【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:FDA、家庭で採取した唾液も検査できるRNA検査キットを承認
- TG社、抗CD20抗体とPI3Kデルタ阻害剤の併用CLL試験が成功
- 抗PD-1抗体の基底細胞癌試験が成功
- アムジェン、オテズラの軽中度尋常性乾癬試験が成功
- ニューロン社、sarizotanのRett症候群試験はフェール
- FDA、RET変異癌の分子標的薬を承認
- FDA、METエクソン14スキップ型非小細胞性肺癌用薬を承認
- フォシーガが左室駆出率低下心不全に適応拡大
【今週の話題】
COVID-19:FDA、家庭で採取した唾液も検査できるRNA検査キットを承認
(2020年5月8日発表)
FDAは、4月に緊急時使用認可(EUA)を与えたRutgers Clinical Genomics LaboratoryのTaqPath SARS-CoV-2 Assayに関して、特定のキット(Spectrum Solutions LLCのSDNA-1000 Saliva Collection Device)を用いて被検者が自分で取得し郵送した標本を検査することも認めた。家庭採取の鼻ぬぐい液に対応した核酸検査は4月にLaboratory Corporation of America(LabCorp)のCOVID-19 RT-PCR TestがEUAを受けたが、唾液にも対応したアッセイは初めて。報道によると、価格は一回分が150ドル、キャパは一日一万件程度だが拡大中とのこと。検査は上記ラボで行う。
このアッセイは、中咽頭、上咽頭、前鼻、または中鼻甲介のぬぐい液や唾液中のRNAを検出する。唾液の採取から48時間後に行われた検査の成績は、上咽頭ぬぐい液(26例)または中咽頭ぬぐい液(4例)で陽性判定された30例の感度が100%(95%信頼区間下限88.7%)、陰性判定31例(上咽頭27例と中咽頭4例)の特異度は100%(同88.7%)だった。
因みに、LabCorpのほうの成績は、採取72時間後に検査して、陽性標本36例は全て陽性、陰性30例は全て陰性だった。自分で鼻ぬぐい液を取るのは痛みやくしゃみが気になるが、説明書を読むと、綿棒を奥まで差し込む必要はなく球状の部分が入れば十分と書いてある。
COVID-19については鼻と喉の両方からぬぐい液を取るべきとか言われているので、意外感がある。もし本当なら、このやり方を日本でも検討してみるべきではないか。
尚、どちらも医師の処方が必要。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Rutgers Clinical Genomics Laboratory TaqPath SARS-CoV-2 AssayのEUA要旨
リンク: LabCorp COVID-19 RT-PCR TestのEUA要旨
【新薬開発】
TG社、抗CD20抗体とPI3Kデルタ阻害剤の併用CLL試験が成功
(2020年5月5日発表)
米国のTG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)は、慢性リンパ性白血病(CLL)におけるTG-1101(ublituximab)とTGR-1202(umbralisib)の併用法(U2レジメン)の効果を検討した第三相試験が中間解析で成功したと発表した。年末までに承認申請する計画だ。
TG-1101はロシュのGazyva(obinutuzumab)と同様な、糖鎖を改変してADCC(抗体依存的細胞毒性)を増強した抗CD20抗体だが、結合するエピトープや、キメラ抗体で固定領域がIgG1型であることなどが異なる。TG-11202はPI3KデルタやCK-1エプシロンの阻害薬で、難治再発の辺縁帯リンパ腫や濾胞性リンパ腫のローリング承認申請が6月までに完了する見込み。どちらも導入品だ。
今回のUNITY-CLL試験は、CLLの初治療・再発治療を受ける420人をU2レジメン群とGazyva・chlorambucil併用群に無作為化割付してPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を比較した。データ安全性監視委員会が中間解析で成功認定した。データは学会発表の予定で、p値が0.0001を下回ったことだけが明らかにされた。
リンク: TG社のプレスリリース
抗PD-1抗体の基底細胞癌試験が成功
(2020年5月5日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)の基底細胞癌試験が成功したと発表した。進行性でヘッジホッグ・パスウェイを阻害する薬に不応不耐の患者に350mgを3週毎に点滴静注したところ、局所進行性84例におけるORR(客観的反応率、独立中央評価)が29%となり、85%で反応が1年以上持続した。転移性28例では各21%と83%だった。深刻有害事象の発現率は32%、有害事象による治験離脱は13%だった。
基底細胞癌は手術などで治癒できるが、米国で年2万人程度が診断される進行性基底細胞癌は年3000人が死亡と、治療が難しい。
Libtayoはリジェネロンがヒト抗体発現プラットフォームを用いて開発した抗PD-1抗体で、類薬と異なり固定領域がIgG4型。一般に、癌細胞のように破壊すべき細胞を標的とする場合はIgG1型のほうが良いとされるが、今のところ、治療効果に違いがあるか明確ではない。
18~19年に欧米で治癒的摘出術/放射線療法が適応にならない転移/局所進行性皮膚扁平上皮癌に承認された。適応拡大では、先月、PD-L1高発現の非小細胞性肺癌の一次治療単剤投与試験が成功したことが発表された。
リンク: 両社のプレスリリース
アムジェン、オテズラの軽中度尋常性乾癬試験が成功
(2020年5月6日発表)
BMSはセルジーンを買収するに当たって反トラスト規制をクリアするためにセルジーンのPDE-4阻害剤、Otezla(apremilast、和名オテズラ)の事業権をアムジェンに譲渡した。このようなケースでは代価が抑えられがちだが、Otezlaは134億ドルで、株式投資アナリストからは現在価値と比べて1割以上割高と見なされていた。適正利潤を得るためには適応拡大が不可欠だが、まず、軽中度尋常性乾癬の偽薬対照試験が成功した。
既に中重度尋常性乾癬と中重度乾癬性関節炎、ベーチェット病などに承認されているが、今回の組入れ条件を中重度尋常性乾癬試験と比較すると、体表面積に占める患部の割合が2~15%(中重度試験では10%以上)、sPGAスコアの値が2~3(3以上)、PASIスコアの値が2~15(12以上)となっており、名称通り、一部はオーバーラップしている。用量用法は30mgを一日二回、経口投与で同じ。
主評価項目はsPGAに基づく反応率、副次的評価項目は体表面積に占める比率に基づく反応率や増減、PASIの増減など。数値は未発表。
アムジェンは適応拡大申請の計画。
リンク: アムジェンのプレスリリース
Newron社、sarizotanのRett症候群試験はフェール
(2020年5月4日発表)
イタリアのNewron Pharmaceutical S.p.A.(SIX:NWRN)は、ドイツのメルクからライセンスした5-HT1aアゴニスト、sarizotanをRett症候群治療薬として開発していたが、第三相がフェールし開発を止めることを明らかにした。主評価項目の覚醒時無呼吸エピソードの削減も、副次的評価項目も、達成されなかった。
Rett症候群は主として女性が患う神経発達障害で、7割の患者が無呼吸や過呼吸、呼吸障害を患う。95%以上の患者でMECP2遺伝子の変異が見られる。有病率は女性1万人当たり0.5~1人とされる。
リンク: Newronのプレスリリース(pdfファイル)
【承認】
FDA、RET変異癌の分子標的薬を承認
(2020年5月8日発表)
FDAは、Retevmo(selpercatinib)をRET融合/変異を持つ非小細胞性肺癌や甲状腺癌の薬として加速承認した。イーライリリーの承認申請が受理されたのが今年1月、審査期限は今年第3四半期とされていたので、前倒しだ。報道によると、WAC(卸取得価格)は30日分が20,600ドルとのこと。昨年2月に80億ドルで買収したLoxo Oncologyが開発したRET阻害剤。RET変異の承認された診断薬はない。次世代シーケンサーが最適と言われているようだ。
適応と治験成績は、まず、転移性非小細胞性肺癌は成人でRET融合陽性が適応になる。白金薬治療歴を持つ105人のORR(客観的反応率)は64%、初治療39人では84%だった。甲状腺癌は12歳以上で全身性治療を必要とする患者のうち、進行/転移甲状腺髄様腫でRET変異陽性は承認薬であるcabozantinib且つ又 vandetanibによる治療歴を持つ55人ではORR69%、承認されている薬による治療歴のない88例では73%だった。また、進行/転移甲状腺癌で放射性ヨウ素治療に不応不適のRET融合陽性は、前治療が放射性ヨウ素だけの8人ではORR100%、他の治療も受けた19人では79%だった。何れも、反応した患者の6割以上は6ヶ月以上、持続した。
160mg(低体重では120mg)を一日二回、経口投与する。深刻有害事象は肝毒性、血圧上昇、QT延長、出血、アレルギー反応など。催奇性がある。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース
FDA、METエクソン14スキップ型非小細胞性肺癌用薬を承認
(2020年5月6日発表)
FDAは、Tabrecta(capmatinib)をエクソン14スキップ型のMET遺伝子変異を持つ転移性非小細胞性肺癌用薬として承認した。この変異は転移性非小細胞性肺癌の新患の3~4%で見られ、米国では年4000~5000人が適応になると推測されている。このタイプの分子標的薬の承認は初めて。高力価高度選択的MET受容体チロシンキナーゼ阻害剤で、ノバルティスが09年にインサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスして開発したもの。組織標本の判定に用いるコンパニオン診断薬として、Foundation Medicine社のFoundationOne CDxアッセイも同日承認された。F社は血液標本を評価するシステムも承認申請している。
400mg錠を一日二回、経口投与した臨床試験で、未治療患者28人におけるORR(客観的反応率、盲検独立評価委員会方式)が68%、メジアン反応持続期間は12.6ヶ月、既治療69人では各41%と9.7ヶ月だった。治療時発現有害事象は末梢浮腫や胃腸系副作用など。光毒性がある。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース
フォシーガが左室駆出率低下心不全に適応拡大
(2020年5月6日発表)
アストラゼネカは、SGLT2阻害剤Farxiga(dapagliflozin、欧州名Forxiga、和名フォシーガ)を左室駆出率の低下を伴う心不全の転帰改善に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。SGLT2阻害剤は血糖治療薬として承認されているが、利尿効果も持ち、心筋梗塞などのリスクを抑制することができる。今回の適応拡大は血糖値が高めな糖尿病予備群や正常な患者も組入れたDAPA-HF試験に基づくもので、心不全による入院/緊急受診、または心血管死の複合評価項目のハザードレシオが0.74と、SGLT2阻害剤以外の薬を使った対照群より良好な転帰となった。Number-Needed-to-Treatは21と、これも良好な数値が出た。
日本でも慢性心不全に効能追加申請中。左室駆出率があまり低下していない患者にも承認するのか、これを機に欧米と同様に低下型と保持型に分けて承認するのか、機構の判断が注目される。
ところで、本題から離れるが、先日、アストラゼネカはフォシーガをCOVID-19の合併症の治療に用いる臨床試験を開始すると発表した。心血管や腎臓の保護作用に注目し、心血管、代謝、腎臓の合併症リスクを持つ患者900人を組入れて、臓器不全の新発・悪化や全死亡の抑制を図る。
COVID-19の重症患者ではケトアシドーシスが起きやすいためSGLT2阻害剤を服用していたら他の薬にスイッチすべし、というエキスパート・オピニオンもあるようなので、表と出るか、裏と出るか、注目される。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
今週は以上です。
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