2022年9月24日

第1069回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • EUもエバシェルドによる治療を承認 
  • その他の領域: 
  • MSD、NRTTIの臨床試験を用量を減らして再開へ 
  • D因子阻害剤の第3相が成功 
  • Prevnar 20の欧州幼児試験が成功 
  • Seagen、her2阻害剤をher2陽性大腸癌に承認申請 
  • 自家造血幹細胞移植の補助療法を承認申請 
  • FDA諮問委員会:①糞便移植療法用薬の承認を支持 
  • ②多数の委員がPI3K阻害剤duvelisibの承認取消を支持 
  • ③poziotinibの承認は支持されず 
  • ④Pepaxtoの承認は支持されず 
  • GSKもPARP阻害剤ゼジューラの適応を一部返上 
  • リムパーザの適応も一部返上されていた 
  • CHMP、RSV予防薬などの承認を支持 
  • レットヴィモが適応拡大 
  • 白金薬の聴覚副作用抑制薬が承認 
  • もう一つの遺伝子療法薬にも青い鳥 


【COVID-19関連】


EUもエバシェルドによる治療を承認
(2022年9月20日発表)

アストラゼネカはEUがEvusheld(tixagevimab、cilgavimab)をCOVID-19の治療に承認したと発表した。酸素補給は不要だが重症化リスクのある成人や青少年が適応になる。第3相TACKLE試験で重症化/死亡を50%抑制した。

抗SARS-CoV-2抗体のカクテルで21~22年に米欧で暴露前予防というワクチン代替的な用途で承認された。若干遅れて申請された日本では外来治療も特例承認されたが、海外では今回が初。日本でも注記されているが、現在流行しているBA.5ウイルスに対する有効性が上記より劣る可能性があることが影響したのだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【新薬開発】


MSD、NRTTIの臨床試験を用量を減らして再開へ
(2022年9月20日発表)

MSDは抗HIV-1薬MK-8591(islatravir)の臨床試験を用量を減らして再開すると発表した。大類洋博らが創製した核酸系逆転写酵素トランスロケーション阻害剤(NRTTI)で、力価や組織浸透性が高い。半減期が長い特徴もあったが、月一回投与の暴露前予防(PrEP)用途は断念したので、キャッチフレーズではなくなった。

単剤でPrEP用途に、非ヌクレオシド逆転写阻害剤(NNRTI)doravirine(Pifeltro)も配合した合剤で一次治療とスイッチ用途に、第3相入りしたが、新規NNTRIであるMK-8507との併用試験でリンパ球数低下リスクが表面化し、昨年12月、FDAが治験停止を命じた。HIV/AIDSはウイルスがCD4陽性細胞に侵入しリンパ球を減らす病気なので、薬が煽ってしまったら大変まずい。

結局、60mgを月一回投与するPrEP試験は中止、doravirine配合剤の治療試験はislatravirの用量を0.75mg/日から減らして新たな第3相を開始することでFDAと合意した。

同社はギリアド・サイエンシズのカプシド阻害剤lenacapavirと併用で週一回投与する第2相試験も自主的に中断していたが、islatravirの用量(従来は第1日と2日に40mgずつ、第8日以降は20mgを隔週)から減らして再開することも発表した。

リンク: 同社のプレスリリース


D因子阻害剤の第3相が成功
(2022年9月16日発表)

アストラゼネカはALXN2040(danicopan)の第3相ALPHA試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。承認申請に向かう考え。

20年にAchillion Pharmaceuticalsを9.3億ドルで買収して入手した第1世代の経口D因子阻害剤。補体系代替経路が調停する希少疾患の治療を狙っている。今回の試験は、同社の希少疾患子会社であるアレクシオン・ファーマシューティカルズの抗C5抗体、Ultomiris (ravulizumab) やSoliris (eculizumab)による発作性夜間ヘモグロビン尿症などの治療中に発生することのある、血管外溶血の治療効果を偽薬と比較した。主評価項目は第12週のヘモグロビン量。データは未発表。

リンク: 同社のプレスリリース


Prevnar 20の欧州幼児試験が成功
(2022年9月19日発表)

ファイザーは20価肺炎球菌結合型ワクチンPrevnar 20の欧州幼児試験が成功したと発表した。EUで承認申請する予定。米国は4回接種試験が成功済みで年内に承認申請の予定。

Prevnar 20は21年に米国で、22年には欧州でもApexxnar名で、18歳以上の成人向けに承認された。米国ではACIP(ワクチン接種諮問委員会)が65歳以上の全員と19~64歳の高リスク者(糖尿病や喘息症など)に接種勧告している。

欧州の幼児試験は生後2ヶ月、4ヶ月、そして11~12ヶ月に三回接種して、2回目と3回目の1ヶ月後の免疫原性を13価ワクチンであるPrevnar 13(欧州名はPrevenar 13)と比較した。2回接種後のIgG幾何平均濃度(GMC)は20の型のうち16型で非劣性だった。3回後は19型で非劣性だった。もう一つの主評価項目である2回後の免疫獲得率(型毎のGMCが事前に設定した閾値を越えた人の比率)も9型で非劣性だった。

Prevnar 20のほうが対応している型が七つも多いのに非劣性解析がフェールした型がこんなに多いのは奇異だが、おそらく、この七つに関しては、Prevnar 13の型毎GMCの中で最も低かった数値と比較したのだろう(Prevnar 13の同様なPrevnar対照試験と同じやり方)。ただそれにしてもフェールが多い。

米国方式である4回接種試験では4回接種1ヶ月後のGMCが20型全てで非劣性だったが、3回後の免疫獲得率は14の型で非劣性だったが、四つはあと一歩、残りの二つは大きな差があった。

こうして見ると、3回接種では20価ワクチンの真価が発揮されないのだろう。ただ、4回接種でも20価ワクチンの看板が泣いていないか、気になるところだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


Seagen、her2阻害剤をher2陽性大腸癌に承認申請
(2022年9月19日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)はFDAがTukysa(tucatinib)の適応拡大申請を受理したと発表した。優先審査を受け、審査期限は23年1月19日。

18年にCascadian Therapeutics(旧称Oncothyreon)を6.1億ドルで買収して入手したher2チロシン・キナーゼ阻害剤で、20年に米国でher2標的薬による治療歴を持つ切除不能/転移her2陽性乳癌に抗her2抗体trastuzumab及びcapecitabineと三剤併用することが承認された。下痢や急性腎障害、死亡などの深刻有害事象が見られるほか、定期的に肝機能検査を行い、男が服用する場合も含めて催奇性に注意する必要がある。

今回の申請は治療歴のあるher2陽性転移性結腸直腸癌に抗her2抗体trastuzumabと併用した第2相試験に基づくもの。確認ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が39.1%、メジアン反応持続期間は12.4ヶ月だった。有害事象による治験離脱率は5.8%。市販後薬効確認試験として未治療のher2陽性結腸直腸癌を組入れてmFOLFOX6レジメンにTukysaとtrastuzumabを追加する第3相試験を開始する予定。結果が出るのは25年8月の見込みなので悠長な印象だが、最近よくある、検出力をブーストして中間解析で主目的達成を狙っているのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


自家造血幹細胞移植の補助療法を承認申請
(2022年9月12日発表)

イスラエルのバイオ企業、BioLineRx(Nasdaq:BLRX、TASE:BLRX)は、米国でBL-8040(motixafortide)を承認申請したと発表した。多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植を施行する時は事前にアフェレーシスでCD34陽性細胞を採取するが、G-CSFに加えて、本剤でCXCR4キモカイン受容体を阻害して末梢血への移行を促し、一回の収量を増やす。第3相GENESIS試験では奏効率(アフェレーシスが二回以内かつ試験薬の投与は一回以内で600万セル/kg以上を動員)が70.0%と偽薬群の14.3%を有意に上回った。

良く分からないのは、大先輩であるCXCR4受容体阻害剤、Mozobil(plerixafor)ではなく偽薬対照なのはなぜだろう?

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会:①糞便移植療法用薬の承認を支持
(2022年9月22日発表)

スイスのFerring Pharmaceuticalsが18年に子会社化したRebiotixは、FDAのVRBPAC(ワクチン・生物学的製品諮問委員会)がRebyota(開発コードRBX2660)を検討し、多くの委員が薬効や安全性を支持したと発表した。製剤面で問題が浮上しない限り、承認されそうだ。BLA(生物学的製剤の承認申請)したは昨年11月30日であることが判明したが、審査期限は不明。

RBX2660は健康なドナーから採取したFMT(糞便移植療法)。事前にスクリーニングされたドナーの糞便をmL当り1~500億CFU(コロニー形成単位)含有する懸濁液で、-80℃前後の極低温で保存・輸送する。18歳以上の、一次治療がフェールした成人の難治クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)に、抗生剤投与の24~72時間後に150mLを一回、浣腸投与して、抗生剤で失われた微生物叢を補充する。第3相試験では奏効率(投与後8週間に亘りCDIによる下痢が発生しない)が70%と偽薬群の58%を大きく上回った。

難点は、薬効確認対照試験一本だけで承認されるほど有意性が高くないことや、死亡者が18人と偽薬群のゼロより多いこと。そもそも、FMTは多剤耐性菌の混入や微生物叢の個人差など、きちんとした管理が必要で、同社の製品ではないと推測されるが、19年に死亡例が発生し、FDAが事前スクリーニングや検査の徹底を求めたことがある。RebyotaはcGMP準拠だが、局所的なリスクがなかったとしても、マイクロバイオーム環境における変化が腸以外の器官にどのような影響を与えるか、不透明な部分も残っている。

それでも、諮問委員は薬効について17人中13人が支持、安全性についても12人が支持した(反対は4人、一人が棄権)。奇異に感じるのは、便益が危険を上回るか、即ち、承認基準に合致しているかという採決が最初から予定されていなかったこと。FDA諮問委員会の意見は参考意見に過ぎず、また、承認に必要な数多の事項のうち一部しか議題に上がらないので、採決の有無や結果は決定的に重要な要素ではないのだが、もしかしたら、CMC(化学、製造、管理)面で何か未確認事項があるのかもしれない。

類薬ではSeres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)が経口ファーミキューテス門芽胞カプセルのSER-109を今月初めに同様な用途でFDAに承認申請している。

リンク: 同社のプレスリリース


②多数の委員がPI3K阻害剤duvelisibの承認取消を支持
(2022年9月23日発表)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、現在はSecure Bioが販売しているCopiktra(duvelisib)の承認を維持すべきか、意見を聞いた。12人中8人が承認継続に反対と、ダブルスコアだった。これまでの経緯を考えると自発的返上は期待し難く、数年かけて承認取消手続きを進めることになるだろう。その間は販売可能だ。欧州は21年に承認され今のところ再審査の話は聞かない。日本はヤクルトが3月に承認申請したところ。(後記:9月29日、ヤクルトは承認申請撤回願いを提出したと発表。)

CopiktraはPI3K阻害剤。Infinity Pharmaceuticals(Nasdaq:INFI)がアッヴィと提携して開発し、16年に第2相難治低悪性度非ホジキンリンパ腫試験で良好な成績を挙げたが期待水準には届かず、アッヴィはライセンス返還、InfinityもVerastem(Nasdaq:VSTM)にライセンスアウトした。

Verastemは難治再発CLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)のofatumumab(抗CD20抗体)対照試験を実施してPFSが実薬より延長することを確認し、18年に3次治療薬として承認を取得した。同時に、難治再発濾胞性リンパ腫の三次治療でも加速承認を得た。

しかし、上記試験の5年最終追跡データで全生存期間のハザードレシオが1.09、メジアンは52.3ヶ月と化学療法群より11ヶ月短かった(有意ではない)。承認と同じ3次以降の患者の解析でもハザードレシオ1.06、メジアン43.9ヶ月で3ヶ月短かった。

実薬対照で有意差がないなら悪いとも言い難いが、深刻な有害事象(感染症や胃腸副作用など)が影響した可能性が高いことが懸念材料。深刻有害事象の発生率は78%(対照群は32%)、有害事象による治験離脱は44%(6%)、致死的有害事象は15%(3%)と比較的大きな差が出ている。癌の治療は手段であって目的ではない。進行を遅らせることができても患者が死んでしまったら意味がない。

Verastemは事業をSecura Bioに売却、Secura Bioは市販後薬効確認試験を完遂する資金がないことを理由に濾胞性リンパ腫の加速承認を返上したが、他のPI3K阻害剤メーカーと異なり、ナケナシの適応症も返上することには抵抗している。

もしかしたら、日欧の承認審査機関の動きに配慮しているのかもしれない。もしEMAやPMDAが承認取消/否認するような事態になれば、粘っても資金の無駄と諦めるかもしれない。


③poziotinibの承認は支持されず
(2022年9月22日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(NasdaqGS:SPPI)は、FDAのODAC(腫瘍学薬諮問委員会)がpoziotinibを検討し13人の委員のうち9人が便益が危険を上回るとは言えないと判定したと発表した。審査期限は11月24日。

15年に韓美薬品からライセンスした経口汎her阻害剤で、EGFRにエクソン20挿入変異を持つ局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の二次以降の治療薬として承認申請したが、FDAは、単群試験のORR(客観的反応率)に基づいて加速承認するほど効果が高いとは言えないこと、有害事象による投与中断・中止が多いこと、5年前に至適用量の再検討をアドバイスしたのに受け入れなかったこと、加速承認時点で市販後薬効確認試験に目標の5割以上を組入れるという一般的なガイダンスをクリアできそうにないどころか、一人も組入れていないこと、申請された用量は16mg一日一回だが第3相は8mg一日二回と食い違っていることなどに疑問を呈していた。

米国のバイオ企業は自転車操業が多く、歯車が狂うと資金調達が困難になり、存続の危機に直面する。至適用量の検討に時間をかけるよりは取り敢えず申請してみた方が株式投資家の受けが良いし、承認が取れればそれに越したことはない。第3相に向けた資金調達も承認後のほうがやりやすくなる。

だが、そのような環境で開発された薬が行き詰まるたびに、もし資金的に余裕のある会社の開発品だったら、困っている人たちに新しい治療手段を提供できたかもしれないのに、と思わざるを得ない。

リンク: Spectrumのプレスリリース


④Pepaxtoの承認は支持されず
(2022年9月22日発表)

FDAのODACはOncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)のPepaxto(melphalan flufenamide)を検討し、16人の委員のうち14人が便益が危険を上回るとは言えないと判定した。8月に欧州で承認されたところだが、明暗が分かれた。

アルキル化剤にペプチドを結合して親油性を改善したもので、21年に米国で多発骨髄腫のサルベージ療法としてdexamethasoneと併用することが加速承認された。しかし、市販後薬効確認試験であるOCEAN試験でpomalidomideと比較したところ、PFS(無進行生存期間、独立評価)は良好だったが副次的評価項目の全生存期間がハザードレシオ1.10、メジアン19.7ヶ月対25.0ヶ月と見劣りした。

同社は加速承認返上を要請したが、前CEOが復帰するや、返上を撤回した。販売中止は現在も継続している。

EUの承認は幹細胞移植歴のない患者や移植の36ヶ月以上後に進行したサブグループに限定されている。サブグループ分析でORR(担当医評価)が28.8%、メジアン反応持続期間は7.6ヶ月だった。多発骨髄腫用薬の評価はCHMPのほうが保守的な印象があったが近年はそうでもない。この種の事後的サブグループ分析はFDAが重視しない傾向があるがCHMPは時々、エビデンスとして認めることがある。


GSKもPARP阻害剤ゼジューラの適応を一部返上
(2022年9月14日発表)

PARP阻害剤はClovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のRubraca(rucaparib)のBRCA変異陽性卵巣癌4次治療化学療法対照試験で主評価項目のPFS(無進行生存期間)が成功したものの全生存期間はハザードレシオ1.3と悪く、6月に米国で加速承認を返上した。

その余波でGSKもZejula(niraparib)の同様な適応も米国で返上に至ったことが明らかになった。白金薬による一次治療や再発治療に完全反応/部分反応した患者の維持療法は未だ承認されているが、後者はNOVA試験の全生存期間の解析があまり良い結果にならなかった模様で、FDAは11月22日の諮問委員会で承認継続の当否を検討すると発表した。

4次治療の返上は、エビデンスが単群試験のORRだけなので、PARP阻害剤で癌が縮小しても全生存期間が伸びるとは限らないというRubracaで浮上した疑惑に反論できないことが直接の理由であるようだ。

白金感受性卵巣癌の維持療法はNOVA試験でgBRCA変異型サブグループのPFSが偽薬比ハザードレシオ0.27、非変異サブグループでも0.45と大変良い成績を上げたが、全生存期間の解析はフェールした模様だ。元々検出力不足であり、クロスオーバーや追跡不能例も多かったため、薬ではなく試験がフェールした可能性も考え得る。それでも、PFSが伸びても延命につながるとは限らないという疑惑が強まった。

尚、Zejulaは日本では武田薬品が販売している。

リンク: GSKのDHCPレター(米国医療提供者向け通知)


リムパーザの適応も一部返上されていた
(2022年8月26日付)

アストラゼネカもLynparza(olaparib)の適応症の一つを米国で8月に返上していたことが判明した。卵巣がん以外にも様々な癌に承認されている、PARP阻害剤のNo.1というイメージを持っていたので、お前もか、と言いたい。

同薬は14年2月に米国でBRCA変異陽性白金感受性卵巣癌の白金薬治療後維持療法向けに新薬承認申請されたが、症例数が少ないことなどから、腫瘍学諮問委員会が11対2で反対した。そのため、適応症変更が行われ、同年12月に、3次以上の治療歴を持つ、生殖細胞系細胞のBRCAに有害変異のある進行卵巣癌用薬として加速承認された。エビデンスとなる第2相試験でORR(客観的反応率)34%、メジアン反応持続期間は7.9ヶ月だった。しかし、市販後薬効確認試験で懸念が浮上したため、返上された。

加速承認を得た会社は市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる効果を確認しなければならない。上記諮問委員会では、早く結果が出るPFS(無進行生存期間)で評価しても構わないか議論されたが、意見が分かれたようだ。結局、SOLO-2試験(二次またはそれ以降の治療に応答した患者の維持療法偽薬対照試験)とSOLO-3試験(二次またはそれ以降の治療歴を持つ難治再発患者を治療する化学療法対照試験)でPFS延長効果を確認することになった。

結果は、前者はハザードレシオ0.25、後者は0.62と良好な結果になった。前者はその後実施された全生存期間の最終解析もハザードレシオ0.74と、検出力不足やクロスオーバー(偽薬群の患者が進行後の治療でPARP阻害剤を使う)の影響で有意ではないものの、正しい方向を向いていた。しかし、後者は、加速承認の対象である3次以上の治療歴を持つサブグループの数値が悪かった模様で、今回、返上となった。

リンク: FDAの返上承認通知


CHMP、RSV予防薬などの承認を支持
(2022年9月16日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬や適応拡大の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのMEDI8897(nirsevimab)はRSV疾患予防薬。同社のSynagis(palivizumab)と類似した抗体医薬だが、適応が低体重出生児や特定の疾患を持つ乳児だけでなく、在胎35週以上の健康な乳児も適応になり、また、冬季に毎月ではなく一回筋注するだけで足りる。但し、投与は最初の冬だけで二年目の冬は認められなかった様子だ。

RSVは風邪の原因ウイルスの一つで通常は深刻な状態にはならないが十分な免疫を獲得していない乳児はリスクがある。在胎35週以上の健康な1歳未満の子供を組入れて150日間追跡した第3相MELODY試験では、RSVによる下部気道感染症の受診発生率が1.2%に留まり、偽薬比74%少なかった。米国は今下期に承認申請予定。

尚、Synagisでも健常者試験が行われたがフェールした。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

サノフィ・グループのジェンザイムのEnjaymo(sutimlimab)はC1sに結合する抗体医薬。成人の寒冷凝集素症における溶血性貧血の治療に用いる。臨床試験ではヘモグロビンの増加や輸血不要化が見られた。今年2月に米国で、6月には日本でもエジャイモ名で、承認された。Bioverativ買収で入手したパイプライン。

リンク: EMAのプレスリリース

武田薬品のLivtencity(maribavir)はCMVのUL97プロテイン・キナーゼ阻害剤。造血幹細胞や臓器の移植後にCMV感染症を合併し一つ以上の前治療に難治性を示した患者に用いる。米国では昨年11月に承認。03年にGSKが導出した先であるViroPharmaを13年にシャイアが買収、そのシャイアを19年に武田が買収した。

リンク: EMAのプレスリリース

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)のPyrukynd(mitapivat)はピルビン酸キナーゼ(PK)Rのアロステリック・アクティベイター。成人のPK欠乏症に用いる。ATPの産生減少により赤血球が変形能を失い、脾臓で補足され溶血する希少遺伝性疾患で、PyrukyndはPKに結合し安定化させる。輸血依存患者の試験では奏効率(輸血減少)が33%、輸血依存ではない患者の試験では奏効率(ヘモグロビン増加)が40%だった(偽薬群は0%)。米国では2月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

スイス籍のADC Therapeutics(NYSE:ADCT)のZynlonta(loncastuximab tesirine)はCD19を標的とする抗体薬物複合体。2次以上の治療に難治再発の、成人のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫やハイグレードB細胞リンパ腫に用いる。条件付き承認となる予定。欧州などではSwedish Orphan Biovitrumが販売する。米国では昨年4月に2次以上の治療歴を持つ難治再発の大細胞型B細胞リンパ腫に加速承認された。日本は田辺三菱製薬が開発販売権を持っている。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大も支持された。

  • 中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)のBtk阻害剤、Brukinsa(zanubrutinib)を抗CD20抗体による治療歴を持つ辺縁帯リンパ腫に用いること
  • アッヴィのSkyrizi(risankizumab)をバイオ薬を含む治療薬に応答不十分、応答喪失、または不耐の中重度クローン病に用いること
  • ギリアド・サイエンシズの子会社、Kite PharmaのYescarta(axicabtagene ciloleucel)を化学免疫療法による一次治療に再発/難治の成人性びらん性大細胞型B細胞リンパ腫/ハイグレードB細胞リンパ腫に用いること

  • 【承認】


    レットヴィモが適応拡大
    (2022年9月21日発表)

    FDAはイーライリリーのRetevmo(selpercatinib)の適応拡大を加速承認した。

    19年にLoxo Oncologyを80億ドルで買収して入手したRET阻害剤で、欧米ではRET(rearranged during transfection)遺伝子融合を持つ転移非小細胞性肺癌や甲状腺髄様腫、甲状腺癌に加速承認された。このうち、非小細胞性肺癌は、今回、局所進行性も合わせて本承認に切り替わった。

    新規適応は、RET遺伝子融合を持つ固形癌(但し、全身治療に不応/再発、あるいは、満足のいく代わりの治療法がない場合)。既に承認されている上記の癌以外に投与した臨床試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価、評価対象41人)が44%、メジアン反応持続期間は24.5ヶ月だった。症例・応答例とも、多いのは膵腺腫、唾液腺癌、結腸直腸癌など。RET遺伝子融合は専らNGS(次世代シーケンサー)で検査された。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: イーライリリーのプレスリリース(腫瘍別のORRなども記載)


    白金薬の聴覚副作用抑制薬が承認
    (2022年9月21日発表)

    米国のFennec Pharmaceuticals(Nasdaq:FENC)は、FDAがPedmark(sodium thiosulfate)を承認したと発表した。チオ硫酸ナトリウムの静注用新製剤で、生後1ヶ月から18歳未満までの局所性/非転移固形癌を白金薬で治療する時に、聴力低下副作用を抑制する目的で使用する。共同治験グループが主導したSIOPEL 6肝芽細胞腫試験で聴力低下が55人中18人と、cisplatinだけの群の46人中29人の半分近かった。EFS(無イベント生存期間)や全生存期間は大差なかった。

    20年2月にローリング承認申請を完了し優先審査を受けたが、生産委託先のcGMP問題で承認が大幅に遅れた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    もう一つの遺伝子療法薬にも青い鳥
    (2022年9月16日発表)

    bluebird bio(Nasdaq:BLUE)はFDAがSkysona(elivaldogene autotemcel)をcALD(脳覆髄白質ジストロフィー)の治療薬として加速承認したと発表した。同時に、臨床試験停止命令も解除された。

    cALDは極長鎖脂肪酸をペルオキシソームに輸送するALDPという蛋白が欠乏するX染色体性遺伝子疾患の4割程度が発症する、深刻な神経変性疾患で、治療しないと5年以内に死亡すると推定されている。Skysonaは患者から採取したCD34陽性細胞にALDPの遺伝子であるABCD1の相補DNAをレンチウイルス・ベクターを使って導入。アルキル化剤によるプリコンディショニングを行った患者に投与する。

    適応となるのは4~17歳の早期、活性期cALD。臨床試験では主要な機能障害なしで24ヶ月生存する確率が推定72%、自然歴では43%だった。血液癌のリスクが枠付警告されている。本承認に向けて、臨床試験の被験者も含めて15年間追跡し、効果や安全性を検討する。

    cALDの治療はHLA型が適合する同胞造血幹細胞移植が有効だが、今回の承認は適合ドナーが見つからない場合だけに限定されてはいない。

    リンク: 同社のプレスリリース





    今週は以上です。

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