【ニュース・ヘッドライン】
- (オプジーボ+ヤーボイ)>(アリムタ+プラチナ)
- テセントリクのトリプルネガティブ乳癌試験がフェール!
- ノバルティス、キムリアの濾胞性リンパ腫試験が成功
- バイオジェン/エーザイ、FDAがaducanumabの承認申請を受理
- Vanda、MT1/2受容体作動剤をスミス・マギニス症候群に適応拡大申請
- ピーナツアレルギーの経皮的減感作療法は審査完了に
- ジェネンテックの脊髄筋委縮症治療薬が承認
- 静注用オピオイドが承認
- GSK、抗BCMA抗体薬物複合体が承認
- JNJ、点鼻用抗うつ剤が自殺思慮・行動を示す患者にも承認
- MorphoSys、抗CD19抗体がDLBCLの二次治療薬として承認
- GW社、カンナビジオールが結節性硬化症に適応拡大
【新薬開発】
(オプジーボ+ヤーボイ)>(アリムタ+プラチナ)
(2020年8月8日発表)
BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(Ipilimumab)のCheckMate-743試験の成功を発表した。悪性胸膜中皮腫の一次治療における延命効果を検討した第三相試験で、メジアン生存期間が18.1ヶ月とAlimta(pemetrexed)とcisplatinまたはcarboplatinを併用する標準療法の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74、96.6%信頼区間は0.60-0.91、p=0.002だった。
類上皮腫ではメジアン18.7ヶ月対16.5ヶ月、ハザードレシオ0.86、95%信頼区間0.69-1.08であったのに対して、非類上皮腫では各18.1ヶ月、8.8ヶ月、0.46、0.31-0.68とより良好な結果が出た。
悪性胸膜中皮腫は治療の選択肢が少なく、久々の朗報だ。データはWorld Conference on Lung Cancerでバーチャル発表された。
リンク: BMSのプレスリリース
テセントリクのトリプルネガティブ乳癌試験がフェール!
(2020年8月6日発表)
ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)のIMPassion131試験がフェールしたと発表した。副次的評価項目である全生存期間ではネガティブなトレンドも見られたようだ。データは今後発表予定。
この第三相試験は切除不能局所進行/転移TNBC(トリプル・ネガティブ乳癌)の一次治療としてpaclitaxelとTecentriqを併用する効果をpaclitaxel・偽薬併用と比較した。主評価項目はPD-L1発現が1%以上のサブグループにおけるPFS(無進行生存期間、医師評価)。全生存期間の解析は、元々、十分な検出力がなく、今回の解析はもっと弱いだろうから、ノイズの影響を受けても不思議はないだろう。最終解析が注視される。
TecentriqはPD-L1陽性TNBCの一次治療で日米欧で既に承認されている。裏付けとなったIMpassion130試験では、PD-L1陽性サブグループに対してPFS(医師評価)が有意に延長した。全集団の解析がフェールしたため正式な解析ではないものの、PD-L1陽性サブグループの全生存期間もハザードレシオ0.62と好ましい方向を向いていた。
それではなぜ131試験はフェールしたのか?二本の違いは、130試験ではnab-paclitaxel(Abraxane)と併用したことだ。ロシュはTecentriqとpaclitaxelを併用する試験ではアルブミン結合ナノ粒子化製剤を採用することが多い。通常のpaclitaxelは溶剤による重篤なアレルギー反応を回避するためにステロイドなどでプリトリートする必要があり、免疫強化療法の効果が減衰する可能性があるからだ。131試験のフェールは、ロシュの危惧が正しかったことを示唆しているのかもしれない。
もう一つ、もしかしたら、PD-L1陽性の定義が異なるのかもしれない。PD-L1発現検査の対象は腫瘍細胞(TC)であることが多いが、腫瘍浸透免疫細胞(IC)やTCとIC両方の場合もある。130試験はICを調べた。131試験に関しては詳しい情報が記されていないので分からず、定義が異なる可能性も考慮せざるを得ない。尤も、ロシュの今回のプレスリリースでは130試験もPD-L1発現1%以上としか記されていなので、違いはないのかもしれない。TNBCでは専らICがPD-L1を発現しているとのことなので、敢えて定義を変えるとも考えにくい。
類薬では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)の試験成績もTNBCに関しては区々だ。一次治療試験は、医師が選んだ薬(paclitaxel、nab-paclitaxel、またはgemcitabine・carboplatin併用)に追加する試験でCPS(Combined Positive Score:TCとICを評価)が10以上のサブグループのPFS解析が成功した。全生存期間は追跡継続中。モノセラピーによる二次・三次治療化学療法対照試験はフェールしたが、主評価項目とされたCPS≧1や≧10ではなく、≧20のサブグループ分析は目を引くものだった。早期癌の化学療法併用ネオアジュバント・アジュバント試験では術前のpCR(病理学的完全反応)は偽薬を有意に上回った。無再発生存期間はフェールしたがハザードレシオは0.63、95%信頼区間は0.43-0.93なので、おそらく、欲張って複数の主評価項目を設定したために有意性認定のハードルが上がってしまったことが敗因だろう。要するに、薬のフェールではなく試験がフェールしたのではないか。
リンク: ロシュのプレスリリース
ノバルティス、キムリアの濾胞性リンパ腫試験が成功
(2020年8月4日発表)
ノバルティスは、Kymriah(tisagenlecleucel、和名キムリア)の第二相再発難治濾胞性リンパ腫試験が中間解析で主評価項目であるCRR(完全反応率、独立評価委員会)を達成したと発表した。21年に米国、そしてEUなどで適応拡大申請する予定。データは未公表。
Kymriahは患者から採取したT細胞にレンチウイルス・ベクターを使って抗CD19抗体単鎖可変領域や4-1BB、CD3ゼータ鎖などを導入し培養したもので、CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法の一つ。17~19年にかけて日米欧で25歳以下の難治再発前駆B急性リンパ性白血病やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の成人の三次治療に承認された。
リンク: ノバルティスのプレスリリース
【承認申請】
バイオジェン/エーザイ、FDAがaducanumabの承認申請を受理
(2020年8月7日発表)
アルツハイマー病領域で広範な協業を行っているバイオジェンとエーザイは、FDAがBIIB037(aducanumab)の新薬承認申請を受理したと発表した。優先審査指定の要請が受け入れられ、審査期限は21年3月7日だが、FDA側は可能なら前倒しで結論を出す意向とのこと。
アルツハイマー病の脳でしばしば見られるアミロイドベータ凝集体を標的とする抗体医薬で、07年にスイスのNeurimmune社からライセンスした。第三相試験はフェールしたが、ApoE4陽性患者に対する用量や投与中断ルールを当初は慎重に設定していたことが敗因である可能性があり、プロトコル変更後に高用量を一定期間以上投与した症例だけの集計は良さそうなものだった。
尤も、この種の事後的サブグループ分析はアテにならないことが多い。改めて薬効確認試験を行うことで失う時間や費用は、成功した後に治療に用いられるであろう期間や収益と比べて限定的なのだから、不確かなエビデンスに基づいて承認する必要はないだろう。
当面の注目は、招集されるであろう諮問委員会でどのような評価が示されるかだ。
リンク: 両社のプレスリリース
Vanda、MT1/2受容体作動剤をスミス・マギニス症候群に適応拡大申請
(2020年月日発表)
Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)は、Hetlioz(tasimelteon)をスミス・マギニス症候群用薬としてFDAに適応拡大申請し受理されたと発表した。新開発の小児用経口剤も申請した。優先審査を受け、審査期限は12月1日。
Hetliozは04年にBMSからライセンスしたMT1/2受容体作動剤で、メラトニンと同様に概日リズムを調停する。14年に米国で、15年にはEUでも、非24時間障害(全盲患者でしばしば見られる睡眠障害)の治療薬として承認された。武田薬品のRozerem(ramelteon)のように不眠症という大市場ではなく、ニッチ市場に専念する戦略なのだろう。18年に米国でジェットラグ障害の治療に適応拡大申請したが、臨床試験のデザインなどがボトルネックとなり、承認されなかった。
スミス・マギニス症候群は17p11.2欠失による特発性遺伝子疾患で、発達障害や癲癇、異常行動、睡眠障害などの症状を伴うことがある。米国の患者数は15000人と推定されている。Hetliozのピボタル試験では、睡眠の質や時間が偽薬比有意に改善した。平均総睡眠時間はベースライン比41分改善と、偽薬(20分改善)を有意に上回った。25人組入れと小規模なせいか、有意と言ってもp値は0.01前後でそれほど低くはない。
リンク: Vanda社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
ピーナツアレルギーの経皮的減感作療法は審査完了に
(2020年8月4日発表)
フランスのDBV Technologies(Euronext:DBV)はDBV712を4~11歳のピーナツアレルギー患者に対する経皮的減感作療法として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。同社は3月にFDAがパッチの密着性に疑問を示した旨、適時開示したが、今回の通知では、パッチの改良と一部の追加試験、ヒューマン・ファクター試験、化学製造管理に関する追加情報を要求した由だ。
DBV712の第三相試験では、4~11歳のピーナツアレルギー患者にピーナツ蛋白250mcg相当を一日一回、経皮投与したところ、奏効率(ベースライン時点での耐容量が10mg以下の患者は300mg以上、10mg超は1000mg以上に耐容)が35.3%となり、偽薬群の13.6%を上回った(p=0.00001)。差の95%信頼区間は12.4~29.8。この試験の仮説は95%下限が15%超、というものだったため、フェールした。
FDAは、効果が期待以下だった一因はパッチの密着性や子供が剥がしてしまうからだと考えている模様で、上記の改良勧告や患者が正しく使うことができるかどうか検証する試験の勧告につながった。
DBV社はFDAとミーティングを持った上で今後の対応を検討する考え。
アレルギーの減感作療法はブタクサなどの花粉やイエダニに対する医薬品がFDAに承認されているが、ピーナツアレルギーでも、今年1月に米国カリフォルニア州のAimmune Therapeutics(Nasdaq:AIMT)がPalforziaの承認を取得した。半固形食品に混ぜて摂取する粉末薬で、アナフィラキシーのリスクがあるため最初の二回はアレルギーに対応できる医療施設で服用する。気付かずにピーナツを食べてしまった時のアレルギー反応を抑制したり、耐容量を向上することで発現確率を引き下げたりすることができるが、食べても平気になるわけではなく、治療にも相応のリスクがあるようだ。
リンク: DBVのプレスリリース
【承認】
ジェネンテックの脊髄筋委縮症治療薬が承認
(2020年8月7日発表)
FDAは、ロシュ・グループのジェネンテックが承認申請したEvrysdi(risdiplam)を2歳以上の脊髄筋委縮症(SMA)の治療薬として承認した。経口液で、年齢に応じて体重1kg当り0.2-0.25mg(上限5mg)を一日一回、食後に服用する。幼児発症型を組入れた試験では、12ヶ月治療後に41%の患者が5秒以上、静坐できた。自然歴ではゼロ。また、23ヶ月後時点で81%が永続的呼吸補助なしで生存した。小児以降に発症した患者を組入れた試験では、運動機能が偽薬比有意に改善した。
主な有害事象は発熱、下痢、ラッシュ、上部気道感染症など。薬物相互作用は、MATEsトランスポータにより腎排出されるmetformin等の薬の暴露が増加するリスクがある。
価格は用量依存だが、上限の5mgの場合、年34万ドル。バイオジェンのSpinraza(初年度75万ドル、2年目以降37.5万ドル)やノバルティスのZolgensma(210万ドル余)と比べて競争的な水準になっている。
SMAはSMN1遺伝子の欠損・不全によりsurvival motor neuron(SMN)が不足、筋萎縮や筋力低下が発現する。SMN2遺伝子もあるが、完全なSMNを作る能力が低い。EvrysdiはこのSMN2のスプライシング(RNAから必要部分以外を除去する過程)に介入して、全長SMNが多く産生されるよう仕向ける。薬効の比較は難しいが、他の二製品との分かりやすい違いは経口投与できること。
PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)がSMA財団との協業により構築したSMA治療薬プログラムをロシュが11年にライセンス、臨床入りさせたもの。欧州でも間もなく承認申請する模様。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ジェネンテックのプレスリリース
静注用オピオイドが承認
(2020年8月7日発表)
FDAは、Trevena(Nasdaq:TRVN)のOlinvyk(oliceridine)を中重度急性疼痛の治療薬として承認した。他の治療法では十分に管理できず静注オピオイドを必要とする成人に短期間投与する。臨床試験では腱膜瘤や腹部の術後疼痛を対象とした。在宅投与は不可。
17年に承認申請、18年に審査完了となった。QT試験や不活性代謝物の前臨床試験などの追加試験と上限用量(27mg/日)の設定を経て承認に至った。
リンク: FDAのプレスリリース
GSK、抗BCMA抗体薬物複合体が承認
(2020年8月6日発表)
グラクソ・スミスクラインは、Blenrep(belantamab mafodotin-blmf)がFDAに加速承認されたと発表した。免疫調節剤、プロテアソーム阻害剤、抗CD38抗体を含む4種類の前治療歴を持つ難治再発多発骨髄腫に、2.5mg/kgを3週毎に30分点滴静注する。第二相試験でORR(客観的反応率)が31%、その73%は6ヶ月以上持続した。主な副作用は視力の著しい低下を含む角膜症や血小板減少症など。
BioWaの技術を用いて改良した抗BCMA抗体を、シアトル・ジェネティクスからライセンスしたリンカーで細胞毒と結合した抗体薬物複合体。GSK自身で開発した抗癌剤が承認されたのは、05年のArranon(nelarabine)以来、15年ぶりではないか。
専ら多発骨髄腫細胞に発現するBCMAを標的とする医薬品が承認されたのは初。競合は、Bluebird Bio(Nasdaq:BLUE)が患者から採取したT細胞に抗BCMA抗体などを導入するCAR-T、bb2121(idecabtagene vicleucel)を今年7月に米国で再発難治多発骨髄腫に承認申請した。効果はCAR-Tのほうが高そうに見える。
リンク: GSKのプレスリリース
JNJ、点鼻用抗うつ剤が自殺思慮・行動を示す患者にも承認
(2020年8月3日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)は19年に欧米で成人の難治性鬱病に追加投与する薬として承認されたが、新たに、米国で、自殺思慮・自殺行動の急性期にある鬱病患者の鬱症状を改善する効能が承認された。二本の試験でMADRSスコアが偽薬比有意に改善した(治療効果は4ポイント弱)。自殺思慮・行動を改善する効果は見られなかった。欧州でも適応拡大申請中。
麻酔薬でパーティドラッグとも呼ばれるケタミンのS異性体で、点鼻投与する。抗鬱剤としてはオンセットが早い。解離効果があるため覚醒剤指定(スケジュールIII)されている。抗鬱剤のクラス・レーベルである、自殺思慮・行動が増えるリスクが依然として警告されており、分かり難い。
リンク: JNJのプレスリリース
MorphoSys、抗CD19抗体がDLBCLの二次治療薬として承認
(2020年8月1日発表)
ドイツのMorphoSys AG(FSE:MOR)と米国のインサイト(Nasdaq:INCY)は、FDAがMonjuvi(tafasitamab-cxix)をびらん性巨細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の二次治療薬として加速承認したと発表した。自家幹細胞移植不適な患者にRevlimid(lenalidomide)と併用する。DLBCLは様々な薬が承認されているが、二次治療薬として正式に承認されたのは初。EUでも承認審査中。
抗CD19抗体で、固定領域を改変しADCC(抗体依存性細胞傷害)を増強してある。第二相試験でベストORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が77人中55%で、完全反応は37%、部分反応は18%だった。メジアン反応持続期間は21.7ヶ月と長い。警告・事前注意事項は点滴箇所反応、骨髄抑制、感染症、胚胎毒性。
MorphoSysが2010年にXencor(Nasdaq:XNCR)からライセンス、今年1月にインサイトと提携し、米国は共同販売・利益折半、海外はインサイトが単独販売する。
リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Xencorのプレスリリース(7/31付)
GW社、カンナビジオールが結節性硬化症に適応拡大
(2020年7月31日発表)
GW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)は、Epidiolex(cannabidiol)経口液を1歳以上の結節性硬化症患者の癲癇治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。
大麻の成分のうち、陶酔作用を持たないカンナビジオールを医薬品化したもので、18~19年に2歳以上のレノックス・ガストー症候群やドラベ症候群による癲癇発作を削減する薬として欧米で承認された。米国では大麻由来の薬やドラベ症候群の薬の承認第一号となった。医薬品として承認されていないカンナビジオールは麻薬取締規制が最も厳しいスケジュールIに指定されているが、Epidiolexは麻薬の中で最も軽いスケジュールVに留まり、今年に入り、麻薬規制解除となった。
深刻な有害事象としては、抗癲癇薬のクラス・レーベルである、自殺思慮・行動が警告されている。
リンク: GW社のプレスリリース
今週は以上です。
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