2022年11月5日

第1075回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • bebtelovimabはBQ.1やBQ.1.1が苦手 
  • COVID-19薬の売上高推移 
  • その他の領域: 
  • ジャディアンスもCKD試験が成功 
  • 単純性尿路感染症新薬の第3相が成功 
  • 表皮水疱症のex vivo遺伝子療法も第3相が成功 
  • 妊婦接種の新生児RSV予防ワクチン 
  • I-131標識抗CD45抗体のBMT前処置試験成功 
  • NicOx、一酸化窒素供与PGの緑内障試験が成功 
  • ReblozylのMDS貧血一次治療試験が成功 
  • GSK、高齢者向けRSVワクチンを承認申請 
  • 健康な乳児にも有効なRSV予防薬が欧州で承認 


【COVID-19関連】


bebtelovimabはBQ.1やBQ.1.1が苦手
(2022年11月4日発表)

FDAは、イーライリリーのCOVID-19治療薬、bebtelovimabは最近増加しているオミクロンの亜系統、BQ.1やBQ.1.1を中和できそうにないと発表した。抗体医薬ではない抗ウイルス薬、即ちファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)やMSDのLagevrio(molnupiravir)、ギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir)は有効とのことなので、適応なら選択肢になる。

同じオミクロン株でもBQ.1は免疫回避能が高く、BQ.1.1は更に高いと言われており、流行の中心になる可能性がある。CDC(米国疾病予防管理センター)の推定によると、米国のCOVID-19感染者に占める亜系統別構成比は、10月30日に始まる週に、オミクロン株BA.5が39.2%、BQ.1.1が18.8%、BQ.1が16.5%、BA.4.6が9.5%、BF.7が9.0%となった。先行指標とも言われる第2地域(NY州やNJ州など)では、BQ.1が28.8%、BA.5が24.9%、BQ.1.1が23.5%と、新興勢力がBA.5に追いつき追い抜く勢いだ。

COVID-19流行の当初は、抗体医薬の長所である開発スピードの速さや選択性の高さがフルに発揮されたが、好ましくない亜系統が顕著に発展するオミクロン株の登場で、表舞台から退場を迫られた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CDCの変異株流行モニター


COVID-19薬の売上高推移
(2022年11月5日時点)

製薬会社の22年第3四半期決算からCOVID-19ワクチンや治療薬の売上高をまとめた。感染者の減少により前四半期比減少傾向が続いている。年間見通しを公表している会社のうち、ファイザーは従来見通しを維持したが、モデルナはSpikevax(elasomeran等)の見通しを210億ドルから180~190億ドルに下方修正した。但し、実需というよりは生産混乱の影響のようだ。一方、ギリアド・サイエンシズはVeklury(remdesivir)の見通しを25億ドルから34億ドル(前年比39%減)に上方修正した。

COVID-19関連売上高(百万ドル)
製品名メーカー2021年22Q122Q2
ワクチン:
Comirnatyファイザー36,78113,2278,848
Spikevaxモデルナ17,6755,9254,531
Vaxzevriaアストラゼネカ3,9811,089451
JcovdenJNJ2,385457544
抗SARS-CoV2抗体:
Ronapreveリジェネロン5,828--
ロシュ1,78463623
リリーの3製品イーライリリー2,2391,470129
XevudyGSK1,3221,751587
Evusheldアストラゼネカ-469445
治療薬:
Vekluryギリアド5,5651,525445
Actemraロシュ3,898858687
Olumientイーライリリー1,115256186
Paxlovidファイザー761,4708,115
LagevrioMSD9523,2471,177
注:アストラゼネカとノババックスは3Q決算未発表。OlumientとActemraは他の疾患向けの売上高が中心。Ronapreveの売上高は米国のもので、ほぼ無くなった。
出所:各社資料から作成

【新薬開発】


ジャディアンスもCKD試験が成功
(2022年月日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと共同開発販売パートナーのイーライリリーは、3月に、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin)の慢性腎疾患アウトカム試験が中間解析で主目的を達成したと発表したが、米国腎臓学会腎臓週間とNew England Journal of Medicine誌で詳細が明らかになった。 現在は二型糖尿病と心不全に承認されているが、適応拡大申請されるのではないか。

このEMPA-KIDNEY試験は慢性腎臓疾患の6609人を偽薬またはJardiance(10mg一日一回経口投与)に無作為化割付して、腎臓疾患の悪化(eGFRの悪化、透析/腎移植、腎臓疾患死、または心血管疾患死)のリスクを比較した。メジアン2年間の追跡で、各群のイベント発生率は16.9%と13.1%、ハザードレシオは0.72となり有意な差があった。被験者の54%を占めた糖尿病でない患者にも、糖尿病患者にも、便益があった。入院(理由は不問)も有意に少なかった。死亡(理由不問)は各5.1%と4.5%、心血管死/心不全入院は4.6%と4.0%で、どちらも有意差なし。

SGLT2阻害剤ではアストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)も同様な試験が成功し、昨年、日米欧で適応拡大した。ハザードレシオはJardianceより良いが、直接比較ではないので良く分からない。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: EMPA-KIDNEY試験論文抄録(NEJM)


単純性尿路感染症新薬の第3相が成功
(2022年11月3日発表)

GSKはGSK2140944(gepotidacin)の第3相単純性尿路感染症試験二本が中間解析で主目的を達成したと発表した。新規組入れを中止し、最終解析を実施した上で23年央に米国で承認申請する考え。

新規構造を持つ抗菌剤で、細菌の複製に係るトポイソメラーゼを阻害する。新規抗菌剤の開発・販売環境は極めて厳しく多くの製薬会社が距離を置く中、GSKは13年に米国政府のBARDA(生物医学先端研究開発機構)やDTRA(防衛脅威削減庁)の支援を得て開発を進めることができた。

今回のEAGLE-2試験とEAGLE-3試験は合わせて3000人超を1500mgを一日二回、5日間経口投与する群と、標準薬であるnitrofurantoin群に無作為化割付して、第10~13日の臨床的かつ細菌学的な奏効率が非劣性試験であることを検証した。尚、抗生物質に関しては、既存薬と大差ないなら値段が高い新薬はいらない、と言ってはいけないようだ。

リンク: GSKのプレスリリース


表皮水疱症のex vivo遺伝子療法も第3相が成功
(2022年11月3日発表)

Abeona Therapeutics(Nasdaq:ABEO)はEB-101の第3相VITAL試験が成功したと発表した。半年以上(平均6年)続く大きな創傷を持つ劣性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)患者11人を組入れて、治療する部位としない部位を43組選び、6ヶ月後の奏効率(50%以上治癒)を比較したところ、各81.4%と16.3%となり有意な差があった。共同主評価項目として疼痛緩和効果も評価したところ、評価尺度(レンジは0から10)がベースライン比で各3.07と0.90低下し、有意な差があった。

治療関連深刻有害事象や、死亡、増殖能を持つレトロウイルスの検査の陽性例は、発生しなかった。

23年第2四半期に承認申請する考え。

RDEBは真皮と表皮を繋ぐ係留線維の7型コラーゲンの遺伝子に機能喪失変異があり、水疱やびらんが生じやすい。感染症や扁平上皮腫のリスクがある。EB-101は患者自身のケラチノサイトやその前駆細胞を採取してex vivoで欠乏するCOL7A1遺伝子を導入、患者に戻す。

栄養障害型表皮水疱症ではKrystal Biotech(Nasdaq:KRYS)が6月に米国でKB103(beremagene geperpavec)を承認申請した。HSV-1ベクターでCOL7A1遺伝子を導入するin vivo遺伝子療法で、ゲル製剤を創傷が閉鎖するまで週一回、皮内注射する。31人の臨床試験で6ヶ月後の完全治癒率が67%だった(偽薬部位は22%)。評価基準が違うので両剤の比較は難しい。

リンク: Abeonaのプレスリリース


妊婦接種の新生児RSV予防ワクチン
(2022年11月1日発表)

ファイザーは、PF-06928316(通称RSVpreF)の第3相MATISSE試験が中間解析で成功認定されたと発表した。FDAとの相談も踏まえて組入れは中止し、年内に米国などで承認申請する考え。

RSV(Respiratory syncytial virus)感染予防用ワクチンで、A型とB型の二種類のウイルスの宿主細胞結合部位の融合前糖蛋白抗原に、アルミ・アジュバントを添加している。今回の試験は18~49歳の妊婦約7400人を組入れて、妊娠第2~3期に120mcgを一回接種する効果を偽薬と比較した。主評価項目は、新生児のRSVによるMA-LRTI(医療の必要な下部気道感染症)リスクと、同じく重度MA-LRTIリスク。ClinicalTrials.govによると観察期間は6ヶ月となっているが、プレスリリースによると生後90日間のRSVによる全/重度MA-LRTIも今回の解析の共同主評価項目になっている。

重度MA-LRTIは90日間のワクチン効率(リスク削減率)が81.8%(信頼区間40.6-96.3%)、6ヶ月間も69.4%(44.3-84.1%)で有意性認定ハードルをクリアした。一方、全MA-LRTIは90日間が57.1%(14.7-79.8%)、6ヶ月間も51.3%(29.4-66.8%)で、クリアできなかった。信頼区間が何パーセントのものなのかは明らかではない。有意判定基準も明らかではない。複数評価項目の中間解析なので95%より低いだろう。

妊婦と新生児に安全性懸念は発生しなかった由。

RSV感染症は軽度で済むことも多いが、低出生体重児など重症化リスクのある乳児は、冬の間に月一回、抗RSV-Fサブユニット抗体Synagis(palivizumab)を注射して予防する。冬に多い病気であることを考えれば、予定日が4月の妊婦がRSVpreFを接種する場合、出生の6ヶ月後から12ヶ月後までの感染予防が重要になる。従って6ヶ月間のエビデンスでは足りない。1年フォローアップ・データが待望される。

RSVpreFは60歳以上を組み入れた第3相RENOIR試験も8月に中間解析が成功、二つ以上の症状を伴うRSV関連下部気道疾患のワクチン効率は66.7%(96.66%信頼区間28.8-85.8%)、三つ以上の症状を伴うものでは85.7%(同32.0-98.7%)だった。この年代向けも承認申請する予定。

新生児向けはアストラゼネカがサノフィと共同開発している持効性抗RSV-F蛋白抗体、MEDI8897(nirsevimab)が、生後に冬の前に接種する点で違いはあるものの、年一回接種で、健常児も適応になる点で、競合品になり得る(後述)。

高齢者向けRSVワクチンはGSKもGSK3844766Aを承認申請した(後述)。

リンク: ファイザーのプレスリリース


I-131標識抗CD45抗体のBMT前処置試験成功
(2022年10月31日発表)

米国ニューヨーク州の放射性医薬品開発会社、Actinium Pharmaceuticals(NYSE AMERICAN:ATNM)は、Iomab-B(I-131 apamistamab)の第3相急性骨髄性白血病(AML)試験が成功したと発表した。23年に承認申請する考え。4月に途中経過データが公表されたが、今回の主評価項目はp値が0.0001未満であったこと以外明らかにされていない。

このSIERRA試験は、北米の施設で55歳以上の難治再発AML患者153人を組入れて、他家造血幹細胞移植の骨髄枯渇前処置としてIomab-BとRIC(強度軽減前処置:fludarabine投与と低量全身照射)を併用するプロトコルと、venetoclaxなどを用いる一般的な処置法をオープンレーベルで比較した。主評価項目は、FDAのアドバイスに基づき、6ヶ月以上持続する完全寛解とした。

4月の発表によると、試験薬群は66人の全てが移植に進み定着達成したが、対照群は77人中14人だけだった。この時点で大きな差が出ているので、主評価項目達成はサプライズではない。

Iomab-Bは抗CD45抗体にI-131放射性核種を結合したもの。Fred Hutchinson Cancer Research Centerからライセンスした。AMLの他家造血幹細胞移植数が米国の2倍である欧州などの権利はスエーデンのImmedica ABが保有している。

リンク: 同社のプレスリリース


NicOx、一酸化窒素供与PGの緑内障試験が成功
(2022年10月31日発表)

フランスのNicOx S.A.は、NCX 470の第3相緑内障試験で主目的を達成したと発表した。二本目は24年に結果が判明する見込み。

同社の一酸化窒素供与技術を応用したbimatoprostの誘導体で、0.1%点眼液を一日一回投与する。今回のMont Blanc試験は米国と中国の施設で開放隅角緑内障または高眼圧症の患者691人を組入れて、朝8時と午後4時のIOP(眼圧)を標準療法であるlatanoprostと比較した。主目的の非劣性解析は成功。数値上は効果が上回ったが、副次的評価項目の優越性解析はフェールした

bimatoprostはプロスタグランジン類縁体で、アッヴィが欧州などで緑内障治療薬として販売している。NicOxは、異なったメカニズムで眼圧を抑制する一酸化窒素供与能を持たせる改良を行ったが、非劣性に留まったのは残念。

リンク: 同社のプレスリリース


ReblozylのMDS貧血一次治療試験が成功
(2022年10月31日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブは、Reblozyl(luspatercept-aamt)の第3相COMMANDS試験が中間解析で成功したと発表した。適応拡大申請に向かうだろう。

Activin受容体IIB型の細胞外領域とIgG1固定領域の融合蛋白で08年にAcceleron Pharmaがセルジーンに共同開発販売権を供与、その後、セルジーンはBMSに買収され、Acceleronは21年にMSDに買収された。19~20年に欧米で多発骨髄腫(MDS)患者の貧血(赤血球生成刺激剤不応の場合)とベータサラセミアによる貧血の治療薬として承認された。

今回は、エリスロポイエチン未治療の輸血依存MDSの成人を組入れて、輸血依存脱却率(12週間に亘り赤血球輸血を受けずヘモグロビン値がベースライン比1.5g/dL超増加)を赤血球生成刺激剤と比較した。データは未発表。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


GSK、高齢者向けRSVワクチンを承認申請
(2022年11月2日発表)

GSKは、GSK3844766Aの承認申請が米国でも受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は23年5月3日。日欧でも10月に受理されている。

高齢者向けのRSV予防用ワクチンで、宿主細胞の細胞膜に結合する部位の融合前F糖蛋白を抗原とし、同社のAS01-Eアジュバントを添加したもの。RSVのワクチンや高齢者向け予防薬の承認申請は初。

60歳以上の25000人を組入れて一回筋注した第3相試験では、RSVによる下部気道感染症のワクチン効率が82.6%(96.95%信頼区間57.9-94.1)だった。偽薬群の感染率は0.3%(12494人中40人)。副次的評価項目である重症感染におけるワクチン効率は94.1%(95%信頼区間62.4–99.9)だった。偽薬群の感染率は0.14%(17人)。

重症化リスクが比較的高い喘息症などの持病を持つ患者や、70~79歳にも効果があった。80歳以上約2000人におけるワクチン効率は33%で、絶対数が少ないこともあり有意水準に届かなかった。

効果の持続性は明らかにされていない。毎年接種するワクチンがまた一つ増えるのだろうか?

RSVは軽症で終わることが多いが重症化することもあり、米国の場合、60歳以上の入院が年17.7万件、死亡は1.4万人に達する由。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認】


健康な乳児にも有効なRSV予防薬が欧州で承認
(2022年11月4日発表)

アストラゼネカとサノフィは、Beyfortus(nirsevimab)がEUでRSV(respiratory syncytial virus)による下部気道感染症の予防薬として承認されたと発表した。最初のRSVシーズン(冬)を迎える新生児や乳児が適応になる。アストラゼネカが子会社化したメディミューンのSynagis(palivizumab)の改良薬で、違いは、冬季に毎月ではなく一回筋注するだけで足りることと、適応が低出生体重児や心臓や呼吸器に持病を持つ人などに限定されていないこと。一方、Synagisは必要なら二回目の冬にも投与できるが、Beyfortusは最初の冬に限定された。

第3相試験では、医療が必要なRSV感染性下部気道感染症のリスクを偽薬比74%抑制した。入院治療に限定しても62%少なかったが、イベント数が偽薬群は994人中8人、試験薬群は496人中6人と少ないせいか、有意水準には達しなかった。試験期間中にCOVID-19が大流行した余波でRSV感染症が激減し、計画より早く薬効解析を行った背景がある。

二回目の冬が承認されなかったのも計画を繰上げた影響かもしれない。

アストラゼネカはSynagisの開発販売権をSOBI(スウェディッシュ・オーファン・バイオビトラム)にライセンスしており、Beyfortusも販売はサノフィが主導する。

さて、今後の注目は、公衆衛生機関や学会の推奨範囲。健康な乳児にも承認されているとはいえ、100%普及するとも思えない。ファイザーが開発している妊婦が接種するワクチンも承認されれば代替的な選択肢になりうる。

リンク: アストラゼネカとサノフィのプレスリリース





今週は以上です。

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