2025年2月15日

第1194回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ブレヤンジの辺縁帯リンパ腫試験が好結果に 
  • ベーリンガー・インゲルハイム、進行性肺線維症用薬を承認申請へ 
  • 黒色腫全摘後はオプジーボに抗LAG-3抗体を追加しなくてもよい 
  • 大腸菌ワクチンの第3相が無益中止に 
  • Regeneron、抗BCMAxCD3抗体を再申請 
  • Biohaven、脊髄小脳失調症用薬を承認申請 
  • チクングニア熱ワクチンが承認 
  • 小野薬子会社の腱滑膜巨細胞腫用薬が承認 
  • アステラス、地図状萎縮治療薬の投与期間制限が解除 
  • アドセトリスがB細胞リンパ腫に適応拡大 
  • エブリスディの錠剤が承認 
  • 第2の神経線維腫症1型治療薬が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


ブレヤンジの辺縁帯リンパ腫試験が好結果に
(2025年2月10日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、CD19標的CAR-T療法Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)の難治再発辺縁帯リンパ腫(MZL)試験がポジティブな結果になったと発表した。データは学会で発表する考え。

Breyanziは第2相TRANSCEND FL試験で成人の様々なタイプの難治再発リンパ腫における効果がテストされ、24年に米日で難治再発濾胞性リンパ腫の3次治療などに適応拡大が認められた。今回、この単群試験のMZLコフォートで、ORR(客観的反応率)が統計的に有意且つ臨床的に意味のある成績を上げた。主要副次的評価項目の完解率も達成した。安全性に関する新しい発見はなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


ベーリンガー・インゲルハイム、進行性肺線維症用薬を承認申請へ
(2025年2月10日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、選択的PDE4B阻害剤BI 1015550(nerandomilast)の第3相FIBRONEER-ILD試験で主目的などを達成したと発表した。データは25年第2四半期に公表する考え。米国などで進行性肺線維症(PPF)用薬として承認申請する考え。

この試験はPPF患者1178人を偽薬、9mg、18mgの3群に無作為化割付けして一日2回、52週間経口投与して、FVC(努力肺活量)のベースライン比増減を比較した。安全性は特発性肺線維症(IPF)の第2相と同様だった。治験登録によると副次的評価項目として疾病の増悪や入院を抑制する効果も検討しているが、今回のプレスリリースは成否に言及していない。

PPFはIPF以外の様々なタイプの間質性肺疾患の総称で、過去3年間に日米欧の学会が提唱し始めた比較的新しい概念。呼吸機能や造影画像などに基づき診断するようだ。

nerandomilastはIPFの第2相試験で18mg一日2回投与群のFVCが12週後に5.7mL改善、偽薬群の81.7mL低下より良好な成績を挙げた。昨年9月には、第3相FIBRONEER-IPF試験で主目的を達成したことも発表されている。当然、両方の適応で承認申請するものと思っていたが、プレスリリースではPPFにしか言及していない。何故だろうか?

IPFは同社のチロシン・キナーゼ阻害剤Ofev(nintedanib)やロシュ/塩野義製薬のEsbriet(pirfenidone)が既に承認されている。前者の第3相試験3本では52週間のFVC治療効果(偽薬調整後)が94~131mL、後者は157~193mLだった。両剤とも、nerandomilastの第2相と同じ12週時点の効果は、グラフから推測すると、nerandomilastと大差ないように見える。Ofevは臨床的転帰に関わる複合評価項目でもハザードレシオ0.16~0.20と好成績を挙げているので、nerandomilastを発売するまでもないということなのだろうか?

Ofevは「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」でも20年に米日欧で承認された。第3相におけるFVC治療効果は107mLだった。この適応はPPFとかなりオーバーラップするのではないかと思われるが、原因疾患は様々なので、どの程度バッティングするのか、公表情報や筆者の知識では明らかではない。

リンク: 同社のプレスリリース


黒色腫全摘後はオプジーボに抗LAG-3抗体を追加しなくてもよい
(2025年2月13日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdualag(抗LAG-3抗体relatlimab-rmbwと抗PD-1抗体nivolumabの合剤)の第3相RELATIVITY-098試験で主目的を達成できなかったことを明らかにした。ステージIII-IVの黒色腫を全摘した後にOpdivo(nivolumab)で再発を予防する標準療法に抗LAG-3抗体を追加する便益を検討したが、主評価項目であるRFS(無再発生存期間)を有意に伸ばすことはできなかった。

LAG-3はPD-1と同様にT細胞の受容体で、抗原提示細胞などの免疫抑制的刺激を受領する。Opdualagは切除不能/転移黒色腫を組入れた試験でOpdivo単剤を上回るPFS延長効果を示し22年に米欧で承認された。プレスリリースによると、今回の試験は腫瘍摘出後であるため、最大の効果を発揮できるほど抗腫瘍T細胞が残存していなかった可能性があるようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


大腸菌ワクチンの第3相が無益中止に
(2025年2月13日発表)

サノフィは、ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalsから共同開発商業化権を取得した9価侵襲性腸管外病原性大腸菌感染症ワクチン、ExPEC9Vの第3相試験で独立データ監視委員会が無益を認定し、中止する予定と発表した。この試験は、60歳以上で過去2年間に尿路感染症歴のある18000人超を米欧中日アジアの施設で組入れて一回筋注し、発症リスクを偽薬と比較した。尿路感染症の7割以上は大腸菌が原因であり、60歳以上が腸管外感染するとしばしば重病化するため、奏功しなかったのは残念だ。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認申請】


Regeneron、抗BCMAxCD3抗体を再申請
(2025年2月11日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はREGN5458(linvoseltamab)の再承認申請がFDAに受理されたと発表した。審査期限は25年7月10日。

BCMAとCD3に結合する二重特異性抗体で、予定適応症は成人の治療歴4次以上または3次治療に抵抗性の難治/再発多発骨髄腫。第1/2相LINKER-MM1試験でORR(客観的反応率、独立評価)が117人中71%、完全反応率は46%だった。G3以上の有害事象発生率は85%、致死的治療時発現有害事象は14人で、うち11人は感染症関連だった。

23年末に承認申請され、優先審査を受けたが、フィル・フィニッシュ委託先が他社開発品に関わるFDA査察で不備を指摘・是正要求されたしわ寄せを食って、昨年8月に審査完了通知を受領した。無事解消したのだろう、再申請に至った。

リンク: 同社のプレスリリース


Biohaven、脊髄小脳失調症用薬を承認申請
(2025年2月11日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)を成人の脊髄小脳失調症(SCA)治療薬としてFDAに承認申請され受理されたと発表した。優先審査を受け、会社側は第3四半期の承認を期待している。

SCAは運動失調などを発現する優性遺伝性疾患。troriluzoleは筋萎縮性側索硬化症治療薬として承認されているriluzoleのプロドラッグで、血液中のアミノペプチターゼによりriluzoleに変換される。riluzoleは一日2回服用だがこちらは1回。SCAやアルツハイマー病、全般不安症で第3相試験が行われ何れもフェールした。SCAの第3相では偽薬群の成績が想定外に良かったため、同社は米国や欧州の自然歴データと傾向スコア・マッチングによる比較を行った。以下はグラフ読み取りだが、米国のClinical Research Consortium for SCAのデータでは機能評価(functional Scale for the Assessment and Rating of Ataxiaに基づく)の3年間の悪化が約1.6点、troriluzole群は約0.8点に留まった。欧州のEUROSCAデータとの比較では約2.4点と約0.6点だった。

長期試験のネックは評価対象症例数が漸減すること。米国自然歴対照では試験薬群がベースライン時点の101人から3年後には61人に減少、対照群は202人から43人と激減。欧州自然歴対照でも各群85人→54人と170人→112人となっている。一般的に、介入試験では非応答者が抜けていくため最後のほうは良好応答者ばかりになりがちだ。FDAは、このような問題点と、unmet medical needであることを天秤にかけて最終判断するのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


チクングニア熱ワクチンが承認
(2025年2月14日発表)

デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)は、FDAがVimkunyaを12歳以上向けのチクングニア熱ワクチンとして承認したと発表した。流行地域は中央・南アフリカや南アジアなので、渡航者などが接種することになるのではないか。NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)からライセンスした、水酸化アルミニウム吸着ウイルス様粒子ワクチン。12~64歳に一回筋注した第3相試験で中和抗体陽転率が98%と、事前に承認審査機関と合意した閾値を上回った。偽薬群は1%だった。承認と共に、熱帯病優先審査バウチャを取得、換金する考え。

23年にEmergent BioSolutions(NYSE:EBS)から買収したワクチン・ポートフォリオの一つ。

リンク: 同社のプレスリリース


小野薬子会社の腱滑膜巨細胞腫用薬が承認
(2025年2月14日発表)

FDAは、小野薬品が昨年6月に企業価値ベース24億ドルで買収したDeciphera PharmaceuticalsのRomvimza(vimseltinib)を腱滑膜巨細胞腫(TGCT)用薬として承認したと発表した。TGCTは良性腫瘍で多くは局所性、切除可能だが、運動能力に障害が出るなどで切除不適な場合に用いる。第3相MOTION試験で123人(うち3/4は摘出術歴あり)に偽薬または30mgを週2回、経口投与したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が各群0%と40%だった。反応持続期間は未だメジアン値に達していないが、85%が6ヶ月以上持続していた。主な有害事象は肝機能検査値異常や、眼窩周囲や末梢、顔面などの浮腫など。

TGCTはCSF1(コロニー刺激因子1)が遺伝転座により過剰発現し、受容体のある細胞に集積することが関与している。RomvimzaはCSF1受容体阻害剤。第一三共の類薬、Turalio(pexidartinib)が19年に米国で承認されたが、200mgを一日二回経口投与する必要がある。死に至る可能性のある肝障害リスクがあるためEUでは承認されず米国でも枠付き警告されている。Romvimzaは枠付き警告なし。

リンク: FDAのプレスリリース


アステラス、地図状萎縮治療薬の投与期間制限が解除
(2025年2月13日発表)

アステラス製薬は、加齢性黄斑変性の合併症である地図状萎縮の治療薬、Izervay(avacincaptad pegol)の投与期間制限を解除するレーベル変更がFDAに承認されたと発表した。23年8月の初承認時点では、安全性評価の対象となる長期試験が18ヶ月のOPH2003試験のみだったためか、最長12ヶ月に限定されていたが、第3相GATHER2(ISEE2008)試験の2年追跡データで効果や安全性が確認された。脈絡膜新生血管発生率は11.6%で偽処置群の9%より高かった。

23年4月に約59億ドルで買収したIveric Bioの製品。日本でも先日、承認申請された。EUではCHMPが臨床的に意味のある視力の改善に繋がらないと後ろ向きだったため申請撤回に至り、今のところ、承認されているのは米豪だけ。

リンク: 同社のプレスリリース


アドセトリスがB細胞リンパ腫に適応拡大
(2025年2月12日発表)

FDAは、ファイザーの子会社であるSeagenのAdcetris(brentuximab vedotin)を難治/再発大細胞型B細胞リンパ腫に用いる適応拡大を承認した。成人の、2次以上の治療歴を持ち自家造血幹細胞移植やCAR-Tに不適の患者に、lenalidomide及びrituximab製品の一つと併用する。第3相ECHELON-3試験でメジアン生存期間が13.8ヶ月と、偽薬をlenalidomide及びrituximabと併用した群の8.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.63だった、PFS(無進行生存期間)のメジアン値は4.2ヶ月対2.6ヶ月と1ヶ月強上回り、ハザードレシオは0.53だった。Adcetris群の6%が末梢神経痛によりAdcetrisの用量を減量、4.5%が投与中止した。

リンク: FDAのプレスリリース


エブリスディの錠剤が承認
(2025年2月12日発表)

ロシュは、脊髄性筋萎縮症用薬Evrysdi(risdiplam)の5mg錠がFDAに承認されたと発表した。従来の経口液用粉末と比較した生物学的同等性試験に基づくもの。従来製剤は、例えば年齢2歳以上、体重20kg以上の場合は5mgを一日一回服用するが、一本60mg入りなので、溶解後は残りを冷蔵保存しちびちび使うことになる。5mg錠は常温保存可能なので取り扱いが多少楽になる。溶かして飲む場合は塩素の入っていない水を使う必要があることに注意。

2歳未満または20kg未満は従来の製剤を用いる。

リンク: 同社のプレスリリース


第2の神経線維腫症1型治療薬が承認
(2025年2月11日発表)

FDAはSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)のGomekli(mirdametinib)を神経線維腫症1型(NF1)治療薬として承認した。全摘不能な症候性叢状神経線維腫(PN)を伴う2歳以上の小児と成人に用いる。後期第2相ReNeu試験で小児における確認客観的反応率が52%、成人では41%だった。応答者の9割は12ヶ月以上持続した。有害事象はラッシュや下痢、クレアチニン・フォスフォキナーゼ上昇など。警告・注意事項は左心室機能不全、目や皮膚における毒性、胚胎毒性。欧州でも承認申請中。

NF1はMAPK経路におけるサプレッサーであるニューロフィブロミンの遺伝子変異による常染色体性優性遺伝性疾患で、米国の推定患者数は10万人、うち30~50%がPNを合併し、うち最大で85%は全摘不能とされる。Gomekliは20~22年に米欧日で承認されたアストラゼネカのKoselugo(selumetinib)と同様にMEK1/2を阻害する経口剤。Koselugoの適応は今のところ2歳以上の小児だけだが、成人患者を組入れた第3相KOMET試験が成功、日欧で適応拡大申請中。

SpringWorksはファイザーのスピンアウトで、Gomekliのファイザー時代の開発コードはPD-325901。23年にガンマ・セクレターゼ阻害剤PF-3084014がOgsiveo(nirogacestat)名で進行性デスモイド腫瘍治療薬としてFDAに承認された。

尚、ドイツのメルクKGaAはSpringWorks Therapeuticsと企業買収について検討していることを明らかにした。但し、拘束力のある合意にはまだ達していないとのこと。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: メルクのプレスリリース(2/10付)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】




PDUFA
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25年3月推アッヴィのABBV-399(telisotuzumab vedotin、cMET陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌)
25/3/18Neurotech PharmaceuticalsのNT-501(revakinagene taroretcel、黄斑部毛細血管拡張症2型)
25/3/20Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫1L併用)
25/3/23Alnylam社のAmvuttra(vutrisiran、ATTR-CM追加)
25/3/26GSKのGSK2140944(gepotidacin、女性の非複雑尿路感染症)
25/3/27Milestone PharmaceuticalsのCardamyst(点鼻用etripamil、発作性上室性頻拍)
25/3/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリ症候群)
25/3/28Mirum PharmaceuticalsのChenodal(chenodiol、脳腱黄色腫症)
注:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole)のPTSD追加は、諮問委員会招集する見込みになり、2月8日の審査期限を超過した。


今週は以上です。

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