2025年9月6日

第1223回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、審査完了通知の公開を開始 
  • ウゴービはゼップバウンドよりMACE予防効果が高い 
  • ファイザー、米国でビンダケルの販売を中止へ 
  • BioNTechが中華ADCを年内に米国で承認申請するらしい 
  • サノフィ、抗OX40L抗体のアトピー試験が成功 
  • ESC:ApoC-IIIアンチセンス薬を承認申請へ 
  • MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相がまた成功 
  • ネブライザ用トレプロスチニルのIPF試験成功 
  • ESC:アストラゼネカのアルドステロン合成酵素阻害剤が血圧を大きく低下 
  • ESC:心ミオシン阻害剤のデータを公表 
  • ビーワン・メディシンズ、MCL用薬を承認申請へ 
  • Zydus、PPARアルファ/ガンマ・アゴニストの胆汁性胆管炎試験が成功 
  • アムジェンの抗FGFR2b抗体、最終解析で便益縮小 
  • MSD、ベリキューボの症状安定的な患者に対する試験はフェール 
  • テリックスのccRCC造影剤は審査完了 
  • レケンビの皮下注用製品が承認 
  • サノフィ、ITP用BTK阻害剤が承認 
  • PRACがレバミゾールなどの安全性を検討 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


FDA、審査完了通知の公開を開始
(2025年9月4日発表)

FDAは、radical transparency(ステークホルダーの信頼を獲得するために通常は秘匿するような情報を公開する)を企図して、審査完了通知(Complete Response Letter)の公開を始めている。今回は新たに89件を公開した。以前から公開されている承認通知と同様に守秘義務を負う事項は黒塗りされているが、PTCセラピューティクスのvatiquinone(フリードライヒ運動失調症)やCapricor Therapeutics(Nasdaq:CAPR)のderamiocel(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)などについては臨床試験データの不十分な点について黒塗り無しで公開している。

これまでは企業の発表を鵜呑みにせざるを得なかったが、誤魔化せなくなったため、ディスクロージャーの質の向上が期待できる。類似品を開発している企業にとっても、より信用できる他社情報が得られることになる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Complete Response Lettersサイト(中段に検索ページのリンクあり)


ウゴービはゼップバウンドよりMACE予防効果が高い
(2025年8月31日発表)

ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤Wegovy(semaglutide)の心血管疾患抑制効果がGIP/GLP-1作用剤tirzepatide(イーライリリーのZepboundの活性成分)より高いというSTEER試験の成果をESC(欧州心臓学会)で発表した。大変重要な発見だが、後顧的観察的試験であることや、短期間に大きな差が出ていることなどを考えると、治験論文などで詳細を開示する必要があるだろう。また、この種の研究は複数の独立した試験で確認する必要がある。

この試験は、Komodo Healthが構築した米国の医療記録データベースを元に、45歳以上で22年5月以降にWegovyまたはtirzepatideによる治療を開始した、肥満症またはオーバーウェイトで心血管疾患歴を持つ2万人超のMACE(主要有害心血管イベント)発生状況を傾向スコア・マッチング手法で比較したもの。

Wegovyは2.5mg。tirzepatideの用量は下記プレスリリースには記されていない。また、この時期は両薬とも供給不足で調合薬局品が代用使用されるケースもあったため、tirzepatideが全てZepboundであるかどうかも記されていない。

共同主評価項目の一つである改訂版3点MACE(心筋梗塞、卒中、全死亡)はWegovy群が56イベント(発生率0.5%)、対照群は83イベント(同0.8%)で、リスクが29%小さかった。平均追跡期間は各群8.3ヶ月と8.6ヶ月。

期中に30日以上、投与を休止した患者を除外した感受性分析では、15イベント(0.1%)対39イベント(0.4%)で57%小さかった。こちらの平均追跡期間は各3.8ヶ月と4.3ヶ月。下記プレスリリースではこちらのデータが真っ先に記載されていて、感受性分析であることは後半まで分からない。

共同主評価項目である、心不全入院や冠介入術を含む改訂版5点MACEの解析結果は記されていない。

イーライリリー側はどう反論するだろうか?

リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース


ファイザー、米国でビンダケルの販売を中止へ
(2025年8月29日発表)

ファイザーは米国でATTR-CMトランスサイレチン調停性アミロイドーシスによる心筋症の治療薬であるVyndaqel(tafamidis meglumine)の販売を年内で終了するようだ。Amyloidosis AwarenessというアカウントがFacebookで伝達したとFiercePharmaが報じた。Vyndamax(tafamidis)の販売は続けるようだ。

両剤は早く承認されたEUでは前者の20mgカプセルがATTR神経症向け、9年後に同じブランド名で承認された61mgカプセルがATTR心アミロイドーシスと適応が異なるが、米国では同じで、20mgカプセルを使う場合は一日4カプセルを服用する。大きさがどれくらい違うか知らないが、それほどの差でないのならVyndaqelがなくなっても大きな問題はないのだろう。

リンク: FiercePharmaの報道

【新薬開発】


BioNTechが中華ADCを年内に米国で承認申請するらしい
(2025年9月5日発表)

中国のDualityBio (Suzhou)とドイツのBioNTechは、DB-1303/BNT323の第3相試験が成功したと発表した。前者が中国で承認申請する考え。BioNTechのホームページに掲示されているプレスリリースには記されていないが、DualityBio (Suzhou)の親会社であるDuality Biotherapeutics(映恩生物製薬、9606.HK)によると、中国外の権利をライセンスしたBioNTechは年内に米国で別の適応症で承認申請する考えとのこと。

抗her2抗体とtrastuzumabを新開発のトポイソメラーゼ阻害剤pamirtecanと結合した抗体薬物複合体(ADC)。乳癌の第3相試験が中国で一本、欧米中韓などで一本、そして内膜腫の第3相が豪中台湾で進行中で、今回、Dynasty-Breast01試験が中間解析で主目的を達成した。中国の施設で、taxane系抗がん剤とtrastuzumabによる治療歴を持つher2陽性の切除不能/転移性乳癌患者228人を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)をtrastuzumab emtansine(ロシュのKadcyla)と比較したもの。数値は未公表。

FDAは、少なくとも昨年までは、中国だけで実施された抗癌剤の臨床試験データについて懐疑的なスタンスだったため、本稿では敢えて取り上げないスタンスを取っている。もう一本、ホルモン受容体陽性、her2低発現の転移乳癌を組入れた化学療法対照試験、Dynasty-Breast02の結果が26年頃に公表されるまで静観するつもりだったが、Duality Biotherapeuticsが香港証券取引所に登録した適時開示文書や4月に届け出たグローバル・オファリングのプロスペクタスによると、BioNTechはher2陽性進行内膜腫の二次治療薬として米国で年内に加速承認を申請する考え。治験登録されている、米中豪で進行中の第1/2相固形癌試験のデータを用いるのではないか。

類薬は第一三共/アステラス製薬のEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)が上記乳癌試験二本と類似した試験に基づき、米欧日で承認されている。her2陽性固形癌のサルベージ・セラピーとしても承認されていて、her2発現がIHC法で3プラスの内膜腫におけるORRは84.6%だった。

リンク: BioNTechサイトにおける両社のプレスリリース
リンク: Duality Biotherapeuticsが香港証券取引所に届け出た開示文書


サノフィ、抗OX40L抗体のアトピー試験が成功
(2025年9月4日発表)

サノフィは、SAR445229(amlitelimab)の第3相COAST 1試験で主目的と副次的評価項目を達成したと発表した。効果はアナリストの期待を下回ったようだ。他にも複数の第3相が進行中。

OX40レガンドに結合する完全ヒト化抗体。この試験は12歳以上の局所性製剤に不十分応答/不適な中重度アトピー性皮膚炎を組入れて、負荷用量500mg(体重40kg未満は半量)、維持用量250mg(同)を12週毎、または4週毎に皮下注する便益を偽薬と比較した。主評価項目は24週のvIGA-AD奏効率(0または1に改善かつベースライン比2ポイント以上低下)。ノン・レスポンダー・インピュテーション法による解析では各群22.5%、21.1%、9.2%、トリートメント・ポリシー法では29.1%、26.5%、10.5%だった。欧州や日本向けの共同主評価項目であるEASI-75達成率は、夫々、39.1%、35.9%、19.1%と50.3%、46.0%、27.6%。どの分析でも二用量ともp値が0.01を下回った。

治療時発現有害事象や深刻有害事象、治療時発現有害事象による投与中止は偽薬群と大きな偏りはなかった。

上記二解析方法について、プレスリリースは以下のように注記している。

Non-responder imputation: includes patients with rescue/prohibited medication use prior to Week 24 and missing data.

Treatment policy: includes data for patients with rescue medication use prior to Week 24. Note: In both analyses non-responder imputation for patients with prohibited medication use and missing data.

リンク: 同社のプレスリリース


ESC:ApoC-IIIアンチセンス薬を承認申請へ
(2025年9月2日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、olezarsenの第3相重度高トリグリセライド血症(sHTG)試験二本で主目的などを達成したと発表した。適応拡大申請する考え。このApoC-IIIの発現をアンチセンスする薬は24年12月に米国で家族性カイロミクロン血症候群(FCS)治療薬Tryngolzaとして承認されEUでもまもなく承認される見込みだが、FCSの推定患者数が米国で3000人程度に留まるのに対して、sHTGは300万人と1000倍多い。

今回のCORE試験とCORE2試験は欧米アジアなどの施設で脂質低下薬による治療を受けても空腹時トリグリセライド(TG)値が500mg/dL以上の患者を組入れて、偽薬、50mg、または80mgを4週毎皮下注し、6ヶ月後の空腹時TG値をベースライン値と比較した。CORE試験では低下率が各群0.5%、63%、73%、CORE2試験では14%、63%、68%となり、両試験とも両用量群とも偽薬比有意だった。

興味を引くのは、偽薬群のTG低下がCORE2試験のほうが大きいこと。ClinicalTrials.govの記述を比較しても組み入れ条件に大きな違いがあるようには見えないが、CORE2試験ではダイエットや生活習慣改善を行うべしと記されているので、CORE試験では要求されなかったのかもしれない。実施地域も欧米は類似しているがCOREは豪州南アが含まれCORE2はインドも参加している。グローバル試験は所得水準の低い国の組入れが多くなる傾向があるので、ほんの1~2国の違いが結果の大きな違いにつながることがある。

尚、TIMIスタディ・グループ(米国の心血管学研究者共同治験グループ)が主導した第3相のBridge-TIMI 73a試験や中・高度TG血症のEssence TIMI 73b試験でも偽薬調整後50-60%の抑制効果が確認されている。同社は後者を承認申請における支持的証跡として位置付ける考えだ。

リンク: 同社のプレスリリース


MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相がまた成功
(2025年9月2日発表)

MSDはMK-0616(enlicitide decanoate)の第3相CORALreef Lipids試験で主目的を達成したと発表した。アテローム硬化性心血管疾患(ASCVD)歴または高リスクの高脂血症でスタチンによる治療中または不耐の患者を組入れて24週間治療し、LDL-C低下作用を偽薬と比較したところ、統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。副次的評価項目もすべて達成した。有害事象や深刻有害事象に臨床的に意味のある群間差は見られず、有害事象治験離脱率は両群同程度だった。

MK-0616は、LDL-C受容体に結合して零落・分解させる酵素、PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)を阻害する大環状ペプチドで、一日一回経口投与する点でアムジェンなどの抗PCSK9抗体と異なる。6月にはASCVD歴/高リスクを持つ、ヘテロ接合型家族性高コレステロール血症を組入れた試験と高脂血症を組入れた試験の二本のスタチン・アドオン試験が成功した。

日本も参加する第3相心血管アウトカム試験、CORALreef Outcomesも進行中。

MSDはいつ承認申請するのだろうか?IRA(インフレ抑制法、売上上位薬の強制値引きも盛り込まれている)の影響次第では2029年頃にアウトカム試験の結果が出るまで発売しないオプションも検討する、と報じられたことがあるが、現在はどう考えているのだろう?

リンク: 同社のプレスリリース


ネブライザ用トレプロスチニルのIPF試験成功
(2025年9月2日発表)

United Therapeutics(Nasdaq:UTHR)はTyvaso(treprostinil)の第3相IPF(特発性肺線維症)試験で主目的を達成したと発表した。もう一本が成功するのを待って26年上期にも適応拡大申請する考え。

ネブライザ吸入用のプロスタグランジンI2製剤で現在は肺動脈高血圧症などに承認されている。今回のTETON-2試験は597人の患者を組入れて、一日4回吸入する効果を偽薬と比較したところ、第52週FVC(努力肺活量)が偽薬調整後で95.6mL改善した。同時使用薬(nintedanibまたは pirfenidone)や喫煙、酸素療法の有無を問わず便益が見られた。忍容性は過去の試験と同様だった。

リンク: 同社のプレスリリース


ESC:アストラゼネカのアルドステロン合成酵素阻害剤が血圧を大きく低下
(2025年8月30日発表)

アストラゼネカはESCでbaxdrostatの第3相BaxHTN試験の成績を発表した。管理不良または抵抗性の高血圧患者において大きな血圧低下作用を示した。他にも多くの第3相が進行中。

ロシュのRO6836191をライセンスしたCinCor Pharmaを23年に買収して入手した、アルドステロン合成酵素阻害剤。Mineralys Therapeuticsが第3相を成功させた田辺三菱製薬由来のlorundrostatと同様に、CYP11B2遺伝子がコードするアルドステロン合成酵素を選択的に阻害し、CYP11B1がコードする、コルチゾールの合成に関わる11ベータ水酸化酵素には低親和性であることが特徴。

この試験は、日本も含むグローバルな施設で2剤併用しても血圧管理が不十分な管理不良高血圧症、または、3剤以上併用しても不十分な治療抵抗性の高血圧症の成人約800人を組入れて、偽薬、1mg、または2mgを一日一回経口で追加投与し、第12週着座最大血圧の変化を比較した。結果は各群5.8mmHg、14.5mmHg、15.7mmHg低下し、両用量とも偽薬を有意に凌いだ。有害事象はカリウム上昇、ナトリウム低下など。

リンク: 同社のプレスリリース


ESC:心ミオシン阻害剤のデータを公表
(2025年8月30日発表)

Cytokinetics(Nasdaq:CYTK)はCK-3773274(aficamten)を欧米で左心室流出閉塞を伴う症候性肥大型心筋症の治療薬として承認申請中だが、5月に成功発表した、症状がもう少し軽い患者を組入れた第3相MAPLE-HCM試験のデータをESCとNew England Journal of Medicine誌で発表した。主評価項目の最高酸素摂取量(pVO2、大文字小文字を間違えないよう気を遣う) や副次的評価項目のNYHAクラス改善奏効率などがmetoprolol群を有意に上回った。

この試験は症候性閉塞性肥大型心筋症でLVEF(駆出率)60%以上、NYHAクラスIIまたはIIIの患者175人を組入れて、24週間治療後のpVO2をエビデンスは確立していないが広く用いられているmetoprololの群と盲検下で比較した。結果は1.1mL/kg/分対-1.2mL/kg/分で有意な差があった。被験者の3割を占めた初めて治療を受ける患者においても凌駕し、第一選択薬としての資質を示した。

心ミオシン剤はLVEF低下リスクを伴い、本試験でも平均7.2ポイント低下したが、50%未満まで低下したのは被験者の1%に留まった。この試験でも、承認申請のエビデンスであるSEQUOIA-HCM試験と同様に、LVEFが一定以上低下したら減量するプロトコルが採用されていたと推測される。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: NEJM論文抄録


ビーワン・メディシンズ、MCL用薬を承認申請へ
(2025年8月29日発表)

ビーワン・メディシンズ(Nasdaq:ONC)はBGB-11417(sonrotoclax)が第1/2相難治/再発マントル細胞腫(MCL)試験で好成績を挙げたため米国などで承認申請すると発表した。

アッヴィのVenclexta(venetoclax)と同様なBH3類縁体で、リンパ球などのアポトーシス抵抗性に関わる蛋白、bcl-2阻害する。今回の201試験は米州欧中の施設で抗CD20抗体とBTK阻害剤歴を持つ成人患者125人を組入れて、第1相パートで至適用量を決定し、第2相パートで103人に320mgを経口投与したところ、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)がハードルをクリアした。完全反応率やメジアン反応持続期間も良好だった。数値は未公表。

米州欧中豪日などの施設で第3相CELESTIAL-RR MCL試験が進行中。抗CD20抗体を含む1~5治療歴を持ち最終治療抵抗性の難治/再発MCL300人を組入れて、同社のBTK阻害剤Brukinsa(zanubrutinib)に追加投与する便益を検討するもので、成否判明は29年の見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


Zydus、PPARアルファ/ガンマ・アゴニストの胆汁性胆管炎試験が成功
(2025年8月29日発表)

Zydus Lifesciencesの完全子会社である米国ニュージャージー州のZydus Therapeuticsは、saroglitazarが後期第2相/第3相原発性胆汁性胆管炎(PBC)試験、EPICS-IIIの第3相パートで主目的を達成したと発表した。FDAと相談の上、26年第1四半期に承認申請する考え。

活性成分は2013年にインドで糖尿病患者の異脂血症や高トリグリセライド血症用の治療薬Lipaglynとして承認された、PPARアルファ/ガンマ作動剤。今回は米国など4ヶ国の施設で成人のウルソデオキシコール酸不応不耐患者を組入れて、偽薬または1mgを一日一回投与し、第52週の生化学的複合応答率(ALP正常化、または、ALP低下かつ総ビリルビン正常化)を比較した。試験薬群は48.5%となり偽薬群を有意に上回った。有害事象発生率は両群大差なかったようだ。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


アムジェンの抗FGFR2b抗体、最終解析で便益縮小
(2025年9月3日発表)

中国のZai Lab(Nasdaq:ZLAB)は、同社が中国などの権利を持つ抗FGF受容体2b抗体bemarituzumabの第3相試験が案外な結果になったと発表した。ライセンサーであるアムジェンがWells Fargo Healthcare Conferenceで公表したとのこと。もう一本の第3相試験の結果を待つ考え。

アムジェンが21年に買収したFive Prime Therapeuticsの開発品。日本も参加したFORTITUDE-101試験で、FGFR2b過剰発現、her2陰性の胃・胃食道接合部癌の一次治療を受ける患者500人超を組入れて、mFOLFOX6レジメン(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatinの併用法)に追加する便益を検討したところ、主目的の全生存期間を中間解析で達成した。統計的に有意、かつ臨床的に意味のある成績とのことだったが、最終解析では治療効果が弱まってしまった。

もう一本のFORTITUDE-102試験は、101試験と同様な患者を組入れて、mFOLFOX6レジメンまたはCAPOXレジメン(capecitabineとoxaliplatinを併用)を抗PD-1抗体nivolumabと併用するレジメンに更に追加する便益を検討している。こちらも日本の施設も参加、主評価項目は全生存期間。

リンク: Zai Labのプレスリリース


MSD、ベリキューボの症状安定的な患者に対する試験はフェール
(2025年8月30日発表)

MSDは、21年に米日欧である種の慢性心不全の治療薬として承認された可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、Verquvo(vericiguat)が、適応となる患者より安定的な患者を組入れた第3相VICTOR試験で主目的を達成しなかったと発表した。偽薬比ハザードレシオの点推定値は承認のエビデンスとなった第3相VICTORIA試験とそれほど変わらないが、イベント発生率が低いことなどから、有意水準に達しなかった。

今回の試験はガイドラインに即した治療を受けている成人のHFrEF(駆出低下心不全)6105人を組入れて、10mg一日一回を目標に滴定する群と偽薬群に無作為化割付けして、転帰を偽薬群と比較した。承認のエビデンスである第3相VICTORIA試験との大きな違いは、過去9ヶ月間に心不全入院などを経験した比較的高リスクの患者層ではなく、過去6ヶ月間心不全入院無し、かつ、過去3ヶ月間利尿剤静注による外来治療なしという比較的安定した状態の患者層を対象としている点。主評価項目はどちらも心血管死または心不全入院が発生するまでの期間。下表のように、二本の試験のハザード比はそれほどは違わず、信頼区間はかなり重なっている。time to event試験の検出力はイベント発生数に左右されるという一例だ。

図表:VICTOR試験とVICTORIA試験の比較

VICTOR試験VICTORIA試験
被験者6105人5050人
イベント発生率:偽薬群19.1%(584/3052人)38.5%(972/2524人)
同:試験薬群18.0%(549/3053人)35.5%(897/2526人)
ハザード比(95%信頼区間)0.93(0.83-1.04)0.90(0.82-0.98)
出所:下記プレスリリースやレーベルから作成

VICTORIA試験ではイベント発生数の2割以上が心血管死なので、ハザード比が0.9程度でも軽視できないが、心血管アウトカム試験でしばしば見られる0.8前後より大きいということは、振り子がノイズで少しでも触れたら1に近づいてしまうリスクがあるということでもある。VICTORIA試験に参加した日本人98人のサブグループ分析ではハザード比が0.93とやや見劣りし、心血管死だけのハザードレシオは2.01(95%信頼区間0.98~4.12)だった。検出力が著しく低いとはいえ、心許ない。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認審査・委員会】


テリックスのccRCC造影剤は審査完了
(2025年8月28日発表)

オーストラリアのTelix(ASX:TLX) はZircaix(89Zr- girentuximab)を淡明細胞腎細胞腫のPET造影剤として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。化学・製造・管理に関わる問題と、第3相試験で用いられたバッチと量産用バッチの互換性、そして、第3者の製造設備における指摘事項などが理由とのこと。

FDAは審査完了通知のデータ・ベースを公開したが、9月6日現在、本件は収載されていない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


ボンベンティの適応が拡大
(2025年9月5日発表)

FDAは武田薬品のVonvendi(遺伝子組換え型フォン・ヴィレブランド因子)の適応拡大を承認したと発表した。15年の初承認以降、フォン・ヴィレブランド病の成人の出血治療と管理、同じく手術関連出血予防、そして最も重い3型フォン・ヴィレブランド病の成人限定でルーチン予防と適応範囲を拡大してきたが、今回、成人におけるすべての型のフォン・ヴィレブランド病と、小児患者における出血治療・管理および手術関連出血予防に用いることを承認した。

遺伝子組換え型vWF製剤は本剤だけ。

リンク: FDAのプレスリリース


レケンビの皮下注用製品が承認
(2025年8月30日発表)

エーザイとバイオジェンは、FDAが早期アルツハイマー病用薬Leqembi(lecanemab-irmb)の皮下注用製剤を承認したと発表した。静注点滴用製剤による治療を18ヶ月以上続けた後にスイッチできる。オートインジェクターで360mg/1.8mLを平均15秒かけて週一回投与する。患者自身が打つ場合は 腹部や太ももに注射する。Leqembiは2週毎静注点滴を18ヶ月間続けた後に4週毎投与に移行することも可能で、二つの選択肢ができた。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)


サノフィ、ITP用BTK阻害剤が承認
(2025年8月29日発表)

サノフィは、FDAがWayrilz(rilzabrutinib)を前治療に不十分応答の成人の持続性/慢性免疫性血小板減少症(ITP)用薬として承認したと発表した。BTK阻害剤がITP向けに承認されたのは初めて。欧州や中国でも承認申請中。

第3相LUNA3試験で持続的血小板応答率(血小板数が持続的に5万個/マイクロリットル以上)が23%と、偽薬群の0%を有意に上回り、レスキュー治療や出血イベントも減少した。警告注意事項は深刻感染症、肝毒性、胚胎毒性。CYP3A阻害剤/誘導剤や胃酸抑制剤の併用は禁忌/注意。

20年にPrincipia Biopharmaを約37億ドルで買収して入手したもの。

リンク: サノフィのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRACがレバミゾールなどの安全性を検討
(2025年9月5日発表)

EMA(欧州薬品庁)のPharmacovigilance Risk Assessment Committee は、9月の会議で、levamisole配合品の安全性などについて検討した。

リンク: EMAのプレスリリース

levamisoleは日本など多くの国では動物薬としてしか承認されていないが、欧州では4ヶ国で寄生虫薬として承認されている。脳症のリスクが知られているが、死亡を含む重篤な白質脳症例が見られるようになったため、ルーマニアが評価を要請したもの。類似した表現型である脱髄症例も含めて検討する。

リンク: EMAのプレスリリース

このほかに以下も発表された。

  • 抗真菌薬caspofunginは、急性腎不全/体液過剰を生じポリアクリロニトリル・ベースの膜を使ってCRRT(持続的腎代替療法)を施行すると薬剤が膜に吸着して効果が低減するという警告を添付文書に追加する考え。他の膜か、他の抗菌薬を用いる。

  • Ultragenyx(Nasdaq:RARE)のX染色体遺伝性低リン血症治療薬、Crysvita(burosumab)は重度高カルシウム血症のリスクが見られるため定期的に血中のカルシウムや甲状腺ホルモンを検査するよう添付文書を改訂する。中程度以上の高カルシウム血症には投与しない。

  • セルトリオンの抗TNFアルファ抗体バイオシミラー、Remsima(infliximab)は、新製剤が承認審査中だが、sorbitolを含有するため遺伝性フルクトース不耐は禁忌とする。

  • ノバルティスのTegretol(carbamazepine)の100mg/5mL経口懸濁液は、1mL当り25mgのpropylene glycolを含有しているため、4週未満の新生児などには投与しない(1mg/kg/日という推奨摂取限度を超過)。carbamazepineはpropylene glycolを含まない製剤もある。


  • 【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)・・・結果不明
    25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)・・・審査期間延長で12/7に
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
    25Q4ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1015550(nerandomilast、特発性肺線維症)
    25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
    25/10Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab-rwlc、皮膚扁平腫瘍術後療法))
    25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
    25/10/7Jazz PharmaceuticalsのZepzelca(lurbinectedin、進展期小細胞性肺癌にTecentriq併用)
    25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
    25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
    25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
    25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate 0.1mg/mL)
    25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)



    今週は以上です。