥大型心筋症の第三相が成功
(2020年5月11日発表)

MyoKardia(Nasdaq:MYOK)は、MYK-461(mavacamten)の第三相症候性閉塞性HCM(肥大型心筋症)試験が成功したと発表した。21年第1四半期に米国で承認申請する計画。筋肉を動かすミオシンやアクチンを標的とする薬が、遂にゴールが見える地点に辿り着いた。

MYK-461は心臓ミオシンのアロステリック・モジュレータとされる。ミオシンに結合して心筋の収縮性を改善する。HCM患者の2/3を占める、ミオシンなどの遺伝子異常がしばしば見られる、左室流出路(LVOT)閉塞を伴う閉塞性HCMをリードインディケーションに、非閉塞性HCMや駆出率保持型心不全にも臨床試験中。

今回の第三相は、症候性閉塞性HCMでNYHAクラスII/III、ピークLVOT勾配が50 mm/Hg以上、LVEFが55%以上の患者251人を組入れて、試験薬(一日一回経口投与、5mgで開始してECGやNYHAクラス評価、血漿濃度に基づき2.5~15mgの範囲で滴定)または偽薬を30週間投与して、症状や運動機能、QOLなどを比較した。

主評価項目は臨床的反応率。反応の定義は、NYHAクラスが1段階以上改善し且つCPET(心肺運動負荷試験)でpVO2(最大酸素摂取量)勾配が1.5 mL/kg/分以上改善、または、NYHAクラスが悪化せず且つpVO2が3.0 mL/kg/分以上改善。結果は、試験薬群が37%、偽薬群は17%、p=0.0005となった。

副次的評価項目も全て、有意差があった。pVO2(ベースライン値は19 mL/kg/分)は各+1.4 mL/kg/分と-0.05 mL/kg/分、NYHAクラスの1段階以上改善達成率は各65%と31%だった。忍容性は良好で、治療時発現有害事象や深刻有害事象の発現率は両群大差なかった。

同社は14年にサノフィと開発提携したが19年に解消、米国の売上ロイヤルティ権もバイアウトしたため後発債務はないようだ。

リンク: Myokardia社のプレスリリース

Genfit、PPAR作動剤の第三相NASH試験がフェール
(2020年5月11日発表)

フランスの新興バイオ企業、Genfit(Nasdaq:GNFT)は、GFT-505(elafibranor)の第三相NASH(非アルコール性脂肪肝炎)試験の中間解析がフェールしたと発表した。第二相もフェールだったことや、類似した作用機序を持つpioglitazoneも有効性を示さなかったことを考えると、サプライズではないだろう。

このRESOLVE-IT試験は、線維症(F2またはF3)を伴うNASH(NASスコア≧4)の1070人をelafibranor群(120mgを一日一回、経口投与)と偽薬群に2:1割付して72週間治療した。主評価項目のNASH解消且つ線維症悪化回避成功率は各19.2%と14.7%、p=0.0659となり、有意差が出なかった。副次的評価項目の一つである、線維症が1ポイント以上改善した患者の比率は各24.5%と22.4%、p=0.4457と大差なかった。

elafibranorはPPARアルファとガンマの作動薬。PPAR作動剤は主として二型糖尿病治療薬として注目され、多くのコンパウンドが臨床中後期に進んだが、先行品で肝毒性や心不全リスク、癌原性懸念などが浮上し、ブームが下火になった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


サノフィ、寒冷凝集素症用薬を承認申請
(2020年5月14日発表)

サノフィは、sutimlimabを寒冷凝集素症(CAD)用薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は11月13日。

CADは古典的補体経路の異常活性化を伴う慢性自己免疫性溶血性貧血。推定患者数は日米欧で12000人の希少疾患だ。sutimlimabは補体系のC1複合体のセリンプロテアーゼを標的とするヒト化抗体。サノフィが18年に116億ドルで買収したバイオヴェラティブ社が、バイオジェンからスピンアウトした直後の17年5月に、True North Therapeuticsを買収して入手したコンパウンドだ。

第三相試験では24人に点滴静注したところ、反応率は54%だった。複合評価項目のうち、ヘモグロビンの増加/回復奏効率は62%。輸血回避達成率は71%だった。

日本でも4月に承認申請された。

リンク: サノフィのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ブループリント社、GIST治療薬の適応拡大ならず
(2020年5月15日発表)

ブループリント・メディスンズ(Nasdaq:BPMC)は、KIT/PDGFRアルファ阻害剤のAyvakit(avapritinib)を第一相の切除不応/転移消化管間質腫瘍(GIST)試験に基づいて米国で承認申請し、今年1月、PDGFRアルファにエクソン18変異を持つサブタイプに承認を得た。四次治療でも申請していたが、審査期限前に第三相実薬対照試験がフェールしたため、審査完了通知を受領した。GISTにおけるこれ以上の開発は断念し、全身性肥満細胞腫などに集中する考え。

第一相試験の4次治療例111人におけるORR(客観的反応率、担当医評価)は22%、メジアン反応持続期間は10.2ヶ月と、まあまあな内容だった。第三相のVOYAGER試験は3/4次治療を受ける患者を組入れてバイエルのStivarga(regorafenib)と比較したが、メジアンPFSは各4.2ヶ月と5.6ヶ月、ORR(客観的反応率)は各17%と7%と、案外な結果になった。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、CAR-Tは7月に再承認申請へ
(2020年5月13日発表)

BMSとブルーバード・バイオ(Nasdaq:BLUE)は、今年3月に米国でbb2121(idecabtagene vicleucel)を再発難治多発骨髄腫用薬として承認申請したが、受理されなかったことを明らかにした。7月末までにCMC(化学、製造、管理)に関する追加情報を収集して再承認申請する考え。

bb2121はBCMAを標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)。昨年11月に740億ドルで買収したセルジーンがブルーバード・バイオから米国の共同開発販売権と海外の生産販売権を取得したもの。セルジーンの旧株主は開発後期パイプライン三品に関するCVR(後発価値権)をBMSから取得しており、全てが所定の国で所定の期限までに承認されたら権利一個当り9ドルを得ることができる。三品のうち、ozanimodは今年3月に承認、JCAR017はPDUFAが今年11月16日に延期されたがCVRの所定期限は年末なので未だ希望は残る。しかし、bb2121が21年3月までに承認されないとCVRがただの紙切れになってしまう。まだ満願の可能性が残っているものの、今回の発表を受けてCVRの市場価格が下落した。

リンク: BMSのプレスリリース

スノビオン、dasotrelineの承認申請を撤回
(2020年5月13日発表)

大日本住友製薬の米国子会社であるスノビオン社は、dasotralineを中等症から重症の過食性障害の治療薬として米国で承認申請していたが、審査期限である5月14日の前日に、申請撤回を発表した。追加試験を求められた模様だ。ADHDでも18年に審査完了通知を受領しており、開発が難航している。

スノビオンの前身であるセプラコー社は光学異性体技術を用いて喘息症や不眠症の治療薬の開発に成功した。dasotralineはファイザーの選択的セレトニン再取込阻害剤Zoloft(sertraline)の活性代謝物の光学異性体で、当初はトリプル再取込阻害剤と見なされていたが、実際はドパミンとノルエピネフリンの再取込を阻害するDNRIであることが判明した。半減期が47時間から77時間と長く、一日一回投与だと血中濃度が定常状態に達するまで2週間かかる。09年に第二相鬱病試験がフェール。ADHDの第二相や第三相は区々な結果になった。過食性障害は第2/3相試験のデータしか見る機会がなかったが、治療効果は穏やかに見えた。

リンク: Sunovionのプレスリリース


【承認】


FDA、GIST4次治療薬を3ヶ月前倒しで承認
(2020年5月15日発表)

FDAは、米国マサチューセッツ州のDeciphera Pharmaceuticals(Nasdaq:DCPH)のQinlock(ripretinib)を、消化管間質腫瘍(GIST)の4次治療薬として承認した。Real Time Oncology Reviewという審査期間短縮を目指すパイロットプログラムの対象で、審査期限は8月だが3ヶ月の前倒しになった。複数国連携審査を目指すProject Orbisの対象だが、並行して審査しているオーストラリアやカナダの承認審査機関はまだ結論を出していない。

GISTはKITやPDGFRアルファの異常活性化がドライバーになっていることが多く、imatinibなどのKIT阻害剤が広く使われているが、抵抗性変異が起きることもあるので、Qinlockや上記のavapritinibのような、変異型にも活性を持つ新薬が重要になる。Qinlockの第三相試験では、imatinibやsunitinib、regorafenibの三剤の治療歴を持つ129人に2対1割付したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立放射線学的評価)がメジアン27.6週間と偽薬群の4.1週間を上回り、ハザードレシオは0.15、p<0.0001だった。ORR(客観的反応率)は各9.4%と0%だったが有意ではなかった。メジアン生存期間は各15.1ヶ月と6.6ヶ月と差が広がり、ハザードレシオは0.36だったが、上位解析のORRがフェールしたため有意性は確認できなかった。

深刻副作用は皮膚がん、高血圧、心駆出低下、催奇性(授乳も避ける、パートナーの男も注意)。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Deciphera社のプレスリリース

FDA、オプジーボとヤーボイの併用を非小細胞性肺癌の一次治療に承認
(2020年5月15日発表)

FDAは、PD-L1陽性(≧1%)でEGFRやALKの変異はない転移/難治非小細胞性肺癌(NSCLC)の一次治療にBMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を併用する適応拡大を承認した。CheckMate-227試験のパート1aのエビデンスに基づくもので、メジアン生存期間が17.1ヶ月と化学療法群の14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.79、p=0.0066だった。深刻有害事象の発現率は58%。

NSCLCでMSDの後塵を浴びていたBMSにとっては嬉しい承認。但し、EUは、CHMPが上記試験の主評価項目などが途中で何度も変更されたことに難色を示したため、申請撤回となった。上記のChackMate-9LA試験に基づいて、化学療法と4剤併用で欧米適応拡大申請中。

日本は二剤併用を一次治療と再発治療の両方で、PD-L1陽性NSCLCに一部変更申請中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

FDA、ポマリストをカポジ肉腫に承認
(2020年5月15日発表)

FDAは、BMSの多発骨髄腫用薬Pomalyst(pomalidomide、和名ポマリスト)をカポジ肉腫に適応拡大することを承認した。多剤併用療法がフェールして発症したAIDS患者にアドオンしたり、HIV陰性の成人に用いる。米国立癌センターの単群試験で、HIV患者18人におけるORRは67%、HIV陰性10人では80%だった。カポジ肉腫は米国で100万人当たり年6人が発症する超希少疾患。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

FDA、Clovis社のPARP阻害剤をBRCA変異前立腺癌に効能追加
(2020年5月15日発表)

FDAは、米国コロラド州のClovis Oncology(NASDAQ:CLVS)のRubraca(rucaparib)をBRCAの生殖細胞系列/体細胞系列有害変異関連の転移性去勢抵抗性前立腺癌に用いる効能追加を承認した。アンドロゲン標的薬とタクサン系薬による治療歴を持つ成人に、600mgを一日二回経口投与する。精巣全摘を受けていない患者はGnRHアナログを併用する。

第二相試験の反応率データに基づく加速承認。62人に対するcORR(確認客観的反応率、盲検独立放射線学的評価)は44%で、反応例の56%は6ヶ月以上持続した。

警告・注意は骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病の二次的腫瘍と催奇性。

Rubracaは11年にファイザーからライセンスしたPARP阻害剤で、ファースト・イン・クラスで臨床入りしたことで知られる。BRCA有害変異卵巣癌の三次治療や白金感受性卵巣癌の二次治療に応答した患者の維持療法承認されている。

BRCA変異陽性転移去勢抵抗性前立腺癌ではアストラゼネカもPARP阻害剤のLynparza(olaparib、和名リムパーザ)の効能追加を欧米で申請中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Clovis社のプレスリリース

リムパーザ、卵巣癌一次治療後維持療法にベバシズマブ併用が承認
(2020年5月11日発表)

FDAは、アストラゼネカがMSDと共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)をHRD(相同組換え修復障害)陽性進行卵巣癌の一次治療後維持療法としてbevacizumabと併用することを承認した。PAOLA-1試験の探索的解析でPFS(無進行生存期間、担当医評価)の偽薬・ bevacizumab併用群比ハザードレシオが0.33と良好な結果が出たため。HRDの有無を判定するコンパニオン診断薬、Myriad Genetics myChoice CDxテストも同時に承認された。

この試験の主評価項目はBRCA有害変異などのHRDの有無を問わない、全集団のPFSだった。ハザードレシオ0.59、ログランクp<0.0001、と良好な結果になったが、BRCA有害変異を持たないサブグループのハザードレシオは0.71、HRDを持たないサブグループでは0.92と偏りがあったため、FDAの判定が注目された。EMAと比べて、遺伝子型による事後的サブグループ分析に慎重な傾向があるからだ。FDAがこのサブグループ分析を受け入れたのは、HRDの検査は無作為化割付後に行われたのだが、二重盲検下でサブグループ分析を意図して実施されたので、判定の信憑性が十分に担保されていなかったり、盲検解除後のただの後顧的分析だったりする事例と同一視すべきではないと判断したのだろう。

それにしても、PARP阻害剤や抗PD-1/PD-L1抗体の応答予測因子を決定するのは難しい。Lynparzaは米国で複数の効能が承認されているが、進行卵巣癌の一次治療として白金薬レジメンに完全反応/部分反応だった患者の維持療法に用いる場合、bevacizumab併用はHRD変異が対象となるが、モノセラピーは生殖細胞系または体細胞系のBRCA有害変異を持つ患者だけとなる。再発後の白金レジメンに完全反応/部分反応だった患者の維持治療法に用いる場合は、これらの変異を問わず、モノセラピーが適応になる。進行卵巣癌の4次治療に用いる時は、生殖細胞系BRCA有害変異にモノセラピーである。

他の腫瘍では、化学療法歴を持つher2陰性転移性乳癌と、転移性膵腺腫で白金レジメンによる一次治療に進行しなかった患者の維持療法は、生殖細胞系BRCA変異にモノセラピーとなっている。

更に、Tesaro(Nasdaq:TSRO)のZejula(niraparib)は4月に米国で進行卵巣癌の白金薬一次治療後の維持療法として単剤投与することが承認されたが、HRDの有無を問わず適応になる。

適応範囲は個々の試験の成績に基づいて判断するのが当然だが、これだけバラバラだと、本当にそれが適切なのか、疑問を持たざるを得ない。医療現場では、類薬のうちどれをストックし個々の患者にどれを使うか、決定するのが大変だ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース





今週は以上です。

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