2022年10月30日

第1074回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • TREM-1阻害剤が危機的COVID-19試験で良績 
  • コミナティの市場価格は110~130ドル? 
  • その他の領域: 
  • アルナイラム、薬価規制を恐れて遺伝病臨床試験を見送り 
  • FDAがlurbinectedinの承認を取り消さない理由 
  • アストラゼネカ、乳癌二新薬のデータを発表 
  • ノバルティス、PNH治療薬の第3相が成功 
  • バビースモの静脈閉塞症試験が成功 
  • GSK、抗GM-CSF抗体のリウマチ試験は期待外れの結果に 
  • ファセンラの好酸球性食道炎試験は案外な結果に 
  • 代謝性アシドーシス試験がフェール 
  • CD3・CD20二重特異性抗体を欧米で承認申請 
  • 解離性ステロイドをDMDに承認申請 
  • 抗IL-13抗体をアトピーに承認申請 
  • BMS、心ミオシン阻害剤の適応拡大を申請 
  • マイクロバイオーム療法の承認申請が受理 
  • FDA諮問委員会、透析期腎性貧血にはダプロデュスタットを支持 
  • FDA諮問委員会、Y-mAbsの新薬の承認を支持せず 
  • D型肝炎用薬、米国では承認見送り 
  • BCMAとCD3の二重特異性抗体が米国でも承認 
  • アストラゼネカの抗CTL抗体が承認 
  • リンヴォックがnr-axSpAに適応拡大 
  • EUもJAK阻害剤の適応縮小へ 
  • PRAC、ステラーラに曝露した胎児の出生後生ワクチン接種を警告 



【COVID-19関連】


TREM-1阻害剤が危機的COVID-19試験で良績
(2022年10月25日発表)

フランスのInotrem社は、フランス政府の補助を受けて実施しているLR-12(nangibotide)の第2相危機的COVID-19試験の結果をEuropean Society of Intensive Care Medicineの年次総会で発表した。数値上の延命効果は大変高く、欧米の承認審査機関と今後を相談する考え。

LR-12は免疫細胞が発現するTREM-1(Triggering receptor expressed on myeloid cells 1)の第94-105アミノ酸の合成ペプチド。レガンドに結合してTREM-1が調停する免疫の異常活性化を抑制する。先日、敗血症ショックの後期第2相試験の成功が発表された(数値は未公表)。

今回のESSENTIAL試験はICUに入室し換気補助を受けている患者を組入れて、1mg/kg/時の連続点滴静注を最大5日間施行し、標準療法だけの群と転帰を比較した。当初は730人を組入れる第2/3相試験という位置付けだったが、危機的患者の減少により、目標症例数220人の第2相に衣替えされた。

主評価項目の28日臨床症状(7点序数による評価)はp=0.040と有意な差があった。副次的評価項目の28日死亡は相対リスク削減率が43%でp=0.030、絶対リスク削減率は12%と大きな差があった。

現時点では良く分からない点が多い。小規模な試験なので患者背景に偏りがあるかもしれない。p値は十分に低いとは言えず、この試験一本だけでは心許ない。臨床症状序数を主評価項目とするCOVID-19試験が成功するのは珍しく、死亡率でこんなに大きな差が出ることもあまりない。

リンク: 同社のプレスリリース


コミナティの市場価格は110~130ドル?

COVID-19感染症の脅威が緩和しつつある中、現在は欧米日などの政府が一括購入し国民の負担なしで提供しているワクチンや医薬品の有償化が現実のものになりつつある。米国は連邦議会が予算を認めなかったため、政府在庫が無くなった段階で民間調達に変わる見込みだ。

各種報道によると、ファイザーは、BioNTechと共同開発販売しているCOVID-19ワクチンについて、5倍程度の値上げを検討している模様。現在は、全人類の敵と戦う道義的な観点や、発注量が大きく医療施設などへの配送料がかからずバイアル1瓶に複数回分を纏めていることなどによる費用節減を踏まえて、米国の場合で一回分を20~30ドルで契約しているが、民間向けは110~130ドルとすることを検討している。4価インフルエンザ・ワクチンより1~3割高い。子宮頸癌や髄膜炎の予防用ワクチンよりは安いが、毎年接種することになるだろうから、負担は小さいとは言えない。

米国は公的・民間医療保険が負担する見込みだが、ワクチンを重視していない国では自己負担率3割として4000~6000円、プラス診療報酬、そして場合によっては保険証のマイナンバーカード統合に伴う上乗せを自己負担することになる。

モデルナは、9月の投資家向けプレゼンテーション・ミーティングで、民間向け価格を64~100ドルと前提して市場規模を試算していた。Comirnatyのほうが高いが、二社分の利益を稼がなければならないお家の事情があるようだ。実際は、コミナティが120ドルならスパイクバックスも120ドルに設定されるだろう。


【今週の話題】


アルナイラム、薬価規制を恐れて遺伝病臨床試験を見送り
(2022年10月27日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、2022年第3四半期決算発表会で、年内に開始する予定だったAmvuttra(vutrisiran)の第3相スタルガルト病適応拡大試験を見送ると発表した。理由は米国でInflation Reduction Act(IRA:インフレ抑制法)が成立したこと。2026年以降、メディケアが支出金額上位の処方薬に関してメーカーと価格交渉を行うことが決まったが、適応が一つの希少疾患だけである薬は対象外であるため、適応拡大しないほうが有利になる。

Amvuttraはトランスサイレチン型家族性アミロイドーシス(hATTR)患者のポリニューロパチーを治療するRNA介入薬。今年6~9月の間に米日欧で承認された。遺伝性ではないATTRアミロイドーシスも含む心筋症治療試験が進行中で24年始めに成否が判明する見込み。成功すれば対象患者数が5倍増することになる。それでも世界で25万人程度と希少疾患であることに変わりはない。

スタルガルト病は黄斑ジストロフィーの一種で失明のリスクがある。多くの場合、網膜の黄斑が強い光を受けた時に生じる有害代謝物の移送に必要なABCA4が欠乏する、常染色体性劣性遺伝がある。こちらも希少疾患だ。

米国で年46万ドルと、希少疾患用薬なので超高価だが、適応拡大しても例えばPD-1/PD-L1阻害剤やTNF阻害剤ほど超大型化するようには思えない。おそらく、薬価規制を強化するなら研究開発を縮小するぞと抗議するのが狙いなのだろう。

何れにせよ、この会社が難病で苦しむ人よりも自社の将来の利益を最優先していることが明確になった。

リンク: 同社のプレスリリース


FDAがlurbinectedinの承認を取り消さない理由
(2022年10月25日発表)

加速承認された薬の市販後薬効確認試験がフェールする事例が増えており、FDAは、特に抗癌剤について、メーカーに承認返上を促すなど対応を強化している。そんな中、FDAがZepzelca(lurbinectedin)の加速承認取消しを求めた市民請願を却下したことが明らかになった。請願したFoley Hoag, LLPに対する最終回答書が公開されたため。理由も記されており、FDAが即時退場のラインをどこに置いているのか、推測する上で参考になる。

ZepzelcaはスペインのPharmaMar(Madrid:PHM)が創製したポリメラーゼII阻害剤。日本では大鵬薬品が販売しているYondelis(trabectedin)の誘導品だ。Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)が米国における開発販売権を取得、20年6月に、第2相試験のcORR(確認客観的反応率)に基づき、白金薬歴を持つ転移小細胞性肺癌用薬として加速承認を取得した。

加速承認の場合、市販後に改めて薬効確認試験を行い、延命またはそれに準じる効果を確認する必要があるが、承認されている用途・用法で偽薬対照試験を行うのは医療倫理に反する可能性があり、そもそも、被験者が集まらない。このため、かっては新興企業を中心に責務を果たさない『加速承認の食い逃げ』が散見された。対策として、FDAの腫瘍学薬担当部門は、加速承認の段階で薬効確認試験の組入れが5割以上完了していることを求めるようになった。その結果、食い逃げは減ったが、治験がフェールしても承認を返上しない『居座り』が散見されるようになった。

Zepzelcaの事例では、小細胞性肺癌二次治療doxorubicin併用実薬対照試験が実施されたが、全生存期間のハザードレシオが0.967と、CAV三剤併用レジメン又はtopotecan単剤を用いた対照群と有意な差がなかった。

しかし、FDAは、メーカーに承認返上を求めず、別の試験の結果が25年頃に判明するのを待つ姿勢を示した。理由は、加速承認されている用量用法(3.2mg/m2を3週毎に単剤投与)とは異なる、2mg/m2を3週毎にdoxorubicinと併用投与をテストしていること。フェールしたのは用量が足りなかったのかもしれないし、doxorubicinの毒性が治療の妨げになった可能性も考えられる。

だが、このような違いは市販後薬効確認試験ではごく一般的であり、成功すれば、用量用法が追加承認されるとともに、加速承認が本承認に切り替わる。フェールした時だけ違いを主張するのは片面的な印象だ。

尤も、今回の試験は実薬対照試験である。非劣性試験ではないので効果が確立したとは言えないが、ダメダメのようには見えない。また、新たな市販後薬効確認試験は3.2mg/m2単剤群と2.0mg/m2とirinotecanの併用群を標準療法と比較しており、加速承認の内容を直接検証することができる。結果が判明するのは3年後だが、加速承認の5年後というタイムスパンは特に遅いわけではないだろう。

結局のところ、加速承認返上が直ぐ求められるか否かは、メーカー側の意欲や誠意にも依るのだろう。

リンク: FDAのFoley Hoag, LLPに対する最終回答


【新薬開発】


アストラゼネカ、乳癌二新薬のデータを発表
(2022年10月26日発表)

アストラゼネカは、乳癌用薬として開発しているAKT阻害剤の第3相試験と、SERD(選択的エストロゲン受容体零落剤)の第2相直接比較試験の成功を発表した。主評価項目はPFS(無進行生存期間、治験医評価)なので、一抹の不安もあるが、遅かれ早かれ全生存期間も明らかになるだろう。

AZD5363(capivasertib)は05年にAstex(現在は大塚製薬グループ)などと締結したATKを標的とする創薬開発販売提携の成果。エストロゲン受容体陽性転移性乳癌の5割程度で異常活性化しているPI3K/AKT/PTEN経路に介入する。PI3K阻害剤は既に実用化されているが、川下のAKTを阻害したほうが副作用が小さくなる可能性もあるようだ。それでも反復投与に懸念があるのか、一日二回経口投与を4日続けて3日休む週休三日制が採用されている。

複数の第3相が進行しているが、今回、CAPItello-291試験のトップラインが判明した。局所進行性または転移性のホルモン受容体陽性、her2陰性乳癌で、アロマターゼ阻害剤歴を持つ患者を組入れて、SERDのFaslodex(fulvestrant)に追加する効果を偽薬追加と比較した。主評価項目は全集団のPFSと、被験者の4割を占めるよう組入れたPI3KCA/AKT1/PTENに特定の変異を持つサブグループのPFS。全生存期間は未成熟だが好ましい数値が出ているようだ。どちらも数値は未公表。

AZD5363は前立腺癌でも第3相試験中。

AZD9833(camizestrant)は次世代SERD。経口投与できる。第3相は乳癌一次治療CDK阻害剤併用試験や、アロマターゼ阻害剤とCDK阻害剤による一次治療を受けていて進行はしていないがESR1変異が生じた患者のスイッチ試験が進行中。今回の第2相SERENA-2試験は閉経後エストロゲン受容体陽性局所進行/転移乳癌で進行転移後に内分泌薬歴を持つ患者を組入れてPFSをFaslodexと比較した。統計的にも臨床的にも有意に上回ったとのことで、次世代品という呼び名が誇張ではない可能性を示唆した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース(CAPItello-291試験)
リンク: 同(SERENA-2試験)


ノバルティス、PNH治療薬の第3相が成功
(2022年10月24日発表)

ノバルティスは、LNP023(iptacopan)の第3相発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療試験が成功したと発表した。もう一本の結果を待って23年に承認申請する考え。

PNHの治療はC5補因子に対するアレクシオン・ファーマシューティカルズの抗体医薬、Soliris(eculizumab)とUltomiris(ravulizumab)が用いられている。LNP023は血液凝固カスケードでC5より上流で機能する補因子Bを阻害する。

今回のAPPLY-PNH試験は抗C5抗体に十分応答しない成人患者97人をLNP023群(200mgを一日二回、経口投与)と抗C5抗体継続群に8対5無作為化割付して非盲検下でヘモグロビン値の変化を比較した。主評価項目は24週後の二種類の奏効率。一つはヘモグロビン値が2g/dL以上上昇かつ輸血無し、もう一つは12g/dL以上で持続的に推移し輸血無しを奏効と定義した。データは未公表。安全性は良好だった模様。

今回は言わば二次治療試験だが、初めて薬物治療を受ける患者の第3相単群試験、APPOINT-PNHも進行中。15年の市販歴を持つ抗C5抗体の一次治療におけるシェアを奪うためには直接比較試験にしたほうが良いが、経口剤なので、需要はあるだろう。

抗C5抗体は多くの適応を持つ。LNP023もC3糸球体症やIgA腎症、溶血性尿毒症症候群の第3相が進行中。

リンク: 同社のプレスリリース


バビースモの静脈閉塞症試験が成功
(2022年10月27日発表)

ロシュはVabysmo(faricimab)の第3相網膜中心静脈閉塞症黄斑浮腫試験と網膜静脈分岐閉塞症試験が成功したと発表した。網膜浮腫の治療効果がリジェネロン/サノフィのEylea(aflibercept)と非劣性だった。適応拡大申請する予定。

Angiopoietin-2とVEGF-Aに結合する二重特異性抗体で、22年に米日欧で糖尿病性黄斑浮腫と血管新生加齢黄斑変性の治療薬として承認された。米国の承認用法は月一回、硝子体注射して、5回目からは網膜の状態に応じて1~4ヶ月に一回投与するというもので、VEGFだけに結合する薬より回数が少なくて済む可能性がある。

今回の試験は両群とも月一回投与なので、これだけではVabysmoの長所が感じられない。

リンク: ロシュのプレスリリース


GSK、抗GM-CSF抗体のリウマチ試験は期待外れの結果に
(2022年10月27日発表)

GSKはGSK3196165(otilimab)の第3相試験三本のうち二本が成功したが期待したほどではなかったことを明らかにした。承認申請は見送る。

13年にドイツのMorphoSys(FSE:MOR)からライセンスした、GM-CSFに結合するHuCAL抗体。第3相は中重度リウマチ性関節炎のうちMTXに応答不十分/不耐を対象とするContRAst-1試験と伝統的治療薬またはバイオ薬に応答不十分/不耐のContRAst-2試験、そしてバイオ薬やJAK阻害剤に応答不十分/不耐のContRAst-3試験で、90mgあるいは150mgを週一回皮下注する効果を偽薬と比較した。最初の二本は主目的である第12週ACR-20を達成したが、おそらく、ファイザーのJAK阻害剤Xeljanz(tofacitinib)を投与した群やサノフィの抗IL-6受容体アルファ抗体Kevzara(sarilumab)を投与した群と見比べて有望ではなかったのだろう。また、新薬の一番の出番であるバイオ薬/JAK阻害剤応答不十分/不耐に効果が見られなかったことも痛い。

リンク: 同社のプレスリリース


ファセンラの好酸球性食道炎試験は案外な結果に
(2022年10月25日発表)

アストラゼネカはFasenra(benralizumab)の第3相好酸球性食道炎試験、MESSINAの成否を公表した。共同主評価項目のうち、患部における好酸球数を抑制する効果は確認されたが、おそらく一番重要な、嚥下障害を改善する効果は確認されなかった。

協和キリンのBioWaからライセンスした抗IL-5受容体アルファ鎖ポテリジェント抗体で、17~18年に米日欧で重度好酸球型喘息症治療薬として承認された。GSKの、受容体ではなくIL-5を標的とするNucala(mepolizumab)と似ているが、適応拡大にてこずっている印象があり、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(Nucalaの適応の一つ)は承認申請に到達したが、今年3月にFDAから審査完了通知を受領した。

今回の試験は12歳以上の症候性患者210人を組入れて30mgを4週毎に24週間、皮注する効果を偽薬と比較した。病理学的寛解率(顕微鏡生検でピーク時好酸球数が高倍率視野当り6個以下だった患者の比率)は偽薬を有意に上回ったが、食道炎の主訴の一つである嚥下障害症状(患者自身が評価)はフェールした。

この用途はNucalaは承認されていない。リジェネロン・ファーマシューティカルズの抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体、Dupixent(dupilumab)に任せることになる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


代謝性アシドーシス試験がフェール
(2022年10月24日発表)

Tricida(Nasdaq:TCDA)は、TRC101(veverimer)の第3相代謝性アシドーシス試験がフェールしたと発表した。資金不足により繰上げ完了された経緯があるが、検出力の問題ではなく点推定値自体が偽薬と大差なかった。

最初の第3相試験で血中重炭酸値が偽薬比有意に減少し、身体機能も有意に改善したことから、同社は19年に加速承認を求めたが、FDAは臨床的便益が確立していないことや海外データの外挿性などに疑問を持ち、審査完了通知を発出した。同社は腎臓死・透析期腎疾患・EGFR40%低下の複合評価項目を主目的とするVALOR-CKD試験をロンチしたが、ハザードレシオ0.99、26.7ヶ月の追跡期間中の発生率が年9.9%(偽薬群は同9.8%)と、フェールした。

偽薬群も血中重炭酸値が改善した模様。結局、加速承認の根拠となり得るようなサロゲート・マーカーではないということなのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


CD3・CD20二重特異性抗体を欧米で承認申請
(2022年10月28日発表)

アッヴィはジェンマブが創製したDuoBody-CD3xCD20(epcoritamab)を欧州で承認申請し受理されたこと、及び、米国ではジェンマブが承認申請したことを発表した。難治再発大細胞型B細胞リンパ腫(欧州はこのうちびまん性のもの)の3次以降の治療に用いる。

第2相試験でメジアン3治療歴を持つ大細胞型B細胞リンパ腫157人に投与したところ、cORR(確認客観的反応率、独立評価委員会方式)が63.1%、完全反応率は39%、メジアン反応持続期間は12ヶ月だった。G3サイトカイン放出症候群の発生率は2.5%、G4やG5は発生しなかった。治療関連有害事象による死亡は1例(クラス・イフェクトである免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群によるもの)。

両社のすみわけは、日米は共同、それ以外はアッヴィが開発販売する。

リンク: アッヴィのプレスリリース


解離性ステロイドをDMDに承認申請
(2022年10月27日発表)

スイスのSanthera Pharmaceuticals(SIX:SANN)と米国のReveraGen BioPharmaは、vamoroloneをデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として欧米で承認申請したことを明らかにした。米国はローリング承認申請を完了。欧州は9月に申請していた。

DMDの治療ではしばしばステロイドが用いられる。vamoroloneはReveraGenからライセンスした解離性ステロイドで筋骨格系副作用が小さいとされる。

欧州の歩行可能な少年121人(平均年齢5歳)を組入れで24週間治療し仰向けから起立するまでの時間を検査した後期第2相試験では、6mg/kg/日投与群が6.0秒から4.6秒に改善した一方、偽薬群は5.4秒から5.5秒とほとんど変わらなかった。治療効果は0.06起立/秒、p=0.002だった。副次的評価項目である2mg/kg/日群の治療効果も0.04起立/秒、p=0.017。あまりピンとこないが、見慣れた評価指標である6分歩行テストでは各用量の治療効果が42メートル(p=0.003)と37メートル(p=0.009)だった。

リンク: 両社のプレスリリース


抗IL-13抗体をアトピーに承認申請
(2022年10月28日発表)

スペインのAlmirallは、lebrikizumabをEMA(欧州薬品庁)に中重度アトピー性皮膚炎用薬として承認申請したと発表した。12歳以上の患者に2週毎皮下注した第3相試験二本で、16週EASI75達成率が一本では59%(偽薬群は16%)、もう一本では51%(同18%)だった。共同主評価項目のIGA奏効率も各43%(13%)と33%(11%)。有害事象は結膜炎が若干増加したのが特徴的。

ジェネンテックが創製した抗IL-13抗体。喘息症で第3相に進んだが増悪抑制効果が不十分で開発を中止し、17年にDermira(20年にイーライリリーが買収)に導出、Almirallは欧州における開発販売権をサブライセンスした。

リンク: 同社のプレスリリース


BMS、心ミオシン阻害剤の適応拡大を申請
(2022年10月21日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブはCamzyos(mavacamten)を閉塞性肥大性心筋症(oHCM)患者におけるSRT(中隔縮小治療)代替的治療法として米国で適応拡大申請し受理されたと発表した。審査期限は来年6月16日。

今年4月に米国で成人のNYHAクラスII-IIIのoHCM治療薬として承認された、心臓ミオシン選択的可逆的アロステリック・インヒビターで、エビデンスとなるEXPLORER-HCM試験ではNYHA分類の改善且つ又心肺運動負荷試験の成績の改善が見られた。

今回のエビデンスは第3相VALOR-HCM試験。米国で年1500件施行される、心筋切除/エタノール焼灼術が適応になるまたは本人が望んだoHCM患者112人を組入れて、治療にも関わらずSRTが決定した、あるいは16週経過時点でも適応外にならなかった患者の比率を偽薬と比較したところ、各群18%と77%となり有意な差があった。但し、差があったのは専ら、適応外にならなかった患者の比率であることに留意したい。副次的評価項目のNYHA機能分類改善でも有意な差があった。

この薬は左心駆出率が一時的に低下することがあり、用量漸増だけでなく小まめな調整が必要。本試験でも試験薬群で2名が50%未満に低下、用量調整した。

リンク: 同社のプレスリリース


マイクロバイオーム療法の承認申請が受理
(2022年月日発表)

Seres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)はSER-109の承認申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は23年4月26日。ネスレ・グループのAImmune Therapeuticsが販売する予定。

健常者ドナーの腸から採取したファーミキューテス門(Firmicutes)細菌の芽胞を精製、エタノール処理して経口カプセル化した、マイクロバイオーム(微生物叢)療法。難治性クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)を抗生剤で治療した後に、再燃予防目的で一日一回、3日間投与する。

第3相のECOSPOR III試験では、8週間内に再燃した患者の比率が12%と偽薬群の40%を大きく下回った。24週間追跡でも各21%と47%だった。深刻有害事象発生率は各7.8%と16.3%と数値上少なかった。試験薬群では投与の15~164日後に3人(3%強)が膠芽腫、血腫、敗血症により死亡したが、試験薬との関連はないと判定された。偽薬群の死亡はゼロだった。

安全性データを充実させるために実施されたECOSPOR IV単群試験では、8週内再燃比率が8.7%だった。フェールした第2相と同様にPCRに基づくCDAI診断を認めていたはずだが、遺伝子ではなく生きた細菌が分泌する毒素の検査に基づきスクリーニングしたECOSPOR III試験と大差ない数値になっている。安全性に関しては、ACG(米国消化器病学会)年次会議の抄録によると、治療時発現深刻有害事象の発生率は7.6%、死亡は6人(2.3%)だったが、いずれも試験薬との関連は無いと判定された。

似たような薬では、スイスのFerring Pharmaceuticalsが18年に子会社化したRebiotixの糞便移植療法、Rebyotaが9月に諮問委員会の支持を受けた。承認申請は昨年11月なのでこちらが先に承認されるかもしれない。臨床試験の主評価項目は奏効率(8週間に亘りCDIによる下痢が発生しない)でSER-109と異なるが、70%と偽薬群の58%を上回った。この試験でも死亡者が18人と偽薬群のゼロを上回った。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、透析期腎性貧血にはダプロデュスタットを支持
(2022年10月27日発表)

HIF-PH阻害剤は日本や欧州で腎性貧血治療薬として承認されているが、FDAは安全性に懸念を持っており承認していない。GSKのGSK1278863(daprodustat)も日本では20年に透析期又は保存期の腎性貧血症治療薬として承認されたが、欧米は申請が2年以上遅れ、まだ審査中だ。FDAが心臓腎臓薬諮問委員会に意見を求めたところ、透析依存患者については16人中13人が便益や危険を上回ると判定したが、非透析依存患者に関しては5人だけで残りは全員、上回るとは言えないと回答した。

標準療法である赤血球造血刺激因子製剤(ESA)は静注用なので経口剤であるHIF-PH阻害剤のほうが簡便だが、透析を受けている患者は一緒に投与できるので大きな支障はなく、どちらかと言えば保存期患者向きだろう。諮問委員会が透析患者のみ支持したのは、市場性とミスマッチだ。

ボトルネックとなったのは二点。心血管安全性確認試験ではESA比でリスクもヘモグロビン矯正効果も非劣性だったが、心不全入院や胃出血が数値上増加した。非透析患者を組入れた試験では、更に、一部の心血管疾患や急性腎障害が増加する兆しが見られ、特に、米国施設のデータが良好とは言えなかった。

データを見ても酷いとは感じないが、ESA自体がリスクを持っているので、それを更に上回る可能性が否定できないことをFDAや諮問委員は懸念しているのだろう。だが、もしそうなら、どのようなメカニズムで保存期患者に害を与え透析期患者には問題ないのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


FDA諮問委員会、Y-mAbsの新薬の承認を支持せず
(2022年10月28日発表)

FDA腫瘍学薬諮問委員会は、Y-mAbs Therapeutics(Nasdaq:YMAB)が神経芽腫の中枢神経転移治療薬として承認申請したI-131標識抗B7-H3マウス抗体、8H9(omburtamab)を検討、16人の委員全員が薬効の挙証不十分と判定した。FDAの見解が追認されたため、審査期限である11月30日までに、審査完了通知が発出される可能性が高い。

難病小児の親が新薬を探して承認まで漕ぎ着いた事例はJohn Crowley(アミカスセラピューティクス会長兼CEO)が有名だが、Y-mAbsの会長兼創業者兼社長のThomas Gadの令嬢も、2歳で神経芽腫と診断されて以来、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)が開発していた抗GD2抗体や再発後にはomburtamabの投与で十年経った今も良好な健康状態にあるとのことだ。Y-mAbsは2020年に前者の改良版であるDanyelza(naxitamab-gqgk)の承認を取得。今年3月には8H9の承認申請を断行した。

しかし、FDAは初めから承認申請に後ろ向きだった。エビデンスがMSKCCにおける第1相試験のみで、延命効果はドイツの患者登録との事後的比較に基づく。転移治療なので手術や放射線療法、化学療法を受けた患者が多いが、年代や地域が異なるせいか、事前治療の集中度に偏りがあり、FDAがそれを調整して分析したところ、ハザードレシオは1.02で有意ではなかった。また、ORR(客観的反応率)が評価対象ではなかったため、事前治療の効果と分別することができない。

小児癌や脳腫瘍では今日でも偽薬対照ではない試験が多いが、その分、ノイズを除去し厳格かつ多面的に評価する必要性を示す、反面教師になってしまった。

リンク: 同社のプレスリリース


D型肝炎用薬、米国では承認見送り
(2022年月日発表)

ギリアド・サイエンシズは、22年第3四半期決算発表会で、Hepcludex(bulevirtide)の審査完了通知をFDAから受領したことを明らかにした。成人の代償性デルタ型慢性肝炎の治療薬として承認申請していたが、生産体制や薬剤のデリバリーに関する指摘を受けた。追加臨床試験は不要な模様であり、速やかに対応する考え。

NTCP(ナトリウム・タウロコール酸共輸送体ポリペプチド)阻害剤で、D型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスが幹細胞のNTCPに結合し細胞内に侵入するのを妨げる。24時間毎に皮注する。21年にドイツのMyr社を買収して入手した。EUでは20年7月に条件付き承認されており、米国でも早晩承認されるのではないか。

リンク: 22Q3決算発表会における口述(6-7ページに記載)

【承認】


BCMAとCD3の二重特異性抗体が米国でも承認
(2022年10月25日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Biotechが申請したTecvayli(teclistamab-cqyv)を加速承認した。難治/再発多発骨髄腫用薬で、プロテアソーム阻害剤と免疫調節剤及び抗CD38抗体を含む4次以上の治療歴のある患者が適応になる。欧州では8月に承認されたが、対象は、エビデンスとなる臨床試験の組入れ条件と同じ、3次以上の治療歴を持つ患者だった。FDAが適応を絞ったのは、薬効解析対象110人のうち78%は4次以上の治療歴を持ち、メジアン値は5次だったためだろう。同社のCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)も、日欧では3次治療歴以上だが米国では4次治療歴以上となっている。

Tecvayliは癌化した形質細胞のBCMAに結合する部位とT細胞のCD3に結合する部位を持つ二重特異性抗体。上記110人におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)は61.8%、反応者の90.6%は6ヶ月以上持続した。CarvyktiはBCMAに結合する部位をT細胞に導入したCAR-T療法で、似ている。Tecvayliの特徴は、患者のT細胞を採取して処理するための準備期間が不要なこと、反応率は見劣りすること、但し重度のサイトカイン放出症候群や神経学的毒性が少ないこと。

リンク: FDAのプレスリリース


アストラゼネカの抗CTLA4抗体が承認
(2022年10月24日発表)

アストラゼネカは、FDAがImjudo(tremelimumab-actl)とImfinzi(durvalumab)を併用で成人の切除不能肝細胞腫の一次治療に用いることを承認したと発表した。前者はブリストル マイヤーズ・スクイブのYervoy(ipilimumab)と類似したCTLA4に結合する抗体で、非小細胞性肺癌の一次治療Imfinzi併用が先に申請されたが、優先審査バウチャーを用いた今回の適応が初承認となった。

第3相HIMALAYA試験ではImjudoを一回だけ300mg点滴静注、Imfinziは1500mgを4週毎点滴静注したところ、全生存期間がsorfenib群を有意に上回った。ハザードレシオは0.78、メジアン生存期間は各16.4ヶ月と13.8ヶ月、3年生存率は31%と20%だった。この試験ではImfinziだけの群も設定されたが、sorafenib比ハザードレシオ0.86で非劣性だった。尚、少なくとも現時点でImfinzi単剤は承認されていない。

肝細胞腫一次治療はロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevcizumb)の併用も承認されている。sorafenib対照試験の全生存ハザードレシオは0.58だった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


リンヴォックがnr-axSpAに適応拡大
(2022年10月21日発表)

アッヴィは、FDAがRinvoq(upadacitinib)をnr-axSpA(X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の成人の治療に用いることを承認したと発表した。FDAはJAK阻害剤の副作用に懸念を持っており、他の多くの適応と同様に、TNF阻害剤に十分に反応しないまたは不耐の患者だけが対象。EUでは非ステロイド抗炎症薬に反応不十分な患者にも承認されている。日本でも適応拡大申請中。

Rinvoqは一部のリウマチ性関節炎、乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎、強直性脊髄炎、そしてアトピー性皮膚炎にも承認されている

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUもJAK阻害剤の適応縮小へ
(2022年10月28日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAの市販後監視委員会、PRACは、リウマチ性関節炎などの治療に用いられているJAK阻害剤5品について、心血管疾患や血栓、腫瘍、深刻感染症の副作用を抑制するための処方制限を勧告した。CHMP(医薬品科学的評価委員会)の検討を経て添付文書に反映される見込み。

内容は、65歳以上の患者、心血管疾患や癌のリスク因子を持っている人、喫煙者や長期喫煙歴のある人は、代替的治療が無い場合にしか使わない。また静脈血栓塞栓リスクのある人には、注意が必要。使う場合は、用量を減らす。

対象は、ファイザーのXeljanz(tofacitinib)とCibinqo(abrocitinib)、ガラパゴス(Euronext: GLPG)/ギリアド・サイエンシズのJyseleca(filgotinib)、イーライリリーのOlumiant(baricitinib)、アッヴィのRinvoq(upadacitinib)。骨髄線維症などの治療に用いられているノバルティスのJakavi(ruxolitinib)やセルジーンのInrebic(fedratinib)は対象外。また、OlumiantをCOVID-19感染症の治療に一時的投与する場合も対象外。

添付文書改訂の動機は、Xeljanzの市販後安全性確認試験と、Olumiantの市販後観察的試験。FDAと同様に、PRACもJAK阻害剤のクラス・イフェクトと判定した。但し、FDAが患者背景を問わずバイオ薬不適に限定しているのと比べると、緩やかな規制に留まっている。

リンク: EMAのプレスリリース


PRAC、ステラーラに曝露した胎児の出生後生ワクチン接種を警告
(2022年10月28日発表)

乾癬や乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎の治療薬であるJanssen-CilagのStelara(ustekinumab)は胎盤を通過するため妊娠中は使用しないほうが良い。PRACは、新たに、曝露した胎児について、出生後6ヶ月間は生ワクチンの接種を行わないよう添付文書で警告するよう勧告した。明らかに必要な場合は、薬剤の血清濃度が探知不能であれば6ヶ月前でも接種可能。

エビデンスは欧州やカナダ、米国などでの観察的研究やメーカー側データである模様。

リンク: 10月のPRAC会合に関するプレスリリース






今週は以上です。

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