2022年12月2日

第1079回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • BQ.1系変異株が増加しリリーの抗体が無効に 
  • その他の領域: 
  • WHIM症候群の第3相が成功 
  • アルツハイマー性激昂の治療試験が成功 
  • lecanemabの学会発表と第二の死亡報告 
  • ドライアイ治療薬を承認申請 
  • 重症筋無力症治療薬を欧米申請 
  • テセントリクの膀胱癌適応を返上へ 
  • 初の糞便移植療法が承認 


【COVID-19関連】


BQ.1系変異株が増加しリリーの抗体が無効に
(2022年11月30日発表)

FDAは、イーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体bebtelovimabは現在、米国のどの地域でもオーソライズされていないと発表した。今年2月にEUA(非常時使用認可)したが、有効性が期待できない変異株、BQ.1とBQ.1.1による感染の構成比が57%に達したため。EUAが取り消されたわけではなく、将来、同薬が活性を持つ変異株が増加する事態に備えて、在庫を適切な方法で保存しておくよう求めている。

米国はCOVID-19治療薬やワクチンに関する連邦政府予算の追加が議会に認められなかったため、政府一括購入・無償供与から医療施設購入・公的/民間保険負担に切り替わりつつある。最初に移行したのがbebtelovimabで、イーライリリーは8月に州政府や医療施設に対する直接販売を開始したところ。

リンク: FDAのプレスリリース

【新薬開発】


WHIM症候群の第3相が成功
(2022年11月29日発表)

X4 Pharmaceuticals(Nasdaq:XFOR)は、X4P-001(mavorixafor)の第3相WHIM症候群治療試験が成功したと発表した。ANC(好中球数絶対数)が500セル/mcLを上回っていた時間が24時間当たり15時間と、偽薬群の2.7時間を有意に上回った。副次的評価項目の一つである1000セル/mcL以上の時間も15時間対4時間で上回った。感染症抑制効果も検討したはずだが今回のリリースでは言及されていない。

WHIM症候群は希少常染色体性優性遺伝による原発性免疫不全症で、Wはヒトパピローマウイルスによる疣贅、Hは低ガンマグロブリン血症、Iは細菌感染症、Mは骨髄性細胞貯留を指す。X4P-001は造血幹細胞移植におけるアフェレーシス補助剤として用いられているMozobil(plerixafor)を創製したAnorMedのもう一つのCXCR4受容体アンタゴニスト。AnorMedを06年に買収したジェンザイムを11年に買収したサノフィからライセンスしたもの。

リンク: 同社のプレスリリース


アルツハイマー性激昂の治療試験が成功
(2022年11月28日発表)

Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)はAXS-05(dextromethorphan、bupropion)の第3相アルツハイマー性激昂試験が成功したと発表した。ラン・イン期間中に投与して応答した患者108人を偽薬スイッチ群と継続投与群に無作為化割付けして激昂症状が再発するまでの期間を比較したところ、ハザードレシオ0.275(p=0.014)となった。偽薬群は25%の患者が症状悪化したが継続投与群は7%に留まった。

通常の治療試験も既に第2/3相が一本成功、もう一本は25年に開票の見込み。承認申請はその後か。

AXS-05は鎮咳去痰薬として用いられているNMDA受容体アンタゴニスト、dextromethorphanと、その代謝を阻害するノルアドレナリン/ドーパミン再取込阻害剤、bupropionの調整放出錠。8月に鬱病治療薬Auvelityとして米国で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース


lecanemabの学会発表と第二の死亡報告
(2022年11月29日発表)

エーザイがスウェーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンス(Nasdaq Stockholm:BIOA B)からライセンスしバイオジェンと共同開発している抗アミロイド・ベータ抗体、lecanemabの第3相試験の結果がCTAD(Clinical Trials on Alzheimer's Disease)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。ヘッドラインは9月に公表済みだが、今回は18ヶ月後のCDR-SBの群間差だけでなく各群の変化も明らかになった。これとは別に、この試験に参加した患者が延長試験中に死亡した件についてSCIENCEINSIDERが報じた。

このCLARITY AD試験は脳アミロイドのあるアルツハイマー性軽度認知障害と軽度アルツハイマー病の患者1795人を偽薬群と試験薬群(10mg/kgを二週毎に点滴静注)に無作為化割り付けして18ヶ月間追跡した。主評価項目のCDR-SBはベースライン時点の平均値3.2から、偽薬群は1.66、試験薬群は1.21悪化した。低下率は偽薬群は52%、試験薬群は38%となる。群間差は0.45(p=0.00005)、低下抑制率は27%だった。

CDR-SBは記憶機能や日常生活機能など6評価項目について症状を0、0.5、1、2、3の5段階で評価し合計したもの(但しパーソナルケアに関しては0.5がない)。数値が大きいほど障害が大きい。軽度認知障害のCDRは0.5、軽度アルツハイマー病は0.5~4程度と言われている。lecanemabの治療効果である0.45は、6評価項目のうち一つで1段階上がる(0.5または1)よりも小さい。治験論文でも穏やかな効果と形容されている。

SCIENCEINSIDERが報じた65歳女性は、本試験の延長試験で試験薬の投与を受けていた。本試験でどちらの群に割り付けられていたたのか、あるいは、直近の投与時期は記されていない。脳梗塞を発症し救急医療としてtPAを投与したところ、大量出血し、数日後に死亡した。

lecanemabなどの抗アミロイド・ベータ抗体を投与するとMRI脳検査でARIA(アミロイド関連造影異常)がしばしば現れる。多くは症状を伴わないが全てではない。今回の事例は、lecanemab投与により弱体化した血管が抗凝固剤の投与により更に弱体化し破れた疑いがあるようだ。

STATで報じられた、脳出血で死亡した80代後半の男性もXa阻害剤apixabanとlecanemabの相互作用が疑われているようだ。

このようなケースまでlecanemabの副作用と呼ぶのは議論の余地がありそうだ。副作用だった場合、抗凝固剤の併用を禁忌にして対処する方法もある。しかし、悩ましいのは、現実の医療環境は臨床試験ほど単純ではないことだ。

臨床試験と現実の違いを端的に示すのは死亡率だ。被験者の平均年齢は70歳、男女ほぼ半々で、18ヶ月間の死亡率は偽薬群が0.8%、試験薬群は0.7%だった。人口全体の年間死亡率は米国男性の場合で60代は1~2%、70代は2~5%、80代は5~15%、女性は男性の6~8掛けなので、被験者は少なくとも命に関しては同年代の平均より健康だった。しかし、承認後は臨床試験では除外されるような患者にも使われるだろう。年齢的に、治療後に脳梗塞を発症する人も少なくないだろう。製薬会社や承認審査機関とは異なり、医師や患者にとっては、併用禁忌の一言で片づけられる問題ではないだろう。

白ではなく黒でもなく、悪いとも言えず良いとも言えない、難しい問題だ。

リンク: Dyckらの治験論文アブストラクト(NEJM)
リンク: SCIENCEINSIDER誌の記事(11/27付)
リンク: 両社のプレスリリース(和文、11/30付)

【承認申請】


ドライアイ治療薬を承認申請
(2022年11月29日発表)

RASP(反応性アルデヒド種)調節剤を開発しているAldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)は、ADX 102(reproxalap)をドライアイ治療薬としてFDAに承認申請した。免疫原性を持つ有機アルデヒド遊離体に結合し炎症を抑制する。第3相は目の赤さを主評価項目とした試験がフェールしたが、副次的評価項目であるシルマー検査(下瞼に検査紙を挟み涙の量を測定)が有意に改善したため、もう一本の主評価項目を変更したところ、偽薬群は0mm、試験薬4回点眼後に測定した群は4mmと涙が有意に多かった。

リンク: 同社のプレスリリース

重症筋無力症治療薬を欧米申請
(2022年11月14日発表)

UCBはRA101495(zilucoplan)を欧米で承認申請し受理されたと発表した。アミノ酸15個からなる環状ペプチドで、補体系C5を阻害する。抗AChR(アセチルコリン受容体)自己抗体を持つ重症筋無力症の治療薬として一日一回、皮下注射する。臨床試験ではMG-ADL総スコアの12週間の悪化が偽薬比2.09点小さかった。

同社は抗胎児Fc受容体抗体UCB7665(rozanolixizumab)も承認申請したと推測される。臨床試験ではMG-ADLの43日間の悪化が偽薬比2.6点程度小さかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


テセントリクの膀胱癌適応を返上へ
(2022年11月28日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)の適応症の一つである尿路上皮癌一次治療を返上する考えであることを明らかにした。第2相試験成績に基づき16年に再発癌の単剤治療が加速承認されたが、市販後薬効確認試験の成績が芳しくなく、翌年、適応がPD-L1陽性患者や白金薬不適患者などに限定され、21年3月には適応返上に至った。一次治療は17年に加速承認されたが、フェーズ4コミットメントの対象である化学療法試験で、メジアン生存期間が上回ったものの有意水準には届かずフェール、加速承認と同じ単剤投与群は数値上悪かった。

免疫療法が有効な癌と考えていたが、抗PD-L1/PD-1抗体の第3相試験成績は区々で、適応返上/限定が増えている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


初の糞便移植療法が承認
(2022年11月30日発表)

FDAはFerring PharmaceuticalsのRebiotix(糞便微生物叢、生、接尾辞jslm)を18歳以上の難治クロストリジウムディフィシル感染症(CDI)治療薬として承認した。健常者ドナーの糞便を含有する浣腸用懸濁液で、抗生剤治療の24~72時間後に150mLを一回投与する。臨床試験では奏効率(治療後8週間に亘りCDIによる下痢が起きない)が70.6%と偽薬群の57.5%を上回り、優越性の事後確率は99.1%だった。臨床試験での安全性は、投与後6ヶ月間の深刻有害事象発生率は10.1%と偽薬群の7.2%を上回ったが、薬物関連とみなされるものはなかった。

CDIは、多くの場合、抗生剤治療により腸内微生物バランスが崩れたのに乗じて、クロストリジウム・ディフィシル菌が繁殖する。血液があまり届かない場所に生息するため全身性抗生剤が効きにくい。米国では年15000~30000人がCDIで死亡する。

対策として、様々な組織が健常者の糞便や糞便微生物叢を移植して再建する糞便移植療法を開発しているが、19年にESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生大腸菌感染による死亡等が発生、FDAがドナーのスクリーニングと糞便の多剤耐性菌検査などの徹底を求めた。Rebiotixは規制適合していた模様だが、風評被害や、検査対象外の細菌や食物アレルゲンの存在を完全に否定することは不可能であるため、臨床試験の目標症例数を動員することが困難になり、FDAの助言に則り、ベイズ確率による解析を主評価項目とするなどのプロトコル変更を行った経緯がある。

フェリングは18年にRebiotixを買収して入手した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Ferring Pharmaceuticalsのプレスリリース






今週は以上です。

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