2022年10月8日

第1071回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ラゲブリオは案外効かないという論文草稿は撤回 
  • エバシェルドはBA.4.6が苦手 
  • ラムダ・インターフェロンのEUA申請を断念 
  • その他の領域: 
  • イクスタンジ・PARP阻害剤併用試験が成功 
  • ClovisのPARP阻害剤も前立腺癌試験が成功 
  • 金製剤のALS試験はフェール 
  • Tdapワクチンは胎児にも有益 
  • アルナイラム、PH1治療薬の便益追加 


【COVID-19関連】


ラゲブリオは案外効かないという論文草稿は撤回

MSDの抗SARS-CoV-2薬に関する英国の疫学研究論文の草稿が査読前論文レジストリーで公開されたが、既に撤回されたようで、内容の真偽は暗闇の中だ。報道によると、入院死亡は治療を受けなかったグループと有意差なし、但し、快復までのメジアン期間は通常医療が15日であったのに対して9日だった。どちらも驚くべき発見だが、原典にアクセスできないので、PICOをチェックできない。

MSDのRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤Lagevrio(molnupiravir)は、ファイザーの3CLプロテアーゼ阻害剤Paxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)と前後して、昨年12月に米国で重症化リスク因子を持つ軽中等症COVID-19の入院死亡リスクを抑制する薬として承認された。エビデンスとなる臨床試験の対象はワクチン未接種者で、実施時期はオミクロン株登場前だった。従って、成人人口の大半を占めるワクチン接種済みの人が、重症化率が低いオミクロン株に感染した場合の、重症化予防率とnumber-needed to-treatは臨床試験のデータより見劣りすると考えるべきである。

実際、Paxlovidの重症化リスク因子を持たない、あるいは、持っているがワクチン接種済の患者を組入れた試験は途中で中止された。どちらの患者でも入院死亡を5割以上抑制したのだが、偽薬群の入院死亡数が前提を下回ったため、検出力不足になってしまったのだ。下回った理由は明確ではないが、オミクロン株に代わったことが響いたのではないか。

今回のデータを見られないのは残念だが、今後、似たような疫学論文が医学誌に刊行されても驚くべきではないだろう。


エバシェルドはBA.4.6が苦手
(2022年10月3日発表)

FDAはアストラゼネカの抗SARS-CoV-2抗体カクテル、Evusheld(tixagevimab、cilgavimab)のファクトシートを改訂し、様々な亜系統に関する中和抗体試験データを掲載するとともに、米国では唯一の承認用途である暴露前予防を目的に投与してもオミクロンBA.4.6亜系統株に感染するリスクは残ることに注意喚起した。CDC(米穀疾病予防管理センター)の推測によると直近の亜系統構成比はBA.5が81%と依然として圧倒的だが、BA.4.6は7月の1%から13%に上昇した。主流になる亜系統はもっと急速に上昇するものなのでBA.5ほどの脅威ではなさそうだが、地域によってはもっと高いところもあるので、感染状況と抗体医薬の得手不得手を照らし合わせて治療方針を決める必要がある。

in vitroの中和抗体試験はウイルスの増殖を抑制するために必要な量を探索する。以下では野生株に対する倍率で示し、数値が大きいほど多くの量が必要であることを意味する。一番重要な感染予防効果とパラレルにリンクするとは限らないが、ある程度の目安になる。

Evusheldはアルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、エプシロン株に対する数値は野生株と大差ないものの、オミクロン株はオーセンティック(本物)ウイルス試験でBA.1が12~30倍、BA.1.1は176倍、BA.2は5.4倍、BA.5は2-16倍と亜系統によって区々だ。以下はシュードウイルス(別のウイルスにSARS-CoV-2のスパイク蛋白を導入した偽ウイルス)試験のデータだが、BA.2.12.1は5倍、BA.2.75は2~15倍、BA.3は16倍、BA.4は33~65倍だが、BA.4.6は1000倍以上と著しく高く、効きそうな感じがしない。

CDCの流行株データを見ると、BA.5とBA.4.6の次はBF.7が構成比3%、BA.2.75とBA.4が各1%となっている。BA2.75とBA.4は他のオミクロン株と倍率が大差ない。BF.7はファクトシートにはデータが載っていない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: EvusheldのEUAファクトシート
リンク: CDCの変異株構成比


ラムダ・インターフェロンのEUA申請を断念
(2022年10月5日発表)

アイガー バイオファーマシューティカル(Nasdaq:EIGR)はPEG-Interferon lamda-1aのEUA(非常時使用認可)を断念した。FDAがEUA申請前会議の申し入れに応じず、第3相試験を実施して正式な承認申請を行うよう促したため。同社は海外での承認申請や戦略的オプション(ライセンスアウトなど)を検討する考え。

ブラジルなどの研究者が主導して、軽中等症だが重症化リスクのあるCOVID-19感染症1936人を外来治療した第3相TOGETHER試験で、28日間のCOVID-19関連入院/6時間以上ER入室率が2.7%と偽薬群の5.6%を大きく下回った(優越性ベイズ確率99.91)。専らER入室例が少なかったが、入院や死亡も数値上少なかった。オミクロン株を含む様々なウイルスに効果が見られ、有害事象は各群大差なかった。

しかし、FDAは、6時間以上ER入室という評価尺度の臨床的意義に疑問を呈しているようだ。そういえば、昨年の大流行期には、救急を脱してもベッドが開かずにERに留まるような事態が報道されている。TOGETHER試験では選択的セロトニン再取込阻害剤fluvoxamineの群も成功し米国の研究者がEUA申請したが、同じ理由でFDAは認めなかった。

PEG-Interferon lamda-1aはブリストル マイヤーズ・スクイブからライセンス。慢性D型肝炎用薬としても開発中。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


イクスタンジ・PARP阻害剤併用試験が成功
(2022年10月4日発表)

ファイザーはTalzenna(talazoparib)の第3相去勢抵抗性前立腺癌試験、TALAPRO-2が成功したと発表した。転移後初めての全身性治療を受ける1095人を組入れて、同社のアンドロゲン受容体標的薬Xtandi(enzalutamide)に追加する効果を検討したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価)の偽薬追加群比ハザードレシオが前提である0.696を下回った。メジアン値は過去に行われた同様な試験を越えたとのこと。副次的評価項目の全生存期間は未成熟だが好ましいトレンドを示したとのこと。

18~19年に欧米でBRCA変異を持つher2陰性局所進行/転移乳癌に承認されたPARP阻害剤で、Xtandiと同様、16年に買収したMedivation社のコンパウンド。同様な適応ではアストラゼネカのLynparza(olaparib)をBRCA1/2変異のある患者に単剤投与することが20年に米国で承認された。アストラゼネカはBRCA1/2以外も含む相同組換え修復不全のある患者の転移後初治療としてZytiga(abiraterone)・prednisoneと三剤併用も米国で承認申請中で今四半期中に結果が出る見込み。

今回、Xtandiと組み合わせたエビデンスを取得したことや、相同組換え修復不全の無い患者にも効果があったことは差別化要因になりうる。

リンク: 同社のプレスリリース


ClovisのPARP阻害剤も前立腺癌試験が成功
(2022年10月3日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)はRubraca(rucaparib)の第3相TRITON3試験が成功したと発表した。BRCAまたはATM変異のある転移性去勢療法抵抗性前立腺癌で、アンドロゲン受容体標的薬による治療歴を持ち、化学療法未経験の患者405人を試験薬群と化学療法/第2世代アンドロゲン標的薬に2:1割付してPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)を比較したところ、各群のメジアン値は11.2ヶ月と6.4ヶ月、ハザードレシオは0.50、統計的に有意だった。シーケンシャルに解析されたもう一つの主評価項目である全集団(Intent-to-treat)の解析も各10.2ヶ月、6.4ヶ月、0.61でp=0.0003と成功した。

同社はBRCA変異型については23年第1四半期に米国で適応拡大申請する計画。変異の無い患者についてはFDAと相談して申請の当否を検討する。Intent-to-treatの解析は成功したが、ATM変異のある103人の探索的解析は各8.1ヶ月、6.8ヶ月、0.97と失望的。また、全生存期間は未成熟だが、BRCA変異サブグループでは良好なトレンドが示された一方で、ATM変異型では対照群のほうが良い方向を向いていた。

尚、この試験は米国で20年にBRCA変異がありタクサン系抗がん剤歴も持つ患者に加速承認された時のフェーズIVコミットメントなので、本承認切替も申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

金製剤のALS試験はフェール
(2022年10月3日発表)

Clene(Nasdaq:CLNN)は、CNM-Au8(金のナノパーティクル懸濁液)のALS(筋萎縮性側索硬化症)試験がフェールしたと発表した。しかし、低用量群の全生存期間データが好ましいものだったため、開発続行するとともにEAP(FDAの許可を得て未承認薬を提供する制度)を開始する考えだ。株価は下落した。

先週号のBiohaven社の経口ミエロペルオキシダーゼ阻害剤と同様に、Massachusetts General Hospitalが主導するHEALEY ALS試験でテストされた。161人の患者を偽薬群、30mg群、60mg群に無作為化割付してALSFRS-Rスコアの悪化を比べたが、偽薬群と2%しか違わなかった。副次的評価項目もフェールした。

ところが、低用量群は全死亡リスク(ベースライン時点のリスク因子の偏りを調整後)が偽薬比90%小さかった(p=0.028)。

探索的サブグループ分析はアテにならず、このp値は多重性補正を行っておらず、そもそも十分に低いとは言えず、また、ALSの死亡リスクは個人差が大きく一群50人程度の試験でキチンと調整できたのか良く分からない。それでも、闇夜には仄かな明かりでも貴重だ。前向き試験を行って承認に値する便益を確立すべきだ。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewsswire)

【承認】


Tdapワクチンは胎児にも有益
(2022年10月7日発表)

FDAはGSKの破傷風・ジフテリア・百日咳3種混合ワクチンBoostrixの効能を追加した。妊婦が第3トリメスターに接種すると、出生児が生後2ヶ月間に百日咳感染症を患うリスクも抑制できるというもの。観察的試験で78%少なかった。

本邦未承認だが医師が並行輸入して使うこともある、Tdapワクチンの一つで、米国では10歳以上のブースター接種に用いられている。高齢者にも承認されているのはBoostrixだけだ。この3種類の感染症は妊婦や胎児にとっても脅威であるため、米国では多くの妊婦が第3トリメスター(妊娠13~24週)に受けている。従って、今回の承認で対象者が増えるわけではない。

尚、主として幼小児用の3種混合ワクチンであるInfanrixは0.5mL当りで破傷風毒素を10Lf、ジフテリア毒素を25Lf、そして百日咳の不活化毒素25mcgとホルムアルデヒド処理されたFHA(繊維状赤血球凝集素)25mcg及びPRN(ペルタクチン)8mcgを含有しており、米国では生後2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月に3回接種し、15~20ヶ月と4~6歳に追加接種する。

一方、Boostrixは0.5mL当りで破傷風毒素を5Lf、ジフテリア毒素2.5Lf、不活化百日咳毒素8mcg、ホルムアルデヒド処理されたFHA8mcg、PRN2.5mcgを含有し、DTaPワクチンやTdワクチンを接種済の場合は5年以上後に、Boostrixを含むTdapワクチン接種済の場合は9年以上後に、接種する。以上、米国のレーベルによる。

リンク: FDAのプレスリリース


アルナイラム、PH1治療薬の便益追加
(2022年10月6日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)治療薬Oxlumo(lumasiran)のレーベル変更がFDAに承認されたと発表した。

PH1は常染色体性劣性遺伝性疾患で、腎臓などにシュウ酸カルシウムが蓄積、尿路結石など様々な障害が生じる。Oxlumoはグリコール酸酸化酵素の遺伝子を標的とするsiRNA薬で20年に欧米で承認された。この段階での便益は尿中シュウ酸量の抑制だけだったが、今回、腎機能低下/透析期の患者を組入れた試験のエビデンスに基づき、血漿シュウ酸値も抑制できることが認められた。

腎機能低下/透析は主要な合併症なので、病気が進行した患者にも有益であることを示す治験データが掲載されたことも重要な点だろう。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

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