2017年7月23日

2017年7月23日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ヴァーテックス、第4の嚢胞性線維症用薬を第二相へ 
  • AAIC:富山のアルツハイマー試験はフェール 
  • Paratek社、抗生剤新薬の三本目の第三相が成功 
  • CHMPがBavencioなどに肯定的意見 
  • 抗スクロスチンは承認されず 
  • 汎erbB阻害剤が承認 
  • ギリアドのHCV薬がまた承認 
  • 高カリウム血症治療薬がEUで承認 
  • ルミセフ、欧州でも承認 
  • EU、ガドリニウム造影剤の一部の承認を停止へ 


【新薬開発】


ヴァーテックス、第4の嚢胞性線維症用薬を第二相へ
(2017年7月18日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は98年に嚢胞性線維症の財団、CFFTと共同で治療法の研究を開始。14年後の2012年に新薬第一号のCFTRポテンシエイター、Kalydeco(ivacaftor)を欧米で発売、
翌年にはCFTRコレクター(矯正剤)のlumacaftorと組み合わせた合剤、Orkambiを発売と、着々と成果を上げている。嚢胞性線維症の多くはCFTR蛋白の遺伝子変異が関与しているが、薬物応答性は変異型によって異なり、ある種の患者にはKalydecoが有効だが、一番多いタイプである両方の遺伝子がF508欠損型の患者には合剤と、使い分けが必要だ。

片親からF508欠損、もう片親から別の機能低下変異を遺伝する患者も多いが、このF508del/min型はOrkambiにも十分応答しない。新開発のVX-661(tezacaftor)とivacaftorを組み合わせた合剤も効果不足で、結局、Orkambiと同じF508欠損ホモ接合型に年内に承認申請される予定。

ヴァーテックスの良いところはパイプラインを豊富に持つ、逆に言えば、類似したコンパウンドを雁行的に開発して臨床成績に基づいてスクリーニングすることだ。第4の嚢胞性線維症用薬、第3のCFTRコレクターを見つけるべく、第二相、第一相試験を行っている。このうち、VX-659などについて、アップデートがあった。

ivacaftor及びtezacaftorと三剤併用でF508del/min型の患者の%FEV1量を改善する効果を調べたところ、VX-152とVX-440の第二相試験では各9.7pp(パーセンテージポイント)と12.0ppの改善が見られた。VX-659の第一相でも9.6pp改善した。Kalydecoが承認された時の治療効果と概ね同程度であり、評価できる。

VX-440は少数だが肝機能検査値異常が見られ、また、前臨床で妊婦に適さないことが判明した模様だ。ヴァーテックスはVX-659を早急に第二相にステージアップして、来年上期までに第三相候補を選抜する考え。

残された宿題を一つずつやっていくことで、変異型と治療薬のマトリクス表が段々と埋まってきた。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

AAIC:富山のアルツハイマー試験はフェール
(2017年7月19日発表)

AAIC(アルツハイマー協会国際会議)で富山化学のT-817MAの後期第二相アルツハイマー病試験の結果が発表された。結果はPOC試験と同様で、認知機能の評価スコアであるADAS-cogでも、全般症状評価であるADCS-CGICでも、偽薬比有意な効果は見られなかった。病歴が短い患者の事後的サブグループ分析で高用量群(448mg/日)のADAS-cogが偽薬比3ポイント改善した由だが、POC試験では進行した中等症状の患者の成績が良かったことと食い違っており、慎重に受け止めたほうが良いだろう。

親会社である富士フィルムのプレスリリースによると、承認審査機関と相談の上で第三相試験を開始する考え。そのせいか、日本の報道はポジティブなものが多いが、海外は本稿と同様に試験がフェールしたことを淡々と報じるものが多い。

富士フィルムといえば経営上層部を巻き込む不適切会計事件が浮上、メディアが内部統制の妥当性を議論している。大企業のお手本と見なされてきた東芝の経営体制も評価が地に落ちた。私見では、目標達成を至上命題とする企業は、物事が思い通りに進まなくても自分が見たいものしか見ない癖がある。戦場からの撤退は、兵士や兵器の犠牲に目を瞑れば転戦と呼ぶことが可能である。自分に都合の悪い具申をする監査法人は更迭できる。批判するフェイクメディアは後ろから飛び掛かって殴ればよい。

臨床試験も、主評価項目がフェールしたことや多重性のトラップに目を瞑ればサブグループに対して統計的に有意な効果が見られたと強弁することができる。『海外医薬ニュース』もメールボックスから完全削除すれば、世は全てこともなし。

リンク: 富士フィルムのプレスリリース(和文)

Paratek社、抗生剤新薬の三本目の第三相が成功
(2017年7月17日発表)

Paratek Pharmaceuticals(Nasdaq:PRTK)は、PTK 0796(omadacycline)の第三相急性細菌性皮膚皮膚構造感染症試験が成功したと発表した。静注用と経口剤を用いた一本目の試験に続いて、経口剤だけを用いた今回の試験も、linezolid群と比べて奏効率がFDA基準でもEMA基準でも非劣性だった。数値上は上回っており、効果の面では好印象だ。もう一本、地域感染細菌性肺炎の第三相moxifloxacin対照試験も非劣性解析が成功しており、18年第1四半期に承認申請の予定。

やや気になるのが忍容性。一本目では深刻な治療時発現有害事象の発生率が3.4%と対照群の2.5%を上回った。肺炎試験では同程度だったが、死亡率が2.1%対1.0%で上回った。今回の試験では、悪心嘔吐が対照群より多く、肝機能検査値異常も見られた。

米国でファーストトラック指定と認定感染性疾患用製品(QIDP)指定を受けている。99年から11年にかけて、グラクソやバイエル、メルクそしてノバルティスにライセンスアウトしたが、全て終了となった。

リンク: Paratekのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがBavencioなどに肯定的意見
(2017年7月21日発表)

EUの医薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、7月の会合でメルクのBavencio(avelumab)などの新薬に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域などで承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

BavencioはPD-L1を標的とする完全ヒト化抗体。先行類薬が複数存在するせいか、転移性メルケル細胞腫という希少疾患がリードインディケーションだ。欧州に関してはロシュの抗PD-L1抗体であるTecentriq(atezolizumab)と同じタイミングで肯定的意見を獲得したので、狙いが成功したと言えるだろう。

メルケル細胞腫は稀だが進行の早い皮膚癌で5年生存率は20%以下といわれる。EUでも米国でも年2500人程度が診断と推定されている。臨床試験では総合反応率が33%だった。米国では今年3月に承認。ファイザーと開発販売提携している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: メルクのプレスリリース

Tecentriqは局所進行性/転移性の膀胱癌の二次治療(cisplatin不適は一次治療も可)と非小細胞性肺癌の化学療法後再発治療(ALKまたはEGFRに活性化変異のある患者はALK阻害剤またはEGFR阻害剤歴も必要)に用いる。米国では16年5月から17年4月にかけて三段階で取得した適応を一気にキャッチアップする格好だ。

米国ではPD-L1事前検査は不要とされた。CHMPの見方は不明だが、適応のところに記載されていないので、こちらも不要なのだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

ノバルティスのRydapt(midostaurin)はFLT3阻害剤。適応は、FLT3変異陽性急性骨髄性白血病、侵襲性または血液学的新生物を伴う全身性肥満細胞症、肥満細胞白血病。cytarabine及びdaunorubicinと併用した急性骨髄性白血病試験ではメジアン生存期間が74.7ヶ月と偽薬群の25.6ヶ月を大きく上回った。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

リジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィのDupixent(dupilumab)はIL-4受容体のアルファ・サブユニットを標的とするヒト化抗体で軽中度アトピー性皮膚炎の治療に用いる。久方の画期的新薬で効果が高いが、値段も高く、3月に承認された米国での出足はゆっくりのようだ。

開発パイプラインの評価は難しいので新興医薬品開発会社を見る時は臨床開発品の数や潰しの効く技術を持っているかどうかに注目することにしている。ヴァーテックスは期待と失望を繰り返したが遂に嚢胞性線維症領域で開花した。リジェネロンは抗体医薬版『ゾロ新』を狙えば幾らでも新薬が出せるはずと注目しているのだが、Dupixentは宝くじが当たったような気分だ。

リンク: 両社のプレスリリース

フランスのAdvanced Accelerator Applications社のLutathera(lutetium 177 dotatate)はソマトスタチン類縁体に放射性核種を付けたもの。切除不能/転移性/進行性のG1/G2ソマトスタチン受容体陽性胃腸膵神経内分泌腫瘍に用いる。米国は昨年12月に審査完了通知を受領した。日本は富士フィルムが導入。

リンク: EMAのプレスリリース

参天製薬のVerkazia(ciclosporin)はカルシニューリン阻害剤を点眼液にしたのもので、4歳以上の青少年の重度春季カタル(アレルギー性結膜炎)に用いる。希少疾患で、放置すると角膜の潰瘍や視力喪失につながることがある。

リンク: EMAのプレスリリース

Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)のXermelo(telotristat ethyl)はLトリプトファン水酸化酵素1/2阻害剤で、カルチノイド症候群の下痢症状の治療に用いる。ソマトスタチンによる治療は継続する必要がある。米国は2月に承認。北米や日本以外の権利はイプセンが14年に取得した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: イプセンのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンのSymtuzaはdarunavir(プロテアーゼ阻害剤)、cobicistat(3A4阻害剤)、emtricitabine、そしてtenofovir alafenamide(ともに核酸系逆転写阻害剤)の合剤で、HIV/AIDSの治療に用いる。cobicistatはギリアド・サイエンシズの製品で、代謝酵素相互作用を逆用して投与頻度を減らすritonavirブーストと呼ばれる手法のritonavir代用品として使うことができる。

リンク: JNJのプレスリリース(Business Wire)

適応拡大は、MSDのKeytruda(pembrolizumab)を末期/転移性尿路上皮癌に用いることが支持された。5月に承認された米国と同様に、cisplatin歴を持つ患者の再発治療薬だが、不適なら一次治療に用いることも可能。

リンク: MSDのプレスリリース

ロシュのGazyva(obinutuzumab)を濾胞性リンパ腫の導入療法・維持療法に用いることも支持された。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.71とMabThera(rituximabの欧州での製品名)より有意に優れていた。

Gazyvaはrituximabと同じ抗CD20抗体だがマウス由来のアミノ酸が少なく、翻訳後装飾でフコースが付与されていないので抗体依存的細胞毒性が高い。現在の適応症は、慢性リンパ性白血病でfludarabineが適さない患者の一次治療と、濾胞性リンパ腫の再発治療(bendamustine併用)。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュはRoActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)も巨細胞性動脈炎の治療に用いることが支持された。米国では5月に承認。日本では昨年12月に上位カテゴリーである大型血管炎の効能効果追加申請が行われた。

抗IL-6受容体ヒト化抗体で、最近の話題は、CAR-Tと呼ばれる画期的な自家T細胞療法の副作用でサイトカイン放出症候群が発生した時の治療のデファクトスタンダードになっている。

最後に、ノバルティスのSignifor(pasireotide)をクッシング病の治療に用いることも支持された。手術を既に受けた患者や不適な患者に用いる。

否定的意見を受けたのはVanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)が承認申請した非定型向精神薬、Fanaptum(iloperidone)。米国ではFanapt名で09年に承認されたが、EUは二度目の挑戦も挫折した。CHMPは、前回と同様に、効果が穏やかで作用が発揮されるまで2~3週間かかるので急性期治療には適さずQT延長リスクや薬物相互作用リスクがあることを指摘した。Vandaは不服申し立てを行う考え。

リンク: Vandaのプレスリリース

抗スクロスチンは承認されず
(2017年7月16日発表)

アムジェンとUCBはEvenity(romosozumab)を閉経後骨粗鬆症治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。アムジェンが年内の承認は見込んでいない旨を5月に公表済みなのでサプライズ感はない。

遅延の原因は、承認申請後に開票した別の試験二本で心血管疾患リスクが高めだったこと。ARCH試験では心血管深刻有害事象の発生率が2.5%とalendronate群の1.9%より高かった。更に、男の骨粗鬆症の治療試験でも4.9%と偽薬群の2.5%より高かった。両社はFDAにこの二本のデータを追加提出する予定。

被験者が一番多い最初の試験で偏りが見られなかったことはポジティブな材料だが、上記の心血管深刻有害事象は第三者による査読を受けたものである由だ。初めからAdverse events of special interestとして厳格にモニターされていたのならば、もっと前の段階で懸念の種があったのだろう。だとしたら、安易にノイズ扱いすることはできないだろう。

欧州では予定通り、承認申請の準備を進める予定。日本はアステラスとの合弁が昨年12月に承認申請した。

リンク: アムジェンのプレスリリース


【承認】


汎erbB阻害剤が承認
(2017年7月17日発表)

FDAはPuma Biotechnology(Nasdaq:PBYI)のNerlynx(neratinib)を承認した。早期her2陽性乳癌で切除術後にHerceptin(trastuzumab)を含むアジュバント療法を受けた患者に、更にNerlynxを経口投与して再発リスクを抑制する。臨床試験では2年後の無再発生存率が94.2%と偽薬群の91.9%を有意に上回った。この試験は日本の施設も参加した。

5月の諮問委員会では一部の患者に効果が見られなかったことや下痢による用量削減・中断が頻発することから適応を限定すべきではないかという意見もあったが、結局、FDAは制限しなかった。

neratinibはワイスが開発していた汎erbB阻害剤で、EGFR、her2、her4を不可逆的に阻害する。Pumaは、Cougar Biotechnogyで前立腺癌用薬Zytiga(abiraterone acetate)の開発に成功したAuerbach氏が会社をジョンソン・エンド・ジョンソンに9.7億ドルで売却した後に設立したもので、ワイスを買収したファイザーから11年に権利を取得、開発を進めたもの。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Pumaのプレスリリース

ギリアドのHCV薬がまた承認
(2017年7月18日発表)

FDAはギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVoseviを慢性C型肝炎治療薬として承認した。新開発のNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤であるvoxilaprevirと既承認のEpclusaの配合成分であるNS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvir及び汎遺伝子型NS5A複製複合体阻害剤velpatasvirを配合しており、遺伝子型1型から6型までに有効。

一次治療や中度以上の肝硬変を合併する患者は適応外。報道によると、価格はEpclusaと同じに設定される予定。薬では珍しい、BUY TWO, GET ONE FREEだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース

高カリウム血症治療薬がEUで承認
(2017年7月21日発表)

スイスのVifor PharmaグループのRelypsa社は、Veltassa(patiromer)がEUで高カリウム血症治療薬として承認されたと発表した。年末から来年初めにかけて上市する計画。

臨床試験でほとんどの被験者がレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の阻害剤を服用していたため、このタイプの患者に限定された。15年に承認された米国では限定されなかった。

カチオン交換ポリマーで、水に溶かして食中に飲むとカリウムに結合、そのまま排泄される。遅延作用性なので命に係る急性期治療には適さない。多くの薬に結合するので服用タイミングをずらす必要がある。

リンク: Relypsaのプレスリリース(GlobeNewswire)

ルミセフ、欧州でも承認
(2017年7月20日発表)

アストラゼネカは、Kyntheum(brodalumab、米国名Siliq、和名ルミセフ)がEUで中重度プラク乾癬の治療薬として承認されたと発表した。アムジェンからライセンスした抗IL-17受容体A完全ヒト化抗体で、欧州ではLEO Pharmaが、2月に承認された米国はValeantが販売する。アムジェンもアストラゼネカも直接販売しないのは、一つには複数の他社が類似したメカニズムを持つ抗IL-17抗体を開発販売しているから。もう一つは、臨床試験の症例2000例のうち数人が自殺思慮・行動を示したためである。

日本は昨年、協和発酵が発売した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EU、ガドリニウム造影剤の一部の承認を停止へ
(2017年7月21日発表)

EMAはガドリニウム造影剤の再検討を完了し、一部の製品の使用を制限し他の製品の承認を停止すべきというCHMPの勧告を確認した。

MRI検査でも用いられる造影剤だが、脳内に蓄積する可能性があることが判明。有害との確証はないが、EMAは、潜在的なリスクを回避するためにリニア型ガドリニウム造影剤の静注を制限すべきと結論した。具体的には、gadodiamide(和名オムニスキャン)、gadopentetic acid(和名マグネビスト)、gadoversetamide(Optimark)の承認を停止する。

gadoxetic acidとgadobenic acidを肝臓スキャンに用いることや、gadopentetic acidの関節内投与(用量が少ない)は可能とされた。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

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