2020年5月23日

第947回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アビガンの中国治験論文原稿の結論が変わった! 
  • COVID-19:アストラゼネカ、英米で4億本のCOVID-19ワクチンを供給へ 
  • COVID-19:中国のワクチンの第一相論文が刊行 
  • COVID-19:ワクチンの最初の臨床データ 
  • レムデシビルの治験論文が遂に刊行 
  • デュピクセントの好酸球性食道炎試験が成功 
  • フィルゴチニブの潰瘍性大腸炎試験が成功 
  • ヴィーブ、2ヶ月毎筋注の抗HIV薬の暴露前予防試験が成功 
  • Syndax、HDAC阻害剤の乳癌第三相試験がフェール 
  • 新作用機序の避妊薬が承認 
  • サノビオン、アポモルヒネ舌下フィルムが米国で承認 
  • リムパーザも遺伝子修復不全の去勢抵抗性前立腺癌に承認 
  • FDA、テセントリクをモノセラピーでもNSCLC一次治療薬として承認 


【今週の話題】


COVID-19:アビガンの中国治験論文原稿の結論が変わった!
(2020年5月22日)

第941号で、武漢大学中南医院のChenらが行ったfavipiravir(日本でアビガンという商品名でパンデミック・インフルエンザに承認)のCOVID-19治療試験の論文原稿に触れたが、アブストラクトの結論部分が変更されたことに遅まきながら気づいたのでアップデートしたい。medRxiv(刊行前の医学論文を掲示するインターネットサイト)の知名度はCOVID-19の流行で一段と高まったが、よく言われる、『査読を経て記述が変わるかもしれないので気を付けよ』という警告が過剰ではないことを示す実例になった。

このオープンレーベル試験は、発症12日以内のCOVID-19肺炎240人をfavipiravir群とumifenovir(中国でArbidol名でインフルエンザに承認)群に無作為化割付して臨床的回復率を比較した。7日時点の臨床的回復率は各61%と52%となり、p=0.14で有意な差は見られなかった。umifenovirがCOVID-19に有効であることを示すエビデンスは確立していないので、favipiravirの有効性も確認できなかったことになる。

一方、副次的評価項目(重症患者も含む)では熱や咳の改善が有意に早かった。臨床的回復率に関しても、事後的に行われた重症患者を除外した解析では各71%と55%となり、p=0.02だった。

これらの所見に基づき、3月20日と3月27日に掲示された第一稿と第二稿では、favipiravirは第7日臨床的回復率などが高かったので優先的治療薬とみなすことができる、と結論していた。しかし、4月8日の第三稿と現時点で最新の4月15日付第四稿では、favipiravirはumifenovirと比べて第7日臨床的回復率を顕著に改善しなかった、に変更された。

文言上は天地ひっくり返った格好だが、サプライズ感は全然ない。主評価項目である全集団の解析がフェールした段階で、サブグループ分析は有意性を失う。多重性の弊害を回避しなければならないからだ。更に、事前に設定されていない解析は良いとこ取りの懸念もある。このような場合は改めて仮説検証試験を行うべしというのが統計学者や一流の査読誌のスタンスだ。今回のように、階層化とは異なった基準に基づいて事後的に重症者と判定した患者を除外した解析となると、尚更だ。

修正されるべき文言が修正された、と受け止めるべきだろう。

リンク: Chenらの論文(第4稿、pdfファイル)
リンク: 同(初稿、pdfファイル)

COVID-19:アストラゼネカ、英米で4億本のCOVID-19ワクチンを供給へ
(2020年5月22日発表)

アストラゼネカは、オックスフォード大学のジェンナー研究所の技術を用いて開発しているCOVID-19ワクチン、AZD1222について、英国向け1億本に続いて米国でも3億本を供給することでBARDA(米国立衛星研究所の生物医学先端研究開発局)と合意した。BARDAは3万人規模の第三相試験や小児試験の実施と量産体制を確立するための補助金として12億ドルを拠出する。

英国の人口は約6600万人なので、一回接種なら1億本で人口の全てを、二回接種でも3/4をカバーできる計算になる。米国は3億2800万人なので、人口の全て又は6割をカバーできる。

開発が順調に進んだ場合、今年9月から供給を開始する予定。同社は、世界中に広く、公平に、パンデミック中は利益ゼロで供給する考え。今年から来年にかけて10億本を供給するキャパを持っている由なので、日本も早く唾を付けたほうが良さそうだ。

Modernaもバイオ薬の生産受託大手であるロンザ社と提携して製造のスケールアップを行い、年10億本規模のキャパを目標とする考え。サノフィとグラクソ・スミスクラインのCOVID-19ワクチン協業も、年10億本を狙っており、この辺りが一製品当りの現実的な供給水準なのだろう。地球の人口は75億人と推定されているので、年75億本程度のキャパシティがあれば二年かけて全員に二回接種できるが、開発が成功するとは限らないので、同規模のプロジェクトがあと数件、出てきて欲しいものだ。

AZD1222は、チンパンジーに感染するアデノウイルスを遺伝子組換えで不活化したベクターを用いて、SARS-CoV-2のスパイク蛋白の遺伝子を導入する。このChAdOx1を用いたワクチンの投与実績は320例以上とのことなので、ワクチンとしては極めて少ない。4月に開始した、英国で1090人を組入れた第1/2相試験の結果が間もなく出る由だが、この規模でも安全性を評価するには不十分だ。アストラゼネカ自身が指摘するように、高リスクプロジェクトだ。

オックスフォード大学は第2/3相試験の組入れを開始したと発表した。英国で10,260人の健常者を1回接種、2回接種、髄膜炎菌ワクチンの何れかに無作為化割付して、抗体価や感染予防効果を検討する。5-12歳や56歳以上、70歳以上も少数組入れて、免疫反応がどの程度違うか、確かめる。予防効果が判明するのは今後の流行次第で2~6ヶ月後になる見込み。

英国の累計感染者数は約25万人で人口の0.37%。対照群の発症率が同程度で、ワクチン効果が7割程度なら有意水準に達するのではないか。実際の罹患率はもっと高いだろうから、ワクチン効果が5割程度でも成功の可能性がありそうだ。

ワクチンは多くの人が使うので、効果は当然のことながら、安全性も高水準が求められる。近年の画期的ワクチンは数万人の治験実績を持つものが多いが、それでも、子宮頸がんワクチンのように、市販後に稀だが深刻な、少なくとも当初はワクチンとの関連性が疑われた有害事象が発生した。米国では、突貫工事で開発した新型インフルエンザワクチンでギラン・バレー症候群が発生したこともある。

だから、実用化前にできるだけたくさんの人に投与して、稀にしか発生しない(特殊な条件を持つ人にしか起きない)深刻な副作用の予兆を把握することが望ましいが、現今の状況下では、スピードも優先せざるを得ない。

きちっとした臨床試験をできるだけ早く始めて長期追跡データベースを充実させることも重要だ。中和抗体が長持ちしないようならば、インフルエンザワクチンのように毎年接種を検討しなければならないからだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース(5/21付)
リンク: オックスフォード大学のプレスリリース

COVID-19:中国のワクチンの第一相論文が刊行
(2020年5月22日発表)

武漢で実施されたCanSino Biologics(HKEX:6185)のCOVID-19ワクチンの第一相試験論文がLancetに刊行された。世界に先駆けて開始された、三種類の用量を一回筋注し28日間観察した試験で、深刻有害事象は発生せず、SARS-CoV-2や偽型ウイルスの中和テストやT細胞免疫テストで免疫誘導効果が見られたようだ。今月開始された第二相では低中用量をテストしている。

このワクチンは、遺伝子組換え型5型アデノウイルスをベクターとして、SARS-CoV-2の全長S蛋白の遺伝子を導入するもの。Beijing Institute of Biotechnologyと共同開発した。

アデノウイルスは抗体を持つ人が少なくないことが弱点で、この試験でも、抗体を持つ被検者では持たない人より免疫反応が小さかった。

SARS-CoV-2に対する免疫は持続性が明らかではない。この試験では、中和抗体は第28日がピーク、特定T細胞反応は第14日がピークだった。

リンク: Zhuらの治験論文(Lancet)
リンク: ワクチンの効果に関する専門家の様々な意見を紹介したSTATの記事

COVID-19:ワクチンの最初の臨床データ
(2020年5月18日発表)

米国ケンブリッジのmRNAワクチン開発企業、Moderna(Nasdaq:MRNA)は、mRNA-1273の第一相試験の途中経過を公表した。同日に13億ドル相当の新株公募も発表しており、蒲焼の匂いに代えて臨床データをチラ見させることによって資金を呼び込む、米国バイオ企業の定石手順だ。

内容は定性的で、『回復期血清に一般的にみられるのと同程度の水準』という曖昧模糊とした尺度が用いられていることなど、BostonGlobe傘下の医学報道機関、STATが論評したように、突っ込みどころ満載だ。

この試験はNIAID(国立アレルギー及び感染症研究所)が主導したが、NIAIDなどのNIH(米国立衛生研究所)系列の研究機関は、アカデミア主導を尊重し民間企業の容喙を許さないところがあるので、研究や論文が完成し一流の査読誌に刊行されるまで、情報開示を制限するようModernaに要求しているのかもしれない。同じくNIAIDが主導した、ギリアドのVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)のCOVID-19試験も、なかなかデータが発表されなかった。

本題に戻ると、mRNA-1273は、SARS-CoV-2が細胞に入る時に受容体に結合する部位の融合前構造をコードするメッセンジャーRNAを用いたワクチン。NIAIDやCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)の支援・協力を受けて、中国企業以外では世界で最初に臨床入りした。

第一相は18~55歳、56~70歳、71歳以上の年齢層毎に、25mcg、100mcg、250mcgの安全性や免疫原性を検討している。三角筋に筋注して4週後に再接種し、その2週後に抗体価を評価する。今回の発表は18~55歳のコフォートに関するもの。

結果は、まず、一回目の接種後に用量依存的な免疫原性を誘導することができた。二回目の接種によるブースター効果はプレスリリースでは言及されていないが有効であったことがテレカンファレンスで示唆された。

二回接種後の抗体誘導に関しては、25mcg群(n=15)では回復期血清(感染から回復した患者の血清)と同水準の結合抗体ができ、100mcg群(n=10)では顕著に上回った。250mcg群はまだブースト後のデータがまとまっていない。

一番重要な中和抗体のデータは両群4例づつしかまとまっていないが、全員で回復期血清と同程度又はそれ以上の水準だった。マウスのチャレンジ試験で肺におけるウイルス増殖を抑制した抗体価と比べても同程度だった。

テレカンファレンスでは、回復期血清の水準とは具体的にどれくらいなのか、文献の根拠があるのか、などの質問が出たが、明確な回答はなかった。回復期血清の抗体価は個人差が大きいと伝えられているので、それと同程度以上というだけでは情報が不十分だ。

G3以上の有害事象は、100mcg群で1例(注射箇所紅斑)、250mcgでは3例発生した。後者は、テレカンファレンスでの説明によれば、ブースト投与後に発熱や疼痛などワクチンにありがちな副反応が一日だけ発現したようだ。

Modernaは間もなく第二相を、7月には第三相試験も開始する計画。18~55歳と55歳以上を各300人ずつ組入れて、50mcgと100mcg(当初予定の250mcgから変更)を比較して至適用量を決定する。尚、第一相も新たに50mcgを接種する群が設定された。

第三相は健常者に加えて持病や職業面でリスクの高い人たちも組入れる。第二相の被検者のブースターショットすら完了していない時期に始まることになるが、開発のスピードアップとエビデンスの充実、そして、世界的な開発競争に勝つためのタクティクスと推測される。

リンク: Modernaのプレスリリース
リンク: STATの記事(5/19付)


【新薬開発】


レムデシビルの治験論文が遂に刊行
(2020年5月22日発表)

COVID-19治療薬として日本で承認され米国でもEUA(緊急時使用認可)を受けたギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir、和名ベクルリー、JAN/レムデシビル)の臨床試験論文がNew England Journal of Medicineに刊行された。サブグループ分析が注目されたが、発症後10日以内の患者でもそれ以降でも効果は大差なさそうだ。重症度との関連性はよくわからない。人工呼吸器やECMOを用いている患者は回復までの期間、回復率、死亡率の何れで見ても、効果が感じられない。一方、軽中等度患者は回復率は大差ないが死亡率が数値上、小さいので、効かないとは言えないだろう。

このACTT-1試験は、COVID-19で入院した下部気道兆候を持つ患者,1063人をVeklury群(初日は200mg、その後は100mgを一日一回静注、最大10日間投与)と偽薬群に無作為化割付して回復(退院または医療不要の感染管理を目的とする入院継続)までの期間を比較した。結果は、Veklury群がメジアン11日、偽薬群は15日で、レート比は1.32、p<0.001だった。また、カプラン・マイヤー推定による14日死亡率は各7.1%と11.9%、ハザードレシオ0.70、95%信頼区間0.47-1.04となり、有意ではないが良さそうな結果になった。

この試験の元々の主評価項目は、疾病段階を退院(1)から死亡(8)までの序数で分類して、2週間の変化を評価する計画だった。ベースライン時点の序数毎の効果は、4(酸素補給不要、n=127)は回復レート比が1.38(95%信頼区間0.94-2.03)、死亡ハザードレシオは0.46、5(酸素補給、n=421で一番多い)も各1.47と0.22と良好だったが、6は1.20と1.12、7(機械式人工呼吸器またはECMO)は0.95と1.06と、いずれも有意ではないが、呼吸機能低下が大きいほど治療効果が曖昧になっている。

G3/4有害事象の発生率は28.8%対33.0%でVeklury群のほうが低かった。呼吸不全など病状悪化に係る症状の発生率が低く、治療効果が有害事象の減少として現れたのだろう。

リンク: Beigelらの治験論文(NEJM)

デュピクセントの好酸球性食道炎試験が成功
(2020年5月22日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)の第三相好酸球性食道炎試験のパートAが成功したと発表した。81人を組入れて300mgを週一回皮注する効果を偽薬と比較したところ、症状や食道上皮内の好酸球数が改善した。パートBでは他の用法も検討中。

DupixentはIL-4受容体のアルファ・サブユニットに結合するトランスジェニックマウス抗体で、アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症、慢性副鼻腔炎などに承認されている。好酸球性食道炎は米国で16万人が治療を受けているが、うち5万人は十分に管理できていない。薬物療法はステロイドが用いられているが正式に承認されている薬はない。

リンク: 両社のプレスリリース

フィルゴチニブの潰瘍性大腸炎試験が成功
(2020年5月20日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)とベルギーのガラパゴス(Euronext:GLPG)は、GLPG0634(filgotinib)のP2b/3活性期潰瘍性大腸炎試験が成功したと発表した。関節リウマチ治療薬として日米欧で承認申請中のJAK1阻害剤の適応拡大試験で、リウマチと同様に100mgと200mgを一日一回、経口投与する効果を検討したところ、200mg群の臨床的寛解率や寛解維持率が偽薬を有意に上回った。

臨床的寛解率は内視鏡所見や直腸出血、便頻度を第10週時点で評価した。200mg群の成績は、TNF阻害剤などのバイオ薬が未経験の患者では26.1%(偽薬群は15.3%)、経験者では11.5%(同4.2%)だった。寛解した患者を投与継続群と偽薬スイッチ群に再無作為化割付したところ、第58週寛解維持率は37.2%(同11.2%)だった。深刻有害事象の発現率は各群大差なく、深刻感染症も増えなかった。

filgotinibはガラパゴスが開発、アボットが12年にインライセンスしたが、自社開発品であるABT-494(upadacitinib)を選択し返還、15年にギリアドが共同開発販売権を取得した。前臨床で男性生殖機能毒性の懸念が浮上し、FDAが男性に用いる場合は100mgに抑えるよう要請したことがある。現状は明らかではないが、もし懸念が解消していないならば、100mg群の臨床的寛解率が偽薬を有意に上回らなかったことはインプリケーションがあるだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

ヴィーブ、2ヶ月毎筋注の抗HIV薬の暴露前予防試験が成功
(2020年5月18日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアは、ジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発した長期作用性筋注用同梱薬のPrEP(暴露前予防)試験が成功したと発表した。効能追加申請に向けて相談する考え。

この同梱薬は、塩野義が創製した長期作用性筋注用インテグラーゼ阻害剤、cabotegravirと、JNJの非核酸系逆転写阻害剤、rilpivirineの長期作用性筋注用新製剤。知財が絡むため、二種類の活性成分を配合したコンビ薬ではなく、夫々が製造した二剤の同梱となっており、痛い筋肉注射を二回、しなければならないのが難点だが、毎月~2ヶ月毎の投与で足りるので、経口剤より好む患者もいるようだ。ウイルス抑制に成功している患者がスイッチする用途で承認申請され、カナダでCabenuvaというブランド名で承認されたが、米国ではCMC(化学、製造、管理に係る書類)がネックで審査完了通知を受領した。

今回のHPTN 083試験はNIAID(米国立アレルギー疾患・感染症研究所)やHIV予防試験ネットワークと共に実施しているP2b/3試験で、米州、アジア、アフリカの男とセックスする男/トランスジェンダー女性約4600人を組入れて、予防効果を承認薬であるtenofovir disoproxil fumarateとemtricitabineの合剤(ギリアドのTruvada)と比較した。Cabenuvaは治療用途では月一回投与で承認申請されたが、本試験は2ヶ月毎に投与した。

独立データ監視委員会が事前に予定されていた中間解析で成功認定した。試験薬群の感染者は12人、対照群は38人で、罹患率は各0.38と1.21となり、非劣性であることが確認された。優越性にも近接とのことだが、最終解析待ちのようだ。

独立データ監視委員会は、1年遅れで開始されたHPTN 084試験のデータも検討したが、継続を勧告した。こちらはアフリカの性的に活発な女性を組入れたPrEP試験。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

Syndax、HDAC阻害剤の乳癌第三相試験がフェール
(2020年5月21日発表)

Syndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)は、SNDX275(entinostat)の第三相試験がフェールしたと発表した。ホルモン受容体陽性her2陰性の進行乳癌にexemestaneと併用する効果を検討したが、延命効果が見られなかった。

entinostatは01年に日本シエーリングが三井製薬を買収した時に入手したクラス1ヒストン・ジアセチラーゼ阻害剤。シエーリングを買収したバイエルが07年にSyndaxに導出した。日本は協和キリンが転移性乳癌に第二相試験段階。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


新作用機序の避妊薬が承認
(2020年5月22日発表)

Evofem Biosciences(Nasdaq:EVFM)は、FDAがPhexxi(乳酸、クエン酸、酒石酸カリウム)膣用ゲルを女性のオンディマンド避妊薬として承認したと発表した。膣をpH3.5-4.5と精子にアゲンストな環境に維持することで避妊を可能にする。

リンク: Evofemのプレスリリース

サノビオン、アポモルヒネ舌下フィルムが米国で承認
(2020年5月21日発表)

大日本住友製薬の米国子会社であるサノビオン・ファーマシューティカルズは、FDAがKynmobi(apomorphine hydrochloride)をパーキンソン病のオフ症状治療薬として承認したと発表した。パーキンソン病はドパミンによく反応するが、何年も服用するうちに段々、作用の持続期間が短くなり、オフ症状が出るようになる。apomorphineはドパミン作用薬で、米国では皮注用薬がオフ症状時のレスキュードラッグとして承認されている。KynmobiはAquestive Therapeuticsの技術を16年にライセンスして開発した長方形の舌下フィルム製剤。

リンク: サノビオンのプレスリリース

リムパーザも遺伝子修復不全の去勢抵抗性前立腺癌に承認
(2020年5月20日発表)

アストラゼネカとMSDは、共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。生殖細胞系列または体細胞系列のHRR(相同組換え修復)変異を持つまたは疑われる転移性去勢抵抗性前立腺癌で、enzalutamideまたはabirateroneによる治療に反応しなかった患者が適応になる。精巣切除例以外はGnRHアナログを併用する。

HRR変異は二重連鎖ブレイクの修復に係るBRCA1/2やATM(BRCA1などをリン酸化する酵素の遺伝子)、CDK12、CDK11などの遺伝子に悪性の変異がある。尚、添付文書によると、承認のエビデンスとなったPROfound試験で定義された15種類のHRR関連遺伝子のうち、PPP2R2Aの変異は、便益とリスクのバランスが適切でないため適応外になったようだ。

この試験の主評価項目は、BRCA1/2またはATMに悪性変異を持つサブグループのPFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価による)で、メジアン7.4ヶ月とabirateroneまたはenzalutamideを投与した群の3.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.34、p<0.0001だった。全生存期間の解析も各19.1ヶ月、14.7ヶ月、0.69、p=0.0175だった。

HRR変異を持つ患者全体のPFSも各5.8ヶ月、3.5ヶ月、0.49、p<0.0001だったが、BRCA1/2またはATM変異を除外した探索的解析では、メジアン4.8ヶ月対3.3ヶ月、ハザードレシオは0.88で95%信頼区間は1を跨いでおり、点推定値も信頼区間も今一つだった。このサブグループのORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)は3.7%対8.3%で数値上低かった。

このため、HRR変異全体が適応になったのは意外だった。もしかしたら、上記のPPP2R2A変異型を除外すれば、BRCA1/2やATMを除いた解析でももっと良い数値が出るのかもしれない。

PARP阻害剤では先週、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のRubraca(rucaparib)をBRCAの生殖細胞系列/体細胞系列有害変異関連の転移性去勢抵抗性前立腺癌でアンドロゲン標的薬とタクサン系薬による治療歴を持つ成人に用いることが承認された。Lynparzaより適応が狭く、エビデンスも単群試験のORRなので、1週間しか先行して発売できないのは痛いだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: 米国のレーベル(pdfファイル)

FDA、テセントリクをモノセラピーでもNSCLC一次治療薬として承認
(2020年5月18日発表)

FDAは、ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をPD-L1高度陽性の進行非小細胞性肺癌の一次治療に単剤投与することを承認した。高度陽性は、腫瘍細胞の50%以上または腫瘍浸潤免疫細胞の10%以上でPD-L1が発現している。Ventana Medical SystemのSP142アッセイがコンパニオン診断薬として承認された。尚、分子標的薬が第一選択になるEGFR/ALK変異癌は対象外。

IMpower-110試験でメジアン生存期間が20.2ヶ月と、化学療法群の13.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.59、p=0.0106だった。この試験は低中度陽性も組入れたが、中高度陽性例あるいは全陽性例の解析は有意水準に達しなかった。MSDのKeytruda(pembrolizumab)と同様に、低中度陽性癌にはモノセラピーは至適ではないのだろう。

Tecentriqの非小細胞肺癌におけるこれまでの適応は、白金薬歴を持つ癌にモノセラピー、一次治療にcarboplatinとpaclitaxelおよびbevacizumabと併用、非扁平上皮型の一次治療にcarboplatinおよびnab-paclitaxelと併用で、何れもPD-L1発現の有無は不問だった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース(5/19付)




今週は以上です。

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