2022年11月26日

第1078回

【ニュース・ヘッドライン】

  • 日本で第2の3CLプロテアーゼ阻害剤が承認 
  • GSK、抗BCMA抗体薬物複合体の加速承認を返上へ 
  • キイトルーダ、her2陰性胃癌の一次治療試験が成功 
  • Spectrumのher2阻害剤は承認されず 
  • B型血友病の遺伝子療法が承認 
  • 透析期慢性腎疾患におけるプラリアのリスクを再警告 


【今週の話題】


日本で第2の3CLプロテアーゼ阻害剤が承認
(2022年11月22日発表)

塩野義製薬と北海道大学の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害剤、ゾコーバ(エンシトレルビル フマル酸)が日本で特例承認された。重症化リスク因子を持たない患者も適応になり、早期回復効果が示唆されている点がファースト・イン・クラスであるファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)と比べた長所だが、データは思ったほど良好でなく、妊婦禁忌で若い女性に処方する際には最後の月経後に性交したか、妊娠の可能性があるかを問診しなければならないこと、そして、現今の環境では止むを得ないのだが、重症化リスク抑制効果が確認されていないことが弱点だ。

同社は9月に第3相試験が良好な結果になったことを公表したが、今回、p値が0.0407と臨床試験一本で承認するには心許ないものであったことが判明した。主要5症状が『快復』するまでメジアン167.9時間と、偽薬群の192.2時間より約1日早まったが、ハザードレシオは1.14、95%信頼区間は0.95-1.36と1を跨いでおり、特例承認のハードルはこんなに低いのかと驚かされる。更に、日本の施設におけるメジアン快復期間は各165.8時間と172.1時間、群間差は6時間強と小さく、ハザードレシオは1.04と、失望的。

また、この試験は発症後120時間以内の患者を組入れたが、開鍵の直前に72時間未満のサブグループ(被験者の6割程度)の低用量群と偽薬群の比較だけを主評価項目とする変更が行われた。変更自体は一部で言われるほど大きな問題ではないと思うが、Paxlovidの5日以内と比べて、3日以内の縛りはかなりタイトだ。それ以外のサブグループの成績は明らかではないが、intent-to-treatベースのメジアン快復期間は各189.7時間と200.3時間で10時間強の差、ハザードレシオ1.03と差や比率がかなり縮小しているので、おそらく、3日経った後で投与しても効果がないのだろう。

Paxlovidの第3相が行われた頃とは異なり感染者の重症化リスクが低下しているため、インフルエンザ治療薬と同じような、罹患期間短縮効果を持つ薬のほうが好ましいのではないかと思っていたが、期待過剰だったようだ。

催奇性は、インタビューフォームによると、臨床用量における曝露は妊娠ウサギにおける無毒性量の2倍程度、妊娠ラットでは4倍程度だった。薬物相互作用は、Paxlovidと同様に併用禁忌・注意が多いのが難点。ゾコーバは安全域が狭い抗リウマチ薬メトトレキサートも併用注意だ。

日本感染症学会のガイドライン草案によると、重症化リスクのある軽中等症患者は重症化リスク抑制効果が確立しているPaxlovidやMSDのLagevrio(molnupiravir)を検討すべき。軽症患者は対症療法だけで自然治癒することが多いことを考慮すべきとのことなので、どの程度使用されるか不透明なところがある。

こうしてみると、特例承認はかなりなウルトラCという印象だ。重症化リスクのない患者に使えるので特例承認制度が適用されたものと推測されるが、このような患者にどの程度使われるかは明らかではない。それでも、この薬の実用化を後押しした産学政官複合体のメンツは立った。

リンク: 添付文書(PMDAのウェブサイト)


GSK、抗BCMA抗体薬物複合体の加速承認を返上へ
(2022年11月22日発表)

GSKは米国でBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)の承認返上手続きを開始した。20年8月に米国で難治再発多発骨髄腫の4次治療薬として加速承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため。といっても、3次治療実薬対照試験でメジアンPFS(無進行生存期間)は11.2ヶ月と pomalidomide・低量dexamethasone併用群の7ヶ月を上回り、メジアン生存期間も未成熟とは言え21.2ヶ月前後で大差なかったので、こんなに急に話が進むとは思わなかった。

適応拡大試験は一次治療と二次治療の三剤併用試験の結果が来年上期に出る見込み。FDAがそれまで待ってくれるのではないかと思ったが、PARP阻害剤やCDK阻害剤と同様に、厳しいペナルティを受けた。

尚、現在治療を受けて成果の上がっている患者は、REMS(リスク評価緩和戦略)プログラムに登録して継続入手する道が残されている。

BlenrepはEUでも20年8月に条件付き承認されている(難治再発多発骨髄腫の5次治療)。

リンク: GSKのプレスリリース

【新薬開発】


キイトルーダ、her2陰性胃癌の一次治療試験が成功
(2022年11月22日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相her2陰性局所進行性切除不能/転移性胃・胃食道接合部(G・GEJ)腺腫一次治療化学療法併用試験が中間解析で良好な結果になったと発表した。主評価項目の全生存期間も、PFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)も、偽薬・化学療法併用群を上回った。数値は未発表。Opdivo(nivolumab)の類似試験ではPD-L1発現度が低いサブグループの成績が思わしくなかった。Keytrudaのデータはどうだったのか、注目される。

G・GEJ腺腫の一次治療ではOpdivoの化学療法併用試験、CheckMate-649が成功し21年4月に米国で加速承認された。フェーズIVコミットメントである全生存期間の最終解析も同年11月に提出されたが、まだ本承認に切り替わっていない。理由は不明だが、同試験はher2が陽性ではない患者だけを組入れたのに、そして、CPS<5のサブグループの探索的解析があまり良くなかったのに、her2発現やPD-L1発現の有無を問わずに加速承認されていることが影響しているのかもしれない。尚、EUはher2陰性かつCPS≧5に限定している。

一方、Keytrudaは21年5月にher2陽性の局所進行切除不能/転移G・GEJ腺腫の一次治療trastuzumab・化学療法併用が加速承認された。今回、her2陰性のエビデンスも揃ったことになる。

尚、KeytrudaはCPS≧1のG・GEJ腺腫三次治療に単剤投与することも17年に加速承認されたが、フェーズIVコミットメント試験である二次治療や一次治療の単剤投与試験がフェールしたため、FDAや諮問委員会の見解を踏まえて、今年7月、自主的承認返上に至っている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Spectrumのher2阻害剤は承認されず
(2022年11月25日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(Nasdaq:SPPI)はHM781-36B(poziotinib)をher2遺伝子のエクソン20に挿入変異のある局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の再発治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。これ以上の開発はストップし、事業資金を温存するため研究開発部門の人員の75%を解雇する。

同社は第2相試験の確認ORR(客観的反応率)に基づき加速承認を求めたが、点推定値は27.8%、95%下限は18.9%で閾値の17%を若干上回った程度であり、火急の承認に値するほどではなかった。有害事象による投与の中断・中止も少なくなかった。加速承認を得た会社は市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる便益を確認しなければならないが、同社は未だ開始しておらず、承認申請された16mg一日一回ではなく忍容性向上が見込まれる8mg一日二回投与をテストする予定だった。これらのことから、9月に開催された諮問委員会も承認反対が9人と賛成の4人を上回った。

文化が違うとは言え、経営の失敗が原因で多数の従業員が解雇されるのは釈然としない。アトムのTVドラマのように銀行が融資を株に転換して大株主になったくらいのことで株主総会も経ずに経営陣や従業員を解雇するようなことはありえないが、ツイッターのように全株取得すれば何でもできるというのも、資本主義のダイナミズムで済まして良いのか首を傾げたい。そういえば、最近流行りのSDGsも、他者の価値観を尊重せよとは主張していない。理念を普及する上で他人の信教など構っていられないからだろう。誰かの都合が圧倒的な力を揮う時代だ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


B型血友病の遺伝子療法が承認
(2022年11月22日発表)

FDAはCSL BehringのHemgenix(etranacogene dezaparvovec-drlb)をB型血友病治療薬として承認した。第IX因子による予防的治療を受けている、または、命に係る出血/出血歴や深刻な特発的出血を繰り返している患者が適応になる。

第IX因子のルーチン投与を受けている患者54人に投与した第3相試験で、第IX因子は止めて1年半追跡したところ、第IX因子が定常状態に達する第7月後の52週間における年率出血率が第IX因子投与を受けていたリードイン期間比半減した。有害事象は肝機能検査値異常や頭痛など。

Padua大学の研究者が発見した、活性が野生型比5~8倍高いPadua型第IX因子をアデノ随伴ウイルス5型ベクターで導入し、肝臓特異的に発現させるin vivo遺伝子療法。uniQure(Nasdaq:QURE)から世界開発販売権を取得したもの。報道によると、CSL Behringはリスト・プライスを350万ドルに設定した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CSLのプレスリリース

【医薬品の安全性】


透析期慢性腎疾患におけるプラリアのリスクを再警告
(2022年11月22日発表)

FDAはアムジェンの骨粗鬆症治療薬Prolia(denosumab)を進行した慢性腎疾患の患者に用いると入院や死亡の可能性もある深刻な低カルシウム血症のリスクが高まるという安全性通知を行った。長期安全性試験の中間解析などでリスクが確認されたとのことだが、レーベルに記載されている既知のリスクなので、承認から11年経った今になって改めて通知したのは違和感がある。データが予想以上に悪かったのかもしれないが、リリースには記されていない。

Proliaは破骨細胞の分化・活性化を促進するRANKライガンドに結合する抗体医薬。日本では第一三共がプラリア名で販売している。また、腫瘍学用途で高用量版がXgeva/ランマーク名で販売されている。

リンク: FDAのプレスリリース




今週は以上です。

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