2021年1月8日

第981回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:BNT162b2のアナフィラキシー報告は100万人当り11人 
  • COVID-19:EUもModernaのワクチンを条件付き承認 
  • サレプタ、DMD遺伝子治療試験が成功 
  • アルナイラム、vutrisiranの第3相が成功 
  • アストラゼネカ、フォシーガを米国でもCKDに適応拡大申請 
  • あの一型糖尿病予防薬が遂に承認申請 


【今週の話題】


COVID-19:BNT162b2のアナフィラキシー報告は100万人当り11人
(2021年1月6日発表)

CDC(米国疾病予防管理センター)は、BioNTech/ファーザーのCOVID-19ワクチン、BNT162b2のアナフィラキシー報告を分析報告した。米国では12月14日から23日の間に1,893,360人が初回の接種を受けたが、VAERS(ワクチン有害事象報告システム)に4,393例(0.2%)の有害事象報告があった。重度アレルギー反応可能例が175例あり、うち21例がアナフィラキシーと判定された。発生率は100万人当たり11人。残りの86例はアナフィラキシーではないアレルギー反応、61例は非アレルギー性有害事象と判定され、7例は現在も分析中。

アナフィラキー症例の特性は、まず、発症時期は、接種後15分以内が71%、30分以内に広げると86%が該当した。因みに、アナフィラキシーではないアレルギー反応症例も概ね同様だ。

薬品や食品、刺傷によるアレルギー歴を持っていたのは17例。うちアナフィラキシー歴は7例で、原因は狂犬病ワクチン、インフルエンザワクチン、サルファ剤、プロクロルペラジン、クラゲ刺傷、クルミ、不明が各1例となっている。

性別は90%が女性。接種者における比率も64%と高いが、それだけが原因とも言えないだろう。因みに、アナフィラキシーではないアレルギー反応症例では67%が女性と、母集団と似たような構成比になっている。

ER入室は17例、入院は4例でうち3例はICUだった。アナフィラキシーは命に係わる疾患だが、死亡報告は寄せられていない。転帰が記されている20例は全て軽快または退院した。

CDCは、禁忌や注意事項に基づく接種前のスクリーニング、アナフィラキシー治療機器の用意、接種後観察期間の励行、アナフィラキシー疑い例に対する速やかなエピネフィリン筋注、などを改めて勧告した。

リンク: MMWR(2021年1月6日号)

COVID-19:EUもModernaのワクチンを条件付き承認
(2021年1月6日発表)

EUはModerna(Nasdaq:MRNA)のCOVID-19ワクチン、mRNA-1273をCOVID-19 Vaccine Moderna名で承認した。条件付きで、第3相試験の被験者を2年間追跡して効果の持続性などを報告する必要がある。EUのワクチンはBioNTech(Nasdaq:BNTX)/ファイザーのComirnaty(tozinameran/INN)に次ぐ二品目。21日ではなく28日おいて二回、筋注する。mRNA-1273が承認されたのは、制度の違いを無視すれば、米国、カナダ、イスラエルに次ぐ4ヶ国/連合組織目。

第3相試験では、感染歴のない人の症候性感染数(二回目接種の14日後からカウント)が1000人年当り3.328と偽薬群の56.510より大幅に少なく、ワクチン効率は94.1%だった。18歳から94歳まで組入れたが、64歳以下におけるワクチン効率は95.6%、65歳以上では86.4%だった。深刻な有害事象の発現率は1%で偽薬並み。ワクチン関連の深刻有害事象は、難治性悪心嘔吐、リウマチ性関節炎、顔面腫脹2例(二人とも美容用皮膚充填剤注入歴があり、免疫感作された可能性)。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: プロダクト・インフォメーション(pdfファイル)


【新薬開発】


サレプタ、DMD遺伝子治療試験が成功
(2021年1月7日発表)

サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬として開発しているSRP-9001の102試験のトップライン・データを発表した。一部のDMDに承認されている同社のExondys 51(eteplirsen)などのエクソン・スキッピング薬と同様に、マイクロジストロフィンの発現は増加したが運動機能の改善は確認できなかった。

SRP-9001はNationwide Children's Hospitalからライセンスした遺伝子療法。DMDの多くで欠乏するジストロフィンを補うために、ある程度の機能を持つ短縮ジストロフィンの遺伝子を74型アデノ随伴ウイルスに導入して患者に送り込む。

102試験は41人を組入れた無作為化割付偽薬対照二重盲検試験。共同主評価項目の一つである遺伝子療法群のマイクロジストロフィン発現量(12週時点、ウエスタン・ブロット法)は正常値の28.1%となった。

もう一つのノーススター運動機能評価(NSAA総合スコア、48週時点)は1.7改善したが偽薬群(0.9改善)と有意差がなかった。4~5歳の16人では各群4.3と1.9でp=0.017と数値上は良い結果が出たが、6~7歳25人では、ベースライン値が各群20と24で偏りがあったせいか、良い結果が出なかった。

治療関連深刻有害事象は遺伝子治療群が3人(横紋筋融解症2人、トランスアミラーゼ上昇2人)、偽薬群は1人(横紋筋融解症)。

この試験は各群をクロスオーバーしてパート2を進行中。偽薬からスイッチした患者の48週後のNSAAが注目される。

DMDの短縮ジストロフィン遺伝子療法はファイザーもPF-06939926を開発しており、昨年12月に他社に先駆けて第3相試験を開始した。

リンク: サレプタのプレスリリース

アルナイラム、vutrisiranの第3相が成功
(2021年1月7日発表)

アルナイラム(Nasdaq:ALNY)はALN-TTRsc02(vutrisiran)の第3相hATTR(遺伝性トランスサイレチン関連アミロイドーシス)ポリニューロパチー試験が良好な結果になったと発表した。神経症状スコアが他の試験の偽薬群のデータと比べて有意に改善した。米国、そしてブラジルや日本でも承認申請する予定。18ヶ月データを取得してEUでも申請計画。

同社はRNA干渉薬に特化した新薬開発新興企業で、代表的な製品の一つが18年にhATTRポリニューロパチー治療薬として承認されたOnpattro(patisiran、和名オンパットロ)だ。vutrisiranは体内での安定性が高く、3ヶ月毎皮注とOnpattroの3週毎70分点滴静注より簡便だ。

今回のHELIOS-A試験は、vutrisiran群(25mg)とpatisiran群(0.3mg/kg)に3対1割付して9ヶ月間治療し、mNIS+7(補正神経障害スコア+7)の変化をOnpattroの第3相Apollo試験の偽薬群のデータと比較した。結果は、副次的評価項目のNorfolk QOL-DNスコアや10分歩行テストとともに、p<0.001となった。治療関連深刻有害事象は異脂血症と尿路感染症の2例。

データは未公表。patisiran群との差異も不明。

リンク: サレプタのプレスリリース


【承認申請】


アストラゼネカ、フォシーガを米国でもCKDに適応拡大申請
(2021年1月6日発表)

アストラゼネカはFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)を慢性腎不全(CKD)の治療に用いる適応拡大を米国で申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は今年第2四半期。日本でも先月、一変申請がなされている。

腎臓で濾しとられたグルコースを血中に戻すトランスポーター、SGLT2を阻害する薬で、二型糖尿病や慢性心不全の治療薬として承認されている。CKDで承認されればSGLT2阻害剤で初。エビデンスとなるDAPA-CKDでは、二型糖尿病の有無を問わずにステージ2~4のCKDを組入れて、腎機能悪化(eGFR半減)、末期腎障害進展、心血管死、または腎臓死の何れかが発生するリスクを偽薬と比較したところ、ハザードレシオ0.61、高度に有意だった。メジアン2.4年間の追跡で発生率の絶対差が5.3%と治療効果も大きい。全死亡もハザードレシオ0.69で有意だった。

リンク: 同社のプレスリリース

あの一型糖尿病予防薬が遂に承認申請
(2021年1月4日発表)

Provention Bio(Nasdaq:PRVB)は、PRV-031(teplizumab)を一型糖尿病予防薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は7月2日。5月27日に暫定予定されている諮問委員会に上程される見込み。

NIH(米国立衛生研究所)が主導した、一型糖尿病の近親者を持ち二種類以上の一型糖尿病自己抗体を保有する8歳以上の血糖値異常患者76人を組入れた第2相試験で、発症ハザードレシオが偽薬群の0.41、p=0.006だった。メジアン発症期間は48ヶ月で偽薬群は24ヶ月。有害事象はラッシュやリンパ球減少症など。

CD3のエプシロン鎖に結合するIgG1型抗体。イフェクターT細胞を抑制し制御的T細胞を強化する。30分静注を14日間連続で行わなければならないのが不便なところ。新患患者を組入れる第3相試験も進行中。

開発歴は長く、研究者主導試験で有望性が示され、07年にイーライリリーがMacroGenicsからライセンスしたが第3相がフェール、10年に権利返還した。Provention Bioは18年に全資産を取得、ブレークスルー・セラピー指定を経て承認申請に至った。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

2 件のコメント:

  1. サレプタの結果は失敗だと思います。
    株価も半値になっています

    返信削除
    返信
    1. ご意見ありがとうございます。私も満足できる結果ではないと思いますが、既に二剤がジストロフィン増加作用だけでFDAの承認を取得しているので、承認が取れるかどうかという観点からは成功と思います。しかし、患者が望んでいるのはジストロフィンを増やすことではなく運動機能にせよ何にせよ生活水準を向上することでしょうから、この程度の薬が既に二剤、承認されていること自体が間違っていると思います。 効能がエクソン・スキッピングと大差ないなら、既存薬が適応になる患者は使わないでしょう。大きな収益貢献が望めないなら株価半減も無理はありません。

      削除