2022年12月30日

第1083回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19が死因の第7~8位に 
  • ファイザーのB型血友病遺伝子療法も第3相が成功 
  • デスモイド腫瘍用薬を承認申請 
  • Ardelyx、テナパノルの再承認申請に向けて相談へ 
  • 骨化性線維異形成症用薬の承認はお預け 
  • またまた抗CD20抗体が多発硬化症に承認 


【今週の話題】


COVID-19が死因の第7~8位に

COVID-19による死亡者数は12月に入って大きく増加、29日時点で7004人と8月の7295人を超える勢いだ。前年12月は行動自粛が効いて33人に留まったため前年同期比200倍以上の増加、一昨年比でも5~6倍に増えている。新規感染者数に対する比率は0.1~0.2%と、アルファ株やベータ株の流行時より低下しているが、感染者数が前年12月の約700倍、一昨年の約50倍に増えた。

年間では4万人近くになりそうで、日本人の死因としては「不慮の事故」と並ぶ第7位か8位になりそうだ。但し、人口動態統計上はコロナによる死亡は「その他の特殊目的用コード」に分類されるため、公式な統計には出てこないかもしれない。

米国は20年も21年も数十万人が死亡し第3位だった。日本ははるかにマシだが、油断できる状況ではないことを忘れてはいけないだろう。

COVID-19は政府やメディアに利益相反が生じる。高齢者が減れば健康保険や年金の負担が軽減し、相続税が発生する一方で、所得税は、多くの場合、影響ないので、財政には好影響を与える。TV局は景気後退でスポンサー料やCM料が減るだけでなく、ドル箱である夏休みなどのイベントも打撃を受けるので、楽観論に傾きやすい。ウィズコロナを主張する論者の多くは利益相反を抱えており、当方は主張に反対するわけではないが、割り引いて聞いている。

【新薬開発】


ファイザーのB型血友病遺伝子療法も第3相が成功
(2022年12月29日発表)

ファイザーはfidanacogene elaparvovecの第3相B型血友病試験の成功を発表した。承認審査機関と相談する考え。

11月に米国で承認されたCLS/UniQureのHemgenix(etranacogene dezaparvovec-drlb)と同様な、アデノ随伴ウイルスをベクターとして高活性のPadua型第IX因子を肝細胞特異的に導入するin vivo遺伝子療法。第3相では重度または中程度に重度の患者45人を組み入れて、第IX因子の予防的投与などを継続するリードイン期間(6ヶ月以上)と、試験薬投与後12週経って第IX因子が増加してから12ヶ月間の全出血(年率)を比較した。結果は、4.43から1.3に71%減少した。Hemgenixの第3相は4.19から1.51に64%減少したので、概ね同程度だ。

治療関連の深刻有害事象は2例(コルチコステロイド使用下の十二指腸潰瘍による出血と免疫調停性肝ALT上昇)発生した。

フィラデルフィア小児病院の研究成果に基づいて13年に設立されたSpark Therapeuticと14年に結んだ提携の成果。Spark社は19年にロシュに買収された。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認申請】


デスモイド腫瘍用薬を承認申請
(2022年12月27日発表)

SpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)は米国でnirogacestatを成人のデスモイド腫瘍用薬として承認申請した。ファイザーからライセンスした選択的ガンマ・セクレターゼ阻害剤で、142人の進行性患者を組み入れて偽薬または150mgを一日二回経口投与した第3相ではPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザード・レシオが0.29、偽薬群のメジアン値は15.1ヶ月、試験薬群は未到達だった。cORR(確認客観的反応率)は各8%と41%。治療時発現有害事象による離脱率は各1%と20%だった。

デスモイド腫瘍は軟組織の良性と悪性の中間の希少腫瘍で、若い女性に比較的多い。試験薬群では再生産年齢の女性の75%で無月経症などの卵巣機能障害が発生した。投与中止11例では全員が、継続14例でも9例が、解消したとのことだが、命を脅かすことは少ない病気なので、便益と危険のバランスが論点になりそうだ。

SpringWorks Therapeuticsは2017年にファイザーの開発品を難病向けに開発する狙いで設立された。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Ardelyx、テナパノルの再承認申請に向けて相談へ
(2022年12月29日発表)

Ardelyx(Nasdaq:ARDX)は20年6月に米国でXphozah(tenapanor)を慢性腎疾患の高リン血症治療薬として承認申請したが、21年7月に審査完了通知を受領した。血清リン濃度低下作用が既存の薬より小さく、臨床的便益が明確でないことが影響した。しかし、今年11月に開催された心臓腎臓学諮問委員会で多数の委員の支持を獲得したこともあり、異議申し立てが成功。承認審査を担当したCRD(心臓腎臓学部門)の上位組織であるOND(新薬局)が、CRDに対してレーベルを協議するよう指示するとともに、同社に対してCRDと再申請の内容を協議するよう推奨した。

CRDに承認するよう指示した訳ではないので今後の見通しは不透明。同社の株価は、21年7月の暴落後の水準を少し上回った程度に留まっている。諮問委員が支持したのは、既存のリン結合剤は忍容しなかったり嫌がる患者が少なくないことが主因なので、でもしかドラッグ(「この薬でも良いかあ、これしか無いもんなあ」)として承認される可能性はありそうだ。

tenapanorはナトリウム水素交換輸送体3阻害剤。12年にアストラゼネカがライセンスしたが15年に返還。17年に協和キリンが日本で導入し、今年10月に製造販売承認を申請した。IBS-C治療薬Ibsrelaとして19年に米国で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


骨化性線維異形成症用薬の承認はお預け
(2022年12月23日発表)

イプセンは米国でpalovaroteneをFOP(進行性骨化性線維異形成症)に伴う異所性骨化を抑制する薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。10月に臨床試験データを追加提出するよう求められたことが関係している模様だが、具体的な論点や指摘事項は明らかではない。

19年に買収したClementia Pharmaceuticalsがロシュからライセンスして開発した経口レチノイン酸受容体(RAR)ガンマ・アゴニスト。開発は波乱万丈で、第3相試験は20年に独立データ監視委員会が中間解析で無益認定したが、元々の解析計画に問題があったらしく、14歳以上の患者に限定して再開、新規異所性骨化体積が自然歴比1/3程度という好ましい結果が出た。一方で、筋骨格の形成が未成熟な患者の27%で骨端線早期閉鎖が発現するリスクも表面化した。

イプセンは21年に承認申請したが、臨床試験データの追加分析や評価を求められ、8月に撤回。22年6月に再申請が受理されたが、再び追加データを要求された。EUでも21年に申請したが、今年6月に照会事項に回答したところ。一方、カナダやUAEでは承認された。

類薬ではロシュのRARアルファ/ベータ/ガンマ・アゴニストRoaccutan(isotretinoin)がニキビ治療薬として用いられていたことがあるが、催奇性や鬱病、自殺思慮・施行などの懸念などから、多くの国で販売中止された。palovaroteneにも同様な懸念があるかどうかは不明。

リンク: イプセンのプレスリリース

【承認】


またまた抗CD20抗体が多発硬化症に承認
(2022年12月28日発表)

TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)はFDAがBriumvi(ublituximab-xiiy)を再発型多発硬化症用薬として承認したと発表した。フコース抑制処理を施した抗CD20キメラ抗体で、近年米国で承認された多発硬化症用薬と同様に、再発寛解型だけでなく初めて発作を経験したclinically isolated syndrome型や活性期二次進行型に用いることも承認された。

第3相試験二本では、再発率がteriflunomide比5~6割低かった。ノバルティスの抗CD20完全ヒト化抗体Kesimpta(ofatumumab)の治験成績とほぼ同じ。用法はロシュの抗CD20ヒト化抗体Ocrevus(ocrelizumab)と類似しておりコルチコステロイドと抗ヒスタミンでプリトリート、2週間おいて二回点滴静注した後は24週毎で足りる。Ocrevusは2~3.5時間かけて点滴静注するが、Briumviは初回は4時間だがその後は1時間と短いのが長所といえば長所だが、類薬よりはっきり良いとは言い難い。。

フランスのLFB Biotechnologiesからフランスとベルギー以外の地域でライセンスしたもの。同社の本命はスイスのRhizen PharmaceuticalsからライセンスしたPI3Kデルタ阻害剤Ukoniq(umbralisib)と併用で慢性リンパ性白血病の治療に充てる用途だったと推測されるが、実薬対照試験でPFS(無進行生存期間)が有意に上回ったものの全生存期間は見劣りし、併用の承認が取れなかっただけでなくUkoniq単剤の加速承認まで返上する事態になってしまった。

リンク: 同社のプレスリリース




今週は以上です。

0 件のコメント:

コメントを投稿