【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:Modernaが今四半期中にワクチンのP2へ
- ロシュのSMA用薬、1型試験も成功
- リジェネロンらの抗PD-1抗体も非小細胞性肺炎試験が成功
- MSD、ertugliflozinの心血管アウトカム試験は非劣性に留まる
- BMS、経口アザシチジンを承認申請
- CHMPがノバルティスの喘息用トリプルコンビ薬などの承認を支持
- COVID-19:FDA、レムデシビルを特例承認
- FDA、GSKのPARP阻害剤を卵巣癌一次治療後維持療法として適応拡大
- EMA、フルオロウラシル系抗癌剤を使う前にDPD欠損症の検査を推奨
【今週の話題】
COVID-19:Modernaが今四半期中にワクチンのP2へ
(2020年4月27日発表)
米国の新興新薬開発会社、Moderna(Nasdaq:MRNA)は、FDAにCOVID-19ワクチンの治験許可申請を行った。NIAID(米国立アレルギー及び感染症研究所)が3月に開始した第一相試験を礎に、今四半期中に第二相試験を開始、順調なら秋にも第三相へ進む見込み。
同社はmRNAを投与して抗体を誘導する技術に特化しており、CMVワクチンやMSDにライセンスしたRSVワクチンが第二相試験段階。COVID-19に関しては、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)やBARDA(生物医学先端研究開発局)、NIAIDの支援を得てmRNA-1273を開発している。第一相試験では25mcg、100mcg、250mcgをテスト、18~55歳のコフォートは45人を組入れ完了、56~70歳と71歳以上のコフォートを組入れ中。
第二相は18~55歳と55歳以上を対象に偽薬、50mcg、250mcgを28日置いて2回接種し、2回目の接種から12ヶ月間、追跡する方向でFDAと相談を進めている由。長期間だが、免疫の持続性(数年維持されるのか、インフルエンザのように毎年接種しなければならないのか)は重要な検討課題だ。
リンク: Modernaのプレスリリース
【新薬開発】
ロシュのSMA用薬、1型試験も成功
(2020年4月28日発表)
ロシュがPTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)からライセンスして開発したSMN2スプライシング修飾剤、RG7916(risdiplam)は、脊髄筋委縮症(SMA)の治療薬として欧米で承認申請中で、米国では5月に審査結果が出る見込み。SMAのI~III型全てを目標適応としているが、今回、I型SMA試験の仮説検証フェーズの結果が公表された。詳細はAAN(米国神経学会議)のバーチャル・プレゼンテーションで発表される予定。
I型は幼少期に発症し、II型やIII型より重症。第2/3相のFIREFISH試験は、パート1の用量決定フェーズでは21人、パート2の仮説検証フェーズでは1~7ヶ月児の41人を組入れて、一日一回、経口投与した。12ヶ月の治療後に支え無しで5秒間以上静坐できるかどうか検査したところ、パート2では29%が達成した。自然歴ではゼロで、統計的に有意な差があった。メジアン15ヶ月治療時点の生存率は93%と、これも自然歴より高かった。主な深刻有害事象は肺炎(31%)など。
リンク: ロシュのプレスリリース
リジェネロンらの抗PD-1抗体も非小細胞性肺炎試験が成功
(2020年4月27日発表)
リジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)の第三相局所進行性/転移性非小細胞性肺癌(NSCLC)一次治療試験が予定より早く成功したと発表した。PD-L1著高発現(≧50%)の患者を組入れて、全生存期間を標準的化学療法と比較したところ、中間解析でハザードレシオが0.676となり、統計的に有意な差があった。年内に欧米で適応拡大申請する予定。
LibtayoはPD-1を標的とするIgG4型抗体医薬。局所進行性/転移性皮膚扁平上皮癌で根治的手術や放射線療法の対象にならない患者向けに欧米で承認されている。
MSDのKeytruda(pembrolizumab)もPD-L1著高発現NSCLCの一次治療として承認されており、化学療法併用や他にも多くの腫瘍に使うことができる。医療施設で一剤だけストックするとしたら適応が多い方が好都合なので、Libtayoの適応拡大が承認されても、売上嵩上げ効果は決して大きくはないだろう。
リンク: 両社のプレスリリース
MSD、ertugliflozinの心血管アウトカム試験は非劣性に留まる
(2020年4月28日発表)
MSDは、2020年第1四半期決算発表プレスリリースの中で、ファイザーが創製し両社で共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Steglatro(ertugliflozin)の心血管アウトカム試験が成功したが、優越性解析はフェールしたことを明らかにした。データはADA米国糖尿病学会科学部会で発表する予定。
この、VERTIS CV試験は、二型糖尿病で心血管疾患を持つ8238人を組入れて、標準療法にSteglatroを追加する効果を偽薬追加と比較した。MACE(主要有害心血管イベント)の非劣性が確認され、米国承認時のフェーズIVコミットメントを果たした。
意外なのは、主要副次的評価項目に設定された様々な優越性解析がフェールしたこと。心血管死/心不全入院の複合評価項目も、心血管死も、腎臓転帰(腎臓疾患による死亡、透析や移植、または血清クレアチニン倍化)も、フェールしたようだ。
他のSGLT2阻害剤は心血管アウトカム試験で好成績を上げた。Steglatroがなぜ非劣性に留まったのか、学会発表が注目される。
リンク: 両社のプレスリリース
【承認申請】
BMS、経口アザシチジンを承認申請
(2020年5月1日発表)
BMSは、昨年11月に買収したセルジーン社の開発品であるCC-486(azacitidine)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は9月3日。
CC-486は骨髄異形成症候群(MDS)の治療などに承認されているDNAメチル化阻害剤を、注射ではなく経口投与できるようにした。第三相試験では、造血幹細胞移植が不適または患者が望まない急性骨髄性白血病で、集中化学療法による導入療法で完全反応(血球回復だけが不十分でも可)した患者の維持療法としての効果を検討したところ、メジアン生存期間が24.7ヶ月と偽薬群の14.8ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.69、統計的に有意だった。有害事象による治験離脱は各13%と4%で増加した。G3以上の有害事象は骨髄抑制とその合併症が中心。
リンク: BMSのプレスリリース
【承認審査・委員会】
CHMPがノバルティスの喘息用トリプルコンビ薬などの承認を支持
(2020年4月30日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、4月の会合で、ノバルティスのEnerzair Breezhalerなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
Enerzair Breezhalerは、長期作用性ベータ2作用剤のindacaterol、長期作用性ムスカリン拮抗剤のglycopyrronium bromide、吸入コルチコステロイドのmometasone furoateを配合した固定用量合剤。喘息症で長期作用性ベータ2作用剤と吸入コルチコステロイドを併用しても管理不良で前年に1回以上、増悪した患者がステップアップする。indacaterolは自社開発、glycopyrronium bromideはそーせい(TSE:4565)が05年に買収した会社がVecturaと共同開発したものをインライセンス、momentasoneは06年にシェリング・プラウ(当時)とのコンビ薬提携の成果と開発歴は長い。
今時なのは、オプションで電子センサー付きの吸入ディバイスを選べること。吸入すべき量や服用歴をスマホのアプリに送信することができる。
リンク: EMAのプレスリリース(4/30付)
リンク: ノバルティスのプレスリリース(5/1付)
ファイザーのDaurismo(glasdegib)はSMO(smoothened inhibitor)阻害剤。急性骨髄性白血病または高リスク骨髄異形成症候群の新患で75歳以上または集中的化学療法が不適な患者に、低量cytarabineと併用することが支持された。第二相試験でメジアン生存期間が8.8ヶ月とcytrabine群の4.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.46、統計的に有意だった。深刻有害事象の発現率は79%で、骨髄抑制による合併症が中心。米国では18年11月に承認された。
BMSのReblozyl(luspatercept)はActRⅡBの細胞外領域と免疫グロブリンG1の固定領域の融合たんぱく。ベータサラセミアや骨髄異形成症候群による輸血依存貧血の治療に用いることが支持された。昨年11月に買収したセルジーンがAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)から共同開発販売権を取得したもの。米国では昨年11月に承認されている。
リンク: BMSのプレスリリース(4/30付)
適応拡大では、BRAF-V600変異陽性悪性黒色腫に承認されているBRAF阻害剤、Braftovi(encorafenib、和名ビラフトビ)をBRAF-V600E変異陽性の転移性結腸直腸癌の再発治療にcetuximabと併用することが支持された。ファイザーが昨年買収したArray BioPharmaの製品で、欧州などの権利はピエール ファーブルが保有している。米国では今年4月に適応拡大が承認された。日本は小野薬品が一変申請中。
エビデンスとなる臨床試験では、Mektovi(binimetinib、和名メクトビ)も併用するトリプレットの延命効果をirinotecanとcetuximabなどを併用する標準療法と比較したところ、有意に上回った。ところが、ダブレットの群も標準療法を有意に上回り、トリプレットとダブレットの探索的解析では有意な差はなかった。このため、日本と異なり、欧米ではダブレットが承認/承認申請された。
次に、イーライリリーのTaltz(ixekizumab、和名トルツ)を体軸性脊椎関節炎(axSpA)の治療に用いることが支持された。既存療法に十分に反応しない、特徴的なX線画像が現れるr-axSpA、または、現れないnr-axSpAが適応になる。Taltzは抗IL-17A抗体で中重度乾癬などに承認されている。
次に、アレクシオン ファーマシューティカルズの長期作用性抗C5補体抗体、Ultomiris(ravulizumab、和名ユルトミリス)を非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の治療に用いることが支持された。体重10kg以上で、補体阻害剤歴を持たない、あるいは同社の類薬であるSoliris(eculizumab)による3ヶ月以上の治療歴を持ち反応した患者が適応になる。米国では昨年10月に適応拡大が認められている。
Ultomirisは発作性夜間ヘモグロビン尿症に承認されている。Solirisのライフサイクルマネジメントという位置付けなので、今後もキャッチアップ適応拡大が進められることだろう。
【承認】
COVID-19:FDA、レムデシビルを特例承認
(2020年5月1日発表)
FDAは、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のRNAポリメラーゼ阻害剤、GS-5734(remdesivir)を重度COVID-19治療薬として特例承認した。Emergency Use Authorizationという制度に基づくもので、これまでに様々なウイルス/抗体検査キットや人工呼吸器などが承認されている。COVID-19の大流行が鎮静化すれば解除されることになるが、数年は現実化しないだろう。EUもローリング承認審査が始まった。日本も特例承認に向かうだろう。
武漢で小規模な感染が確認されてから5ヶ月程度でここまで来たのは偉業だ。承認のエビデンスとなる臨床試験を挙行したNIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)の所長であるAnthony S. Fauci博士は、HIV/AIDSの初めての治療薬であるAZT(満屋博士がNIAIDの上部機関であるNIHで開発した)になぞらえて、試合を決める決定打ではないが、これを皮切りに治療法が進歩していくだろうと述べた。
実用化の問題点はトリアージだ。ギリアドによると、手持ちは150万回分(10日コース換算で14万人分程度)、10月までの供給が36万人分、年末までに総計100万人分を用意する計画。一方、世界の累計感染者数は既に300万人以上、回復・死亡を除いても200万人を越えるので、全く足りない。感染者の多くは症状が軽く、そのため、治療効果も小さいだろうから、重症患者に限定使用することになる。
そこで、FDAが承認した適応を見ると、COVID-19感染症が検査で確認された、または疑われる、重度疾患で入院した成人と小児、となっている。ここで重度疾患とは、血中酸素量が低下、酸素補給が必要、または侵襲的人工呼吸が必要な状態で、日本でいえば、中等症または重症に相当するのではないか。
陽性確認前に投与を開始することが認められたのはプラクティカルだが、深刻な副作用も伴うので、検査を全くしないというわけにはいかないだろう。どこの国でも検査件数を増やすのに四苦八苦しているが、remdesivirの承認でニーズが一層高まるだろう。少なくとも、過去に私自身が考えていた、陽性でも陰性でも治療法は同じなのだから検査は必ずしも必要ではないと主張することは不可能になった。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 米国の医療従事者向けファクトシート(pdfファイル)
リンク: EMAのプレスリリース(4/30付)
さて、改めてremdesivirのエビデンスを概観すると、一番重要なのはNIAIDのACTT試験だ。欧米アジアの68施設で肺炎を合併したCOVID-19入院患者1063人を組入れた無作為化割付偽薬対照試験で、独立データ安全性監視委員会が中間解析で成功認定した。記者会見などで発表されたデータによると、退院または通常の活動水準までに回復するまでの期間が偽薬群より31%短かった(p<0.001)。メジアン値はremdesivir(最大10日間投与)群が11日、偽薬群は15日だった。死亡率は各8.0%と11.6%で、有意水準には届かなかった(p=0.059)ものの、安心材料だ。
リンク: NIAIDのプレスリリース(4/29付)
ギリアドが主導した二本の試験のうち、重症患者を組入れたSIMPLE試験のヘッドラインも公表された。NIAIDなどが採用した10日コースと5日コースを比較した試験で、症状改善(退院から死亡までを7段階に分けて、第14日までに2段階以上改善)のオッズ・レシオを検討したところ、0.75(95%信頼区間0.51-1.12)と有意差が無かった。メジアン値は10日コースが11日、5日コースは10日。第14日までに退院した患者の比率は各52.3%と60.0%だった(p=0.14)。
偽薬群が設定されていないのでremdesivirの治療効果を計測することはできないが、薬剤の供給が限られる中、患者によっては5日で足りるなら好都合だ。具体的にどの程度の重症度なら大丈夫なのか、詳細な情報公開が望まれる。
尚、この試験は重症患者といっても侵襲的人工呼吸は対象外のようなので、日本でいえば中等症試験というところか。
リンク: ギリアドのプレスリリース(4/29付)
最後に、中国で実施された重症患者試験の結果がLancet誌に刊行された。先週号で、WHOが手違いで概要をリークしてしまった件についてコメントしたが、当方の理解が誤りだったことが判明したため、付記したい。
この試験は発症12日以内の入院肺炎患者に10日コースを施行し、偽薬と効果を比較した。両群とも、Kaletra(lopinavirとritonavirの合剤)やインターフェロン、ステロイドなどの使用が許可されていた。症状改善(6段階で評価し2ポイント以上改善、または退院)するまでの期間が偽薬群はメジアン21日、remdesivir群は15日と想定し452人を組入れる計画だったが、流行が穏やかになったことや、病床不足により受け入れを制限せざるを得なくなったことから、237人の組入れに留まり打ち切られた。
解析結果は、remdesivir群はメジアン症状改善期間が21日、偽薬群は23日、ハザードレシオは1.23となり、有意な差はなかった。検出力不足は明らかだが、差が2日しかなかったのだから、点推定値も不満足なものと言えるだろう。
尚、当方はハザードレシオが1を上回っているのでremdesivirのほうが悪かったと理解したが、逆だった。
さて、この試験の発症から投与開始までのリードタイムは、メジアン10日だった。発症10日以内のサブグループではメジアン症状改善期間が各18日と23日、ハザードレシオが1.52と、統計的に有意ではないしこの種のサブグループ分析は要注意とは言いながら、好ましい方向を向いていた。
他の評価項目では、死亡率は各群14%と13%で大差なかった。10日以内のグループでは11%と15%で数字自体は悪くなかった。ウイルス量の変化は両群大差なかった。
有害事象による治験離脱は各群12%と5%で、remdesivir群のほうが多かった。
尚、この試験も侵襲的人工呼吸器の患者はごく少数だった。
リンク: Wangらの治験論文(Lancet誌)
FDA、GSKのPARP阻害剤を卵巣癌一次治療後維持療法として適応拡大
(2020年4月29日発表)
FDAは、GSKのZejula(niraparib)を卵巣癌の白金薬ベース一次治療に反応した患者の維持療法として承認した。PARP阻害剤で、BRCA変異などにより遺伝子修復が上手くできない癌に適しているが、臨床試験では変異のない癌にも有効だった。全ユニバースにおけるメジアンPFS(無進行生存期間)は13.8ヶ月と、偽薬群の8.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.62、統計的に有意だった。
Zejulaは白金感受性卵巣癌の再発治療に反応した患者の維持療法として欧米で承認されている。日本は武田薬品が導入し昨年11月に承認申請した。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース
【医薬品の安全性】
EMA、フルオロウラシル系抗癌剤を使う前にDPD欠損症の検査を推奨
(2020年4月30日発表)
EMAは、fluorouracil系の抗癌剤による治療を開始する前に、ジヒドロピリミジン脱水素酵素(DPD)欠損症の検査を行うよう推奨した。経口剤(capecitabineやtegafur)も対象。DPDはfluorouracilを不活化する代謝酵素で、低活性や欠損の場合、副作用リスクが高まることが知られているが、なぜ、今になって、事前検査まで踏み込んだのか、驚きだ。
EMAによると、カフカス系人種の最大9%が低活性、0.5%は完全欠損とのこと。検査は尿中のウラシル量を調べる。最大で一週間かかる模様で、深刻な真菌感染症をflucytosineで治療する場合は治療を遅らせるわけにはいかないため不要。光線角化症の治療などに用いる外用薬も全身暴露が小さいため不要。
リンク: EMAのプレスリリース
今週は以上です。
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