2022年10月2日

第1070回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ゾコーバの第3相が成功 
  • BioNTech/ファイザー、二価ワクチンを5~11歳にも申請 
  • その他の領域: 
  • レカネマブの早期アルツハイマー病試験が成功 
  • ロフルミラストの頭体部乾癬試験が成功 
  • 週2回皮注型短腸症候群用薬の第3相が成功 
  • OCAのNASH肝硬変試験はフェール 
  • ミエロペルオキシダーゼ阻害剤のALS試験が打ち切りに 
  • DMDの遺伝子療法を承認申請 
  • バイオマリン、A型血友病の遺伝子療法を再申請 
  • 活性化PI3Kデルタ症候群用薬を承認申請 
  • FDA、大鵬の胆管癌用薬を承認 
  • FDAがALS治療薬を承認 
  • デュピクセントが結節性痒疹に適応拡大 
  • エイベリス点眼液が米国でも承認 
  • リムパーザの4次治療データ 
  • PRAC、terlipressinのリスク対策を発表 



【COVID-19関連】


ゾコーバの第3相が成功
(2022年9月28日発表)

塩野義製薬は、日韓ベトナムの施設で実施したS-217622(エンシトレルビル フマル酸、和名ゾコーバ)の第2/3相COVID-19試験の第3相部分が成功したと発表した。オミクロン株流行期に、COVID-19治療薬としては初めて、罹病期間短縮効果を示した。海外でもACTIV-2d/SCORPIO-HR試験が進行中。

ファイザーのPaxlovid(nirmatrelvirとritonavirを同梱、和名パキロビッド)と同様に、SARS-Cov-2の複製に必要な3CL蛋白分解酵素を阻害する経口剤で、北海道大学発。第3相部分の特徴は、ワクチン接種の有無を問わず、Paxlovidなどが適応にならないリスク因子を持たない患者も組入れていること。軽症・中等症の1821人を偽薬、低用量、高用量の3群に無作為化割付して、一日一回、5日間投与した。先行二品の第3相は重症化リスクを主評価項目としており、罹病期間短縮作用は確認されていないが、塩野義はオミクロン株に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、疲労感)が消失するまでの期間という、インフルエンザ治療薬と類似した分かりやすい指標を採用した。

結果は、承認申請中の低用量群が偽薬比有意に短かった。メジアン値は167.9時間(約7日)、偽薬群は192.2時間(約8日)で、ほぼ1日早かった。インフルエンザ薬の治療効果も同程度だ(罹患期間が短いので短縮率で見ると見劣りするが)。

留意点は、この分析は発症から72時間以内に割付けられた患者のサブグループ分析であるような書きぶりであること。上記1821人が全集団の数値であった場合、このサブグループのサンプルサイズはもっと小さくなる。また、現実の医療では発症→ウイルス検査→結果判明まで数日かかかるため、72時間以内に投与できないことも多いだろう。72時間超だと無効なのか、データを知りたいものだ。

同薬は後期第2相試験に基づき日本で2月に承認申請されたが、この段階では罹患期間短縮効果が見られなかったことや、薬物相互作用(Paxlovidも同じ)や催奇性(MSDのLagevrio<molnupiravir>も同じ)などから、承認が見送られた。事後的分析で一部の症状には効果が見られたため、今回、評価症状を絞り込んで前向きに確認した。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


BioNTech/ファイザー、二価ワクチンを5~11歳にも申請
(2022年9月26日発表)

BioNTechとファイザーは、オミクロンBA.1とBA.4/BA.5に適合したCOVID-19二価ワクチンを5~11歳のブースターに用いるEUA(非常時使用認可)をFDAに行った。10mcgを一回筋注する。12歳以上の申請と同様に、5~11歳を対象とする臨床試験は第1/2/3試験のサブスタディDとして着手されたばかりで、エビデンスは限定的。

両社は4歳以下の治験計画についても開示した。6~23ヶ月児の初回免疫はサブスタディAの第1相ポーションで3mcg、6mcg、10mcgから至適用量を決定し、第2/3相ポーションで3回接種とブースター接種をテストする。6ヶ月以上4歳以下で一価ワクチンを2回または3回接種した幼児はサブスタディBで3mcgで通算4回まで接種する。並行して、サブスタディCで3回接種済を対象に6mcgや10mcgを検討する。

リンク: 両社のプレスリリース

【新薬開発】


レカネマブの早期アルツハイマー病試験が成功
(2022年9月27日発表)

エーザイとバイオジェンは、BAN2401(lecanemab)の第3相CLARITY AD試験が成功、主目的と主要な副次的評価項目を達成したことを明らかにした。症状評価スコアの悪化を偽薬比有意に抑制した。米国で加速承認を申請中だが、今回のデータで来年3月までに本承認も申請し、日欧でも申請する考え。治療効果は議論の余地がありそうだが、両社の収益には貢献しそうだ。

スエーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンス社からライセンスした抗アミロイド・ベータ抗体で、抗アミロイド・ベータ抗体の泣き所であるARIA(アミロイド関連画像異常:浮腫や出血)の発生率が比較的低い。早期アルツハイマー病(eAD:アルツハイマー性軽度認知障害または軽度アルツハイマー病)の治療薬として上記二社が共同開発している。後期第2相でアミロイド蓄積が減少することを確認、今年5月に加速承認を申請した。審査期限は23年1月6日。

第3相は脳にアミロイド蓄積が確認されたeAD患者1795人を組入れて10mg/kgを2週毎に点滴静注する効果を18ヶ月に亘り偽薬と比較した。主評価項目はCDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)。悪化は偽薬比27%小さかった。群間差は0.45、p=0.00005。6ヶ月経過時点から有意差が見られた由。

副次的評価項目ではアミロイド量、ADAS-cog14、ADCS MCI-ADLなどの解析が成功した。有害事象ではARIAが患者の21.3%で発生(偽薬群は9.3%)、ARIAによる症候性浮腫の発生率は2.8%(同0.0%)、症候性出血は0.7%(同0.2%)だった。

さて、統計的に有意であることはデータが真実に近いことを示唆し承認を取得する上で極めて重要だが、患者にとっては治療効果の多寡や費用も最重要事項だ。CDR-SBの上昇が18ヶ月間で0.45小さいことは、どの程度重要なのか?

CDRは記憶力や社会活動力、介護など6項目について、障害の度合を0(障害)、0.5(軽いまたは疑い)、1(軽度)、2(中等度)、3(重度)の5段階で評価する(但し介護のみ0.5がない)。合計値がCDR-SBで0から18の範囲。早期ADは点数が低く、lecanemabの後期第2相のベースライン平均値は2.9、Aduhelm(aducanumab)の第3相EMERGE試験では2.5(高用量の治療効果は0.39)だった。CLARITY AD試験の偽薬群の平均低下幅がEMERGE試験と同じ1.7だったとすると、試験薬群は1.25となる。

ベースライン時点で介護以外の5項目全てが「軽いまたは疑い」の患者をモデルとして考えると、偽薬群は18ヶ月後に3~4項目が「軽度」に悪化するが試験薬群は2~3項目に留まるイメージだ。また、何もしなければ18ヶ月間に1.7進むところを1.25で済むということは、13ヶ月分しか進行しない、つまり、進行を5ヶ月分遅らせる計算になる。効果が高いと言えないこともないが進行することに変わりないとも言える。

アセチルコリン還元酵素阻害剤は軽度以上の患者が適応だが、モデル的には、症状が半年前の状態に改善し、そこからまた悪化し始める。少なくとも短期的には既存薬のほうがインパクトが大きい。

長期的にはどうか?アセチルコリン還元酵素阻害剤は効かなくなったら止めるべきとの意見があるが、効果の有無を判別するのは難しく、また、本当に止めてもいいのか明確なエビデンスはない。英国で研究者主導試験が行われたが、メーカーの協力が得られなかったことなどから、計画通りには進まなかった。lecanemabも長期的な効用は曖昧なままだろう。

今回の試験結果は11月29日にCTAC(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表される予定。APOE4陽性/陰性やMCI/軽度AD別のサブグループ分析や、ADAS-cog14などにおける治療効果の多寡、オピニオン・リーダーの評価などが注目される。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)


ロフルミラストの頭体部乾癬試験が成功
(2022年9月26日発表)

Arcutis Biotherapeutics(Naasdaq:ARQT)はPDE4阻害剤roflumilastのフォーム製剤を用いた第3相頭部体部乾癬試験、ARRECTORが成功したと発表した。一日一回塗布を8週続けたところ、頭部と体部の奏効率が偽薬を有意に上回った。同社はroflumilastクリーム製剤のZoryveを7月に米国で発売した。次のターゲットがフォーム製剤の脂漏性皮膚炎用途で23年第1四半期に承認申請する計画。乾癬患者の4割で見られる頭部乾癬用途はその後になる。

今回の試験の共同主評価項目はS-IGA(Scalp-Investigator Global Assessment)奏効率とB-IGA(Body-Investigator Global Assessment)奏効率。前者は67.3%(対照群は28.1%)、後者は46.5%(同20.8%)だった。痒みなどを評価した副次的評価項目もすべて成功した。治療時発現有害事象の発生率は両群大差なく、有害事象治験離脱率は2.5%(同1.3%)に留まった。

roflumilastはアルタナがCOPDでPOCに成功、化学事業を売却し薬品事業に特化する戦略を打ち出したが、180度方向転換。薬品事業を買収したナイコメッドが11~12年に欧米で承認取得した。その後、紆余曲折を経てアストラゼネカが権利を取得。Arcutisは皮膚科領域のライセンスを得た。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 頭部乾癬と脂漏性皮膚炎の違い(Mayo Clinic)


週2回皮注型短腸症候群用薬の第3相が成功
(2022年9月30日発表)

Zealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)はZP 1848(glepaglutide)の第3相単腸症候群治療試験、EASE 1が成功したと発表した。他の第3相は延長試験だけのようなので、長期安全性が確認された段階で承認申請に向かうのではないか。一日一回皮注型のGattex(teduglutide、和名レベスティブ)が欧米で承認されてから既に10年経ち将来はGE薬とも競合するであろうことを考えると、成功したのは週2回投与群だけで週一回群がトレンドに留まったのは残念。

胃腸ホルモンGLP-2のアミノ酸を一部置換したり追加したりして実効半減期を88時間に延ばした、長期作用性GLP-2作用剤。小腸における栄養吸収を促進する。経静脈栄養を必要とする単腸症候群の患者106人を偽薬、10mg週一回、10mg週2回の3群に無作為化割付して24週間治療したところ、週間非経口栄養量がベースライン比で各2.85L、3.13L、5.13L減少し、週2回群は偽薬比有意だった。副次的評価項目である2割減達成率も同様な結果になった。

大先輩のデータより良いが、10年以上前の臨床試験のデータの比較に基づいて議論するのは勇気がいる。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


OCAのNASH肝硬変試験はフェール
(2022年9月30日発表)

Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)は、obeticholic acid(OCA)の第3相NASH(非アルコール性脂肪肝炎)性肝硬変試験がフェールしたと発表した

このREVERSE試験はNASHによる代償性肝硬変(NASH CRNスコア4)の919人が対象。偽薬、10mg、25mgの3群に無作為化割付して18ヶ月治療し、線維症が1段階以上改善してNASHは悪化しなかった患者の比率を比較したところ、各群9.9%、11.1%、11.9%と大差なかった。

OCAAは欧米で原発性胆汁性胆管炎治療薬Ocalivaとして承認されている胆汁酸ベースのファルネソイドX受容体で、NASHに関しては肝線維症の治療薬として19年に欧米で承認申請されたが、米国は審査完了、EUは撤回となった。18ヶ月間の第3相REGENERATE試験で線維症が1ステージ以上改善し、かつ、NASHが悪化しなかった患者の比率が23.1%と偽薬群の11.9%を上回ったものの、NASHが解消し線維症が悪化しなかった患者の比率は大差なく、臨床的な効用が明確でないことや、心血管腎毒性などがネックになった。同社は線維症ステージをパネルに一元評価させたデータを用いて再申請する考え。REGENERATEの対象はNASH CRNスコア2と3が中心で、肝硬変に進行していない患者であるせいか、フェール後も考えは変わらないようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ミエロペルオキシダーゼ阻害剤のALS試験が打ち切りに
(2022年9月29日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は、BHV3241(verdiperstat)の第2/3相ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験が打ち切られる見込みと発表した。Massachusetts General HospitalのHealey Center for ALSが主導するアダプティブ・プラットフォーム試験、HEALEY ALSのデータ監視委員会が、verdipersta群の無益性を認定したため。

脳における酸化ストレスや炎症のドライバーとなるミエロペルオキシダーゼを阻害する経口剤で、18年にアストラゼネカからライセンスしたが、リード・インディケーションであった多系統萎縮症の第3相も昨年フェールした。

Biohavenは5月にファイザーに買収されることで合意したが、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)阻害剤以外の事業は、先日、社名を継承して、スピンアウトされた。パイプラインは既に様々な適応の第3相がフェールしたものが多く、船出は難航しそうだ。

尚、HEALEY ALSはUCBのC5阻害剤zilucoplanの群もフェール。Clene(Nasdaq:CLNN)の金ナノパーティクル懸濁液CNM-Au8の成否は10月3日に発表される予定。オランダのPrilenia Therapeuticsのシグマ1受容体アゴニストpridopidineとSeelos Therapeutics(Nasdaq:SEEL)のSLS-005(trehalose、点滴静注)も進行中。プラットフォーム試験なので逐次、別の薬の群が設定されることになる。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


DMDの遺伝子療法を承認申請
(2022年9月29日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRP)は、SRP-9001(delandistrogene moxeparvovec)をDMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)用薬として米国で承認申請したと発表した。SRP-9001ジストロフィン蛋白量の増加と、外部対照機能評価に基づく加速承認を求めた。

Nationwide Children's Hospitalからライセンスした遺伝子療法で、ジストロフィンの遺伝子をほぼ1/4に短縮したものをAAVrh74ベクターで導入、筋細胞、心細胞、横隔膜に特異的に発現させる。米国外はロシュ(日本は中外製薬)が開発販売権を持っている。

フェーズIVコミットメントとなる第3相EMBARK試験は120人の患者を組入れて52週後のNSA総スコアを偽薬群と比較する。23年末頃に結果が出る見込み。

アデノ随伴ウイルスをベクターとする遺伝子療法は補体系活性化などの有害事象が懸念材料となっている。SRP-9001では発生していない模様だが、横紋筋融解症やトランスアミナーゼ上昇、心筋症の症例が発生している。

リンク: 同社のプレスリリース


バイオマリン、A型血友病の遺伝子療法を再申請
(2022年9月29日発表)

バイオマリンファーマシューティカル(Nasdaq:BMRN)は、valoctocogene roxaparvovecを重度A型血友病用薬として米国で再承認申請したと発表した。1巡目の審査は審査完了となったが、FDAが要求した、量産用プロセスで製造された試験薬を用いた第3相の2年追跡データを取得したことや、8月にEUで条件付き承認を取得したことを考えると、朗報が期待できそうだ。

A型血友病で欠乏する第8因子の遺伝子をAAV5ベクターで導入する。効果は経年低下するように感じられ、EUも長期追跡データがまとまった後で承認した。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

活性化PI3Kデルタ症候群用薬を承認申請
(2022年9月28日発表)

オランダのPharming(Euronext Amsterdam:PHARM/Nasdaq:PHAR)は米国でleniolisibを12歳以上のAPDS(活性化PI3Kデルタ症候群)治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年3月29日。EUでも10月に申請する予定で、既に加速審査指定を受けている。

APDSは100万人当たり1~2人の希少原発性免疫不全疾患。白血球の成熟に係る遺伝子の変異により、PI3Kデルタが異常活性化、副鼻腔感染やリンパ球増殖、自己免疫、肺損傷など様々な症状が現れる。症状だけでは確定できず、発症から診断まで7年かかると言われる。

leniolissibはノバルティスがCDZ173として承認申請用試験を実施した経口PI3Kデルタ阻害剤で、Pharmingは既存製品の販売チャネルを活用できることなどから19年にライセンスした。第2/3相試験の第3相部分では、70mgを一日二回、85日間投与したところ、リンパ節腫脹病変やナイーブB細胞比率が有意に改善した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


FDA、大鵬の胆管癌用薬を承認
(2022年9月30日発表)

FDAは大鵬薬品のLytgobi(futibatinib)をFGFR2遺伝子融合などのある切除不能/局所進行/転移肝内胆管癌用薬として加速承認した。治療歴のある成人が適応になる。103人を組入れたFOENIX-CCA2試験でORR(客観的反応率、独立中央評価)が41.7%、メジアン反応持続期間は9.7ヶ月だった。警告・事前注意事項は、網膜色素上皮剥離、高リン血症とそれに伴う軟組織などの石灰化、そして胚胎毒性。

20年に開始された第3相一次治療実薬対照試験がフェーズIVコミットメントと推測される。

汎FGFR阻害剤で、日本でも7月に承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース


FDAがALS治療薬を承認
(2022年9月29日発表)

FDAはAmylyx(Nasdaq:AMLX)のRelyvrio(sodium phenylbutyrate、taurursodiol)を成人のALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認した。同社の共同CEOであるJustin Kleesが、第3相がフェールしたら承認返上も含めて患者に最適な対応を取ると諮問委員会で言明したこともあり、当方は加速承認を予想していたが、本承認だった。カナダでは6月にAlbrioza名で条件付き承認されている。価格は田辺三菱製薬のedaravoneより若干安い年15.8万ドルと、米国の費用対効果評価機関であるICER(Institute for Clinical and Economic Review)が妥当とみなした30000ドルを大きく上回った。

尿素サイクル異常症の治療に用いられているフェニル酪酸ナトリウムを3g、癌発性胆汁性肝硬変の治療に用いられOTCサプルメントとしても販売されているタウロオルソデオキコール酸を1g、含有する固定用量合剤で、水に溶かした懸濁液を経口/経栄養チューブ投与する。最初の3週間は一日一回、その後は二回投与する。発症18ヶ月以内の137人を組入れた第2相CENTAUR試験では、ALSFRS-R(機能評価スコア)が24週後に7ポイント悪化したが、偽薬群の9ポイント悪化より有意に小さかった。群間差は2.32で、edaravoneの試験の2.49とそれほど変わらない。

尤も、エビデンスは明確ではない。。ALSFRS-Rは早期段階の患者と進行した患者で進行ペースが異なる可能性があるため、調整した分析ではp=0.11とフェールした。副次的評価項目もフェールした。同時使用薬の影響もグレーだ。ベースライン時点で被験者の28%がedaravoneとriluzoleの両方を、77%がどちらかを、使用していたが、群間の偏りがあり、そのせいか、期中開始例にも偏りがあった。

このため、3月に開催された諮問委員会では否(6名)が是(4名)を上回った。審査完了通知が予想されたが、意外なことに、9月に再招集され、7対2で賛成が上回った。3月の委員会でも、難しい判断だが、と前置きする委員が多かったのだが、今回、肩を押したのは、上記のCEOの発言と、ニューロサイエンス部門のディレクターであるBilly Dunnが、難病であるALSに関する承認審査にはフレキシビリティが必要と主張したことだ。

DunnはバイオジェンのAduhelm(aducanumab-avwa)に関しては諮問委員会を説得することはできなかったが、ALSは死に至る病気なので同列に論ずることはできない。逆に、Aduhelmは上役の説得に応じて本承認ではなく仮承認に譲歩を余儀なくされたが、今回は、本承認だった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース


デュピクセントが結節性痒疹に適応拡大
(2022年9月28日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズとサノフィは、Dupixent(dupilumab)を成人の結節性痒疹の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。日欧でも申請中。

2週毎皮注した第3相試験二本で、24週治療後の痒み改善奏効率が一本は58%(偽薬群は20%)、もう一本では60%(同18%)だった。病変部位の治癒率も40%台と偽薬群の10%台を上回った。有害事象は鼻咽頭炎や結膜炎、ヘルペス感染など。

IL-4受容体αサブユニットに結合する抗体医薬で、アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症、好酸球性食道炎、鼻ポリープにも米国などで承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのリリース(2/19付)


エイベリス点眼液が米国でも承認
(2022年9月26日発表)

参天製薬とUBEは、FDAがOmlonti(omidenepag isopropyl)を原発開放隅角緑内障または高眼圧症の眼圧抑制薬として承認したと発表した。点眼用プロスタグランジンEP2受容体作動剤で、臨床試験では効果がプロスタグランジンF2アルファ誘導体のlatanoprostやベータ・ブロッカーのtimololと非劣性だった。

UBEが合成、参天製薬と共同開発し、日本で昨年8月にエイベリス名で承認取得。米国では昨年2月に申請が受理されたが、製造委託先で別の薬に関するcGMP問題が発覚、一巡目は審査完了となっていた。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)

【医薬品の安全性】


リムパーザの4次治療データ
(2022年月日発表)

アストラゼネカはPARP阻害剤Lynparza(olaparib)の数多くの適応症のうち、BRCA変異陽性白金感受卵巣癌の4次治療を米国で返上したが、裏付けとなるデータがIGCS(国際婦人科癌学会)で発表された。他のPARP阻害剤メーカーも同様な承認返上を行っている。

適応返上は、加速承認された時のフェーズIVコミットメントの一つであるSOLO-3試験の全生存期間の解析が好ましくない結果になったため。3次治療以降の患者約220人をLynparza群と非白金薬群に無作為化割付してORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)を比較したところ、各72.2%と51.4%だった。副次的評価項目のPFS(無進行生存期間)はメジアン13.4ヶ月と9.2ヶ月でハザードレシオ(HR)0.62と、大変良い結果になった。

ところが、Leathらの抄録(IGCS 2002 LB001)によると、4次治療以降のサブグループのメジアン生存期間は各29.9ヶ月と39.4ヶ月でHR1.33(95%信頼区間0.84-2.18)だった。元々検出力不足である全生存期間の、事後的サブグループ分析なので、統計的に有意ではないことよりも、リスクが2倍以上である可能性が否定されていないことを重視すべきなのだろう。

3次治療サブグループのメジアン生存期間は各37.9ヶ月対28.8ヶ月、HR0.83(同0.51-1.38)と悪くはなさそうな数値になっている。奇妙なのは、化学療法群のメジアン生存期間が4次治療以降の患者の数値より良いこと。患者背景の偏りや進行後の治療の違いなどが影響しているのかもしれないが、Lynparzaではなく化学療法のデータがおかしい可能性もあるだろう。何れにせよ、薬に関しては疑わしきは罰するべき、であるが。

リンク: IGCC 2022抄録集のリンク
リンク: アストラゼネカの適応一部返上通知


PRAC、terlipressinのリスク対策を発表
(2022年9月30日発表)

EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス・リスク評価委員会、PRACは、選択的バソプレシン1阻害剤terlipressinで新たに浮上したリスクを抑制するための対策を発表した。中央手続きではなく個々の加盟国で承認されている薬であるためか、CHMPの評価を経ずにDHCPレター(直接的医療従事者向け通知)を発出する予定のようだ。

terlipressinは米国で9月に1型肝腎症候群治療薬として承認されたばかりだが、欧州などでは以前から用いられている。呼吸不全などの副作用を持つことが知られていたが、Wongらが行った臨床試験で発生率が11%とこれまで考えられていたより多かった。New England Journal of Medicine誌に刊行された論文によると、90日以内に呼吸器疾患によって死亡した患者の比率も11%と偽薬群の2%を大きく上回った。また、敗血症のリスクも顕在化した。

このため、PRACは、慢性肝疾患が急悪化している患者や急性腎不全に用いるのは避けること、呼吸障害がある患者場合は投与開始前に治療すること、治療中とその後は呼吸不全や感染症の兆候や症状を監視すること、を勧告した。リスクを抑制するためにボーラス投与ではなく連続点滴投与を考慮しても良い。


リンク: EPRACのプレスリリース
リンク: Wongらの治験論文(NEJM)




今週は以上です。

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