【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19関連:
- 日本政府、使えない抗SARS-CoV-2抗体を1600億円以上調達へ
- その他の領域:
- 遺伝子組換え型プロバイオティクスでフェニルケトン尿症の第3相へ
- オプジーボ、黒色腫完全切除後の再発死亡を半減
- 点鼻用CaブロッカーのPSVT洞調律試験が成功
- rhALPの敗血症性球性腎障害試験が無益中止に
- FDA諮問委員会、圧倒的多数が早産予防薬の承認取消に賛成
- Minerva、向精神薬の承認申請が受理されず
【COVID-19関連】
日本政府、使えない抗SARS-CoV-2抗体を1600億円以上調達へ
(2022年10月18日発表)
ロシュは、Ronapreve(casirivimab、imdevimab)の日本における売上高が第4四半期に11億スイスフラン(約1650億円)と急増する見込みであることを2022年第3四半期決算発表会で明らかにした。オミクロン株には無効であることを考えると、税金の無駄遣いと言わざるを得ない。何とかキャンセルできないものだろうか。
RonapreveはRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)が開発した二種類の抗SARS-CoV-2抗体。元々は二本のバイアルに分かれていたが、米国では合剤も承認されている。軽中等症COVID-19患者の重症化抑制や濃厚接触者の曝露後発症抑制に承認され、21年の同社の売上高は58億ドル、米国外で販売するロシュは17億ドルと超大型化した。しかし、オミクロン株には無効であることから、22年の1-6月のRegeneronの売上高は僅少、中外製薬の日本の売上高も1-3月の608億円が4-6月にはゼロだった。ロシュの決算発表によると、7-9月の日本における売上は為替変動の影響もありマイナスとなっている。
このような薬に更に1650億円も払うのは、おそらく、二つの理由があるだろう。既に契約してしまったこと、そして、この薬が有効な株が今後、流行しないとは限らないことだ。だが、この種の契約は開発に成功し承認されることが成立条件であり、現在流行している株に効かないということは、承認されていないことと実質的に大差ない。また、少なくとも現状では、シンガポールなどを除いて、BA.5系統以外のウイルスは大流行の兆し(シェアが10%以上に上昇)を見せていない。
そもそも、オミクロン株は重症化リスクが比較的小さいので、重症化リスクを抑制する薬の価値は低下している。
パンデミックやテロに立ち向かう薬は国家にとって重要であり、開発費を補助するだけでなく、調達価格に成功報酬を上乗せすることも必要だろう。しかし、環境が変わり成功とは言えなくなった現時点ではナンセンスだ。不良在庫になるのが目に見えており、希望者に無償供与することはできないので安倍のマスクより酷い話だ。
リンク: ロシュの3Q決算発表スライド(165頁に記述)
【新薬開発】
遺伝子組換え型プロバイオティクスでフェニルケトン尿症の第3相へ
(2022年10月18日発表)
米国マサチューセッツ州ケンブリッジのSynlogic(Nasdaq:SYBX)は、第2相PKU(フェニルケトン尿症)試験で好成績を上げたSYNB1934を23年上期に第3相入りさせると発表した。大腸菌Nissle株の遺伝子に装飾を加えたプロバイオティクスで、9人に14日間経口投与したところ、空腹時血漿フェニルアラニン(Phe)がベースライン比34%低下した。
SYNB1934はSYNB1618をベースにPhe消費効率を向上すべく改変したもの。当試験ではSYNB1618も11人に経口投与したが、Phe低下率は20%と数値上、見劣りした。
PKUは飲料や食料に含まれるPheを代謝できず、蓄積する。薬物療法はサントリーが創製したエンザイムコファクター、sapropterinなどが用いられている。当試験ではsapropterin服用者に追加投与した症例でも効果が示された由。
深刻有害事象は発生せず、二群合計で胃腸関係による有害事象で3人、紅潮(アレルギー反応の可能性)で1人が離脱した。
SYNB1934群は9人中5人しか完了しなかったが、主因は記されていない。
リンク: 同社のプレスリリース
オプジーボ、黒色腫完全切除後の再発死亡を半減
(2022年10月19日発表)
ブリストル マイヤーズ・スクイブは、Opdivo(nivolumab)の第3相CheckMate-76K試験が成功したと9月に発表したが、具体的な内容をSociety for Melanoma Researchの年次総会で公表した。ステージIIBまたはIICの黒色腫を完全切除した患者を組入れて480mgを4週毎、最長12ヶ月間投与したところ、中間解析でRFS(無再発生存)の偽薬比ハザードレシオが0.42(95%信頼区間0.30-0.59)となり、成功認定された。12ヶ月無再発生存率は89%(偽薬群は79%)で、IIBサブグループでは93%(同84%)、IICは84%(同72%)だった。G3/4治療関連有害事象発生率は10%(同2%)、治療関連有害事象による治験離脱率は15%(同3%)だった。
OpdivoはステージIIIB以上の黒色腫の完全切除後再発予防試験でYervoy(ipilimumab)を凌ぐ効果を示し、米国などで承認されている。ライバルのKeytruda(pembrolizumab)はステージIIIだけでなくIIBやIICでも承認されており、今回のOpdivoに相当するハザードレシオは0.65(95%信頼区間0.46-0.92)と、点推定値が見劣りするものの、信頼区間が重なっているので何とも言えない。
リンク: BMSのプレスリリース
点鼻用CaブロッカーのPSVT洞調律試験が成功
(2022年10月17日発表)
カナダのMilestone Pharmaceuticals(Nasdaq:MIST)は、MSP-2017(etripamil)の第3相RAPID試験の成功を発表した。PSVT(発作性上室性頻拍)が洞調律に至るまでの時間が偽薬比有意に短かった。安全性確認試験の結果を待って23年央に米国で承認申請する考え。
PSVTは突然頻拍が発生し数分から数時間、続く。多くの場合、深刻ではないが、患者は不快で心配もする。MSP-2017は短期作用性のカルシウム・チャネル・ブロッカーの点鼻スプレー製剤。発症して直ぐには治らなかった時に患者が自己判断で用いる。
最初の第3相、NODE-301はフェールした。洞調律までの時間を偽薬と比較したが、観察期間が5時間と長かったせいか、メジアン値は各群25分と50分で結構違ったが、p=0.12だった。同社は、FDAと相談の上で、この試験の第2部をRAPID試験に模様替えした。主な変更点は、観察期間を30分に短縮したことと、10分経っても収まらない場合はもう一回、スプレーするようにした。
結果は、ハザードレシオが2.62(p<0.001)、洞調律奏効率は各群64.3%と31.2%だった。一本目の試験の同じ評価項目のハザードレシオは1.87(p=0.02)、奏効率は各群54%と35%だったので、似たような結果だ。
二本の試験のプール分析でER入室リスクも有意に低下した。
点鼻薬なので鼻の有害事象が増加したが深刻な薬物関連有害事象は両群大差なかった模様。
リンク: 同社のプレスリリース
rhALPの敗血症性球性腎障害試験が無益中止に
(2022年10月20日発表)
オランダのAM-Pharmaは、遺伝子組換え型ヒトアルカリホスファターゼ(ilofotase alfa、通称recAP)の第3相REVIVAL試験が中間解析で無益認定されたこと、しかし副次的評価項目の一つでは望ましいデータが出たことを発表した。ClinicalTrials.govによると治験は8月に完了しており、その後2ヶ月間、夢をつなぐデータを探し続けたのかもしれない。
小腸型アルカリホスファターゼを改変し半減期を延長したもので、アデノシンA2a受容体経路を活性化し炎症を抑制する作用に着目、敗血症による急性腎障害の改善剤として臨床開発が進められてきた。15年にファイザーが完全子会社化オプションを取得したが第2相がフェールしたため行使しなかった。同社は28日全死亡が偽薬比39%少なかったことに注目、19年にベンチャー・キャピタルなどから1億ユーロ超の資金調達を行い第3相を開始、21年には協和キリンに日本での独占開発販売権を供与するなど、リバイバルを図った。
REVIVAL試験は1400人を偽薬群または1.6mg/kgを一日一回、1時間点滴静注する群に無作為化割付して28日全死亡を比較する予定だったが、400人の中間解析でデータ監視委員会が無益認定した。良好なデータが出たのは、本試験の567人と、別途組み入れられた、敗血症による急性腎障害を合併したCOVID-19患者33人および中重度慢性腎疾患患者49人、総計649人における、90日主要有害腎臓イベント(MAKE90)。偽薬群は65%、試験薬群は57%だった。尚、主評価項目は両群大差なかった。
MAKE90は死亡、透析、eGFRの25%低下、または再入院の複合評価項目で、事前に設定されたとのことだが、ClinicalTrials.govには再入院が記されていない。同社のプレスリリースは、death, need for dialysis, substantial kidney function deterioration (>25% decline in estimated glomerular filtration rate (eGFR)) by day 90, and rehospitalizationと記されており、再入院だけ追跡期間が90日ではないような書きぶりになっているが、もしそうだとしたら奇妙だ。そもそも、COVID-19や中重度慢性腎疾患の患者を含んだ数値を説明する前に、本試験だけのデータを示すべきではないか。全体的に、都合のよいデータをチェリーピックしたような印象を受ける。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会、圧倒的多数が早産予防薬の承認取消に賛成
(2022年10月19日発表)
FDAは、Covis Pharmaの早産予防薬、Makena(hydroxyprogesterone caproate、通称17-OHPC)の加速承認取消に関する公聴会とORUDAC(産科、再生産、泌尿器科用薬諮問委員会)を開催した。3年前の諮問委員会では承認取消賛成が9人、反対が7人と票が分かれ、特に産婦人科医の委員は6人中5人が反対したが、今回は賛成14人、反対1人と圧倒的多数が支持した。
米国で販売中止になる薬は殆どがメーカー側の自発的行動によるものだが、実際は、FDAが促している。承認取消権限を行使しないのは、メーカーが抵抗した場合に、法定手続きに何年も費やされ、十分な効果がない、あるいは重要な副作用のある薬の販売が続く事態を回避するためのようだ。今回はメーカーが徹底抗戦を選んだため、加速承認後薬効確認試験がフェールしてから3年、FDAの担当部門が自主的承認返上を促してから2年が既に経ったが、いよいよ承認取消が断行されそうだ。
Makenaの活性成分は日本でも早産歴のある妊婦などに用いられている。元々は別の病気に使われていたが、NIH(米国衛生研究所)が主導した試験が成功、オフレーベル使用されるようになった。未承認薬の広範な使用に警戒感を持ったFDAが正式に承認申請する企業を募ったところ、KV Pharmaceuticalsが手を上げ、紆余曲折を経て、2011年に、37週より前の自然単体早産歴を持つ女性の早産予防に用いる薬として加速承認された。
7年後、市販後薬効確認試験PROLONGがフェールした。35週未満の早産も、新生児の罹病・死亡率も偽薬群と大差なかった。経営破綻したKVのMakena事業を買収したAMAG Pharmaceuticalsはノイズの影響や事後的解析で一部のサブグループには効果の片鱗が見られたことなどを指摘、再試験の実施を主張したが、FDAの小分子薬担当部門、CDERは、2020年、承認を自主的に返上するよう促した。直後、ClovisがAMAGを買収、牛歩作戦など戦闘態勢に入った。
承認取消された場合、次の注目は、米国や日本の学会や医療機関の対応だ。治験フェールが周知であることを考えれば、今でも17-OHPCを用いている医療施設は確信犯だろう。エビデンスの無い医療が続けられるかもしれない。
Makena問題の推移
1956年、スクイブ社が米国で販売承認を取得(適応は不明。当時は安全性データがあれば承認された)
2003年、New England Journal of Medicine誌がNIH主導試験の論文を刊行。自然単体早産歴のある妊婦の37週未満出産リスクを抑制したことが各種メディアで報道され、普及
2006年、FDAの開発要請に応じたKV Phamaceuticalsが承認申請
2008年、FDA諮問委員会で21人の委員中12人が35週前の切迫早産の予防効果を認めたが、FDAは非承認可能通知を発出
2011年、市販後薬効確認試験が開始されたことを受け、FDAが加速承認(37週より前の自然単体早産歴を持つ女性の早産予防)。KVが薬局調剤品の100倍の価格で発売したが、政治介入などにより薬局調剤品の販売を禁止できず、半値に引き下げても売れず、裁判所に破産法の適用を申請
2013年、KVの会社更生が認められ、AMAG PharmaceuticalsがMakina事業など、Perrigoがそれ以外を分割買収
2019年、市販後薬効確認試験のPROLONGがフェール、35週未満の早産も新生児の有病・死亡率も偽薬群並みだった。FDA諮問委員会で9人が承認取消を支持、7人がもう一度薬効確認試験を促すことを支持(但し産婦人科医の委員に関しては6人中5人が再試験を支持)
2020年10月、FDAの小分子薬担当部門、CDERが自発的承認返上を推奨
同年11月、Covis PharmaがAMAGを買収
2021年8月、Covisがやっと公聴会の開催を要請
2022年10月17~19日、FDAが公聴会とORUDAC(産科、再生産、泌尿器科用薬諮問委員会)を開催。15人の諮問委員中14人が承認取消を支持。
リンク: Covisのプレスリリース
Minerva、向精神薬の承認申請が受理されず
(2022年10月17日発表)
Minerva Neurosciences(Nasdaq:NERV)はMIN-101(roluperidone)を統合失調症の陰性症状治療薬としてFDAに承認申請していたが、受理されなかった。承認は難しいと想像していたが、あっけなく結論が出た。
5-HT2A、アルファ1a、およびシグマ-2のアンタゴニストで、07年に前身のCyrenaic Pharmaceuticalsが田辺三菱製薬からMT-210をライセンスしたもの。一日32mgと64mgをテストし一本で64mg群が成功したがもう一本はp=0.064とフェールした。同社はFDAに承認申請前会議を申し入れたが拒否され、第3相試験後に行われるタイプC会議を3月に実施。米国外の試験であることや他の向精神薬と併用した場合の薬効や安全性などを指摘されたが、承認申請を断行した。
米国の新興新薬開発会社は1年分程度の現金しか保有しないことが多く、FDAの要求に応じてもう一本試験を行うのは難しい。今のように株式市場が不安定だと資金調達が一層難しくなる。もし開発しているのが大手・中堅企業だったら、と思わざるを得ない。
リンク: 同社のプレスリリース
今週は以上です。
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