2025年2月22日

第1195回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 遺伝子療法の需要が期待外れ 
  • Leber先天性黒内障4型の遺伝子療法を英国で承認申請へ 
  • トレムフィア皮下注は潰瘍性大腸炎の導入療法にも有効 
  • ギリアド、レナカパビルをHIV予防に承認申請 
  • デュピクセントを水疱性類天疱瘡に適応拡大申請 
  • 小型抗PCSK9薬を承認申請 
  • ケノデオキシコール酸が脳腱黄色腫症に承認 
  • GSK、5価髄膜炎菌ワクチンが承認 
  • コスタイベがEUでも承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


遺伝子療法の需要が期待外れ
(2025年2月21日発表)

近年、多くの遺伝子療法が承認されたが、需要が伸び悩んでいる製品も少なくない。3剤をロンチしたbluebird bio(Nasdaq:BLUE)は幸せは株式市場にはないと諦観したのか、バイオ・ベンチャー・キャピタルに身売りを決めた。ファイザーはなけなしの遺伝子療法薬の販売中止を決めたようだ。

bluebird bioは21~22年に米国などで脳副腎白質ジストロフィー用薬Skysona(elivaldogene autotemcel)、ベータ・サラセミア用薬Zynteglo (betibeglogene autotemcel)、鎌状赤血球症用薬Lyfgenia(lovotibeglogene autotemcel)が承認され、売却した腫瘍学事業からもCAR-T療法Abecma(idecabtagene vicleucel)が多発骨髄腫用薬として承認されるなど、大きな成果を上げた。しかし、上記3剤の米国での価格が何れも300万ドル前後と高価であるせいか、承認後の治療開始実績は合計で50例余に留まっているようだ。

bluebirdの一株当たり株価は18年に2781ドルに達したが、今回、Carlyle(Nasdaq:CG)とSK Capital Partnersが、3ドル及びCVR(売上目標達成時に支払われる後発債権)6.84ドルと99.6%低い価格で事業買収に合意した。CEOも交代する予定。

リンク: bluebird社のプレスリリース

一方、ファイザーはSpark Therapeutics(現在はロシュ傘下)のB型血友病遺伝子療法をライセンスし24年に4月に米国でBeqvez(fidanacogene elaparvovec-dzkt)名で、7月には欧州でもDurveqtix名で承認取得したが、日本では部会上程の直前に申請撤回した。ミクスオンラインはグローバル本社が全世界で今後の開発・商業化を中止することを決めたことが理由と報じたが、海外でも複数のメディアが販売中止する考えと報道した。承認後の施行実績はゼロのようだ。

ファイザーはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子療法PF-06939926(fordadistrogene movaparvovec)も24年に第3相がフェールし開発を中止しており、このモダリティでは苦戦している。

リンク: MedPage Todayの報道(2/21付)

【新薬開発】


Leber先天性黒内障4型の遺伝子療法を英国で承認申請へ
(2025年2月21日発表)

米国ニューヨーク州の遺伝子療法開発会社、MeiraGTx(Nasdaq:MGTX)は、rAAV8.hRKp.AIPL1をLeber先天性黒内障(LCA)の治療に用いた臨床研究論文がLancet誌に掲載されたと発表した。英国の承認審査組織との相談で感触が良かった模様で、例外的環境条項に基づく承認を申請する予定。FDAとも相談する考え。

LCAは33000人に一人の遺伝子疾患で、原因遺伝子は様々。本薬はAIPL1の変異が関連するLCA4型を対象としており、ヒトAIPL1をコードする配列とヒトrhodopsin kinaseプロモータ領域を組み込んだアデノ随伴ウイルス8型を中央網膜の桿体・錐体光受容細胞に導入すべく、網膜下注射する。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで開発された技術のようだ。Lancet論文は英国の両アレル変異があり出生時法定盲目の4人の片目に施術したもの。その後、更に7人に両目施術し、どちらも意味のある改善が見られたようだ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Michaelidesらの治験論文(Lancet)


トレムフィア皮下注は潰瘍性大腸炎の導入療法にも有効
(2025年2月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗IL-23p19サブユニット抗体Tremfya(guselkumab)を24年に米欧日で既存治療不十分応答な中重度活性期潰瘍性大腸炎に適応拡大申請し、米国では9月に承認されたがどういう訳か導入期は静注用製剤、維持期は皮下注用製剤と使い分けることになっていた。乾癬など他の適応症は最初から皮下注なので奇異に感じていた。しかし、11月に導入期も皮下注する新用法が米国で承認申請されたのに続き、今回、エビデンスとなるASTRO試験の結果が公表された。静注用は200mgを4週毎3回投与するが、皮下注は400mgを同じスケジュールで投与する。12週臨床的完解率は27.6%と、偽薬群の6.5%を上回った。バイオ薬やJAK阻害剤による治療歴の有無を問わず有意差があった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ギリアド、レナカパビルをHIV予防に承認申請
(2025年2月18日発表)

ギリアド・サイエンシズは米国でlenacapavirをHIVの曝露前予防(PrEP)に承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年6月19日。欧州でも先日、承認申請したとのこと。

HIV/AIDS治療薬Sunlencaとして22~23年に欧米日で承認されたカプシド阻害剤。6ヶ月毎皮下注と作用が長期間持続する点で予防用途に適している。シスジェンダー女性やトランスジェンダー女性のパートナーのシスジェンダー男性、ノンバイナリーなど様々な男女を組入れた第3相試験二本で、HIV/AIDS発症を90%以上抑制した。この用途で10年以上前に承認された同社の2剤合剤、Truvada(tenofovir DF、emtricitabine)と比べても有意に抑制したようだ。

プレスリリースではnew drug applicationと書かれており、Sunlencaの適応追加ではなく別ブランドとしてロンチする考えなのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


デュピクセントを水疱性類天疱瘡に適応拡大申請
(2025年2月18日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:RGEN)は米国で抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を成人の水疱性類天疱瘡(BP)に適応拡大申請し受理されたと発表した。審査期限は25年6月20日。中重度患者106人を組入れた第3相ADEPT試験で持続的疾病完解率(コルチコステロイド治療を16週までに終了した上で臨床的完解を達成)が20%と偽薬群の4%を有意に上回った。症状緩和作用も見られた。

Dupixentは二型炎症が関わる様々な疾患に有効で、米国ではアトピー性皮膚炎、好中球性またはステロイド依存喘息症、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、好中球性食道炎、結節性痒疹、好中球性慢性閉塞性肺疾患用薬として、年齢・既存治療応答性に関わる限定付きで承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


小型抗PCSK9薬を承認申請
(2025年2月10日発表)

米国オハイオ州の未上場企業、LIB Therapeuticsは、LIB003(lerodalcibep)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査祈願は25年12月12日。FDAは今のところ諮問委員会を招集する考えはないとのこと。LDL受容体に結合し零落させるPCSK9を標的とする薬で、15~16年に欧米日で承認されたアムジェン(日本ではアステラス製薬)のRepatha(evolocumab)が抗体医薬であるのに対して、分子量が10分の一の、ヒト・フィブロネクチン由来のPCSK9結合性アドネクチンに、ヒト血清アルブミンを結合して半減期を延長したもの。4週毎皮下注する場合、Repathaは420mg/3.5mLを5分かけて投与するが、LIB003は300mg/1.2mLを数秒で足りる。

適応症は原発性高脂血症の治療とアテローム硬化性心血管疾患の治療と予防。

リンク: 同社のプレスリリース(Businesswire)

【承認】


ケノデオキシコール酸が脳腱黄色腫症に承認
(2025年2月21日発表)

FDAは、Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)のCtexli(chenodiol)を成人の脳腱黄色腫症(CTX)治療薬として承認したと発表した。CTXは7万人に一人の進行性常染色体性劣性遺伝疾患で、CYP27A1欠損によりコレステロールの代謝プロセスで必要なCDCA(ケノデオキシコール酸)が欠乏、有害な中間代謝物が蓄積し様々な疾患を合併する。CtexliはCDCA補充療法で250mgを一日3回経口投与する。臨床試験で血漿コレスタノールなどが顕著に減少した。肝毒性が見られるため治療開始前と年一回、肝機能検査を行う。

活性成分は胆石溶解剤として1983年に米国で承認されたがその後、販売中止された。その後、需給がタイトな薬の製造販売権を取得して思いっきり値上げしてぼろ儲けするビジネス・モデルで一世を風靡したMartin Shkreliが設立したRetrophinがGE薬の権利を取得したが、氏の逮捕・辞任後にTravere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)に社名変更、胆汁酸関連製品事業をMirumに譲渡した経緯がある。胆石溶解用途も250mg一日3回なので、製品名だけ異なるのか、他にも何か違うのか、良く分からない。この種の温故知新型新薬は古くからある製品と価格で競争できず売上が伸び悩むことがあるが、Shkreliの全盛期なら、胆石溶解剤の販売を中止して新薬の高値を押し通すだろう。

尚、ケノデオキシコール酸は日本でもコレステロール系胆石溶解剤として承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース


GSK、5価髄膜炎菌ワクチンが承認
(2025年2月15日発表)

GSKはFDAがPenmenvyを侵襲性髄膜炎菌性髄膜炎の予防用ワクチンとして承認したと発表した。10~25歳に6ヶ月おいて2回接種する。23年に米国で承認されたファイザーのPenbrayaと同様な、A、B、C、W-135、Y群をカバーする5価ワクチン。GSKのA/C/W-135/Y対応Menveoと、B群対応Bexseroの抗原を合わせたもので、MenveoはA群対応凍結乾燥製剤をC/W-135/Y群対応液で混合するが、PenmenvyはA/C/W-135/Y対応凍結乾燥粉末をBの懸濁液プリフィルド・シリンジに入れて混合する。血清殺菌アッセイでB群に関してはBexseroと、他の4群はMenveoと、非劣性だった。

Menveoの24年売上高は5億ドル弱で、その8割が米国。Bexseroは13億ドル弱でその半分が欧州、1/3が米国となっている。

リンク: GSKのプレスリリース


コスタイベがEUでも承認
(2025年2月14日発表)

Arcturus Therapeutics(Nasdaq:ARCT)とCSLは、Kostaive(zapomeran)がEUで成人向けCOVID-19ワクチンとして承認されたと発表した。ウイルスのスパイク蛋白のmRNAにRNAレプリカ―ゼのmRNAを結合したナノ・パーティクル封入ワクチンで、体内でmRNAが増幅されるため比較的少量の接種で足りる。23年に日本で初承認されて以来、2番目の承認となった。

リンク: Arcturus社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25年3月推アッヴィのABBV-399(telisotuzumab vedotin、cMET陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌)
25/3/18Neurotech PharmaceuticalsのNT-501(revakinagene taroretcel、黄斑部毛細血管拡張症2型)
25/3/20Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫1L併用)
25/3/23Alnylam社のAmvuttra(vutrisiran、ATTR-CM追加)
25/3/26GSKのGSK2140944(gepotidacin、女性の非複雑尿路感染症)
25/3/27Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍)
25/3/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリ症候群)
25/4推JNJのnipocalimab(全身性筋無力症)
25/4推ノバルティスのatrasentan(IgA腎症)
25Q2アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、筋層浸潤膀胱癌)
25/4/2Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
25/4/3ExelixisのCabometyx(cabozantinib、神経分泌細胞腫追加)
25/4/18RegeneronのDupixent(dupilumab、特発性慢性蕁麻疹追加)
25/4/21BMSのOpdivoとYervoy(nivolumabとipilimumab、肝細胞腫一次治療追加)
25/4/26TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤)
25/4/29Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
25/4/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)



今週は以上です。

2025年2月15日

第1194回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ブレヤンジの辺縁帯リンパ腫試験が好結果に 
  • ベーリンガー・インゲルハイム、進行性肺線維症用薬を承認申請へ 
  • 黒色腫全摘後はオプジーボに抗LAG-3抗体を追加しなくてもよい 
  • 大腸菌ワクチンの第3相が無益中止に 
  • Regeneron、抗BCMAxCD3抗体を再申請 
  • Biohaven、脊髄小脳失調症用薬を承認申請 
  • チクングニア熱ワクチンが承認 
  • 小野薬子会社の腱滑膜巨細胞腫用薬が承認 
  • アステラス、地図状萎縮治療薬の投与期間制限が解除 
  • アドセトリスがB細胞リンパ腫に適応拡大 
  • エブリスディの錠剤が承認 
  • 第2の神経線維腫症1型治療薬が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


ブレヤンジの辺縁帯リンパ腫試験が好結果に
(2025年2月10日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、CD19標的CAR-T療法Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)の難治再発辺縁帯リンパ腫(MZL)試験がポジティブな結果になったと発表した。データは学会で発表する考え。

Breyanziは第2相TRANSCEND FL試験で成人の様々なタイプの難治再発リンパ腫における効果がテストされ、24年に米日で難治再発濾胞性リンパ腫の3次治療などに適応拡大が認められた。今回、この単群試験のMZLコフォートで、ORR(客観的反応率)が統計的に有意且つ臨床的に意味のある成績を上げた。主要副次的評価項目の完解率も達成した。安全性に関する新しい発見はなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


ベーリンガー・インゲルハイム、進行性肺線維症用薬を承認申請へ
(2025年2月10日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、選択的PDE4B阻害剤BI 1015550(nerandomilast)の第3相FIBRONEER-ILD試験で主目的などを達成したと発表した。データは25年第2四半期に公表する考え。米国などで進行性肺線維症(PPF)用薬として承認申請する考え。

この試験はPPF患者1178人を偽薬、9mg、18mgの3群に無作為化割付けして一日2回、52週間経口投与して、FVC(努力肺活量)のベースライン比増減を比較した。安全性は特発性肺線維症(IPF)の第2相と同様だった。治験登録によると副次的評価項目として疾病の増悪や入院を抑制する効果も検討しているが、今回のプレスリリースは成否に言及していない。

PPFはIPF以外の様々なタイプの間質性肺疾患の総称で、過去3年間に日米欧の学会が提唱し始めた比較的新しい概念。呼吸機能や造影画像などに基づき診断するようだ。

nerandomilastはIPFの第2相試験で18mg一日2回投与群のFVCが12週後に5.7mL改善、偽薬群の81.7mL低下より良好な成績を挙げた。昨年9月には、第3相FIBRONEER-IPF試験で主目的を達成したことも発表されている。当然、両方の適応で承認申請するものと思っていたが、プレスリリースではPPFにしか言及していない。何故だろうか?

IPFは同社のチロシン・キナーゼ阻害剤Ofev(nintedanib)やロシュ/塩野義製薬のEsbriet(pirfenidone)が既に承認されている。前者の第3相試験3本では52週間のFVC治療効果(偽薬調整後)が94~131mL、後者は157~193mLだった。両剤とも、nerandomilastの第2相と同じ12週時点の効果は、グラフから推測すると、nerandomilastと大差ないように見える。Ofevは臨床的転帰に関わる複合評価項目でもハザードレシオ0.16~0.20と好成績を挙げているので、nerandomilastを発売するまでもないということなのだろうか?

Ofevは「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」でも20年に米日欧で承認された。第3相におけるFVC治療効果は107mLだった。この適応はPPFとかなりオーバーラップするのではないかと思われるが、原因疾患は様々なので、どの程度バッティングするのか、公表情報や筆者の知識では明らかではない。

リンク: 同社のプレスリリース


黒色腫全摘後はオプジーボに抗LAG-3抗体を追加しなくてもよい
(2025年2月13日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdualag(抗LAG-3抗体relatlimab-rmbwと抗PD-1抗体nivolumabの合剤)の第3相RELATIVITY-098試験で主目的を達成できなかったことを明らかにした。ステージIII-IVの黒色腫を全摘した後にOpdivo(nivolumab)で再発を予防する標準療法に抗LAG-3抗体を追加する便益を検討したが、主評価項目であるRFS(無再発生存期間)を有意に伸ばすことはできなかった。

LAG-3はPD-1と同様にT細胞の受容体で、抗原提示細胞などの免疫抑制的刺激を受領する。Opdualagは切除不能/転移黒色腫を組入れた試験でOpdivo単剤を上回るPFS延長効果を示し22年に米欧で承認された。プレスリリースによると、今回の試験は腫瘍摘出後であるため、最大の効果を発揮できるほど抗腫瘍T細胞が残存していなかった可能性があるようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


大腸菌ワクチンの第3相が無益中止に
(2025年2月13日発表)

サノフィは、ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalsから共同開発商業化権を取得した9価侵襲性腸管外病原性大腸菌感染症ワクチン、ExPEC9Vの第3相試験で独立データ監視委員会が無益を認定し、中止する予定と発表した。この試験は、60歳以上で過去2年間に尿路感染症歴のある18000人超を米欧中日アジアの施設で組入れて一回筋注し、発症リスクを偽薬と比較した。尿路感染症の7割以上は大腸菌が原因であり、60歳以上が腸管外感染するとしばしば重病化するため、奏功しなかったのは残念だ。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認申請】


Regeneron、抗BCMAxCD3抗体を再申請
(2025年2月11日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はREGN5458(linvoseltamab)の再承認申請がFDAに受理されたと発表した。審査期限は25年7月10日。

BCMAとCD3に結合する二重特異性抗体で、予定適応症は成人の治療歴4次以上または3次治療に抵抗性の難治/再発多発骨髄腫。第1/2相LINKER-MM1試験でORR(客観的反応率、独立評価)が117人中71%、完全反応率は46%だった。G3以上の有害事象発生率は85%、致死的治療時発現有害事象は14人で、うち11人は感染症関連だった。

23年末に承認申請され、優先審査を受けたが、フィル・フィニッシュ委託先が他社開発品に関わるFDA査察で不備を指摘・是正要求されたしわ寄せを食って、昨年8月に審査完了通知を受領した。無事解消したのだろう、再申請に至った。

リンク: 同社のプレスリリース


Biohaven、脊髄小脳失調症用薬を承認申請
(2025年2月11日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)を成人の脊髄小脳失調症(SCA)治療薬としてFDAに承認申請され受理されたと発表した。優先審査を受け、会社側は第3四半期の承認を期待している。

SCAは運動失調などを発現する優性遺伝性疾患。troriluzoleは筋萎縮性側索硬化症治療薬として承認されているriluzoleのプロドラッグで、血液中のアミノペプチターゼによりriluzoleに変換される。riluzoleは一日2回服用だがこちらは1回。SCAやアルツハイマー病、全般不安症で第3相試験が行われ何れもフェールした。SCAの第3相では偽薬群の成績が想定外に良かったため、同社は米国や欧州の自然歴データと傾向スコア・マッチングによる比較を行った。以下はグラフ読み取りだが、米国のClinical Research Consortium for SCAのデータでは機能評価(functional Scale for the Assessment and Rating of Ataxiaに基づく)の3年間の悪化が約1.6点、troriluzole群は約0.8点に留まった。欧州のEUROSCAデータとの比較では約2.4点と約0.6点だった。

長期試験のネックは評価対象症例数が漸減すること。米国自然歴対照では試験薬群がベースライン時点の101人から3年後には61人に減少、対照群は202人から43人と激減。欧州自然歴対照でも各群85人→54人と170人→112人となっている。一般的に、介入試験では非応答者が抜けていくため最後のほうは良好応答者ばかりになりがちだ。FDAは、このような問題点と、unmet medical needであることを天秤にかけて最終判断するのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


チクングニア熱ワクチンが承認
(2025年2月14日発表)

デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)は、FDAがVimkunyaを12歳以上向けのチクングニア熱ワクチンとして承認したと発表した。流行地域は中央・南アフリカや南アジアなので、渡航者などが接種することになるのではないか。NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)からライセンスした、水酸化アルミニウム吸着ウイルス様粒子ワクチン。12~64歳に一回筋注した第3相試験で中和抗体陽転率が98%と、事前に承認審査機関と合意した閾値を上回った。偽薬群は1%だった。承認と共に、熱帯病優先審査バウチャを取得、換金する考え。

23年にEmergent BioSolutions(NYSE:EBS)から買収したワクチン・ポートフォリオの一つ。

リンク: 同社のプレスリリース


小野薬子会社の腱滑膜巨細胞腫用薬が承認
(2025年2月14日発表)

FDAは、小野薬品が昨年6月に企業価値ベース24億ドルで買収したDeciphera PharmaceuticalsのRomvimza(vimseltinib)を腱滑膜巨細胞腫(TGCT)用薬として承認したと発表した。TGCTは良性腫瘍で多くは局所性、切除可能だが、運動能力に障害が出るなどで切除不適な場合に用いる。第3相MOTION試験で123人(うち3/4は摘出術歴あり)に偽薬または30mgを週2回、経口投与したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が各群0%と40%だった。反応持続期間は未だメジアン値に達していないが、85%が6ヶ月以上持続していた。主な有害事象は肝機能検査値異常や、眼窩周囲や末梢、顔面などの浮腫など。

TGCTはCSF1(コロニー刺激因子1)が遺伝転座により過剰発現し、受容体のある細胞に集積することが関与している。RomvimzaはCSF1受容体阻害剤。第一三共の類薬、Turalio(pexidartinib)が19年に米国で承認されたが、200mgを一日二回経口投与する必要がある。死に至る可能性のある肝障害リスクがあるためEUでは承認されず米国でも枠付き警告されている。Romvimzaは枠付き警告なし。

リンク: FDAのプレスリリース


アステラス、地図状萎縮治療薬の投与期間制限が解除
(2025年2月13日発表)

アステラス製薬は、加齢性黄斑変性の合併症である地図状萎縮の治療薬、Izervay(avacincaptad pegol)の投与期間制限を解除するレーベル変更がFDAに承認されたと発表した。23年8月の初承認時点では、安全性評価の対象となる長期試験が18ヶ月のOPH2003試験のみだったためか、最長12ヶ月に限定されていたが、第3相GATHER2(ISEE2008)試験の2年追跡データで効果や安全性が確認された。脈絡膜新生血管発生率は11.6%で偽処置群の9%より高かった。

23年4月に約59億ドルで買収したIveric Bioの製品。日本でも先日、承認申請された。EUではCHMPが臨床的に意味のある視力の改善に繋がらないと後ろ向きだったため申請撤回に至り、今のところ、承認されているのは米豪だけ。

リンク: 同社のプレスリリース


アドセトリスがB細胞リンパ腫に適応拡大
(2025年2月12日発表)

FDAは、ファイザーの子会社であるSeagenのAdcetris(brentuximab vedotin)を難治/再発大細胞型B細胞リンパ腫に用いる適応拡大を承認した。成人の、2次以上の治療歴を持ち自家造血幹細胞移植やCAR-Tに不適の患者に、lenalidomide及びrituximab製品の一つと併用する。第3相ECHELON-3試験でメジアン生存期間が13.8ヶ月と、偽薬をlenalidomide及びrituximabと併用した群の8.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.63だった、PFS(無進行生存期間)のメジアン値は4.2ヶ月対2.6ヶ月と1ヶ月強上回り、ハザードレシオは0.53だった。Adcetris群の6%が末梢神経痛によりAdcetrisの用量を減量、4.5%が投与中止した。

リンク: FDAのプレスリリース


エブリスディの錠剤が承認
(2025年2月12日発表)

ロシュは、脊髄性筋萎縮症用薬Evrysdi(risdiplam)の5mg錠がFDAに承認されたと発表した。従来の経口液用粉末と比較した生物学的同等性試験に基づくもの。従来製剤は、例えば年齢2歳以上、体重20kg以上の場合は5mgを一日一回服用するが、一本60mg入りなので、溶解後は残りを冷蔵保存しちびちび使うことになる。5mg錠は常温保存可能なので取り扱いが多少楽になる。溶かして飲む場合は塩素の入っていない水を使う必要があることに注意。

2歳未満または20kg未満は従来の製剤を用いる。

リンク: 同社のプレスリリース


第2の神経線維腫症1型治療薬が承認
(2025年2月11日発表)

FDAはSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)のGomekli(mirdametinib)を神経線維腫症1型(NF1)治療薬として承認した。全摘不能な症候性叢状神経線維腫(PN)を伴う2歳以上の小児と成人に用いる。後期第2相ReNeu試験で小児における確認客観的反応率が52%、成人では41%だった。応答者の9割は12ヶ月以上持続した。有害事象はラッシュや下痢、クレアチニン・フォスフォキナーゼ上昇など。警告・注意事項は左心室機能不全、目や皮膚における毒性、胚胎毒性。欧州でも承認申請中。

NF1はMAPK経路におけるサプレッサーであるニューロフィブロミンの遺伝子変異による常染色体性優性遺伝性疾患で、米国の推定患者数は10万人、うち30~50%がPNを合併し、うち最大で85%は全摘不能とされる。Gomekliは20~22年に米欧日で承認されたアストラゼネカのKoselugo(selumetinib)と同様にMEK1/2を阻害する経口剤。Koselugoの適応は今のところ2歳以上の小児だけだが、成人患者を組入れた第3相KOMET試験が成功、日欧で適応拡大申請中。

SpringWorksはファイザーのスピンアウトで、Gomekliのファイザー時代の開発コードはPD-325901。23年にガンマ・セクレターゼ阻害剤PF-3084014がOgsiveo(nirogacestat)名で進行性デスモイド腫瘍治療薬としてFDAに承認された。

尚、ドイツのメルクKGaAはSpringWorks Therapeuticsと企業買収について検討していることを明らかにした。但し、拘束力のある合意にはまだ達していないとのこと。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: メルクのプレスリリース(2/10付)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】




PDUFA
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25年3月推アッヴィのABBV-399(telisotuzumab vedotin、cMET陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌)
25/3/18Neurotech PharmaceuticalsのNT-501(revakinagene taroretcel、黄斑部毛細血管拡張症2型)
25/3/20Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫1L併用)
25/3/23Alnylam社のAmvuttra(vutrisiran、ATTR-CM追加)
25/3/26GSKのGSK2140944(gepotidacin、女性の非複雑尿路感染症)
25/3/27Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍)
25/3/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリ症候群)
25/3/28Mirum PharmaceuticalsのChenodal(chenodiol、脳腱黄色腫症)
注:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole)のPTSD追加は、諮問委員会招集する見込みになり、2月8日の審査期限を超過した。


今週は以上です。

2025年2月8日

第1193回

【ニュース・ヘッドライン】

  • 4人目のブタ腎移植患者が退院 
  • ノボ、Mim8の幼小児試験も良好な結果に 
  • ガザイバのループス腎炎試験が成功 
  • Kura・協和もメニン阻害剤を承認申請へ 
  • ビラフトビのBRAF-V600E変異転移結腸直腸癌試験で延命効果確認 
  • インスメッド、DPP1阻害剤を気管支拡張症に承認申請 
  • 伊社が欧州でWiskott-Aldrich症候群用薬を承認申請 
  • 遅報:H3 K27M変異びまん性グリオーマ用薬が承認申請 
  • ベータ・ラクタマーゼ配合剤が米国でも承認 
  • 連続皮下注用アポモルヒネが承認 
  • Susvimoが糖尿病性網膜症に適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


4人目のブタ腎移植患者が退院
(2025年2月7日発表)

Massachusetts General Hospital(MGH)は同施設で2例目のブタ腎移植を受けた患者が退院したと発表した。遺伝子編集により免疫原性を緩和したブタ腎臓の移植はNew York大学と合わせて4例となり、最初の2人は心臓病の悪化で死亡したり透析を再開したり残念な結果になったが、昨年11月にNY大で移植を受けた患者は現在も生存している模様。健康状態がひどく悪くはない患者を組入れるようになり成果が表面化し始めたのかもしれない。

今回の移植は、第1症例と同様に、 Leonardo V. Riella教授のリーダーシップのもとにハーバード大の河合達郎教授らが実施した。移植腎も第1症例と同じeGenesisが提供。69遺伝子を編集し、ブタ抗原遺伝子の除去やヒト・トランスジンの導入、レトロウィルスの不活化処理を行ったEGEN-2784を用いた。免疫抑制剤も第1症例と同様にEledon Pharmaceuticals(Nasdaq:ELDN)の抗CD40L抗体tegoprubartなどを用いた。

患者は66歳男性のTim Andrews。移植用ヒト腎は待機リストに登録してから3~5年待ちとのことだが、血液型O型は5~10年待ちと長く、氏の場合、5年内に移植が可能になる確率が9%であるのに対して、悪化死亡でデ゙リストとなる確率は49%とのことだ。1月25日に施術し、2月1日に退院した。第3例(3ヶ月以上後に退院)と比べても早い。MGHはFDAから3例の拡大アクセス・プログラム(未承認の医療用品を他に治療法のない深刻な疾患に用いる)の認可を取得しており、ボランティアが現れれば、更に実績が積み重なることになる。

eGenesisの遺伝子編集ブタ腎技術は日本でも明治大学発ベンチャーであるポル・メド・テックがeGenesisの遺伝子改変ブタ細胞を元に体細胞核移植により3頭のクローン子豚を作成した旨、発表している。まだ前臨床に入る段階のようだ。

リンク: MGHのプレスリリース
リンク: eGenesisのプレスリリース
リンク: Eledon社のプレスリリース

【新薬開発】


ノボ、Mim8の幼小児試験も良好な結果に
(2025年2月7日発表)

ノボ ノルディスクは、抗第IXa因子・第X因子二重特異性抗体NN7769(通称Mim8)の第3相試験、FRONTIERの中間結果を発表した。1~11歳のA型血友病患者70人を組入れて、出血予防目的で週一回皮下注を26週間、反復したところ、治療が必要な出血イベントの年率発生率が平均で0.53、メジアン値はゼロだった。インヒビターを持つ14人では全員ゼロだった。26週後は月一回投与にスイッチすることが認められていたが、被験者の45%がスイッチした。

12歳以上のA型血友病患者254人を組入れた第3相FRONTIER 2試験は既に目的達成しており、予防的投与歴のない患者では年率出血率が出血時投与群と比べて月一回投与群は99%、週一回群は97%、低かった。予防的投与を受けていた患者では治験開始前と比べて月一回群は43%、週一回群は48%、低かった。

ノボは今年、承認申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


ガザイバのループス腎炎試験が成功
(2025年月日発表)

ロシュは、抗CD20低フコース化抗体Gazyva(obinutuzumab)の第3相活性ループス腎炎試験、REGENCYの成果を学会と医学誌で発表した。標準療法に追加で76週間投与したところ、完全腎反応率が46.4%と、標準療法だけの群の33.1%を有意に上回った(修正差のp=0.0232)。完全腎反応だけでなくステロイド減量にも奏功した患者は各群42.7%対30.9%、蛋白尿反応率は55.5%と41.9%だった。死亡と腎関連イベントの複合発生率は18.9%対35.6%と大きな差があったが、先行解析がフェールしたため統計的に有意とは言えなくなってしまった。

ロシュは昨年9月に上記試験で目的を達成した旨だけ公表した時に、Gazyvaの適応拡大を申請中であることを明らかにしている。

ロシュの抗CD20抗体はループス腎炎に関しては苦戦したが、rituximabは未承認のまま利用されているようだ。

リンク: ロシュのプレスリリース


Kura・協和もメニン阻害剤を承認申請へ
(2025年2月5日発表)

米国カリフォルニア州のKura Oncology(Nasdaq:KURA)と協和キリンは、KO-539(ziftomenib)のKOMET-001試験で主目的を達成したと発表した。第2四半期に米国で承認申請する考え。

選択的menin阻害剤で、協和は米国での共同販売権と海外での開発販売権を持っている。この試験は難治/再発NPM1変異急性骨髄性白血病に単剤投与した時のCR/CRh(完全反応/血液学的回復が部分的な完全反応)を検討したもの。データは第2四半期に学会発表する考え。

menin阻害剤はSyndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)のRevuforj(revumenib)が昨年11月に米国で1歳以上のKMT2A転座のある難治再発急性白血病に承認された。NPM1変異とKMT2A転座(再編成)は一部重複するのでKO-539とバッティングする。両社とも、25年にNPM1変異且つ又KMT2A再編成陽性急性骨髄性白血病の新患に他剤と併用する試験を開始する予定だが、venetoclax及びazacitidineとの併用に加えて、KO-539陣営は高強度化学療法併用試験も開始する考え。

リンク: Kura・協和のプレスリリース


ビラフトビのBRAF-V600E変異転移結腸直腸癌試験で延命効果確認
(2025年2月3日発表)

ファイザーは、Braftovi(encorafenib)の第3相BREAKWATER試験において、共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)と主要副次的評価項目である全生存期間が対照群比で統計的に有意且つ臨床的に意味のある便益が確認されたと発表した。本試験のORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)に基づき昨年12月に米国で加速承認されたばかりだが、本承認切替申請する考え。

この経口BRAF阻害剤はBRAF-V600E変異のある黒色腫や結腸直腸癌、非小細胞性肺癌などに併用することが承認されている。BREAKWATER試験はBRAF-V600E変異のある転移結腸直腸癌の一次治療としてmFOLFOX6とcetuximabの標準療法に追加する便益をmFOLFOX6など3種類の標準療法のいずれかを施行する群と比較した。FDAのProject FrontRunnerというイニシアティブに呼応して、早く結果が出るORRで加速承認を取り、PFSまたは全生存期間で本承認に切替えるステップ・バイ・ステップ戦略を採用している。

加速承認制度は癌の場合、既存薬を使い果たした患者のための薬が対象になることが多く、最初に加速承認を取ってから、早期の癌に適応拡大していくのが一般的である。Project FrontRunnerブは、一本の試験を兼用することで早期がんにおける臨床開発をスピードアップする狙いだ。複数の独立した試験で有意差を出すという模範的な開発方針には反するが、抗癌剤は複数の用途用法に試験されるのが一般的なので、いずれは複数のエビデンスができる。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


インスメッド、DPP1阻害剤を気管支拡張症に承認申請
(2025年2月6日発表)

Insmed(Nasdaq:INSM)は、米国でINS1007(brensocatib)を非嚢胞性線維症気管支拡張症用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年8月12日。年内にEU、英国、日本でも承認申請する考え。

気管支拡張症で増加が見られる好中球エステラーゼなどの酵素の活性化を担う、DPP1を阻害する経口剤。アストラゼネカからライセンスした。日本の施設も参加したグローバル第3相試験、ASPENで、偽薬、10mg、または25mgを一日一回、52週間投与して肺の増悪頻度を比較したところ、10mg群は偽薬比21.1%、25mg群は19.4%、低かった(p値は各0.0019と0.0046)。副次的評価項目である気管支拡張剤投与後のFEV1の変化は25mg群だけ統計的に有意、重度肺増悪は両群とも26%前後少なかったが有意水準には達しなかった。第2相では歯周歯肉や、角化症などの皮膚有害事象が増加したが、今回はそれほどは増えなかった模様だ(定義が異なるのかもしれないが)。

リンク: 同社のプレスリリース


伊社が欧州でWiskott-Aldrich症候群用薬を承認申請
(2025年2月3日発表)

イタリアの希少疾患用薬開発会社、Fondazione Telethonは、Telethon 003(etuvetidigene autotemcel)をWiskott-Aldrich症候群用薬としてEMA(欧州薬品庁)に承認申請した。米国でも申請する予定。

この疾患は男児新生児25万人に一人の希少遺伝子疾患で、血球が欠乏し感染症や出血を被り易く、自己免疫疾患やリンパ腫のリスクが高い。HLA適合ドナーがいれば治癒的造血幹細胞移植が可能だが、適応にならない症例には対症療法しかない。Telethon 003は自家CD34陽性幹細胞/前駆細胞にレンチ・ウイルス・ベクターを用いてヒトWAS遺伝子のcDNAを導入するもの。23年にイタリアで、30人程度の投与実績に基づき、6ヶ月児以上のHLA適合近親ドナーがいない重症Wiskott-Aldrich症候群に用いることが認可された(拡大アクセス・プログラムに基づくもので正式承認ではない)。

リンク: 同社のプレスリリース


遅報:H3 K27M変異びまん性グリオーマ用薬が承認申請
(2024年12月30日発表)

米国のChimerix(Nasdaq:CMRX)はONC201(dordaviprone)を難治H3 K27M変異型びまん性グリオーマ用薬としてFDAに承認申請した。希少小児疾患用薬指定を受けており、加速承認を求めている。

H3 K27M変異は脳幹や脳室、視床、脳橋、脊髄などの腫瘍の過半で観察され、米国では年2000人が診断される。幼小児に多い。診断後のメジアン生存期間は1年と言われる深刻な疾患。dordaviproneは腫瘍の生存力に関わるミトコンドリア蛋白分解酵素ClpPを増強し、rasシグナル伝達を制御するドパミン受容体D2を拮抗する、経口カプセル剤。放射線療法後に投与した5本の第2相試験のプール分析で、50人中14人、28%がORR(客観的反応、Response Assessment in Neuro-Oncology 2.0ベース)を達成した。完全反応はゼロ、部分反応が10人、小反応が4人だった。メジアン反応持続期間は10.4ヶ月。

23年に市販後薬効確認試験となるべき第3相ACTION試験が開始された。米欧亜日の施設で新患H3 K27M変異びらん性グリオーマ患者450人を組入れて、125mgカプセル5個を第2相と同様に週一回投与する用法と、週二回、2日連続投与する用法を偽薬と比較している。主評価項目はPFS(盲検独立中央評価による)と全生存期間。

同社は21年にOncoceuticsを買収して入手した。日本は大原薬品、中台は華潤三九医薬がライセンスしている。

リンク: Chimerixのプレスリリース

【承認】


ベータ・ラクタマーゼ配合剤が米国でも承認
(2025年2月7日発表)

アッヴィは、FDAがEmblaveo(aztreonamとavibactamの点滴静注用固定用量合剤)を成人の複雑性腹腔内感染症用薬として承認したと発表した。他に適切な治療手段がない、または限定的な場合に用いる。25年第3四半期にロンチする予定。

aztreonamはグラム陰性菌用モノバクタム。1984年にグアテラマで世界初承認、86年に米国で、87年には日本でも、承認と長年の使用歴がある。avibactamはベータ・ラクタムと異なった構造を持つベータ・ラクタマーゼ阻害剤で、米欧では15~16年に、日本でも昨年6月に、ceftazidimeとの合剤が承認された。両剤の開発主体は企業買収・スピンアウトや導出により激しく変遷したが、最終的に、北米はアッヴィ、欧州や日本などはファイザーとなったようだ。

Emblaveoはファイザーが24年4月にEUで承認取得。日本でも申請中。奇妙なことに、EUも米国も、第3相REVISIT試験を薬効の主要エビデンスとは見なさなかった。丁度、Lancet Infectious Diseasesで刊行された論文の抄録にも明記されているように、正式な仮説検定が計画されていなかったことがネックになったのだろう。合剤の薬効確認試験は、通常、各配合成分単剤とも比較して必要性を確立するが、REVISIT試験の対照群はmeropenemで、avibactamを追加する便益はin vitroと動物試験でしか検討されていない模様だ。米国のレーベルには、REVIST試験の薬効関連データは一切、記されていない。レーベル非記載の効能を宣伝するのが違法と見なされていた時代だったら、大変な話だった。

リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: Carmeliらの治験論文抄録(Lancet Infectious Diseases)


連続皮下注用アポモルヒネが承認
(2025年2月4日発表)

Supernus Pharmaceuticals(Nasdaq:SUPN)は、FDAがOnapgo(apomorphine hydrochloride、開発コードSPN-830)を成人の進行パーキンソン病における運動症状の日内変動の治療薬として承認したと発表した。最初の承認申請から足掛け4年半、遂に米国初の皮下点滴システムが承認された。第2四半期に発売する予定。欧州で実施された第3相TOLEDO試験で試験薬群のオフタイム(レボドパ治療効果が薄れ運動症状が発現した時間)が2.6時間/日減少し、偽薬群の0.9時間/日減少を有意に上回った。有害事象は点滴箇所反応、悪心、傾眠/不眠、ジスキネジアなど。

同社は20年前にShire(のちに武田薬品が子会社化)からスピンアウトした。Onapgoは20年にUS WorldMedsのCNSポートフォリオを買収してパーキンソン病薬のApokyn(apomorphine hydrochloride)やXadago(safinamide)、B型ボツリヌス毒素薬Myobloc(rimabotulinumtoxinB)などとともに取得したもの。

リンク: Supernusのプレスリリース


Susvimoが糖尿病性網膜症に適応拡大
(2025年2月4日発表)

ロシュはFDAがSusvimo(ranibizumabポート・デリバリー・システム)を糖尿病性網膜症に適応拡大したと発表した。抗VEGF抗体フラグメント薬Lucentisの活性成分を持続放出する眼内インプラントで、6ヶ月毎に薬剤をリフィルする。Lucentisを2回以上硝子体内注射し応答した患者が適応になる。米国で実施された第3相Pagoda試験で、BCVA(最良矯正視力)が1年後に9.6字改善し、ranibizumabを月一回、継続投与群の9.4字改善と非劣性だった。

Susvimoは21年に米国で湿潤性加齢性黄斑変性用薬として承認された。EUでも承認申請されたが23年に撤回され、その後音沙汰がない。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25/2/8大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25/2/14Bavarian NordicのCHIKV VLP(チクングニア熱ワクチン)
25/2/17小野薬品のvimseltinib(腱滑膜巨細胞腫)
25/2/28SpringWorks Therapeuticsのmirdametinib(神経線維腫症1型)
25年3月推アッヴィのABBV-399(telisotuzumab vedotin、cMET陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌)
25/3/18Neurotech PharmaceuticalsのNT-501(revakinagene taroretcel、黄斑部毛細血管拡張症2型)
25/3/20Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫1L併用)
25/3/23Alnylam社のAmvuttra(vutrisiran、ATTR-CM追加)
25/3/26GSKのGSK2140944(gepotidacin、女性の非複雑尿路感染症)
25/3/27Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍)
25/3/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリ症候群)
25/3/28Mirum PharmaceuticalsのChenodal(chenodiol、脳腱黄色腫症)



今週は以上です。

2025年2月1日

第1192回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 政権交代の波紋が広がる 
  • MSD、WinrevairのPAH試験を玉突き繰上げ完了 
  • 新規放射性薬のGEP-NETs試験が成功 
  • Akero社、後期第2相MASH肝硬変試験で96週の治療により線維症が改善 
  • サレプタ社、Elevidysのクロスオーバー・フェーズの成績を発表 
  • アスピリンのPI3K変異大腸癌術後治療試験が成功 
  • ある種の大腸癌にはオプジーボだけよりヤーボイ併用のほうが良い 
  • 抗マイオスタチン抗体をSMA治療薬として承認申請 
  • ジクロロ酢酸塩をビルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症に承認申請 
  • MSD、HIF-2アルファ阻害剤を褐色細胞腫・傍神経節腫に適応追加申請 
  • CHMP、21価肺炎球菌ワクチンなどの承認を支持 
  • 片頭痛用合剤が承認 
  • 新規作用機序の鎮痛剤が承認 
  • オゼンピックが糖尿病性腎症に適応拡大 
  • エンハーツがher2低発現乳癌に適応拡大  
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


政権交代の波紋が広がる
(2025年1月20日発表)

報道によるとトランプ大統領は1月21日から2月1日までの期間、連邦政府の各種発表・方針表明をストップしているとのことだが、影響が報道以外にも広がり始めた。まず、行政において多様性を確保するためのDEI(diversity、equity、inclusion)プログラムを取りやめた。担当職員は自宅待機を命じられ、FDAのサイトから関連ページが削除された。CDC(疾病管理予防センター)のサイトではLGBTQや環境保護、エムポックス・ワクチン、HIVに関するページが消えた。

様々な多様性のうち、人種の多様性はICH(医薬品規制調和国際会議)ガイドラインでも基準を設けており、中国のInnovent Biologics(HKEX:01801)が抗PD-1抗体sintilimabを米国で進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療向けに承認申請した時の諮問委員会でも、臨床試験実施地域の偏りや、対照薬が米国における標準療法であるKeytruda併用レジメンではなかったことなどから、承認されなかった。他の中国系製薬会社の承認申請でも、中国の施設しか参加しなかったことなどが理由で承認されないものが陸続した。今回の方針転換で、中国や日本だけのエビデンスで承認を取り易くなるかどうかはまた別の問題ではあるが、チャンスにはなりうるだろう。

トランプ大統領はWHO脱退を打ち出しているが、CDCなどがWHOと連携して行っていた活動もストップしたようだ。WHOを訪問することも認められない。

また、2月24日に予定されていたノバルティスのFabhaltaのC3腎症適応拡大を検討する諮問委員会が中止になった。大統領令の影響なのか、審査担当者などFDA内部の判断なのかは明らかではなく、規制のせいかFDAの諮問委員会情報ページを見ても変更とは記されていないが、ノバルティスが24年決算発表に際して明らかにした。

リンク: ホワイトハウスのDEIプログラム終了のプレスリリース

【新薬開発】


MSD、WinrevairのPAH試験を玉突き繰上げ完了
(2025年1月30日発表)

MSDはPAH(肺動脈高血圧症)治療薬Winrevair(sotatercept-csrk)の第3相HYPERION試験を繰上げ完了すると発表した。もっと進行した患者を組入れた第3相試験が中間解析で主目的を達成し繰上げ完了したことや、過去の試験の総合的評価を踏まえたもので、FDAにも相談したとのこと。効能に関するエビデンスを積み上げる上では残念だが、偽薬群の患者に対する配慮なのだろう。

activin receptor type IIaとIgG1の融合蛋白で、24年に米欧で成人のPAH治療薬として承認された。日本でも申請中。エビデンスとなった第3相STELLAR試験はWHO機能分類でIIとIIIの標準治療を受けている患者324人が対象で、多くの被験者が2剤以上を併用していた。主目的の6分歩行距離に加えて、他の治療薬の増量、PAH増悪/入院、死亡などの複合評価項目の解析なども成功した。米国では限定されていないが、EUでは治験と同じ機能分類IIとIIIに限定された。

24年11月、第3相ZENITH試験が中間解析で成功認定されたと発表された。機能分類がIIIまたはIVで死亡リスクが高いと診断された、標準治療を受けている患者172人を組入れて、全死亡、肺移植、増悪による24時間以上の入院の複合評価項目を偽薬群と比較したもの。IIIの患者のメジアン生存期間は2.5年、IVは6ヶ月と推定されており、治療ニーズが特に高そうな患者層だ。そして、今回の第3相HYPERION試験は過去12ヶ月間にPAHと診断された機能分類IIまたはIIIで中高度進行リスクを持つ患者が対象で、転帰を偽薬と比較するもの。両試験は、高リスク患者に絞り込むことで、STELLAR試験でも観察された死亡リスク抑制作用の再現性を確かめる意図なのかもしれない。米国では適応になるがEUではIVは適応外なので、対象患者拡大も企図したのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


新規放射性薬のGEP-NETs試験が成功
(2025年1月28日発表)

ドイツの未上場放射性薬品会社、ITM Isotope Technologiesは、ITM-11の第3相GEP-NETs(膵消化管神経内分泌腫瘍)試験で主目的を達成したと発表した。承認申請に向けてFDAと相談する考え。成績は学会で発表する予定。

ベータ線を局所的に放出する無担体lutetium 177と、放射性核種キレート剤DOTAとoctreotide派生のソマトスタチン受容体2/5ライガンドであるedotreotideのコンジュゲート。7.5GBqを神経保護作用を持つアミノ酸溶液とともに3ヶ月毎に最大4サイクル投与する。第3相COMPLETE試験でグレード1/2の切除不能進行性ソマトスタチン受容体陽性GEP-NETs309人をeverolimus群と2対1割付けし、非盲検下でPFS(無進行生存期間)を比較した。

17~21年に欧米日でソマトスタチン受容体陽性GEP-NETs用薬として承認されたノバルティスのLutathera(lutetium Lu 177 dotatate)と似ているが、適応が異なるのだろうか?同じならeverolimus対照で良いのだろうか?Lutatheraの試験は長期作用性octreotideとPFSを比較していた。

リンク: ITM社のプレスリリース


Akero社、後期第2相MASH肝硬変試験で96週の治療により線維症が改善
(2025年1月27日発表)

米国カリフォルニア州のAkero Therapeutics(Nasdaq:AKRO)は、AKR-001(efruxifermin)の後期第2相試験でMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎;旧称非アルコール性脂肪性肝炎)による代償性肝硬変(F4)患者における肝線維症が96週の高用量投与により改善したと発表した。現在、F4や肝硬変合併前のF2-3段階の患者を組入れた第3相が3本進行中。

今回のSYMMETRY試験は182人の患者を偽薬、28mg、または50mgを週一回皮下注する3群に無作為化割付けして、肝線維症が1段階以上改善し、且つ、MASHが悪化しなかった患者の比率(以下、奏効率)を偽薬と比較した。第24週の解析は各群14%、22%、24%となり、有意差が見られなかったため株価が急落したが、第96週の解析は15%、29%、39%となり、50mg群は偽薬比p=0.009となったため、株価が倍増した。尚、この数値は第96週に生検を受けた134人(うち50mg群は46人)のデータで、intent-to-treat(母数に生検不実施例も含む、3群合計181人、50mg群は63人)ベースだと12%、21%、29%、50mg群のp=0.031と低下する。1年超追跡する試験のサガだが、50mg群は2割以上がドロップまたはフェールしたことになる。

AKR-001は長期作用性FGF21(線維芽細胞増殖因子21)類縁体。F2/3段階のMASHを組入れた後期第2相も50mg群の96週奏効率が偽薬群を有意に上回り、MASHが解消し線維症が悪化しなかった患者の比率は25mg群も有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


サレプタ社、Elevidysのクロスオーバー・フェーズの成績を発表
(2025年1月27日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は23年に米国で承認され欧日でも申請中のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子療法薬、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)の第3相EMBARK試験における、第2部の解析が成功したと発表した。

この試験は、歩行可能な4~7歳の患者125人を組入れて52週後のNSAA歩行能力評価尺度や立ち上がるまでの時間(以下、TFR)などを偽薬群と比較したもので、前者はフェールしたが、後者はベースラインの4.8秒が0.3秒改善し偽薬群の0.1秒悪化比有意な差があった。4段昇段テストも有意差があった。承認審査では担当部署の評価は厳しかったものの、生物学的医薬品部門トップの鶴の一声で承認された。

今回の第2部では52週の追跡を終えた偽薬群の患者59人に盲検を維持したままElevidysによる治療を施行し、更に52週間追跡したもの。対照群は偽薬群ではなく、事前に特定された、傾向加重外部対照群(以下、EC群、n=276)が用いられた。tadalafilの第3相DMD試験の偽薬群のデータなどを元に、患者背景が比較可能な症例群を作成したもの。結果は、EC群をNSAAは2.3点、TFRは2.7秒、10メートル歩行テストは1.07秒、上回り、いずれも統計的に有意だった。

第1部でElevidys群に割付けられた63人は偽薬を点滴静注された。52週後にEC群(n=143)比でNSAAが2.8点、TFRは2.1秒、10m歩行テストは1.4秒、有意に上回った。一回投与するだけの遺伝子療法なのでやがてマイクロジストロフィンが発現しなくなり効果がなくなるのではないか、という見方も日本では聞かれたが、第64週に行われた生検でも発現が確認されたとのことであり、今回のデータは、2年目には更に機能が改善する可能性を示唆している。

第1部はフェールしたのに第2部が成功したのは、端的に言えば、第1部における偽薬群の成績があまり悪くなかったからだ。第2部の成績の評価をするためには、外部対照群のデータの信憑性を確認する必要があるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


アスピリンのPI3K変異大腸癌術後治療試験が成功
(2025年1月25日発表)

ASCO GI(米国臨床腫瘍学会胃腸腫瘍シンポジウム)でPI3K経路に変異を持つ早期結腸直腸癌の摘出後にアスピリンで再発を予防した臨床試験の結果が発表された。偽薬比半減と大きな効果があった。

このALASCCA試験は、スウェーデンなど北欧4ヶ国で、PIK3CA遺伝子のエクソン9または20、あるいは、PTENまたはPIK3R1に変異を持つステージI~III直腸癌とステージII~III結腸癌を組入れて、アスピリン(160mg)を一日一回、3年間、経口投与する便益を偽薬と比較した。3508人を検査し、2980人で判定を取得、PIK3CA変異は515人で、PTEN/PIK3R1変異は588で確認され、うち、各314人と312人を2群に無作為化割付けした。

PIK3CA変異コフォートの3年再発率は偽薬群が14.1%、アスピリン群は7.7%、ハザードレシオ0.49、p=0.044だった。PIK3CA変異コフォートは各16.8%、7.7%、0.42、0.013となった。結腸癌にも直腸癌にも、他の付随療法を施行してもしなくても、年齢や進行段階も、問わずに効果が見られた。3年無病生存率はPIK3CA変異コフォートが変異群が81.4%と88.5%でハザードレシオ0.61、但しp=0.091だった。PTEN/PIK3R1変異は78%と89%でハザードレシオ0.51、p=0.017。

深刻有害事象は偽薬群では38人、試験薬群では57人で発生した。出血事故は各群ゼロと4人だった。

リンク: ASCO GI(右欄にAnna Martlingらの抄録LBA125のリンクあり)


ある種の大腸癌にはオプジーボだけよりヤーボイ併用のほうが良い
(2025年1月25日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、MSI-H/dMMR(高マイクロサテライト不安定性/ミスマッチ修復欠損)を示す転移結腸直腸癌におけるOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用法の便益を検討した第3相CheckMate-8HW試験でもう一つの主評価項目を達成したと、ASCO GIとLancet誌で発表された。

共同主評価項目のうち、一次治療を受ける患者における併用群と医師が選んだ化学療法を施行する群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)の比較は23年に中間解析で達成、ハザードレシオは0.21だった。今回の解析は、二次以降の患者も含む全被験者の併用群とOpdivo単剤群のPFS。ハザードレシオ0.62、3年PFS率は各群68%と51%、G3/4治療関連有害事象の発生率は22%と14%だった。副次的評価項目の全生存期間は継続追跡中。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Andreらの治験論文抄録(Lancet)

【承認申請】


抗マイオスタチン抗体をSMA治療薬として承認申請
(2025年1月29日発表)

Scholar Rock(Nasdaq:SRRK)はSRK-015(apitegromab)を脊髄筋萎縮症(SMA)用薬として承認申請したと発表した。SMA標的薬による治療を受けている患者に追加投与する。第3相SAPPHIRE試験でnusinersenまたはrisdiplamによる治療を受けている歩行不能な2型/3型SMA患者を偽薬、10mg/kg、20mg/kgの何れかの群に無作為化割付けして4週毎点滴静注し、第52週の運動機能を評価したところ、主薬効解析対象である2~12歳のサブグループ156人のHFMSE(ベースライン値は26)が2用量群のプール分析で偽薬比1.8点改善した(p=0.0192)。シーケンシャルな主評価項目である20mg/kg群53人では同1.4点(p=0.11)、10mg/kg群53人では同2.2点(p=0.0121)となり、低用量群のp値はHochberg多重性補正に基づく閾値をクリアした。13~21歳の22人に関する探索的解析でも好ましいトレンドが見られた。忍容性に関する新しい所見はなく、用量による大きな違いも発生しなかった。

apitegromabは、筋力などを抑制するマイオスタチンの前駆体や不活性体に結合するIgG4ラムダ抗体。歩行可能段階の患者や3型SMAにも第2相TOPAZ試験である程度の効果が示唆された。第3相で用量反応が見られなかったが、抗体医薬にはしばしばあることだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ジクロロ酢酸塩をビルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症に承認申請
(2025年1月28日発表)

本拠をダブリンとバミューダに二股欠けているSaol Therapeutics社は、SL-1009(sodium dichloroacetat、略称DCA)をピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症(PDCD)用薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は5月27日。

PDCDは炭水化物の酸化障害。新生児から命に係わる先天性乳酸アシドーシスのリスクがあり、神経系や筋骨格系にも影響が出る。米国で300~500人が治療を受けている、希少小児疾患。DCAはピルビン酸脱水素酵素を阻害し、残存ピルビン酸脱水素酵素複合体活性を刺激、ミトコンドリアにおけるATP生成を増強するとのこと。エビデンスは米国の施設で生後6ヶ月から17歳の患者を組入れたクロスオーバー試験で、GSTZ1遺伝子ハプロタイプ検査の結果に応じた用量の経口液を12時間毎に投与して第9月の観察者評価指標を偽薬と比較した。ホームページを調べたが、成績発表された気配はない。

リンク: 同社のプレスリリース


MSD、HIF-2アルファ阻害剤を褐色細胞腫・傍神経節腫に適応追加申請
(2025年1月27日発表)

MSDは米国でWelireg(belzutifan)をPPGL(褐色細胞腫・傍神経節腫)に適応拡大申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年5月26日。

HIF-2(hypoxia-inducible factor 2)を阻害する経口薬で、21年に米国でフォン・ヒッペル・リンドウ病の成人における即時手術不要な腎細胞腫、中枢神経系系血管芽細胞腫、または膵神経内分泌腫瘍に用いることが承認され、23年には進行腎細胞腫に適応拡大した。欧日でも承認申請中。

PPGLは希少副腎疾患で、米国の新患は年2000人、世界では5万人以上とのことだ。申請内容は12歳以上の進行、切除不能、又は転移性のPPGLに120mgを一日一回経口投与する。エビデンスは第2相試験のORR(客観的反応率、RECIST 1.1に基づく盲検独立中央評価)とのこと。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、21価肺炎球菌ワクチンなどの承認を支持
(2025年1月31日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのCapvaxiveは21価肺炎球菌結合型ワクチン。成人の肺炎球菌による侵襲性疾患や肺炎を予防する。肺炎球菌株のカバレッジがファイザーの20価ワクチンPrevnar 20より広く、米国における株別の感染者数で加重平均した数値はかなり上回る。主な有害事象は接種箇所反応、疲労、頭痛、筋痛など。米国では昨年6月に加速承認、日本でも承認申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

第一三共のDatroway(datopotamab deruxtecan)は抗TROP2抗体薬物複合体。切除不能/転移ホルモン受容体陽性her2陰性乳癌で、内分泌療法歴と進行後に一次以上の化学療法歴を持つ成人に、単剤投与する。日本では昨年12月に承認、米国でも今月承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

Datrowayは欧米では局所進行/転移非扁平上皮性非小細胞性肺癌の2次3次治療にも承認申請されていたが、EUでも申請撤回となった。CHMPは、非小細胞性肺癌全体における効果は小さく、試験中にプロトコル変更があったためサブグループ分析の解釈に不活実性があり、深刻な肺の炎症リスクが見られるため、承認は難しいと暫定的に評価していた。非扁平上皮サブグループのデータは主評価項目のPFS(無進行生存期間)に関しては良さそうに見えたが、全生存期間のハザードレシオは0.84とそれほど低くなく、95%上限は1を超えていたので承認が危ぶまれたが、見えないところにもボトルネックがあったわけだ。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのTivdak(tisotumab vedotin)は抗TF抗体薬物複合体。全身性治療中またはその後に進行した成人の難治/転移子宮癌に用いる。ファイザーが子会社化したSeagenがGenmabと共同開発し、米国では21年に加速承認、24年に今回と同じ適応で本承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークのBavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)のVimkunyaはチクングニア疾患の予防用ワクチンで12歳以上が適応になる。中和抗体陽転率に基づく評価で、承認後に予防効果を確認するよう求める。Bavarianは23年にEmergent BioSolutions(NYSE:EBS)からこのワクチンなどの生産販売事業を買収した。米国でも承認申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

Laboratorios Liconsa社のIvermectin/Albendazole固定用量合剤は、『顧みられない熱帯病』であるリンパ系フィラリア症の治療薬。鉤虫などによる土壌感染蠕虫(ぜんちゅう)感染症とWuchereria bancroftiによるミクロフィラリア血症の治療に、一日一錠、一回又は3日反復投与する。EU-Medicines for allというプログラムに基づく承認審査で、EU域外での使用を前提に、WHOや流行国の承認審査を支援する意図。流行地域では各配合成分の併用が既に用いられており、WHOはある種の寄生虫が流行する地域で全員に年一回投与することも推奨している。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大も肯定的意見を得た。

  • ブリストル マイヤーズ スクイブのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel):成人の難治/再発濾胞性リンパ腫の3次治療

  • 同、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab):成人の切除不能/進行肝細胞腫の一次治療に併用

  • アストラゼネカのImfinzi(durvalumab):成人の限局型小細胞性肺癌(化学放射線療法後の維持療法)

  • 一方、英国のADVANZ PHARMAは中枢神経浸透性アルドース還元酵素阻害剤Nugalviq(govorestat)を2歳以上の古典的ガラクトース血症用薬として承認申請していたが、12月に撤回したことが明らかにされた。CHMPは薬品の品質や用量、臨床試験のデザインや実施状況、データの収集・処理、PK/PDや癌原性に関する情報の不足などから、承認はできないと暫定的に判断していた。

    導入元であるApplied Therapeutics(Nasdaq:APLT)も米国で承認申請していたが昨年11月に審査完了通知と治験実施施設の査察で判明した事項に関する警告状を受領した。

    リンク: EMAのプレスリリース

    また、エーザイのLeqembi(lecanemab)は再審査を経て昨年11月に、ApoEエプシロン4ホモ接合型以外の早期アルツハイマー病に肯定的意見を得たが、その後に新たな安全性情報があった模様で、欧州委員会の要請に基づき意見や注意事項などの変更が必要かどうか、2月以降の会議で検討する旨、発表された。米日では23年に、24年には中国や韓国、英国でも、承認されている。

    ネガティブな情報でも適時開示することで傷口を小さく抑えられる。エーザイとバイオジェンは、フジテレビの事案を他人事と思わないほうが良い。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【承認】


    片頭痛用合剤が承認
    (2025年1月30日発表)

    米国ニューヨーク州のAxsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、FDAがSymbravo(開発コードAXS-07:meloxicam、rizatriptan)を片頭痛治療薬として承認したと発表した。NSAIDsの急速吸収性新製剤とMSDのMaxaltの主活性成分である5-HT1B/1D受容体作動剤のコンビ薬で、疼痛発作時に一回、経口投与する。中重度疼痛の治療に用いた第3相試験では、2時間後に20%の患者で痛みが解消した。rizatriptan群は17%、meloxicam群は12%、偽薬群は7%だった。軽度疼痛の第3相では2時間後に33%の患者が解消、偽薬群は16%だった。NSAIDsのクラス枠付き警告(心血管塞栓性や胃腸における深刻有害事象のリスクが上昇)が導入されている。

    21年に承認申請したが、製造問題などにより審査完了通知を受領、承認が2年以上遅延した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    新規作用機序の鎮痛剤が承認
    (2025年1月30日発表)

    FDAは、Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)のJournavx(suzetrigine)を成人の中重度急性疼痛の治療薬として承認した。初回は50mg錠を2錠、その後は1錠を12時間おきに経口投与する。第3相の腹壁形成術後疼痛治療試験とバニオン切除術後疼痛治療試験で48時間の疼痛強度が偽薬群を有意に下回った。但し、hydrocodone bitartrateとacetaminophenの併用群(各5mgと325mgを6時間毎投与)比では有意差がなく、後者の試験ではやや見劣りした。有害事象はかゆみや痙攣、血漿クレアチン・ホスホキナーゼ上昇、ラッシュなど。CYP3A相互作用があり、強阻害剤の同時使用は禁忌、中程度阻害剤は減量が必要、誘導剤も減量などが必要。CYP3Aを阻害するのでグレープフルーツの摂取は避ける。中重度肝障害は減量する。WAC(問屋取得価格)は一錠15.5ドル。

    JournavxはNaV1.8チャネルで、末梢神経における疼痛シグナルを阻害し脳に伝わらないようにする。米国はオピオイドの乱用誤用が社会問題になっているため、非オピオイド系鎮痛剤のニーズは高い。そのせいか、様々な急性疼痛を組入れた第3相単群試験や進行中の第3相糖尿病性神経症試験も含めて、米国の施設しか参加していない。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: Vertexのプレスリリース


    オゼンピックが糖尿病性腎症に適応拡大
    (2025年1月29日発表)

    ノボ ノルディスクは、FDAがOzempic(semaglutide)の効能追加を承認したと発表した。慢性腎疾患を合併する二型糖尿病の成人に1mgを週一回、皮下注して、腎疾患の悪化やESRD進行、あるいは心血管死のリスクを抑制する。後期第3相のFLOW試験で、腎症の進行や心血管疾患死のリスクを24%抑制した。100人に3年間投与すると5件抑制できる勘定になり、高価な薬だが便益も中々なものだ。欧州でも5月に適応拡大申請された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    エンハーツがher2低発現乳癌に適応拡大
    (2025年1月27日発表)

    アストラゼネカと第一三共は、FDAが抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を成人のホルモン受容体陽性、切除不能/転移性のher2低/超低発現乳癌に用いる適応拡大を承認したと発表した。転移後にホルモン療法歴を持ち、化学療法未施行の患者が適応になる。欧日でも申請中。

    her2標的薬はIHC検査(免疫組織化学染色法)でサンプルを調べて3+なら適応、2+の場合はISH検査(in situ ハイブリダイゼーション法)も行って陽性なら適応、陰性やIHC1+以下は適応外とするのが一般的だが、Enhertuは常識を破り、低発現(IHC2+且つISH-、またはIHC1+)または超低発現(IHC法で0と評価されるが膜染色が認められるもの)にも便益が認められた。前者は一次治療に用いることが可能になり、後者は今回初めて適応が認められた。

    従来から線引きの難しさが指摘されていたが、両社の下記プレスリリースによると、医療施設などのIHC法検査で0と評価された腫瘍の過半はセントラルラボでher2低または超低と判定される。セントラルラボの出番が増えることになる。

    コンパイオン診断薬としてロシュのPATHWAY抗HER2/neu (4B5)ウサギ・モノクローナル・プライマリー抗体の適応が、超低にも拡大した。

    リンク: アストラゼネカと第一製薬のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/2/8大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)
    25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
    25/2/14Bavarian NordicのCHIKV VLP(チクングニア熱ワクチン)
    25/2/17小野薬品のvimseltinib(腱滑膜巨細胞腫)
    25/2/28SpringWorks Therapeuticsのmirdametinib(神経線維腫症1型)
    25年3月推アッヴィのABBV-399(telisotuzumab vedotin、cMET陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌)
    25/3/18Neurotech PharmaceuticalsのNT-501(revakinagene taroretcel、黄斑部毛細血管拡張症2型)
    25/3/20Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫1L併用)
    25/3/23Alnylam社のAmvuttra(vutrisiran、ATTR-CM追加)
    25/3/26GSKのGSK2140944(gepotidacin、女性の非複雑尿路感染症)
    25/3/27Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍)
    25/3/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリ症候群)
    25/3/28Mirum PharmaceuticalsのChenodal(chenodiol、脳腱黄色腫症)


    今週は以上です。