【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:アクテムラの重症COVID-19肺炎試験もフェール
- COVID-19:BioNTech/ファイザーのワクチンもP2/3入り
- RSV感染症予防用新薬の後期第二相試験論文が刊行
- ジャディアンスも駆出率低下心不全のアウトカム試験が成功
- アッヴィ、もう一つのCGRP受容体拮抗剤も承認申請へ
- アッヴィ、リンヴォックの三本目の第三相アトピー試験も成功
- ブルーバードとBMS、BCMA結合CAR-Tを再承認申請
- 第二のエボラ治療薬も米国で承認申請
- EMA、COVID-19におけるデキサメタゾンの効用を検討開始
- CHMP、GSKの抗癌剤などに肯定的意見
- ロシュ、テセントリクが分子標的薬併用で悪性黒色腫に承認
- ギリアド、マントル細胞腫のCAR-T製品が米国で承認
【今週の話題】
COVID-19:アクテムラの重症COVID-19肺炎試験もフェール
(2020年7月29日発表)
ロシュは、抗IL-6受容体抗体Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)を重症COVID-19肺炎の入院患者の治療に用いる第三相COVACTA試験がフェールしたと発表した。主評価項目である28日間の臨床状態改善(オッズ比1.19、p=0.36)も、主要副次的評価項目である28日死亡率(Actemra群19.7%、偽薬群19.4%)も、大差なかった。
抗IL-6受容体抗体ではリジェネロン・ファーマシューティカルズ/サノフィのKevzara(sarilumab、和名ケブザラ)も第三相危機的COVID-19肺炎試験がフェールした。ロシュはギリアドのVeklury(remdesivir)に追加する試験も実施しているが、期待し難くなった。
重症COVID-19肺炎でしばしば見られるサイトカイン・ストームを鎮静化することで予後改善を図るアイディアだが、好ましい結果が出ていない。例えば、IL-6量が特に多いサブグループに絞っても効果が見られないのだろうか?
重症COVID-19肺炎の臨床試験をこれから開始する場合は、RECOVERY試験で酸素補給/呼吸補助が必要な患者の死亡リスクを削減する効果を示したdexamethasoneをベースに、試験薬を追加するデザインになるだろう。効果がオーバーラップしそうな抗IL-6受容体抗体やJAK阻害剤はハードルが上がってしまった。
リンク: ロシュのプレスリリース
COVID-19:BioNTech/ファイザーのワクチンもP2/3入り
(2020年7月27日発表)
ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)とファイザーは、共同開発中のCOVID-19ワクチンに関して、候補4品目の中からBNT162b2を選択し第2/3相試験を開始したと発表した。世界120施設で18~85歳の最大3万人を組入れて、30マイクログラムを3週置いて二回、筋注する群と偽薬群の感染リスクを比較する。感染歴のない被験者だけの解析と全被験者の解析の両方を主評価項目とする。順調なら10月にもEUA(非常時使用認可)を申請できる見込み。
BNT162b2は至適化された全長スパイク蛋白のヌクレオシド修飾RNAをリピッド・ナノパーティクルで導入するもの。第1相試験で、高齢者における抗体価やT細胞免疫誘導能、忍容性がBNT162b1より良好だった。
FDAガイダンスに即して治験をデザインした。治験登録によると、医療従事者など感染リスクが特に高い人たちはステージ1(第1相ポーション)では除外したが、第2/3相では除外条件ではない模様。この点もFDAガイダンスに準拠している。
第2/3相試験と並行して生産設備のスケールアップを進め、20年末までに最大1億回分、21年末までに年13億回分を供給することを目標としている。これまでに、英国政府と3000万回分、米国政府と1億回分(5億回分を追加可能)、日本政府と1.2億回分の供給で合意している。
米国の場合、ワクチンなどの開発を推進する『ワープ・スピード』作戦の枠組みの中で臨床試験や増産体制構築、生産の費用を一部負担するために19.5億ドルを供与する。ワクチンの臨床試験がフェールした場合、増設投資が無駄になる恐れがあるので、政府がリスクを共に背負う格好だ。米国は国民にワクチンを無償提供する考えだ。日本も見習うべきだろう。流行を鎮静化するためには若くて健康で活動的な人にワクチンを接種してもらう必要があるが、そのような人たちはCOVID-19に感染しても重症化するリスクが比較的小さく、インセンティブが乏しからだ。
リンク: 両社のプレスリリース
リンク: BNT162の治験登録
【新薬開発】
RSV感染症予防用新薬の後期第二相試験論文が刊行
(2020年7月30日発表)
アストラゼネカは、MEDI8897(nirsevimab)の後期第二相試験論文がNew England Journal of Medicine誌で刊行されたと発表した。在胎29~35週で生まれた健康な早産児1447人を偽薬群と50mg群(一回筋注)に無作為化割付して、RSVによる下部気道疾患リスクを150日間観察したもの。結果は、偽薬群が9.5%、試験薬群は2.6%でリスクが70%小さかった。
RSVは冬場に多くの乳幼児が感染するウイルスで、通常は自然軽快するが、早産や呼吸器/心臓疾患を持つ子供は重い下部気道疾患を合併するリスクがある。予防に有効なのがRSVのF蛋白に結合する抗体医薬、Synagis(palivizumab、和名シナジス)で、冬場に月一回、筋注する。
MEDI8897はSynagisを開発し現在はアストラゼネカ傘下のメディミューンの開発品。Synagisとの違いは結合するエピトープと、固定領域のアミノ酸三つの置換により半減期が延長、一回の投与で効果が一冬持つこと。
19年に在胎35週以上の健康な1歳未満の乳幼児3000人を組入れる第三相と、35週以下の早産児と早産に伴う慢性肺疾患や血行動態的に顕著な鬱血性心疾患を持つ1500人を組入れる第2/3相試験が始まった。23年に結果が判明する見込み。日本の施設も参加している。
Synagis改良版の開発は多くの会社が挑戦したが成功しなかった。MEDI8897の後期第二相や進行中の第2/3相試験の対象はSynagisが適応になるのではないかと思われるが実薬対照試験にはなっていないので、おそらく、効果はSyngisと大差ないのだろう。それでも、シナジスを打ってくれる病院に乳幼児を毎月連れて行く負担が減るだけでも、意味がありそうだ。
尚、アストラゼネカはサノフィとMEDI8897の共同開発販売提携を結んでいる。また、Synagisの米国事業をSOBI(Swedish Orphan Biovitrum)に売却した時に、MEDI8897に関するアストラゼネカの米国収益をSOBIと折半することも決めた。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: Griffinらの治験論文(NEJM誌)
ジャディアンスも駆出率低下心不全のアウトカム試験が成功
(2020年7月30日発表)
ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の第三相EMPEROR-Reduced試験が成功したと発表した。駆出率低下を伴う心不全(HFrEF)患者3730人を組入れて心血管死・心不全入院のリスクを偽薬と比較した試験で、データは8月29日から9月1日にかけてバーチャル開催されるESC(欧州心臓学会)で発表する予定。二型糖尿病を合併していない患者も対象としており、適応拡大・効能追加申請する予定。
二型糖尿病薬として承認されているSGLT2阻害剤で、血糖値を下げるだけでなく、心血管疾患リスクも削減する。グルコースが腎臓で濾しとられた後にSGLT2で血液中に移送されるのを妨げる作用があり、利尿作用も持っていて血圧が若干下がることなどが寄与しているものと推測されている。ということは体液貯留型の心不全にも有効な可能性があり、実際、アストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)は今回のEMPEROR-Reduced試験と同じような試験が成功、米国で適応拡大・効能追加された。
アストラゼネカはFarxigaの駆出率保持心不全(HFpEF)アウトカム試験、DELIVERが成功した発表した。HFrEFと異なりアウトカム試験が中々成功しない病気なのでデータ発表が注目される。JardianceもEMPEROR-Preserved試験が進行中で21年に開票見込み。
リンク: 両社のプレスリリース
アッヴィ、もう一つのCGRP受容体拮抗剤も承認申請へ
(2020年7月29日発表)
アッヴィ(NYSE:ABBV)は、atogepantの第三相片頭痛予防試験が成功したと発表した。後期第二相/第三相試験と合わせて、米国などで承認申請に向かう予定。
近年、続々と発売されているCGRP(カルシトニン遺伝子関連ぺプチド)受容体の拮抗剤で、今年5月に買収したアラガンがMSDから取得して開発したCGRPパイプラインの一つ。そのリードコンパウンドであるUbrelvy(ubrogepant)は昨年12月に米国で、CGRP受容体を拮抗する初の経口治療薬として承認された。
atogepantは予防薬として開発されており、第三相では平均月間片頭痛日数が4-14日の患者910人を偽薬、10mg、30mg、60mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付して12週間観察したところ、偽薬比有意に減少した。少なくとも数値上は用量反応相関しているように見えるが、大きな差ではなさそうだ。便秘や悪心、上部気道感染症が増加したが、深刻な有害事象は大差なかった。
リンク: アッヴィのプレスリリース
アッヴィ、リンヴォックの三本目の第三相アトピー試験も成功
(2020年7月28日発表)
アッヴィは、中重度リウマチ性関節炎の治療薬として日米欧で販売しているJAK1阻害剤、Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)の第三相アトピー性皮膚炎局所コルチコイド併用試験が成功したと発表した。単剤投与試験も二本成功しており、適応拡大申請に向かうと予想される。
三本の試験はリウマチ試験と同様に偽薬群、15mg群、30mg群の効果や忍容性を比較した。主評価項目は16週後のEASI(Eczema Area Severity Index)75達成率と、vIGA-AD(validated Investigator's Global Assessment for Atopic Dermatitis)が0または1に軽快した患者の比率。三本とも、二用量どちらも、両方の主評価項目で偽薬比有意な差が出た。
偽薬 | 15mg | 30mg | |
---|---|---|---|
AD Up試験: | |||
EASI 75 | 26.0% | 65.0% | 77.0% |
vIGA-AD 0/1 | 11.0% | 40.0% | 59.0% |
Measure Up 1試験: | |||
EASI 75 | 16.0% | 70.0% | 80.0% |
vIGA-AD 0/1 | 8.0% | 48.0% | 62.0% |
Measure Up 2試験: | |||
EASI 75 | 13.0% | 60.0% | 73.0% |
vIGA-AD 0/1 | 5.0% | 39.0% | 52.0% |
今回のAD Up試験では、EASI 75の治療効果(偽薬と局所コルチコイドを併用した群との差)が15mgは39%、30mgは51%と、単剤投与したMeasure Up 1、Mesure Up 2試験よりやや小さくなっているが、アドオン試験に付随する限界効用逓減や、ステロイド減量・中断が影響したのかもしれない。
忍容性は、挫創やヘルペス性湿疹の増加が見られる。深刻感染症が増加するようには見えないが、夫々一群300人程度に16週間投与しただけなので、リスクを評価するには後期第2相試験やリウマチ試験などのデータとプール分析しないと真相はつかめないだろう。
アトピー性皮膚炎の新規治療薬というと、局所性カルシニューリン阻害剤が市販後に血液癌リスクが指摘され需要が急減したことを思い出す。痛みを伴いQOLに大きな影響を及ぼし得る関節リウマチでは許容されたリスクでも、本人にとっては辛いだろうが日常生活ができなくなるほどではないアトピー性皮膚炎では許容されない可能性がある。
Rinvoqの米国のレーベルでは、深刻感染症やリンパ腫などの腫瘍、動脈静脈血栓症の懸念が枠付警告されている。日米欧とも30mgは承認されず15mgが推奨用量となっている。アトピーでは30mgのほうが効果が高そうなので承認される可能性もあるが、常識的に考えれば、15mgだけだろう。
リンク: アッヴィのプレスリリース
【承認申請】
ブルーバードとBMS、BCMA結合CAR-Tを再承認申請
(2020年7月29日発表)
ブルーバード・バイオ(Nasdaq:BLUE)とBMSは、bb2121(idecabtagene vicleucel)を再発且つ難治の多発骨髄腫用薬としてFDAに再承認申請したと発表した。最初の承認申請が受理されなかった主因であるCMC(化学、製造、管理)に関する情報を追加した。
bb2121は患者から採取したT細胞にBCMAに結合する抗体の短鎖可変領域やCD8アルファ、4-1BB、CD3ゼータなどの融合蛋白の遺伝子を導入するもの。これまでのCAR-Tは専らCD19に結合する抗体を用いていた。
欧州でも承認申請中。
リンク: 両社のプレスリリース
第二のエボラ治療薬も米国で承認申請
(2020年7月29日発表)
マイアミの未上場バイオベンチャーであるRidgeback Biotherapeuticsは、mAb114(ansuvimab)をエボラウイルス疾患の治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。
エボラはアフリカで数年おきに大流行している致死率の高いウイルス。18年に勃発したコンゴ民主共和国で行われた4種類の候補薬剤の臨床試験では、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)の抗体カクテル、REGN-EB3が死亡率29%と好成績を上げ中間解析で中止基準を充足したが、mAb114も34%と、ベンチマークとされたLeafBioの抗体カクテル、ZMappの49%を下回った。
サブサハラ地域では医薬品の承認審査機能を持たない国も多いため、リジェネロンは今年4月に米国で承認申請、今回、Ridgebackも追随した。米国の国立アレルギー・感染症研究所がコンゴやスイスの研究組織が感染から回復した患者の血液からスクリーニングした抗体をひな形としている。
尚、上記試験で最も死亡率が高かったのがギリアド・サイエンシズのポリメラーゼ阻害剤、remdesivirだった(53%)。最終解析では28日死亡率が順に33.5%、35.1%、51.3%、49.7%となっている。
リンク: 同社のプレスリリース(BUSINESS WIRE)
EMA、COVID-19におけるデキサメタゾンの効用を検討開始
(2020年7月24日発表)
EMAは、オックスフォード大学などで実施されたRECOVERY試験のdexamethasone群の結果について検討を開始した。COVID-19感染症で入院した患者を組入れた試験で、呼吸機能が悪化し酸素投与あるいは人工呼吸器/ECMO装着が必要な患者の死亡リスクを2~3割削減する効果が見られた。
RECOVERY試験の成果は米国や日本の治療ガイドラインにも採用されているが、EUA(非常時使用認可)を含めて承認審査機関の承認は得ていない。通常はメーカーが承認申請して当局が審査する手順だが、dexamethasoneのようにGE化した薬は、費用や手間のかかる臨床試験を行った上で適応拡大申請するようなことは誰もやりたがらないからだ。
EUの制度が面白いのは、今回のように承認申請がない案件でも欧州委員会などが要請すればEMAが検討することだ。多いのは市販後に安全性懸念が浮上した場合だが、自発的に効能を検討した前例としては、家族性大腸腺腫症(FAP)におけるcelecoxibの危険・便益バランスがある。
ファイザーのCOX-2阻害剤celecoxibは、関節炎などの治療に加えて、FAPによるポリープ形成を抑制するために高量を投与することが一時期、欧米で承認されていた。心血管や胃腸安全性に関する懸念が浮上したことや、承認後薬効確認試験が順調に進まなかったことから、11年にメーカーが適応承認を自主返還したが、関節炎などの用途では販売継続されるため、欧州委員会がオフレーベル使用を懸念。EMAに対して当否の評価を求め、EMAは、便益を示す科学的根拠が乏しく副作用リスクを上回るとは言えないと結論した。
今回は、便益が危険を上回るという結論になる可能性が高いので、次のステップ、即ち、GE薬メーカーに適応拡大・レーベル変更の承認申請を行うよう要請することになるのではないかと思われる。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 家族性大腸腺腫症におけるcelecoxibの評価(EMA、11年5月20日付)
【承認審査・委員会】
CHMP、GSKの抗癌剤などに肯定的意見
(2020年7月24日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、7月の会合で、GSKのBlenrepなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
グラクソ・スミスクラインのBlenrep(belantamab mafodotin)は、抗BCMA抗体とmcMMAF細胞毒を結合した抗体薬物複合体。再発難治多発骨髄腫で代表的な4種類の医薬品による治療歴を持ち最後の治療に反応しなかった患者のサルベージ療法として用いる。臨床試験では2.5mg/kg群のORR(客観的反応率)が32%、メジアン反応持続期間は11ヶ月だった。条件付き承認なので別途、薬効確認試験を成功させる必要がある。米国でも7月に諮問委員会が全員一致で支持した。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース
ノバルティスのAdakveo(crizanlizumab)はPセレクチンに結合するヒト化抗体。鎌状赤血球症の血管閉塞性疼痛クリーゼ(激しい痛みなどが起きる)を抑制する。臨床試験では頻度が年率1.63回と偽薬群の2.98回より45%少なかった。ヒドロキシウレア/ヒドロキシカルバミドと併用することも可能。米国では昨年11月に承認された。16年にSelexys Pharmaceuticalsを買収して入手したコンパウンド。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース
インスメッド(Nasdaq:INSM)のArikayceはアミカシンのリポソーム製剤。MAC(マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス)によるNTM(非結核性抗酸菌)肺感染症で、治療オプションが限られていて、嚢胞性線維症のない成人患者に用いる。米国では18年9月に承認、日本でも承認申請中。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: インスメッドのプレスリリース
ブループリント・メディスンズ(Nasdaq:BPMC)のAyvakyt(avapritinib、米名Ayvakit)はKIT/PDGF受容体アルファ変異キナーゼ阻害剤。PDGF受容体アルファの遺伝子にD842V変異を持つ切除不能/転移GIST(消化管間質腫瘍)の成人向けに条件付き承認することが支持された。米国では今年1月に承認。適応になる患者数は決して多くない。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ブループリント社のプレスリリース
アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib)は) ブルトン型チロシン・キナーゼ阻害剤。慢性リンパ性白血病の一次治療に単剤またはobinutuzumab併用で、あるいは二次治療に単剤投与することが支持された。米国では17年にマントル細胞リンパ腫二次治療薬として承認、昨年11月に今回の用途に適応拡大した。16年に子会社化したAcerta Pharmaのコンパウンド。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
ギリアド・サイエンシズのJyseleca(filgotinib)はJAK1阻害剤。中重度活性期リウマチ性関節炎でDMARDs(疾病修飾的抗リウマチ薬)に十分に反応しないまたは不耐の患者に単剤またはMTXと併用する。日米でも承認審査中。ベルギーのGalapagos(Nasdaq:GLPG)から共同開発販売権を取得した。JAK阻害剤は癌や血栓症のリスクが要チェックポイントになる。同社のプレスリリースによると100mg錠と200mg錠が肯定的意見を受けたようだが、前臨床で200mgに相当する用量で男性生殖器毒性が見られたため、男性患者にも200mgが承認されたのか、注目される。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース
米国サンディエゴのHeron Therapeutics(Nasdaq:HRTX)のZynrelefはbupivacaineと低量meloxicamを配合した72時間持続放出性局所用麻酔液。手術時の中小型創傷に伴う術後疼痛の治療に用いる。米国では今年6月に審査完了通知を受領したが、ボトルネックは前臨床に係る問題だけである模様だ。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Heron社のプレスリリース
EMAやFDAは審査能力を持たない国の代わりに承認審査する役割も課されている。今回、CHMPは、dapivirine膣リングの肯定的意見をまとめた。18歳以上の女性で、tenofovirのような経口暴露前予防薬が使えない場合に、HIV/AIDSの暴露後感染リスクを削減する目的で用いる。ベルギーのNGOであるInternational Partnership for Microbicidesが04年にジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのティボテック・バーコから権利を取得して開発・承認申請した非核酸系逆転写阻害剤。
リンク: EMAのプレスリリース
適応拡大で主なものは、アストラゼネカの抗PD-L1抗体、Imfinzi(durvalumab)を進展型小細胞性肺癌の一次治療にcisplatinあるいはcarboplatin及びetoposideと三剤併用すること。第三相試験ではメジアン生存期間が13.0ヶ月と偽薬併用群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、p=0.0047だった。米国は3月に承認、日本は7月に第二部会で報告された。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
イタリアのレコルダッチのFortacinを処方薬から非処方薬にカテゴリー変更することも肯定的意見となった。lidocaineとprilocaineを配合するスプレー薬で、男性の原発性早漏の治療に用いる。局所作用で全身性副作用が少ないためOTCスイッチしても大丈夫と判断されたようだ。
リンク: EMAのプレスリリース
一方、Stemline TherapeuticsのElzonris(tagraxofusp)とSwedish Orphan Biovitrum(SSE:SOBI)のGamifant(emapalumab)は否定的評価を受けた。前者はインターロイキン3・ジフテリア毒結合体で、稀だがアグレッシブな急性骨髄性白血病である芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の治療薬として申請されたが、臨床試験のデザインや症例数に難があり十分に効果を評価できないと判断した。致死的な毛細管漏出症候群のリスクもある。Stemlineはイタリアのメラリーニが今年6月に買収した。
リンク: EMAのプレスリリース
Gamifantはガンマ・インターフェロンに結合する抗体医薬。18歳以上の難治・既存薬不耐HLH(原発性血球貪食リンパ組織球症)用薬として承認申請されたが、症例数が少なく、他の薬の同時使用が認められていて、対照群が設定されていないために、治療効果と自然軽快を区別するのが難しく、忍容性の評価もできないと判定した。SOBIは再審請求する考え。昨年買収したNovimmuneのパイプライン。米国では18年に難治再発進行性または従来療法不耐のHLHの成人と小児に用いることが承認されている。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: SOBIのプレスリリース
否定的意見が出る前に承認申請撤回となったのがアラガンのRayoqta(abicipar pegol)と大塚薬品のAbilify MyCite(aripiprazole)。前者はVEGFやPDGFに結合する融合蛋白でチューリッヒ大学のスピンアウトであるMolecular Partners(SIX:MOLN)との創薬提携の成果。新生血管加齢性黄斑変性治療薬としての効果をranibizumabと比較した第三相二本で非劣性解析が成功したが、眼内炎症が対照群より多かった。生産工程における大腸菌除去を強化することにより発現率を8.9%に低下できたが、ranibizumabは1%未満なので多いことに変わりはない。このため、CHMPは否定的に考えていた。FDAも今年6月に審査完了通知を出している。
尚、アラガンは今年5月にアッヴィの子会社となった。
リンク: EMAのプレスリリース
大塚薬品のAbilifyは統合失調症や双極障害I型、鬱病などの治療薬として広く用いられている。MyCiteはカリフォルニア州のプロテウス・デジタルヘルスと共同開発したセンサー内包錠剤で、服用後、胃内で発せられるシグナルを皮膚に張り付けたパッチで受信、服用日時などのデータをアプリに送信する。センサーは消化・吸収されずに排泄される。最先端の医薬品ディバイス複合製品だが、CHMPは、機能の検証が不十分であることやパッチの副作用リスク、ちゃんと機能しなかった時に医師や介護者が服用を促すと過剰投与のリスクが生じることなどから、否定的に考えていた。米国では17年に承認されたが、コンプライアンス(指示通りに服用)が改善することが立証されていないことや、探知が遅れることもあるので服用状況をリアルタイムにトラッキングすることはできないなどの難点が明記された。
リンク: EMAのプレスリリース
【承認】
ロシュ、テセントリクが分子標的薬併用で悪性黒色腫に承認
(2020年7月31日発表)
ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をMEK阻害剤Cotellic(cobimetinib)及びBRAF阻害剤Zelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)と併用でBRAF V600変異を持つ悪性黒色腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。第三相の IMspire150試験に基づくもので、PFS(無進行生存期間)がメジアン15.1ヶ月と偽薬・Cotellic・Zelboraf併用群の10.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78、p=0.025だった。
ZelborafとCotellicの二剤併用レジメンの投与スケジュールは、28日サイクルで前者は960mgを一日二回、経口投与し、後者は60mgを一日一回、21日連続で経口投与して7日間休薬する。三剤併用では、28日サイクルで最初のサイクルではZelborafは最初の21日間は960mgを一日二回、その後の7日間は720mgを一日二回、経口投与し、Cotellicは二剤併用時と同じ。Tecentriqの出番は第2サイクル以降で、840mgを二週毎に60分点滴静注する。Zelborafは720mg一日二回、Cotellicは60mgを21日連続服用、7日休薬を続ける。
BRAF V600変異悪性黒色腫はMEK阻害剤とBRAF阻害剤の併用療法によく反応するが、しばらくすると抵抗性が生じることがある。抗PD-1/PD-L1のような免疫療法は反応率はそれほどでもないがその割には進行抑制・死亡リスク削減効果が高く、有力な選択肢になっている。従って、ロシュが販売している三剤の併用療法のライバルは分子標的薬二剤の併用ではなく、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用だろう。
リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース
ギリアド、マントル細胞腫のCAR-T製品が米国で承認
(2020年7月24日発表)
FDAは、ギリアド・サイエンシズが17年に119億ドルで買収したKite Pharmaの第二のCAR-T製品であるTecartus(brexucabtagene autoleucel)を難治再発マントル細胞腫用薬として承認した。この疾患に用いる細胞性医薬品の承認は初。
17年にある種の非ホジキン型リンパ腫に承認されたYescarta(axicabtagene ciloleucel)と同様に、抗CD19抗体単鎖可変領域フラグメントとCD3ゼータT細胞活性化ドメイン、CD28シグナリング・ドメインの遺伝子を患者から採取したT細胞にex vivoで導入する。違いは、生産過程でT細胞の選別などを行うこと。74人を組入れた第二相試験では、細胞性医薬品の生産成功率が96%、治験離脱を除く68人に投与したところ、完全反応率(独立放射線学的評価)は67%だった。G3以上のサイトカイン放出症候群の発現率は15%、同神経学的イベント発現率は31%だった。
報道によると、価格は37.3万ドルとYescartaと同じに設定された。欧州でも承認審査中。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース
今週は以上です。
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