2020年8月15日

第959回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • オプジーボの胃癌と食道癌の第三相が成功 
  • CDIのマイクロバイオーム療法試験が成功 
  • ジェネンテック、新規抗体医薬の潰瘍性大腸炎試験が区々な結果に 
  • TG社もPI3Kデルタ阻害剤を承認申請 
  • リジェネロン、もう一つのコレステロール治療薬を承認申請 
  • ギリアド、レムデシビルを米国で承認申請 
  • FDA諮問委員会がテムセルを支持 
  • シスプラチン誘発性聴力障害用薬は承認されず 
  • 日本発の核酸医薬が米国で承認 


【新薬開発】


オプジーボの胃癌と食道癌の第三相が成功
(2020年8月11日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の胃癌と食道癌の第三相試験が二本成功したと発表した。データは学会発表の予定。

CheckMate-649試験はher2陽性ではない進行・転移胃・食道癌の一次治療としてCapeOXレジメンまたはFOLFOXレジメンと併用する効果を併用しない群と比較した。PD-L1陽性(CPS≧5)サブグループを対象とする共同主評価項目のうち、全生存期間は中間解析だったが成功、最終解析のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央判定)も成功した。全生存期間は全被験者の解析も成功した。

この試験はOpdivoとYervoyを併用する群も設定されているが、まだ結果が出ていないようだ。治験登録にはこの併用群に関する主評価項目や副次的評価項目は記されていないので、探索的意味合いなのかもしれない。

CheckMate-577試験は食道や胃食道接合部の腫瘍で化学放射線療法によるネオアジュバント治療を受けpCR(病理学的完全寛解)を達成できなかったが完全切除はできた患者を組入れて、無病生存期間を偽薬群と比較した。全被験者の中間解析が成功した。副次的評価項目である全生存期間が残っているため治験は続行する。

Opdivoは切除不能/再発/転移食道扁平上皮腫の三次治療に米国で承認されている。日本では二次治療や胃がんの再発治療も承認されているが、胃癌は診断・治療方針や標準療法が日韓と欧米で異なっているため、欧米は今回のデータで適応拡大申請することになる。

リンク: BMSのプレスリリース(CheckMate-649試験)
リンク: 同(CheckMate-577試験)

CDIのマイクロバイオーム療法試験が成功
(2020年8月10日発表)

Seres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)は、SER-109の第三相難治性クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)再燃予防試験が成功したと発表した。4年前に第二相がフェールした時は株価が暴落したが、再燃試験の成功で期待が再燃した。同社はFDAに承認申請する考えだが、一本で足りるかどうかは不透明だろう。

同社は標的疾患の患者の腸微生物叢を分析して健常者との違いや正常化するために必要な微生物を探索、医薬品として開発している。SER-109はエタノール処理した健常ドナーの腸細菌叢のフィルミクテス門細菌胞子を経口カプセルで供給するもの。抗生剤による治療が終わった後に投与する。医学研究名目で米国で広く行われているFMT(糞便細菌叢移植)と異なり、キチンとIND(治験許可)を取ってcGMP(current Good Manufacturing Practice)設備で生産する。

臨床成績は区々で、後期第一相試験では8週無再発率が87%、臨床的治癒率が97%と単群試験ではあるものの良好そうな結果が出たが、第二相は8週再発率が44%と偽薬群の53%と比べて統計的に有意ではなかった。65歳以上の46人では各45%と80%でかなり良い数字が出たが、未満の43人では43%と27%で悪かった。

今回の第三相では、二点の変更があった。用量を第二相(1x10^8細菌胞子)の10倍に増やしたことと、組入れと再燃時のCDIの診断をPCRではなく細胞毒アッセイで行ったことだ。前者は後期第一相試験の高用量コフォートの成績を参考にしたようだ。後者は、第二相試験後のオープンレーベル延長試験に進んだ患者を改めて検査したところ、PCRで陽性だった31人のうち15人は細胞毒アッセイでは陰性だった。PCRで遺伝子を検出しても、病原性細胞毒を分泌する活性細菌であるとは限らないことを示唆している。

二本の試験が異なった結果になったのはこれらの変更が原因と考えることもできるだろう。感受性分析など詳細分析で裏付けることが可能かどうか、注目される。

同社は第二相がフェールした後にFDAと次の試験のデザインについて相談し、成功ならpivotal試験として承認申請の根拠として用いることが可能になりうるとのフィードバックを得た。しかし、この時点では次の試験は第二相で、症例数は当時も第三相開始時点でも320人だった。このため、成功した試験が一本で足りるかどうかは微妙だ。同社によると、一本で申請する場合は治療効果(再発の相対リスク)の95%信頼区間上限が0.833以下であることをFDAは求めているが、今回の試験は相対リスク0.27、95%上限0.51なので閾値をクリアしている由。

臨床試験は24週間行われるので副次的評価項目である12週や24週の再発率もやがて発表されるだろう。

CDIは抗生物質治療の副作用で、腸の細菌が減少したのに乗じて、血が通らず薬が届かない場所にいるC.ディフィシルが急増、下痢などを起こす。治療はバンコマイシンの経口製剤や静注用の経口投与などがあるが、何度も再燃する症例が多い。米国では年45万人が感染、17万人が再燃、29000人が死亡すると推定されている。

同社はネスレのヘルス・サイエンス子会社にSER-109などのマイクロバイオーム療法の北米以外での商業化権を供与している。

リンク: 同社のプレスリリース

ジェネンテック、新規抗体医薬の潰瘍性大腸炎試験が区々な結果に
(2020年8月10日発表)

ロシュ・グループのジェネンテックは、PRO145223(etrolizumab)の第三相中重度活性期潰瘍性大腸炎(UC)試験4本が区々な結果になったと発表した。データは未発表。追加試験が成功しない限り承認申請できないだろう。

UC試験は寛解導入と寛解維持の奏効率を偽薬または、寛解導入に関しては、活性薬と比較する。etrolizumabの場合、TNF阻害剤歴を持たない患者を対象に寛解導入試験を二本実施し、一本は偽薬比有意に上回ったが、もう一本はフェールした。adalimumabを投与する群も設定されており、もしadalimumabもフェールなら、試験薬ではなく臨床試験がフェールしたと考える余地が生じる。また、成功した試験で奏効率がadalimumabを上回るなら商業的意義が大きい。しかし、プレスリリースには言及されていない。

次に、TNF阻害剤歴を持たない患者を組入れた寛解維持試験はフェールした。更に、TNF阻害剤歴を持つ患者を組入れた試験は、寛解導入奏効率は偽薬を有意に上回ったが、奏効者を試験薬と偽薬に無作為化割付した寛解維持試験はフェールした。単純に成否だけをカウントすると、寛解導入は二勝一敗、寛解維持は二戦全敗となる。もう一本、TNF阻害剤歴を持たない患者を組入れたinfliximab対照寛解導入・維持試験が成功しても寛解維持は一勝二敗でエビデンスが一本足りない。

etrolozumabはヒト・インテグリンのベータ7サブユニットに結合するヒト化抗体で、武田薬品のEntyvio(vedolizumab)のようにアルファ4ベータ7を阻害するだけでなく、アルファEベータ7も阻害するので、免疫細胞が組織に移行するのを妨げる効果が高まると考えられた。

クローン病でも複数の第三相が進行中。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


TG社もPI3Kデルタ阻害剤を承認申請
(2020年8月13日発表)

TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)は、TGR-1202(umbralisib)を辺縁帯リンパ腫や濾胞性リンパ腫の再発治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。

後期第二相試験の辺縁帯リンパ腫コフォートでは抗CD20抗体による治療歴を持つ患者に投与したところ、ORR(客観的反応率、独立委員会評価)が52%、完全反応率は19%だった。G3以上の有害事象は下痢、肝機能検査値異常、好中球減少症など。ギリアド・サイエンシズのZydelig(idelalisib)等より忍容性が良さそうだ。優先審査を受け、審査期限は来年2月15日となった。

二次以上の治療歴を持つ濾胞性リンパ腫を組入れたコフォートでもORRが40~50%という仮説が裏付けられた。審査期限は来年6月15日。

TGR-1202は、スイスのRhizen Pharmaceuticalsからインド以外の国での独占開発販売権を取得した経口PI3Kデルタ・CK-1エプシロン阻害剤。

リンク: TG社のプレスリリース

リジェネロン、もう一つのコレステロール治療薬を承認申請
(2020年8月12日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-1500(evinacumab)をホモ接合型家族性高脂血症の治療薬として米国で承認申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は来年2月11日。EUでも承認申請する予定。

ホモ接合型家族性高脂血症はLDL-C受容体などの遺伝子欠損を両親から引き継いでいてLDL-C値が非常に高い。米国で1300人程度の超希少疾患。REGN-1500は、トリグリセライドを分解するリポ蛋白リパーゼや血管内皮リパーゼの天然のインヒビターであるANGPTL3(angiopoietin-like 3)を標的とする抗体医薬。第三相試験に参加した65人は98%がスタチンを服用し81%が同社のPraluent(alirocumab)のような抗PCSK9抗体を用いていたが、ベースライン時点のLDL-C値が255mg/dLと依然として高かった。15mg/kgを4週毎に静注した群は24週で47%低下したが、偽薬群は2%上昇した。有害事象はインフルエンザ様疾患など。

抗PCSK9抗体は価格設定が強気すぎてあまり普及しなかった。今回の適応は超希少疾患なのでもっと高価でも正当化されるかもしれないが、同社は難治性高脂血症などの試験も進めているので、マスマーケットを視野に入れるなら抗PCSK9抗体より安価に設定するのが合理的な経営判断だろう。

リンク: 同社のプレスリリース

ギリアド、レムデシビルを米国で承認申請
(2020年8月10日発表)

ギリアド・サイエンシズはVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)をCOVID-19治療薬として米国で承認申請した。5月にEUA(非常時使用認可)を取得しているが、正式な承認ではなく、正式承認は日本が初である。EUAでは呼吸能力が低下した重症入院患者を適応としているが、ACTT-1試験のサブグループ分析では人工呼吸器/ECMO装着患者に対する便益が見られなかったので、FDAが適応を縮小するかどうかが注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がテムセルを支持
(2020年8月14日発表)

オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB)は、FDA腫瘍学薬諮問委員会がRyoncil(remestemcel-L、和名テムセル)の小児ステロイド抵抗性急性GvHD(移植片宿主病)試験の成績等を検討し、10人の委員のうち9人が有効性を支持したと発表した。審査期限は9月30日。

Ryoncilは米国のオサイリス・セラピューティクスが開発した健常者間葉系幹細胞由来の細胞性医薬品。急性放射線性疾患やGvHD、心血管疾患、糖尿病性潰瘍など様々な用途で開発されたが、思わしい結果が出なかった。JCRファーマが導入し日本で行なった成人中心のステロイド抵抗性急性GvHD試験が成功し、15年に承認されたり、12年にカナダで小児重度難治急性GvHDに承認されたりしたが、肝腎の米国では承認されず、オサイリスは経営が悪化し13年にremestemcel-L事業をMesoblastに売却せざるを得なくなった。

Mesoblastはフェールした二本の試験で比較的良好な結果が出た小児に絞り込んで米国で55人を組入れて第三相単群試験を実施、18年に成功した。28日反応率は69%、ヒストリカル・コントールの45%と比べてp=0.0003だった。メジアン反応持続期間は54日、100日生存率は74%と良好だった(数値はFDA分析に基づく)。

FDAは、主として三点について委員会の意見を聞いた。第一に、ロット毎の力価の同等性。臨床的効果を測定する手法が確立していないため、同等性を十分に評価できない。第二に、上記ヒストリカル・コントロールの妥当性。近年、様々な薬が承認されたりオフレーベルで用いられているので水準が上昇しているのではないかと指摘した。第三に、成人中心に実施されフェールした試験との整合性。

何れも難問で、FDAのブリーフィング資料が公開された途端にMesoblastの株価が下落した後だけに、諮問委員会の転帰が良好だったことは良かった。

リンク: Mesoblastのプレスリリース

シスプラチン誘発性聴力障害用薬は承認されず
(2020年8月11日発表)

Fennec Pharmaceuticals(Nasdaq:FENC)はPedmark(sodium thiosulfate)を小児固形癌でcisplatinによる治療を受ける患者の聴力障害予防薬として欧米で承認申請しているが、FDAからは審査完了通知を受領した。同社の発表によると、臨床試験における薬効や安全性には問題なく、生産委託先が承認前査察でフォーム483による不備是正通知を受けたことがボトルネックのようだ。同社は委託先を変更する考えはない模様で、FDAとの相談を踏まえて、協議することになりそうだ。

Pedmarkはチオ硫酸ナトリウムの静注用新製剤。Children's Oncology Group(COG)が主導した小児固形癌試験や、International Childhood Liver Tumor Strategy Group(SIOPEL)が主導した肝芽細胞腫試験で、聴力低下リスクを5~7割抑制した。SIOPELの試験では癌の進行や全生存期間に与える影響も調べられたが、数値上は対照群より良好で特に問題はなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


日本発の核酸医薬が米国で承認
(2020年8月12日発表)

FDAは、日本新薬のViltepso(viltolarsen、和名ビルテプソ)をエクソン53スキッピングにより治療可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として加速承認した。日本では今年3月に承認。

DMDの多くはジストロフィン遺伝子に欠損があり、筋細胞を動かすのに必要なジストロフィンが欠乏している。遺伝子のうち塩基配列をコードするエクソンでは三つの連続した塩基がアミノ酸の種類を示すが、欠失があるとその後の三塩基の組み合わせがずれてしまい、本来とは異なるアミノ酸配列、蛋白が出来てしまう。

Viltepsoは53番目のエクソンをスキップすることで読み取り枠のずれを修正、完全ではないがある程度機能するジストロフィンが産生できるようにする。上手く行くかどうかは遺伝子欠損の場所や数次第だが、DMDの8%程度が対象と推定されている。臨床試験では、ベースライン時点のジストロフィン量が平均で正常値の0.6%に過ぎなかったが、5.9%に改善した。有害事象は上部気道感染症、注射箇所反応、咳、発熱など。他社の開発品で腎毒性が見られたため、このクラスの薬共通のレーベルとして、腎機能検査が課された。

加速承認なので、別途、臨床試験を行って臨床的な便益を確認する必要がある。同社はTime to Stand(床からの立ち上がり時間)が10秒未満の患者74人を組入れて治療後の所要時間を偽薬と比較する第三相を実施中。

Viltepsoは国立精神・神経医療研究センター神経研究所の研究を礎に共同開発した。エクソン53スキッピング薬としては昨年12月に米国で承認されたサレプタ・セラピューティックス(Nasdaq: SRPT)のVyondys 53(golodirsen)に次ぐ第二号。DMDのアンチセンス核酸医薬としては16年に米国で承認されたサレプタのエクソン51スキッピング薬、Exondys 51(eteplirsen)が第一号で、DMDの13%程度が対象になる。まだ8割近い患者が取り残されているが、両社はエクソン45など様々なエクソンをスキップする薬を開発する考え。

サレプタは遺伝子療法にも注力している。大事なのは薬ではなく患者であることを考えれば、モダリティに拘らず最先端の科学を導入することは、患者指向型研究開発を推進する上でも、社外との交流を深めて社内を活性化する意味でも、日本新薬にとって重要な課題だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 日本新薬のプレスリリース(8/13付、和文、pdfファイル)





今週は以上です。

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