2017年7月9日

2017年7月9日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • オプジーボの術後アジュバント試験が成功 
  • FDAが鎌状赤血球症治療薬を承認 
  • オレンシア、乾癬性関節炎に承認 
  • キイトルーダの多発骨髄腫三剤併用試験は完全停止に 
  • EUが抗CD25抗体の使用制限 


【新薬開発】


オプジーボの術後アジュバント療法試験が成功
(2017年7月5日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の黒色腫アジュバント療法(切除後の再発予防)試験の成功を発表した。同社のYervoy(ipilimumab)を投与した群と比べて再発リスクが有意に小さかった。データは今後、学会などで発表される見込み。

この、CheckMate-238試験は、ステージIIIb/cまたはステージIVの黒色腫の完全切除を受けた患者のうち、再発リスクの高い906人を、Opdivo群(3mg/kg、二週間毎)とYervoy群(10mg/kg、最初は三週間毎、5回目からは12週間毎、全1年コース)に無作為化割付して、無再発生存率(RFS)を比較したもの。

対照薬であるYervoyはステージIIIのアジュバント療法薬として承認されている。根拠となった第三相試験では、RFSの偽薬比ハザードレシオが0.75と有意に改善し、メジアン値は26ヶ月で偽薬群の17ヶ月を上回った。RFSの構成要素のうち死亡は3倍近く多かったが、再発が24%少なかった。

この試験では今回と同様に10mg/kgを用いたが、最近開票したステージIII/IVを対象に10mg/kgと3mg/kgを比較したアジュバント試験では、RFSはどちらも大差なく、治療関連有害事象による死亡は10mg/kg群のほうが4倍多かった。詳細データは未発表だが重要なデータである。

抗体医薬は至適用量の探索が徹底していない嫌いがあるからだ。抗癌剤の用量決定は動物試験で有効だった血中濃度を目標に増量し、最大耐容量を至適用量とするが、抗体医薬は標的分子が動物とヒトで完全に同じではないため前臨床の知見が必ずしもアテにならず、本当はもっと少なくても足りるかもしれないのだ。用量が1/3で済むなら薬代も1/3前後に減るので、患者や医療制度には都合がよい。

このような背景があるので、CheckMate-238試験の結果が出たらYervoy群の数値が過去の試験と整合的であるか確認する必要があるだろう。Yervoyの用量用法が適切でないのなら、Opdivoのほうが良いとは言い切れないからだ。しかし、結論が覆る可能性は低いだろう。今回もまた、抗PD-1抗体が抗CTLA-4抗体より優れていることが示された。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


FDAが鎌状赤血球症治療薬を承認
(2017年7月7日発表)

FDAはEmmaus Life Sciences社のEndari(L-glutamine)を鎌状赤血球症治療薬として承認した。5歳以上の患者に経口投与してクリーゼ(重い増悪)のリスクを抑制する。

この病気はヘモグロビンベータ鎖の遺伝子変異が原因。様々な組織で酸素不足によるトラブルが生じやすくなる。米国の患者数は約10万人。アフリカ系アメリカ人に多く、有病率は新生児365人に一人とされる。臨床試験ではクリーゼの治療や入院、急性胸症候群が偽薬群より少なかった。有害事象は便秘、悪心、頭痛、腹痛など。

鎌状赤血球症の薬が承認されたのは、ヒドロキシウレア以来、19年ぶり。活性成分はNutrestore名で医薬品として承認されている(短腸症候群の治療に成長ホルモンと併用する用途)。

EmmausのCEOはUCLA医学部教授のYutaka Niihara医学博士で、鎌状赤血球症の治療や研究で長年の実績を持っている。作用機序は不明だが、酸化に弱い鎌状赤血球が抗酸化物質を作るのに必要なアミノ酸の補充が元々のアイディアであった模様だ。

リンク: FDAのリリース
リンク: Emmausのプレスリリース

オレンシア、乾癬性関節炎にも承認
(2017年7月6日発表)

BMSは、Orencia(abatacept、和名オレンシア)を中重度活性期乾癬性関節炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。

点滴用薬(10mg/kg)の試験では24週間の治療でACR20奏効率が47.5%と偽薬群の19.0%を有意に上回った。皮注用薬(125mg)の試験では39.4%対22.3%と、こちらも有意に上回った。

リンク: BMSのプレスリリース


【医薬品の安全性】


キイトルーダの多発骨髄腫三剤併用試験は完全停止に
(2017年7月5日発表)

6月18日号で報じたように、MSDはKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の第三相多発骨髄腫三剤併用試験二本の新規組入れを中断した。今回、FDAがフル・クリニカル・ホールドを命じたことが公表された。治験許可を停止するもので、既に組み入れられた患者に対する投与も中止となった。癌は命に係るので奏功・忍容している患者には続行を認めることも少なくない。それだけ、副作用懸念が大きいということなのだろう。

対象は一本増えて三本。第三相は一本がKEYNOTE-183試験で、再発性難治性で三次治療を受ける患者にpomalidomide(セルジーンのPomalyst/Imnovid)及び低量dexamethasoneと併用。もう一本がKEYNOTE-185試験で、初めて治療を受ける自家造血幹細胞移植不適患者にlenalidomide(セルジーンのRevlimid)と低量dexamethasoneのRdレジメンと併用をテストした。治験登録によれば日本の施設もこの二本に参加している。

もう一本は第一相試験の一部で、Rdレジメンと併用するコフォートが新たにホールドとなった。

BMSもくすぶり型多発骨髄腫の第三相試験でOpdivo(nivolumab)とRdレジメンの併用法を検討している。海外の薬品アナリストのレポートによると、Keytrudaの件を受けてデータ監視委員会がチェックしたが、続行を勧告した由だ。但し、油断はできないだろう。こちらの試験のほうが患者の全般的な状況は良好だろうから、副作用をよく忍容して致死的なところまで行かないだけかもしれない。

リンク: MSDのプレスリリース

EUが抗CD25抗体の使用制限
(2017年7月7日発表)

EMA(欧州薬品庁)は再発型多発硬化症用薬として昨年、承認したZinbryta(daclizumab)の使用を制限する旨、発表した。深刻な肝障害例が複数、報告されたため、再検討が完了するまで暫定的な措置を取るもの。

daclizumabはIL-2受容体の一部であるCD25を標的とするヒト化抗体で、プロテイン・デザイン・ラボ(PDL)が創製、ロシュが腎移植時の拒絶反応予防薬として開発し、97年に米国で承認され、ヒト化抗体の第一号となった。しかし、普及せず、適応拡大も進まなかったため、ロシュは2009年に生産販売中止を決定、権利を返還した。PDLは新たにバイオジェンと提携して多発硬化症用薬として共同開発、難航したが遂に第三相試験を成功させ、昨年、欧米で承認された。

PDLは08年にヒト化抗体技術など知的所有権を管理する会社と新薬開発会社に企業分割され、後者は10年にアッビィに買収された。このため、Zinbrytaはバイオジェンとアッヴィの共同販売となっている。

感染症や皮膚毒性など様々な深刻有害事象が見られるが、肝毒性も既知であり、治療を開始する前と治療中は月一回以上の頻度で肝機能検査を行う必要がある。規制強化の引き金になった症例は、一人が劇性肝炎で死亡、4人が深刻な肝障害を発症した。治療開始後早い時期に発症した事例もあるが、中止後数ヶ月経ってから発症したケースもあるようだ。

このため、EMAは使用を高度活性の再発性疾患で他の治療がフェールした患者や、急速に進展していて他の薬で治療できない患者に限定した。

Zinbrytaは肝障害のある患者には禁忌。多発硬化症以外の自己免疫疾患を持つ患者に用いることは推奨されない。肝障害のリスクのある薬と同時使用する時は注意する。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

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